腕を伸ばす。
 ずっしりと重みを感じさせる武器を手にして…。
 足を曲げる。
 太ももの筋肉を最大限に収縮させ、前へ跳躍するために。
 目はただ真っ直ぐ前へ向ける。
 相手を決して逃がさない。
 許さない。

 歪んだ笑みを浮かべてそこにいる者を、完全に滅ぼす。

 それだけを思って…。






憎悪という感情(前編)







 ―『誰かを憎いと思う、あるいは思ったことがあるなんてことは、汚い心を持っているからではなく、人間として至極普通のことですよ。むしろ、愛情が強い人ほど、その感情は大きく脈打つものではないかと、私はそう思っています』―

 やけに説得力のあるその言葉は、ティファの心に焼き付いてはなれない。
 その言葉を耳にしたのはいつだっただろうか?
 よく覚えていないが、確か、いつもと変わらず店をしている時、ラジオから流れていたトーク番組だったはずだ。
 活気溢れるセブンスヘブンでは、ラジオのトーク番組はあまり流さない。
 音楽の方が店に合っているし、トーク番組など聞いている客はほぼいないからだ。
 だが、その日はいつもの局番が特番ということで、有名なカウンセラーを招いてのトーク番組に急遽変更となった。
 昨今では、星痕症候群で亡くなった遺族の悲しみを和らげるため、心の傷を癒すためにカウンセラーが大活躍していた。
 そのカウンセラーに寄せられた苦しみや悩みの相談の一部をラジオで紹介していたのだ。
 その中で、カウンセラーが言った言葉の一部がこれだった。

 それまでは何となく耳に入ってきていたラジオだったが、鮮烈な印象として入ってきた言葉は後にも先にもこれ一つだけ。
 他の客達の喧騒の合間をスーッと縫ってティファの耳に飛び込んできた。

「愛情が強い人ほど……か…」
「ん?どうしたんだ、ティファ?」

 思わず零れた独り言。
 耳ざとく常連客の1人がティファに声をかけた。
 ハッと顔を上げて取り繕ったように笑う。

「いいえ、なんでもないんです」
「そうかい?でも、遠慮すんなよ?俺、ティファのためならなんだってするからさ」

 自分では最高の笑顔だと思っているのだろう笑みを浮かべた青年に、ティファはニッコリ微笑んで背を向けた。
 料理に専念するフリをしつつ、この馴れ馴れしい常連客に内心で溜め息をつく。
 この青年のお調子の良さはいつまで経っても慣れない。
 ティファに言い寄ってくる男性は数知れず。
 ティファ自身が知らない影でのバトルをその数に入れてしまうととんでもないことになるのだが、ティファが自覚した『求愛』だけでも大変な数になる。
 その中でもこの青年は一風変わっていた。
 まず、遠慮がない。
 ティファにはクラウドがいるということはもうとっくに知っているのに、それには全く頓着していない。
 ひたすらティファへのアタックをかます。
 しかも、性質の悪いことにイヤミがないのだ。
 それはもう、あっさり、さっぱりしたアタック攻撃。
 女心をくすぐる童顔、それに浮かぶあっけらかんとした表情、人懐っこい笑み、カラカラと良く笑う人の良さ。
 一般的な常連客達や、ティファへの想いを封印させた男性達から見ても、彼はどうにも憎みきれないものを持っていた。
 だからこそ、性質が悪い。
 デンゼルとマリンも困ったように顔を見合わせるだけで、特に間に入ってなんとか…、ということには今のところなっていない。
 だからと言って、青年を受け入れているわけではない。
 ただ単に、今のところ間に割って入るだけの『緊急性』や『危機感』を感じる場面になっていないだけ…。
 しかし、いつもならすぐに『営業スマイル』でティファと邪な思いを抱えている客の間に割って入ってくる子供達がそうしてきたことがないので、ティファは子供達もこの青年を困惑しながら受け入れているのだと勝手に思っていた。

『ほんとに変わった人…』

 ティファは青年の誰彼憚ることなく『求愛』してくるその姿に、呆れや諦め以上に、『不思議な人だ』という思いの方が強かった。
 だが、『不思議な人』だと思っている以上に、この青年と今後、どうやって接したら良いのかさっぱり分からない、という戸惑いを感じている。
 クラウドとの仲はあくまで『恋人』。
 もしもこの関係が『恋人』から『夫婦』に変わったら、青年は『求愛』をしなくなるだろうか…?
 …。
 答えは『否』。
 本人に直接聞いたことはないが、なんとなく結婚しただけで諦めてくれるとは考えられない。
 ティファが正式にクラウドの妻となったとしても、この青年のことだ。

『じゃあ、愛人で良いよ』

 などと、ぶっ飛んだことを言いそうだ。
 いや、言う。
 絶対に言う。

 何故か確信を持ってそう言えるキャラってどんだけ濃いの?
 などなど、自分自身の結論に突っ込みを入れてしまうほど、この青年は変わっていた。

 それなのに、彼は自分の身については一切明かさない。
 生まれ、育ち、就職先等々。
 ティファにアタックしてくる男性達の大半は、自分と一緒になったらティファにどんな大きなメリットがあるか、ということを熱心に話してくる。
 それこそ、今の収入がどれだけあるから、子供達と一緒に自分の元に来て欲しい、というあからさまな誘いも沢山あった。
 だが、この青年は違う。
 家族がいるのかすら話していないし、今現在、住んでいる場所すら話していない。
 勿論、ただの客ならそんな話しをわざわざ店主にしてくることはないだろうが、ティファに求愛する男が、それらに一切触れていないことがなんとも妙だ。
 それだけ、ティファに対して『真剣ではない』ということなのかもしれない…。
 いや、どうだろう…?
 もしかしたら、彼なりに真剣なのかも…。

 等々、気がついたらこの青年のことで頭を悩ませている自分がいて苦笑してしまう。

 ティファはどんなに悩んだとしても、所詮自分はクラウド以外の男性に強く心惹かれることはないと自覚している。
 だが、それはあくまで自分のこととして自覚しているだけで、他の人から見たら思い悩んでいるその姿が、どういう風に映るか、ということも分かっていた。
 きっと、ほぼ100パーセントに近い確率で、クラウドとこの青年の間でティファが揺れていると見られるだろう。
 そんなくだらない誤解を受けるのはまっぴらごめんだった。
 だが、そう思うくせに、気がついたらこの青年に振り回され気味になっている自身に辟易する。

『もう、本当にどうしてこうも気持ちがウロウロしちゃうのかしら』

 自身を叱咤しながらティファは問う。
 無論、彼女が心乱されるのはそれだけ純粋で真っ直ぐなためなのだが、当の本人には分からない。
 それに、ティファが青年のことを考えてしまうのは一種の『防衛本能』によるものだ。
 ティファはうすうす感じていた。
 この常連客の『変化』を。
 ここ最近、彼に対して『違和感』を感じることが多くなってきていた。
 それが一体なんなのか、実はもう分かっているのだろう…と、自分自身に問う。
 本当は分かっていることに気づくまいとしている自分。
 そんな自分に辟易するのだ。
 そうして、そんな風に自分を追い詰めるようにして考えている時には決まって…。


「あ、今、俺のこと考えてくれてただろ?」
 ニカッ。

 イヤミなくらい爽やかに笑って言い当てる青年が憎らしい。

 ―「えぇ、その通りですよ」( ニッコリ )―

 そう笑って軽く流せれば良いのに、生真面目なティファはムキになって、

「な、なにを言ってるんですか、もう!」
 ボンッ!!

 真っ赤になって取り乱す。
 その姿が見たくて、青年がわざとからかっていることに気づいているのか、いないのか…。
 このように、彼に茶々を入れられて思考がストップしてしまうのだ。


 ティファは、真っ赤になった頬を片手でかわるがわる押さえながら、今夜も熟考することを断念して料理に専念した。


「ティファ…、あれじゃ逆効果だよ…」

 フワフワの髪を左右に揺らしながら少年がぼやく。
 傍のテーブル客が苦笑しながら頬杖を着きつつ、
「ありゃダメだ。完全に手の平の上で遊ばれてる…」
 ふ〜〜…。

 酒臭い息を吐き出しながら女店主と陽気な青年のやり取りを生暖かい眼差しで見つめていた。

 この青年とティファのやり取りが、一種の名物化してから数ヶ月。
 その間、クラウドと青年が一切接触がなかったのか?と言われると答えは無論ノーだ。
 当たり前だ。
 ほぼ毎日通っているのに、クラウドと全く接触しないはずがない。

 ストライフデリバリーは、開業当初からの仕事内容と現在のそれを比べて見ると、日帰りの依頼が多くなっている。
 これは急速に交通手段やその他の日常生活に潤いが現れてきた証拠だろう。
 星に生きる人々の血と涙の結晶とも言えた。
 その結晶のお陰で、クラウドの仕事は泊りがけが多かった頃に比べ、心身ともにありがたい日帰りで事足りるものと変化しつつある。
 そのため、早い日には夕方に帰宅出来ることもあり、そんな日はクラウドもセブンスヘブンの一店員として働いていた。(もっとも、子供達1人分の働きと比べるとクラウドの働きはまるで『入りたてのアルバイト』並みでしかないのだが…。)

 というわけで、ティファに猛アタックをかましているこの青年は、何度もクラウドの接客を受けている。
 そして、クラウドがいようがいまいが全く関係なく青年はティファのことを呼び捨てにし、必要以上に親しく接していた。
 そんな青年に、クラウドが好意を持つはずがない。
 だが、他の常連客達同様、クラウドにとってもこの青年にはどうにも憎みきれない部分があった。
 その憎みきれない部分こそが、この青年の最大の強みでもあり、クラウドやティファにとって…、とりわけクラウドにとっての弱みでもあった。

 星に還ったクラウドの唯一の親友に似ている雰囲気を持っているのだ…。

 明るく、人一倍優しいソルジャー、ザックス。

 無論、顔立ちが似ているのではない。
 青年の立ち居振る舞い、持ち合わせている雰囲気、それらが酷似していた。
 ゆえに、ティファ以上にクラウドはこの青年のことに対して遠慮があった。
 ティファはザックスと接した時間がクラウドよりも短いため、ザックスと重ね合わせることがないようだが、ザックスに魂を救われたクラウドにとって、この青年の存在は強烈だった。

 誰とでも親しくなれる陽気さ。
 へらへら笑っているのかと思えば、実は周りを良く見ている抜け目のなさ。

 クラウドはこの青年があからさまにティファに対して好意を寄せていることを知りつつ、どうしても友人への思いから一般の『横恋慕男』に対するような態度を貫くことが出来ず、弱腰だった…。
 それが、この青年を毎晩セブンスヘブンに通わせていることに気づいてはいないだろう…。

「なぁなぁ、ティファ。クラウドはいつ帰ってくるんだ?」
「えっと…あと1時間くらい…」
「そっか。楽しみだなぁ。一昨日から泊まりの仕事だっただろ?なんか1週間以上あってない気がするんだよなぁ」

 馴れ馴れしいのはティファへの態度だけではなく、クラウドに対してもそうだった。
『馴れ馴れしい』のか『親しみを込めて』なのかは、受け取る側と見ている側、そして与えている側の3者の立場に立ってみてみると微妙に異なる。
 この青年とクラウド、ティファが良い例だ。

「またクラウドのこと呼び捨てにしてる…」
「…マリン」

 眉間にしわを寄せた妹に、デンゼルが小さい声でたしなめた。
 マリンはこの青年のことが気に入らない。
 たしなめたが実はデンゼルも気に入っていない。
 なにが気に入らないのかはっきりと言葉に出来ないが、なんとなく『イヤな奴』だとインプットされていた。
 きっとそれは、子供の純粋な眼差しと直感によってもたらされた結果であろう。

 ティファを見る青年の目。
 クラウドを見る青年の目。
 そして、周りの客への態度。

 それら全部が気に入らない。

「ティファのこともクラウドのことも、鼻で笑ってる…」
「…マリン」
「だって…!」

 思わず大きな声になりかけたマリンを、デンゼルは人差し指を立てて「しっ!」と制した。
 幸い、すぐ傍にいたほろ酔い気分の客にしか聞かれておらず、中年の男はニヘラ〜、と笑ったが、それがデンゼルとマリンのやり取りを正確に理解して笑ったのか、ただ単に子供の喧嘩だと思ったのかは分からない。(恐らく後者だろう)

「デンゼル、マリン、お願い手伝って」

 ティファがカウンターから声をかけた。
 2人して顔を向け、返事を返そうとしたが、その一瞬早く、

「『デンゼル、マリン、お願い手伝って』」

 ティファの声音を真似し、青年が茶化した。
 マリンの眉が危険な角度に跳ね上がる。
 デンゼルも、胃の辺りがざわざわとする不快感を覚えた。
 だが、人間とは不思議なもので、自分以外の人間が自分以上に腹を立てていると何故か自分はさほど怒りを感じずに済むことがある。
 デンゼルは今まさにその状態だった。
 マリンの怒りがそっくりそのまま、デンゼルの怒りを吸い取ってくれたかのようだ。

「兄ちゃん、気持ち悪いからやめろよな〜」
「なんだよ、似てただろ?」
「似てないって。俺、もう1回聞いたら吐いちゃいそう」
「じゃ、もう1回聞かせてやる〜!」

 本音を冗談めかして言葉にし、青年が可笑しそうに笑ったのを見てニッカリ笑い返す。
 マリンはそんなデンゼルにヤキモキしながら、青年をチラリとも見ずにティファのところまで行くと、口をへの字にしたまま出来たてほやほやの料理を受け取った。

「マリン、ごめんね?」
「どうしてティファが謝るの…」
「うん…なんとなく…」
「変なティファ」
「うん…、ごめんね」

 ティファが何に対して謝っているのかマリンには分かっている。
 まだ幼い子供であるマリンとデンゼルに店の手伝いをさせている。
 今夜のように不愉快な思いを味わいながら、グッと歯を食いしばって耐えなくてはならない環境の職場で。
 それをティファは謝っているのだ。
 そしてマリンは、ティファが謝ったことでティファに気を使わせてしまっている自分に気づき、自分自身にも腹が立ってきてしまった。
 ティファに気を使わせてしまった自分に苛立つ。
 だからティファの謝罪が余計に痛い。

 ふぅ〜〜…。

 大仰に溜め息を吐いて気分をリセット。
 顔を上げた時には、看板娘には満面の笑み。

「私こそごめんね、ティファ」

 照れ臭そうに笑って、注文テーブルに出来たての料理を運ぶ。
 その小さな背に、ティファは胸が温かくなるのだった。

「へぇ、やっぱりティファのそういう顔もイイよなぁ…」

 ハッと振り返ると、デンゼルを間に挟むようにして、青年がカウンターに身を乗り出していた。
 デンゼルがちょっぴり苦しそうにしながらも笑っているので、店の客達は青年がデンゼルとティファを同時にからかっているのだと解釈していた。
 デンゼルもそう解釈していたので、特に問題はなかったのだが、ティファはビックリした。
 青年の気配を感じなかったからだ。

 ティファが彼のことを必要以上に意識していたのにはもう一つ理由がある。
 確かに青年は、とても気さくで…、馴れ馴れしい。
 だがそれ以上に…。

『…また…この目』

 キラリ、と輝く双眸が全く笑っていない。
 暗い炎を湛えたような…その瞳。
 青年がこのような目でティファを見ると、決まって心の奥底がざわざわと騒ぎ出す。
 当然、クラウドも青年の視線には気づいていた。
 だが、クラウドの場合はティファとは違うように見えていた。
 他でもないザックスの姿だ。
 ザックスも、普段はお茶らけていたのだが、『ここぞ!』という時には、瞳の奥底で情熱の炎を燃やしていた。
 だから、クラウドはティファ以上に青年のことを危険視していないし、苦手は苦手なのだが、好意の持てる苦手な人間だ、と認識していた。
 ここに、ティファとクラウドの決定的な違いがある。

 ティファは漠然と思わずにはいられなかった。

 いつか…。
 この青年が隠している本性を表す日が来る…、と。

 人間は誰でも裏と表の顔を持っている。
 裏の顔がすぐ出てしまうかそうでないかで、周りの人間の評価は変わる。
 そして、裏の顔を隠すのが下手なら周りの人間が巻き込まれる率は高くなるし、上手なら『高みの見物』が出来る率はアップする。
 それら全ては無論、当事者によって変わって来る。
 そして、ティファはこの時、初めてこの青年が後者であることに気がついた。
 まさに振って沸いたような直感によって…。
 散々てこずっていたパズルのピースが、ひょんなことからパチリ、と合ったときの衝撃に似ている。

 彼がチラリ、と覗かせた光。
 それはティファを『意識的に警戒させる』に余りある。

 決して表面に出てはいないティファの警戒心を青年は察したのだろう。
 あっという間にいつものお調子者、他の常連客達の人気者の仮面に戻った。
 あまりにもスーッとその表情が変わったものだから、ティファは自分の思い違いかと錯覚するほどだった。
 だが…。
 ティファはジェノバ戦役の英雄だ。
 仮面を被っているかどうか、見分けるだけの嗅覚を持ち合わせている。
 1度、胡散臭い臭いを察知されたら最後、ティファの第六感をごまかせる人間はそうそういない。

 ティファはニッコリ微笑みながら、デンゼルとマリンを呼び寄せた。
 子供達はティファの声に素直に応じる。

「ごめんさい、またすぐに戻りますね」
「ごめん!ササーッと戻ってくるから」

 注文途中でティファの元に集まった。
 ティファが、仕事の最中に意味もなく呼び寄せることなどない、と、重々承知している子供達は、ニッコリ笑いながらも、これからティファが大切なことを話すつもりだと分かっていた。
 ティファは出来たばかりの料理を2人に持たせると、しゃがみ込んで二人の視線にあわせた。
 カウンターの中なので、3人が何を話しているのか、他の客達に聞かれることはない。

「もう今夜は閉店しましょう」
「「 え!? 」」

 ニッコリ微笑みながらのその言葉に、子供達は目を丸くした。
 だが、店主であるティファがそう言い出したら、自分達に止める権利はない。
 この店は、あくまでティファの店なのだから…。

「じゃ、そう言うことだから、外に閉店の看板吊るしてくれる?」

 デンゼルはティファに急にそんなことを言い出した理由を問おうと口を開いたが、結局何も言わないで、
「わかった」
 気を取り直したように笑ってカウンターを出た。
 マリンはその背を見送ってからティファを見上げた。
 ティファは笑みを湛えていたがどこかぴりぴりしているように感じられた。

「ティファ…」
「なぁに、マリン」
「大丈夫…?」
「うん、大丈夫。ごめんね、急にわがまま言っちゃって」
「そんなことは良いの。でも、ティファ、本当に大丈夫?私に出来ることは他にない?」

 真っ直ぐ見つめてくる愛しい少女に、ティファは作り物ではない本物の笑みを浮かべた。

「大丈夫。ありがとう、心配してくれて。じゃあ、ラストオーダーにしましょうか」
「うん!」

 丁度戻ってきたデンゼルを迎えながら、ティファは申し訳なさそうにラストオーダーとさせて頂く旨、客達に頭を下げた。


 お調子者の青年が目を丸くして見つめているのを感じながら…。