チリンチリン…。
 耳障りの良いドアベルの音が、賑やかな店内でも良く響く。

「「「いらっしゃいませ!」」」

 その音と共に、それぞれの仕事に励んでいた三人は、笑顔と共に振り向いた。

 それは…いつもと同じ、セブンスヘブンの光景で…。



ベールの向こうの『何でも屋』(前編)




「「「あ!!」」」

 笑顔で振り向いた三人が驚愕の声を上げ、カチンと固まった。
 それに釣られて、店内の客もドアを振り向き、同じく「「「「あ!!」」」」と声を上げて固まる。
 その沢山の視線の先では…。

「やっほ〜!!みんな、元気そうじゃん!!」
「…………」

 ウータイのお元気娘と、何故か寡黙なガンマンの姿。
 彼がいつもよりもムッツリと黙り込む姿は、ここまでの経緯を雄弁に物語っていた。

「ユフィ…連絡くれたら良かったのに」

 苦笑しつつ、仲間の訪問に顔を綻ばせながら、ティファはカウンターでの作業を中断させた。
 子供達は接客業の途中であった為、二人の突然の来訪に興味津々ではあったが、グッと堪えて仕事に戻った。

 天晴れな商売魂である…(笑)。

「だってさ〜!この前も言ったけど、『来る』って連絡したらお店、休んじゃうじゃん?」
「そりゃ…ね」

 複雑な顔色になるティファに、ユフィは前回来た時の失敗を思い出したらしい。
 慌てて「今日は大丈夫!その為に、ストッパーを連れてきたから!!」と、やや後ろに立っている寡黙な美男子の腕を掴んで引き寄せた。
 バランスを崩しかけて踏ん張るその際にも、ポーカーフェイスを崩さない仲間に、ティファは心から同情した。
「ヴィンセント、いらっしゃい。お疲れ様ね…」
「……まったくだ…」
 心底疲れ切った声を出す仲間に、「どういう意味さ〜!」とギャーギャー喚くお元気娘をさらりと流すと、取り合えずティファは、カウンター席に案内した。
 丁度、二人分空いていたのだ。
 そのうちの一つの席には『チョコボのクリスタルガラス』が置かれており、『予約席』とプレートが挟んで合ったのだが、当然のようにそれを脇にどける。
『彼』以外座る事の許されない席に寡黙な美男子が腰をかけた事に、店内は息を呑んだ。


『『『『一体、あの男は誰だ!?』』』』


 ユフィの存在は、前回の酔っ払い事件をはじめ、時折姿を現しては強烈な印象を植え付けてくれるものだから、大半の客達がその存在を知っていた。
 しかし、ヴィンセントは営業中に来訪した事が無かった為、店内で彼を知る者は誰もいなかったのだ。
 当然、店内の客達はヴィンセントへの好奇心に胸を膨らませた。

 突き刺さるような好奇の視線に、ヴィンセントは気付いているのだろうが、それでも眉一つ動かす事無く平然とした面持ちでティファの出してくれた酒を口に運んでいる。
 その寡黙で落ち着いた雰囲気は、セブンスヘブンの女店長の伴侶とどこか重なるものがあった。

「それにしても、相変わらず大繁盛だねぇ!」
 感心したように店内をぐるりと見渡して、ユフィはコロッケを口に放り込んだ。
「うん。お陰さまで」
 ニッコリと笑いながらも、その手元は休まる事無く動き続けている。
 手元を見ていると、目が回りそうだ。
「ティファの料理する手さばきも相変わらずだねぇ…って言うか、むしろもっと凄くなった気がするよ」
 はぁ〜…っと感心したように息を吐き出すお元気娘に、いつの間にか後ろに来ていたデンゼルが、
「当たり前!こんだけお客さんが来てくれるんだぜ?腕が上がるのも当然だろ?」
 と、まるで誰かさんを真似たように肩を竦めて見せた。
「あ〜!すっごい生意気!無愛想で無口で世渡り下手で未だに自分の彼女に頭が上がらなくてオタオタしてる誰かさんそっくり!!」
 デンゼルのフワフワの髪に両手を突っ込んでガシガシと掻き回す。
「イタタタタ!!や、やめろよ〜!!」
 悲鳴を上げながらも、空いた皿が大量に積まれたお盆をひっくり返さない看板息子に、客達が感嘆の溜め息を漏らす。

「ユフィ…やめろ。その皿達が割れたら、弁償するのはお前だぞ…」
「い…!?」
 ヴィンセントの静かな声にユフィはギョッとすると、勢い良くデンゼルの頭から手を引いた。
 お元気娘を実に上手にあしらうヴィンセイントに、客達は再び感嘆の溜め息を漏らす。
 その顔はどれも『凄い奴だ!』と尊敬の念を抱いていた。

 そんな店内の様子を一部始終見ていたティファとマリンは、そっと視線を合わせるとクスリと笑みを漏らした。



「それで、今夜はどうしたの?」
「ん〜?ふぇつににゃんもにゃいよ(別に何も無いよ)」
 口いっぱいに料理を頬張りながら答えるユフィに、「はぁ〜…」と溜め息を吐いてガックリうな垂れる寡黙な仲間。
 それは、あの頃の旅を思い出させるには充分な姿だった。
「旅の頃も…そんなだったよね…」
「ふぇ?」
 思わず零れた言葉に、ユフィが目を丸くする。
 なんでもないよ、と言いながらも懐かしそうに微笑むティファに、ユフィは只ひたすら首を傾げ、ヴィンセントはうっすらと口許に笑みを浮かべた。
「ふ〜ん、ユフィって旅の頃からそんなに落ち着き無かったんだ…」
 ユフィの後ろを通り過ぎてカウンターへ空いた皿を下げに来たデンゼルが、再び余計な事を口にした。
 当然の制裁として、ユフィがデンゼルの頬っぺたを抓る。
 実に上手にバランスをとりながら、皿を落とさないように涙目になるデンゼルに、ティファが苦笑しつつ助け舟を出そうとした時、ドアベルが新たな来客を告げた。

「「いらっしゃいませ!」」

 ユフィに絡まれていないティファとマリンがドアを振り向き、「「あ!」」と声を上げた。
 そして、顔を綻ばせると「お久しぶりですね、お二人共」「うわ〜、お久しぶりです!お元気でしたか?」親しげに声をかけてドアへと向かった。
 ティファとマリンの様子に、ユフィは目の前のデンゼルから興味をそちらへ移した。
 そして、パッと目を輝かせて
「あーーー!!」
 大声を上げ、指を差す。
 隣に座っていたヴィンセントは僅かに身を反らせて眉を顰め、デンゼルと他の客は思い切り顔を顰めた。

「うるさいなぁ…って、あ!!」
 ブツブツ文句を言っていた看板息子は、新しい客の顔を見てお元気娘同様、パッと目を輝かせた。


「何でも屋の兄ちゃんと姉ちゃん!久しぶりー!!」
「はい、お久しぶりです!皆さんお元気そうですね」
「久しぶりだな」

 駆け寄るデンゼルと、既に自分達の元に歩み寄ってくれていたティファ、マリンに穏やかな眼差しを向け、名うての何でも屋、セトとマナが軽く頭を下げた。


 砂色の短髪に眼帯をした若い青年と、青年よりも頭一つ分背の低い可愛い女性。
 まだ二人共成人してはいないだろうに、その醸し出す雰囲気は穏やかでいて一分の隙も無い。
 ヴィンセントはカウンターのスツールに腰を掛けたまま、二人が只者でない事を瞬時に感じ取った。
 それと同時に、ティファとユフィが彼らに心を許している事からも、決して害をなす人間ではない事も察した。
 明るい笑顔を咲き誇らせる仲間達の姿に、ゆるゆるとグラスを口に運ぶのだった。


「それにしても、今夜は本当に突然のお客様が多いわね」
 嬉しそうにティファが何でも屋の二人をテーブル席に案内する。
 首を傾げる二人に、ニシシ…と笑いながら、ユフィが自分とカウンターに座っているヴィンセントを指差した。
「今日もいきなり来たんだ〜!」
 しかも、オマケつきだよん!!と、実に楽しそうに笑うお元気娘に、何でも屋の二人は曖昧な笑みを浮かべた。
 何を言っても、ウータイの忍の不興を買ってしまいそうな気がする…。

「それで、姉ちゃんと兄ちゃんは注文何する?」
 デンゼルがおしぼりと水をテーブルに置きながら訊ねる。
「えっと、この前の『温かセット』とっても美味しかったなぁ!」
「ああ…でも、この『スタミナセット』も気になるんだが…」
 メニューを覗き込んでうんうん悩んでいる二人に、「決まったら教えてくれる?」と言い残し、にわかに忙しくなった店内を見て、半分駆ける様に去って行った。
 その小さな後ろ姿に、マナが感心したように息を吐いた。
「エライですよねぇ…。まだ小さいのにもう一人前に働いてるんですから…」
「ああ…そうだな」
「ま、この店の店長がしっかりしてるからねぇ」
 何故か二人のテーブルにちゃっかり居座っているユフィが、のんびりした口調で後を継いだ。
「それに、何だかんだ言っても、あのオチビちゃん達はそこらへんの子供達とは違って、本当に肝が据わってるって言うかさぁ。育て親の影響もあるだろうけど、持って生まれた資質っていうの?そういうもんがバッチリ備わって生まれてきたんだよ」
 本当に、私みたいに言い子達だよねぇ。

 カラカラと笑いながらとんだ勘違いを言ってのけるお元気娘に、これまた何でも屋の二人は曖昧に微笑んで視線を逸らした。
「それにしても、今夜もクラウドさんはいらっしゃらないんですね」
 店内をぐるりと見渡し、金髪・紺碧の瞳を持つ青年がいない事に、落胆の声を漏らしたマナに、セトも一つ溜め息を吐いた。
「まぁね。配達の仕事も最近は特に忙しいみたいだしさ。やっぱ、世の中まだまだ復興途中で交通面でもモンスター面でも安全じゃないじゃん?そんな中、個人の荷物を運搬してくれる業者って重宝されるのよ〜。そりゃ、どっかの大企業とかが、自社の製品を街とか村に卸すんだったら、それなりに飛行船だって大型トラクターだってハンターだってより取り見取りだけど、そんなお金、庶民が出せるわけないもんねぇ」
 はぁ〜、やだやだ、不景気で〜。

 そう言うユフィの言葉に、どこか棘があるのを感じる。
 二人は怪訝そうな顔をしながらも、取り合えず目の前のメニューに視線を落とし、注文の品を選ぶ作業に戻った。


「は〜い、『温かセット』と『スタミナセット』です」
「わ〜、美味しそう!」
「…これ、本当にスタミナ満点だな」
 マリンが運んできた料理を見て、マナは感嘆の声を上げ、セトは少々引き攣ったような、困った顔をした。
「ブッ!何この量!あんた、細いのにこんなに食べれるの!?」
 横から覗き込んだユフィが目を丸くする。
 どこからどうみても、この『スタミナセット』なるものは一人分ではありえない。
 肉がメインとなっているこのセット、実はメニューの下の方に『二・三人前』と書かれていたのだが、それを見事に見落としていたのだ。
「あれ?セトの兄ちゃん、これくらい食べれないの?」
 丁度近くのテーブルへ注文の料理を運ぶ途中のデンゼルが、立ち止まって不思議そうな顔をした。
 何を隠そう、セトとマナの注文を受けたのはデンゼルなのだ。
 ひとまず運ぶ途中だった料理を目的のお客さんの所へ届けると、戻ってきて不安そうな顔をする。
「俺…、兄ちゃんは何でも屋で物凄く体力使うから二・三人前は食べちゃうのかと思ってた…」
 だから、あえて『二・三人前だけどOK?』と聞かなかったのだ。
 セトは、困ったように眉尻を下げると、「この量は…ちょっとな…」と肩を竦めて見せた。

 しかし、残すなどこのご時勢で勿体無い事この上ない。
 物資はまだまだ不足しているのだ。
 それなのに、量が多いから…と言って残飯にするなど……いや、それにしても……。

 本気で困り果てている生真面目な青年に、横から「大丈夫だって!私達も食べてあげるから〜!」と、実に軽いノリで声がかけられた。
 勿論、声をかけたのはユフィ。
 そして、『私達』とは、何でも屋の二人が来店してからもずっと、カウンターで静かに一人、グラスを傾けていた寡黙な美男子…。
 
 ヴィンセントは最初、自分が『私達』に含まれているとは全く気付かず、相変わらずのペースでグラスを傾け、時折話しかけてくるマリンとデンゼルに短く返答するスタンスを保っていた。
 それが、急にグイッとマントを引っ張られて本気で喉が締め付けられそうになり、口に含んでいたブランデーを吹き出しそうになって激しくむせこんだ。

「な、何をする!?」
「何をする、じゃないの!ちゃんと人の話し聞いてた!?人助けするんだよ、人助け!!」
 思わず涙目になっているヴィンセントに、ユフィが胸を逸らして一つのテーブルを差す。
 そこには、当惑顔の何でも屋の二人。
 そして、その二人の目の前には、二人分とは思えない量の料理の山…。
「…………」
「ホラ、ぼさっとしてないで、冷めない内に食べようよ!」
 ティファの料理は冷めても美味しいんだけど、温かい内ならなお美味しいんだよねぇ〜。

 鼻歌でも歌いだしそうなユフィに、ヴィンセントは盛大な溜め息を吐いた。
 どうせ、このウータイの忍に捕まった時から、平安など諦めている。

 ふと視線を感じてそちらを見ると、何とも言えない複雑な顔をして看板息子がお盆を胸に抱きしめるようにして立っていた。
 どうやら、注文の際にきちんと確認しなかった事を反省しているらしい。
 会話には混ざっていなかったものの、話を聞いていた為デンゼルの気持ちが良く分かる。

 はぁ〜…。

 もう一度溜め息を吐くと、看板息子に不器用に笑って見せ、自分のグラスを持ってテーブル席へと移動した。



「そんじゃ、久しぶりの再会と、ヴィンセントと何でも屋の二人の初対面を祝って〜!!」
 乾杯!!

 カチンとグラスの合わさる音、そして、交わされる苦笑が三つと満面の笑みが一つ。
 実に奇妙なその光景に、ティファはカウンターの中で料理を作りながら、肩を震わせていた。
 店内にいる他の客達も、無関心を装ってはいるのだが、興味津々なのが痛いくらい伝わってくる。
 なにしろ、『ヴィンセントと何でも屋の二人の初対面を祝って』との台詞をユフィが口にした時、数人の客達が思わず口の中の物を吹き出して笑い転げたのだから…。

「ん〜〜!美味しい!!」
「あ、本当に美味しいですね!」
「うん、美味い!」
「……流石、ティファだな」
 四人四様の表現でティファの腕前を褒めると、後はもう、ひたすら食べる食べる。
 食べながらでも、ユフィの爆裂トークが緩まる事は無かった。
「とこりょで、ふふぁりふぉもひままでりょうしてた?」
 投げかけられた質問は、恐らく自分達へのものだろうが…。
「「はい?」」
 何を言っているのかさっぱりだ。
「ユフィ…口の中の物が無くなってから話せ。『ところで、二人共今までどうしてた?』と言ってるんだ」
 すまないな、こんな奴で…。

 溜め息混じりに通訳したヴィンセントを、セトとマナはある意味尊敬の眼差しで見つめた。
「凄いですねぇ、ヴィンセントさん!」
「……俺…尊敬します」
「……何故かあまり嬉しくない…」
 ボソリと呟いたその言葉に、二人は思わず吹き出した。
 それを、「あーー!何か分かんないけど私だけ仲間はずれになってる!!気にいらな〜い!!」と、喚きたてるお元気娘に、げんなりとした顔でヴィンセントが「少しは黙って食べていろ」と大口を開けていたユフィの口に『チキンのレモン焼き』を突っ込んだ。
「ブホッ!モゴモゴゴゴ…ググッ!!…ックン!!ッハーー!!何すんのさ!詰まって死ぬかと思ったじゃないか!」
「うるさい。私は静かに食事をするのが好きなんだ。あんまりうるさいなら、もう帰るぞ」
「む〜!何さ〜、たまにはこう、仲間との交流を持っとかないと、アンタ本当に化石になるよ!!折角苦労してアンタの事探し出して連れて来てあげたっていうのにさ〜!」
「頼んでない」
「キーーーー!!それが心の友に対して言う言葉!?」
「……いつから『心の友』になったんだ……」
 ギャーギャー喚くお元気娘、そして、それを無表情で流す寡黙なガンマンに、マナはお腹を抱えて笑い転げ、セトは彼にしては珍しく口許を覆い、肩を揺すって笑うのだった。

「もう、ユフィ?あんまりうるさくしないで頂戴。他にもお客様がいるんだから!」
「あ〜、聞いてよティファ〜!ヴィンセントがいじめるんだ〜!!」
 酒とウーロン茶、そしてミックスジュースの乗った盆を手に、ティファが苦笑しながらやって来た。
 まだウーロン茶とミックスジュースを頼んでいなかった二人だったが、二人の好みを覚えていたティファが気を利かせて持ってきたのだ。
「はい、これはサービスね」
 ニッコリと笑いながらテーブルに置かれる飲み物に、セトとマナは目を丸くし、次いで嬉しそうに笑みを浮かべて頭を下げた。
「ありがとうございます!それに凄いです、私達の飲み物、覚えておられるだなんて!」
「フフ、だって接客業ですもの」
 どこか誇らしげにそう言いながら、ティファはユフィとヴィンセントにもそれぞれブランデーとカシスサワーのグラスを差し出した。
「ティファ、これは奢り?ねね、奢り??」
「ま、一杯だけね」
「やった〜!サンキュー!!」
 あっという間に上機嫌になったお元気娘に、ティファは苦笑しつつも温かな眼差しを向け、そっと視線をヴィンセントに移す。
 寡黙な仲間が視線だけで『助かった』と礼を言っていた。
 ティファも笑みで返すと、再び仕事へ戻って行った。

 今夜はいつもよりも客の出入りが激しいらしい。
 何でも屋の二人が今までやって来た中では、一番忙しいようだった。
 次々と客達がやって来ては帰っていく。
 その流れるような店内の動きは、見ていて目が回るようだ。
 それを、子供達二人とティファの三人でこなしているのだから、大したものだ……。

「どの仕事も大変ですけど、このお店の仕事も本当に大変ですよね…」
「そうだな…」
 感心しきりに呟くマナに、セトもコックリと頷き、クルクルと良く働く看板娘と看板息子を目で追った。
 子供達は、汗を額に浮かべながらも、笑顔を絶やさず元気な声で接客業をこなしている。
 それは、無理やり頑張って仕事をしている姿ではなく、自分達自身が心から楽しんで働いている姿だった。
 その事に、セトとマナは頭の下がる思いがするのだった。
「だが…あんた達の仕事も並大抵のものではないだろう…?」
 それまで二人に話しかけずにいたヴィンセントが、唐突に声をかけた。
 二人は驚いてヴィンセントを見ると、戸惑ったように顔を見合わせた。
 しかし、寡黙なジェノバ戦役の英雄は、自分の発言をもう忘れたかのように…、別に何かの返事を待っていなかったかのように、再び視線を逸らすとグラスを傾けた。
「ま、そういうこと!こんな世の中なんだから、皆、必死になんないとねぇ〜!」
 って言うかさ、ヴィンセントって何か仕事してんの!?

 黙々とグラスを傾け、料理を口に運ぶ仲間に、ユフィがしつこく絡む。
 まるで相手にされていないのに、全く気にする事無く話しかけ続けるその姿は、何故か二人の心に温かなものを抱かせた。

 自分達二人が、寡黙な英雄に認められた瞬間…そう感じたのだった。




 あとがき

 クラウド…登場出来ませんでしたね(汗)。
 後編ではちゃんと帰宅します、絡みます!!
 では、後編をお待ち下さいませ。