騒然となる村を、ギラギラと赤い瞳を光らせる獰猛なモンスターが次々その牙と爪の餌食としていく。
 大混乱の中、クラウドは幼い子供達を咄嗟に抱き上げると、高く高く跳躍した。






我が背中預けるに足る友よ、ゆえに我は…。(後編)






「大丈夫か?」
 大樹。
 その太く逞しい枝に弟妹をそっと立たせる。
 すこし木の表面がぼこぼこしてはいるが、傍には子供たちがバランスを取るために握るには手ごろの枝がふんだんにある。
 よっぽど下の光景を覗き込まない限り、転落する心配はない。
「おにいちゃん、お願い、皆も…」
「あぁ、分かってる」
 クラウドの服の裾を握り締めて涙ぐんでいる少年と少女にクラウドは安心させてやるかのように力強く頷いた。
 クラウドの心配通りのことが眼下で展開されている。
 ガーディアンと名乗った男達の集団は、しっかり、ばっちりモンスターに翻弄されていて、とてもじゃないが村人を守るところまでの余裕がない。

 クラウドは子供達の頭をそれぞれポンポン、と叩いてやりながら、
(デンゼルとマリンみたいだな…)
 そう思った。
 まだ幼いのに、少年は少女を、少女は少年を案じている。
 そればかりではなく、村の人達のことも心配している。
 心優しい、悲しい出来事を背負ってしまった子供達。
 絶対にこれ以上この子達から大切なものを奪わせない。
 村も…、村人も…、子供達の友達とも思われる同じ年頃の子供達も、家も、風景も、みんな!!

 クラウドは躊躇うことなく混乱の真っ只中へと飛び降りた。
 老人が今まさにモンスターの獰猛な爪に引き裂かれようとしていたその刹那の瞬間。
 クラウドのバスターソードが陽光を受けて輝きながら一閃した。
 真っ二つに裂かれたモンスターが短い断末魔を上げて乾いた土地に落ちる。
 ムッと臭うモンスターの血。
 老人は腰を抜かして息も絶え絶えに喘ぎつつ、自分を救ってくれた青年を見上げた。
 だが、ホッと一息つく間もない。
 自分達の同胞が殺(や)られたことにいち早く気づいたモンスターが、標的を村人達からクラウドへと変える。
 クラウドは自身に向けられた殺気に敏感に反応した。
 腰を抜かしたままの老人を小脇に抱えるとそのまま幼子を避難させた大樹へと向かう。
 途中、モンスターの爪に背を引き裂かれた中年の女性と男性を1人ずつ助けながら、重症と思われる女性をもう片方の腕に抱き上げ、男性には、
「走れ!」
 とだけ声をかけて跳躍した。
 急な跳躍で老人が「ひっ!」と短い悲鳴を上げたが、申し訳ないがそこまで気を配ってはいられない。
 何しろ、まだまだ被害者がいるのだ。
 あちこちで村人達の悲鳴が上がっている。
 モンスターの獰猛な唸り声と村人の悲鳴。
 それらに混じって時折、用心棒らしい男の勇ましい声が聞こえないでもないが、圧倒的に不利な状況だといやでも気づく。
 老人と女性を幼子の傍に運び、クラウドは素早く村の状況を見た。
 女性の背中からはまだ血が流れている。
 痛みのあまり身を捩っているため、いつ太い枝から落っこちても不思議ではない。
 だが、この状況では大樹の上が一番安全だ。
 家屋の中にまでモンスターは進入している。
 ドアから…、窓から…。

「おい、なんとか落ちないように彼女を見ててくれ!」

 腰を抜かしっぱなしの老人の肩を強く掴んで揺さぶった。
 あまりの出来事にパニック状態だった老人だったが、それでもなんとか自分を取り戻すことに成功したらしい。
 クラウドの切羽詰った眼差しとすぐ傍で怯えきっている幼子達、そして痛みのあまり荒い息を繰り返す女性を見て、老人は震える身体に力を込めた。
 なんとか頷いて彼女の体を一生懸命抑えようと向き合った老人に、クラウドは不安を押し殺してまた跳躍する。
 モンスターに襲われている村人を救うことに奔走する。
 村人とて、ただやられているばかりではない。
 若者は手に手に鋤(すき)や鍬(くわ)、はたまた包丁やナイフを持って、及び腰になりながらも懸命に闘っていた。
 そんな中、クラウドもバスターソードを振るってモンスター共をなぎ払う。
 蹴り飛ばし、バスターソードの刃の餌食とし、時にはソードを渾身の力を込めて投げる。
 激しく回転しながらモンスターが1度に数頭、悲鳴を上げながら絶命した。
 そのままクラウドは全力疾走し、死んでいないモンスターを文字通り蹴散らしながらバスターソードに追いついて難なく柄を握り締める。
 小さな村とは言え、クラウド1人が奔走して救えきれるものではない。

(くそっ!あいつらどこ行った!!)

 モンスターの返り血を浴びながら、絶え間ない猛攻をしのぎつつクラウドの苛立ちは募っていく。
 あいつら…とは勿論『ガーディアン』達だ。
 闘っている者は数名残っている。
 だが、その数は圧倒的に少ない。
 地面に倒れて意識のない者もいるにはいるが、それにしてもやはり人数が減っている。
 もう確認するまでもない。

 彼らは逃げ出したのだろう。

 散々この村で好き放題しておいて、肝心な場面で逃げ出した。
 彼らの力は確かに大したことはない。
 だがそれでも、残って闘い続けるだけの力はあるはずだ。
 少なくとも、一般の村人達よりははるかに闘える。
 それなのに、彼らは逃げた。
 残って闘っている『ガーディアン』は、恐らく逃げ遅れただけだろう。
 その逃げ腰な戦い方を見ていればイヤでも分かる。

(…一段落したら…覚えてろ!)

 このモンスター騒動が終わったら、絶対に見つけ出してこの村から搾取したものをきっちり返させてやる!
 いや、それだけではなくみっちりとお説教だ。
 もう二度と、世間様に顔向け出来ないようにきつい仕置きを与えてやる!

 そう息巻きながら、クラウドは段々それが難しいのではないか?と思えてきた。
 村長が言ったように、モンスターを操っている人間がいる。
 そう感じるのだ。
 この統率されたモンスター達は一体なんだ?
 クラウドの攻撃を最初の頃こそまともに喰らって倒れていたはずなのに、徐々にモンスターの攻撃が変わってきている。
 雪崩を打って攻撃してくるのかと思いきや、クルッと背を向けて一斉に引く。
 クラウドに向けて攻撃をすると見せかけ、近くにいた村人へその牙をむき、慌てたクラウドがその村人へ駆け出したと見るや否や、他のモンスターが一斉に左右、背後から攻撃を仕掛けてくる。
 そのたび、クラウドはバスターソードを村人へ飛び掛ったモンスターへ投げ放ち、自身は身を伏せながら回し蹴りで応戦する。
 しかし、元々クラウドはティファとは違って格闘家ではない。
 ティファのように拳や脚に『気』を通して攻撃することが出来ない。
 だから、モンスターにとって致命的なものとはならない。
 クラウドの闘い方はあくまで『ソード』なのだ。
 武器がなければ充分その力は発揮出来ない。

(どうする…!?)

 木の上に残してきた幼い兄妹、怪我を負った女性、老人が心配だ。
 それ以外にも、目の前には血を流したまま苦しみ、呻いている村人がそれこそ掃いて捨てるほどいる。
 クラウド1人の活躍だけで、全てのモンスターを殲滅するのは不可能だ。
 このモンスターの意識をクラウドのみに向けることが出来ればあるいは…。
 いや、だがそれにもクラウド1人では限界がある。
 今は全く大丈夫だがそれでも戦いが長引けば体力は確実に消耗する。
 勿論、一般人とはかけ離れた身体能力があるのでそう簡単にへばったりしないが、それでもやっぱり限界はあるのだ。
 それに、何より戦いが長引けば犠牲となる村人達が増えることに繋がる。
 統率された避難が出来ていない村人達はモンスターに良いように翻弄され、散り散りに逃げているのだ。
 クラウド一人ではどう考えても守りきれない。
 自分の身を守れるであろう大人達くらいは自分で頑張ってもらうしかない。
 だが、それが出来ない子供、老人はやはり力に余裕があるクラウドが守らなくては…。

 だが元々、その役目は『ガーディアン』にこそあるはずだ。
 しかし、彼らはここにいない。
 すっかりへっぴり腰の役に立たない奴らばかり。

(くそっ、くそっ、くそっ!)

 苛立ちながらソードを振るう。
 途中、何度か村人達を大樹にまで運んだ。
 そうして老人と一緒になって背に傷を負った女性を守るべく、簡単な治療を施しながら彼女が痛みのあまり身を捩ってうっかり枝から落ちないように守ってくれるようにお願いする。
 村の診療所の医師と看護師を大樹に無傷で運べたのはラッキーだった。
 しかしその幸運を喜ぶ余裕などあるはずもない。
 必死になって探る。
 モンスターを操っている人間がどこにいるのか。
 だが、どこにもそれらしき存在がない。
 次々襲い掛かってくるモンスターにクラウド自身も翻弄されていることが大きな原因だ。
 ほんの僅かで良いからモンスターからクラウドを守ってくれる者がどうしても必要だ。
 恐らく、操っている人間は自身の身の安全を最優先にしているはず。
 クラウドがその存在を探り当てたとしても、容易に近づくことは出来ない。
 勝負は一瞬だ。
 だが、肝心の背中を預けられる存在がない。
 既にガーディアンの気配は感じない。
 モンスターにやられたか、あるいは逃げたか。
 後者の可能性が高い。
 クラウドは臍をかんだ。
 まだまだ村人達が残っている。
 果敢に戦っていた若者も屋根の上に逃げたり、木々に登って避難している。
 モンスターが屋根上や木々に登る能力がなくて幸いだった。
 もしもクラウド並みとは言わなくとも、脚力が通常のモンスターより突出していたら、恐らく村人全員食い殺されている。

(どこだ!)

 妙な気配はずっと感じている。
 恐らくその気配の先に操っている人間がいるのだろう。
 だがどうにもその場所を特定出来ない。
 モンスターに翻弄されて村中を駆け回っているせいではない。
 クラウドの戦闘時の能力は普通のそれをはるかに上回っている。
 グルグルと回ったとしても、方向を見失うことはまずない。
 ということは、操っている人間が複数いることになるのではないか?
 もしもその仮説があっていたとしたら、とんでもなく厄介なことになる。
 クラウドが犯人を1人見つけたとしても、その犯人に向かっていく途中で必ず背後を取られる。
 運良く2人、3人見つけたとしても結果はやはり同じだ。
 バスターソードを1人に投げ放ち、自身はもう1人に向かって突進するとしよう。
 2人は確実にしとめられたとしても、残りの1人に攻撃されたら無事では済まない。
 モンスターの牙や爪に毒らしいものがないことは、最初に助けた中年女性の傷具合から分かっている。
 だから、攻撃を受けたとしても一発、二発くらいはどうってことはないはずだ。
 だが、受けたら確実に力が落ちる。
 バカみたいに溢れてくるモンスターを前に、そんな危険な賭けには乗れない。
 ならば、屋根にでも登って高みから怪しい気配を探れば良いのだろうが、巧みにモンスターは前に立ちはだかったり、攻撃を強める。
 屋根に登るだけの脚力がないとは言え、普通のモンスターと同様の力はある。
 1匹、2匹が相手なら蹴散らして登れば良いのだろうが、10匹ものモンスターになると流石にそれは難しい賭けとなる。 
 それに、逃げ遅れた村人が地上にはいる。
 傷まみれの彼らを助けて大樹の枝に運ぶので精一杯だ。
 悠長に大樹の上から怪しい気配を探っているだけの余裕などこれっぽっちもない。

 助けてくれ…という悲鳴がクラウドの気持ちを焦らせる。
 冷静な判断を欠いてはいけない、と自身に言い聞かせながら必死になって最善、最速の行動を取る。
 これほどまでに行動出来るクラウドをもしも仲間が見たら、皮肉の1つすら言わず手放しで褒めるだろう。
 だが、ここにはそんな頼りになる仲間はいない。
 頼りない用心棒達もいない。
 まさに孤軍奮闘だ。

 だが、時間が経つにつれ本当にようやっと状況が好転し始めた。
 モンスターの数が明らかに減ってきたのだ。
 それに伴い、モンスター自体がクラウドへの攻撃を躊躇いだしている。
 モンスターは本能で動いている。
 操っている者はその本能に直接働きかけて命令しているのだろうが、それでもその『催眠』を追いやるほど、『自己防衛』の本能がモンスターに芽生えたのだろう。
 クラウドの力が自分達を凌駕していることに防衛本能が働いた証拠だ。

(あと少し!)

 流石に小一時間も全力で闘っていると精神的にも疲労がたまる。
 1人きりで闘っていたことも精神的な磨耗を起こしていた。
 だから、あと少し、と光明が見えたことがかえって災いした。
 ふと、怪しい気配が濃厚になったことに気がついてそちらへ意識が完全に奪われた。

 目に付いたのはグレーの外套をまとった人影。
 村の入り口に立っている街灯に隠れるようにして、まるで切り立った影のように佇んでいるその存在。
 クラウドは何も考えずにそちら目掛けて動きの全てを変更した。
 自分の群れるモンスターの存在を一瞬忘れる。

 ざわっ!

 背筋に悪寒が走る。
 長年培ってきた戦闘時の『それ』に、クラウドの全身が反応した。
 振り返る。

 しまった!

 そう思う間もないほどの一瞬の出来事。
 脳が活性化され、全てがスローモーションだった。
 自分の動きまでもがスローモーションになり、むき出しにされたモンスターの牙、爪を防ぎ切る事が不可能だと頭の片隅で察する。
 咄嗟に腕を上げる。
 顔と喉を庇うために。
 腕に喰らいついたら、とりあえずそのモンスターと一緒に地面を転がり、他のモンスターを回避することを一瞬でシミュレーションする。
 あぁ、だがそんな余裕があるだろうか?
 上手くいかなければ確実に死ぬ。

(…まだ死ねない)

 後になってその時のことを振り返ると、切にそう願っただろうと想像する。
 だが、この時には微塵もそんな余裕はない。
 自らの腕に牙が食い込む。

 そう感じた。

 だが…。


 パーンッ!


 乾いた銃声がそれを錯覚だと教えてくれた。
 咄嗟に受け身を取りながらゴロゴロと地面を転がってから飛びのくようにして起き上がる。
 目の前の光景にクラウドは目を見張った。
 数頭のモンスターが血を噴出しながら地面でのた打ち回っている。
 その間にも銃声は止まない。
 自然とクラウドはその銃声の先をたどった。

 呼吸を忘れる。

 漆黒の髪、漆黒の瞳。
 真っ直ぐ駆け寄りながらいささかの躊躇いも、ぶれもなく発砲を続けるその姿。

(なんでここに?)

 間抜けなことに、彼の姿を認めた瞬間の感想がそれだった。
 こんなところにいるはずがないその姿は、クラウドにとって大きく頼もしい存在であるはずなのに、その事実に至るまで時間が必要だった。
 それくらい、意外すぎて信じられない。


「クラウドさん、ご無事ですね」
「…シュリ…なんでここに?」


 呆けたように突っ立っているクラウドに、シュリと呼ばれたWROの中佐はピタリ…と背を合わせるように寄り添った。
 発砲を続けつつもうそれ以上クラウドの無事を確認する必要がないかのようにチラリとも見ない。

「この村の出身という人からWROへSOSが入りました。一番近くにキャンプしていた自分がそのSOSに応えるよう命令を受けたんです」

 感情の抑揚を全く感じさせないその口調に、クラウドはようやく地に足がついた心地を味わった。
 全身から余計な緊張感が抜け落ち、逆に心地の良い高揚感が胸を満たす。
 ようやっと、これでフェアな戦いに持ち込むことが出来る。

「それにしても流石ですね、クラウドさん」
「なにがだ?」

 飛び掛ってきた数頭のモンスターをまとめて血祭りに上げる。
 微妙に立ち位置が変わったが、それでもクラウドの背中はシュリがピタリと寄り添い、ほんの僅かな隙すらモンスターに与えない。

「よくここまでお1人でしのがれました」
「…1人というか、ガーディアンとかいう用心棒集団がいたんだがな…」

 ドンドンドンッ!!

 発砲しながらシュリは「そうなんですか?」と言った。
 見なくても分かる、首を傾げているのだろう。
 無理もない、どこにもそのような気配はないのだから。

「詐欺として後で捜査しましょう。今はとりあえず…」

 言葉を切ったシュリの意図が間違うことなくしっかりと伝わってくる。
 そう、今はいかさま集団のことに関わっている場合ではない。

「あぁ、行くぞ!」
「はい」

 クラウドは思い切り跳躍した。
 宙でバスターソードを振り、方向を変える。
 そのまままるで空気の壁を蹴るようにして地面にダイブした。
 目指すは先ほど見つけたグレーの外套に身を包んだ人影。
 意外なことに、まだ村の入り口の街灯の影に突っ立ったままだった。
 恐らく突然シュリが登場したので驚き、逃げるタイミングを失ったのだろう。
 そしてクラウドはその隙を見逃さない。
 寸分の迷いもなくクラウドはバスターソードを一閃させた。
 一刀両断にしてやりたいところだが、色々聞きださないといけないことがあるので、ソードの腹で思い切り叩き飛ばす。
 犯人の手から小さな銀色の筒のようなものが飛んでいったのが僅かに見えた。
 それが、後になって『犬笛』と同じものだということを知ることとなるが、今はそれどころではない。

 クラウドの危惧していたように、犯人に攻撃を仕掛ける一瞬前にモンスターの猛攻に包み込まれるが、それも全て失敗した。
 シュリの的確な狙撃にモンスターはあっという間に昏倒する。
 それを見ていた他の仲間が標的をクラウドからシュリに変える。
 だが、クラウドはもう分かっていた。
 1人目を叩き飛ばすべく向かった瞬間、他の場所から犯人がモンスターへ指示を飛ばす気配を感じ取った。
 シュリが駆けつけてくれたことで、犯人達は倒すべき優先順位を統一させることが出来なくなったのだ。
 そして、1人仲間がやられたことで完全に浮き足立った。

 1人目が地面に叩きつけられるよりも早く、クラウドは2人目の目の前に疾走した。
 ソードを振り上げ、叩きつける。
 前歯を撒き散らしながら犯人がぶっ飛ぶ。
 グレーの外套から覗いた犯人の顔が妙に変形していたのは気のせいではないだろう。
 2人目も倒したクラウドは次の犯人を目指す。
 だが3人目を倒したのはシュリだった。
 銃での攻撃しかしなかったシュリを犯人は『銃以外の武器は使えない』と判断したらしい。
 モンスターを自らの前に盾のようにしてシュリに向かわせて、自分自身の手でシュリを葬ろうとした。
 モンスターを3匹屠(ほふ)ったところでシュリの目の前にまで駆け寄っていた犯人は、手にしていたナイフを振り上げた。

 ゴキッ。

 イヤな音を立てて犯人の肩がシュリの蹴りによって跳ね上げられる。
 耳障りな悲鳴を上げて男は地面をのたうった。

「うるさい」

 冷たい声音で言い捨てながら、シュリは男の頭部を遠慮なく蹴り上げ、昏倒させた。

「シュリ…」

 あっさりとやってのけた青年にクラウドは呆れたような顔をしながら、自身も4人目の男を地面に転がしたのだった…。


 *


「そう…大変だったのね」
 痛ましそうな顔をするティファに、クラウドは小さく溜め息を吐いた。
「まぁな。でも、村人に死者が出なかったのは不幸中の幸いだった」
 呟きつつ、スコッチの入ったグラスを口に運ぶ。

 ようやっと深夜に帰宅出来たクラウドを、ティファは変わらない温もりで出迎えた。
 ホッとしながらも、幼い兄妹を思い出すとやはり胸が痛い。
 だが、よくあの状況で死者が出なかったものだ…と思うと、やはりあの兄妹には悪いが『不幸中の幸いだった』と思える日が早く来ることを願うしかない。

「それにしても、シュリ君はやっぱり凄いのね」
「あぁ…本当に助かった」
「いつかちゃんとお礼したいわね」

 気を取り直すように、クラウドの疲れた身体と心を癒すかのように優しく微笑んだティファに、クラウドは自然と微笑んだ。
 頷きながら、青年のもたらしてくれた報告を思い出す。

「まったく…あの村に金が眠っているなんて一体誰が言い出したんだか…」
「本当にあるの?金山なんて」
「さぁ、確かなことはことは言えないって言っていたがな。元々金山があの近くの土地にあったことだけは確かなんだが、今は掘りつくされているじゃないか…って言うのがWROの発掘隊の意見だそうだ」
「そのためだけに村の人達を襲っただなんて…」

 ティファの静かな怒りをクラウドは至極当然だと思った。
 それとはまた別に、モンスターをあそこまで調教しきった犯人達の能力に慄然とする。
 もしも、あの犯人達の能力と同じ力を持つ者がいたら?
 星はまだまだ安全とはいえない。
 だが…。

「だから、WROは必要なんだな」

 ポツリ…と呟いたクラウドに、ティファは何か言おうとして…。
 結局なにも言わずに「そうね…」とだけ言った。
 そうして、そっとクラウドの肩に頬を摺り寄せる。
 何よりも彼女にとって、クラウドが無事に帰ってきてくれたことこそが重要なのだ。

「クラウド…」
「ん?」
「おかえりなさい」

 しっとりした口調で、心の底からの言葉をもらう。
 クラウドはあの時、もしかしたら無事に帰れないかもしれない、と感じた恐怖を思い起こした。

「うん、ただいま」
「おかえりなさい…」

 柔らかくティファを抱き寄せてその髪に頬を摺り寄せる。
 馨しいティファの香りに、心から帰ってこれたことを幸せだと思う。

 だから…。

 ―『クラウドさん、ガーディアンという用心棒まがいの集団は皆さんが想像するよりも多いんです。人々はまだまだ闘う力を充分に備えていない。だから、ほんの僅かにその力を持っている人間がのさばるのも仕方ないかもしれません。ですが…』―

 真っ直ぐ前を向いて凛と立つ青年の姿が浮かんだ。

 ―『だからこそ、俺は…』―

 そう言って言葉を切った青年。
 彼は一体何を言おうとしたのだろう?
 彼がWROに籍を置くのもそのことに関係があるのだろうか…?
 いつも孤独に身を置いているかのような青年が気にかかる。
 きっと彼は1人で何か大きなものを背負っているんだろう…。

(俺は…なにかしてやれるのか…?)

 自分にはティファがいる。
 デンゼルがいる。
 マリンがいる。
 仲間がいる。
 でも、あの青年には?
 勿論、クラウドは自分だって青年の味方をする、と心に強く決めている。
 だが、自分達の手を彼は掴んでくれるだろうか?
 困った時、助けを必要とした時、彼は差し出した自分達の手を振り払って、奈落に落ちることを選ぶのではないか?
 そう感じてしまう。
 そして、それは恐らく勘違いではない。
 だからこそ。

「ティファ…俺は俺に出来ることをこれからもしていきたい」
「うん」
「危険なことにこれからも首を突っ込むと思う」
「うん」
「でも、必ず帰ってくるから。だから…」
「うん、大丈夫だよ、クラウド」

 そっと目を上げたティファの顔には笑みが広がっていた。

「勿論、私もついていく。一緒に…ね?」

 クラウドも目を細めて微笑んだ。
 そうして、そうすることが当たり前のように2人は目を閉じ、唇を重ねた。
 いつでも…どんな時でも一緒に乗り越える。
 そう、言葉にしなくても充分伝わってくる。
 だからクラウドは闘える。

 シュリに背中を預けることで本来の力を出すことが出来た。
 だから、今度は自分がシュリの背中を守ってやりたい。
 …みんなで。

 クラウドはティファを抱く手に力を込めながら己に強く誓った。

 背中を預けられる友のため、彼の背中を預かれるようになりたい。
 そうして皆で乗り越えたい。
 そんな存在になりたい。
 いや、なる。

 そう思いながら…。
 今は、この愛しい人の温もりに包まれて暫しの休息を…。



 みかちんへ!!

 遅くなってごめんなさい!!
 なんとか書き上がりました〜♪
 うぅ…あまりシュリが登場出来なかった…((__|||)
 ま、また違う話でシュリを登場させたいなぁ…なんて。

 ではでは、本当にお粗末さまでした〜(土下座)