a lost child 7「よ〜、ユフィ!」 「お、来た来た!」 声をかけられたお元気娘は、上機嫌で振り返った。 バレットと子供達、それにナナキがニコニコとやって来る。 現在、ユフィはチョコボレース場チケット売り場前にいる。 先ほど大穴を当てて、手には大量のギルが抱えられていた。 「すげえじゃねえか!」 「ほえ〜〜、ユフィもやるもんだねぇ…」 目を丸くする仲間に、ユフィは胸をそらせる。 「ふふん、どう?これで、今日は豪遊だよん♪」 「「わ〜い!!」」 子供達の歓声に、益々ユフィは得意げにそっくり返った。 「それにしても、中々お前も気が利くじゃねえか」 にやりと笑うバレットに、ユフィはニシシと悪戯っぽく笑い返した。 「たまには二人に『デート気分』を味わってもらわないとねぇ。今日まで色々あって、ろくすっぽそんな事した事ないんだろうしさ」 勿体無いじゃん、折角こんなに素敵なデートスポットに来てるのに、甘い雰囲気の一つもないだなんてさ…。 そう言って微笑むお元気娘の笑みは、いつものお調子者の笑みではなく、心から仲間を思いやる気持ちが溢れている温かな笑みだった。 そのユフィの姿に、バレットとナナキはニッと笑みを交わす。 『中々こいつも粋な計らいをするようになったよな』 『こういうところがあるから、普段『ハチャメチャ』でもついつい許しちゃうんだよねぇ』 一方、子供達はユフィの言葉を聞いてチラリと視線を合わせると…。 「そうだよね。いつも俺達の事とか、お店の事とか…」 「配達のお仕事とかで二人でゆっくり…なんて出来てないもんね…」 少々俯き加減で呟いた。 子供達は子供達なりに、若い親代わりへの負担を気にしているのだ。 ナナキは、子供達を見上げると身体をこすり付けた。 「クラウドとティファはそれで幸せなんだから二人が気にする事はないんだよ」 「そうそう!だから、こうしてたまに二人きりになれるチャンスを私達が提供してやれば良いだけの話なんだし」 「本当なら、二人共毎日一緒にいるんだからそんくらい自分達で調節して、時間作りゃ良いんだけどよ〜…」 「「「不器用だからなぁ…」」」 英雄達の言葉に、子供達は顔を上げるとゆっくりと笑い合った。 「さぁさぁ!ラブラブバカップルの事は放っといて、私達はこれから遊びまくるぞ〜!!」 「「「「おおーーーー!!!!」」」」 「野郎共、付いてこ〜い!!」 「「「「イエッサー!!」」」」 こうして、クラウドとティファが離れ離れになってしまった事など知らない仲間達と子供達は、ユフィを先頭にゲームコーナーへ踊るような足取りで向かうのだった…。 一方。 こちらは、折角の仲間の好意を掴み損ねてしまった不幸な男。 周りに群がるのは、クラウドが神業の救出劇を披露した事により、一気に彼へハートを射止められた乙女達…。 その数……数えるのもバカらしい…。 「命の恩人なんです!何かお礼をさせて下さい!」 一番果敢にアタックしてくるのが、クラウドに命を救われた女性。 神はブロンドのクセ毛の一部ををポニーテールにして、残りの髪は丁寧に気先にはカールを巻き、化粧はやや濃い目のパッチリメイク。 そして、更にかつてのティファのような露出の高い服で、かつ派手…。 極めつけが、彼女の香水。 クラウドは眩暈がした。 折角仲間が気を利かせて二人きりという何とも美味しいシチュエーションを作り出してくれたというのに、ものの十分もしないうちに彼女を見失い、あまつさえこんなにも自分の好みと正反対の女性に言い寄られている…。 『頼むから俺の前から消えてくれ…』 媚びた笑みと鼻にかかる声……。 外見だけでなくその全てが受け付けられない…。 もっとも、クラウドの場合もティファ同様、理想が高過ぎるのだが…。 「俺は人を探してるので、これで…」 一言言い残してその場を去ろうとするクラウドを、その女性はおろか、周りでクラウドの救出劇を見ていた女性ファン達までもが取り囲んだ。 「でも……なら、その人も是非ご一緒に」 「そうですよ。携帯に連絡されたらどうですか?」 女性達の中の一人が、実に良い提案をしてくれた。 そうだ。 携帯をかければ良いんだ。 何で今までその事に気付かなかったんだろう。 クラウドは、その女性の言葉に感謝しつつ、慣れた動作でティファの番号を呼び出すと通話ボタンを押す。 トゥルルルル…トゥルルルル…。 何度目かのコール音が空しく響く。 その後、無情にも『留守番メッセージサービスへお繋ぎします』との機械の音声。 クラウドは眉を顰めた。 いつもなら留守電になる前に絶対に通話に出る。 それなのに、何故出ない? いや……もしかしたら出られない状況にいるのでは……!? ティファが携帯を忘れた事を知らないクラウドは、その可能性を全く頭の片隅にすら思い浮かべなかった。 思い浮かべた事は…。
サァーーーーッ…。 クラウドの頭から血の気が引いた…。 そんなクラウドの心情には全く気付かない女性達は、相手が電話に出ない事に対して口々に、 「あ〜、残念ですね」 「でも、もしかしたらおトイレとかに行かれているのかも…」 「そうですよ。もう一度時間を空けて連絡されてみたら?」 「その間に、私達と一緒に食事にでも行かれませんか?」 「それが良いです〜!そのうち、相手の方から連絡してくれるかもしれないですし!」 クラウドに同情する振りを装いつつ、内心は小躍りしている。 クラウドは、そんな彼女達の言葉など当然耳に入っていない。 頭の中は、今や最悪のシチュエーションを想像してしまっている。 『も、もしかしたら……俺が今まで放ったらかしにしていた事で、本当は怒ってたのかも…』 『少しくらい困ればいいんだ……何て思ってたりしたら……』 『いやいや、ティファはそんな奴じゃ…』 『なら、何でナンパ野郎に着いて行くんだ!?(← ナンパ男に着いて行った事決定!)』 もはや、クラウドの頭は見知らぬ男と二人きりで楽しそうにしているティファの姿で一杯になっていた。 もうこの時点で、彼は正気を失っている…。 冷静に考えれば、彼女がそんなナンパな男に着いて行く筈がない事くらい、彼には充分分かっているというのに、如何せん、今の彼の現状が『こう』なのだから…。 見知らぬ女性に囲まれ、訳の分からない事を畳み掛けるように話しかけられている…。 それは、これまでの彼の人生の中で経験した事のない状況だった…。 自分の容姿に関して、彼女と同じくらい無頓着で無自覚な彼にとって、何故『自分如き』が『こんなに女性に囲まれているのか』…という疑問で一杯だ。 いくら、神業並みの救出を成し遂げたからといって……本人に、その『神業』という意識がないのだから仕方ない。 そして…。 『自分が囲まれるくらいなら一人になった彼女に言い寄る男共が溢れかえっても仕方ない』『いや、むしろそれが自然な姿だ…!』というわけの分からない公式のようなものが出来上がっていた。 「さ、あそこのレストラン、美味しいって評判なんです、行きましょう!?」 そう言って自分の腕に命を助けた女性が自らの腕を絡ませてきた時…。 クラウドはキレた…。 「……俺に触るな……」 低い低い……地の底を這うようなそれはそれは恐ろしい声音でボソリと呟くと、ビックー!!!と身体を強張らせた女性達を尻目に、猛然とその場を駆け出した金髪の青年…。 その青年の後姿は、雑踏に紛れてすぐに見えなくなった…。 『『『『『こ、怖かった……』』』』』 固まる女性達の周りを、ゴールドソーサーを楽しむ沢山の人達が遠巻きに通り過ぎて行く。 女性達を置き去りに走る事、約三十分…。 闇雲に広い園内を走り回って息が上がってきたクラウドは、とうとう入り口のゴンドラのゲートまで戻って来てしまっていた。 ここに来るまで、一通り周りに目は光らせていたものの、彼女の姿はおろか、影も形も見当たらない。 携帯も幾度となく鳴らしてみたが、一向に出ないままだ。(家に忘れてきた彼女が携帯に出れる筈がない)。 クラウドは、ゲートの入り口の柵に寄りかかって荒い息を整えた。 流れる汗を手の甲で拭う。 どうやらこの広い園内から人一人探し出す事は不可能だ。 途中でシド夫妻にすら遭遇しなかったのだから…。 散々迷った挙句、クラウドは渋々携帯にユフィの名前を呼び出し、コールをかけた。 プルルルルル…プルルルルル…プルルルルル………ガチャ。 『は〜い、どったの〜〜?』 お元気娘の不思議そうな声が、何だか天の助けのように聞える…。 クラウドは、事のあらましを簡単に説明した。 説明したあと、暫しの沈黙が流れる。 「ユフィ…というわけなんだが……聞いてるか…?」 その沈黙に耐え切れなくなり、恐る恐る声をかけると、次の瞬間耳を劈く(つんざく)ような怒鳴り声が鼓膜を直撃した。 『バッカじゃないのーーーーー!?!?!?!?!?』 キーーーーーンン………。 耳鳴りがする耳を押さえ、思わず顔を思い切り顰めるクラウドに、ユフィの怒鳴り声が続く。 『あんたねーー!!こっちの好意を不意にした挙句、離れ離れになってかれこれ三十分も経ってるって、何してたのさーーー!!!そういうことは早く連絡しなさいよーーー!!!!!』 ユフィの怒鳴り声の後ろから、バレットと子供達とナナキの『どうしたんだろう…?』『なんかあったのかな』という心配そうな声が切れ切れに聞える。 「わ、悪かったと思ってる…。そ、それでだな…全然ティファ、電話に出ないんだけど……どうしたら良いのか困ってるんだ……」 弱々しく言うクラウドに、ユフィが電話の向こうで唸り声を上げる。 『電話に出ないって…それってまずい状況になってるって可能性が高いじゃんか〜〜〜…!!』 「……やっぱりそう思うか……?」 『思うわーーーー!!!!!』 再び怒鳴られ、携帯を思い切り耳から遠ざける。 その時、携帯から『もしもし、クラウド…?』と愛娘の声が聞えてきた。 慌てて耳に携帯を押し付け「マリンか?」と返事をする。 『うん、あの…ティファとはぐれちゃったの?』 「ああ……実はそうなんだ…」 心底情けない気持ちになりながらそう答えると、マリンは後ろでギャーギャー喚いているユフィに『ユフィ、うるさい!』と一喝し、なんと、お元気娘を黙らせる事に成功してしまったようだ……。 恐るべし……ティファjr……。 固まっている仲間達と息子の姿が目に浮かぶようだ…。 そのお陰でクラウドは漸く少し落ち着きを取り戻す事が出来た。 『あのね、今朝、バタバタしてたでしょ?だから、ティファったらもしかしたら携帯忘れてるかもしれないよ?』 「え!?」 『だって、クラウドは携帯をいっつも持ち歩く事が身についてるけど、ティファはどっちかと言うとカウンターの上に置いている事が多いから…』 マリンの言葉に、そう言えば確かにティファは携帯をカウンターの上に置いて店の準備をしている事が多い事に気がついた。 「それじゃ……携帯に出ないのも……」 『多分持ってないんだよ』 愛娘の言葉で、クラウドの心の靄がスーッと消えていく。 少なくとも、クラウドからの電話を無視している可能性は消えたのだから…。 しかし、彼女と連絡が取れないという事実は消えない。 『ねぇ、クラウドは今、どこにいるの?』 「あ、ああ。入り口のゲート前だ…」 『う〜ん、じゃあインフォメーションでティファを呼び出したら?』 「……『迷子のお呼び出し』ってやつか…?」 『うん、そうそれ!』 「…………」 『クラウド?』 マリンの言葉に、クラウドは躊躇った。 一体何と言って呼び出してもらえば良いのだろう……? ティファと同じく、クラウドも自分達が『顔』は知られていなくても『名前』が知られているという自覚がある。 その為、彼女の名前を呼び出してもらう事に非常に躊躇いを感じたのだ。 クラウドの悩みを悟った聡い娘は、『あ、そっか。ティファの名前出したら野次馬が来ちゃうもんね…』と言うと、そのまま電話の向こうで仲間達と何やら相談をし始めた。 そして、数分後。 どうやら仲間達の間で話がまとまったようだ。 『おい、クラウド』 「バレットか?」 マリンの可愛い声を想像していたクラウドは、耳に響いてきた少々大きな野太い声の持ち主に落胆の表情をしてしまった。 それが、相手に見られなかったのがせめてもの救いだろう…。 『こっちは今、ゲームコーナーにいるんだけどよ。こっからでもインフォメーションが近いんだ。だから、俺達の方でティファを呼び出してやるから、お前はゴールドソーサー名物の『ゴンドラ』まで行け。そこにティファが行くようにしてやるから』 「あ、ああ…そうか。すまない」 『へへ…良いって事よ。折角こうして良いデートスポットに来てるのに、入り口のゲート前で待ち合わせだなんて勿体無さ過ぎだろうが』 じゃあな! そう言って切られた携帯を、クラウドは照れた様に笑いながらパタンと閉じると、『ゴンドラ』目掛けて再び走り出した。 その足取りは軽やかで、とても幸せそうだった……。 あとがき はい、何とかクラウドとティファが再会出来る雰囲気になってまいりました!! ふふ…これから二人は『ちゃんと』再会できるのでしょうか? では、次回をお待ちくださいませm(__)m |