a lost child 6「何でこうなったんだ…」 クラウドは半ば呆然と周りを見渡した。 自分の傍にいるはずの漆黒の髪を持つ愛しい人の姿が見当たらない。 それどころか……。 自分とは正反対の好みの女性達が、何故か自分を半分包囲している……。 「お兄さん、本当にありがとうございました!!」 「お礼に、何かご馳走させて下さい!」 「もしかして……お一人ですか?」 「こんな所にお一人だなんて寂し過ぎます〜!」 「私達とご一緒しましょうよ!」 何でこんな事になるんだ……。 クラウドはほんの数十分前を振り返った。 彼女とアイスキャンデーでささやかな口論をしている内に、いつの間にか仲間達が姿をくらませていた。 その事に気付いたのは、ティファが先だった…。 「クラウド…、皆がいないんだけど…」 ティファの言葉に、クラウドは漸く口に入る事になった溶けかけのアイスキャンデーをポトリと落としてしまった。 彼女が呆れ顔をして「勿体無いよ〜」と言っているが、そんな事も頭に入らない。 周りを見渡しても、あんなに目立つバレットの頭の端っこですら見えない…。 「どこ行ったんだ…?」 「まさか、この人混みの中、置いていかれたんじゃ…」 二人共しっかり大人なので、人混みに置き去りにされたくらいでどうって事はない……ハズなのだが。 今まで皆と楽しんでいたのに、急に何も言わずに置き去りにされたかと思うと、どうにも寂しいような…悲しいような…それでいて腹立たしいような感情に襲われる。 「と、とにかく探しましょう」 やや慌てて闇雲に走り出そうとするティファに続こうとした時、胸ポケットに入れていた携帯が着信を告げた。 パカリと開けて見ると、そこにはユフィからのメール。 【折角こんなに素敵なデートポイントに来てるんだから、たまには二人でごゆっくり〜♪ 『あいつ……』 クラウドは思わず悪戯っぽく笑ってVサインをしているお元気娘を思い起こし、苦笑した。 そして、前方を行くティファに焦って声をかける。 「ティファ、ティファ!」 「え…あ、ごめんね、クラウド。ついて来てるもんだとばっかり…」 メールを見ている僅かの間に、かなりの距離が空いていた。 「ティファ、あのな…」 「なぁに?」 ユフィからの気遣いの事を告げようとしたクラウドは、さて何と言って良いものやら……。 上手い言葉が出てこない。 もともと無口で無愛想なのだ。 さらりと「ユフィ達が気を使ってくれたから、今から二人で楽しまないか?」などと口に出来るはずがない。 ………、困った……。 ソワソワと視線を泳がせるクラウドに、ティファは眉を寄せる。 彼女の頭の中は、いなくなった仲間と子供達の事で一杯なのだ。 早く探しに行きたくてウズウズしている。 それが手に取るように分かるだけに、クラウドは益々言葉を探して焦るのだった。 「ま、まぁ…子供達だけがいなくなったんじゃないし、ちょっとゆっくりしないか?」 漸くそれだけを口にすると、クラウドの提案に反論しようとするティファに背を向け、自動販売機でジュースを二本購入する。 そのうちの一本を、渋面の彼女の手に押し付けた。 『ユフィ達の気遣いは嬉しいんだが……どうしたら良いんだ…この場合……?』 元々、あまりデートらしきものをしたことがないまま今日まで来てしまっているのだ。 しかも、こんなに突然『デート』をセッティングされても……正直困ってしまう。 隣にいるティファは、明らかに自分達を置いていった仲間達の事で頭が一杯で、この『二人きり』という状況に全く気付いていない。 『どうしたもんか……』 チラリと、隣でジュースに口もつけず、不安そうに周りを見渡している彼女を盗み見る。 クラウドは柄にもなく顔が火照るのを感じた。 『二人きり』 その状況を改めて認識して、今更ながらに恥ずかしくなってきたのだ…いくら彼女がその事に気付いていないとしても。 「クラウド……どうしたの?」 顔を無意識に覆うようにして隠したクラウドに、怪訝な顔をしてティファが顔を覗き込できた。 その赤茶色の瞳が、心配そうに揺らいでいる。 その眼差しに…今更ながら彼女が本当に綺麗だと……稀に見る美人だと再確認してしまう。 益々顔が赤くなるのをイヤでも感じる。 クラウドはフイッと顔を背けると、「いやなんでもない…」と機械が話すような棒読みで返答した。 「クラウド、もしかしてシエラさんみたいに人に酔っちゃったの…?」 心配そうな彼女の声が背に投げかけられる。 乗り物酔いしやすいクラウドが、人に酔ったのでは…と心配したのだ。 彼女の心配を「いや、本当に何でも…」と首を振り振り否定するクラウドの頭の中は、もう既にイッパイイッパイになっていた。 どうしたら良いのか分からない!! たまに、エッジの街を買い物がてら二人で歩いた事はある。 しかし、こうして『デートスポット』なる所を二人で訪れた事はただの一度も……ない……。 今までの生活を振り返って、そんな余裕がなかった事は確かなのだが……。 それにしても、よくよく考えてみればそれは何とも寂しい事なのではないだろうか…? 想い合う男女が同じ屋根の下で暮らすようになって二年も過ぎているというのに、未だに『デート』の一つもした事がないなどと…。 自分はそれでも一緒にいられるだけで幸せなのだが、もしかしたら彼女はお店のお客さん達などからそういった話を振られて困った事があるのかもしれない……そういう話をされたと彼女から聞かされた事はないのだが…。 困った……。 こうして背を向けて黙っている間にも、ティファが益々心配そうに眉を寄せているのがビリビリ伝わってくる…。 な、何か話をしなければ…!! でも……今更何を話せば……!? そう言えば、仕事が終わって二人になれる一日の内のほんの僅かな時間。 その時間で話している事と言ったら……。 その日あった出来事を報告しあって…。 お客さんの面白い話を聞かせてもらって…。 配達先で起こった珍騒動を聞いてもらって…。 子供達が遊んで帰ってきてから聞かせてくれたという話を聞かせてもらって…。 明日の予定を確認し合って…。 寝る…。 …………。 ……………。 なんか……えらく『所帯じみて』ないか……俺達……。 改めて自分達の『あり方』を振り返り、半ば呆然とする。 あまりにもこう、何と言うか……甘やかな雰囲気と言うか……その……恋人同士としての雰囲気というものが無い気がする。 イヤ…、そもそも……自分達は世で言う『恋人同士』で合ってる…のだろうか…? イ、イヤ、勿論彼女が自分を想っていてくれているのは誰よりも知っているし、自分も彼女の事を……。 しかし、どうもこう……世間一般で言う『恋人同士』とは当てはまらない気が……。 何と言うか…。 既に『家族』という『枠』にはまり込んでいるので、『恋人同士』という甘い響きからはいささか離れてしまっている気がするのだ。 それは別に嘆く事ではないのだが、それでもこう……ああああ!!! 上手く言葉が浮かばない!!!! 突然、頭をガシガシと掻き毟り始めたクラウドに、ティファがギョッとして後ずさった事など、クラウドは当然気付いていない……何しろ頭はパンパンな上、彼女に背を向けたままなのだから…。 ティファは、イライラ(?)するクラウドの背を見て、 『つ、疲れてるのかしら……。そうよね、折角のオフの日だったのにいきなりユフィ達が乱入してきて、早朝から叩き起こされて…。挙句の果てに明後日まで入ってた仕事の調節をハイピッチでして……乗り物に弱いのにシエラ号でこんな所まで連れて来られて…。それにそれに、ゴールドソーサーに来てから走り回ってばっかりだし…』 などなど、見当違いな方向へと思考が流されているのだった。 『ここはクラウドにはゆっくりしてもらって、子供達と皆を探すのは私独りで……ううん、でもでも私達までバラバラになるのも得策じゃない気がするし…』 『ああ……本当にこういう時ってどうしたら良いんだか…。はぁ、ザックスの話をちゃんと聞いとけば良かった…』 全く違う悩みで頭を抱えている二人…。 端から見たら、何とも悩ましげなオーラを発した人目を惹く容姿端麗な美男美女のカップル。 当然、周りの視線は好奇の色で一杯だ。 『あの二人…、もしかして……破局寸前!?』 『でも、彼の方、何だか顔が赤いわよ…』 『もしかして、これから『愛の告白』する気なんじゃ!?』 『いやいや、彼女の方は眉間にシワが寄ってるよな…。アレって、彼を断る口実を探してるんじゃ……』 『あんなにカッコイイ男の人振るつもり…!?』 『いやいや、人間外見だけじゃ計れないからなぁ』 『う〜ん、でも私、彼ならある程度鬼畜でもOKしちゃう!』 『いや〜ん、私も!!』 『おいおい、彼女の方が何だか困ったように彼を見てるぞ?』 『もしかして、彼女の方こそが彼に『惚れてる』んじゃ!?』 『じゃ、彼が悩んでるのって……『いかに彼女を悲しませないように振るか』ってこと!?』 『うお!!勿体ねぇ!!!』 『俺だったら彼女なら『悪女』でも頑張って貢ぐけどなぁ』 『『『お前ら……』』』 などなど。 実に無責任極まりない事を赤の他人同士が勝手に囁き合っている。 そうとは知らない話題の中心人物二人は、実に落ち着きなくソワソワと視線を彷徨わせ、何が一番なのかを必死に探していた。 ……勿論、探している内容が二人共全く別のジャンルに属する事なのが滑稽だ…。 『よし!ここでボーっとしていても時間が勿体無いし、何よりも皆の気持ちに応えられなかったとバレた時、ユフィに何を言われるか分からないからな。取り合えず……どこかに座って…』 クルリと振り向き、うんうん悩んでいるティファに、 「あのさ…」 と声をかけた。 その時。 「「「キャー!!!」」」 歓声が上がった。 しかも、その歓声は徐々にこちらに向かって広がってきているではないか。 クラウドとティファは顔を見合わせて一斉にそちらを振り向く。 当然、周りにいた一般客達もその方を振り返っている。 そして、その人の波が慌てて左右に割れ、一気に周りが騒然となった。 目の前に現れたのは……。 このゴールドソーサーのマスコット、デブモーグリなどのキャラクター達のパレード。 そして、そのパレードの煌びやかな台座の上には、今、話題の『アイスショー』のスケーターが笑顔で手を振っている。 今夜の『ショー』の宣伝と言ったところだろう…。 中々の美男子と美女が、嫣然と手を振って観客達にサービスしているのだ。 その人混みたるや、これまでの比ではない。 「ティファ、あそこに…」 人ごみを避けようと彼女の手を取り、その混乱の中から脱出しようとしたクラウドの目に、とんでもないものが飛び込んできた。 何と、一人の女性がデブモーグリの衣装の裾に引っかかって半分引きずられそうになっているではないか。 おまけに、そのまま引きずられたらアイススケーター達の乗っている台座に轢かれてしまう。 女性は真っ青になって悲鳴を上げているが、周りのうるさいまでのパレードの音楽と、人々の歓声で完全に掻き消され、その女性のピンチに気付いたのはクラウドと、他の数人の観客のみ。 クラウドは掴んでいたティファの手を思わず離すと、そのまま女性の元へと疾走した。 引っかかっていたのは、女性の腰のベルトに直接付けていたポーチ。 それを無理やりデブモーグリから引き剥がし、彼女の身体を抱え込んで目前に迫っていた台座から身をかわす。 まさに、それは間一髪だった。 さすがに目前まで近付いた時に、スケーター達も女性の姿に気付いたのだが、何しろ三メートルはあろうかと思われる台座の上にいるのだ。 助ける事など出来ない。 そこへ、颯爽と現れて彼女を救い出した金髪の青年に、スケーター二人は心から感謝の笑みを贈り、手を振った。 一斉に沸き起こる賞賛の声と歓声は、クラウドに向けられ、そして彼は全く見ず知らずの人達に取り囲まれる事になった。 その間…。 急に手を離されたティファは、クラウドが自分を置いて何故駆け出したのか分からなかった。 クラウドが駆け出した行く先を確かめる前に、他の人達があっという間にその進路を塞いでしまったのだ。 「あ、あの……すいません、ちょ、通して…」 ティファの懇願の声も空しく…。 パレードが過ぎるまでティファは、クラウドが駆け出したと思われる方向へ向かう事が出来なかった。 その間も、パレードに付いて行こうと押し寄せる人混みにわやくちゃにされて……。 クラウドとティファは、あっという間に離れ離れになってしまったのだった…。 あとがき はい。何故、二人が『迷子』になったのか、漸く解明されましたね(苦笑)。 クラウドは、咄嗟の出来事には機敏に反応出来る生粋の『ソルジャー』だと思ってます。 まぁ、そのせいで今回ティファとの『まともなデート』がダメになるのですが(汗)。 さてさて…。 二人はどうなるのでせうか……(それは、私も分かりません 笑)。 |