they are childhood friends (後編)
「それで、ティファったらその時に『キャー!!』って叫んでさ〜!」
「ああ、本当に傑作だったよな〜!」
「もう、何よ!誕生日プレゼントに蛙のビックリ箱をプレゼントされたら、誰だってびっくりするわよ!!」
「でもさ、あの時びっくりし過ぎて椅子から飛び上がっただろ?そん時に、ケーキまで落っことしそうになってさ〜!」
「そうそう!慌てて、隣にいた俺が手を出したんだけど、クリームがベッタリと…」
「ああああ、そうよ!あの時は本当に腹が立ったわ!折角のケーキがクリーム無しになっちゃって、スポンジだってぐちゃぐちゃになるし!」
「だから、あの後俺達で新しいケーキ買い直しただろ〜?」
「当然よ!ね〜、デンゼルとマリンもそう思うでしょ〜?」
お腹を抱えて笑い転げる子供達に、ティファが頬を膨らませる。
幼馴染と再会を果たした四人の青年は、セブンスヘブンで楽しい一時を過ごしている。
久しぶりの再会とあって、会話が弾み、時の経つのも忘れていた。
既に時刻は二十時を回っている。
セブンスヘブンに着いてから四時間ほどが経っていた…。
彼らは、幼い頃に淡い恋心を抱いた相手との再会を、心から喜んでいたが、同時に心から敬遠したい事柄があった。
同じ幼馴染のクラウド・ストライフとの再会である。
クラウドは、彼らにとって好ましからざる人物であった。
目が合うだけで難癖をつけられ、いつも不機嫌な顔をした金髪の少年。
何を楽しみとして毎日を生きてるのだろう…?と不思議に思うほど、クラウドは屈折した少年だった。
そんな少年との再会を望むわけが無い。
出来れば、『ティファとのみ』楽しい一時を過ごし、温かい気持ちのまま今日という日を終え、輝かしい思い出の一ページにしたいところだ。
幸いな事に、クラウドはまだ帰宅していなかった。
このままクラウドが帰ってくるまでにお暇したいと思っている。
しかし、同時にもう少しこのまま楽しい時間を過ごしたいとも思っているのだ。
幼少の頃から憧れていたティファ。
既に故人となっていると思っていたティファが、こんなにも素敵な女性になって目の前にいるのだ。
出来れば、このままずっと、彼女の傍にいたいと思うのも自然な感情だろう…。
おまけに、青年達の心にはほんの微かな…、淡く儚い期待の様なものもあったのだ…。
それは…。
『クラウド・ストライフ』というティファの家族である人物が、ただの同姓同名なだけの赤の他人ではないだろうか…という事だった。
しかし、そんなにも出来過ぎた話はないだろう…とも分かってはいるのだ。
何より、ティファ自身が『クラウド・ストライフ』が幼馴染の『クラウド・ストライフ』である事を否定していないのだから…。
彼女に改めて確認をすればハッキリするのだろうが、ハッキリさせたくない気持ちが強く、そのままズルズルと四時間も過ぎてしまっている。
『クラウド…、帰ってくるのかな…』
『……クラウドって…やっぱりあの、クラウド、なのかな…』
『……信じられねえな…』
『いや、信じたくねえな…』
『『『『…………』』』』
ティファと子供達がほんの僅かに席を外した隙に、青年達はひそひそと囁きあった。
楽しい一時を過ごしつつも、どうしても頭の隅では『クラウド』という棘が刺さっていて、気になって仕方ない…。
いつ、店のドアを開けて金髪の男が入ってくるか…。
本当は四人が四人とも、気が気では無かったりしたのだった…。
『それにしても、クラウドの事を話す時の子供達の顔…!』
『ああ、キラキラしてるよな…』
『ありえねぇな…』
『全くだ…。何をどうしたら、あんなに子供達に好かれるんだ…?』
『『『『…………』』』』
自分達の中にあるクラウドの面影を描き、子供達の輝く顔を思い出す…。
どうしても納得出来ない!!
どこをどうやったら、あんなに純真無垢な子供達に絶大な信頼を寄せられると言うのだろうか…!?
あの、あのクラウドが!!
無愛想で、喧嘩っ早くて、捻くれ者で…(以下略)。
クラウドが良いのは『顔だけ』だったはず…。
それも認めたくないのだが、自分達はもう大人ななのだ!
嫌な相手でも、良い所は認めなくてはならない!!
相手が例え嫌な奴でも、良い所は認めるんだ!!
クラウドにそれが出来るか!?
いいや、出来ないに違いない!!
「何が出来ないに違いないの?」
「「「「うわ!?」」」」
コソコソ、ヒソヒソと熱いトークを繰り広げていた為、ティファと子供達が料理の乗った皿を持って戻って来たことに気付かなかった青年達は、文字通り飛び上がって驚いた。
「び、びっくりした〜」
「いや、それ俺達の台詞だから…」
胸を押さえて目を瞠るティファに、青年の一人が突っ込みを入れる。
「何言ってるのよ〜。急に大声出されたらびっくりするわよ、ねぇ〜?」
料理をテーブルに並べながら子供達を振り返って笑みをこぼすティファに、たちまち青年達はしまりの無い笑みを浮かべた。
「おお!」
「すっごい料理だな!」
「さっきの料理も凄かったけど、この料理はまた…!!」
「う、美味そう…」
歓声を上げる青年達に、ビールの入ったジョッキを手渡しながら、ティファは悪戯っぽく微笑んだ。
「さっきのは前菜ってとこかな。本番はこれから!」
そう言うと、自分もグラスを手に取り、高々と掲げて見せた。
その場にいる全員がそれに倣う。
「では、七年ぶりの再会を祝って〜」
かんぱ〜い!!
と、続くはずだった台詞は、突如子供達の歓声によって遮られた。
「あ!!」「帰ってきた!!」
そして、呆気に取られる青年達を尻目に、先を争って猛然と店の戸口に向かって駆け出した。
わけが分からず、ポカンと口を開けた青年達は、ティファに視線を移してギョッとした。
ティファが…、ティファが…。
今まで微笑んでくれたどの笑顔よりも美しいとしか表現出来ない笑みを湛えていたのだ。
唖然とそんな彼女を見つめる青年達の耳に、外へ駆け出して行った子供達の笑い声が聞こえて来て、やがてそれはそのまま チリンチリン というドアの開く音に繋がった。
「おかえりなさい、クラウド」
「ああ、ただいま、ティファ」
にっこりと笑みを浮かべてドアに歩く彼女の姿を目で追っていた青年達の視線は、自然とドアへと向けられた。
そこには、満面の笑みでじゃれている子供達の姿と、嬉しそうに微笑んでいるティファの幸せそうな姿…。
そして…。
金髪・紺碧の双眸を持ち、穏やかな笑みを浮かべてティファを見つめている幼馴染の少年の面影を宿した青年の姿…。
クラウド・ストライフ…。
彼らの幼馴染の成長した姿に、青年達は最大限に目を瞠り、あんぐりと口を開け、これ以上はない程の間抜け面を披露した。
そんな彼らの目の前で、クラウドは仕事の装備を外すと、当然のようにティファに手渡し、ティファも当然のようにそれらを受け取った。
しかも、
「お風呂、入ってきて。お湯沸いてるよ」
「ああ、そうさせてもらう」
「それが終わったら夕飯ね」
「ああ、腹減ったよ」
などなど、新婚さんのような会話を交わすではないか!!
な、ななななな、何故に!!!!!
クラウドがティファに恋心を抱いているのではないか!?と子供の頃に感じた事は確かにあった。
しかし、クラウドはティファの父親に嫌われていた事と、自分達とは仲が良くなかった事などで、こんな風な会話を彼女と交わす間柄には絶対にならないと思っていたのだ。
それなのに…、それなのに!!!
現実はどうだろう!?
彼女の隣に立つ権利を手にし、彼女の極上の笑顔を独占しているではないか!?
それを 何故!? と思ってしまうのは、彼女の、そして彼の幼馴染としては当然の反応ではないだろうか!?
青年達の頭は今や真っ白、自分達が間抜け面でポカンとしている事に気付く余裕など微塵も無い。
当然、そんな自分達を見てクラウドがギョッとしたのにも気付かなかった。
「……誰だ…?」
「あ!クラウド、ほら〜!」
「クラウド、分かんないの〜?」
嬉しそうに笑う子供達に、クラウドは眉を寄せて首をかしげた。
その表情は、
『こんな怪しい奴らと知り合いだったっけ…?』
と、言わんばかりだ。
な、何て失礼な奴だ!!
「クラウド!お前、何て薄情な奴なんだ!!」
「俺達だ、俺達!!」
「「ニブルヘイムのーー!!」」
カッとなって怒鳴り散らす若者達に、クラウドは怪訝&警戒の色を滲ませていたが、徐々にその表情が疑問系に移り、最後には「あ……!?」と声を上げるまでに至った。
その間約一分ほど…。
一分…。
たかが一分、されど一分…。
沈黙と猜疑の瞳に晒される一分間はとてつもなく長く感じられる。
漸く自分達を思い出したと思われるクラウドに、青年達は安堵の溜め息を着くと同時に、ソコハカトナイ憤りを感じた。
何故に仲の良くない幼馴染にここまで振り回されなければならないのか!!
いや、それよりも何よりも、彼女の隣に当然のように立っているのが許せん!!
彼女の隣は、「「「「俺」」」」のものだったのに〜〜〜!!!(四人の心の叫び)
「あ、ああ…、久しぶりだな…」
クラウドが少々ぎこちなく挨拶の言葉を口にした。
その事により、青年達の頭に上っていた血が急激に下がる。
下がるという事は、目の前の現実が冷静に見えると言う事で…。
冷静に見えると言う事は即ち…、何かを話さなければならないという事になる…。
そう、クラウドと。
「お、おう…」
「ひ、久しぶり〜…」
「…元気だったみたいで良かった良かった…」
「……『あ〜、何話して言いのかわかんねぇ〜〜』……」
「「「「「…………」」」」」
お互いに何を話して言いのか分からず、異様に気まずい雰囲気が漂う。
ぎこちなく視線を彷徨わせている男五人を、子供達はきょとんとして見比べ、ティファはくるりと後ろを向いて肩を振るわせた。
どうにも可笑しくて仕方ない上、嬉しくて嬉しくて仕方ない!
何が嬉しいかというと、クラウドの変化だ。
恐らく、以前のクラウドなら「元気そうで何よりだ。じゃ、俺は二階に行ってるから」とでも言い捨てて、さっさとこの場を後にするだろう。
しかし、今、クラウドはこの場を立ち去ろうとせずに、会話のきっかけを探している。
この彼の変化を喜ばないでいられようか!?
「…おい、何笑ってるんだよ…」
不機嫌そうな、それでいて助けを求めるような声を出すクラウドに、ティファは堪らず吹き出した。
「アハハハハ…、ごめんごめん!だって、あんまり皆が固まるから…、可笑しくて…!」
「…………」
「フフ、本当にごめんってば!もう、拗ねないでよ」
「……拗ねてない…」
「嘘!拗ねてるじゃない。本当にごめんね」
「……拗ねてないって……」
ムッとしているクラウドに、ティファは涙を拭き拭き手を合わせて見せる。
その仕草がまた何とも言えず可愛らしい…。
『『『『こ、この野郎…!!』』』』
何て可愛い仕草をさせやがるんだ!
それなのに、いつまでもそんな無愛想&不機嫌な顔しやがって!
一体何様のつもりなんだ!?
ティファに…、あの俺達の憧れのティファに、そんな可愛い『ごめんねポーズ』させておいて、まだ不貞腐れてるって言うのか!?
何て贅沢&嫌味な奴だ!!
許せん!!!
幼馴染の青年達が、更に自分に対して闘志と嫌悪感を燃え上がらせた事など知るはずも無いクラウドは、一つ溜め息を吐くと苦笑した。
「じゃ、とにかく汗を流してくるから」とティファに言い残すと、青年達に視線を流し、「じゃ、また後で…」
軽く会釈をして足早に立ち去った。
その後姿を、青年達は目を見開き呆然と見送った。
あのクラウドが!
無愛想で、喧嘩っ早くて(以下略)。
そのクラウドが自分達に会釈!?
『また後で』!?
信じられん!!
全くもってどうなってるんだ!?!?
こ、こここれは!!
も、ももももしかして!?!?
七年間の間に、でかく…でっかーーーく!!!
人間が成長したのかーーーー!?!?!?
呆然とする青年達に、子供達が不思議そうな顔をし、ティファはクスクスと一人笑いを懸命に堪えていた。
「え〜、では仕切りなおしで、七年振りの再会を祝して〜!」
かんぱ〜い!!!
カチン…という小気味の良いグラスの音が響く。
シャワーを大急ぎで浴びたクラウドが戻ってすぐ、ティファと子供達は乾杯のやり直しを提案した。
それに反対する者などいるはずもなく、どこか緊張しつつも青年五人はグラスを合わせた。
子供達は、そんな青年五人に不思議そうな顔をしつつも、いつもよりも早く帰ったクラウドの両サイドを陣取ってご満悦だった。
ティファはティファで、どことなく固くなっている青年五人に口許が緩みっぱなしだった。
「ところで、クラウドは何してるんだ…?」
何もクラウドに話を振らないわけにはいかない…。
そう思った青年の一人が勇敢にもクラウドに声をかけた。
「荷物の配達をしている」
「ふ〜ん、そうか…」
「…………」
「…………」
会話終了かよ!!
お前も何か突っ込めよ!!
「クラウドが荷物の配達ね〜。『はんこお願いします』とか言うわけか?」
気まずい雰囲気が流れる前に、青年の一人が素早く反応した。
その青年に、幼馴染達が『でかした!』と心の中で喝采を送る。
「ああ、仕事だからな」
「へ〜、ちょっとここでやって見せてくれよ!」
相変わらず淡々と受け答えするクラウドに、青年が何気なくおねだりをしてみた。
しかし、ここで青年達の予想を遥かに超える反応があった。
「え!?」
ギョッとし、思わず椅子の上で仰け反ったクラウドは、後ろ向きに椅子から転落しそうになったのだ。
そこは持ち前の運動能力で持ちこたえて転落には至らなかったが、そこまで過敏に反応するとは思っていなかった幼馴染達は、本日何度目かの間抜け面を披露する事になった。
「い、いや…、ここではちょっと…」
冷や汗を拭き拭き焦るクラウドに、子供達が「あ〜、私も見たい〜!」「良いじゃんか〜、俺も見たい〜!」と面白がっておねだりをする。
困りきって助けを求めるようにティファを見るクラウドの顔に、青年達は顔を見合わせると同時に吹き出した。
「ブッ…!」
「アッハッハッハ…、何だよその顔!」
「クックック、お前、何て情けない面…!!」
「ック…、ハッハッハ…!駄目だ、面白すぎ!!」
お腹を抱えて笑い転げる四人に、クラウドは面白くなさそうな顔をしていたが、あんまりにも可笑しそうに笑っている四人に釣られて、思わず「フッ」とその表情を緩めた。
そのクラウドの笑みに…。
青年達は自分達の知っている少年がうんと大きく成長した事を知った。
それは、ほんの少し寂しく感じる事でもあり…。
それ以上に、大きな喜びを感じさせる事実だった。
「よーっし!今日はじゃんじゃん飲むぞー!!」
「クラウド、お前気に入ったぞ!!」
「クラウド!お前も飲め!!」
「そうだそうだ!そして、お前の隠された真実の姿を披露するのだーー!!」
一気に気分が高揚した青年達は、戸惑うクラウドに酒を注ぎ足し、大いに笑い合った。
生まれて初めて幼馴染に囲まれ、絡まれるクラウドの姿に、ティファは心からの笑みを浮かべた
「それで…、結局こうなるのか…」
「フフ、しょうがないよ。あれだけ飲んだんだもの」
四時間後…。
セブンスヘブンの店内には、酔いつぶれた青年達四人がテーブルや床に突っ伏して大いびきで眠っていた。(子供達は数時間前に強制的に部屋に戻してある)
「それにしても、皆風邪引くんじゃないのか?」
呆れ帰った顔をして毛布をかけて回るクラウドに、ティファは心底嬉しそうな顔をすると、そっとクラウドに近づいた。
「ね、どうだった?」
「何が?」
首を傾げるクラウドに、ティファは酔いつぶれて眠る幼馴染を見渡した。
「初めて幼馴染の皆と楽しく過ごした感想!」
ティファの言葉に、クラウドは幼馴染達へ視線を流した。
そして、フッと笑みをこぼす。
そのクラウドを見て、ティファは何も聞かなくてもクラウドが心から楽しんだ事を知った。
「良かったね」
「…ああ」
そっとクラウドの腕に手を添え、微笑みながら端整な顔を見上げる。
紺碧の双眸に自分の姿が映ったと思ったら、すぐに逞しい両腕に包まれてしまった。
「……クラウド…?」
「ん…。ティファが小さい頃、皆と仲が良かった理由が初めて分かった…」
「……そう?」
「ああ…」
「でも、私はクラウドとも一緒に遊びたかったのよ?」
「そうだったのか?」
「そうよ!それで、沢山思い出を作りたかったの」
「悪かった…」
「フフ、でも良いの。思い出はこれからうんと沢山作れるもの…。ね、そうでしょ?」
「ああ」
思いもかけない再会を果たし、思いもかけない喜びに包まれた六人は…。
これまで共に出来なかった時間をこれから持つ事が出来るだろう…。
沢山の素晴らしい思い出を共に作りながら…。
おまけ
『……寝たふりするのって……厳しいな…』
『頼むから他でやってくれ…!!』
『くぅ〜〜…!クラウド、お前、羨まし過ぎるぞ!!』
『ティファ…俺が幸せにしたかった…!!』
微笑み合い、幸せそうに抱き合う姿に本当は起きていた幼馴染達が、心の中で涙している事実など、二人が知るはずも無かった…。(哀れ)
あとがき
はい!やっと終わりましたね〜(汗)。物凄くダラダラとしたわりには何てしまりの無い話でしょう…。VXZ様、本当に申し訳ありません!!(でも、書いてた本人は物凄く楽しかったです 笑)。
リクエスト、本当に有難うございました!!
|