「いいか、絶対にチョコボに当てるなよ。こちらが風下になってるから、このままチョコボがこっちに近付くのを待って背後のモンスターを撃つ。チョコボが発砲に驚いて統率を乱したら救出は難しくなるからな。だが、もしもモンスターの方がチョコボよりも早くて襲い掛かろうとしたら…その時は撃て!」

『准尉殿』の指示が、グワングワンと頭の中で木霊した。



夢を追って(中編)




 周りの誰もが『緊張』という漢字二文字の囚人になっている。
 折角、『准尉殿』が緊張のほぐれる話を聞かせてくれたのに……。
 それにしても、どうして『准尉殿』はモンスターに気付いたんだろう……。
 また後で聞かせてもらわないと、後学の為に!

 クェ〜…。
 グワッグワッ…。

 チョコボの鳴き声が風に乗って聞えてくる。
 段々大きくなるのは……ちゃんとこっちに向かっている証拠だ。

 モンスターも勿論だけど……。

 生臭い臭気がするのは、獣独特のもの。
 その匂いをかいだ瞬間、一気に身体中から汗が噴き出してきた。

 チョコボとファングタイプのモンスターが段々迫ってくる音がする。
 土を蹴る音に……唸り声…。
 そして……荒い息使い……。

 あと少し…。
 あと……もうちょっと……!


 ドンッ!!


 突然、俺の後ろの奴が発砲した。

 ピギャーー!!!

 悲痛な声を上げてチョコボが横転する。
 ファングタイプのモンスターがギラギラとこちらをねめつけるのと『准尉殿』が、
「誰だ、今発砲した奴は!!」
 と怒鳴り声を上げ、次いで大きく舌打ちをしながら身を起こしてモンスターの群れに駆け出した。
 振り向くと、真っ青な顔をして俺よりも一つか二つ下の新米隊員がブルブル震えている。
 極度の緊張感に耐えられなくなったのか…。
 震える指が意図せずにトリガーを引いてしまったのか…。
 それとも別の何かがあったのか…。

 それは分からないけど、完全に作戦は失敗した。


 ギャーーッ!!
 グエッグエッ!!


 耳障りな鳴き声を上げながら、チョコボが散り散りに逃げて行く。
 それまで、なんとか隊を組んで走っていたのに、仲間のチョコボが前方からの攻撃に倒れた事で、すっかり隊列は乱れてしまっていた。
 だけど幸か不幸か…。
 ファングタイプのモンスターの関心は、そんなチョコボ達ではない『モノ』に向けられて…。

「『准尉殿』!!」「ヒッ!こっちに来た!!」「う、うわーー!!!」

 あろう事か、待ち伏せていた俺達を標的に変更してしまった!


 もう…死に物狂いで発砲した。
 仲間達もそうだったけど…。
 よく『同士討ち』しなかったな…と後になって思えば不思議で仕方ない。
 それくらい、周りが全然見えていなかった。

 訓練生時代、俺は自分で言うのもなんだけど結構射撃の腕は良かったんだ。
 それに、反射神経のテストも…上の下くらいの成績で、割と優秀な方だった。
 だけど……そんなもの、実践では何の意味もないんだって痛いくらい思い知らされた。

 予想出来ないモンスターの動きに翻弄され、弾はちっとも当たらない。
 かすりもしない。
 それどころか、どんどん仲間達から引き離されているみたいだった。
 気が着いたら、かなり離れたところで俺は肩で息をしていた。
 遠くで『准尉殿』が銃をホルスターに戻し、細身の剣でファングタイプのモンスターを退治しているのが見える。

 ……ありえないだろ…!?
 なんだって銃での攻撃じゃなくて剣での攻撃なわけ!?
 しかも、流れるようなその攻撃を前に、数十頭といたモンスターが押されてる。

 こっちは…。
 たった一頭のモンスター相手に死にそうなのに……。

 アレだ。
『手負いの獣ほど恐ろしいものはない』ってやつだ。

 かすりもしてないのに、俺の攻撃に目の前の紫の目をギラつかせたこの野郎は、もう怒髪天を突く勢いで俺の事を憎んでいる!!
 このままだと……ヤバイ!!
 死ぬ……かも……!!
 鋭い牙が割けた口からギラリと光る。
 獰猛な唸り声が喉の奥からもれ出てくる。
 それに……。
 なんとも形容し難い『獣臭』。
 映像だと絶対に分からないその鼻につく匂いは、もう……胃袋がひっくり返りそうなほど臭くって…。
 それが益々恐怖を煽る。

 ジリ…。

 俺が一歩下がれば奴は一歩間合いを詰める。
 二歩下がれば……二歩…。

 グルルルル……。

 喉から漏れる唸り声が段々大きく…野太くなっていくにつれ、奴はググッと腰を落としやがった…。


 ― 飛びかかるつもりだ…!! ―


 ヤバイ!
 絶対…絶対ヤバイ!!
 避けられる自信なんかない!!!

「おい!ボサッと突っ立ってないで威嚇しながら逃げろ!!」

『准尉殿』の声がフィルターを一枚通した向こうから聞えてくるようにどこか非現実的に耳に届く。
 そうしたいのはやまやまなんだけど…。
 実は………もう、弾がない……。
 パニックになりながら発砲しまくったから、あっという間に弾切れなんだよ!!
 弾込めする余裕?
 あるわけないじゃん!!
 目を逸らせた瞬間に襲いかかられるのがオチだよ!!

 モンスターの唸り声が段々でかくなる。
 もう来る。
 奴はもう……。

 あぁ…ダメだ。
 背後まで取られたみたいだ。
 背中から急速に低い唸り声が俺に近付いてくるのが聞える。
 恐怖でがんじがらめになってる俺は、振り返ることも出来ず、ガチガチのまんまで立ち尽くした。
 目の前の奴がギラリと紫の目を光らせ、俺をひたと睨みつけたままそのデカイ身体を宙に躍らせた。
 思わず眼を瞑る。
 すぐにでも襲い掛かってくるであろう死の苦痛に、ドッと全身から汗が噴き出した。


 …と…。


 キュキュキュキュキューーー!!
 バシュッ!!!
 ギャンギャン!!


 そんな複数の音が同時に辺り一帯に響き渡り、ハッと目を開ける。
 そこには…。


 デカイバイクに跨ったまま、これまたデカイ剣を片手に金髪の男が俺とモンスターの間に割り込んでいた。
 俺に背を向けているその男の登場に、離れた所で悲鳴を上げていた同期隊員達が一斉に歓声を上げている。
 ふと地面を見ると、俺を襲うとしていたモンスターが地面に倒れてピクリとも動かない。
 呆気に取られてバイクの男を見つめる。
 時間にしたらほんの数秒。
 だけど、俺には凄く長い時間に思える刹那の時。

 急に背を向けていた男がバッと俺の方を振り向くと、
「おい、ボーっとするな!!」
 厳しい口調で俺の後ろを睨みつける。


 ドクン!


 心臓が大きく鼓動を刻む。
 だって…。
 だってさ…。
 俺の目の前にいるこの男……!


 ガァッ!!!


 突然俺の上に影ができ、背後から鼻を覆いたくなる『獣臭』が噴きかけられる。
 ギョッとして振り向くよりも早く、デカイバイクをグルッと回し、急発進させて俺の頭上高くに襲い掛かってきたファング系のモンスターを、俺の鼻先ギリギリで切って落とした。

 再びドッと湧き起こる歓声。
 駆け寄る同期隊員達。
 そして…。

「お前…WRO隊員ならもっとしっかりしろ」

 静かな…低い声でそう言って情けなさそうな顔をする……憧れの『英雄』。

 ウソだろ?
 俺の……憧れてた……『英雄のリーダー』!?
 金髪をツンツンに立たせ、魔晄の色に染まったその紺碧の瞳。
 整った顔(かんばせ)は、WROの広報誌で見た写真よりも凄くきれいで…。
 不機嫌そうに寄せられた眉も完璧な形をしている。

 俺を取り囲む…というよりも『英雄のリーダー』を取り囲んで興奮気味の隊員達に、彼が何か言おうと整った唇を開いた。

 が…。


 ドンッドンッ!!


 突然の銃声。
 ギョッとして同期の隊員達と俺が銃声のした方を見ると、『准尉殿』が最後のモンスターに止めを刺していた。
 しかも、その最後のモンスターは……。
 またもや俺の真後ろにいたわけで……。

 サーッと顔から血の気が引く。
 同期達も同様だ。
 だって、こんなに近くにモンスターが潜んでいたのに、全くその存在に気付かないで憧れの存在にばっかり意識を向けてたんだから…。

『准尉殿』が苦虫を百匹ほどまとめて噛み潰したような苦い苦い顔をして近付いてきた。

 あ……。
 怒ってる…?
 怒ってる…よね…?
 ヒィッ!!怒ってる!!!


「クラウドさん、ありがとうございました。お蔭で初任務、死傷者ゼロです」
「ああ、リト。なんだ?初任務?」

 気安いお友達…。
 そんな感じで会話をする二人の姿。
 『准尉殿』に思いっきり睨まれて萎縮していた俺達は、思わず顔を見合わせ、好奇心で胸を一杯にした。
 確か……『ティファ・ロックハート』の店の常連さんだから、『クラウド・ストライフ』と知り合い…って言ってたけど、どうみても『ただの知り合い以上』の関係にあると思う!
 知り合い…っていうよりも『お友達』!?

 呆然とする展開に俺達はあんぐりと口を開けた。
 まず…。
 俺の危機に颯爽と登場したのが…憧れて止まなかった『英雄のリーダー』で…。
 その『英雄のリーダー』と仲が良さそうな……俺の上司の『准尉殿』。
 な、なんで!?
 WROで頑張ったら、そこまで『英雄のリーダー』と仲良くなれるもんなの!?
 も、もし…そうなら……。

 俺、俄然頑張っちゃうもんね!!!

 とか夢見心地で内心ガッツポーズを取る俺に……。

「全員……整列」

 地の底を這うような…『准尉殿』の命令。

 ビクッと身を竦めながら慌てて全員が整列する。
 チラリと周りの隊員達を見ると、皆が皆、どこかしら負傷していた。
 まぁ、負傷といってもかすり傷程度。

 ピキピキと……空気で喉を締め付けられるような錯覚がする。
『准尉殿』は、『英雄のリーダー』の横で明らかに怒っていた。

「今回、偶然にもこちらのクラウドさんが助けて下さったので全員無事だった。全員、敬礼!」

 号令で、一斉に敬礼する。
『英雄のリーダー』は、ギョッとして「お、おい!リトやめてくれ…!」と『准尉殿』に困ったような顔を向けた。

 あれ…?
 心なしか照れてる?
 なんか…意外だなぁ。
 もっとこう、『堂々と』人からの敬礼を受ける人かと思ってた。
 だって、何しろ『英雄達のリーダー』なんだ。
 この星を救った大英雄なのに…。

 なぁんて……暢気に思ってる場合じゃなかった…。

『准尉殿』は『英雄のリーダー』の言葉を聞いたのか、すぐに敬礼を解くよう命令する。
 勿論、全員サッとそれに応じる。
 極度にその場の空気が緊張で張り詰める。
『准尉殿』の表情は……厳しい…。
 明らかに……めちゃくちゃ怒ってる。
 それでも、俺も含め隊員達はチラチラと隣に立つ『英雄のリーダー』を盗み見ずにはいられない。
 だってさ、彼に憧れて…彼みたいになりたいって……その夢だけでWROに入隊した連中が大半だ。
 勿論、星の為に何かしたい…って気持ちもある。
 それはウソじゃない。
 でも、それ以上に『英雄に憧れた』気持ちの方が…大きいんだ。

 だけど。
 そんな『浮かれた気分』は、『准尉殿』の言葉であっという間に破裂して消え去った。


「全員、不合格。『訓練生として訓練所』に戻る事を命じる」


 ………………………………………………………………………………え?
 い、いま……なんて……?

 皆が息を飲む。
 チラチラと『英雄のリーダー』を盗み見ていた視線が、柳眉を逆立てた『准尉殿』を凝視する。
 あの…軽い感じでおちゃらけた雰囲気でもって俺達を和ませてくれていた『准尉殿』と同一人物度は思えない…その厳しい表情に、ザーーッと血の気が引いた。

「お前達、一体何を訓練してきたんだ…なにを学んできた?」
「「「「………」」」」
「『英雄』に憧れて入隊してきた奴が大半だという事は知ってる。現在下士官として…また軍曹やその上の官位を持つ隊員達もそういう人間は非常に多い。だが、それ以上に己の任務をきちんとわきまえている」
 冷たいその声音に、全身が凍りつく。
 誰も…目を逸らせないし微動だにしない。
『英雄のリーダー』が静かにその場を見守っている気配を感じる。
『准尉殿』は言葉を続けた。
「だが…今回の任務は最初に言った様に『簡単なモンスター駆除』だ。この程度の事で緊張し、あまつさえ誤射するとは…」
 ビクリと、誤射したであろうその隊員が身を震わせた。
『准尉殿』はその隊員を見向きもしない。
「そしてその後だ。誤射したあと、誰か逃げ散ったチョコボを気にした者がいたか?」
「「「「………」」」」
「誰か、仲間が失敗したフォローに回ったか?」
「「「「………」」」」
「今回の俺達の任務は『天然のチョコボをモンスターから保護すること』だった。これが『人間』を保護する事だったら…一体どうなっていたと思う!?」
「「「「………」」」」
「モンスターへの攻撃には必ず一列、あるいは二列、場合によっては三列に隊を組む。囲まれそうになったら円陣を組む。そうすることで、仲間や自分にモンスターの襲撃が来ないようにする。これは常識だ。これを思い出した奴がいたか?」
「「「「………」」」」
「俺が飛び出したのは俺が『今回の任務のリーダー』で、チョコボを保護する為にはああするしかなかった。その後、モンスターの標的が俺達に向いたときに『隊を乱さない』という最低限度の常識を思い出した奴がいたか!?」
「「「「………」」」」
「そんな事も出来ないばかりか、パニックに襲われて闇雲に発砲し、モンスターにいいように翻弄されて弾切れを起こすとは…」

 ここで『准尉殿』は言葉を切った。
 ギンッと怒りを込めて一同を睨みつける。

「更には、まだモンスターの残党が残っているにも関わらず、警戒を怠ったばかりか、浮かれ踊って『英雄』を取り囲むとは…この大バカ者共め、お前達、最初からやり直せ!!」

 ぐうの音も出ない。
『准尉殿』の言う事は至極ごもっともで…。
 誰もが青ざめて口を閉ざして俯いた。

 確かに……そうだよな。
 俺達は『任務中』なんだ。
 それなのに、憧れた存在の突然の登場にすっかり我を忘れてはしゃいじゃってさ。
 おまけに、真後ろにモンスターが残ってたのにそれに気づかないで…。
 って言うか、『クラウド・ストライフ』が来てくれなかったら、確実に俺は死んでたわけで…。
 そうなった原因は…やっぱりこの『任務』に対する『姿勢』がなってなかったから……だろうな。
 どっかで思ってたんだ。
 緊張してガチガチになりながらも……『なんとかなる』ってさ。
 だって、『初任務』だろ?
『准尉殿』も『簡単な任務』って言ってたし。
 でもそれは、『気を抜いて良い』ってことじゃないんだもんな。
 俺達は皆…そこんところを間違ってたんだ……。

 情けないな…。


 心底惨めな思いをしながら、俺達は『准尉殿』の指示で飛空挺に向けて引き上げだした。



「どうしてクラウドさんがここに?」

 俺達の前を行く『准尉殿』が、隣を歩いてる『英雄のリーダー』に話しかけてる。
 デカイバイクをなんともないように軽々押しなら、
「ああ、実はティファと子供達もここに来る事になってるんだ。本当は仕事がオフだったんだが、急に配達の依頼が来て断れなくてな。仕方ないから、前から計画してたチョコボでのピクニックをする為に現地集合することにしたら、この騒ぎだろ?気になったからバイクを飛ばした…ってわけだ」
「そうですか。偶然が運んで来てくれた奇跡に感謝だなぁ」

『准尉殿』が冗談っぽくそう言ったけど、でも全然その目は笑ってなくて…。
 モンスターに襲われた瞬間を思い出す。
 本当に…危なかった。
 もしもクラウドさんが来てくれなかったら俺は死んでた…よな……やっぱり。

「よく言う。俺が来なくてもお前の腕なら撃ち落とせただろ?お前が銃を構えてるのが見えたのが、丁度モンスターに斬りかかった時だったからな。止められなかったんだ」


 ………。
 …………そっか…。
『准尉殿』が助けようとしてくれてたのか……。

 もう……言葉がない。
 情けなくて……惨めで……何より悔しくて…。
 俺達はトボトボと上司と『英雄』の後ろを歩いていた。


 飛空挺がもう目の前……と言う時。


 突然、上司と『英雄』が足を止めた。
 危うくその背中にぶつかりそうになってギョッとしたけど、見上げたその背中からは……闘気。

 ビクビクしながら同期隊員達と顔を見合わせた時。


「全員散れ!!」


『准尉殿』が怒鳴りながら銃を構え、上空に発砲した。

「「え!?」」「「な、なんでこんな所に!?」」


 上空には…。
 この地方には絶対にいないはずのガーゴイルが群れをなして飛んでいた。




 あとがき

 誰ですかぁ……二部構成だなんて言ったのは…(汗)。
 本当に……。

 ご〜め〜ん〜な〜さ〜〜い!!(土下座)。
 後編に続きます!!