友達のご両親




 こんにちは、初めまして。
 俺の名前はキッドです。
 名付け親は俺の父親。

『俺の子供なんだから『キッド(kid)=子供』で良いじゃねえか!』

 などと非常に安直な名前を付けられた、生まれた直後からちょっぴり不幸な人生を歩んでいる八歳です。

 今日は、俺の友達を紹介します。

 一人はデンゼル。
 俺と同年代の男の子で、茶色で少しクセのあるフワフワしたとてもさわり心地の良い髪を持つ、明るくて良い奴です。
 もう一人はマリン。
 デンゼルや俺よりも年下で今年六歳になるとても可愛い女の子です。
 でも、年下とは思えないくらいしっかりしてて……正直、俺とデンゼルは頭が上がりません。

 デンゼルはその事を認めていないけど…。
 いい加減認めたらいいと思うんだけどな…。

『デンゼル!いつまで遊んでるのよ。帰る前にティファに買い物頼まれてたじゃない!』
『え!?何だっけ……?』
『もう…やっぱり聞いてなかったのね…?お砂糖と粉砂糖!!』
『……俺、いつも思うんだけど、砂糖と粉砂糖って一緒じゃないのか…?』
『…あのね…お砂糖は主に料理に使うけど、粉砂糖はお菓子に使うの!全然出来上がりが違ってくるんだから…。ティファに言っちゃおうかな~。デンゼルが『どっちでも一緒だろ』って言ってたって!そしたら、きっと、これからデンゼルのおやつは、これまでのと一味違うと~っても美味しいおやつになると思うわ!』
『げげっ!た、頼むからそんな事言わないでくれよな!!』
『じゃあ、今日の買い物はデンゼルが行って来てよね?この前は私が行ったんだから!』
『……分かったよ~……』
 
 ほらね。
 完全に主導権握られてるし…。
 腰に手を当ててビシッと言うマリンは、ティファさんに良く似てると思う。

 あ、ティファさんって言うのはあのジェノバ戦役の英雄の一人なんだけど、物凄く美人で、物凄く優しくて、物凄く料理が上手で……とにかく凄く良い人なんだ。
 
 マリンがコソッと俺に教えてくれたことがあるんだけど、将来はティファさんみたいになりたいんだってさ。
 その素質は充分あると思うな。
 うん、デンゼルよりは断然に!

 あ、デンゼルは将来クラウドさんみたいになりたいんだ。
 クラウドさんって言うのは、やっぱりジェノバ戦役の英雄の一人で、英雄の人達のリーダーをしてたんだってさ。
 いつも大きなバイクに乗って、あっちこっちに荷物の配達をしてるんだ。
 今は荷物を配達してくれる人が物凄く少ないから、クラウドさんのしてる仕事はとっても『チョウホウ』されてるって母さんが言ってた。
 街の外にはモンスターが一杯いるし、街と街をつなぐ道路はまだ繋がってないままのところがあるんだって。
 だから、何も知らない素人さんが街の外をうっかりフラフラしてると、モンスターに食べられたり、急に途切れてしまった道路から落っこちたりするんだってさ。
 俺の父さんもジュノンからエッジに帰る途中、うっかり落っこちるところだったんだって。
 そう言って大笑いしてたんだけど、その父さんの頭にはしっかり包帯が巻いてあった。
 母さんが『落っこちるところじゃなくて、落っこちたんでしょう!!』てバシンッて叩いてたっけ…。
 ……包帯の上を…。

 そんな危ない街の外を、全然何でもないように沢山の荷物を運んで、沢山の人達に喜ばれてるクラウドさんが、デンゼルの憧れの人なんだ。
 でも、かなり頑張らないとクラウドさんみたいにカッコイイ大人の男の人にはなれないと思うな…。
 だから……デンゼル、かなり、とっても、非常に頑張らないと無理だぞ?
 実はそう言う俺も、クラウドさんみたいな大人になりたいな~って思ったりするんだけど、ま、無理だろうな。
 何か、クラウドさんって特別って感じが凄くするんだ。
 近寄りがたい雰囲気を持ってるんだけど、デンゼルやマリンを抱っこする時に見せる温かい笑顔を見ると、そんなに硬い人じゃないのかなぁ…とか思ったりもするし…。
 デンゼルとマリンも、クラウドさんの事が大好きだから、クラウドさんが抱っこしてくれる時、本当に嬉しそうに笑うんだ。

 良いよなぁ…。
 俺も抱っこされてみたいな。
 でも、きっと、物凄く恥ずかしいだろうから、やっぱり見てるだけでいいや。
 他の友達は、『何だよ、抱っこされるなんて小さい子供のされることだろう』とか言って、バカにしたような顔してるけど、本当は物凄く羨ましがってるんだ。
 素直じゃないんだよな…。
 ま、素直になったら抱っこしてもらえるってわけでもないと思うけど…。

 そういう訳でそんなクラウドさんは、俺達子供の間でもとっても人気がある。
 カッコ良くて、強くて、大きなバイク乗ってて、普段あんまり笑ったりしないのに、デンゼル達に見せる笑った顔がとっても優しくて…。
 そんな笑顔を見れたときは、何だかとっても得した気分になるんだ。

 あ、そうそう。
 クラウドさんは友達のお母さん達にも人気があるんだ。
 普段、お仕事で忙しいみたいなんだけど、たま~に俺達が遊んでるところに、クラウドさんがデンゼルとマリンを迎えに来る事があるんだ。
 そしたら、他の友達を迎えに来てたお母さん達が物凄い顔して振り返るんだよ。
 そりゃあ…もう…何て言うか……。
 今までそんな顔、した事あった…?って思うくらい、めちゃくちゃ笑顔で…。
 正直言って、かなり気持ち悪い。
 きっと、お母さん達は『最高の笑顔』ってやつをしてるつもりなんだろうけど、自分達の子供は勿論、クラウドさんもそんなお母さん達の『最高の笑顔』にかなり引いてる…。

 あ~、良かった…俺の母さんがあんな風に笑う女の人じゃなくて…。

『クラウドさん、今日はお珍しいですね!お仕事、お休みなんですか?』
『ええ…まぁ…』
『まぁ!じゃあ、今夜はお店の方をお手伝いされるんですね?』
『え…いや、今夜は休みにするとティファが…』
『あら~…そうなんですか…?』『残念です~!』
『……明日は開くと思いますが…』
『でも、明日はクラウドさん、お店の方は来られないんでしょう?』『もしも来られるんでしたら、子供達連れて、お夕飯食べに行きますのに~』
『……明日は仕事ですが…早く帰れると思いますので…多分、手伝えるかと…』
『『『まぁ!!そうなんですか!!!!』』』
『……多分……』
『『『是非、明日!行かせて頂きますわ!!』』』
『……どうも……』

 クラウドさん……顔が引き攣ってるよ…。
 デンゼルとマリンが心配そうにクラウドさんを見上げてる。
 友達皆も、そんな自分のお母さん達にドン引きだし…。
 お母さん達……自分達の情けない姿……いい加減気付こうよね…?

 そんなお母さんたちに囲まれてるクラウドさんを見て、俺の母さんは苦笑してる。
 本当は、俺の母さんもクラウドさんに一言、言いたいことがあるんだってさ。
 でも、あそこまで『お母さん達』に囲まれてるクラウドさんに近寄るのは無理だって、この前笑ってた。

 あ~、本当に良かった。俺の母さんがあそこまで自分を捨てるような女の人じゃなくて…。

 俺の母さんは、『お母さん達』に囲まれてるクラウドさんを見て、いつもこう言うんだ。

『クラウドさんはやっぱりカッコいいわね。うん、やっぱりクラウドさんの隣に並んで立つのはティファさんじゃないと釣り合わないわ~』

 母さんは、クラウドさんもティファさんも大好きなんだ。
 理由は、俺がデンゼルとマリンという友達を持つ事が出来たきっかけが、クラウドさんとティファさんのお陰…だから。
 実は、俺は二ヶ月前にエッジに越してきたばかり。
 はっきり言って、俺は人付き合いが物凄く苦手。
 どうやって話しかけたら良いのか分からないし、いざ話しかけられたらどういう態度を取ったら良いのか分かんない。
 だから、ここに越してきたばかり頃、公園で楽しそうに遊んでるデンゼル達を公園の隅のほうでジッと見てるだけだったんだ。
 そしたらマリンが、そんな俺に気付いて声をかけてくれたんだけど、あんまりびっくりしたから、

『誰がお前らなんかと遊ぶか!』

 何て事言っちゃったんだよな…。
 当然、そこにいた他の子達が物凄く怒っちゃってさ。
 危うく喧嘩になるところだったんだ。
 それを、デンゼルとマリンが必死に宥めてくれてる間に、俺、逃げちゃったんだ。
 家に帰ってからも、その事が本当に気になって…後悔して…。
 その日の夜は眠れなかったな…。
『あんたは、本当はいい子なんだから、もっと自信持って素直になれたら良いのにね…』
 母さんがその日の夜、一緒に寝てくれて、そう言って背中を優しく叩いてくれたっけ…。

 うん。今では良い思い出だな。

 それで、話は戻るんだけど、その翌日、やっぱり一言謝りたくて公園に行ったんだ。
 行ったんだけど…何となくやっぱり話しかけづらいし…昨日の今日だし……。
 頭の中でグルグル考えてたら、突然、クラウドさんが大きなバイクに子供達を乗せて街を走ってくれるって事になったんだ。
 皆、とっても楽しそうにしててさ。
 良いなぁ…って見てるだけだったんだ。
 そしたら、いきなりデンゼルとマリンが俺の方にやって来たと思ったら、びっくりしてオロオロしてる俺を無理やりクラウドさんのところまで引っ張ってってくれたんだ。
 クラウドさんは、デンゼル達に引っ張られてきた俺を、当たり前のように軽々と抱っこしてくれて、バイクの前に乗せてくれたんだ。

『飛ばすから、しっかり摑まってろよ』

 クラウドさんの低くてとっても温かい声が聞えたと思った瞬間、物凄い勢いでバイクが走り出した。
 何か……よく覚えてないけどあんまりびっくりし過ぎて何か叫んだような気がする…。

 街の中を凄いスピードで走るうちに、何だかさっきまで悩んでいた事が吹っ切れていくみたいな気がしてさ。
 公園に戻ったら、自然にデンゼルとマリンにお礼が言えたんだ。
 それと、他の子達にも謝る事が出来た。
 クラウドさんが俺をバイクに乗せてくれたのは、デンゼルとマリンが考えてくれたんだって、バイクで走ってる時に何となく分かった。
 だって、昨日の今日なのにわざわざ離れて見てた俺を引っ張ってくれるくらい優しい奴らなんだもん。
 きっと、そうなんだろうなって思ってる。
 特にクラウドさんは何も言わなかったけどね。
 そんなこんなで、今では俺も友達が沢山いる。
 その中でも、デンゼルとマリンが一番だ。


「あ~あ、俺、もっと遊びたかったのに…」
 デンゼルが唇を尖らせながら足元の石ころを蹴飛ばしてる。
 もうそろそろ買い物に行かないと、お店の準備に間に合わないんだろう。
「デンゼル、俺も一緒に付き合うよ」
 あんまりにも拗ねるデンゼルが可哀想になっちゃって声をかけると、パッと顔を輝かせて「え!?良いのか!?!?」って満面の笑みを向けてくれた。

 うん。本当にこいつは良い奴だ。
 自分の気持ちにとっても素直なんだもん。
 俺も、デンゼルやマリンみたいにもう少し自分に素直になれたらなぁ…。
 でも……素直な俺って…どんなんだろう……?

 デンゼルやマリンと一緒に遊んでると、この疑問によくぶつかるんだ。
 その事は誰にも言った事ないけど、自分に素直な人って何だか凄く『ミリョクテキ』だよね。

 あ~…でもジェイミーみたいな素直さはイヤかも…。

 ジェイミーって言うのは友達…になるのかな…?
 まぁ、その友達みたいな一人なんだけど、デンゼルの事が大好きなんだ。
 だから、デンゼルといつも一緒にいるマリンに物凄くヤキモチ妬いてるんだよね。
 しかも、女の子のグループの中でも結構強い立場…って言うのかな?そんな感じだから、よくマリンがイヤな気持ちになるような事を言ったりやったりしてる。
 でも、根本的にはマリンの事、好きみたいでさ。

 これって、『友情と愛情の板ばさみ』とか言う奴なのかな……?

 でも、まだまだ俺達子供には関係の無い話だと思うんだけど…。
 きっと、そんな事言ったら、『何よ!キッドには分からないわよ!どうせ、あんたは名前も中身も『子供』なんだから!』って嫌味言われるんだろうなぁ。
 うん、触らぬ神に祟りなしって言うし、黙ってよう。


「じゃあ、サッサと買い物行こうか?」
「おう!」
 元気良くそう言うと、デンゼルが他の友達に手を振った。
 俺も軽く片手を上げてさよならを言うと、デンゼルがまじまじと俺を見てきた。
「?」
 首を傾げる俺に、デンゼルは「はぁ…」と溜め息を吐く。

 何でそこで溜め息なんだ?

 首を捻る俺に、デンゼルは肩を組んでくると「キッドってさ。実はクラウドに憧れてるのか?」って急に突飛な質問をしてきた。
「へ?…ああ、そうだな。うん。クラウドさんはとってもカッコイイし、俺、憧れてるよ?」
「はぁ…やっぱなぁ…」

 なんでそこでまた溜め息なんだ?
 もしかして…クラウドさんに憧れてる奴とは友達になりたくないとか…!?

 馬鹿な事を考えてると、デンゼルが突然俺に指を突きつけてきた。
「でも、俺の方がクラウドとの付き合いも、一緒にいる時間も長いんだからな。将来、クラウドに最も近づける男は俺だぞ!」
「……そうだろうね…」
 デンゼルが何を言いたいのか良く分からないから、思ったことをそのまま口にすると、目の前の友達はブスッと頬を膨らませて拗ねてしまった。

 ………何で……?

 わけが分からなくて頭を抱えそうになる俺に、デンゼルが唇を尖らせたまま口を開いた。
「それなのに、なんでお前の方が俺よりもクラウドに似てるんだよ!」
「は…!?」
 思いもかけないその言葉に、目を丸くする。

 そんな俺の態度も気に入らなかったらしい。
 益々ブス~ッと膨れると「ほら、その反応!!クラウドそっくりなんだ!」

 いや…そんな事言われても…俺にはさっぱり分からないし…これがそもそも『俺』なんだしさ…。

「いつか、クラウドにより近い男って言われるようになってやるからな!」
「……デンゼルならなれるよ」
 宣言するように言ったデンゼルに、本心から返事を返すと、茶色の髪を持つ友人はポカンと口を開け、それから笑い出した。

 全く…わけが分からない…。
 ま、でも、友達の機嫌が直ったことがわかったから良しとしよう。


 それからは、ご機嫌になったデンゼルと一緒に買い物を済ませ、ついでだからセブンスヘブンまで寄って行った。

 お店は開店前の準備とかで忙しいだろうに、デンゼルと一緒に店に来た俺を見て、ティファさんが作業の手をわざわざ止めて、ジュースをご馳走してくれた。
「ありがとう、デンゼルに付き合って買い物してくれて!」
 ニッコリと笑って俺の頭を撫でてくれたティファさんからは、何だかとっても良い匂いがした。
 シャンプーかな?
 ちょっと胸がドキドキする感じ。
 出されたジュースを一口飲むと、甘くてとっても新鮮な果物の香りが口一杯に広がった。
「うわ…美味しい!」
「そう?良かった。今度、それを新しいメニューにしようかと思って、誰かに意見を聞きたかったの。丁度良かったわ!助かっちゃった」
 カウンターの中でニコニコと笑いながら、再び作業に戻ったティファさんが、嬉しそうな声を上げた。
 その声を聞いて、俺も何だか嬉しくなった。
 隣にいたデンゼルは、ジュースを一気に飲み干すと、「ゆっくりしていけよ!」って言い残して、さっさとカウンターの中に入っていった。
 出てきたときには、黄緑色のエプロンを身に付けてて、すっかりこのお店の戦力の一人になってる。
 忙しそうに開店準備をするティファさんとデンゼル、そして店の奥からピンクのエプロンを着けたマリンがひょこっと顔を出して、その作業に加わった。
 そんな姿を見ながらのんびりジュースなんか飲めるはずも無い。
 少し勿体無い気がしたけど、急いでジュースを飲むと「ご馳走様でした」カウンターへコップを持って行って帰ろうとした。
「もう帰るのか?」
「私達に気を使わなくてゆっくりしていけば良いのに」
 デンゼルとマリンがちょっぴり寂しそうな顔をして引きとめてくれたけど、俺にはその言葉と表情だけで充分。
「また明日遊ぼうな」

 そう言って店を出ようとした俺は、急に押し開けられたドアにまともにぶつかってひっくり返った。

 痛む額をさすりながら顔を上げると、何やら重大決心をした面持ちの若い男の人が立っていた。
 ティファさんとデンゼル、そしてマリンは、ひっくり返った俺のところに慌てて駆けつけてくれたんだけど、俺をぶつけた当の本人は俺の存在には全く気付いていないみたいだ。
 真っ直ぐティファさんだけを見つめてる。

「大丈夫、キッド!」
「おい、おっさん!!キッドに謝れよ!!」
 マリンとデンゼルに支えられながら立ち上がった俺には、やはりこのお兄さんは気付かない。
 って言うか、目が一点を集中してて、マリンとデンゼルの声も聞えてないみたいだ。
 ティファさんは俺の顔を覗き込んで、打ち付けた額にそっと手を当ててくれた。
 大した打ち傷じゃないことにホッと息を吐くと、今度はキッとそのお兄さんを睨みつけた。
「まだ開店前です。それに、子供をドアでぶつけておいて謝罪の一言も無いんですか!?」

 その迫力は流石だと思う。
 うん、本当にビシッと正しい事を言い切る強さは、マリン…よく似てるな。

 そのお兄さんは、自分がティファさんに怒られている理由に漸く気付いたのか、視線を下にずらして俺を見た。
 そして、「ああ、ごめん、気付かなかったよ」と、全く感情のこもってない言葉を口にして、さっさとティファさんに向き直ってしまった。
 その態度に、デンゼルとマリンが憤慨の声を上げたけど、俺はそれよりもこのお兄さんの事が心配になった。
 きっと、このお兄さんも他の男の人達と『同じタイプ』なんだろう…。
 俺の予想は大概外れないんだ。
 そして、今回も外れなかった。

「ティファさん!俺は、あなたの事が……!!」
 後手に持っていた花束をバッと差し出し、ティファさんに押し付けようとする。

 そんなお兄さんにティファさんはどこまでも冷たい目で「お断りします」と一言でバッサリと切り捨てると、押し付けられた花束ごと、お兄さんを店の外に押し出そうとした。
 でも、お兄さんにはお兄さんの『ぷらいど』があるんだろうな。
「いえ!このまま引き下がることなど出来ません!!この想い…どうか受け取って下さい!俺は何年でもあなたの事を…!!」

「『あなたの事を…』なんだ…?」

 不意にお兄さんの後ろから低い声が掛かった。
 お兄さんの紅潮した顔が一気に蒼白になる。

「「「クラウド!」」」

 ヒーローの登場だ~…!
 俺の目の前では、金髪で紺碧の瞳を持ったクラウドさんが、見た事ないほど極寒のオーラを漂わせてお兄さんを睨みつけていた。


 それからの事は…お兄さんが可哀想だから内緒。

 お兄さんがいなくなった店内で、クラウドさんは漸く温かい顔をしてデンゼルとマリンに「ただいま」って頭をポンポン叩き、ティファさんにそっとキスを贈っていた。

 あわわ…、見ちゃいけないもの見ちゃったんじゃないかな……。

 内心、慌ててると、俺に気付いたクラウドさんが、ちょっとはにかむように微笑んで「久しぶりだな、元気だったか?」と声をかけてくれた。
「うん!」
 その一言が嬉しくて、自然に俺はニッコリと笑うことが出来た。

 ティファさんとデンゼル、そしてマリンがどうして俺がここにいるのかの説明を簡単に話し、俺が額をぶつけた事まで話してくれた。
 その途端、クラウドさんが「そうか…すまなかったな…」って心配そうに俺の額をそっと触ってくれたんだ。
 それだけで、もう、ぶつけた痛みも何もなくなって、ぶつけた事をラッキーと思っちゃったよ!
「じゃあ、買い物にも付き合ってくれたことだし、フェンリルで送って行くよ」
「ふぇ!?」
 びっくりし過ぎて目を丸くする俺に、クラウドさんは唇の端を持ち上げてクールに笑って見せると、「バイクに乗るの久しぶりだろ?」って言ってくれたんだ。

 そ、そりゃ、乗せてくれるのはとっても嬉しいけど…。
「で、でも…仕事帰りで疲れてるだろうし…」
 オタオタする俺に、デンゼルとマリンが「良いじゃんか!送ってもらえよ~!」「そうそう!遠慮しなくても良いんだよ!クラウドが言い出してくれたんだもん」と、背中を押してくれた。

「ジュース、ありがとうございました!」
「また来てね」
「じゃ、また明日な!」
「明日、遊ぼうね」
 三人に見送られて、俺はクラウドさんに抱き上げてもらってフェンリルに跨った。
 久しぶりに乗る大きなバイクは、あの時と同じで、とっても力強くて、速くて…。
 あっという間に俺の家に着いちゃった。
 ちょっと名残惜しいけど、本当に今日は得した一日だったな。

「じゃあ、また遊びに来いよ?」
「うん!また行かせて貰います!」

 帰り際、クラウドさんは俺の頭をポンポンと軽く叩いてくれた。
 その手は、とっても大きくて、温かくて…。


 いつか…俺もクラウドさんみたいになりたいな…。
 誰からも頼りにされて…大切な者を全力で守れるような強い男の人に…。

「大丈夫、あんたならなれるよ」
 そう言って、母さんがニッコリ笑ってくれた。

 うん。
 頑張ろう!


 生まれた直後にちょっぴり不幸な目に合った俺は、今はとっても幸せです。





 あとがき

 え~…。
 拙宅に遊びに来て下さった他ジャンルサイトの素敵小説書き様が、何とマナフィッシュにクラティ小説のリク権を下さいました!!
 嬉しくて嬉しくて、つい勢いで押し付けリクなるものを差し上げてしまったところ、快くリクを受けて下さり、出来上がったのがこのお話です(笑)

 リク内容は『子供達の友達から見たクラティ』

 オリキャラの男の子は、拙宅の『過去の自分』で登場した男の子です。
 このお話を書くに当たって読み返したのですが…何とも恥ずかしい代物でした…(苦笑)。

 そして、このお話をUPする事を快諾して下さった為、UPすることにしました♪
 ああ…それにしても、やっぱりクラティ要素…少ない気が…(汗)。
 少しでも楽しんで頂けたなら幸いですm(__)m