a lost child 2コレル村…。 バレットの故郷であり、記憶にこそ残っていないがマリンの故郷でもある。 コレル村の人間には、二年前の旅の最中に会っていたが、とてもバレットを歓迎しているとは言い難かった…。 そして、旅が終わった後も訪れたのだが、来ない方が良かったと思ってしまうような…そんな悲しい風景が広がっていたものだ。 この二年の間に、少しは変わっているだろうか? 少しの期待と大きな不安を抱え、バレットを先頭に一行は村に足を踏み入れた。 正直、コレル村に入りたくないというのがバレット、クラウド、そしてティファの気持ちだったのだが、コレル村を通らないとゴールドソーサーに行けないのだから仕方ない…。 村の入り口は相変わらず寂れた感じが漂っていた。 もう、その入り口を見ただけでバレットは気持ちが一気に下降するのを感じた。 ただ、マリンの手前、逃げる事は出来ないと己を鼓舞する。 暫く村の中を歩く一行は、何となく沈黙しがちになっていたが、それでもマリンとデンゼル、それにお元気娘のユフィはキョロキョロと物珍しそうに周りを見て歩いていた。 時折、村の中にある露店商に興味深そうな視線を投げ、笑い声を上げたり楽しそうな表情を見せている。 何も事情を知らない子供達が、村を見ながらのびのびとしているのは分かるのだが、事情を知っているはずのユフィまでもが実に伸びやかな事に、クラウドとティファはそっと苦笑した。 自分達には到底真似の出来ないその自然な姿。 いつもは強がる傾向にあるシドですら、緊張からか時折話しかけてくるシエラに答える以外は黙りこくっている。 その自然体の子供達とユフィの存在が、今のバレットをどれだけ支えてくれているか…。 クラウドもティファも…そしてナナキもシドも心の中で賞賛するのだった。 やがて、ゴールドソーサーへ続くゴンドラの入り口に辿り着いた一行は、そこでたむろしている村人に出会った。 彼らは、丁度昼休憩を取っているようだった。 それぞれに弁当らしきものを広げ、楽しそうに歓談している。 そのうちの一人とバレットの視線が合った。 その途端、弾かれたようにその村人が立ち上がった。 何事かとその場にいた村人も引き寄せられるようにバレットを見て、皆が目を丸くした。 クラウドとティファ、そしてシド達は身構えた。 バレットが子供達の目の前で詰られる可能性を考え、咄嗟に子供達を抱えてゴンドラの方へ走ろうか……? 本気でそう迷った時、立ち上がった村人がバレットの元に駆け寄ってきた。 そして、そのまま勢い良くバレットの肩を抱き、大声を上げて泣き出した。 呆気に取られるクラウド達の目の前で、他の村人達も駆け寄り、あっという間にバレットは村人に取り囲まれ、その肩を抱かれ、背を叩かれ、そして大泣きに泣かれた…。 予想だにしなかった村人の歓迎に、当のバレットも初めの頃こそ放心状態だったが、やがてその強面の顔からは想像出来ない程、顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。 この二年間は、決して無駄ではなかった。 バレットが『ジェノバ戦役の英雄』の一人であると言う事実。 そして、その肩書きを振りかざす事無く、自分の犯してしまった罪を彼なりに一生懸命償っている。 その現実を、村人達は風の便りで聞いていた。 そして、その現実に自分達のそれまでをひどく恥じたのだ。 自分達は、ただただ、怒りを何かに…誰かにぶつける事に躍起になり、その矛先をバレットに向けた。 罵倒し、自分達の幸せを奪った村の裏切り者…。 そのレッテルをバレットに貼ることによって、この現実から…苦しい現実から逃避していたのだ。 しかし、その当のバレットはどうだろう!? 逃げずに真っ直ぐ、己の過去を償おうとしているではないか。 それに比べて、自分達の何と情けなく、愚かな姿である事か…。 その事実に気付くのに、時間がかかってしまったが、それでも村の人達は時折風が運んでくるバレットの活躍を活力に、村を復興させる事に全身全霊をかけ、頑張った。 一日でも早く、バレットに胸を張って『帰って来い』。 そう、言える日を夢見て…。 村人達のその言葉に、バレットは終始泣き通しだった。 想像すらしていなかったそれらの言葉の数々に、クラウド達も心から喜んだ。 「マリン、ほら、ちょっとこっち来い…」 泣き過ぎて鼻声のバレットに呼ばれ、おっかなびっくりしているマリンに、村人達の視線が集まる。 「マリンって……もしかして……!?」 驚く村人達に、バレットは嬉しそうに二カッと笑うと、おどおどしているマリンを肩に担ぎ上げ、 「ああ、ダインの娘だ」 と紹介した。 村人達がまた新たな嬉し泣きに誘われたのは言うまでもない。 困ったような顔をしてバレットの肩の上でおどおどとしていたマリンだったが、自分が…そして何よりバレットが村人に歓迎されている事に少しずつ緊張をほぐしたようだ。 ゴールドソーサーへのゴンドラに乗る頃には、すっかり村人達とも仲良くなり、満面の笑みで手を振っている。 勿論、ゴンドラに乗るまでの間に、しっかりとクラウド達も紹介され、マリンの現親代わりであるという事で、熱烈な歓迎を受けた。 それは、兄代わりのデンゼルも同様で、困惑仕切りのデンゼルに『村の名産』と称した怪しげなお面を押し付けた。 デンゼルは、お面を受け取ると実に嬉しそうに笑って早速被って見せた。 その姿に、更にその場が盛り上がったのは言うまでもない。 ゴンドラに揺られながら、小さくなっていくコレル村を食い入るように見つめるバレットに、 「良かったね…」 そう言って、ティファが微笑んだ。 その笑みに、新たな涙を滲ませながらバレットは二カッと笑って見せた。 それは、過去を完全に乗り越えた男の笑顔だった。 やがて、煌びやかなネオンが視界一杯に広がり、ゴールドソーサーへとゴンドラはゆっくり入って行った。 「「わ〜〜〜!!」」 目の前に広がる無限とも思えるその夢のような世界に、子供達が歓声を上げる。 「う〜ん、ひっさしぶりだなぁ!!」 ゴンドラから解放された乗り物酔い体質のユフィがう〜んと伸びをする。 子供達は、既に入り口近くまで駆け出しており、「「早く早く!!」」と、のんびり歩く大人達を急かした。 入り口のゲートをくぐると、想像以上の客達に一行は目を丸くした。 こう言っては何だが、世界はまだまだ復興途中。 それなのに、こうしてこの娯楽施設へ遊びに来られる人間がこれほどいるとは……。 自分達の事を棚に上げて、 「どこから来たんだ…」 「本当に、お金ってあるところにはあるのね…」 「それにしても、凄い人だねぇ…」 と囁きあう。 そんな中、 「あ…私、何だか人酔いしそうです」 「おいおい、大丈夫かよシエラ!?」 目の前の光景に、早くもクラクラと眩暈を起こした妻を前に、シドがおたおたとする。 そんなこんなで、皆がはぐれないように…と、それぞれ気をつけながらも、周りのアトラクションに目を惹かれ、特に子供達はあっちへフラフラ、こっちへフラフラ…。 子供達の迷子対策として、マリンとデンゼルは、バレットがそれぞれ両の肩に担ぎ上げる事になった。 人混みからうんと高い位置から目をキラキラさせて周りを見渡す子供達は、ひとまずこれで迷子になる心配はないだろう。それに、バレットと子供達の姿は人混みの中でも良く目立つ。 その目立つ三人を目印に、人の波にもまれながらも何とか一行は最初のアトラクションであるジェットコースターに辿り着いた。 ここで一行を困らせたのが、ジェットコースターの待ち時間が何と二時間という現実。 「俺、絶対に乗りたい!」 「私も〜!」 滅多に駄々をこねない子供達が、どうしてもジェットコースターに乗りたいと言ってきかない。 しかし、二時間もここで過ごすのは何とも時間が勿体無い。 他にも色々アトラクションはあるというのに。 それに……。 皆、実は空腹だったりするのだ。 空きっ腹を抱えて二時間も待ちぼうけ。 しかも、空きっ腹にジェットコースターとは……自殺願望でもあるのではないか!?!?(クラウドとユフィ論) そこでシエラが口を開いた。 「皆さん、交代で食事に行って来て下さい。その間、私が並んでますから」 すっかり人酔いをしてしまったらしいシエラが、青い顔をして弱々しく微笑んだ。 「なに言ってやがんだ!そんな青っ白い顔した奴を一人で放っておけるかってんだ!」 口では偉そうな事を言っているシドだが、本当はシエラが心配で堪らない…と言うのが、その表情を見て良く分かる。 クラウドとティファは、取り合えずその長蛇の列にそのままシエラを並ばせるのが躊躇われた為、近くにいたスタッフに声をかけ、簡易椅子を借りる事に成功する。 その椅子にシエラを座らせ、シエラの傍にいるというシドの分も含め、昼食の調達に売店へと向かった。 その売店でも当然かなりな人混みで…。 若干周りの人に白い目で見られながらも、それを跳ね飛ばしたお元気娘が無事、人数分の昼食をゲットしてホクホク顔で戻って来た時には、クラウドとティファは思わず苦笑しつつもユフィの功労を労った。 そして、再びジェットコースターの長蛇の列に向かう。 列は、全くといって良いほど進んでいなかった…。 取り合えず、シドとシエラの分の昼食を渡すと、そのまま列に並んでいると言うシエラの好意に甘えて、クラウド達は他のアトラクションを見て回る事に決めた。 当然、シエラが残るのでシドも残る。 シドはしきりに「こんな人がうじゃうじゃいる所を歩く気なんざこれっぽっちも起きやしねぇ」と最後まで自分に素直でない言葉を口にしていたが、人に酔った妻が心配だという事は一目瞭然だった。 シドの気性を慮って(おもんばかって)、ユフィですらからかったりはしなかった。(ただし、かなりニヤニヤしながらシドを見ていたが) 一行はシド夫妻と別れて、取り合えず園内のベンチに腰を下ろして遅めの昼食を頂く。 味は……まぁ、ティファの手料理に慣れている面々には不満も多々あろうが、この際、文句は言えない…。 掻っ込む様にして食事を終えると、子供達が元気良くバレットの手を引っ張った。 バレットは、実に嬉しそうに子供達を両の肩に担ぎ上げると、「あっちが良い!」「え〜、俺はあっちが良いなぁ」と言い合う子供達を宥めながら、ホイホイその指し示す方へと足取り軽く従った。 「バレットってあんなに甲斐甲斐しい奴だったか……?」 バレットの甲斐甲斐しい姿に苦笑しながら、クラウドがティファに言った。 「フフ、きっと嬉しいのよ。だって、久しぶりじゃない、こうしてマリンと一緒に過ごすのも」 「そうそう!いっつも汗臭い男達と必死になって油田開発に精出してるじゃん?たまには、こういう心の潤いも必要だって!」 得意げに胸を逸らしながら、賢しげに言うユフィに、クラウドとティファは目を合わせて苦笑した。 その足元で、 「おいらは別に心が乾いてなかったから良かったのになぁ…」 と、ぼそっと呟いたナナキの一言に、ユフィは「誰だ〜、そんな可愛げのない事言う奴は〜〜!」と、両頬を抓られ、その姿にとうとう二人は吹き出したのだった…。 そして何だかんだと賑やかに一行が訪れた先は、何故か『チョコボレース』……。 「おい…」 「なに?」 「まさか…賭け事するつもりじゃないだろうな…」 渋面のクラウドに、ユフィがあっけらかんとして 「ここに来て賭け事しないはずがないじゃん」 と言ってのける。 「ダメよ、子供達の前で賭け事なんて!」 ピシャリと言い切ったティファに、ユフィは猛然と抗議の声を上げたが、バレットとナナキにも「「ダメ(だ)!!」」と言い切られてしまい、渋々チョコボレース場を後にした。 「何で〜、俺、チョコボが走ってるの見たいのに〜」 「私も〜」 残念そうな顔をする子供達に、ユフィの目がキランと輝くのを見逃さなかったクラウドは、 「また今度チョコボファームに連れてってやるから」 と、ユフィが何かを言い出す前にその言葉を封じることに無事成功した。 ユフィは悔しがったのは…(今更描写にするまでもない) その次に向かったのは、ワンダースクェアの一階。 ここにはワンダーキャッチャーやバスケットゲーム、アームレスリングゲーム等が、二年前と変わらず設置されていた。 そして、今回更に新しく追加されていたゲームがあった。 その名も『タッチミーたたき』 もぐらたたきの『タッチミー』バージョンで、草むらと沼地からから現れる『タッチミー』を叩くという単純なゲーム。 それに異様に闘志を燃やしたのが……。 負けず嫌いのユフィ・キサラギ。 たちまちの内にその日のスコアの優勝者となった。 記念品は……なかったのだが、実に満足そうな彼女の姿に、子供達は先を争ってそのゲームに夢中になった。 一生懸命踏み台を使って『タッチミー』を叩こうとするデンゼルとマリンの姿に、クラウドとティファは勿論、普段愛娘に会えない生活を送っているバレットは終始満面の笑みを浮かべていた。 その間ナナキは一人、密かにワンダーキャッチャーでぬいぐるみをゲットしていたりする。 「そろそろシドとシエラさんの所に戻った方が良くないか?」 クラウドが時計を見てそう言った。 既に、二人と別れてから一時間半も経っている。 流石にこれ以上自分達の代わりに番取りをさせるわけには行かないだろう。 クラウドの言葉に、子供達は名残惜しそうにしながらも、素直にバレットの肩に担ぎ上げられ、ジェットコースターへと向かった。 「本当に長い間、すいませんでした」 「いえいえ、私の方こそ椅子を借りて下さったからゆっくり出来ましたし」 頭を下げるクラウドとティファに、幾分気分が良くなったというシエラがニッコリと笑みを浮かべて腰を上げた。 別れて頃に比べると、随分顔色がいい事は確かだ。 その時、シドの足元にいつも『ある物』がない事にいち早く気付いたのはナナキだった。 「あれ…?シド、タバコ吸わなかったの?」 そうなのだ。 いつもヘビースモーカーのシドの足元にはタバコの吸殻が山のようになっていると言うのに。 どうやら流石のシドも、気分の悪い妻の前ではタバコを吸わなかったらしい。 足元にタバコの吸殻が全くなかった。 その事実に全員が目を丸くするして驚いた。(子供達ですら驚いた顔をしたので、シエラはこっそり笑いを漏らした) 「うっせえな!気分の悪い奴の傍でタバコなんか吸えるかよ!」 ヤニが切れたせいか幾分機嫌の悪いシドが、仲間が戻ってその事を突っ込むと逃げるようにして喫煙所に駆け込んでしまった。 その走る後姿に、一行は笑いを堪えることなど当然なく、お腹を抱えて大笑いをしたのだった。 「あと十五分くらいで乗れるそうですよ」 「「やった〜!!」」 嬉しそうにはしゃぐ子供達に、ティファが腰に手を当てる。 「こら、その前にシエラさんにお礼は?」 「あ……そうだった」 「シエラさん、本当にどうもありがとう!」 「ありがとう!!お陰でその間、物凄く楽しめたよ!あ……でもお土産ないや…ごめんね」 バツが悪そうにするデンゼルの言葉に、シエラは優しく笑みを浮かべて「そんな事気にしなくて良いのよ」と頭を撫でてくれたが、その姿に内心冷や汗をかいたのは、二人の子供の親代わりと娘の義父。 『『『そこまで思いつかなかった……』』』 三人が三人とも、実に気まずそうに顔を見合わせた時、漸くタバコを吸って人心地着いたらしいシドが、満足げに戻って来た。 「そんじゃ、俺達はそこらへんを休みながらのんびり散策してくるわ」 「うん。本当にありがとうね」 「それじゃ、五時にホテルのロビーで集合な」 「はい、分かりました」 そう約束を交わすと、シド夫妻はゆっくりと人混みの中に消えていった。 「それじゃ、俺達はここで待ってるからきちんと並んでるんだぞ?」 「え?クラウド達は一緒に乗らないの?」 ジェットコースターの列からはみ出てそう言ったクラウドに、 「だって、シドとシエラさんが順番を取っててくれたのは二人分なんだもの」 と、デンゼルとマリンにティファが説明する。 「それに、私とクラウドは乗り物弱いからさぁ」 「「あ〜、なるほどね」」 ユフィが頭を掻きながらにっと笑うと、子供達は妙に納得顔になり、ウンウンと頷いてくれた。 子供達が素直に聞き入れてくれたことはまことに嬉しいのだが……何故かこう……悲しい気分になるのは何故だろう…? 内心で父親代理としての威厳について少々疑問を持つクラウドだった…。 あとがき ん〜、まだティファは仲間達とはぐれてませんねぇ(苦笑)。 でも、本当はこの回では、バレットの故郷のわだかまりを払拭するお話が書きたかったので良しとします!(良いのかよ…汗)。 次回は……ん〜〜…どうなるでしょうか…(まだ考えてないんじゃ…ぎくり…) ではでは皆様、次回でお会いしましょう(笑) |