脆弱な心(後編)「バレット…」 蒼白な顔をして病院の待合室でうな垂れている巨漢の男の肩をクラウドはそっと叩いた。 今回、クラウドが予定以上に早く帰宅出来たのは本当に奇跡だった。 もしも予定通りのスケジュールだとしたら、マリンは死んでいた。 文字通り、バレットに生き地獄を味わわせる結果になったはずだ、今以上の苦しみに突き落として…。 マリンは、1人の若者が目の前で自殺したのをつぶさに見てしまったことにより、精神的ショックで気絶した。 それから丸々二日が経つが目を覚まさない。 駆けつけたバレットはあまりのことに言葉を失い、ひたすら愚昧(ぐまい)だった己を悔いた。 今、ティファがマリンに付き添い、クラウドとデンゼルはバレットに付き添うよう役割を分けていた。 目を離したら自殺してしまうのではないか?と本気で心配だった。 「バレットのおっちゃん、大丈夫だよ、マリンは強いし星の皆がマリンの事を守ってくれるから」 何度目かの慰めの言葉。 バレットはうな垂れたまま、「すまねぇ…デンゼル…」消え入りそうな声で答え、決して顔を上げなかった。 上げられなかった。 マリンと年の変わらないデンゼルをも、自分は『孤児』にしてしまったのだ。 それを今まで忘れていたわけではないが、心のどこかで『許し』が与えられていると錯覚してしまっていたと突きつけられた気がした。 最低だった…と心底思う。 デンゼルはどれほどの苦しみを味わったのだろう? マリンとクラウドの前で自殺をした青年は、どれほどの地獄を味わったのだろう? 突然、大切な者を理不尽に奪われる苦しみと悲しみを味わっていたくせに、憎い敵と同じことを結局してしまった…。 最愛の妻を失い、親友を失い、故郷を失い…。 死んだ方がマシだという思いを味わったくせに、自分の手で同じ苦しみを…、いや、それ以上の苦しみを与えてしまったのだ、自分は。 このまま消えてしまいたい、と切に願う。 だが、それは許されない。 死ぬことが贖罪であるならば、とっくに死を選んだ。 自分1人が死んだところで何も変わらない。 変わらないのなら、罪を背負って生きて、生きて、星に生きる命全てのためになることを成すしかない、そう思って我武者羅に頑張った……つもりだった。 しかし、結局それは自己満足以外の何ものでもなく、晒し者となって死ぬことの方が、より遺族への手向けとなるのでは?…本気でそう思った。 「バレット、死んでもなにもならない」 まるで心を読んだかのように、絶妙なタイミングで静かな声音で言葉をくれたクラウドに、バレットは声なく泣いた。 そう、分かっている。 死んでもなんにもならないどころか、今、軌道に乗りかけている油田開発が頓挫してしまうだろう。 それは、この星にとってなんの益にもならないどころか、マイナスになってしまう…。 アバランチの頃よりも、うんと、うんと頭を使って考えて、考えて、そして出した結論、行動だ。 今、手を離してしまうわけにはいかない。 だけど…。 どこにも出口のない袋小路に迷い込んだバレットの傍らで、デンゼルもグシグシ…、と乱暴に涙を袖で拭いた。 クラウドはそんなデンゼルとバレットを見つめながら、いつ、デンゼルは『アバランチ』の正体に気づいたのだろう?と思っていた。 デンゼルには…まだ言っていなかった。 いつかはちゃんと話しをしないといけない、そう思っていた。 ティファともバレットとも幾度も相談した、デンゼルに打ち明ける時期をいつにするのか…。 本音を言えば、このままうやむやのまま、黙っていたかった。 だが、それは真っ直ぐ生きることを選び、真心を寄せてくれるデンゼルへあまりにも失礼なことだ。 デンゼルに、ちゃんと向き合わなくてはならない。 だから、もう少しだけデンゼルが大きくなったら、と話し合ったのはいつだっただろう? しかし、息子はもう知っていたのだ。 誰からか聞いたのかもしれないし、自分で調べていて知ったのかもしれない、偶然耳に挟んだのかもしれない。 知った経緯はこのさいどうでも良い。 重要なのはデンゼルは、アバランチの正体を知った後も変わらなかったということだ。 幼い少年は、もしかしたらバレットやティファの口から『否定』を聞きたかったのかもしれないし、バレット達から真相を聞かされたら自分が切り離されてしまう、と危惧したのかもしれない。 いや、もしかしたら『アバランチ』だったバレットやティファを、そのまま丸ごと受け入れてくれたのかもしれない。 小さな胸に、大きな広さを持って、自分から愛する家族や生活を奪った憎い仇を丸ごと全部…。 クラウドは、後者ではないか…と思った。 それはクラウドの願望なのかもしれないが、それだけの『器』を少年の中に垣間見る機会は多々あった。 (デンゼル…) しゃくりあげて必死に涙を堪えようとして、堪えきれずにボロボロ泣いている息子を抱き寄せる。 素直にデンゼルはクラウドの腹に顔を押し付け、声を殺して泣いた。 小さな小さな背を、ゆっくりと撫でる。 本当に小さな背、小さな身体。 だが、その内に秘めているものは限りなく広く、大きい。 「大丈夫だ」 デンゼルに、そしてバレットに声をかける。 自分でも驚くほど、凪いだ声音で…。 「マリンは大丈夫だ。星の中にはエアリスもザックスもいる。生みの親もいる。マリンの心が壊れることはない」 一際バレットが大きく鼻を啜った。 クラウドの言葉に慰められたのかどうかは分からないが、バレットは1人ではない、と感じてくれたようだ。 その時、待ちわびた音がした。 「バレット!マリンが目を覚ましたわ!」 ドアを開けた音とティファの弾んだ声。 バレットは勿論、クラウドとデンゼルもハッと顔を上げた。 一瞬だけ視線を合わせると顔を綻ばせて病室へ駆け込んだ。 「父ちゃん」 「………マリン……!」 点滴の針を腕に刺したままではあるが、マリンはたいそう血色も良く、真っ直ぐクラウド、デンゼル、そして最後にバレットを見た。 そのまま花が開くように笑った。 笑って、バレットに両腕を広げた。 何も考えず、バレットはその小さな腕に向かって手を伸ばし、スッポリと愛娘を包み込んだ。 そして、何度も何度もマリンの名を呼んだ。 泣きながら呼んだ。 その姿を見て、デンゼルとティファも泣いた。 笑いながら泣いた。 クラウドはそんな2人の肩をしっかりと抱きしめて、我知らず微笑んでいた。 「父ちゃん、おにいちゃんのお父さんとお母さん、それとお兄ちゃんとお姉ちゃんが『ごめんなさい』って言ってたよ」 ひとしきり喜び合った後、マリンの言葉に皆、目を丸くした。 マリンは驚き惑う皆に、真っ直ぐな目を向けて笑った。 「あのね…。自分で死んじゃったおにいちゃんを、おにいちゃんのお父さんとお母さんが一番最初に迎えに行ったの」 * 星の流れに落ちてきた息子が、それ以上堕ちない様、両腕を広げて受け止めた40歳前くらいの夫婦。 青年の両親だ。 マリンはそれを見ていた。 きっと、両親は今まで苦しんで生きていた青年を温かく包み込むんだ、そう思った。 だが…。 「こんの大バカ者が!」 「アンタって子は本当に〜!!」 ゲシゲシゲシッ! 闇に堕ちない様しっかりと抱きしめた後、青年が自分達の存在をしっかりと理解し、顔をクシャリ…と歪めたのを見て2人とも容赦なくはたき倒した。 はたいて、足蹴にして、ゲシゲシと踏みつける。 青年は頭を庇うようにして背を丸くし、蹲っていたが両親の剣幕の理由がさっぱり分からず困惑しきりなようだった…。 その困惑しきりな青年へ、新たな光の粒子がそーっと擦り寄るようにフンワリ光った。 そしてそれはすぐ、人の形となる。 一目で青年の兄妹なのだと分かった。 えらい剣幕で怒る両親を止めにきたのか、と思いきや…。 「このバカ、このバカ、このバカーー!!」 「ほんっとうに大バカ、死んで出直してこい!!」 両親に加勢するように、亀のように丸く蹲っている弟である青年を踏みつけだした。 マリンは仰天した。 止めなくては! そう思ったが、その時両肩に重みを感じた。 振り返ると、そこには…。 「お花のお姉ちゃん、子犬のお兄ちゃん!?」 ニッコリ微笑むクラウドとティファの親友2人。 悪戯っぽく2人揃って、 「まぁまぁ、黙って見てろって」「大丈夫だから、見てて?」 そう言って、3年ぶりに再会した親子へ視線を流した。 自然、マリンもそちらへ目をやる。 ようよう、家族の折檻から逃れてヨロヨロと青年が起きたところだった。 顔は言いようもない悲しみと憤りで歪んでいる。 「な、なんで…!」 文句の1つでも言ってやろう。 理不尽すぎる家族に青年が苛立ちの声を上げようとしたが、 「「「「 この脆弱者!! 」」」」 あっという間に家族に叱責されて言葉をしぼませた。 そして、そのまま家族に懇々と説教される。 バレットやティファがどのような思いを抱えて懸命に生きているのか。 星に数多還った命が、どれほどアバランチの行為に傷つき、そして彼らのその後の生き様で救われたのか。 青年が見ようともしなかった真実をつぶさに語る家族は、時には悲しそうに声を震わせ、時には青年の愚鈍さに怒りながら、延々と説教をした。 「父さんたちは、アバランチをもうとっくの昔に許してる」 父親がまだ理解出来ないという顔をしている息子に言った。 青年の顔が、まるで捨てられた子犬のように悲しげに歪む。 同時に、自分がこんな目にあうのは、やっぱりアバランチのせいだ、と怒りに燃えた。 すかさず姉がビシッ!とデコピンで弾く。 額を押さえて蹲る青年に、兄が呆れながら腕を組んだ。 「お前ね、アバランチのメンバーに復讐したら本当に俺達が喜ぶと思ってたわけ?」 「本当に大バカねぇ、そんなわけないじゃない」 「母さんはそんな風に育てた覚えはないわよ?」 やれやれ。 呆れながら家族全員、絶妙のタイミングで腕を組んで首を振った。 ずっと見守っていたマリンは流石に気の毒になった。 バレットを恨んでいる青年に対して同情してしまうほど、青年はあまりにも哀れな扱いを受けてるように見えた。 黙ってエアリスとザックスを振り仰ぐ。 2人は、苦笑を浮かべながらも黙ってマリンに首を振って見せた。 マリンも何も言わずに視線を戻す。 青年が震えながら、家族から顔を背けていた。 その足元に真っ黒い染みが広がっているように見える。 マリンの背筋に冷たいものが走った。 何かは良く分からないが、絶対に良くないものなのだ、と本能で察知する。 しかし、マリンの肩に手を置いているエアリスとザックスは変わらずそのまま見守っているだけだったので、マリンもヒヤヒヤしながら黙っていた。 青年はマリンの存在にいまだに気づいていないようだった。 震えながら、そっと家族から後ずさる。 黒い染みがそっと青年の影のように付き従った。 「本当に…わたしの父か?」 声が震えているのは失望か?それとも怒りのゆえか? 家族は青年が開けた距離を縮めるようにそっと近寄った。 それを更に広げるようにもう一歩、青年は後ずさる。 黒い染みもそれに従った。 「本当にわたしの母か?」 顔を片手で覆う。 くぐもった声がいっそ不気味だった。 「本当に…、本当にわたしの…」 「兄ちゃんに決まってるだろ?」「お姉ちゃんに決まってるでしょ」 青年の言葉をさえぎって、兄妹が闊達に言葉を発した。 そしてその言葉の勢いに乗せ、青年との距離を一気に縮める。 黒い染みに躊躇うことなく兄と姉は青年に近づいた。 イヤな靄(もや)が兄妹を包もうとする。 両親も動いた。 子供達を守るべく敢然と立ち向かうその姿を前に、靄がかすかにたじろいだようにマリンには見えた。 兄と姉は、何事もなかったかのように顔を覆ったまま小刻みに震えている青年をギュッと抱きしめた。 「「 本当に泣き虫なんだから(な〜) 」」 その言葉は、先ほどまで呆れかえっていたものとも、怒って折檻していたものとも違い、愛しさに溢れていた…。 青年の震えが止まる。 顔を覆った片手の隙間から、青年の驚いたように見開かれた目が見えた。 そして、青年は一言、呟いた…。 「本当は……分かってたんだ。アバランチを憎むのは間違っているって…。でも…、それを認めてしまったら、わたしは何を目標にしていいのか分からなかったんだ…」 血を吐くような本心に、兄と姉はそんな弟が可愛くて仕方ない、と言わんばかりにグリグリと頭を撫で回した。 「本当にバカなんだからなぁ。お前1人だけでも生き残ってくれたから、こっちはすっごく喜んでたのにさ」 「本当よ。そのうち、アンタのことだから可愛いお嫁さんもらって、可愛い甥っ子と姪っ子を産んで、幸せいっぱいな家族を作ってくれるって楽しみにしてたのに」 「それなのに、なに勝手に1人で盛り上がって復讐とかいう暗い道に突っ込むかなぁ…」 「もう残念!すっごく残念よお姉ちゃんは!アンタの子供、見たかったのに〜!!」 「あ〜あ、当分俺が『おじちゃん』になるのは先の先になっちゃったじゃないか…」 「そうよねぇ、星を一巡りしないとダメなんだもの、あ〜残念」 青年のほっぺに自分のほっぺを押し付けたり、髪を撫で回したりする姉と兄に、青年がノロノロと覆っていた手を離した。 足元の黒い染みが急激にその色を失っていく。 マリンの目の前で、青年は兄と姉に抱きつかれたまま、両親に抱きしめられた。 「本当にこの子はしょうがないんだからなぁ…」 「でも、出来の悪い子ほど可愛い…、とも言うし、仕方ないわね」 そして、少しずつ本来の青年らしい表情を取り戻してきているのを見て、柔らかく微笑んだ。 この微笑こそが、青年の両親本来の微笑なのだ、とマリンは悟った。 青年の足元の黒い染みが完全に消えているのに気づいたのもそのときだった…。 「暫く一緒にいてやらないと、お前はまだまだ危なっかしいな」 「ふふ、そうね。それでも良かったわ、一緒にいる理由が出来たんだもの」 「そうだね母さん、妹はもう完全に星に還っちゃったからなぁ…」 「赤ん坊だったから、星に還りやすかったのよねぇ。あ〜、すっごく残念」 「まぁ、その分、父さんたちよりもうんと早く、命の世界に生まれ変わるだろう。それを見るのも楽しみの1つだな」 父親がカラカラと笑った。 そして、いまだよく理解していない息子のほっぺをみょ〜ん、と引っ張る。 「これから少しずつ教えてやろう。なんで父さんたちがアバランチを許すって思えたのか。時間は沢山あるからな」 そして、そっとマリンへ顔を向けた。 母親、兄、姉も向ける。 初めてマリンを見た青年の家族に、マリンはちょっとドキッとした。 両肩に感じるエアリスとザックスの手の温もりがなかったら、もっとドキドキしただろう。 「ごめんな、お嬢ちゃん。お父さんに『怒ってません』って伝えてくれるかい?」 「それから、ご家族のみんなにも『息子がごめんなさい』とも伝えてくれる?」 温かいその言葉に、うっかり涙がこぼれそうになった。 マリンは目をパチパチさせ、笑ってみせた。 「それと、『確かに、俺たちみたいに許している命ばかりじゃないけど、アンタ達の今の生き様に共感している命も沢山ある』って言っといてくれるか?」 「『脆弱な心しか持たなかったから安直な道に突っ走ってしまった弟を許して』とも伝えてくれるかしら?」 兄と姉がちょっぴり申し訳なさそうに笑った。 マリンは黙って頷いた。 頷いた拍子に一粒だけ涙がこぼれた。 「お嬢ちゃん、怖い思いをさせてごめんな」 青年の父親がマリンに軽く頭を下げ、青年以外の家族みんながそれに倣った。 そうして頭を下げたまま、家族は青年と共にスーッと消えたのだ。 * 「んでね、お花のお姉ちゃんと子犬のお兄ちゃんが言ってくれたの」 ―『自分に出来ること精一杯を頑張っているんだから、そのまま胸を張って頑張れ』― ―『過ちはどうしても消せないけど、それを忘れない限り、みんなは大丈夫』― ―『俺達はずっと見守ってるから、大船に乗った気持ちでいろよ?』― ―『そうそう!大丈夫よ、泥舟じゃないから沈まないわ〜』― ―『エアリス、不吉なことをわざわざ言うなよな…』― ―『あら、言わないと余計な突込みを受けそうなんだもの』― ―『誰にだよ…』― ―『もう、うるさいわよ、ザックス!そんなくだらない突っ込みいれてないで、マリンをとっとと戻してあげるわよ!』― ―『都合が悪くなるとすぐこれだからなぁ…』― ―『なにか言った?』― ―『いいえ、何も言っていません、お姫様』― ―『うむ、よろしい』― マリンの言葉に、バレットはクシャクシャと顔を歪めた。 ティファも口元を両手で覆って目に涙を浮かべる。 デンゼルは嬉しそうにクラウドを振り仰ぎ、クラウドは頬を緩めて息子の頭をクシャリ、と撫でた。 「みんな、見守ってくれてるんだよ、父ちゃん。だから、これからも頑張ろうね」 マリンの明るい言葉に、バレットはとうとう肩を震わせて号泣した。 * 「脆弱な心……か…」 目を覚ましたその日のうちにマリンは帰宅した。 バレットが子供部屋でマリンと一緒に寝ることになったので、デンゼルを挟んで川の字で横になったクラウドとティファは、デンゼルが眠ってからもなんとなくポツポツと今回の事件を話していた。 その会話の途中で、ポツリ…とクラウドが呟いた。 ティファは不思議そうな顔をして黙って続きを待っている。 クラウドは少しだけ眉尻を下げて苦笑した。 「いや…。なんか俺もそうだなぁ…と思ってさ」 「クラウド…」 「いつも自信なんかないし、すぐに心が乱れる。腹も立ちやすいし、そうかと思うとあっという間に不安になる。こういう風に気持ちがウロウロするのって、やっぱり心が弱いってことだろ?今回の彼と同じだなぁ…と思ってな」 青年の憎しみは良く分かるつもりだ。 故郷を灰にされたクラウドもティファも、セフィロスと神羅を憎んだ。 憎んで、恨んで、それがそのまま気がついたらセフィロスを倒すこと以外に星を救えなかったから倒した。 もしも、その『大義名分』がなければどうしたのだろう? やはり、あの青年のようにいつまでも憎んで、恨んで、復讐を誓ったに違いない。 青年の両親は脆弱な心ゆえに、バレットやティファの今の懸命に生きる姿を真正面から受け止めようとしないで歪んだ道に走った。 それはとてもありふれていて、彼一人が弱かったから、ということはないはずだ。 「大丈夫だよ」 クラウドはティファの言葉に目を丸くした。 ティファは穏やかに微笑んでいた。 「私達は1人じゃないもの。みんないる。間違った道に行きそうになっても大丈夫。だって、みんなが正しい道へ連れ戻してくれるから。だからね」 「迷っても良いんだよ。弱い心でも良いんだよ。みんなと一緒にいたら、きっと気がついたら強くなれるもの」 クラウドは微笑んだ。 そっと上体を起こし、ティファへ顔を向ける。 ティファもそっと身体を起こして、自然と2人はデンゼルの頭の上で口付けを交わした。 「こんなに可愛い息子も娘もいるんだもの。頼もしい仲間もいる。大丈夫よ」 「あぁ、そうだな」 そうして、もう1度だけ軽く唇を重ねてそっと2人は横になった。 デンゼルを挟んで親子川の字。 幸せを噛み締める。 担いきれない過ちを双肩に負う者ばかりだけど、大丈夫。 脆弱な心で何が悪い? 仲間がいる。家族がいる。 1人じゃないのだから。 「おやすみ…ティファ」「おやすみ…クラウド」 そして2人はそっと胸の中で囁いた。 『『 おやすみ、エアリス、ザックス。本当にありがとう 』』 親友2人の穏やかな息遣いがそっと包み込んでくれた気がした…。 あとがき アバランチの正体をデンゼルが知ってたのか知らないのか、どっちの設定だったのか忘れてしまったので、勝手に『いつの間にかバレていた』という設定にしちゃいました。 今回はかなり暗い話しになりましたが、結局はマナフィッシュ特有の『こじつけハッピーエンド』に(笑) でも、人間は皆心が弱いと思うんですよね。 本当に強い人なんかほんの一握りだと思います。 だから、弱くてもいいんだと思うんです。 傍に誰か友達とか、家族がいてくれたら、それだけで強くなれるんですから♪ |