バサッバサッバサッ。

 背筋が凍りつくような思いをまさか一日に二回も味わうとは思ってもなかった。
『准尉殿』の『散れ!』という命令に同期達が咄嗟に反応出来ないのと同じ様に、俺も身動き一つ出来ないでただただありえないモンスターの群れを凝視する。



夢を追って(後編)




「全員ボーっとするな!!!」

『准尉殿』がガーゴイルに向けて射撃を繰り返しながら怒声を上げる。
 その大声にビクッと身を震わせ、呪縛が解けたように俺達はあたふたと散開すると、それぞれ銃を手に上空目掛けて構えた。
 そして一斉に発砲……というわけにはいかなかった。
 だって、全員弾込めしてなかったんだから…。
 慌てて腰に縛り付けるようにしているポーチから弾を取り出し、弾を込める。
 手が震えて上手くいかないのは俺だけじゃない。
 同期達の大半がそうだ。
 それでも、何人かはあっという間に……『訓練生時代』の時のように手際よく弾をこめ終えると、それと同時に上空を旋回するガーゴイル目掛けて発砲した。

 お、俺も負けてられない!!

 震える指先に苛立ちながらも何とか弾込めを終らせる。
 ホッと息つく暇なく眼前に迫っていたガーゴイル目掛けてトリガーを引いた。

「全員、三人から四人ずつで円陣を組め!」

 上空から滑空するガーゴイル達に確実な射撃を繰り返しながら『准尉殿』が命令する。
 その隣では、クラウドさんが大剣を構えてモンスターの群れを睨みつけていた。

 その横顔は……。
 同性の俺が見てもぞくぞくするほどカッコ良くて…。

 って、見惚れてる場合じゃない!
 さっきのような失敗はごめんだ!!

 同期達も『准尉殿』の指示に従ってサッと近くにいた仲間と言われたように背を合わせて迎撃準備をする。
 俺は三人で組んだ。
 斜め後方で背を合わせている同期達が小刻みに震えている空気を感じる。

 いや…。

 震えているのは…俺も同じだ。

 どう考えてもこの地方にはいるはずないモンスターが群れをなしているんだ。
 ただでさえ、さっきの『任務失敗』があるのにこの非常事態に冷静になれ…という方が無理じゃないだろうか?
 でも…。
 たとえ『不合格』を言い渡されたとしても俺は……俺達はWROの隊員なんだ。
 ここで尻尾を巻いて逃げ出すわけには行かない。

『准尉殿』は休まず発砲し、その乾いた銃声の数だけガーゴイルが耳障りな悲鳴を上げて地面に引き寄せられる。

 とんでもない腕だ…。
 ただのお調子者じゃなかった…。
 驚くべき神技を披露する傍らでは、『英雄』が信じ難い跳躍を披露し、上空を旋空するガーゴイル達を大剣で斬って落としていた。


 ……ありえねぇ!!
 なんだ、あのパワー!?
 モンスターをひたと睨みつける眼光も…。
 確実に振り下ろされる斬戟も…。
 あれが……『英雄』の力。


 ギャーー!


 俺達の頭上から耳を覆いたくなるようなモンスターの雄叫び。
 震えそうになる腕に力を入れて狙いを定める…。


 ドンドンドンドン!!!


 周りの同期達も…俺も…宙を飛び回って翻弄するガーゴイルに発砲した。
 さっきよりは…マシだ…と思う。
 さっき失敗したモンスター駆除の時はかすりもしなかったけど、今は俺達数人で一体のガーゴイルを打ち落とすことに成功したから…。

 でも、それじゃあ追いつかないんだよなぁ…!
 もう、どっから沸いてきたんだよこのモンスター!!
 地面にはガーゴイルの死骸がいくつも横たわっているのに、耳障りな鳴き声は後を絶たない。
 撃っても撃っても……減らない気がする。
 俺達数人で一体のガーゴイルを斃してる間、『准尉殿』と『英雄』は一人で複数のガーゴイルを仕留めてる。
 それなのに…。

「おい、そこ気をつけろ!狙われてるぞ!!」

 突然、魔晄の瞳が俺のグループに向けられ、鋭い声が飛んできた。
 大剣を軽々操りながらたったの一戟で一体のガーゴイルを斃してる『英雄』に、俺の後ろを守ってた同期達が「わ、分かってますけど…!」「ど、どうしたら良いのか…!」半分パニックになっていた。
 勿論、口には出さないけど俺も…。

 周りでグループを作ってる同期達も同じみたいだ。
 数体のガーゴイルが俺達みたいにチームを組んで旋空しながら襲いかかろうとしてる。
 どうやら、『准尉殿』と『英雄』よりも、先に弱い俺達を始末することに決めたみたいだ。

 ガーゴイル…ってそんなに知能が高かったっけ!?
 なんて思ってる場合じゃない。
 夢中でトリガーを引く。
 発砲しながら鋭い爪の攻撃をかわす。
 攻撃をかわしたことで崩れた隊をもう一度直す。
 それを何度か繰り返した。

 でも、何回も言うようだけど、これは俺達にとって初任務なんだ。
 そんなに長時間、って言ってもそんなに長い時間でもないんだけど、持ちこたえられるはずないよなぁ!?

「うわっ!」

 俺のグループの一人が派手に転倒した。
 体勢を整えようとするけど、湿地帯特有のぬかるみに動きを封じられて思うようにいかない。
 モンスターから見たらそれは敵を仕留める為の絶好のチャンス。
 見逃すはずがない。

 俺や他の同期達を狙っていたガーゴイルが一斉にその同期に向かって飛び掛る。
『准尉殿』と『英雄』が周りを威嚇するように飛び回るガーゴイル達を薙ぎ払いながら同期を救出に駆けるのが見えた。

 でも……間に合わない!!

 一瞬で全身の血が凍りつくような思いがした。
 同期が真っ赤な血飛沫を上げる………ように見えた。


 バキッドゴッゲシッブンッゴスッ!!!!


 いやもう…。
 こんな表現でしか表せられない様な重い音。
 それと共に、同期を囲んで一斉に襲い掛かっていたガーゴイルがはるか彼方にぶっ飛んだ。

 あまりの出来事に全員が……そう、残っていたガーゴイルも含めてその場の全員が目を見開いて固まった。
 ぶっ飛んだガーゴイルで隠れていた同期と…。
 彼を『救ったモノ』の正体が姿を現す。


 サラリとした黒い髪を風に乗せ、軽やかに地面に降り立った…『天女』。


 意志の強い光を宿した茶色い瞳は、標的になっていた同期に心配そうに向けられ、彼が無事である事を確認して嬉しそうに細められた。


 ドッキン!!


 彼女の微笑みに大きく心臓が鼓動を刻む。

「ティファ!?」
 驚いた声を上げた『英雄』に、彼女はニッコリ笑って見せると、
「ふふ、チョコボファームまでモンスターの気配がしてたから、つい」
 そう言って、ペロッと舌をのぞかせた。

 なんなんだ、その可愛らしい仕草は!!
 絶望感と言う切迫感があっという間に霧散し、代わりにどうしようもない高揚感が胸を支配した。
 い、いかん!
 確か彼女は『英雄』の恋人だったはず。
 これ以上の感情を持つと……身の破滅だ……。

 だけど、そう思う傍から彼女の一つ一つの動作に胸が高鳴って……。
 それが例え、恋人である『英雄』に向けられた微笑だとしても…。
 恋人の呆れたような顔に肩を竦めた動作だとしても…。
 そして…恋人と背中合わせに立って、残りのモンスターを睨みつけている姿だとしても…。

 引き寄せられずにはいられない……。


「クラウドさんだけでなくティファさんまで駆けつけてくれるなんて、俺って超ラッキー♪」
「ふふ、そう?」
「もっちろん!これをラッキーと言わずして何と言えば良いんだか分かんないね〜!」

『准尉殿』と親しげに…っていうか『英雄』と同じ様に『お友達』のような会話をする彼女に驚愕する。
 いや、勿論『准尉殿』が『お店』に行くから親しい…って話を信じてなかったわけじゃないけど、それでもさぁ…。
 やっぱりこうして自分の目で見ると衝撃なんだよな…。

「じゃ、二人共さっさと片付けるか」

『英雄』が微かに口元を緩ませてそう言った。



 それからは…一方的だった。
 一人増えただけ。
 それも『女性』が助っ人に加わっただけ。
 それなのに、さっきと全然違う。

 彼女が跳躍して細い腕を繰り出す度に、モンスターの鳴き声が断末魔に変わる。
 宙で体勢をクルリと変え、背後に迫っていたガーゴイルに回し蹴りを喰らわせた。
 その勢いを殺さないまま左後方に新たに迫っていたガーゴイルの攻撃をすれすれでかわすと、肘鉄を叩き込む。

 そんな彼女の横には金髪で碧眼の『闘神』。

 デカイ剣を持っているのに体重を感じさせない身軽さを披露し、時には彼女の背後を守り、時には己自身に迫る敵をなぎ払った。
『英雄』の見事な剣さばきにガーゴイル達が圧倒される。
 それは俺達新米隊員も同様で。
 目を見張るようなそれらの攻撃に、いつしか銃を手にしたままだらりと腕を下げてただただ見入っていた。
 剣だけではなく時には『彼女』と同じ様に蹴りを喰らわせ、モンスターを翻弄する。
 地面に降り立ってすぐにまた跳躍。
 まるで二人共……鳥のようだ。
 背中に見えない透明の翼を持っているような身軽さ。
 あれが……『ジェノバ戦役の英雄』…。

「こら!全員気を抜きすぎだ!」

『准尉殿』がボーっとしている俺達を叱責する。
 でもその声がどこか笑みを含んでいて、俺達は身を竦ませることなくハッと我に返った。
 だけど、我に返った時には……。



「ひぃ、ふぅ、みぃ……こりゃ凄い。どっから来たんだ、こいつら…」

 ガーゴイルの姿は空にはなかった。
 全てのガーゴイルを斃し、一匹も逃がしていない。
 地面に累々と横たわるガーゴイル達に、『英雄』と彼女、そして『准尉殿』が眉間にしわを寄せていた。

「本当に…どうしてここまで……」
「……リト、リーブから何か聞いてないのか?」
「聞いてないですね。特に注意するようなことは何も。ただ、天然のチョコボが襲われる被害が相次いでるとチョコボファームからSOSが出たので、任務に当たるよう指令を受けただけです」
「そうか……」

 そのまま黙り込んだ三人に、誰も声をかけない。
 かけられる雰囲気じゃないし、そもそも『准尉』という肩書きを持っている人に気安く声をかけられる立場にないんだから。
 この『准尉殿』が特別『いい人』なだけだと分かってる。
 きっと、『准尉殿』の友達(?)の『准尉殿』が特別なだけで、他の『准尉』とかの肩書きを持ってる人は親しみやすい人じゃないんだろうな。

「それにしても、本当に良かったわ」
「…?なにが??」

 突然、『彼女』がニッコリ笑って胸を撫で下ろした。
『准尉殿』がポカンとして見つめる。
『英雄』もまたしかり…。

「だって、子供達もチョコボファームに来てるんだもの、こんな惨劇、見せられないでしょう?」
「「あ…」」
「まかり間違ったら、ピクニックの最中に襲われてたかもしれないし」
「「……」」
「そうならなくて本当に良かった!」
「「……たしかに」」

 ガーゴイルの群れに囲まれても顔色一つ変えなかった『英雄』がサーッと青ざめた。
 ガーゴイルを攻撃しながら、俺達に的確な指示を下していた『准尉殿』が引き攣った。
 その姿はある意味すっごく貴重なものだったと思う。

 ニコニコと笑う『彼女』に、『准尉殿』と『英雄』は初めて脱力した姿を見せた。



「じゃ、俺達は戻ります」
「ああ、気をつけて」
「またお店に来てね。子供達も喜ぶわ!」

 満面の笑みで手を振る『ティファ・ロックハート』と、薄っすらと笑みを浮かべて静かに見つめる『クラウド・ストライフ』に、『グリート・ノーブル准尉』はピッ…と敬礼した。
 その姿が…すごく様になってて……格好良かった。

 みるみるうちに飛空挺は高度を上げ、見送ってくれる二人の英雄が豆粒みたいになった。
 その一つが黄色い点に近付いていくのが見えて、『ティファ・ロックハート』がどうやって危機に駆けつけてくれたのかが分かった。

「へぇ…。あの乱闘の最中でもチョコボ、逃げなかったんだな」

『准尉殿』が感心したように漏らしたその言葉に心の中で頷いた。
 だって、あんだけのモンスターに囲まれてたんだ。
 チョコボファームから借りて来たから人に慣れてるんだろうけど、逃げなかったあのチョコボが意味することは…ひとつだけだよな。


 ― 英雄達の傍にいるのが一番安全 ―


 本能でそう感じたからこそ、逃げなかったんだ……きっと。
 本当に…人間だけでなく動物にまで安心感を与えてしまう『英雄』の力。
 ゾクリ…。
 背筋にゾワゾワしたものが走る。
 憧れていた『英雄』は…本当に凄い人達だった!
 でも、俺が想像していた以上に『普通の人』だったことがなによりも嬉しい。
『准尉殿』と話していた二人の英雄は、すごく…すごく自然で…。
 全然偉ぶってなくて。
 特別なんだ〜!!ってオーラを振りまいてなくて、逆に包み込んでくれるような…そんな温もりを持ってる人だった。
 かと思いきや、子供達の事を心配する『普通の親の顔』を持ってたりもしてさ。
 なんかこう……。

『絶対に手の届かない神様的な存在』

 ってわけじゃないんだなぁ…って思った。


「本部に到着したら結果を報告する」

 凛とした『准尉殿』の声が俺達の耳に響いた。

 あ、そうか。
 俺達、『訓練生』に降格するんだったな。

「最初の戦闘は目も当てられない状態だったが、その次の戦闘はまぁ、見られるようなものだった」

『准尉殿』がフッと微笑んだ。

「それらも含めて報告する。ま、結果どうなるのかは人事部の判断に任せるから、各自、それなりに腹を括っておくように」


 その笑顔が…。
 俺達の中にすごく印象強く残った。





 一週間後。

 俺はあの時の同期生と『准尉殿』の友達(?)の『准尉殿』の隊にいた全員と一緒に、訓練所で汗を流していた。

『本当に訓練生に戻るのか?せっかく二等兵の階級を手に入れたのに』

 呆れたような顔をして、俺達を見つめた『二人の准尉殿』。
 その二人に俺達ははっきりと頷いて自分の意志でここに戻って来た。
 俺達は…まだまだでさ。
 訓練生でちょっと優秀だったくらいで舞い上がってちゃ、『夢』に追いつけないって分かったんだ。
 紫紺の瞳をした『准尉殿』の隊にいた元・新米隊員達も同じ理由だった。
 まぁ、勿論、その隊には『英雄』が現れたわけじゃないんだけど、仲良くなった奴から『紫紺の瞳の准尉殿』がどれだけ強かったか…って話と、俺達と同じ様に『浮かれてたらダメなんだよな…』っていう結論が自然と出た事を聞いた。


 ― せめて『准尉殿』に追いつけなかったら『英雄』においつくなんて夢のまた夢 ―


 そう言って笑った『仲間達』に、俺も…俺と一緒に『英雄』に救われた『仲間達』も笑って頷いた。

 まだ…まだ『夢』にはほど遠い。
 でも…絶対に追いつけない距離じゃない。

 最初は誰だって弱い。

 そう言ってくれた『准尉殿』の言葉を励みに、俺達は今日も『夢』に向かって頑張って手を伸ばす。

 その先には…。
 碧眼・金髪の『闘神』と、数多のモンスターに臆する事無く凛と立つ『天女』がいる。

 そう…信じて。


「よっし、やるぞ!」
「「「おー!!」」」


 澄み切った青空に俺達の声が高く溶け込んでいった。



 あとがき

 はい、なんとか終りましたね!(← また伸びるのではないかとビクビクしてた小心者)
 今回はカッコイイ『英雄』を書きたかったんですが……またもや文章力不足。(撃沈)
 WROの隊員達って『英雄』に憧れて入隊した人って結構いるんじゃないかなぁ…とか思ってます。
 んでもって、『憧れ』が勝手に『理想像』を持っちゃうんですね〜。
 その『神格化』してしまった『理想像』が、事実はそんなに『エライ存在』ってわけじゃなくて、『身近な存在』だったという…ことに……気付いて……頑張る新米君。
 それを書きたかった…筈なのに……(あれれ〜〜…???)
 と、とにかく!
 ここまでお付き合い下さって本当にありがとうございました!!(脱兎)