*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
 ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
 苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。

 なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。





「ティ、ティファ…お前…どうして……」

 階上で仁王立ちに立つ義理の娘に、巨漢の紳士は青ざめ、泡を食いながら声を震わせた。
 背に怒気のオーラを立ち上らせている美女は、ニッコリと笑った…。


「お父様、ワタクシ、お蔭様でゲンキにしておりましてよ」


 片言で話す義理の娘に、富豪の紳士は蒼白になりながら顔を引き攣らせた。





シンデレラ……もどき? 14






 ザックスは呆然とした。
 これまでの自分の日常を振り返る。
 確かに、自分の周りにも戦える女性はいた。
 近衛兵の中には女性がいるのだから、当然と言えば当然だ。
 だが…。

 ちょっと失礼かもしれないが、こんなに綺麗で可憐な女性がこんなにも力を持っているのは…経験が無い。

「クラウド…」

 傍らに呆然と立ち尽くしている青年に声をかける。
 自分同様…いや、それ以上に衝撃を受けているらしい彼は、硬直したまま返事をしない。
 聞えていないかもしれないが…聞かないわけにはいかない。

「彼女…小さい頃からあんなだったのか…?」
「 ……………………………………………いや」

 長い間を開けて専属の近衛兵が答える。
 その間こそが、彼の衝撃を物語っていて、ザックスは引き攣りながら近衛隊長をチラリと見た。
 ザックスの視線に気付いてヴィンセントが我に返る。

 軽く咳払いをして硬直した空気を震わせ、階上にいるティファへ向かって声をかけた。

「あなたがティファ・ロックハート嬢か?」

 ヴィンセントに声を掛けられ、ティファがゆっくりと視線を義父達から移す。
 ティファの茶色の瞳がヴィンセントを映し、その隣に若干引き気味の王子、最後に幼馴染の青年を映して…止まった。

 紺碧の瞳と茶色の瞳が重なる。
 怒気を孕んでいた茶色の瞳がハッと見開かれ、スーッと狂気が引く。

 その様をザックスとヴィンセント、そしてクラウドはちゃんと見届けた。


『『『 よ、良かった… 』』』


 三人は表情には出さなかったが心底ホッとした。
 ちょっと…。
 いや、かなり怖かった。

 だが、肝心のティファは、目の前に自分の幼馴染が呆然と立っていることに怒気が引くと同時にそのまま物凄い勢いでザーッと全身の血の気が引く思いがしていた。

 ドアの外から洩れ聞える会話から、お城の人間がやって来たことは分かっていた。
 しかし、まさか王子自らがその側近を引き連れてやって来たとは夢にも思っていなかった。
 薬で意識が朦朧としている中、ドアから聞えてきた義父達のこの一週間のやり取りは漠然としていてはっきり分からなかったのだ。

『な、なななな、なんでここにクラウドが!!』

 王子がいることよりも、幼馴染だった青年がいることの方に衝撃を受ける。
 何故なら、まだ何も自分は変われていないのだから…。
 義父達と渡り合い、正当な権利を取り戻してからでないと会う資格はないと思っていた。
 それなのに、まだ何も変わっていない自分の目の前に会いたいと思っていた青年が現れた。
 嬉しさなど微塵も無い。
 湧きあがる感情は『混乱』と『焦燥感』だけ。

 パッと見た限りでは分からないが、ティファの脳内はパニックに陥っていた。


「ティファ・ロックハート嬢で間違いないか?」

 ヴィンセントが呆然としているティファに再度声をかける。
 ハッと我に返り、ティファはぎこちなく頷いた。

 一瞬にして身の毛もよだつような殺気が消えている。
 ハイデッカー達もそれを本能で感じ取ったのか、若干顔色を取り戻した。
 わざとらしく咳払いをしながら、
「あ〜、ウォッホン!ティファ、こちらに来なさい」
 渋面で手招きをする。

 本当はティファを登場させるつもりなどなかったのだが、致し方ない。
 ただの兵士とその使いだったら、上手く丸め込んで追い返すのだが、相手は王子と近衛隊長に王子付き近衛兵。
 どう考えても、自分達の方に不利がある。
 ここは大人しくティファを紹介する振りをして、そこそこ満足してもらってから帰って頂くしかないだろう。
 それに、自分の手で招待状は燃やしたのだ。
 ティファがあのパーティーにいたはずは無い。
 王子の心を掴んだという『バケモノを操る女性』とティファには何の面識も無いはずだ。

 様々な打算を瞬時に計算する。
 視界の端で、スカーレットとロッソが自分を睨んでいるのが見えたが、仕方ない。
 目の中に入れても痛くない娘達だが、それは自分の身が安全な状態でなくては!
 このまま、王子の怒りを買ってしまったらそれこそエライことだ。

 ぎこちなく階上から降りてくる義理の娘を忌々しく睨みつけながら、それでも自分に突き刺さる王子付き近衛兵の視線を感じ取って愛想笑いを浮かべて見せた。

 フンッ!と鼻先であしらうように青年が顔を背ける。

『い、忌々しい!』

 心の中でハイデッカーは歯噛みした。
 何が悲しくて、こんな若造にこんな扱いを!?
 というか、どうしてこんな青二才に愛想笑いをしなくてはならない!?

『ティ、ティファめ〜!!』

 舌先で呪いの言葉を押し止める。

 目の前にやって来た義理の娘を睨みながら、口元だけは引き攣った笑みを浮かべて王子を見る。

「さ、王子様にご挨拶を。お前は初めてお会いするんだからな」

 わざと『初めて』を強調する。
 ザックスが柔和な笑みを浮かべた。

「おや、ですが私はお会いしたことがあるような気がするのですが」
 ティファに近寄りながらそっと手を差し出す。
 クラウドの眉がピクリ…と動いたのを、ヴィンセントは見た。

「そんなはずはないですよ。だって、この娘はパーティーの当日、おできが出来て出席出来なかったんですから」
 スカーレットの言葉に、ザックスが芝居かかった身振りで眉を上げた。
「おや、先ほどは『パーティーから戻ったらすっごくへんな『おでき』が顔中に出来た』…と、そう仰られませんでしたか?」
 サーッとスカーレットが青ざめる。
 それをロッソが見事な作り笑いを浮かべつつ、
「あら、そうでしたでしょうか?大変申し訳ありません、ちょっと言い間違えたようですわ」
「左様ですか。でも、今は全く問題ないようですね。実に綺麗な肌をしておられる」
 サラリとロッソのフォローを流して、ティファの頬に手を伸ばした。

 クラウドの頬がピクリ…と引き攣ったのをヴィンセントは見た。
 ティファが戸惑いながらザックスを見つめ返している。
 ザックスはニッコリ笑うと、
「クラウド、あれを」
「 ……… 」
「クラウド、聞いてるのか?」
「 …あ、はい 」
 笑いを堪えながら青年に例の靴を持ってくるように促す。

『クックック…、本当に分かりやすい…!』

 おかしくて爆笑しそうなのを必死に押し殺し、努めて冷静な振りをする。
 ヴィンセントが小さく溜め息を漏らしたのが聞えた。


「さて、ティファさん」
「あ…はい」
「私は貴女と会った気がするんですが、いかがですか?」
「あ……」

 ティファは躊躇った。
 背後からは、義父達が『何をまたバカなことを…』という視線を王子に向けているのがイヤでも分かった。
 ここで、もしも自分が『はい、そうです。パーティーに行きました』と言えば、どうなるのだろう?
 招待状は義父が燃やしてしまった。
 パーティーに行けるはずがない自分が、行ったと言えば…。
 不法侵入したことになる。
 当然、義父は招待状を燃やしたなどとは言うまい。
 しかし、何かしら因縁をつけて『行ってない!』と言い切るだろう。
 更には正面から堂々と入城していない事を考えると、どうにも後ろ暗くて仕方ない。
 おまけに、自分が不法侵入したことを認めてしまったら、後々、協力してくれたユフィやエアリスに迷惑をかけてしまうかも…。

 このまま…。
 行ってないと…。
 会うのは初めてだと……言った方が……?

 フッと視線を上げる。
 紺碧の瞳が真っ直ぐ見つめていた。
 どこか温かくて、フンワリと包んでくれる…そんな…瞳。


 ― ティファ!必ず助けるから!! ―


 あの晩、クラウドがくれた言葉が蘇える。


 ティファの肩から力が抜けた。



「はい、二週間振りです、王子様」



 穏やかに微笑んでコックリと頷くティファに、義父達が驚愕の叫びを上げる。
 それを全く無視して、王子は満足そうに頷いた。

「じゃあ、これを履いてみて下さい」
 スッとクラウドがしゃがんでティファの足元にハイヒールを並べる。
 見上げた魔晄の瞳が『大丈夫、心配ない』と、言ってくれているようだ。
 ティファはそっとハイヒールに足を入れた。


「「「 ちょっと待って下さい!! 」」」


 金切り声を上げたのは当然義父達。
 ティファが城に行ったとは露ほども思っていない三人にしてみれば、王子の言葉も、ティファがまさに履いているその靴も、信じられないものばかり。
 靴は、ティファの足にピッタリ合っている。

「おかしいじゃないですか、どうやってティファが!?」
「パーティーには行ってないはずなのに!」

 唾を飛ばさんばかりに詰め寄る美女二人から守るように、スッとヴィンセントが王子の前に立ちはだかる。
 自然と近衛隊長に気圧された姉妹は、それでも忌々しそうに義妹を睨みつけるのをやめなかった。
 勿論、義父とて同様だ。
 娘達とは反対側から王子に詰め寄ろうとしてクラウドに阻まれる。
 射抜くような視線に、僅かにたじろぎながら、それでも収まる事の無い怒りと焦燥感。
 このままティファがお城に迎えられて后にでもなったら、自分が一年前にした『不当な手続き』が明るみに出るかもしれない。

『こ、こうなったら…!』

 一瞬の出来事。

 クラウドに気圧されたようにして後退し、一瞬クラウドが気を許したその隙に。
 ピッタリとサイズの合ったハイヒールを見て手を叩いて喜んでいる王子。
 その王子を前に、はにかんで立つティファへ野太い腕を伸ばした。


「え、きゃっ!」


 短い悲鳴。
 驚愕に見開かれる紺碧の瞳と紅玉の瞳。


 舞う……女性。


 ハイデッカーは力任せにティファを放り投げた。
 冷静な判断など微塵も出来なくなっていた富豪の凶行。
 クラウドが眦を上げてティファを追う。
 ヴィンセントが素早く動いてハイデッカーの腕を捻じりあげる。
 ザックスがクラウドに遅れて後を追う。


 クルッ。
 ストン。


「「「 ……… 」」」
「「「 !?!?!? 」」」


 華麗に、軽やかに。
 壁に両脚をつけてハイデッカーの攻撃を難なく殺すと、実に見事に着地した。
 その動きは無駄が無く美しい。

 ティファを助けるために伸ばしたクラウドの腕は、行き場を失ってしまったわけだが、そのまま膝に当てられて…。

「はぁ〜〜〜………」
「あ〜…ビックリした…」

 王子共々、全身から安堵の溜め息を吐いた時の動作になった。
 義父と義姉達は、初めて見るティファの身のこなしに目を見開いて硬直した。
 ティファが非常に熟練した格闘家であることは話では聞いて知っていた。
 だが、実際に目にした事は無い。
 あんぐりと口を開けているハイデッカー達に、ヴィンセントが冷たい眼差しを向けた。


「今のはどういうことか、ちゃんと説明してもらいましょうか?」


 ヒクッ!

 ハイデッカーの頬がこれ以上無いくらい引き攣り、顔の形が歪む。
 しかし、そこはもう心臓に毛が生えた男。
 ヴィンセントに腕を捻じられていることと、鋭い視線に晒されていることから口の筋肉が上手く動かない状態であるのに、またもやくだらない言い訳を吐き出した。


「い、いかにティファがパーティーとは無縁な存在か、お分かりになったでしょう!」


 曰く。
「こんな戦闘バカの動きしかとれない娘が、王子の誕生パーティーに行くはず無い」

 だそうだ。

 ザックスは放心した。
 クラウドは怒りを通り越して呆れ果てた。
 ヴィンセントは無言のままハイデッカーをねめつけ、言葉を探したが何も見つからなかった。

 実の娘達ですら、その苦しい言い訳に羞恥心で顔を真っ赤に染めた。
 そうして。


「確かに私は粗野で無骨者ですけど、それでもパーティーに行って…、王子様と一瞬とは言え出会ったのは本当です」


 怒りのためか、それとも恥じらいのためか。
 真っ赤になってそう言い切ったティファに、王子はハタ…、と我に返った。

『今日は…己を見失うことが多い日だな…』

 内心でそう呟きつつ、
「ティファさんこそ、私の探していた女性だと、今こそ確信しましたよ」
 そっとティファの腰に手を回して抱き寄せる。
 条件反射でクラウドは睨みつけたが、グッと堪えてフイッと顔を背けた。
 ティファは真っ赤になってオロオロしている。
 義理の姉達が黄色い声を上げて抗議した。
 耳を劈くその抗議に、ザックスは苦笑しながらそっとティファの耳元に顔を寄せた。
 見る角度から見れば、頬にキスをしている様にも見えないことは無い微妙なシーン。
 クラウドの目からは、幸い、ザックスがティファに耳打ちをしているとはっきり分かる角度であった。

 ティファは目を丸くすると、ザックスをマジマジと見つめた。
 次いで、チラリ、とクラウドを見る。
 クラウドは無言で小さく頷いた。

 ティファの目に、喜色が浮かぶ。

「王子様…」
「ティファさん、一緒に来てくれますね?」
「はい」
「「「 !! 」」」

 義父と義姉達は、もう驚きの言葉も無くその会話を見守ったのだった。






「それにしても、流石だよなぁ。普通、ハイヒールであんな身のこなし、出来ないもんな」
「も、もう…王子様…」

 城へ戻る馬車の中、ザックスは上機嫌だった。
 何はともあれ、当初の計画通りティファを城に引き取ることが出来たのだ。
 これで後はエアリスを一週間以内に城に連れてくる事が出来たら万事オッケー。
 クラウドはザックスの隣に腰をかけ、窓の外を眺めていた。
 その姿が妙にティファの心に寂しさを生んだ。

 ロックハート家から出る時も、こうして馬車に乗ってからも、クラウドは一度もティファをまともに見ていない。
 それが…とても寂しい。
 王子は人当たりが良い性格のようで、ひっきりなしに気軽に話しかけてくれる。
 それが…とてもありがたかった。

 ティファの沈みがちになる気持ちを王子が引き上げてくれる。
 それがティファにとって救いだった。

『きっと、エアリスは幸せになれるわ』

 そっとクラウドを見て、彼の視線が全く自分に向かないことにやはり気落ちしつつザックスの話しに相槌を打つ。



 ― 34番の女性がキミの事をくれぐれもよろしくって言ってたからさ。頼むよ、彼女を説得するのに協力してくれないか? ―



 ロックハート家で囁かれた一言。
 ほんのりと頬を赤らめてはにかんだ王子に、自分の事のようにうれしさが込み上げた。
 エアリスがパーティーの時に言っていた言葉とピッタリ合う…王子の姿。

 小さい頃の初恋の相手が自分の事を王子だと言っていた。
 冗談だと思っていたのに…。

 おかしそうに笑う、花のような笑顔が脳裏を過ぎる。
 また会える。
 今度は会いに行く。
 エアリスの想い人と一緒に。

 その事実は心弾ませるが、やはりどうしても…。


 と、その時。

「はぁ……ったく!」

 パッコーン!

 小気味の良い音と共に、頭を抱え込んだ幼馴染。
 呆れたようにそれらを見ている近衛隊長。

「お、王子様…?」
「ク〜ラ〜ウ〜ド〜〜!お前はいつまで不貞腐れてるつもりだ〜!?」
「い、いたたたたたた!!!」

 こめかみを拳で挟まれてグリグリ攻撃を食らわされたクラウドから悲鳴が上がる。

「痛いって言ってんだろ、このバカ王子!」
「おう!?バカだ〜!?なに言ってやがる、大事な女性(ひと)をこんなに悲しい顔させるお前に言われる筋合いねぇ!」
「な!?なに言ってんだよ、って言うか、もういい加減やめて下さいって!!」
「お前が反省しない間は止めない!」
「いたたたたた、イタイイタイ!!」

「あ、あの…王子…」
「あぁ、良いんだ、いつもの事だ」

 オロオロと、とりなそうとするティファに、ヴィンセントがサラッと流す。
「いつものことって…」と、口の中でモゴモゴ呟き、ティファは二人を見た。
 そうして、プッと吹き出す。

 ザックスとクラウドがピタリ、と止まってティファを見た。
 そうして顔を見合わせると、ザックスは豪快に、クラウドは照れ臭そうに笑った。


 美しい茜空の下、四人を乗せた馬車がようやく城に辿り着いた。



 あとがきは最後にまとめて書きますね。