*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
 ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
 苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。

 なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。







「あ〜、ビックリした」
「しっかしまぁ、本当に助かったぜ」

 ドタバタと扉から遠ざかっていく兵士達の足音に、ナナキとバレットが隣室から顔を覗かせてニ〜ッと笑った。

 部屋の主は大仰に溜め息を吐き、タバコに火をつけた。

「ったく、お前、なんだってここにいるんだよ…」
「ヘヘッ、まぁちょっと野暮用でな」
「それに、話す獣連れやがってよぉ…。おめぇらを匿ったのがバレたら、俺様はこの城の専属艦長を降格されるばかりじゃなく、首が飛ぶぞ…」

 ガシガシと頭を掻き毟るその男に、バレットは困ったように笑った。

「あ〜…本当にすまねぇな。でも助かったぜ、シド!」
「ったく、ただの飲み友達なのになんだってこんな目に……」

 口ではそう言いながらも、シドはニヤッと笑って見せたのだった。
 二人の間にはただの『飲み友達』以上の絆がある、とナナキは二人を見上げながら嬉しそうに鼻をピスピスと鳴らした。





シンデレラ……もどき? 11






「なぁ…108番まですっ飛ばせないかな…」
「………………………………ダメに決まってるだろ……」
「でも、お前も本当はそうしたいんだろ?」
「………………………………そんなことない……」
「めちゃくちゃ間を空けといてなに言ってんだか」
「…………………」

 目の前では51番と52番の娘が座っていた。
 彼女達は町娘のようでカチンコチンに固まっている。
 ソワソワと視線を彷徨わせ、時折盗み見るようにザックスとクラウドへ視線を流し、またそらす。
 彼女達の仕草は初々しく、媚びへつらう令嬢達に比べたら居心地の良い雰囲気を持っていた。
 だが、あくまでも『マシ』というレベル。
 はっきり言って…場が持たない………。

 コソコソと小声でやり取りする二人に彼女達は気づかない程緊張していた。
 一応、大臣と客達、なによりも王の目があるので彼女達に話かけたりしていたが、どれも一言の返事だけで終ってしまって会話のキャッチボールが出来ない。

 ザックスは苦笑し、クラウドは無表情で彼女達の前に座っている。
 そんな二人の心は目の前の彼女たちには全く無い。
 ザックスは34番。
 そしてクラウドは108番に心を飛ばしていた。

『……どうなってるんだろう…』

 ティファを頼むと言ったユフィの言葉を思い出す。
 見違える…とユフィは言い切った。
 ティファの事が嫌いだったことを知っているクラウドに、それでも見違えると言い切ったのが妙に気になる。

 確かに…小さい頃はティファが嫌いだった。
 嫌い…、苦手…、そんな彼女が奴隷働きをさせられている。
 きっと……辛い毎日を送っているのだろう。
 だからこそ、ユフィはこんなところまでやって来て、助けてやって欲しいと懇願したのだから。

『……綺麗になってる…ってことかな…?それとも、酷い扱いうけて見られないような顔になってる…とか?』
「おい…」
『いやいや、ユフィの口ぶりだとそれはないな』
「おい」
『ということは…やっぱり綺麗になってる…ってことなんだろうな……』
「おい、
クラウド(← 小声)」
『…あの頃よりも…綺麗にか…。確かに…可愛い顔だったけど……どうなんだろう……』
クラウド!!(← 小声)」

 耳元で名前を呼ばれ、ハッと我に返る。
 呆れたような顔をしているザックス、そして大臣が自分を見ている事に気が付き、慌てて女性たちを見る。

「…あれ…?」
「さっきのレディー達ならとっくにお戻りになった。今は53番、54番の方々だ」
「……申し訳ない…」

 シラッとした目をしている女性達に軽く頭を下げると、居心地悪そうにソファーに座りなおす。
 ザックスがクラウドの肩に腕を回しながら、
「王子はちょっとお疲れのご様子。少し休ませて頂きます」
 魅惑的な微笑でもって彼女達の視線を釘付けにした。
 コクコクと魔法にでもかかったかのように首をたてに振り続ける令嬢達に軽く頭を下げると、クラウドを抱き寄せるようにして立ち上がる。

 非常に……怪しい構図。

 ちょっと勘違いされてしまいそうなその構図も、美男子同士だと反感よりも女性達の興奮を呼び起こすらしい。
 客達の令嬢が黄色い声を上げ、寄り添う(?)美青年をうっとりと見つめる。
 勿論、中にはギョッとしている人達もいたのだが、うっとりしている女性の方が圧倒的に多い。

 クラウドは現状に全くついていけず、どうして歓声らしきものを受けているのか首を捻りながら、ザックスに引きずられるようにして壇上の裏に連れて行かれた。

「あの……」
「侵入者だそうだ」

 裏に着くなりザックスが先ほどとは打って変わって真剣な面持ちになる。
 クラウドの心臓が跳ね上がった。
 なんとなく…イヤな予感がする。
 ザックスも厳しい顔をして目の前にいつの間にか現れていた王と大臣を見た。

 王は飄々とした顔をしてはいたが、どこか張り詰めた空気を醸し出している。

「折角楽しい時間であったが、侵入者があったという報告をヴィンセントが持って来た。現在捜索中だが、このまま続けるわけにはいかない」

 ピクッ。

 ザックスとクラウドが同時に顔を引き攣らせる。
 王は深いため息を吐き、ザックスを見た。

「お前、今までの女性の中で妻にしたい女性は見つかったか?」
「え……」
「34番の女性をエラク気にしていたようだが…」
「あ……その……」

 ザックスの顔が瞬時に赤くなる。
 その隣で、クラウドはイヤな予感を覚えた。
 それはザックスも同じだったようで、照れながらも、
「あ〜っと…まぁ……。でも、どうしてそのようなことを?」
 しっかりすべき質問はする。
 王は肩を竦めた。

「恐らく、侵入者はこのパーティーに来ている女性達の仲間だろう。暗殺者か…、スパイか……。それが招待客の中に紛れ込んでいると考えるのが妥当だ」

 まぁ…そう考えるのが妥当だ。
 しかし、それと34番をザックスが気に入ったと言う関連付けが……分からない。

 王はいつの間にか後方に控えていたヴィンセントに向かって口を開いた。

「34番の女を調べろ」
「「 !? 」」

 声も無く驚くザックスとクラウドの前でヴィンセントが一礼する。
 背を向けた近衛隊長に、王子が慌てて声をかけた。

「ちょ、ちょっと待って!」
「ちゃんと招待状があるか確認しろ。無いなら不法侵入者だ」
「父上!」
「彼女がどこからやって来たのか、何が目的か徹底的に調査しろ」
「父上!!!」

 大声で抗議する息子を無視し、王は冷酷に命令を下した。
 近衛隊長は躊躇わずに再び一礼して今度こそ本当にその場を後にする。

「父上!どうして34番の女性を調べろだなんて!!」
 まるで、初めから34番が怪しいと言っている、そんな口調にザックスは顔を紅潮させた。
 対する父親は、青白いほど冷静な顔色で真っ直ぐ息子を見る。
 バカにしているのではないか…と思えるほどの落ち着きぶり。


「『赤い獣』をこのように喜ばしい場で口にする女を疑わないお前の方がどうかしているのではないのか?」


 冷静で的確なその言葉に、グッと声を詰まらせる。
 確かに…その通りだ。
 見合いパーティーと化してはいるが、あくまで今宵は王子の誕生パーティー。
 そのような喜ばしい宴に、忌まわしい象徴とされている『赤い獣』を口にするとは非常識甚だしい…。
 疑ってくれ…、と言っているようなものだ。

 言葉を詰まらせ、悔しそうに俯く息子を詰まらなさそうに一瞥すると、王は壇上に向かって歩き始めた。

「王…?」

 それまで親子のやり取りを傍観するしか無かったクラウドが躊躇いながら声を掛ける。
 本当は、声をかける事すら分不相応なのだが、ザックスがあまりにも可哀想でついつい出すぎたマネをしてしまった。
 それに対する咎めは…ない。
 冷たいアイスブルーがクラウドに向けられる。

「今宵は残念だがこれまでだ。侵入者を捕まえた後、日を改めて宴をやり直す」

 ハッと顔を上げてザックスが父親を見たが、もう王は背を向けていた。
 大臣と数名の近衛兵が気遣わしそうに王子を見つめている。
 ザックスは壇上に立ち、『見合い』を一時中断し、料理とダンスを楽しんでもらえるよう客達に声を掛けていた。
 普通の宴形式に戻し、その間に侵入者を捕えるつもりなのだ。

 王子はギュッと唇を噛み締めると、クルリと踵を返してバルコニーへと足早に向かった。
 クラウドはそんなザックスを慌てて追いかけた。






「え…?」
「一時中止…!?」
「 …!? 」

 ティファとエアリス、そしてユフィは突然の王の登場とそれに伴って発せられた言葉に驚いて顔を見合わせた。
 周りでは同じ様に他の客達がざわめいている。

「……どうやら…バレちゃったみたいね…」
 エアリスが溜め息を吐いた。
 ユフィとティファがギョッとする。
「バレたって…」
「バレット達が捕まったってこと!?」

 思わず大声を上げそうになる二人に、エアリスは「シッ!」と人差し指を立てると、さり気なく飲み物を手にして二人に渡し、自身もグラスを取ってバルコニーに出た。
 庭を眺める振りをして外を見る。

 庭では、武装した兵士が植木のあちらこちらから見え隠れし、広間を包囲しようとしているのが見えた。

「…ごめんなさい、二人共…」
 突然、項垂れて謝るエアリスに、二人は目を丸くし、不安そうに見つめた。
「私、つい嬉しくて…。彼に会えたことが嬉しくて…、彼が私の事を覚えていてくれてるってことを…もっとはっきり知りたくなって…、だから…ナナキを指すことを口にしてしまったの…」
「エアリス…」
「それって……まさか……」
 ビックリして顔を見合わせる二人に、自嘲気味に微笑む。
「ふふ…でもまさか、本当に王子様だったなんてね。あの時は冗談だと思ってたの…」
 少し遠い目をしてそう言ったエアリスが本当に悲しそうで、二人の胸が痛む。
 しかし、エアリスは表情を改めると二人に向き合った。

「大丈夫、まだバレットもナナキも見つかってないわ。むしろ私達よりも安全な場所に隠れてる。今から私達もそっちに向かった方が良いわ」
「そっち…って……?」
 不安そうに問うユフィに、エアリスは向き直ると淡い笑みを浮かべた。

「ユフィはこのまま最後までパーティーに参加してて」

 途端に少女の口から抗議の声が放たれそうになる。
 それをしっかりと予想していたエアリスは、ユフィの口をそっと人差し指で押し止めると、
「招待状を持っていない人間を割り出すつもりなのよ。ユフィは招待状をちゃんと持ってるでしょ。だからこのままパーティーに参加してて」
「でも!」
「いい?もしもここで私と一緒にユフィまで行方をくらませてしまったら、ユフィの実家が大変な事になるわ。それでなくても私と一緒にいる所を沢山の人に見られている。だから、これ以上怪しまれないためにもちゃんと最後までここにいるの」

 ユフィはグッと言葉に詰まった。
 黙り込んだ少女の額にそっとキスをすると、エアリスはティファに向き直った。

「私達は招待状がないから、急いでここを脱出しないといけないわ」

 ティファは黙って頷いた。
 エアリスは申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんなさい。本当なら貴女にもちゃんと会わせてあげたかったの…」
「…?誰に…?」

 心底申し訳なさそうにそう言ったエアリスに、ティファは小首をかしげた。
 真剣に分からないのだ。
 王子がエアリスの初恋の人であることはもう疑いようが無い。
 だから、彼女が『会わせてあげたかった』という人物が王子である可能性は低いと思われるのだが…違うのだろうか?

 そんな疑問を、ゆっくりと考える余裕はなかった。
 客とは違う気配が、自分達に向かって迫ってきているのを敏感に感じ取ったのだ。

 ティファは表情を引き締めた。
 そして、悔しそうな顔をしているユフィの頬にキスを一つ贈る。

「ユフィ、本当にありがとう…」
「ティファ……!でも…、結局…私…!!」
「ううん、ユフィが私の事を一生懸命思ってくれた。それだけでもう十分だよ」

 ニッコリと微笑むティファに次いで、エアリスも微笑む。

「大丈夫。ユフィの思いはちゃんと届いているから。ただ、ちょっと形になるまで時間がかかるかもしれないけど…」

 その時。

「失礼します。お嬢様方、招待状を見せていただけますか?」

 慇懃無礼に声を掛けてきた紺色の詰襟の制服に身を包んだ兵士に声をかけられた。
 エアリスとティファの前にユフィは立ちはだかるようにしてニッコリ笑った。

「はい、これのこと?」

 その招待状を兵士に見せようと近付き、わざと躓いてみせる。
 条件反射で兵士がユフィを抱きとめ、慌てている僅かの隙に、ティファはエアリスの手首を掴んで走り出した。

 背後で兵士が何か大声を上げているのが聞えるが、そんなことに構ってなどいられない。
 ティファはヒールを履いているにも関わらず、全速力で走った。
 途中、常人の体力しかないエアリスの息が上がり、速度が落ちる。
 もうその頃には広間からうんと離れた場所にいた。

 隠し通路が閉鎖されていることはもう分かったので、後は城壁を飛び降りるか…。
 もしくは…正面のあのアホみたいに長い階段を駆け下りるか…。

 道は…二つに一つ。
 正直、前者はティファ一人ならかろうじて何とかなるかもしれないが、それはティファが常人離れした体力、瞬発力、脚力をもっているからだ。
 エアリスに同じ事を求めたら絶対に死んでしまう。
 ティファは息の上がったエアリスを半ば抱きかかえるようにして猛然と走り出した。
 その足が向かう先には…長い階段。
 そこには既に兵士が配備されている。
 このままでは絶対に捕まる。
 それは分かっているはずなのに…。

 それでもティファは足を止めなかった。
 階段の手すりすれすれで高く飛ぶ。
 エアリスを抱きかかえたまま…。

 丁度その時、ザックスはクラウドを伴って広間を抜け出していた。
 バルコニーからバルコニーへとジャンプして監視の近衛兵をまくという荒業を行いながら二人が向かった先も正面玄関のある長い階段。

 そこで二人は見た。

 純白のドレスに身を包んだ美しい女性が、月光に艶やかな黒髪を靡かせて空高く跳躍したのを。
 まるで…天使が空を舞っているかのような…美しさ。
 兵士たちまでもがポカンと口を開けてその様子を見ている。
 誰一人、捕えようとはしない。
 彼女はエアリスを抱えたまま、階段の踊場で綺麗に着地した。
 そこに配置されていた兵士が思わず身を引く。
 その一瞬の隙を突いてティファはもう一度跳躍しようとして…。

「「 きゃっ!! 」」

 ティファとエアリスの口から短い悲鳴が起きる。

 高いヒールでの着地。
 そして間髪いれずに再びジャンプしようとしたことで、靴が脱げてしまい、バランスを崩したのだ。
 咄嗟にエアリスを庇ってティファはギュッと守るように抱きしめる。

「「 危ない!! 」」

 叫ぶと同時にザックスとクラウドが階段の天辺から思い切り二人に向かって跳び降りた。
 ただ飛び降りたのとはわけが違う。
 真っ直ぐ彼女達に向かって脚に渾身の力を込めての跳躍。

 四人が階段の中ほどまで、もつれ合うようにして滑り落ちる。
 それを見ていた兵士達が、王子がその中に混ざっているのに青ざめて我に返った。

「王子!」「ザックス王子!!」「ご無事ですか!?」「侵入者を捕えろ!!!」

 幾つも怒号が飛び交う。

 そんな騒動の一瞬。
 クラウドは幼い頃は嫌いだった少女を抱きしめ、至近距離で彼女を見つめていた。
 あまりにも…可憐で…美しくなっているティファに言葉も出ない。
 そして、ティファも言葉を無くした。
 吸い込まれそうな紺碧の瞳。
 完璧に整った顔(かんばせ)。
 そして…なによりも目をひきつけて離さないのは…。

「……ク、…ラウド……?」

 彼の顔を目にした途端、覚えていなかったはずの彼の名前を思い出した。
 クラウドの顔が驚愕で彩られる。

 二人が再会を果たし、呆然としている中…。
 ザックスとエアリスも同じ様な状態だった。

「キミ…あの時の…森の……」
「本当に…王子様…だったのね…」

 クラウドとティファと違うのは、二人が穏やかに微笑んでいること。
 そして、この状況を忘れていないという事。

 迫る兵士に向かって、ザックスは「控えよ、下がれ!」と鋭く一言命令を下した。
 戸惑ったように兵士がピタリとその場から動けなくなる。
 当然だ。
 王の次に権力を持つ王子の命令に逆らえるはずが無い。

「彼女は…私の恩人だ。これ以上、彼女達に無体な扱いをすることは許さない」
「いや…しかし…彼女達は……」
「招待状なら、俺が出した。彼女のために特別にあつらえて出したものだ。だから、お前達には招待状がどれか分かるまい。下がれ!」

 ザックスのその大声に、流石のクラウドとティファも、二人の世界からあっさりと帰還する。
 唖然と王子を見るティファとクラウドに、ザックスは至極真面目な顔をして彼女の手を握った。

「父上に…紹介したい。だから……」
「…ありがとう。でも、今はダメ。お父上はきっと、今は聞いて下さらないはずです」
「いや、だが!」
「お願い、私のことを本当に…その……想ってくれるなら……」

 顔を赤らめたエアリスは、そのままそっとザックスの耳に口を寄せて、何やらボソボソと耳打ちを始めた。
 それは本当に一瞬のこと。
 ガヤガヤと階段周辺が騒がしくなる。
 恐らく、近衛隊長のヴィンセントと王自らが来るまで時間は無い。

 ザックスは、真剣な顔をすると、
「分かった…必ず…」
 そうはっきりと約束をすると、ギュッとエアリスを抱きしめ、すぐに離した。
 そして、ティファに彼女を託して、
「お願いだから、無事にここから逃げて。そしたら…必ず迎えに行くから」
「え…?あの…」

「何をしている!その女二人を捕えろ!!」

 突然、威圧感のある重量たっぷりな怒声が響いた。
 王が鬼のような形相で立っている。

「早く!」

 王子に急かされ、ティファはエアリスを抱き抱えて再び踊り場から今度は階段の一番下まで跳躍した。

 地面に無事降り立つティファは、靴が片方抜けている事に気がついたが、それにかまっていられない。
 早くこの場から逃げなくては。
 馬車に戻って、何食わぬ顔で義父達を迎えなければ。

 そう、思うのに…。


 あの時、階段の踊り場から一番下まで飛び降りたとき。
 確かにティファは聞いた。


 ― ティファ!必ず助けるから!! ―


 そう言ってくれた青年の言葉を。
 小さい頃は…あんまり遊んでくれなかった……孤児院の男の声を。
 逞しく育って……思わず見惚れてしまうほど…素敵に成長した…彼の声を。


 高鳴る胸を押さえながら、ティファとエアリスは駆け出した。


 背後で0時を告げる城の鐘の音が聞える。



 あとがきは最後にまとめて書きますね。