ティファは呆然としていた。 ただただ、ポカン…と青年二人が風のように走り去ってしまった裏口を見つめていた。 そして気付いた。 一枚の紙切れのようなものが落ちている事に。 ぎこちなく足を動かし、激しく損傷している床へ慎重に手を伸ばす。 細く、形の良い指でその紙切れを拾い上げ…。 ティファはまたもや石化した。 とどのつまり…。(後編)エッジの街は広い。 何しろ旧・ミッドガルに沿うようにして街が作られているのだ。 そしてその勢いは止まることを知らず、今や非常に広大な規模にまで発展している。 となると、当然一つの街とは言え、既に寂れて(さびれて)いる部分があったりするわけで。 シュリはその寂れた一角に逃げ込んでいた。 背後からは、ピッタリとクラウドの殺気がくっ付いて離れない。 振り返らなくても、クラウドが追いかけてきていることはイヤというほど分かる。 「これが……『ジェノバ戦役のリーダー』か…』 内心で舌を巻く。 これでもかなり戦闘経験は積んできたつもりだが、まだまだどうして、世の中広い。 自分の力を上回る偉人達の多いこと! シュリは人気の無い廃屋に駆け込むと、若干乱れた息を整えながら来る(きたる)災厄に立ち向かうべく入り口へ向い立った。 どうしてこんな目に合わなくてはならないのかさっぱり分からない。 『人嫌い』、そう思われる振る舞いを常日頃しているお蔭で、白い目で見られることは日常茶飯事。 命を狙われることだって珍しくない。 だがしかし。 数少ない『仲間』とも『友人』とも言える人間に、ここまで敵意を向けられることは未だかつて経験したことが無い。 この廃屋に逃げ込むまでに、人通りの多い繁華街等をやむを得ず通って逃げたのも…初めてだ。 と言うか、ここまで必死になって逃げたことがあっただろうか? 「……子供の頃ならいつもだったけど、大人になってからは…ないな…」 思わず口をついて出た言葉に、なんとなく溜め息が漏れる。 必死に逃げる自分を呆気に取られて見つめる人々。 その人々の悲鳴が背中を追う様に聞えてきたのを思い出し、思わず軽く身震いする。 人々の悲鳴は、当然、大剣を片手に鬼の形相で追いかけてくるクラウドのせいだ。 ……一体…自分はなにをしたんだろう……。 クラウド・ストライフが、なりふり構わずあんな風に取り乱して怒りを露わにするとは、よっぽどなにか不味いことをやらかしてしまったに違いない。 だが…。 『…思い当たらない……』 ビリビリと殺気が近付いてくる。 もうあと数秒で彼が現れるだろう。 その短い時間の中で必死に考える。 最後にクラウドと会ってから今日までの間、なにかしてしまったのか…?と必死になって記憶を探る。 …。 ……。 ………分からない! 何をしでかしたのかさっぱり分からない。 こうなったら、直接クラウドに聞くしか道は無い。 「……なんだってこんなことに…」 彼にしてはこうして『愚痴』をこぼすのは非常に珍しい。 シュリはほとほと困りきって……。 「 …… 」 「 …… 」 とうとう目の前に現れたクラウドを見た。 「グッ……、クラウド・ストライフめ〜〜……」 でっぷりした身体を引きずるようにして、まだ若い男が道の片隅で喘いでいる。 所々、土で衣服や顔が汚れており、かけている分厚いメガネには若干ヒビが入っていた。 ゼイゼイ…、といかにもしんどそうな息遣いをするその青年を、道行く人々が横目で見ながら素通りする。 それすらも、今の青年には憎らしかった。 こんなにしんどそうな人間を放ったらかしにして素通りするとは、なんと嘆かわしい世の中だ!! 青年は理不尽な怒りに身を置いて、ブツブツと独り言を続けていた。 まさに、その独り言があるが故に人々が近寄れなくて素通りしているのだとは気付きもしない。 と…。 「ちょっとすいません、黒髪の男の人と金髪の男の人が走るのを見ませんでしたか?」 キュピーーン! 青年の耳が鋭く反応する。 バッ!と勢い良くそちらを見ると…。 『ティ、ティファちゃ〜〜ん!!』 青年の憧れ、青年のエンジェル、青年の女神の姿。 青年の心臓がドックン!と、その存在を主張するように大きく脈打つ。 ドキドキドキドキ!!! 一気に血圧が上昇する。 心臓はバクバク、頭はクラクラ。 息が激しく乱れてもうわけが分からない。 そんな青年の目の前で、ティファは道行く人達にシュリとクラウドの姿を見なかったか訊ねまわっていた。 二人の目撃者を探し出すのは造作も無かった。 何しろ、美青年二人が人波多い繁華街や大通りを人間離れしたスピードで疾走してくれているのだから、目立たないはずが無い。 ティファはクラウドが落とした『モノ』をギュッと握り締めると、たった今得た情報から、その場所に向かおうとして……。 ハッと振り向いた。 視線の先には…ちょ〜っとお近づきになりたくない…青年……。 ちょっぴり、いや、かなりヤバそうなオーラをダダ漏れにしているでっぷりとした若い男。 その男が何やら潤んだ瞳でジッと……穴が開くほど自分を見つめている。 その視線というか、気配にティファの中の何かが反応した。 軽く息を整えて真っ直ぐその青年に近付く。 青年は青年で、憧れて止まない女性が真っ直ぐ自分に近付いてきたことが信じられず、夢見心地でジーッ…と見つめるばかりだった。 『あぁ…あと少しでこの手に触れる…!』 などとおバカなことを考える。 『そうか、僕の想いがやっと通じたんだ!毎日毎日、僕が草葉の陰から見守っているってことに、彼女は気付いてくれたんだ!!』(注:当たり前の事ですがこの青年は死んでいません) 「あの…」 おずおず…と声を掛けられた青年は、血圧が急上昇し、ハートがヒートアップした。 躊躇いがちに数歩分手前で足を止めた彼女との距離を縮めるべく、 「はい〜〜vv」 語尾にハートマークを撒き散らしながら飛びついた…。 シュリが先ほどまで立っていたコンクリートの床が真っ二つに裂けた。 信じられないほどの脚力で間合いに入ったクラウドの容赦ない斬戟に、背筋が凍る。 後方へジャンプしてその攻撃をかわしたシュリを、クラウドが追う。 水平に大剣が払われ、シュリの胴を真っ二つにしようとするのを、宙返りでよけ、そのままの勢いで天井に両脚をつけて地上へダイブした。 シュリを追って天井目掛けて飛び上がっていたクラウドと、地上に向けてジャンプしたシュリがすれ違う。 その刹那の瞬間に交わされた剣戟。 鈍い音を立てて剣が離れる。 クラウドの殺気が篭った眼と剣に、シュリの腕と心が震えた。 とてつもなく重い攻撃。 一見、華奢に見えるその体躯からは想像し辛い力だ。 抜刀する気は全く無かったのだが、クラウドとすれ違う瞬間、彼が攻撃をしかけてくると脳が判断する前に勝手に身体が反応した。 シュリは、己の身を守るためとは言え、抜刀してしまったことに舌打ちをした。 本当は話をしたかったのに、これでは逆効果だ。 反撃の意志がある、とクラウドに思われてしまったら、冷静な話し合いなど不可能だ。 …とは言え、今のクラウドに『冷静な話し合い』を持ちかけるのはいささか無理があるのだが…。 床に着地したシュリはそのまま身を捩って剣を掲げた。 ギーーーンッ!!!! 剣と剣が合わさる音が廃屋に響く。 シュリ同様、天井を蹴って床に跳躍したクラウドが間髪入れずに攻撃したのだ。 項(うなじ)がゾワリとする。 ギリギリギリギリ…と、そのまま剣を合わせて力比べに持ち込まれ、両者の間が縮まった。 腰を低く落とし、靴の下では床に小さな亀裂が入るほどの力比べ。 合わさった剣の部分からは火花がチカッ、チカッ、と飛ぶ。 「クラウド…さん……なんで……?」 渾身の力を込めてクラウドに対抗する。 クラウドはギラギラと怒りに目を光らせながら、 「お前がそれを言うか…!?」 叫ぶと同時にわざと、フッ、と力を抜いた。 シュリの身体がバランスを崩す。 前のめりに身体を崩したシュリへ、クラウドは背中から床に伏しつつ腹に重い一蹴りを喰らわせた。 「…ッ!!」 まともに鳩尾に喰らって息が詰まる。 そのまま天井まで蹴り飛ばされ、今度は背中に鋭く重い痛みが走った。 ついでに後頭部も強かに打ちつけ、目がチカチカとする。 そのまま落下するシュリにクラウドがバスターソードを振りかざして跳躍した。 シュリは翳む目をこらしつつ、半ば本能で手にしている剣でそれを受けることに成功する。 だが、本来の力が発揮されていないその受身は、シュリの命を救うだけで精一杯だった。 そのまま横へ殴り飛ばされる形で、廃屋の片隅まで吹き飛んだ。 『…このままじゃ……確実に殺(や)られる…』 話し合い云々と、甘い事を言っている場合じゃない。 こちらも本気を出さないと…マズイ! だが…。 「クラウドさん、少しは俺の話も聞いて下さい!」 ヨロヨロと立ち上がり、全く容赦しようとしないクラウドに、必死になって呼びかける。 眼前に迫っているクラウドには…残念だがその声は届かなかった。 「黙れ!!」 怒鳴りながらバスターソードを下から斬り上げる。 シュリはそれをファルシオンで受け止め、歯を食いしばった。 まだ迷いのあるシュリにとって、容赦の無いクラウドはまさに『最大の敵』。 このままでは本当に殺される。 だが、だからと言って手加減しないで自分まで攻撃したら、ますますこの戦いは激しさを増すだろう。 そうなったら…お互い無事では済まない。 「クラウドさん……、お願いですから……ハァ……、なにが原因で……ッ……怒ってるのか……説明……してくれませんか……?」 歯を食いしばるほど、全身に力を込めてクラウドの攻撃を受け止めつつ、必死になって訴える。 いつもなら、いくら頭に血が上っているとは言え少しくらい訴えに耳を傾けるだろう。 しかし、今日は違った。 ただひたすら、クラウドの瞳には怒りが渦巻いている。 そして…シュリは見た。 紺碧の瞳に渦巻く怒りの根底にある…深い深い傷に。 なにか…彼を深く傷つけることをしたのだ。 しかも自分が…。 それを悟ったシュリから力が一瞬抜ける。 「クッ!!」 メキッ!と、イヤな音を立ててバスターソードがシュリの左胸にめり込んだ。 またもやその攻撃の勢いにより、横へ殴り飛ばされる。 ガラガラガラ……と、廃材の中に頭から突っ込んだシュリの上に、いくつもの廃材が落下する。 若干息を切らしながら、 「立て、これくらいじゃ死なないだろう!?」 クラウドは怒鳴った。 これくらいじゃ済まさない。 絶対に許さない。 信じていたのに…。 心を許していたのに…。 それなのに……一番惨い(むごい)方法で、この目の前の男は自分を裏切った。 澄ました顔をして、心の中では嘲っていたのだ、この男は…! 絶対に許せない!! クラウドの怒鳴り声に応えるかのように、ガラガラ…と、廃材の中から漆黒の瞳に強い光を宿して青年が立ち上がった。 先ほどまで、必死になってクラウドに話しかけていた青年と同一人物なのに、ようやく本気になったらしい。 スーッと細められた瞳。 息切れしていた呼吸も落ち着きを取り戻している。 何より……気迫が違う。 静かな…闘気。 クラウドは『それでこそ……WROの中佐。俺が…リーブが…そして…ティファが認めた男…』と、心の中で密かにそう思った。 シュリはシュリで、クラウドの怒りの原因が自分にあるのは明白なのだが、その理由にさっぱり思い当たらないため、本当はまだ少し迷っていた。 だが、ここまでクラウドを追い詰めてしまったのなら、自分にいくら覚えが無くても正々堂々、自分も持てる力を全部出し切って相手をするのが筋というもの。 そう…判断した。 その結果、自分が例えこれから先、戦えない身体になってしまったとしても……仕方が無い。 それほどの大罪を、クラウドに対して犯してしまったようなのだから。 この最後の『犯してしまったようなのだから』というのが、なんともシュリらしいところだ。 本当に身に覚えが無い人間なら、弁明に必死になって相手の怒りを受け止めることはせず、逃げ回ってほとぼりが冷めるのを待つだろう。 本当は、それが最も良い方法なのかもしれない。 勿論シュリも、相手が他の人間なら適当に逃げて、身をくらませて…。 ほとぼりが冷めるのを待つだろう。 だが…。 シュリにとって、クラウドはやはり特別なのだ。 大事な人…、という部類に入ってしまっているのだ。 青年にしては非常に珍しく、貴重な部類に…。 だから、中途半端に逃げて、ほとぼりが冷めるのを待つことは出来ない。 それは、『現在(いま)』、目の前で苦しみながら激しい怒りに身を置き、その根底に深い深い傷を負ったクラウドに対して無礼に当たる。 二人は無言で暫し対峙した。 先ほどまでの激しい戦いの音が響いていた廃屋が、急にシーン…と静まり返る。 二人の足元で、埃や紙くずが風に吹かれて転がっている。 静かなその一瞬。 紺碧と漆黒の瞳がカッ!!と見開かれた。 両者同時に、跳躍する。 クラウドとシュリが同じタイミングで剣を繰り出した。 ギーーンッ!! ズザザァッ!! ズシャッ!! キキキキキーンッ!! 両者の間で剣が合わさるごとに火花が散る。 それほど渾身の力の篭った剣戟での戦い。 クラウドが宙返りをしてシュリの背後を取り、横斬にバスターソードの攻撃をしかけたが、クルリ…と身を反転させながらシュリがファルシオンで受け流す。 クラウドは受け流されたために前へ体勢を崩しかけたが、シュリと一瞬背中合わせになったその隙に肘鉄を横っ腹にめり込ませようとした。 その攻撃をまるで読んでいたかのように、シュリが左手でガシッと押さえる。 クラウドはバスターソードを、シュリはファルシオンを駆使しつつ、拳と蹴りを織り交ぜて多種多様な攻撃をしかける。 剣で攻撃すると見せかけ、床に身を滑り込ませて足払いをしたり…。 足払いをされた方も、ただ転倒するのではなくて地面に着くのは片手だけ。 相手に今度は足払いをする。 それをかわすために、相手はとっさに飛び上がり、折角地面に倒れている相手を攻撃するチャンスを潰して見せたり…。 剣と剣が合わさった時、思い切り突き放してわざと距離を作り、今度はその間合いに滑り込んで体勢のまだ整えられていない相手の顎にアッパーカットを喰らわせた。 そんな戦いが小一時間も繰り広げられている。 二人共、並みの人間ではないが流石に全身全霊かけた戦いをそれだけの時間続けていたら、息も上がるし、汗も滝のように流れる。 「ハァ……クラウド…さん…本当に……なんで…こんな…?」 「ハァ…お前……本気か…?本気で……『あんなことをしておいて』よくもそんな…!!」 シュリが本心から聞いているのだ…という事がクラウドには信じられなかった。 裏切ったくせに! よくもそんな『なにもしていません』って顔をしてくれるとは!! 「『あんなことをしておいて』というのが…本当に…ハァ……思いつかないんですけど……」 「…!!……よくも……よくもそんなしらばっくれたことを…!!」 クラウドはギリリ…と、奥歯を噛み締めると、 「ティファを……ティファを抱きしめて……今日だってキスしたくせに!!!」 「は!?えぇぇええ!?」 「この……裏切り者!!!!」 最後の台詞は悲鳴のようだった。 クラウドの怒りと悲しみに、シュリはただただ面食らい、怒りに身を任せて新たな攻撃を繰り出すべく自分に迫るジェノバ戦役の英雄を見つめていた。 「ストーップ!!!!」 呆然としているシュリに、クラウドの斬戟が叩き込まれる寸前。 突如、第三者の声が割り込んだ。 二人共その声にハッと入り口を向く。 そこには、クラウドが怒り狂う原因の女性。 クラウドはグッと唇を噛み締めた。 きっと……ティファはシュリを助けに来たんだろう。 こんな風に、怒りに身を任せて戦いに持ち込んでしまった自分を見て、イヤになったに違いない。 それに、明らかにシュリの方が傷が多い。 彼女は優しい人だから、こんなに傷ついた青年を放っておけるはずが無い。 スタスタスタ…。 真っ直ぐティファはクラウドに近付いた。 その足取りに迷いは無い。 表情は硬く、何か大きな事を決意した…そんな表情。 クラウドは……足元から床が消えて、ストン、と奈落の底に落ちるような錯覚を覚えた。 バスターソードが、力なく手から落ち、床に音を立てながら転がった。 きっと、別れ話を切り出される。 もう…愛想が尽きた…って…。 こんな乱暴で、短気で、嫉妬深くて…。 そのくせ、愛の言葉を滅多に囁くことが出来ない朴念仁。 そうだよな…。 ティファは…俺には勿体無さ過ぎる…。 先ほどまでの怒りの熱がウソのようにサーッと引いていく。 代わりに湧いてくるのは…絶望。 まともにティファの顔が見れず、思わず顔を逸らした。 「クラウド、コレ見て」 両頬を包まれ、グイッとティファに向けられる。 そのまま、サッとポシェットから小さな冊子を差し出した。 「…なんだ…これ…?」 「良いから、開けてみて!!」 彼女の剣幕に圧されるようにして、クラウドはその小冊子を受け取り、パラリ、と表紙を捲って…。 石化した。 パラ、パラ、パラ、パラ…。 捲っても捲っても写っているのはティファと……。 「誰だ……コイツ……」 「私のこと、盗撮していた人よ」 「盗撮!?」 上ずった声を出し、目を見開いたクラウドに、ティファは親指でクイクイッ、と廃屋の入り口を肩の上から示す。 そこにいたのは、でっぷりとした体躯の……。 「…!!お前、さっきの!!」 クラウドが自分を思い出したのを見て、青年は「ヒッ!」と身を縮こませた。 「と…言うことは……」 「…クラウド…私とシュリ君がそんなバカみたいな関係になると思う?」 呆れ返った口調で指に挟んだ『それ』を小冊子にひらり…、と落とした。 その落とされたものには、シュリの後姿と、ティファが合わさっている……いわゆる、キスをしている様にも見れる盗撮写真があった。 「ほんっとうに、ほんっとうにすまない!!」 「いえ…本当に良いですから…」 「必死になって『話を聞いてくれ』って言ってたのに、俺は全く聞こうとしなかった…」 セブンスヘブンに戻ったクラウドとシュリは、先ほどから同じやり取りばかりを繰り返していた。 延々と続くそのやり取りに、事情を聞かされた子供達は、苦笑するばかりだ。 青年が持っていた小冊子は、なんとティファの隠し撮り写真を『合成した写真』で一杯だったのだ。 何を合成しているのか…というと。 例えば、クラウドに微笑みかけている写真だと、クラウドの部分に自分のものに置き換えたり…。 子供達なら…子供達を削除して自分にしてみたり…。 ようするに、自分とティファがさも『恋人同士』と見れるような写真を山ほど作っていたのだ。 「ここ最近、ずーっと誰かに見られている気配はしたの。でも、いつも一人だけじゃなくて、複数いたから全然気にしなくなってたんだけど…流石に今回は酷いわよね」 手にしている盗撮写真。 そこにはシュリが『星に還った人』をティファにも一瞬だけ見られるように抱きしめている写真がある。 それはクラウドがまだ懐に持っていたもの。 クラウドは『キスをしている様に見える写真』と『抱きしめている写真』の二枚を青年から見せられ、逆上したのだ。 「だからね。星に還った人を一時的に見せてくれるために、シュリ君はほんのちょっとの間だけ、私にその方法を使ったの。だから、全然やましくなんか無いんだから」 「……本当に…申し訳ない……」 すっかりしょげ返り、小さくなるクラウドに、シュリはゆっくりと首を振った。 「良いんです。誤解が解けたんですし。それに…」 片眉を器用に上げながら、 「良い実戦経験をさせて頂けました。やはり俺はまだまだ未熟です。もっと精進しなくては…」 そう言うと、改めてティファに向き直って頭を下げた。 「本当にお騒がせしました。後日改めてお詫びに来させて頂きます」 「そんな、被害者はシュリ君じゃない…。あの日の御礼をしたいから来て欲しい…ってお願いしたのは私だし」 苦笑するティファに、クラウドがますます小さくなる。 だが、シュリはやはり首を横に振った。 「いえ。もっと気配を読むことが出来ていたら、あの時『術中』に隠し撮りをされることもなかったわけですし、そうしたらクラウドさんに誤解されることもなかったわけですからね」 どこまでも生真面目にそう応えると、シュリは子供達一人一人の頭をポンポン…と撫でてからドアに向かった。 「もう帰るの?」 「もっとお話ししようよ〜!」 駄々をこねる子供達に顔を向け、 「任務があるんだ」 一言素っ気無くそう言い残し、 「クラウドさん、出来ればまたお手合わせして下さい。このままの腕しかない俺はいつか殉職してしまうと分かりましたので、みっちり修行しなくては…。その為には相手をしてくれる人がいるとありがたいので」 「シュリ…」 シュリのそのなんともありがたい言葉に、クラウドが言葉に詰まる。 と、何を思いついたのか、シュリはクラウドの傍に戻ると、ティファとクラウドの頭を軽く自分に引き寄せて…。 「とどのつまり、お二人はお互いに熱愛している結果、こうなったというわけですから、むしろ喜ばしいことですよ」 ボボボボボンッ!!!! 二人の顔が真っ赤になる。 そんな二人をこれまた無表情に眺めやり、シュリは首を捻っている子供達に軽く手を上げて……セブンスヘブンから去って行った。 その後。 当然のことながら、シュリに何を言われたのかせがむ二人をなんとかごまかし、その日は休業となった…。 「それにしても…」 「……本当に…ごめん」 「ううん、良いの。最後にシュリ君に言われたことが…その……」 「………う…」 「…私は…嬉しかったな…」 「…本当に…?」 「うん。だって、我を忘れるくらい…怒ってくれたじゃない?本当に…嬉しかったわ…」 「ティファ…」 「でも…これからはもっと自分に自信を持って?私がクラウドから離れられるわけ無いんだから…」 「……ティファ」 ギュッと抱きしめて、ティファの匂いを胸いっぱいに吸い込む。 これ以上はない程、穏やかな気持ちになれる匂いをクラウドは知らない。 そうして、ティファもまた、クラウドに抱きしめられて至福を感じていた。 こんなにも幸福に包まれる温もりを…他に知らない。 二人はそっと目を閉じて、甘い甘い口付けを交わした。 そう。 今日のバタバタの原因は単純明快。 とどのつまり、愛しすぎたクラウドの暴走。 ただそれだけ。 ただそれだけなのだが、それがいかに大切で尊いものか、この二人は良く知っている。 「愛してる」 「…私も…」 お騒がせな恋人に包まれて、ティファは幸せを噛み締めた。 「中佐。そのお怪我は?」 「……人の恋路の邪魔をした…と思われて殺されかけました…」 「…………あぁ、…『ジェノバ戦役』のお二人ですか?」 「はい…まぁ…」 「はは、ホントにあの二人…というかクラウドさんらしい…」 「ええ、本当に。それに、実戦での訓練も出来ましたしね。上々です」 「………そんな事が言えるのは、きっとシュリ、キミくらいですよ…」 後日。 WRO本部で局長と中佐がそんな会話をしたとか…どうとか…。 あとがき 『存在理由』の後日談です(笑)。 シュリがティファを抱きしめたシーンが、もしもクラウドにバレたらどうなるか…?というものですね、はい。(そのまんまじゃん)。 実際、これくらいクラウドには取り乱してもらいたいものです(鬼)。 お付き合い下さり、ありがとうございました<(_ _)> |