ユラユラ揺らめく、乙女心(後編)現在、セブンスヘブンには、好奇の視線の真っ只中にいる女性が二人。 女性一人が来るには遅い時間に来店した『クラウドを待つ女性』。 そして、この店の女店長。 ティファとクラウドの間柄を知らない者は、恐らくエッジでは存在しないだろう。 勿論、クラウドとティファの顔を知らない者は割といるかも知れないが…。 しかし、名前はイヤと言うほど耳にしているはずの超有名人のカップルである。 それにも関わらず、この『新顔の可憐な女性』はクラウドに会う為に、彼の帰宅を狙ってこんな遅い時間に来店したのだ。 興味を持つな…と言う方が無理と言うものだろう…。 客のほぼ全員が、ヒソヒソと『女性』とティファの顔を盗み見ながら囁きあっている。 いつもなら陽気な声が店内を満たしているのに、この『女性』の登場でガラリと店の雰囲気が変わってしまった。 妙に張り詰めたような……それでいて自分が動物園の動物になったような気分がする。 こんなにも好奇の視線に晒されている状況は、未だかつてない。 『ジェノバ戦役の英雄』として有名なティファですらそんな気分なのに、この『女性』にしたら精神的にもっと辛いであろう。 カウンターのスツールに腰掛け、ティファが出した料理をモソモソと口に運ぶものの、終始顔は俯きっぱなしだ。 それでも、そんな状況の中、クラウドが帰宅するのをじっと待っている。 その彼女の姿は、ティファが見ても『健気』であった。 『私にはない……『女』らしさ……か…』 クラウドを待つその『女性』に、ティファは胸に刺さった『棘』が深く刺さるのを感じた。 子供達はそんな女性二人を気にしながらも、注文を取ったり、料理を運んだり、空いた皿を下げたり…と、甲斐甲斐しく働く。 ヒソヒソ話をしている客を中心に、「新しいご注文はありませんか?」「この料理、冷めないうちに食べた方が良いですよ?」などなど、実に健気に自分達の出来る事を精一杯頑張るのだった。 その子供達に当然ティファは気付いていたが、何と言って子供達に感謝して良いのか分からないでいた。 それほど、今のティファには余裕がなかった。 突然現れた『女性』に、こんなにも心乱される…。 ティファは己の心の弱さにホトホト情けない気持ちで一杯になるのだった…。 やがて、『女性』が来店して一時間ほど経った時。 店内がざわめきだした。 客達と子供達、そして『女性』とティファがそれぞれ別の意味で待ち焦がれていたエンジン音が、遠くから聞えてきたからだ。 やがて、そのエンジン音は店内にいる全員の期待を裏切らず、店の前で停まる。 エンジン音が途切れてから、店内は急にシンと静まり返った。 それまでヒソヒソと内緒話に花を咲かせていた客達が、一斉にドアを凝視する。 勿論…子供達とティファ…そして…例の『女性』も…。 どの顔にも、様々ではあるが緊張が走っている。 やがて、ドアベルが軽い音を響かせて金髪の青年がドアから現れた。 そして、一歩店内に入った途端、皆の視線が自分に集中している事にギョッとする。 「……なんだ……?」 半分後ずさりそうになりながらボソッと一言呟いたクラウドに、子供達が一番に反応した。 「「おかえり、クラウド!!」」 「ああ…ただいま…って、え!?」 駆け寄る子供達を抱き上げながら、店の時計に目を走らせ、自分の首にしっかりとしがみ付く子供達に目を丸くする。 「デンゼル、マリンも…。いつもならとっくに寝てる時間じゃないか…」 困惑した紺碧の瞳をカウンターのティファに向ける。 しかし、そこで更にクラウドは困惑する事となった。 いつもなら、満面の笑みで……。 温かで安らぐ笑みで「おかえり」と言ってくれる彼女が、何故かその表情を曇らせ、自分をただ黙って見つめているその瞳には翳りがちらついていた。 「ティファ…?」 一体何があったというのか…? さっぱりわけの分からないクラウドは、自分にしがみ付いたまま離れようとしない子供達にも戸惑い、更には自分を好奇の視線で見つめてくる客達に混乱しつつ、仕方なくそのままカウンターへ足を向けた。 カウンターまでの距離が異様に長く感じるのは……この隠そうともしない好奇の視線のせい…。 言い様のない不快感に、思わず眉間にシワが寄る。 しかし、クラウドが不機嫌になるその手前で、彼の紺碧の瞳が漸くその『女性』を捉えた。 「あ……」 クラウドが驚いて目を見開く。 その姿を…ティファはカウンターの中でただ黙ってジッと見守っていた。 『女性』は、クラウドが自分を見てくれた事に喜びを感じたのだろう。 本当に……同性のティファが見ても綺麗で嬉しそうな笑顔を浮かべ、スツールから立ち上がった。 「お久しぶりです、クラウドさん」 ペコリと頭を下げ、再び顔を上げた時、その瞳にはうっすらと透明の雫が浮かんでいた。 「あ、ああ…。久しぶりだな…」 クラウドはそんな『女性』に困惑したような顔をするばかりで、戸惑いを隠せないでいる。 そんな『わけ有り』の二人に、客達の関心が一気に高まった。 静まり返った店内が、再びヒソヒソと囁き声でざわざわとざわめく。 クラウドは、自分が注目されていた理由を悟った。 溜め息を吐くと、自分にしっかりとしがみ付いている子供達それぞれの額に「ただいま」と言いながらキスを贈り、不安そうな顔をして見上げてくる子供達へ、優しい笑みを浮かべて見せた。 聡い子供達にはこれだけで充分だ。 安心したように微笑むと、ゆっくりと身体を離して床に立つ。 クラウドは、改めてカウンターの中で何も言わない彼女に視線を合わせた。 「ただいま、ティファ。遅くなってすまない」 クラウドの言葉に、ティファはビクッと肩を振るわせたが、それも一瞬。 すぐに笑顔の仮面を被ると、 「おかえり、クラウド」 そう言って、カウンターから出てきた。 そして、クラウドを待っていた『女性』とクラウドを交互に見ながら、 「クラウドが帰ってくるのをずっと待っててくれたのよ?ここじゃ、落ち着いて話が出来ないだろうから、二階のデリバリーサービスの事務所でお話したら?」 そう提案する。 店内の客達は、もう少し違う展開を期待していただけに、ティファがあっさり『女性』とクラウドが二人きりになれる環境を整える提案をしたことに対して、拍子抜けをした。 そして、「そうだな」と、これまたあっさりとティファの提案を受入れたクラウドに対しては、不満と少しの嫉妬、そして怒りを感じたのだった。 常連客達は皆、この店の店長に憧れている。 出来るものなら、彼女の隣に立って歩く権利を手に入れたいとすら思っている者も少なくない。 しかし、彼女の隣を歩く権利を持っているのは、この世でクラウドただ一人だと当然知ってもいるのだ。 それ故に、『クラウドなら仕方ない』『クラウドだったら……』と、未練を感じつつも諦め、そして二人を応援しようと努力している者が多いのだ。 勿論、二人の事を心から応援している者だって沢山いる。 しかし、この今のやり取りは客達の大半の反感を買った。 ティファがクラウドとクラウドを待っていた女性に気を使ったのは分かる。 しかし、それをあっさり承諾したクラウドに腹が立のだ。 思わず何人かの客が抗議の声を上げようと腰を浮かせたが、そんな暇も与えない程、クラウドは『女性』を伴ってサッサと二階へ行ってしまった。 クラウドが『女性』を伴い二階へ消えるのを黙って見送っていたティファは、知らず知らずの内に大きな溜め息を吐いていた。 本当なら、クラウドと彼女を二人きりになどしたくなかった。 クラウドに聞きたい事も沢山ある。 しかし、今はまだ営業中。 それにこれ以上、『彼女』を『動物園の檻の中にいる動物』のような気分を味わわせるわけにはいかない。 クラウドが帰ってくるまで、じっと耐えていた健気な『彼女』の事を思うと……どうしても無碍な扱いなど出来ない。 それに何より、こんなにも皆の意識が集中している中、落ち着いて話など出来るはずもないではないか。 ティファが溜め息を再び吐いてふと顔を店内に戻すと、店内は客達の不満と怒りで満ち満ちていた。 「え……と…?」 あまりの変化に、思わず冷や汗が背中を伝う。 そんな女店長に、常連客達が次々と抗議の声を上げた。 「何でティファちゃんはあっさりあんな事を許しちまうんだ!?」 「そうだ!」 「大体、クラウドさんもクラウドさんだ!」 「ティファちゃんという素敵な彼女がありながら、あっさり他の女をプライベートな部屋に入れるとは……!!」 「いや…、事務所だし」 デンゼルがボソッと突っ込みを入れたが、興奮している客達には届いていない。 段々と興奮の波が店内にいる客達に感染していく。 騒々しくなる一方の客達に、ティファはどうやって対処したら良いのか分からなくなった。 客達の抗議の言葉がそのままそっくり、ティファの心を表しているからかもしれない。 いくら自分が勧めたからと言って、あんなにあっさりと……。 それだけ、自分を信じてくれているからかもしれないが…でも……。 本当は…。 本当は少しくらい……そう、ほんの少しで良いから動揺して欲しかった…。 『彼女は何でもないんだ』 そう言って欲しかった…。 だが、そう思う反面、あの場面でクラウドがそんな台詞を口に出来るはずがない事も知っていた。 クラウドは誰よりも優しくて……言葉でどれだけ心が傷つけられるかを知っているから…。 だからこそ、自分の提案をあっさりと受け入れ、『彼女』を客達の好奇の視線から守ってやったのだ。 そんな優しいクラウドだから、自分は彼を愛しいと想っているのだから…。 相反する矛盾した心。 ユラユラと揺れる心を抱えたティファを助けたのは……。 「は〜い、今夜はこれでお終いです!」 「ちなみに明日は臨時休業です!」 「皆さん、また明後日来て下さいね!」 閉店の札を持って店の入り口を大きく開け、客達に帰るよう促す子供達。 看板娘と看板息子の名に恥じる事無く、客達に満面の笑みを向けている。 しかし、目が全く笑っていない。 これまでに無い子供達の怒りの篭った眼差しに、客達はハッと我に返ると、それぞれ気まずそうにテーブルの上にギルを置いて次々と帰って行った。 呆気に取られてその様子を見ていたティファは、最後の客がドアの向こうに消えたと同時に、デンゼルが乱暴にドアを閉めた音で、漸く事態を把握した。 「ちょ、ちょっと二人共…」 「「ティファ!!」」 子供達に一言お説教を……と思って口を開いたティファは、逆に子供達にギロリと睨まれ、次に続くはずだった言葉をどこかに落っことしてしまった。 「は、はい……?」 間抜けな声を上げた母親代わりに、子供達は猛然と捲くし立てた。 「『はい?』じゃないよ!!」 「そうだよ!なんであんだけ言われたい放題なのに黙ってるんだよ!!」 「ティファ、クラウドの事信じて無いの?」 「ティファ、クラウドは絶対に浮気なんかしないって!」 「そうよ、クラウドは一途だって知ってるでしょう!?」 「それに、浮気出来るほどクラウドは器用じゃない!!」 「……デンゼル……それは言い過ぎ……」 「「ティファ!!」」 「………はい、すいません…」 デンゼルの最後の一言で切り返しを狙ったが、あっさりと二人にはねつけられ、ティファはシュンと肩を落とした。 全く……。 これじゃ、どっちが大人で子供なのかしら……。 本日何度目かの惨めな気持ちに陥りながらも、サッサと店の後片付けをし始めた子供達の背中を見ているうちに、ティファはやっと落ち着いてくるのを感じた。 胸に『棘』が刺さった時から……ようやく本当に……。 「じゃ、俺達寝るけど……」 「うん。本当に二人共ありがとう。ごめんね、こんな時間まで手伝ってもらっちゃって」 「そんな事は良いの!ティファは無理し過ぎなんだから…」 子供達に手伝ってもらったお陰で、いつもよりも数倍早く後片付けを終える事が出来たティファは、流石に目をしょぼしょぼさせている子供達を子供部屋に送り、ベッドに横にした。 シーツから顔を覗かせている可愛い二人の子供達は、睡魔と闘いながらも、ティファの事を心配そうに見つめている。 そんな子供達に、ティファは心からの笑みを浮かべると、それぞれの額に「おやすみ」とキスを贈った。 子供部屋のドアを閉めるときに中を振り返ると、身体を少々起こしてまだ心配そうにしている二人の子供達の瞳がティファの目に映った。 『本当に……なんて優しい子供達だろう…』 ティファは、もう一度「おやすみ。大丈夫だから…。ありがとう」小声でそう言うと、笑みを残してドアを閉めた。 店内に戻る途中、クラウドの事務所前を通ったティファの耳に、まだ『女性』とクラウドが何やら話している声が聞えた。 その声はあまりにも小さ過ぎて、楽しそうなのか…それとも深刻な話をしているのか、さっぱり分からない。 そのままドアの外で聞き耳を立てる気にもならず、ティファはそのまま店内へと足を向けた。 子供達の心配そうな顔を思い出すと、不謹慎と思われるかもしれないが、どうしても嬉しさがこみ上げてくる。 本当に自分は恵まれている……そう感じずにはいられない。 あんなに思いやりがあり、真っ直ぐな子供達はそうはいないだろう。 そんなにも素晴らしい子供達が自分の傍にいてくれる。 これを幸せと言わなくてどうすると言うのだ。 それなのに…。 たった今、事務所前を通りかかった時に中から聞えてきた話し声に、ティファの浮き立った心は、再び暗く沈んでしまった。 『本当に……なんて欲張りなんだろう……』 可愛くて思いやりがあり、頼もしい子供達が二人もいて自分を支えてくれていると言うのに…。 それだけじゃ飽き足らず、『彼』をどうしても失いたくない……そう思っている自分がいる。 何と欲深い事か…。 ティファは、すっかり片付いた店内を見渡し、一人でポツンといる事に対して急にどうしようもなく寂しくなってきた。 どうも今日は情緒不安定だ…。 自嘲気味な笑みを口許に湛え、カウンターの中へ入る。 そして、カウンターのスツールに腰をかけた時には、彼女の手には酒瓶が握られていた。 飲まずにはいられない…。 何だかそんな気分だった。 スツールに無理やり膝を抱えて座り込み、膝の上に顎を乗せてチビチビと酒を飲む。 きっと、こんな姿を子供達が見たら、益々心配するだろう。 だが、今日はいつもよりもうんと長い時間手伝ってくれて二人共ヘトヘトになっている。 今頃は夢の中だ。 それに…。 クラウドもまだ事務所から出てこない。 「なんでかなぁ…。今日は本当に…ダメダメじゃない……」 一人で酒を飲みながら、ポツリとこぼす。 思い返せば、別に路地裏の男性隊員の一言だって、悪気など無いのだし、何より事実なのだから落ち込む必要などどこにも無いのに…。 それに、クラウドが女性に人気があると言うことだって充分承知している。 今までにこういうことがなかった方が考えれば不思議なのだ。 「そうだよねぇ……別に……私がいなくても……代わりはいくらでもいるもんね……」 酒が進むにつれ、段々ティファの思考は暗い方向へと進んでいった。 もしも…。 さっきの『女性』がクラウドの事を真剣に想ってて。 クラウドもそんな『彼女』の心に打たれて…。 二人がこのまま……なんて事になったら……。 私はどうしたら良いのかな……? 子供達は…どっちに着いて行くんだろう…? 私と一緒にいてくれるだろうか? それとも、バレットあたりが、憤慨して子供達を取り上げてしまうだろうか…? そうなったら……。 「私…一人ぼっちか……」 「誰が「一人ぼっち』なんだ?」 突然背後から声をかけられたティファは、無理な姿勢で座っていた為、びっくりした拍子に文字通りスツールから転がり落ちそうになった。 それを、逞しい腕が軽々と支える。 「ティファ…どれだけ飲んだんだ?」 「ふぇ?」 自分を未だに抱きとめたままのクラウドが、呆れたような顔をして覗き込んでいた。 「あ……あれ?」 少々慌てて立ち上がろうとするが、視界がグラリと歪む。 「ちょ、こら!危ないから!!」 慌てふためくクラウドの声が、やたら遠くから聞える。 再び抱きしめられるようにして支えられたティファの視界に、店の時計が奇妙に歪んで映った。 その時計の針の指し示す時刻に、アルコールでぼんやりとしつつも、「うそ〜……」と、驚きの声を上げざるを得ない。 なんと、一人で飲み始めてから二時間近く経っているではないか! 「まったく……大丈夫か?」 呆れ切った顔をしながらも、その声はどこまでも優しくて…。 「お、おい……!」 ティファの赤茶色の瞳に、あっという間に涙が溜まり、雫となって溢れ出す。 嗚咽を漏らして自分の胸に顔を押し当てるティファを、オロオロしながらそっと抱きしめるクラウドに、ティファは聞きたかった言葉を全て涙で流しだしてしまったようだ。 何一つ、言葉に出来ない。 優しく、小刻みに震えるその背を撫で、「どうした?」「なにかあったのか?」「それとも、本当はどっか具合でも悪いのか?」と、見当違いの言葉ばかり口にするクラウドに、それでもティファは幸せを感じてしまう。 少なくとも、こうして抱きしめてくれている間は、自分が彼に愛されていると感じることが出来るんだから…。 暫くそうして時を過ごし、漸くティファの嗚咽が小さくなって…やがてそれが完全に止まった時、クラウドは自分に寄りかかる彼女の重みがグンと増した事に一瞬ギョッとした。 「おい、ティファ?」 声をかけるが返事が無い。 聞えるのは、スースーという規則正しい彼女の寝息。 クラウドは一気に脱力した。 そして溜め息を吐くと、彼女の涙に濡れた顔を愛しそうに手で拭う。 クラウドを待っていた『女性』について、ティファが心配しているであろうことはクラウド自身、重々承知していた。 だから、早く話を切り上げてティファに説明をしたかったのだ。 だが、『彼女』は中々諦めてくれなかった…。 『どうしても……ダメですか?』 『ああ…。悪いけど…』 『私がクラウドさんなしでは生きていけないと…言ってもですか?』 『…すまない』 『……ティファさんが…子供達が心配だからですか?』 『…それも勿論あるが…』 『でも、ティファさんならクラウドさんがいなくても大丈夫じゃないんですか?だって、あんなにお強いし、それに生活力だってあるし、クラウドさんが守らなくても…』 『いや、そうじゃなくて…。俺がダメなんだ。ティファと子供達がいないと…』 『……私じゃ…ティファさんや子供達の代わりにはなれませんか?』 『ティファと子供達の代わりになれる人間なんか、いるはずないだろう?それに、それは誰にでも言えることじゃないか。アンタの場合だってそうだ。アンタの事を諦められないって言ってくれてる彼だって、アンタの代わりがいないからこそ、今でもアンタに求婚し続けてるんだろ?』 『…………それでも…私は…』 『あの時は悪かった。アンタがあんまりイヤそうにしてたから、つい首を突っ込んでしまって。まさか、恋人だとは思わなかったから…』 『いえ、いいんです!その事を謝らないで下さい、だって、クラウドさんがああして割って入ってくれたからこそ、私はクラウドさんと出会えたんですから!!』 『いや…だからだ。アンタは勘違いしてる。たまたま、俺みたいに戦闘に長けてる人間にあったことが無いから、その時の衝撃を『恋心』と勘違いしてるだけだ』 『そんな事!!』 『じゃあ、アンタは俺の一体どこに惹かれたんだ?』 『え……』 『ハッキリと言えるか?』 『…そんな…、だって、出会ったのはあの時一回だけでしたし…』 『ほらな。それで一体どうして俺の事が好きだなんて言えるんだよ』 『…………』 『アンタは退屈してたんじゃないのか?安定した生活と、どこまでも自分を甘やかしてくれる彼氏にさ…』 『…………』 『と言うわけだ。だから、もう二度と来ないでくれ。アンタが来たら、子供達とティファが辛い思いをする』 『……子供達はそうかもしれませんが……ティファさんに限ってはそうじゃないんじゃないですか?』 『いや、皆がどういう風にティファを見てるか知らないけど、ティファはとても繊細なんだ。いくら格闘術が得意でも…な。今もきっと、変に勘ぐって落ち込んでるさ』 『…クラウドさんの事を信じてるなら、そんな事は無いんじゃないですか?』 『……そうかもな。でも俺は一度、彼女を裏切ってるから…信じてもらえないのは仕方ない。それでも…彼女を二度も傷つけたりしたくないんだ。何より……俺にとって、ティファ以上の『女』は存在しない』 『……………』 『さ、分かったなら送ってく。流石に女性の一人歩きには不向きな時間だからな』 『………どうしても…?』 『ああ…どうしても』 酔いつぶれて眠ってしまったティファを抱え、クラウドはそっと階段を上った。 そして、器用に寝室のドアを開けると、ベッドに静かに横たえる。 閉じられた彼女の目尻から、スーッと透明の雫が流れ落ちた。 それを愛しそうに……そして、心から申し訳なさそうに指で拭う。 彼女の隣にそっと潜り込んで、優しく抱き寄せ、その黒髪に頬を埋め、クラウドは目を閉じた。 朝、彼女が目を覚ましたら一番に言ってやろう。 誰よりもティファを愛してる…。 だから…。 どこにも行かない…。 ずっと…傍にいる…。 あとがき はい、何とか終わりました…ね…(汗)。 本当は、もっとこう……何と言いますか…。 ティファの繊細な心の動きを書きたかったのですが、やはり文章力が無いので……(苦笑)。 ティファは、腕っ節は強くても、とても繊細な心の持ち主だと思うのですよ。 だからこそ、彼女にはクラウドと子供達が必要なんですよね。 そして、そんなティファを、クラウドと子供達も必要なんです。 そんな四人が揃ってこそのセブンスヘブンだと思ってます!!(はい、完全に妄想暴走中) ここまで読んで下さって、本当にありがとうございましたm(__)m |