ティファは暫く放心していたが、女に水をかけられて冷静さを取り戻した。 「皆さん、お騒がせして本当に申し訳ありませんでした」 深々と頭を下げたティファに、デンゼルとマリン、そしてクラウドはティファがいつもの自分を取り戻したことを悟り、全身から力を抜いた。 そっと目を合わせて微笑みあう。 ティファは顔を上げるとおどけたように笑って、全員にドリンクを一杯ずつサービスすると告げた。 緊迫して、どこか白けていた店内の雰囲気がドッと活気に包まれた。 そんな中、茶色い髪の女は狐につままれたような顔をして突っ立っていたのだった。 永久に 4お礼を言わなくては。 ティファは改めてそう思いながら市場までの道を歩いていた。 昨夜、とんでもない醜態を披露してしまったことは、彼女に深い後悔の念と羞恥心を植え付けていた。 すっかり忘れてしまっていた『店主としての誇り』を思い出させてくれたあの中年の女の怒りの形相を思い出すと、胸が締め付けられるような…重苦しくて息苦しいような、それでいて、感謝の気持ちがふつふつと沸いてくる。 そう、セブンスヘブンはティファにとって生きる糧を得るためだけではなく、誇りだった。 その誇りを思い出させてくれたあの女性客がいなければ、もっととんでもないことをしてしまっていただろう。 ティファは自覚していた。 あの茶色の髪の女性客へ、明らかな意思を持って攻撃しようとしたことを。 あの時、自分を突き動かした激しすぎる感情を思い出し、思わず身震いする。 クラウドは私のなんだから!! あの時、あの瞬間までずっと見て見ぬフリをしてきた己の本音。 あんなにも強い激情を心の奥底に封じ込めて今まで過ごしていたことに驚愕すると同時に、もう2度と、知らなかった頃には戻れないだろうと確信してしまった。 見て見ぬフリは2度と出来ない。 そう、クラウドは私のものだ。 誰にも渡せない。 たとえ、大事な大事な親友であっても絶対に! ピタリ、と足を止め、苦笑を浮かべる。 なんとも滑稽だ…と思った。 別にクラウドとはなんの『約束』も交わしていない。 むしろ、クラウドにとってティファという人間は『擬似家族』であるかもしれないが『かけがえのない女』ではない。 だからクラウドは、一番苦しく、深い悩みのあの時に…、誰かの助けを必要としているあの時に自分の許から離れてしまったのだから。 もしも、確かな絆、心の繋がりがあれば、クラウドはエアリスの教会へなんか行かなかった…。 家出から帰ってきた今だってそうだ。 ただ、一緒に生活しているだけ。 勿論、身体のつながりはあるし、愛している、と告げたことも告げられたこともある。 だが、それだけだ。 そこそこの想いをお互いに持っている恋人同士なら当たり前の関係だろう。 言い換えれば、それだけの関係であって『確かな』関係は何もない。 だから、あの女性客がクラウドとティファの間に入ってきてつつある今の現状は、第三者が見たらそんなに不思議でも、珍しくもないのだろう。 だけど。 もう無理…なんだよ。 どうあっても絶対に…譲れない。 アナタを誰にも渡したくない。 小さい頃、あの星空の下で約束を交わしたあの瞬間から、ティファはクラウドに恋をしていた。 小さい小さいその恋心は、二年前の旅を経て強く、深い愛情へと成長を遂げた。 そうして今なお、どんどん恋慕は深くなっていくばかりで、この想いを抑えることはもう不可能だ。 止まることを知らず、クラウドへの恋情が募り自分ではどうしようもない。 クラウドが自分から離れることも、クラウドから自分が離れることも、もうティファには耐えられなかった。 到底容認出来ない。 なら、どうしたら良い? クラウドが自分から離れてしまわないよう、今までよりも一層、彼の気持ちを引き止めるしかない。 そのためにはどうすれば良い? 昨夜、落ち着きを取り戻した後、多少のぎこちなさはあったものの、いつもに近い状態で仕事を始めたティファに、クラウドは心底ホッとした顔をした…。 『本当にごめん…ティファ』 そう言って、真摯に謝ってくれた。 冷静になれば、あんなに腹を立てる必要などどこにもなく、クラウドが何度も謝る必要もなかったということもちゃんと判断出来た。 謝る必要などないのにクラウドは謝ってくれた。 明らかに、理不尽過ぎる怒りを向けられたにも関わらず、宥めるだけの謝罪ではなくて本心から。 そうしてくれたのは、自分が『いつも通り』な姿を見せたからだ。 なら、答えは1つしかない。 いつも通りに…頑張ればいいんだよね?クラウド。 そう、いつも通りに頑張ろう。 無理をするのではなく、自分の出来ることを精一杯やれば良い。 クラウドのために朝食を作り、お弁当を作り、夜遅く帰る彼のために胃に優しい食事を整える。 衣類を洗い、仕事で疲れて帰る彼が安らげる居場所を常に整えて待っているのだ、店を営みながら…。 勿論子供たちへの愛情も忘れてはいけない。 自分が苦しくて悲しくて、どうにかなりそうだったクラウドのいないあの数ヶ月、支えてくれた大切な大切な、可愛い子供たちだ。 大切な大切な自分とクラウドの愛し子。 その子供たちをこれからもクラウドと一緒に育んでいくのだ。 それが出来るのは自分であって、あの茶色の髪の女ではない、断じて。 ティファは大きく深呼吸をして気持ちを新たにした。 決意を固めてしまうとなんとなく、急に世界が開けて見えた気がした。 通りを行く人々や街並みまでもが鮮明に色づいて見える気がする。 「うん、頑張ろう」 そっと呟き、口元に薄っすら笑みを浮かべて市場までの道のりを行く。 今日は早く帰る、と出かける前にそう言ってくれたクラウドの微笑みを思い出すと、さらに気持ちが浮上した。 途中、いくつかの馴染みの店の軒先を覗き、新鮮な魚介類や野菜を物色する。 前を向いて歩く決意を固めたからだろうか、昨日までの鬱々として色褪せた世界が生き生きとしているお陰で、食材が輝いて見えた。 店のオヤジやおかみさんとの会話も弾み、束の間楽しいひと時を過ごす。 そうして、納得のいく食材を手にして買い物を終えたティファは、軽い足取りで帰路に着いた。 彼女の視界に見慣れた黒い機体が飛び込んできたのは、セブンスヘブン近くの公園に差し掛かったときだった。 バクリ!と、心臓が嫌な音を立てて大きく縮み上がった。 たった今まで、浮き立つような気持ちでいたというのに、地の底に叩き落とされたような錯覚に陥る。 なんで…? 確かに早く帰ると言っていたが、何故こんなところに停められているのか…? 店(家)はすぐそこなのに。 急速に不安が募る。 そして…ティファは見た。 例の彼女と話しているクラウドを。 通りの喧騒が急速に遠ざかり、ティファは胸の奥底から急速に『己』が冷えていくのを感じながら立ち尽くした。 * クラウドは目の前で笑っている茶色の髪を持つ女を見下ろしながら、頭では違うことを考えていた。 昨夜ティファが見せたあの激昂。 あれはなんだったんだろうか…? 中年の女に水をかけられ、己を取り戻した彼女にホッとしつつ、そのときからグルグルとそのことばかりが胸を占めていた。 一晩明けてからもその疑問がクラウドの頭から離れずつきまとっている。 今朝のティファは、いつもと同じ微笑を浮かべて「おはよう」と言ってくれたけれど…。 ティファがあんな顔を見せたのは、二年前の旅の間だけだった。 それも、ほんの数回。 仲間がモンスターに傷つけられた時。 罪なき命が理不尽に目の前で奪われた時。 そして…。 エアリスが死んだ時。 『いや、エアリスの時はショックの方が大きかったら激昂する余裕はなかったな』 訂正して、なら昨夜はなにがティファの逆鱗に触れたのか、と考える。 「それでね、クラウドさん。こっちの花言葉は…」 嬉しそうにワゴンの中の花を指しながら語る女にクラウドは『まさかな…』と、ふと思い至ったひとつの結論を即座に否定した。 嫉妬。 目の前の女と一緒だったことへの嫉妬。 否定しながらも、『もしも嫉妬だったなら…』と、淡い期待が沸いてくる。 それに思い返してみればこの数週間、ティファからの電話が非常に多くなった。 『いまはどの辺?』『仕事は大丈夫?』『いつ帰れそう?』 自分ではあまり気づかなかった…というか、これが『普通』ではないと思わなかった。 つい先日、コスタへ配達に行ったときにバレットが呆れたような、それでいて少し気味悪そうな顔で見ていたことを思い出す。 『大丈夫か?』とバレットは言っていた。 それは、ティファの心身が大丈夫か?という意味でもあったのかもしれないし、ティファからのこまめ過ぎる電話を受けるクラウドを案じているようでもあった。 しかし、クラウドは全く負担に思っていない。 それどころかむしろ、ようやっとティファが自分を見てくれたような小さな幸せすら感じている。 ティファは嫉妬しない。 それがクラウドの認識しているティファ・ロックハートだった。 今まで彼女はクラウドに『嫉妬する女の顔』を見せたことがなかった。 いくら、ユフィあたりが『ティファはやきもち妬きだからちゃんとこまめに想いをつたえるべしっ!』とお説教をしてきてもピンとこなかった。 むしろ、ユフィの言うとおりならどんなに嬉しいだろうと何度思ったことか…。 全くそのような素振りを見せないティファを前に、いつもほんの少しの惨めさをクラウドは味わっていた。 嫉妬はむしろ、自分こそが常に味わっている感情ではないか…。 店に来る男の客、大半がティファをあらぬ目で見ていることを思うと、腹立たしくて仕方ない。 それに、そういう客ばかりではないのがまた悩みの種だ。 ティファを純粋に想い、恋焦がれている好青年のなんと多いことか。 幸い、今のところティファの心を射止めることに成功した者はいないようで、それだけが唯一、クラウドを冷静に保っていた。 こんな状態なのにユフィにお説教されるたび、もしかしたらそうなのかも、と凝りもせず期待する自分がイヤだった。 イヤなくせに期待してしまうのを止められない。 『なんとも未練たらしいというか、女々しいな…』 心の中で苦笑しながら、改めて目の前で嬉しそうに笑っている女を見た。 彼女が自分へ好意を寄せてくれていることは、いくら鈍感という肩書きを持つクラウドでも分かっていた。 もっとも、分かったのはつい昨日のことだったのだが…。 彼女の気持ちに応えるつもりは当然ないが、そのくせこうして彼女に勘違いさせてしまうようなことをしているのは、昨夜聞いたマリンからの電話のせいだ。 『クラウド、いつくらいに帰れそう?出来たら早く帰ってきて欲しいの。そしたらお店を早めに閉めれるでしょう?ティファね、すごく無理してるの。例のお姉ちゃんのこと、きっと苦手なんだと思うんだ…。そりゃ、今夜会わずに済むように逃げても問題はなくならないけど、それでも少しで良いから気持ちをゆっくりさせてあげたいの』 マリンが言わんとすることを丸々理解することは難しかったが、それでもティファに最近元気がないことは分かっていたし、かなり気になってもいた。 マリンからの情報がティファを思いやるための手掛かりになるかもしれない…。 そう思ったクラウドは、ティファへプレゼントするべく立ち寄った花売りワゴンから花を買うのをやめた。 売り子の女性が、まさにマリンの言っていた例の彼女だったからだ。 その花売りワゴンを初めて見つけたとき、エアリスと初めて会ったあのときを思い出してついつい公園にバイクを置いてまで立ち寄った。 その時に売り子をしていたのは人のよさそうな中年の女だった。 それなのに、一晩明けて再度訪れてみると、例の彼女が売り子として立ってた。 『昨日、売っていたのは母なんです』 そう彼女は言った。 最初の日にクラウドが何も買わなかったのは、ただ単に気に入ったものがなかったからだ。 ティファに合いそうな花がなかったので、また明日寄る、と彼女の母親だと知らずに伝えていた。 だから2日続けて立ち寄ったのに、売り子として立っていたのは例の彼女だった。 ここで、もう少しクラウドが自惚れていたら、彼女の母親が娘から英雄にナンパから助けてもらったという話を聞いており、翌日また買いに来てくれる、という話を家でしたと推測しただろう。 だが、そこまでクラウドは想像することもなく、ただ気まずい思いをしながら花を選んでいた。 丁度そのときだ、マリンから電話をもらったのは。 電話を切ってクラウドはすぐに買うことをやめ、帰路に着こうとした。 もしも、マリンから電話をもらわなければ気にしないで買ったかもしれない。 実際、ティファがそこまで彼女のことを意識しているとは思わなかった。 多少は気にしているのかも…?とは思っていたが。 とにかく、気にしている女から買った花だと万が一、ティファが知ったらいい気はしないだろうと判断したので、空手で帰ろうとしたのは中々に正しい判断だったと思う。 しかし、まさか彼女がついてくるとは思わなかった。 『クラウドさんが最後のお客様だから仕事、あがりなんです』 そう言ってついてきた女をクラウドは困惑しながらも、まさかセブンスヘブンへの客を追い返すわけにもいかず、結局バイクを押しながら店まで一緒に歩いた。 彼女自身の商売道具であるはずのワゴンは、丁度待ち合わせていたらしい父親が引き取った。 なんとなく意味深に視線を向けてバカ丁寧に挨拶されたのが居心地悪かった…。 道々、バイクを押して歩くクラウドに彼女は何度かフェンリルに乗ってみたいなぁ、と言っていたが「重いからアンタには無理だ」と返した。 今考えれば、二人乗りで乗せて欲しい、という意味だったんだと分かるが、昨日は彼女1人がクラウドのようにフェンリルを駆ってみたい、と言っているのだと思ったのだ。 会ってほとんど時間らしい時間を過ごしてもいない男の後ろで身体を密着させ、バイクに乗りたいと言うなど、クラウドの想像を軽く越えていた。 もしも、彼女の言っている意味を理解していたら一緒に帰宅することも、店に来させることもなかった。 そこまで考えられるのに、昨日の騒動の翌日である今日、こうして再び彼女の花売りワゴンに立ち寄ったのは、セブンスヘブンに二度とこないよう釘を刺すためだ。 もしかしたらティファには営業妨害だと怒られるかもしれないが、少しくらいのお叱りは甘んじて受ける心づもりだった。 だがしかし、茶色の髪、翡翠の瞳、そして花。 この3つのキーワードがクラウドを抑えていた。 すっかりタイミングを逃し、彼女の楽しそうな笑顔をなんとはなしに見つめながら全く違うことに思いを飛ばしているのだ。 見れば見るほど…エアリスとは似ていない。 髪と瞳の色、ふわふわの髪型、そして花。 体系もどちらかと言えばエアリスに似ていて、エアリスを表す要素はこんなに揃っているのに、やはりどう見ても違う人間にしか見えなかった。 『やっぱりティファ……嫉妬してくれたわけじゃないんだろうな』 あの旅を思い出す。 唯一、仲間たちから『ティファ以外の男女の仲』を疑われた存在であるエアリス。 エアリスが自分の中のザックスを見て、積極的に話しかけてくれていたあの時でさえ、ティファは嫉妬しれくれなかった。 時々、背中に視線を感じてさりげなく振り返った時ですら、ティファはエアリスと一緒にいる自分を見てはいなかった。 ナナキと笑っていたり、ユフィとおしゃべりをしていたり…、時には1人で遠い空を望んでいたり…。 そうしてついに、エアリスと一緒にいるときにはただの1度もティファの視線と交わることはなかった…。 『クラウド、アンタ本当にティファのこと、大事だと思ってるの?エアリスよりも?』 家出から帰ったあの日。 どんちゃん騒ぎが終わった翌日、いつになく真剣なユフィが周囲をうかがいながらそっと声をかけてきた。 勿論だ、と応えたクラウドにユフィは至極真面目な顔をしてこう言った。 『そのこと、ちゃんとティファにことあるごとに伝えなきゃだめだかんね?ティファ、絶対にクラウドはエアリスを一番大事に想ってる、って思ってるに違いないんだから』 だがしかし、何度も念を押されたがついにクラウドはその仲間の警告を実行することなく今日まで来てしまっていた。 クラウドにはどうしてもティファがエアリスとの間を嫉妬してくれているようには思えなかったからだ。 というよりも、ティファにとってクラウド・ストライフという男は、そこらへんの男よりも近しい存在ではあるが、嫉妬する対象とまではならない、と思えて仕方なかった。 いくら身体を重ねても、愛を囁いても、その時は嬉しそうに微笑んでくれるし愛していると応えてくれる。 だが、それだけだ。 今までなにかを強請られたことなど1度もない。 淡白な関係。 それがティファと自分の間柄だとクラウドは思っていた。 幼い頃から心惹かれていた彼女と一緒に住めるようになっただけでも幸運なのだろう、と思っているが、それでもやはり時折、物足りなく感じる。 「でね、クラウドさん。あの…聞いてます?」 返事をしなくなったクラウドに小首を傾げながら彼女が上目遣いに見上げてきた。 相槌を打つことすら面倒になったことと、ティファとの関係で頭がいっぱいになっていたクラウドは我に返り、改めてエアリスとは似ても似つかない『可愛いと世間では評される彼女』を見下ろした。 そして口を開く。 「悪いが、今日来たのはちょっと確認をするためとアンタに話しがあったからだ。花を買いに来たわけじゃない」 途端、彼女の顔が輝く。 可愛いと周りに言われ慣れているのだろう、クラウドが自分を見てくれたことで一歩も二歩も前進したと感じたのだ。 「確認…ですか?なんでしょう」 期待に目を輝かせる彼女にクラウドは言った。 「確認はもう済んだ。言いたいことは1つだけ。2度と店に来ないでくれ。俺はアンタに興味がない」 彼女の夢見る表情が一変。 驚愕のあまり目を見開き、呆然とクラウドを見上げる。 真っ向からの拒絶を今までされたことがないのだろう。 しかし、クラウドは彼女が何らかの反応を返すまで待たなかった。 言いたいことを言うだけ言うと、さっさと踵を返してエアリスとは似ても似つかない女へ背を向ける。 そして、愛車のエンジンを噴かせると振り返ることも、チラリと見ることすらなく走り去った。 * エアリス。 ねぇ、エアリス。 私ね、本当にクラウドのこと、愛してるの。 クラウドのためならなんだってするし、なんだって我慢出来る。 だから…お願いだから。 どうか大人しく星の中で眠ってて! エアリスの傍にはザックスがいるんでしょ?それなのに、どうしてクラウドまで自分のものにしようとするの? 私にはクラウドしかいないのに…!! やっと…、やっと、つい数ヶ月前に帰ってきてくれて、少しずつ近い存在になってきたのに…。 酷いよ…エアリス…! ぐるぐると、先ほど見た光景が脳裏を巡る。 距離が離れていたので2人が何を話していたのかまでは聞こえなかった。 だが、夕日を浴びて楽しそうに笑っている彼女と、黙ったままだがジッと彼女を見つめているクラウドはまるで一枚の絵のように綺麗で…とても似合いの2人だった。 あれが自分なら、あんなに綺麗に映らないだろう…。 その事実がティファを酷く苛み、痛めつけていた。 苦しくて…悲しくて……悔しい。 悔しくて…悔しくて…そして怖い。 どうしようもなく恐ろしい。 クラウドはついに見つけてしまった。 今日までクラウドの傍にいることを許されていたが、それは『本物のエアリスの代わり』を見つけるまでの繋ぎとして…だ。 そして、ついにクラウドは見つけてしまった。 彼女を。 エアリスの代わりとしてクラウドの傍にいることが許される本物の女を。 なら、自分はどうなる?と自問してティファは震える。 そんなの…。 本物を見つけてしまったら、ニセモノは捨てられるしかないじゃない! カウンターの中でしゃがみ込み、己を強く抱きしめるティファの耳に、フェンリルのバイク音が急速に近づいてきた。 心臓が破裂しそうなほど強く胸を叩く音がする…。 |