どうしても…、どうしても見たくない。 アナタが私以外の女性(ひと)の傍で笑っている姿も、アナタが私以外の女性(ひと)を愛しそうに見つめている姿も。 私の持っている全てをアナタに捧げるから。 私の出来る全てでアナタを愛するから。 だからどうか、私を傍に置いて欲しい…。 2度といなくならないで! 2度と、あの女性(ひと)のところへ走らないで! お願い…お願い…! なんでも言って、その全てに私は従うから! ただ、傍にいさせて欲しいの。 それでも…。 それでもどうしても、私から離れるというのなら…。 私のものにならないというのなら…。 私は…。 永久に 5(完結)「ただいま……ティファ?」 ガレージにフェンリルを置いて裏口から帰宅したクラウドは、静まり返っている店内に首をひねった。 今の時間なら店の仕込をしているはずだった。 それなのに、物音1つしてこない。 子供たちは…まだ遊びに行っているのだろうと察しがつくが、ティファのことは…分からない…。 『買い物にでも行ってるのか…?』 店舗をざっと見渡して誰もいないことに訝しく思いながら、ならば、と浴室へ足を向ける。 先に洗濯物を洗濯機に放り込もうと思ったのだ。 ついでにシャワーでも浴びて、汗を落とそうと考えた。 さっぱりした頃にはティファも帰ってくるだろう。 そしたら、昨日のことについてじっくり話をしよう。 まだ店の仕込をしていないようなのでかえって好都合だ、今夜は店を休ませよう。 ここ最近、ティファの元気がないとマリンやデンゼルも心配していたことだし、家族でとことん話をして、必要なら暫く連休にしてしまえば良い。 可能なら、家族で旅行も良いな…、暫くどこにも子供たちを連れて行ってやっていないし…。 仕事から離れて一緒に過ごすことが出来たら、きっとティファも元に戻るだろう。 生来、明るく元気な彼女のことだ、すぐに自分を取り戻してくれるはず。 こんな風に考えていることをティファに伝えたら、感激屋の彼女のことだ、きっとそれだけで喜んでくれるだろう。 そんなことを考えていると気持ちが明るくなってきた。 そう、何はともあれ話をすることだ。 確かにここ最近、帰宅時間が遅くてまともに話しをする時間がなかった。 ここ2・3日は早く片付けることが出来たけれど、昨日のような騒ぎがあったせいで、やはりまともに話が出来ていない…。 ティファ…早く帰ってこないかな。 薄っすらと口元に笑みを浮かべながら洗濯物を洗濯機に放り込み、自分はシャワーの下に立つ。 熱いお湯で汗を流し、髪の毛が生乾きの状態で階下へ降りると、カウンターの中でぼんやり突っ立っているティファがいた。 思わず心臓が強く跳ね、変な声が上がりそうになる。 「ティファ…!」 しかし、クラウドの声にもティファは応えない。 カウンター内のシンクに片手を添えるようにして突っ立っている。 いつになく様子のおかしいティファにクラウドはたちまち表情を険しくした。 「なにかあったのか?」 大股で近寄りティファの両肩に手を置いて自身に向き直らせ、俯き加減の彼女の顔を覗き込む。 「……クラウド…」 「どうした!?」 小さい小さい声で囁くように呟いたティファに焦燥感が募る。 こんなにも覇気のない彼女は初めてだった。 エアリスを失ったときですら、嘆き悲しみながらも同じように悲しむ仲間を励ましてさえいたというのに。 ここでクラウドに1つのイヤな考えが浮かんだ。 先ほど、2度と来るなと釘を刺した女が性懲りもなく今度はティファに直接的なイヤがらせをしたのかと思ったのだ。 ハッとして、ティファの肩を掴んでいた手に力を込める。 「もしかして…あの女が来たのか!?」 ピクリ。 クラウドの手の下でティファの肩が小さく揺れた。 疑惑が確信に変わる。 自分がのんきにシャワーを浴びている間にここに来たのか、それともティファが外出先から帰るまでの間に待ち伏せしていたのか。 いずれにしても、例の女がティファを傷つけたのだ、とクラウドは思った。 思わずカッ!となり、ティファに背を向けて外に飛び出そうと踵を返しかける。 ティファを傷つける奴は例え女でも容赦しない! その思い1つだった。 だが、すぐに冷静さを取り戻し、背を向けかけたティファに向き直った。 全ては鈍感だった自分の責任だ、と思ったのだ。 ティファが元気を失ってしまったのは例の女が店に来た頃からだ、とマリンとデンゼルから聞いている。 なら、ここ最近のティファへの負担を謝罪する方こそが先決だと判断した。 例の女に再度、今度はきつく釘を刺すのはそれからで十分のはずだ。 だから…。 「ティファ…本当にすまなかった」 真摯に、心の底から、他に何の他意もなく、ただティファへの謝罪を舌にのせた。 どんな言葉でも良いから聞かせて欲しかった。 力いっぱい、罵倒して、詰って、そして泣いてくれたら、少しは気持ちもスッキリするのでは…? そう…淡い期待を抱いて彼女の反応を待つ。 「な……で…?」 「ん?」 「なんで……?…ク…ウド…」 「ティファ?ごめん、もう一度、よく聞こえな「なんで!!」 心を引き裂かれるような悲痛な叫び声と同時に、腹に灼熱の衝撃が走る。 思わず小さくうめいて息を止め、ゆっくりゆっくり後ずさったクラウドの目に涙を一杯ためたティファの瞳と、彼女の手に握られた包丁が赤く濡れているのが映った。 その瞬間、腹の衝撃が激痛へと変わる。 信じられない気持ちでティファを見つめると、ティファはボロボロ大粒の涙をこぼしながらゆっくり首を振りつつブツブツと何事かを呟いた。 そして。 「…クラウド…、やっぱり……ダメだ……私…!」 その瞬間、クラウドの全てが氷結した。 「ティファ!!」 喉が破れそうなほどに彼女の名を呼び、腹を押さえていた手を伸ばす。 自身の血に濡れた指先が、逆手に持ち直した包丁に触れた。 * クラウドを殺して自分も死ねば、星に還った後も傍にいられる。 そうしたら今度はずっと、誰にも邪魔されないで一緒にいられるようになる。 クラウドの傍にいて、彼を自分だけのものにするにはそれしかない。 彼1人を星に返してしまえば、きっとエアリスが寄りそうだろう。 そうなっては、寿命が終わってから彼の許へ逝ったとしても、手遅れ過ぎる。 彼を遺して自分が先に逝けば、その間、命の世界にとどまったクラウドは、あの例の女と一緒に歩むだろう。 どちらもイヤだ。 全部。 クラウドの全部は私のものだ。 彼の優しさ、甘い声音、温かい腕、微笑み。 彼の弱さ、悲しげな瞳、孤独な背中、凛と前を見据えて立つ姿。 その全部を愛してる。 誰にも譲れない。 そう強く思う反面、本当にそれで良いのか?としつこく理性が囁きかける。 本当にそれで良いの? クラウドを愛してるなら…。 彼のことを本当に想っているなら、もっと頑張って生きて、うんとうんと、努力する道を選ぶべきじゃない? フェンリルのエンジン音が聞こえたとき、ティファは咄嗟にカウンターの陰に隠れた。 そのままクラウドの呼び声にすすり泣きそうになるのを必死に押さえ、そうして1人、内なる戦いを繰り広げていた。 本能と理性。 激しく鬩ぎ合う己が本心。 激しい葛藤は、微かに理性がより大きくティファを支えようとしていた。 それを後押しするようにクラウドは戻ってきた。 それなのに、クラウドが次の瞬間、口にした『あの女』という言葉により、本能が怒涛のように溢れかえった。 そして、とどめの一言。 「ティファ…本当にすまなかった」 それは…一体なにを指して謝っているの!? クラウドは…やっぱり、あの女性(ひと)のことを…? 私に言えないことを…!? なんで!!! 理性はあっという間に本能によってかき消された。 初めて刃で人の肉を刺す感触がティファの手を伝って全身を震わせたのはその直後。 呆然と自分を見下ろすクラウドに、ティファは自分が何をしたのか理解した。 そして、その行為を完璧なものにするために握り締める包丁の柄を更にしっかり握りなおして顔を上げて…。 強く、激しく後悔した。 あぁ、見なければ良かった。 クラウドを見ないで、もう一度、今度こそ目的を達成することだけに集中すれば良かった。 これしかクラウドを自分だけのものにする方法はないのに! あぁ、それなのにそんな顔見てしまったらこれ以上動けない! なんでそんな、私を案じてくれる優しい顔をしているの…!? 血に染まる腹部を抑えながら、驚きつつ、それでもどこまでも優しい紺碧の双眸に、過去がフラッシュバックする。 あの旅の最中、いつも目の前にはクラウドがいてくれた。 己が身に受けた傷を厭わず、ただ、ティファを案じて振り返ってくれたあの姿を。 『ティファ、大丈夫か!?』 そう言ってティファへ向けられた心配そうな瞳を。 少しだけ躊躇いがちに伸ばされた手を。 そして、またもう一つ、大切な思い出が蘇る。 心配そうに顔を曇らせたクラウドと同じくらい心配して、『ティファ、大丈夫!?』そう言って駆け寄ってくれた茶色の髪を持つ大切な親友の姿を…! ティファの中からクラウドへの狂気が消える。 それに変わって競り上がり、急激に膨らんだのは…。 彼への罪の意識。 こんな私でごめんなさい。 真っ直ぐに愛せなくてごめんなさい。 アナタを傷つけてごめんなさい。 アナタを傷つけるつもりはなかった。 ただ、傍にいたかった。 誰よりも近く、誰よりも大きく、誰よりも何よりもアナタにとって深い存在になりたかった。 でも。 アナタを傷つけた私にはその資格はない。今、その資格を失ってしまった。 信頼し、心を許してくれたアナタを私は今、取り返しのつかない方法で裏切った。 私の想いはクラウドを傷つけるだけでしかない! あぁ、エアリス! 私はアナタになりたかった。 彼の傍にいることがとても自然で、誰よりも何よりも近しい存在であったアナタになりたかった。 でも、私はなれなかった。 私には無理だった。 アナタになれる女性は…。 アナタに似たあの女性(ひと)。 その瞬間、ティファは手にしていた包丁を半回転させ、逆手に握り直すと自身の首へ突き刺した。 このまま生きて…、あの女性(ひと)とクラウドが共に歩む姿を見るなんて耐えられない!その一心だった。 例え、クラウドのいない土地へ移ったとしても、頭上に広がる空は彼に繋がっている。 それだけでももう、耐えられない! クラウドのいない日々には二度と耐えられない! その狂気に突き動かされて刃の切っ先を首筋に突き立てた。 「やめろ、ティファ!」 突き立てようとした瞬間、クラウドが飛びかかってきた。 そのまま床に2人して倒れ込み、包丁をめぐって激しく揉み合う。 クラウドはティファを救うため…。 ティファはクラウドへの強すぎる想いから彼を守るべく自害しようと…。 互いが互いを想い、狭い空間で争う。 喉の真ん中を狙ったひと突きは飛びかかられたことで狙いは逸れたが、勢いを完全に殺すことは出来なかった。 刃はティファの首側面を切り裂き、白い首筋に鮮血の太い流れを作り出している。 『止血を…!』 腹の激痛を無視し、ただ彼女の傷のみに心奪われ、クラウドはティファの華奢な身体を抑えつけようとした。 しかし、必死に抗うティファを相手に負傷した身で抑え込むのは至難の業だった。 「ティファ…!頼む、大人しく…!!」 額に脂汗が浮かび、目に入る。 片目を瞑り、腹の痛みに耐えながら必死に訴えるがティファの抵抗はやまない。 お願いだから死なせて!と、懇願して身を捩り、クラウドの手から逃れようとする彼女に、バカなことを言うな!と、怒鳴りつけるだけで精一杯だ。 どれほど経ったか…。 どちらのものか分からない溢れ出る血で手元が滑り、包丁が床を滑って二人から遠く離れる。 ティファにも、そしてクラウドにもそれを追う力がなかった。 重なるようにして狭いカウンターの床に倒れこんだまま、クラウドは自身の腹の傷をそのままに、ティファの首筋へと手を伸ばした。 「…っあ……はぁ、……ティファ、大丈夫か?すぐ…誰かを…」 首の出血を手で止めながら、空いている方の手で尻ポケットを探る。 出血のし過ぎで震える指先を必死に動かし、ボタンを押すクラウドをティファは荒い息を繰り返しながら見つめていた。 その目からはとめどなく涙が溢れて流れる。 「…んで…?」 震える指先のせいで携帯が上手く操作出来ず、焦燥感とティファを失うかもしれない恐怖で苛立ち舌打ちをしたクラウドの耳にティファの震えた声が聞こえた。 視線を向けるクラウドにティファはもう一度「なんで…?クラウド…」と呟いた。 クラウドはその瞬間、焦りも、不安も、ティファを失うかもしれない恐怖も全部が吹き飛んだ。 代わりに沸きあがったのは…ティファへの愛しさ。 「愛してるから」 ティファの泣き濡れた瞳が見開かれる。 クラウドはもう一度口を開いた。 「愛してるんだ…ティファ。他の誰でもなく…ティファを愛してる」 ティファの頑なな心に確かに届くように。 そして、淡く、儚いものにならないよう、今まで伝えたくて、でも照れ屋な性分のせいで出来なかった真心からの愛を彼女に告げた。 そう、もっと早く言えば良かった。 そしてもっと早く、聞けば良かった。 「ティファは…俺を…」 「愛してるよ……クラウド…!」 涙で震える声を張り上げ、ティファはクラウドに両腕を伸ばした。 クラウドもしっかりティファを抱きしめる。 嗚咽を漏らして泣きじゃくるティファに何度も愛を囁き、そして口付けを交わす。 涙のせいか、それとも出血のためか、あるいはその両方か。 クラウドの視界が急速に歪み、そうして真っ暗な闇に吸い込まれていった…。 * 「ただいま」 ドアを開けると、マリンがパッと顔を輝かせて駆け寄った。 おかえりなさい、と出迎えるマリンの頭をひと撫でし、デンゼルは?と問う。 マリンが留守番をしているので買い物に行っている、と少女は応えた。 それに1つ頷いてクラウドはそっと家の奥へ進む。 開いた窓の傍に座り、大好きな花を見つめてまどろむような表情を浮かべていた彼女の姿に、クラウドは微笑んだ。 「ただいま、ティファ」 ゆっくりティファが顔を向ける。 その整った顔(かんばせ)に、花が開くような笑みが浮かんだ。 しかし、彼女は声を発することなく、ただ嬉しそうに無邪気に笑うのみ。 それでもクラウドは至福に酔うように目を細め、極上の甘い笑みを浮かべながらティファの許へ足を進めると、屈み込んでティファへ口付けた。 あの日。 ティファの様子を気にしたバレットが同じく子供たちから様子を聞いて心配していたユフィと共にシドの飛空挺でセブンスヘブンを訪れた。 そして、3人はカウンターの中で折り重なるようにして倒れている血まみれの2人を見つけたのだ。 そうして、クラウドは一命を取り留めた。 元の生活に戻ることも出来た。 しかし、ティファはそうではなかった…。 出血のせいか、それとも心因性のものなのか、1ヶ月もの間目を覚まさなかったティファが目覚めたとき、彼女は人形のようになっていた。 話しかけるとこちらを見るのにしゃべらない。 歩くことも、食べることも意思を持ってすることが出来なくなっていた。 デンゼル、マリン、そして仲間が相手なら薄っすら微笑みもするが、それ以外の人間が声をかけると酷く怯え、時にはパニックを起こすようになった。 パニックを起こしたときだけ、ティファは本来の力を取り戻したかのようにその足で立つことが出来た。 そんなティファだったが、クラウドにだけは違った。 まるで唯一絶対の存在であるかのように、他の人間がいたとしてもクラウド以外には笑顔を見せなかった。 クラウドがいれば、仲間や子供たち以外の人が話しかけてもパニックを起こさなかった。 「ティファは連れて帰る」 まだ、検査をした方が良い、という医療側の意見を退け、クラウドは容態の安定したころにティファを連れ帰った。 同時に、シド夫婦がセブンスヘブンへ越してきた。 エッジの方がWROの飛空挺関連の仕事をしやすいということで家を探していたのだ。 1人では何も出来なくなったティファの面倒を見るには子供たちだけでは負担が大き過ぎるし、食べていくためにクラウドは働かなくてはならない。 シド夫婦とクラウドの利害が一致したこともあり、今ではシド夫婦も子供たちやクラウドにとって大切な家族になっている。 しかし、ティファにはまだ、シエラは『家族』でも『仲間』でもないらしい。 クラウドが傍にいないとシエラはティファの前に姿を現すことが出来なかった。 しかしそれも、あと少しで慣れてくれる、とクラウドは感じている。 「ティファ、今度ミッドガルの教会に行こう。そこで2人だけで式を挙げよう。本当なら神父を呼んでちゃんとした方が良いのかもしれないけど、ティファの声は他の人には聞こえないからな。夫婦の誓いが出来ないって思われるだろ?」 ティファを膝の上に乗せてソファに腰掛け、黒絹の髪を撫で梳きながら囁くと、ティファは嬉しそうにクラウドの胸元に頬を摺り寄せた。 「シエラさんにお願いしてドレスを準備するよ。あぁ、マリンも混ぜてやろうな、女の子だから喜ぶだろう」 想像してクラウドは笑みを深くした。 ユフィも呼んだ方が良いと思うか?とティファに訊ねると、ティファはクスクスと忍び笑った。 「そうだな、ユフィも一応呼んでやるか。ティファは優しいな」 そう言って、クラウドは緩やかな気持ちで満たされながらその日へ思いを馳せた。 「ティファ。『死が二人を分かつまで』ではなく、『死が二人を分かとうとしても』永遠に変わらぬ愛を誓うと約束する」 そう、2人はもう2度と離れない。 ずっと傍にいる。 それが2人の幸せなのだから。 死が2人を飲み込んだとしても、その誓いが消えることはない。 永久(とわ)に…。 あとがき 444,444番キリリク小説です。 リクエスト内容は、『次第に病んでいくティファの狂愛的なクラティでガチのDark。クラウドだけは手放せないティファの歪んだ愛し方に徐々に…、でも確実に侵食されていくクラウドを…。視点を変えたら、ある意味ハッピーエンドで』とのことでした。 ………えぇ…と、アルト様。 散々お待たせした結果がこんなんで…本当にごめんなさーい!! いや、頑張ったんです、頑張ったんでんですよ! かなり必死に頑張った結果が…これってどうよ…(遠い目) 勿論、というか当然のように返品可です〜! リクエスト、本当にありがとうございました〜!! |