どうかもう一度… 4




「それで曹長、覚悟出来てるんだろうな?」
 冷ややかな口調で中佐が話しかけると、元・上司は開き直ったのかグッと顎を持ち上げた。

「…何が覚悟だ……、この青二才が!!」

 怒鳴りつけると共にソファーから勢い良く立ち上がり、テーブルに手を着くとそのまま中佐に回し蹴りを喰らわせようとした。
 でも……ごめん……ほんっとうに申し訳ないんだけど……。
 アルコールで重たい頭を抱えてる俺にすら、その動きは鈍重に見えて………。
 もう……無様としか言いようが無くって……。
 そんな彼に中佐が大人しく蹴られるはずが無い……よねぇ……。

 ビュン、ヒョイ、クキッ、グラリ、ズベシャン……!!!!

 擬音語だけで表したらまさにこんな感じの光景が繰り広げられた。
 時間にして、ホンの数秒。
 なのに……もう……目に焼きついて離れない光景だったよ……うん……。

 ビュン(回し蹴りの音)。
 ヒョイ(蹴りをあっさりかわした音)。
 クキッ(軸にしていた元・上司の手首が、自身の体重に悲鳴を上げた音)。
 グラリ(テーブルの上でバランスを崩した音)。
 ズベシャン(テーブルから真っ逆さまに落ちた音)。

 イヤイヤ……本当に世の中の皆様、ごめんなさい。
 こんなにも間抜けな男がWROという世界の復興の一翼を担う組織にいて…本当に申し訳ないです…。

 ………なんで僕が謝らないといけないんだろう………。
 イヤ、謝れとは言われてないけど、なんだって謝らなきゃ…って気分にならなくちゃいけないんだろう……!?
 理不尽だ…。
 なんだかとっても理不尽だ…。


「………なんか…あまりにもお約束な奴だな……」
「……そうね…。また気を失ってるし……」
「……カッコワリィ……」
「……しょうがないよ、デンゼル。シュリさんとライお兄ちゃんが特別カッコイイだけなんだよ……きっと…」
「「「「はぁ……」」」」

 セブンスヘブンの四人に深い溜め息を吐かれた当の本人は、テーブルの下で大の字で伸びている。
 この珍劇を一部始終見ていたお客さん達は、ソワソワとし始めた。
 あぁ……多分、元・上司にちょこっと肩入れするような事を呟いたから、それを気にしてるんだろう…。
 良いのに…気にしなくて。
 でも、それを僕が言うのは何だか違う気がして黙っていた。
 もっとも…先程から強いショックが続いた為、ちょっと疲れた……って言うのもあるし…。
 それよりなにより…!


「こいつ…このまま外に放り出してやろうか…」


 不機嫌の絶頂にある上司の存在が、とてつもなく大きくて…!!
 もう、下手な事は何一つ口に出来ない!!


「外に放り出すだけで良いなら、リーブも電話した時にそう言ってくれれば良かったのに」
「…はぁ…なに言ってるんですか…。局長という立場にある人が、そんな事を言えるわけないでしょう…?」
 溜め息を吐きつつツッコミを入れる中佐に、
「まぁ…そうよねぇ…。それにしても、上に立つ人間って本当に大変ね…」
 ティファさんが苦笑した。
 そんなティファさんに軽く肩を竦めて見せながら、
「だから、俺はいやだったんですよ…。昇進するの……」
 とぼやいている。
 その言葉を聞いた子供達がパッと顔を上げた。
「え!?シュリの兄ちゃん、昇進したのか!?」「そうなの!?」
 キラキラと輝く眼差しを向けられて、中佐は『しまった……』という顔をしたけど、観念したのだろう。
「ああ……まぁな……」
 渋々頷いていた。
「「おめでとう!!」」
 声を揃えてお祝いしてくれる子供達に、苦笑しながら、
「いや……全然嬉しくないから……それに俺だけじゃなくてバルト准尉も軍曹から二階級特進だし……」
 なんて言っている。

 いや……そこで僕を引っ張り出さないで下さい。
 子供達が目を丸くして「「ライ(お)兄ちゃんも!?!?」」ってびっくりしてる。
 そして、「「二人共おめでとう!!!」」
 改めて目一杯拍手しながらそう祝ってくれて、クラウドさんとティファさんも優しく目を細めていた。
 そんな中、掛け値なしに祝ってくれた子供達の顔に、中佐が柔らかな瞳になったのを見逃したりしなかった。


 ああ…そんな年相応の顔もするんだなぁ……。
 うん、本当に良い顔だよ…。
 なんか、物凄く貴重な時間を共有した気がするのは…気のせいかな……?

 ………それにしても……。
 う〜〜……まだ……気分……悪い……………………目が……回るぅ…………。


「…准尉?」

 漆黒の瞳が俺の目を覗き込む。
 ……クラウドさんも綺麗だと思ったけど、中佐も綺麗な顔立ちしてるよなぁ…。

「ライ君、もう少し横になったほうが良いわ」

 ……ティファさんの手、ひんやりしてて気持ち良い…。
 あ〜、それにしてもティファさんもホントに美人だよなぁ……。
 ……何だか沢山の鋭い視線を感じるのは……気のせいという事にしたい………。

「ライ兄ちゃん…」「大丈夫…?お水、飲む??」

 ……デンゼル君もマリンちゃんも、将来楽しみだよなぁ…。
 優しくって…強くって…皆に慕われる素敵な大人になれるだろうなぁ……。

 本当に…僕の周りの人達って、不思議なくらい美形が揃ってるよなぁ…。
 おまけに性格も良いし…。
 社交界とはやっぱり全然違うな…。
 すっごく……居心地が良い……。

「准尉…大丈夫か?」

 …中佐…。
 どうして僕みたいな役立たず、昇進させたんです……?
 …いつか……聞いてみたい……なんて言ったら……怒られるかな……………?


「おいおいおい…兄ちゃん、大丈夫か?やっぱ、医者に行った方が良いんじゃないか??」
 僕に原酒を飲ませた常連さんがビクビクしながら、横になった僕の顔を覗き込んでる気配がする。
 いや…今、眼を瞑ってるから…見えないんだよね…。
 だって…目を開けてるとグルグル天井が回るもんだから……はぁ……。


「おい、溜め息吐いたぞ!?ほ、本当に大丈夫なのか!?!?」
「あぁ…すいません……大丈夫です…」
 慌てふためく常連さんの気配がしたから、僕が青息吐息で答えると、
「ライ、お前気分悪いんだから無理して話さなくて良い。…だから迎えが来るまでゆっくり休んでろ」
 頭の上でクラウドさんが苦笑する気配がした。

 そのクラウドさんの一言で…。

「「「うわっ!!」」」
「「ライ(お)兄ちゃん!?!?」」
「ライ君、どうしたの!?」
「……………准尉…良いから寝てろ…」

 重大な事に気づいた僕は、無言でガバッと跳ね起きた。
 僕の顔を覗き込んでいたらしいクラウドさんと常連さん、それに他のお客さん達が仰け反ってびっくりしてる。
 そんで、急に跳ね起きたもんだから、一気に気持ち悪くなってまたバッタリとソファーに逆戻りした僕に、子供達とティファさんがギョッとした気配がした。
 更には、その一連の動きを冷静に見ていたらしい上司が、溜め息を吐きながら僕の額からおっこちた濡れタオルを乗せなおしてくれた…。

 いやはや……本当に今日は……何からなにまで……申し訳ありません…………。
 でも、自分は今、落ち着いて横になっていられる気分ではないんです…!!

「ライ兄ちゃんの家の人が迎えに来るんだろ?」
「どんな人かな…?」
「こんな時間に来るんだから、秘書とかじゃないのか?」
「あら、案外お父さんとかかもしれないわよ?」

 実に楽しそうに話している親子の会話。
 でも……最後のティファさんの言葉は、もう……それはそれは、僕の心を掻き乱した。

 困る…。
 父上に直接来られたら……ほんっとうに困る!!

 大体、今回の騒動も父上がアイリの事を公言したのが事の発端…。
 それをきっかけに、僕が暴力事件を起こした事を知ったら、あの父だ。
 そりゃあ、自分を責めて責めて…責めまくって首吊りそうだよ…!!!
 だから、自宅謹慎の三日間の間は、体調不良で帰宅した…って事にしようと思ってたんだ。
 それなのに……きっともう、僕の不祥事はバレてるんだろうなぁ………はぁ………。


「ところでよぉ…」
「なにか?」
 恐る恐る…といった感じで、お客の一人が上司に声をかけた。
 きっと、無表情な顔で見られて焦ってるんだろう。
 声をかけたお客さんが息を飲む気配が伝わってくる。
「その……この隊員さんは……どうするんで…?」
「………はぁ……」
「あ、いや!すいません、出過ぎた事を聞きまして!!」

 …上司が溜め息を吐いたのが、『不快な質問をされた為』だと勘違いしたんだろうな。
 必死に謝っているお客さんが……申し訳ないけど……とっても可笑しい。

「いえ…こちらこそ部下が大変失礼しました。心よりお詫びします」

 お客さん達が息を止めた気配がした。
 中佐が頭を下げたんだろう…。
 本当は、僕も起きて謝罪しないといけないんだろうけど…。

「こら、お前は寝てろ!」

 クラウドさんが僕の頭をソファーに押し付けてきてさぁ……起きられないんだよねぇ………。

「ライ兄ちゃんって本当に真面目だよなぁ…」
「「そこがライ君(お兄ちゃん)の良い所よ」」

 呆れたようなデンゼル君の言葉に、ティファさんとマリンちゃんが即、言い返してくれて…。
 なんだかそれだけで満足してしまえる…。
 いや……本当はまったりしてる場合じゃないんだけどさ……。

「それにしてもよぉ…。なんだってそんなにこの兄ちゃん達と仲が良いんだ?」

 これまで聞いた事ないお客さんの声がした。
 この人はずーっと不満に思いながら一部始終を見てたんだろうな…。
 声が不満気で……それでいてどこか寂しそうだった。
 きっと、このお客さんだけじゃない。
 他のお客さん達も、本当は僕と中佐がセブンスヘブンの人達と仲が良いのを羨んでる……。
 むしろ、妬まれてる気すらするよ……。


「シュリお兄ちゃんは、私達の命の恩人!!」
「そんでもってライ兄ちゃんは……友達……?」
「こら、何でそこで疑問系なんだ」
 中佐との関係をマリンちゃんがスッパリ言ってくれたのに対し、デンゼル君は何とも頼りない……疑問系。
 すかさずそれをクラウドさんが突っ込んで、ティファさんがクスクス笑ってる。
 そのやり取りで、どうやらそのお客さんや他のお客さんも納得したようだった…。
 ううん、納得せざるを得ない…この表現の方がしっくりするかな…?


「ま、しゃあないわな……」
 僕に原酒を飲ませた常連さんが他のお客さん達に陽気に声をかけた。
 嫉妬していたお客さん達も、その常連さんの言葉とクラウドさん達の様子に溜め息を吐きつつ、
「あ〜…ったく!」「こうなったら自棄酒だ〜!!」「ま、それでもクラウドさんとティファちゃんが俺らを冷たくあしらうわけじゃないから…いっか!」
 等々言いながら、それぞれのテーブルに戻っていく気配がした。
「「ティファちゃん!注文よろしく〜!!」」
「はぁい!」
「じゃ、ライ兄ちゃん、俺達仕事に戻るけどゆっくりしててくれよ?」
「そうだよ、無理したらダメだからね」
 ピシャリとそう言い残して子供達も仕事に戻っていく足音がした。


 …………あ〜…良かった……。
 本当に良かった…。
 もしもこのまま気まずくなったら、ティファさん達が悲しむし、営業に支障が出るだろうし……。
 本当に丸く収まって良かった…。


「さて…と。じゃ、俺はこいつを連れて帰ります。迷惑かけてすいませんでした」
 中佐の言葉に、僕は身体を起こした。
 目を開けると、クラウドさんが呆れたような顔をしていたけど、それでも僕の立場を考えてくれたのか、ソファーに押し戻そうとはしなかった。
 だって、上司が帰るのに黙って横になんかなってられないだろう……?
 せめて起きてお見送りしなくては……。

「中佐……あの…」
「准尉、とにかく三日間は大人しく実家で謹慎してろ。謹慎が解けたら今回の騒動の分、しっかり働いてもらうからな」
 無表情で淡々とそう言う中佐に、僕は謝罪の言葉と感謝の言葉を飲み込んだ。
 形はどうあれ、中佐が僕を元・上司と大佐から庇ってくれた事に変わりない。
「…はい」

 頷いた僕に片眉を少し下げて応えると、中佐は徐(おもむろ)に片足を上げた。
 そして……。


 ゴッ!!!!


「「「「「!?!?!?!?」」」」」


 店内の全員がその鈍く重い音にギョッとして固まる。
 その音の根源に視線を移し、床にうつ伏せて頭を押さえて呻いている元・上司と…。
「目が覚めたか?さっさと宿舎に戻るぞ。俺は忙しいんだ」
 冷酷としか言いようのない言葉をサラリと口にした中佐を代わる代わる見やった。

「お前……もう少し他に起こし方があるだろう……」
「良いんですよ。使えない人間………特にこいつの様な、知能も技能も人格も…はたまた戦闘に関しての能力までも無いくせに、いっぱしにWRO隊員を名乗って大腕振って歩いているばかりか、自分よりも有能な人間を悪し様に言い散らす『無能者』にはこれくらいの扱いで」

 実に気持ち良くズバッと言い切った中佐の言葉に、店内はシーンと静まり返った。

『『『『……………鬼だ』』』』

 何故だろう…。
 お客さん達の心の声が聞えた気がしたよ……。


「くっそぉ……。お前のような青二才が……でかい顔してのさばりやがって……」
 呻きながら身体を起こした元・上司の上体がフラフラしている。
「それに、バルト家の財産とその『顔』で上司に媚びたお前!絶対に認めないからな!!」
 毒々しい眼差しが僕に向けられる。
 クラウドさんとティファさんが、キッと眦を上げて睨みつけ、ジリッとにじり寄った。
 子供達も真っ赤な顔をして怒ってくれている。
 でも、中佐はあくまで涼しげな顔だった。
 そして…。


「…一つ言っとくが、無価値の人間がいくら媚を売っても相手にされない。だから、大佐はお前になびかないんだ。そんな事も分からないなら、もうWROから退役した方が良いな。この先、大佐や俺がお前に目をかける可能性は限りなく低いんだから」
「な……『無価値』!?」

 あまりの評価に、元・上司は怒りの為真っ赤になった。
 逆に中佐はどこまでも冷め切った顔をしている。

「…まさか………、自分は有能だとでも思ってるのか…?起きたまま寝言が言えるとは……案外器用だったんだな。それから言っとくけど、バルト准尉はお前が想像している以上に有能だ。でなきゃ、生きたまま二階級特進させる事に大佐達が反対しないはず無いだろう?それに大体お前、准尉の一発で呆気なくノックアウトされてたじゃないか。そのくせ、自分より劣っているなどと思うとは……呆れた奴だ。あ、それともう一つ。実家がいくら金持ちで、WROに投資してくれたとしても、そんな事くらいで昇進出来るほどWROは甘くないんだよ。なにしろ、昇進すればするほど、部下の数が増えるんだからな。『部下の数=守らなくちゃならない命+責任』なんだから、無能な輩をほいほい昇進なんかさせられるか。そんな事してみろ、俺の仕事が増えるだろうが!


 ………いや…確かにその通りですが…。
『俺の仕事が増える』って………………。
 もう少し他に何か言いようが無いんですか…………?
 あ〜…でも。
 こんなに沢山しゃべった中佐を見たのは初めてだな。


 などといささか暢気な事を考えている僕の目の前では。
 その長い台詞を一息で言い切った中佐が、唖然とする元・上司に近付いた。
 ビクリ…と身体を震わせ、額に汗を滲ませるその元・上司に、残念だけど誰も同情していなかった。
 そんな状況の中、元・上司はとうとうこれ以上無いくらい自棄になったらしい…。


「いいか、お前がいくら『中佐』っていうその歳じゃ考えられない程の官位にあるからといって、隊の連中皆がお前を尊敬してるかと言えばそうじゃないなからな」
 唾を飛ばしながらそう喚く。
 中佐は心底呆れたような顔をすると「そんなこと、言われなくても知ってるし…。俺に対して忠誠心なんか少しも期待してないから。必要な時に必要な働きさえしてくれたらそれで充分だ」とサラリと返した。
 元・上司の言葉に全く動揺していない。
 そのまま歩みを止めない中佐に、元・上司は後ずさり、怯えつつ最後の悪あがきとばかりにお客さん達を振り返った。
 そして…。


「この男はな、見ての通りの綺麗な顔を活かして、上層部に取り入ったんだ!!そればかりか、自分のお気に入りの綺麗な顔をしたあいつと数人を二階級特進させる事に同意させたんだ!!!」


 その言葉に…。
 お客さん達がギョッと目を見開いた。
 クラウドさん達が息を飲み、凄まじい形相で元・上司を睨みつけた。

「お前……!!」
 クラウドさんがカッとなって詰め寄ろうとする。
「ヒッ!!」と短い悲鳴を上げて、元・上司は数歩、後ろによろめいた。
 ところが、詰め寄ろうとしたクラウドさんを、中佐が片手を上げて制し、
「これくらいでそんなに怒る事じゃないですから」
 と、これまたサラリと受け流してしまった。


 ……イヤイヤイヤ……!!
 そこはそんなにあっさりと流す所じゃないでしょう!?!?
 いや、僕の事はどうでも良いです!
 中佐がそうやって涼しげな顔をしてるから、お客さん達皆、信じてますよ!?!?
 良いんですか!?!?


 ところが、中佐にとっては元・上司の暴言は取るに足らないことらしい。
 微塵も動じない…。
 それどころか…。
 何を考えたのか踵を返してツカツカと俺のところに戻って来ると…。

「准尉…」
「へ…?」

 僕の顎に手をかけて上を向かせ、そのまま何の躊躇いも無く顔を近づけた。
 そのまま、息を飲むお客さん達の前で……。


 コツン…。


 額を合わされる。


「バーカ。んなわけあるか」

 すっかり固まってるお客さん達と元・上司にそうのたもうた。
 クラウドさんとティファさんも、たった今までの怒りなどどこかの遠い惑星に飛んで行ってしまった様だ。
 ポカン……と口を開けている。
 しかも…。
 他のお客さん達同様、心なしか顔が赤い気がするのは……僕の気のせいですか……!?


 ……………………中佐………。
 お願いですから……これ以上僕の心臓を酷使させるのはやめて下さい。
 もう……血圧が上がって死にそうです……。


「お前…自分で俺の事を『変態男』とか言っておきながら、いざそういう場面に出くわしかけて固まっててどうするんだよ…。だからお前はダメなんだよ」
「は!?な、なななな何が!?!?」
「はぁ……」

 中佐は心底呆れ返って深い溜め息を吐くと…。
 元・上司に視線をやったまま、何の前触れも無く僕の横っ面を張り倒した。

 …いや、正確には張り倒そうとしたその瞬間、ビリッとした闘気を感じ、身体が条件反射で間一髪それを避けた。
 鼻先を中佐の手が唸りを上げて空を切る。

「……な、なに……するんですか……!?」

 いや、あんな急に何の前触れも無くやめて下さいよ!!
 あんな力で張り倒されてたら鼻血ところじゃ済まないじゃないですか!!!
 めっちゃ吹っ飛ばされて、今頃床の上で悶絶してますよ!!!!

 全身から汗を噴出させる僕に、クラウドさんとティファさんは勿論、お客さん達も元・上司もギョッと身を竦めた。

「おい、シュリ!!」
「ちょっと、シュリ君!!」

 クラウドさんとティファさんが、抗議の声を上げてくれた。


 …本当にお二人共…ありがとう……。


 ところが、当の上司は何故か満足そうな目をして俺を見下ろしていた。