渇望   

「クラウド、大丈夫?痛い?」

ティファがクラウドの手当てをする横で、マリンが眉根を寄せてクラウドを見上げた。

「かすり傷だ。心配ない」

クラウドはマリンに笑ってみせる。

「クラウドが怪我するなんて…」

デンゼルが腑に落ちない顔でクラウドの手をじっと見つめて呟いた。

「ああ、油断したな」

「違うでしょ。わざとなんだから」

包帯を巻来ながら、険を含んだ声でティファが言った。

「わざと!?」

デンゼルとマリンが同時に声を上げた。

「そうよ。何か罪を犯さないとWROだって男を連行できないんだもの。言い訳できないような証拠が必要でしょ」

「そうか!さすがクラウド!かっこい…い…」

明らかに怒っているティファの憮然とした表情に気付いて、デンゼルは語尾をしぼませた。

「はい、終わり!」

包帯をテープで止めて、ティファは勢い良く救急箱の蓋を閉めた。

「…ティファ、なに怒って…」

「しっ!いいから」

ひそひそと耳打ちしたデンゼルを眉をひそめたマリンが引っ張って、そそくさと子供部屋へと引き上げていった。

「…なあ、これ…」

クラウドは、何重にも巻かれた大袈裟な包帯の手を、目の高さまで上げて苦笑した。

まるで骨折してギブスをつけているかと見紛うほどの厚みがある。

「これじゃバイクのハンドルを握れない」

「いいじゃない。どうせしばらく休むつもりだったんでしょ!」

「………」

クラウドは、そっと溜息を漏らして、隣に座るティファの膨れっ面を覗き込んだ。

対するティファの方は遠慮せず大きな溜息をついた。

「子供たちにはああ言ったけど…別に、そこまですること無かったじゃない。ナイフを振り回した時点で十分拘束の理由になるわ。なのにどうして…」

「………」

クラウドは不恰好に膨れ上がった自分の包帯に視線を落として、口元に自嘲気味な笑みを浮かべた。

「…あいつに図星を突かれて…少しカッとなった…かな」

「図星…?」

「心の奥の…不安とか…自信の無さとか」

「そんなの…!」

「お前じゃ幸せに出来ない、なんて言われるとさ、そうかもしれないと思ったり、でも何だか腹が立ったり…複雑だな」

「クラウド…」

俯いたクラウドの横顔を見つめて、ティファは もう…と小さく漏らした。

いきなりクラウドの頬を両手で挟むと、力任せに捻って自分の方に向けた。

「痛っ…ティファ、何す……っ」

クラウドの抗議の声はティファの唇に遮られた。

「………」

面食らったクラウドが目を瞬く間にすぐそれは離れてしまった。

意志の強さが溢れるようなティファの瞳と間近で見つめ合った。

「ねえ、クラウドの考える私の幸せっていったい何?私が幸せか不幸かなんて、誰が決めるの?」

「………」

咄嗟に返す言葉が浮かばないクラウドは、黙ってティファを見つめる。

「それを決めるのは私自身だわ。私の幸せはね、クラウド。あなたとこうして向かい合っていることよ。

あなたの瞳の中に、微笑んでいる自分を見つける時。私の瞳に、微笑んでいるあなたを映す時。単純な事でしょう?」

「…ティファ」

首を傾げて見上げるティファの澄んだ瞳の中に、照れたように微笑む自分を クラウドも見つけた。

「そうだな…単純…だな」

ただ微笑み合う事がティファの幸せなら、いくらでも、いつまででも叶えてやれる、とクラウドは思う。

腕の中に納まったティファの髪を撫でながら、それが自分の幸せでもある事を噛み締めた。 

穏やかな静けさを取り戻した店の中に、いつもと変わらない外の喧騒が響いてくる。

そんな中でじっと身を寄せあって気持ちが落ち着いてくると、ついさっきまでの出来事がまるで嘘の様だった。

家族を脅かした人物は、子供の頃に母親に捨てられ、心に深い傷を負った人。

鬱積する怒りと悲しみに耐え切れずに 自分を見失ってしまった哀れな青年。

無事に、しかも昨日の今日で事件が解決したとは言え、なんとも言えない後味の悪さが二人の心に残った。

「あの人…悲しい人だった…ね」

ティファの小さな呟きにクラウドも頷きながら思う。

彼女は何処までも人に優しく寛大だ。何もかもをその手で包み込んで癒してしまう慈母のように。

そんな彼女だからあの男も焦がれ続ける母を見たのだろう。

「でも…ティファが気に病むことはない。あいつもいつかは幻想から覚めて…現実を生きていくだろう」

「うん…そうだったら…いいね」

 

ティファはクラウドの腕の中で目を閉じて密かに祈る。

願わくは この先 彼にも人並みの幸せが訪れるようにと。

 

多くの犠牲の上に今の幸せを築いた自分のその願いは ただの偽善的な感傷なのかもしれない。

けれど それでも人は

幸せを求めずに生きては行けないのだから。

 

 

 

 

FIN

 


素敵サイト、TRIP×TRIP様の71117hitリクエストです。

リク内容は 「デンマリがクラティの子供として養われている事に嫉妬するクラティのストーカーたち」 という、とんでもないものでした(汗)

にも関わらず、こんなに素敵なお話を書いて下さって…!!

しかも四話ですよ〜o(≧∇≦o)(o≧∇≦)o 本当に、大感謝です。

題名の「渇望」は、青年の「母親」に対するものと、人が生きている限り求めて止まない「幸せ」の二つを意味されているとのことで、流石、奥が深いです!

本当にありがとうございました〜vvv

素晴らしいクリスマスプレゼントですo(*^▽^*)o

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