a lost child 5




「さってと〜、何か美味そうなもの売ってる売店はねえもんかな…」
 バレットが人混みから頭一つ分高い位置から、キョロキョロと辺りを見渡した。

「二人は何が食べたい?」
「ん〜〜、俺はさっきアイスキャンデー食べたからなぁ」
 ティファの質問に、デンゼルがのんびりとした口調で答えた。
 その言葉を聞いたマリンが、「え〜!私は食べてないのに〜〜!」と、唇を尖らせる。
「マリンが占いしてもらってる間に買って貰ったんだよ…。別に、抜け駆けじゃないぞ!?」
 滅多に食べ物の事で拗ねた顔をしない妹に、デンゼルが妙に慌てて「な、なぁ!!クラウド、そうだよな!?」と、金髪の青年を見上げて袖を引っ張った。
 その様子がよほど可笑しかったのか、マリンは吹き出すと、
「分かってるって!私、そんなに食い意地張ってないもん」
 と、すっかり機嫌を良くし、自分を肩に担いでくれている義父に「じゃ、私、アイスキャンデーが欲しいな」と、可愛くおねだりしている。

 一も二もなく、バレットはアイスキャンデーを売っている露店にマリンを担いだまま軽やかに『歩き出した』。
 軽やかに『走り出した』のではないところが、バレットらしい…。


 ホイホイと、愛娘の為に露店に向かう大男を、クラウド達は苦笑しながら見送った。


「それにしてもさぁ。バレットとマリンって本当にアンバランスな親子だよな」
「「「?」」」
 デンゼルの唐突な言葉に、その場に残った英雄達が首を傾げる。
 不思議そうな顔をする英雄達に、デンゼルは「だってさ〜」と話しだした。

「あんなに『ごつい』顔してるのに、マリン見る時って何かこう、『顔が崩れるんじゃないか』って思うくらい笑顔になるだろ?あれってさ。事情を知らない人が見たら絶対に『ヤバイ大男に女の子が狙われてる』って思うと思うんだ〜」


「「「ブッ!!」」」


 頭の後ろで両手を組んでのんびりと言い切ったデンゼルの辛らつな言葉に、三人は堪らず吹き出した。

 確かに、アイスキャンデー売り場に並んでいる『親子』を、他の並んでいる客達が数歩分距離を空け、チラチラと盗み見ているのが窺える。


「でもさ〜…。マリンもバレットもやっぱり幸せ者だよな」

 再び予想外の言葉を口にするデンゼルに、肩を震わせて忍び笑いをしていた英雄達は、笑みを引っ込めて顔を見合わせた。

 今度は一体、何を言うのだろう…?

 三人が三人とも、そう思っているのが表情から窺い知れる。


「だってさ。マリン、血は繋がってないのにバレットに溺愛されてるじゃん?あそこまで心から可愛がってくれる人を『父ちゃん』って呼べるんだぜ?それに、バレットも溺愛してるのに負けないくらい、マリンに凄く慕われてるだろ?それってさ、この星にいる『親のいない子供達』と『子供のいない親達』の中でどれくらいいるんだろうな…」


「「「………」」」


「あ、別にひがんでるんじゃないんだ。ただ単純に、そう考えただけ。俺も今は凄く幸せだから、そこんとこ間違えないでよな!?」

 デンゼルの重みのある言葉に、英雄達は言葉を失った。
 そして、その英雄達に向かって、デンゼルはニッコリと笑顔を見せてくれたのだ。

「デンゼル…」
「もう、だからティファもクラウドもナナキもさ〜!本当に本当だってば!今、俺は幸せなの!!」
 居た堪れない表情を浮かべて抱きしめるティファに、少々頬を赤らめながらデンゼルはそれでもくすぐったそうに、嬉しそうに益々笑みを深くした。
「そうだな…。俺も、ティファも本当に幸せだよ。デンゼルとマリンがいてくれるからな」
 柔らかな笑みをその口許に湛えて、ティファに抱きすくめられているデンゼルの髪に指を絡ませる。

 その三人の姿に、赤い獣は心から満足そうに…隻眼を細めた。
 数ヶ月前…、『この四人』がこうして『家族』になれるとは思えなかった…。
 今にも壊れてしまいそうな…そんな儚い絆しかなかったと言うのに。

『エアリス、ちゃんとクラウドもティファも幸せだよ』

 ナナキは、胸の中で星に還った花のように笑う仲間へそう呟くのだった。


 満面の笑みでマリンがオレンジのアイスキャンデーを手に戻って来た。
 しかも、何故か二つ…。
「マリン、お腹壊すぞ?」
 クラウドが呆れたように声をかけると、マリンはニコニコしたまま「はい」とそれをクラウドに差し出した。
「俺に?」
「うん、このアイスキャンデー二つに割れるんだ。だから、ティファと半分こしてね」
 ニッコリと笑う愛娘の気遣いに、クラウドとティファは顔を見合わせて少々赤くなりながら笑みをこぼした。
「ほらよ、ナナキ、お前にはこっちだ」
 そう言って、バレットはナナキの為にカップアイスを差し出した。
「わ〜、ありがとうバレット」
 嬉しそうにカップに鼻を突っ込んで食べ始めるナナキを満足そうに見やると、次いでバレットは小さなコーンアイスをデンゼルに差し出した。
「皆が食べてるのに一人だけ食べないのもイヤなもんだろ?」
 ニッと笑うバレットに、デンゼルは同じくニッと笑い返すと素直に感謝の言葉を口にしてペロリと一舐めする。
「ん〜、美味しい!!」
「うん、美味しいね!」
 バレットも時折マリンからアイスキャンデーを分けてもらいながら、至極ご満悦な表情を浮かべる。

 しかし、ここでナナキが鼻先にアイスを付けたまま顔を上げ、意味ありげにバレットを見た。
 ナナキの視線に気付いてバレットが「?」と視線を合わせる。
 ナナキは視線だけで『その方向』を指すと、やれやれ……と言わんばかりに首を振った。
 バレットも『その方』を見て、苦笑する。

 そこには、顔を赤くして一つのアイスキャンデーをいかにして割るかで悩んでいるバカップル。
「ここをこうして…」
「え……でも持つ所が二本あるんだから、やっぱり素直に縦に割るんじゃ…」
「いや、でもそうすると、何か変に偏って割れるような気が…」
「じゃあ、先にクラウドが食べてよ。私、残った分で良いし」
「いや、それならティファが先で…。俺、あんまり甘いもの好きじゃないしさ…」
「でも、あれだけ走ったんだから冷たい物は食べたいんじゃないの?」
「いや、それはティファだって…」


「二人共、本当にバカだよな…」
「そう言うなデンゼル…。アレがあの二人の自然体なんだからよ」
「自然体が『バカ』に見えるって事は『本格的なバカ』って事になるじゃないの、父ちゃん……」
「マリンもデンゼルもキツイなぁ。仕方ないよ、二人はまだまだ発展途上中なんだから…」
「「発展するかなぁ」」
「二人共、本当にクラウドとティファの事…好きなの……」
「「好きに決まってるじゃない(か)!!」」
 辛らつな子供達の言葉の数々に、思わず突っ込んだナナキに子供達が声を揃えて即答する。
 その子供達の声にすら気づかない程、子供達の親代わりはいかにアイスキャンデーを分けるかで頭を捻っていた。
 その姿に…。

『『やっぱり『バカ』かもしれない』』

 と思ってしまう、仲間達なのだった。



 結局、散々悩んでいる間にアイスキャンデーが溶け始めてしまった為、慌てた『バカップル』は、素直に二本の棒を持ってパキリと縦に割り、変に偏って割れたそのアイスをどっちが多い方を食べるかで再びささやかな口論を繰り広げる羽目になった。
 その間、バレットの携帯が『ピピピ』と呼び出し音が鳴った事にも…。
 そして、その電話に出たバレットが意味深な笑みを浮かべて子供達とナナキに何やら耳打ちしたことにも…。
 そしてそして、そのまま二人を置いてその場を去ってしまった事にも…。

 二人は気付かないのだった。








 そうして現在に至る。
「なぁなぁ、良いだろ?こんな所で一人でいるなんてさ、寂しくない?」
「別に俺達、キミをどうこうするつもりなんかないんだしさ!」
 明らかに『どうこうする気満々』な顔をした軽薄な若者が、困りきっているティファへ更ににじり寄った。
 いやらしい笑みを浮かべた『ティファの好みとは正反対』の顔がドアップに視界に入ってくる。
 今までを振り返り、少々自分の世界に入り込んでいたティファは、その若者達の行動に、ハッと我に帰った。


 あ〜、ダメダメ。
 すっかり目の前の事から現実逃避してたわ…。
 って言うか…、なに?一体何なの??
 どこで皆とはぐれたのか思い出せないじゃない………『この人達』のせいで……。


 ティファの機嫌が一気に急降下する。
 どこでクラウド達とはぐれたのか…。
 その正確な状況が思い出せないのだ。
 気がついたら、何故かすっかり温くなったジュースを片手に、一人で雑踏の中に取り残されていた。


 私って、もしかして夢遊病とかの気があるんじゃないでしょうね……。


 一瞬、本気で病気を疑ってしまう。
 そんな間も、
「な、良いだろ?」
「良し、決まり!」
「友達も来ないみたいだし、もし俺達と一緒にここから離れたって、キミがいなかったら携帯に連絡くらいしてくれるだろ?」
「キミ、携帯、持ってるよね?」
「さぁさぁ、善は急げだ、出発だ〜!」
 と、ついに痺れを切らした若者達がティファの両脇、前後を固め、背中を押し、両腕を掴んで強引に連れ歩こうとしたのだ。

 自分の身体に家族と仲間以外の人間が……しかも若い男が気安く触ってくる…。
 何とも形容し難い不快感・嫌悪感がドッと押し寄せてきた。



「しつこいわね……」
 それまで無言だったティファが、低い声でボソリと呟く。
 その声に込められた不機嫌オーラは、ナンパ男達の顔が強張るのには充分だった。
 恐る恐る、若者達はティファを見た。
 その男達に……。



「……すりつぶすわよ」



 極寒のオーラを込めに込めた絶対零度の視線を止めに突き刺す。
 軽薄なナンパ男達は、「「ヒッ!」」「「ヒュッ!」」と、息を飲み込み、カチンコチンに固まった。
 見た目からは想像出来ない殺気をまともに全身で受けたのだ。
 常人なら当然……こうなるだろう。
 何しろ、ティファは格闘家でジェノバ戦役の英雄なのだ。

 ナンパ男達を一睨みで撃退したティファは、ティファがナンパされ始めていたころから心配そうに見ていた一般人までも固まらせた事に全く気付かず、雑踏の中に足を踏み入れた。

『全く……クラウド達はどこに行ったのよ』

 段々イライラが募ってくる。
 それに、今日に限って携帯を忘れてきたのだ。
 その事に思い出したのは、皮肉にも先ほどナンパ男が発した『携帯、持ってるよね?』の一言だったりする…。

 まぁ、子供達とクラウド、それにバレットとナナキは今も一緒にいるだろうから、自分が一人でウロウロするよりも大人しく待ち合わせの場所に向かって待ちぼうけをするか、いっその事インフォメーションまで行って、『迷子のお呼び出し』でもしてもらうか…。
 この場合、勿論、呼び出すのは『デンゼルとマリン』の二人だ。
 間違ってもクラウドとバレット、それにナナキの名前を出す事は出来ない。
 大変不本意ではあるが、『ジェノバ戦役の英雄』として、『顔』は知られていなくても『名前』は知られているのだ。
 こんなテーマパークに『ジェノバ戦役の英雄』と『同じ名前』が立て続けに呼び出されたりしたら…。
 野次馬のオンパレードに見舞われるだろう。


 絶対にそんな目には合いたくない!!


 という訳で、ティファはインフォメーション目指して足を進めるのだった…。

 が!!
 どういう事か、いつまで経ってもインフォメーションコーナーに辿り着かない…辿り着けない…。
 理由は簡単。
 人混みのせいで、中々上手く前進出来ないのだ。
 おまけに、家族連れも多いこのテーマパーク。
 落ち着きのない子供達を追い掛け回す家族連れの多い事。
 そんな家族連れ……正確には落ち着きなく走り回っている子供にぶつかられ、手にしていた温くなったジュースが周りの人に飛んで行って、大被害を与えてしまった。
 おまけにその人達に謝罪をする前に自分にぶつかった子供達がすっ転んで大転倒。
 ギャーギャー泣き喚く子供達を助け起こし、自分が被害を与えてしまった人達に謝罪をして…泣き喚く子供達の親御さんに頭を下げ、そして頭を下げられしている間にも、何故か手にしていた筈のパンフレットまでどこへやら…。
 地図も無くして、すっかり自分が『迷子』になってしまった……という事に気付いたティファなのだった…。

『ふ、ふふふ…。でも……大丈夫よね。まさか、他の皆は固まって一緒にいるだろうし…。それに……待ち合わせ場所までくらいなら看板見ながらでも行けるわよ…』


 ティファの周りを楽しそうに家族やカップル達が通り過ぎて行く………。
 何とも心寂しい…ティファであった。




 あとがき
 はい、何故ティファが『迷子』になったのか〜……の『さわり』までは書けましたかね…(汗)。
 本当ならもう少し、親子と仲間のやり取りを引っ張りたかったのですが、これ以上は本当にダラダラになるのではしょっちゃいました(笑)。

 次回では、クラウドがどうなっているのかを書くつもりですので、猛暫くお待ち下さいませm(__)m