チャレンジ(後編)




「というわけなんだけど……どうしよう…」
「……どうしようか……」
 セブンスヘブンが閉店してまもなく帰宅したクラウドに、ティファは早速今日の出来事を相談していた。

「まさか……もう話が出回ってるとはなぁ」
「うん…モデルのお二人もびっくりしてたわ…」
「…………」
「…………」

 そのまま二人は遅い夕食を囲んで深い溜め息を吐いた。

 正直…、クラウドもティファと同じくこのまま騒がれる事無く今の生活を続けたいと思っている。
 しかし、エッジの人達が『セブンスヘブン』を憩いの場として雑誌のアンケートに推してくれたのだとしたら、それはそれで大変嬉しい事だし、名誉な事だとも思う。
 だが…。
 雑誌の取材に応じると言う事は、確実にその後、余波が生じるだろう…。
 自分達『ジェノバ戦役の英雄』という肩書きだけで物珍しく来店する輩…。

 セブンスヘブンをエッジに開いた直後もそういった輩が押し寄せてきた事があった。
 その時は、まだクラウドはデリバリーサービスをしていなかった事もあり、ティファとマリンの二人だけでその嵐に耐えさせるような目にはあわせずに済んだのだが、今は自分にも仕事がある。
 それも、一ヶ月先まで予定が入っているのだ。
 勿論、丸々一ヶ月みっちり入っているわけではなく、何日かは休みと言う名目で空いてる日もあるが、とてもじゃないがそれだけの日数じゃあ子供達とティファの盾になってやることは難しいだろう…。

 しかし、だからと言って…。
「折角推薦してくれた人達に悪いしなぁ…」
「そうなのよね…」

 セブンスヘブンを憩いの場として推してくれたありが立ち人達の事を思うと、無碍に断るのもいかがなものだろうか…。
 結局、二人は昨夜と同じ問題で悩んでしまうのだった。
 しかも、今夜は昨夜と違ってより現実味を帯びてきているだけに、その深刻振りは昨夜の比ではない。

「…ねぇ、クラウド…」
「ん?」
「私達がこうしてセブンスヘブンを開いたのは、確かに日々の糧を得る為の手段として…なんだけど、それ以上に世界復興に向けてどうして良いのか分からない人達の道しるべ…って言ったら大袈裟だし偉そうなんだけど、そんな気持ちで店を持ったよね…?」
「ああ…そうだったな」
「その気持ちは……今でも変わらない…よね?」
「ああ……むしろ、俺は時々しか店を手伝えないけど、店を手伝っている時はお客さん達から元気を貰ってる気がするよ」
「そう!?本当に!?」
「ああ、本当に」

 クラウドの言葉に、ティファは嬉しそうに顔を輝かせた。
「私もね、そうなんだ…。何か、セブンスヘブンって、新しく来たお客さんも帰る頃には常連さんと仲良くなって、笑顔で帰ってくれる人達が多いの。それに、私自身、お客さん達から毎日元気を貰ってる…だから毎日こうして頑張れるんだって感じてるの。だから……」

 言葉を切ったティファに、クラウドは微笑を浮かべると、そっと目の前に座る愛しい人の髪に手を伸ばした。
 指で漆黒の髪を梳きながら、「ティファがそう言うなら、俺はいいよ」と優しい一言を口にした。
「本当に…?」
「ああ…。なるべく俺も仕事から早く帰れるように調節して、ティファと子供達だけがしんどい目に合わないようにする」
「ん……ありがとう…」

 まだ『セブンスヘブン』を知らない人達にとって、新たな憩いの場になるのなら…。
『セブンスヘブン』に集まってくれる素敵な人達と出会う事で、その人達の生きる力になるのなら…。

 そう思ったティファは、近々来るかもしれない取材に応じる決心をしたのだった。



 その日は、クラウドとティファの予想を裏切ってはるかに早かった…。

 まだ開店準備すら始めていない昼食時の事。
 子供達と三人で食事を終え、今まさに片づけを…という時、控えめに店のドアがノックされた。
 まだ遊びに行っていなかったデンゼルが「は〜い、どちら様ですか?」と、ドアを開けずに応じる。

「突然すいません。実は、今度新しく創刊される雑誌のプロデューサーをしている者なんですが…」

 ドア越しの男の言葉に、デンゼルは「は?」と首を傾げ、マリンが不思議そうな顔をしてティファを見上げ、ティファは……。

 思い切り目を見開いて固まっていた。




「それで、うちのモデルのロキとアディーテから少し話を聞いたかと思うんですが……」
 珈琲を煎れて目の前にそっと置くと、恐縮しきりに頭を下げるその男性に向かい合うようにしてティファは腰を掛けた。
 年齢は四十代前半だろうか…?
 少々白い者が混ざった茶色の髪を伸ばして一本に束ね、丸いサングラスをかけた何とも憎めない風貌の細い面立ちをしたその男性は、胸ポケットから名刺を取り出した。
 そこには『ティーンエッジ:総企画担当:ハイト・ワーン』とあった。

「総企画担当って……凄いじゃないですか!」
 目を丸くするティファに、ハイトはニッコリと笑いながら「いやいや、私はまだまだですよ」と頭を掻いて見せた。
 その仕草は、何と言うか……そんなに凄い人物とは思えない素朴さを感じさせた。

 デンゼルとマリンは、遊びに行く予定を返上し、興味津々な面持ちでティファの左右の隣を陣取っている。

 ハイトはそんな子供達に笑顔を向けると、最後にティファへ視線を戻した。
「それで、あの二人から話を聞かれたと思いますが、セブンスヘブンが今回我々のアンケート集計で何と一位を獲得されまして」
「「「一位!?」」」
 ハイトの言葉にティファのみならず、子供達までもが目を丸くした。
「すっげ〜!一位だって!!」
「ティファ、やったね!それだけ皆、セブンスヘブンの事が大好きなんだよ!!」
 無邪気に喜ぶ子供達に囲まれ、ティファはやや呆然としていた。

 まさか…まさか!!
 上位にランキングされるかもしれないとは思っていたが、それでも一位を獲得するとは思いもしなかったのだ。

 呆けているティファに、ハイトが「あの〜、もしもし、大丈夫ですか?」ティファの顔の前で手を振って見せる。
「あ、す、すすす、すみません…」
「いえいえ、驚かれるのも無理ありませんから。エッジには沢山のお店がありますからね。その中で一位を獲得するだなんて、びっくりされたでしょう」
「……はぁ……って言うか、それ…本当ですか…?」
 すっかり脱力してふやけたような声を出すティファに、「はい、勿論です!」とハイトが重々しく頷いてみせる。

 子供達は呆けたティファに、嬉しそうな笑顔からたちまち眉根を寄せて困惑した表情になった。
「ティファ…嬉しくないの?」
「セブンスヘブンが皆に認められたんだぜ?」
 心配そうに声をかける子供達に、ティファは困ったような顔をして苦笑を浮かべた。
「そりゃ、勿論嬉しいわ。でも…まさか一位になるとは思ってなかったし…」
「でもさ、これでお店に来るかもしれない野次馬野郎達が来るのは確実だな」
 デンゼルがしかめっ面で口を開いた。
「ああ…確かにそうなるでしょうね…」
 それまで子供達とのやり取りを傍観していたハイトが口を挟む。
「ジェノバ戦役の英雄は、今でも絶大な人気がありますからね。もう少し世界が安定して人々の生活が豊かになったら、『ジェノバ戦役の英雄』を題材にした映画化何かが出来る可能性もありますし」
「「「え!?」」」
 ハイトの言葉に、子供達は純粋に驚きから、そしてティファは心の底からゾッとして声を上げた。
 そんな三人に、「あくまで世界が安定してから…の話で、それもあるかもしれないっていう可能性のはなしですから…」と、苦笑した。

「それで、いきなり来ておいて本当に申し訳ないのですが、取材の許可を頂きたいのです。ご協力願えますか?」
 ハイトの正式な取材以来に、ティファは少々躊躇いながらも結局は承諾した。
 昨夜、クラウドとも話し合った結果、取材依頼が来たら受けると決めたのだから…。

 ハイトは実に嬉しそうな顔をし、深々と頭を下げた。
「では、本当に早速なんですが今夜、お店を営業しておられる時に撮らせて頂いてもかまわないでしょうか?」
「え!営業中にですか!?」
 これには子供達もびっくりした。
 お客さん達のいない頃合を見計らって撮影に来ると思っていたからだ。
「ええ。お客さんがセブンスヘブンで楽しそうにしている姿と、そのお客さん達との触れ合う姿を載せたいんです」
「えっと…でも……」
 躊躇うティファに、ハイトは「大丈夫です。十分程で終わりますから。それに、機材は簡単な照明ライトが一つとカメラ一台だけなので」と、安心させるように説明した。

 確かに、『憩いの場』という名目で雑誌を刊行するのなら、実際にお店に来てくつろいでいるお客さん達を撮るのが一番良いだろう…。

 ティファは躊躇しながら、それも承諾した。

「では、開店直後くらいに来ますね。その方がお仕事への影響も少ないでしょうし、酔っ払った性質の悪いお客さん達もいないでしょうし」
「そうですね。では、それでお願いします」

 ハイトの気配りに、ティファは漸くほんの少しだけ笑顔を見せて、彼を見送った。



 そうして。
 その日の晩、開店してから三十分した頃に、ハイトはやって来た。
 ハイトが連れて来たのは、カメラマンと照明係……のはずだったのに…。
「あれ!?」
「ロキお兄ちゃんとアディーテお姉ちゃん!?」
 店のドアから現れた三人に、子供達とティファは本日何度目かの驚きの声を上げた。
「どうして…?」
 困惑するティファに、ハイトがニコニコと笑顔でカウンターへやって来た。
「いえね。二人からティファさんが照れ屋さんだと聞いたものですから、見知らぬ人間をアシスタントで連れてくるよりは、少しでも馴染みのある人間をアシスタントとして連れて来た方が良いと思ったんですよ。大丈夫、写真を撮るのは僕ですから」
 ティファは、ハイトの後ろで苦笑している二人に視線を移し、同じ様に苦笑を浮かべた。
 確かに照れ屋だが、カメラを向けられたらそれがいくら顔馴染みだったとしても緊張してしまうのには変わりないのではないだろうか…。
 しかし…。
 まぁ、確かに顔馴染みの二人の方がうんと気が楽だし、会えて嬉しいのは事実だ。
「すいません、そこまで気を遣って頂いて…」
 苦笑するティファに、ハイトは相変わらずの人懐っこい笑顔で手を横に振った。
「いえいえ、実は二人と一緒に評判のセブンスヘブンで夕飯を食べたかったって言うのが本音なんですよね」
 そのおどけた口調に、ティファは吹き出した。

 ティファの緊張がすっかりほぐれたのを見届けたハイトは、早速照明を慣れた手つきで組み立て始めた。
 ロキもそれを手伝い、アディーテは店の客達に簡単に説明をして承諾を貰って回っている。
 あらかじめ、最初の客にはティファの方から説明をしていたので客達からは快い返事を得ることが出来た。

「それじゃ、いつも通りに仕事をしてて下さい。適当に見計らってシャッターを切りますから」
 ハイトが何でもない様な口調で軽く言った。
 その言葉に子供達は実に自然にいつも通りの動きをしていたが、ティファはそうではなかった。
 どうにもハイトから注がれる視線が気になってしょうがない。
 動きもどこかぎこちないと自分で感じてしまう。
 ふと気付くと、テーブルに座って苦笑を浮かべ、自分を見ているモデルの二人に気がついた。
 その二人に照れたように微笑んで返すと、丁度マリンがお客さんから注文を受けてカウンターへやって来た。
「ティファ、『スタミナ定食』と『お袋の味定食』と生ビール中ジョッキ二つ!」
「あ、は〜い」
 マリンのいつもと変わらないやり取りに、ティファが自然にそれに応え、注文の品に取り掛かる。
 手際良く材料を切りそろえ、ダシを取った鍋に硬い野菜から煮付けていき、その間にビールをサーバーからグラスに注ぐ。
 そして、飲み物を待っていたマリンにそれを渡してニッコリと微笑む。
 その流れるような動きは、いつものティファのもの。
 その瞬間をハイトが見逃すはずもなく…。

「は〜い、『スタミナ定食』と『お袋の味定食』よろしくね」
「は〜い!」
 ティファの声に、マリンがパタパタと駆け寄って大きなお盆に載った料理をそのテーブルに運んで行った。
 その時、漸くティファはマリンに向けてハイトがシャッターを切っている音に気がついた。
 ハイトを見ると、彼は実に満足そうな顔をしてカメラを下ろし、ティファを見て頭を下げた。
「本当にありがとうございました。お陰でとても良い写真が撮れましたよ」
「え……?一枚だけで良いんですか?」
「え?」
「え?」

 ティファの言葉に、ハイトは首を傾げ、そんな彼にティファが首を傾げる。
 その二人のやり取りに、馴染み客達が一斉に笑い声を上げた。
「ティファちゃん、自分が何枚も撮られてる事に全く気付かなかったのかい?」
「やっぱり、仕事をしてる時って集中してるからかねぇ…」

 客達の言葉で、ティファは自分が気付かない間にいつの間にか写真を撮られていた事を知った。
 顔を真っ赤にして時計を見る。
 ハイトが写真を撮り始めてからもの十五分程だった。
「本当にこんな短い時間で撮影を終わってしまったんですか!?」
「ええ…。もう、撮りどころ満載でどれを雑誌に掲載するか迷いますねぇ」
 ホクホク顔で答えるハイトに、ティファは呆けたように目を丸くするだけだった。

 そんなティファの目の前で、ロキとアディーテがハイトを手伝って照明を片付け、店の隅に立てかけている。
 そして、改めて自分達のテーブルに着くと、丁度店の奥から店内の仕事へやって来たデンゼルに、注文を頼んだのだった。



 そこからは、モデルの二人とハイトは実に楽しそうに話しに花を咲かせ、時折近くのテーブルの常連さんと会話を交えながらティファの手料理に舌鼓を打った。

 やがて、ハイト達のテーブルから料理が無くなりだした頃、聞きなれたバイクのエンジン音が遠くから響いてきた。
 子供達が顔を輝かせてドアに飛びつく。
 常連客達は見慣れたその光景に温かな眼差しを送るのだが、初めて目にするハイト達は、不思議そうにティファを見た。
「あ、クラウドが帰って来たんです」
 ティファが答えたその時、店のドアベルが軽い音を立てて話題の人物がゆっくりとした足取りで入ってきた。

「「おかえり、クラウド!!」」
「ただいま、デンゼル、マリン」

 駆け寄った子供達を片腕ずつで抱き上げてそれぞれの額に軽くキスを贈るクラウドの姿に、ハイトがガタン!と椅子を鳴らして立ち上がった。
 ロキとアディーテ、そしてティファと周りの常連客達がびっくりしてハイトを見る。
 多くの視線を身に受けながら、ハイトはワナワナと震えていた。


「あああ!!!ま、まさか、こんなに素晴らしいシーンがあるだなんて!!!!」


 そう叫ぶと、呆気に取られているクラウドに駆け寄り、「是非もう一度、今のをやって下さい!!!」と、鬼気迫る勢いで懇願したのだった。




 その後、何とかティファから説明を聞いたクラウドは、自分にいきなり物凄い形相で駆け寄ってきた男が、変人でない事を知り、ホッと胸を撫で下ろしつつ苦笑した。
「悪いけど…カメラを向けられているって知ってたら絶対に出来ない」
「どうしてですか!?」
 諦めきれないハイトに、常連客達が笑いながら実に簡潔に一言説明した。
「旦那は照れ屋だからなぁ」
 否定できないクラウドは、苦笑を浮かべたまま「すまない」と頭を下げて居住区へと去って行った。
 その際、ティファにただいまのキスを軽く贈る。

 クラウドが階段へと消えて行き、子供達もティファも、それぞれの仕事に戻って行った。

 ハイトは実に残念そうだったが、その手にはしっかりとカメラが握られていた。
 その事に気付いていたのは…。
 モデルの二人だけたったりする。
 そして、後日…。



「こんにちは」
「あ!!こんにちは〜、どうしたんですか?」
 開店準備中のセブンスヘブンに、ロキとアディーテがやって来た。
 手には大きな茶封筒が握られている。
「実は例の雑誌が刷り終わったので、発売前にティファさんにお渡ししようと思いまして」
「うわ〜!」
「見たい見たい!!」
 はしゃぐ子供達にあっという間に囲まれた二人は、テーブルの一つにその茶封筒の中身を取り出した。
 その雑誌の表紙は、
『エッジの憩いの場特集!!ここならアナタも癒される!!』
 という言葉と…。

「「「あーーー!!!」」」

 何と表紙にはティファの姿。
 カウンターで料理をしているシーンなのだが、うっすらと微笑みながら仕事に打ち込んでいるその姿は、表紙を飾るに相応しい!
 仕事を心から楽しみ、誇りとしているその姿は、自分で見ていて恥ずかしいのだが、それと同時に胸が躍るような喜びをティファに与えた。

 ティファは、突然現れた自分の写真に、顔を真っ赤にさせ、子供達は大はしゃぎでページを捲った。

 最初は、目次とランキング。
 ランキングを見ると、確かに一位の欄には『セブンスヘブン』とある。
 二位は『おこしやす』とあり、最近出来たウータイの郷土料理のお店の名前。
 三位、四位と見ていった三人は、六位のところで目を丸くした。


『六位:ストライフデリバリーサービス』


「えええーーー!!」
「クラウド、写真撮らせてくれたの!?!?」
 素っ頓狂な声を上げる子供達と、あまりの衝撃で言葉をなくしたティファに、ロキが笑いながらページを捲った。
 そこには、一生懸命配達の仕事をしているクラウドの姿。
 丁度、受取証にサインを貰った直後の写真だろう。
 客の肩越しにクラウドが淡い笑みを浮かべているのがはっきりと写っている。

「ねぇ…もしかして…」
「これって……」

「そう、隠し撮り」
 アディーテが舌をペロッと出しながら子供達の疑問に答えた。

「うちの事務所の人にワザと配達してもらって、もう一人がこっそり家の中から撮ったのよ」
「だって、クラウドさんって照れ屋だろ?それに頼んでも承諾してくれなさそうだったから」
 肩を竦めるロキに、子供達はうんうん、と頷いて賛同する。
「もしもこの写真を載せるのに反対だったら連絡下さいますか?今日はその事を聞く為に持って来たんです」
「え……でも、断ったりしたら…」
「大丈夫ですよ。クラウドさんの写真だけ外せばいいだけですから。ただ、その下のエッジの街の皆さんの一言は載せさせて頂きますけど」

 クラウドの写真のしたには『街の人の声』と題して、アンケートに答えてくれた人達の一言が載っていた。

『ストライフデリバリーは、仕事が丁寧!』
『ちゃんと荷物を確実に届けてくれるから安心!』
『クラウドさんがちょっと無愛想だけど、それがまた誠実な感じがしてgood!!』
 等々書かれていた。

「良かったね、クラウドも皆に認められてて!」
 嬉しそうに自分を見上げてくるマリンに、ティファはニッコリと微笑んでその頭を撫でた。




 結局。
 帰宅したクラウドに例の雑誌を見せると、初めは驚いていたクラウドだったが、そのまま掲載する事を承諾した。
 そして、『エッジの憩いの場特集』は刊行されたのだ。

 クラウド達の予想通り、雑誌が書店に並ぶや否や、セブンスヘブンにかつてない程の客達が連日連夜集まることになった。
 そして、これは予想外だったのだが、ストライフデリバリーサービスへの注文が殺到した。
 野次馬が集まる事になったらセブンスヘブンの手伝いをする、と約束していたクラウドは、夜は必ず店にいるように仕事を調節した為、何と三ヶ月先まで配達の予約が一杯になってしまった。
 これには流石の英雄二人も開いた口が塞がらず、盛大な溜め息を吐いたのだった。


 それから数日後。
 今夜も忙しいセブンスヘブンに、お元気娘が突如、来襲してきた。
 手には例の雑誌。
 客達の対応に追われているクラウドとティファを捕まえ、ニシシと笑う。
「お二人さんが幸せそうで本当に良かったよ!」
「「?」」
 ユフィの言葉にわけの分からない二人は首を傾げ、次の瞬間音を立てて真っ赤になった。
 そこには、ユフィの手によって全開に開かれた雑誌のとあるページ。
 マリンが客達に笑顔で接客している姿と、デンゼルが客の一人に頭を撫でてもらっている心温まる写真。
 そして、その写真が載っているページの下には…。

 ただいまのキスを交わす二人の姿…。


 クラウドもティファも、恥ずかしくてセブンスヘブンの記事の載ったページは端から端まで見ていなかったのだ。
 初めて知った衝撃の事実に、ティファは店内をオロオロと見渡すと……。

 真っ赤な顔のまま居住区へ逃げてしまった。

 その姿に、店内の客達がドッと笑い声を上げる。
「俺達、それが見たくて来たのにさ〜」
「最近、クラウドさんが店を手伝ってるから見れなくて残念だったんだよね」
「でもまさか、今の今まで気づいてなかったとは知らなかったなぁ」


 冷やかしの嵐の中、一人取り残されたクラウドは、カチンコチンに固まったまま暫く動けなかったとか何とか…。



「クラウドもティファも、肝心なところで詰めが甘いよね」
「そうだよなぁ。でもさ、そんなに恥ずかしがる事ないのになぁ、もう一緒に暮らして長いのに」
「それが二人の良い所なんだけどねぇ」
「まぁなぁ…。でも、それでいちいち逃げてたらいつまで経っても仕事が出来ないじゃないか。料理が出来るのってティファだけだぞ?」
「そうだよねぇ…慣れてくれないかなぁ」


 照れ屋の両親を持つ子供達は、盛大な溜め息を吐いた。

 照れ屋だけど、一生懸命働くストライフファミリーの営むセブンスヘブン。
 この店が、雑誌のお陰で有名になり、更に多くの常連客を生み出す結果になったのは言うまでもなかった。



 そして後日、雑誌の売れ行きに貢献してくれたお礼と称して、ハイトがストライフファミリーにプレゼントを持って来たのは…、また別のお話し。


 あとがき

 何とか終わりました〜(汗)。
 もっと雑誌に載ってるティファ達の姿を描きたかったんですが、限界でした(苦笑)。

 きっと、セブンスヘブンはエッジには必要なお店だと思います!
 可愛い子供達の一生懸命働く姿と、そんな子供達を温かく見守るクラティ…。
 その光景は心癒されるものですよね!

 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!