*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。
なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。
「え!?行き戻り合わせて9日!?!?」
驚愕の声が王宮の一室に響き渡った。
シンデレラ……もどき? 15
ティファを城に連れて来たその足で、クラウドはユフィの元へと向かった。
クラウド達の成功を知った彼女は、そのまま城に戻るクラウドにくっ付いて城にやって来た。
久方振りの再会に大喜びするユフィに、ザックスがエアリスの居場所を聞き出したのは…その後。
知らされたその事実に、先ほどまでのお祭りムードが一変する。
魂の抜け殻のようになった王子をクラウドが慌てて揺さぶる。
ユフィは事情が分かっていないのでキョトンとしていた。
「なに…どうしたのさ…」
「……王との約束で、あと一週間の内にその『エアリス』という女性を連れてこないといけないのだが…」
「一週間!?」
あんぐりと口を開けてヴィンセントを見る。
ヴィンセントは盛大な溜め息を吐いた。
「どれだけ時間がかかるのか…まずそこを知っておいてから行動するべきだったな…」
ヴィンセントの言う通りだ。
とんだ大失態。
まさか、そんなに時間がかかるとは!!
確実にタイムアウトではないか!
「あぁぁあ、ほんっとうにバカ!私のときは9日で済んだけど、あそこの海域は潮の流れがすぐに変わるし、天候が急変するから、酷かったら10日以上かかることもあるんだってば!!」
ユフィが追い討ちをかけ、その場の空気が凍りついた。
「折角……折角彼女の言う通り、ティファちゃんを救出したのに…」
ガックリと項垂れて脱力する王子の背後に絶望のオーラがどんよりと見える。
「そ、そんな…今すぐ出発したら…もしかしたら間に合うかもしれないですよ」
そう言いながら、ティファもこの事態をどうして良いのか分からなかった。
まさか、エアリスが自分と一緒に迎えに来てくれるのを条件にしていたとは夢にも思わなかった。
まだ会ったばかりなのに、そこまで気に掛けてくれるなんて…信じられない。
だが、あの温もりに溢れた深緑の瞳…。
彼女はまさにそういう人だと思える。
会った瞬間、ピッタリと合うものを感じた。
何とかしたい。
助けてもらってばかりはイヤだ…と、そう思う。
彼女にはうんと幸せになって欲しい。
ザックスの事を初恋の人だと言っていたエアリス。
ティファ自身も、初恋の人と再会出来て…こうして今、同じ空気を吸っている。
それがとても嬉しい。
ほんの一ヶ月前にはこんな幸せな出来事が自分の身に起きてくれるとは思いもしなかった。
だから、この幸運を運んでくれたユフィにも、エアリスにも同じくらい…、いや、それ以上に幸せになってもらいたい。
「そうだな…ティファの言う通りだ。やってみて、最後までとことん足掻けば良い」
「クラウド…」
初めてまともに目を合わせる。
どちらからとも無く淡く微笑み合って………。
「…なぁに、人前で幸せオーラ醸し出してくれてんのかなぁ〜?」
二ヒヒ、と笑いながら割り込んできたのは言うまでも無く…。
「…!ユフィ…!!」
「な、別に幸せオーラなんて…!!」
「はいはい、二人共、照れない照れない」
「「 王子まで!! 」」
イシシ〜、と笑うお元気娘に、王子が便乗する。
あんなに激しく落ち込んでいたくせに、復活したらしい。
「クラウドの言う通りだな。よしっ!最後まで足掻いて、足掻いて、足掻き抜いてやるぜ!!」
ググッと拳を握り締める王子に、ユフィが「その意気だよ王子!!」と惜しみない拍手を送る。
「んじゃ、早速手配するか。ヴィンセント、悪いけどシドを呼んでくれ。すぐに出立する」
「はっ!」
「クラウドは女官長に連絡して、ティファちゃんとユフィちゃんの旅支度を頼んでくれ」
「はっ!」
サッと敬礼してヴィンセントとクラウドが部屋を後にする。
先ほどまでのヘタレっぷりからは想像しづらい王子の姿に、ユフィは軽く口笛を吹いた。
「へぇ〜、さっすが王子。中々良い感じに指示するんだねぇ」
「フッ。コレくらい当然だな」
大袈裟な態度でユフィの称賛に応えるザックスは、どこにでもいる青年で…。
それがティファにはとても嬉しかった。
王子という肩書きに縛られず、鼻にかけない姿は非常に好ましい。
「あ、ティファちゃん、悪いな。しんどいだろうに…」
「いえ、平気です」
「でも…薬、盛られてたんだろ?」
「「 え!? 」」
驚きの声は、ユフィとティファから。
ティファはそのことをまだ話していなかった。
一瞬、ユフィが話したのかと隣に立つ少女を見たが、同じ様にビックリして自分を見上げるユフィに、彼女がその事実を知る術など無かったことに気付く。
「ティファ…それ、本当なの!?」
「…あ、…うん……」
戸惑いながら頷く。
ユフィは当然、烈火の如く憤慨し、
「だから、ティファと連絡とろうと孤児院に行っても無駄なわけだ!」
と、怒り狂った。
「でも…どうしてそれを…?」
「あぁ、コレだよ」
王子が指差す先にはクラウドが先ほどから持っていた小さなバッグ。
ティファをロックハート家から連れ出したとき、ティファの手回り品を簡単に集めたものの中の一つ。
ティファは首を傾げながら中を開けて、目を丸くした。
ユフィが興味津々に覗き込んで眉を顰める。
中には、ゴミ箱に捨てた今朝の朝食が少量入っていた。
「俺達はこういう『毒』に関して詳しいからね。食べ物の変色と僅かな匂いで分かるんだよな」
「……そうですか…」
「まぁ、依存系の毒物じゃないし、そんなに強いものじゃないから二・三日したら元に戻るよ。でもさぁ…」
「 …? 」
王子が苦笑する。
キョトンと首を傾げるティファに、「いや、なんでもない」と言葉を濁すと、ティファとユフィを食堂に案内した。
もう夕食の時刻になっている。
そうでなくてもティファは丸一日食べてないし、一週間も軟禁生活だったのだから体力が落ちているはず…。
それなのに、今から過酷な旅に連れ出そうとしている。
せめて、力のつく食事を摂ってもらいたい。
「わ〜、夕飯だって!なんだろう!」
嬉しそうな声を上げながら着いて来るユフィと、そんなユフィに手を引っ張られて楽しそうに笑うティファに、ザックスは心の中でそっと呟いた。
『普通……一食、二食抜いたくらいでそんなに抜ける毒じゃないのになぁ…。すげぇ女性だ…』
「あん?今から出港準備?」
「そうだ。目的地は眠りの森」
「は!?なんでまたそんな辺鄙な所に…!?」
「…王子のお相手を迎えに行く」
「 えぇぇぇえええ!?!? 」
王宮専属の名うての船乗り、シド・ハイウィンド。
ヴィンセントはシドの大声に顔を顰めた。
ヘビースモーカーの彼の部屋に入るのはいつも気が引ける。
別にこの男が嫌いなわけではなく、むしろ、ヴィンセントにしては珍しく好ましい人間だと思っている。
彼がこの部屋で一服している時は大概仕事から解放されてのんびりとしている貴重な時間だ。
名うての船乗りとして名高い彼は、とにかく忙しい。
一日のうち、大半を船着場で過ごし、若い乗り組み員を教育する。
危険な航海に乗り出すこともざらにある。
その彼が、陸の上でのんびりと過ごせるのは本当に貴重な時間なのだ。
だから、その時間を奪ってしまうことが…心苦しい。
だが、今回は場合が違う。
多少のことには眼を瞑って……と、ヴィンセントが良心の呵責を無視しようとしたとき。
「するってぇと、あの嬢ちゃんが坊ちゃんの想い人だったのか!?」
「…!?シド、どういうことだ!?」
顔色を変えてキャプテンに詰め寄る。
シドの話は実に簡単なものだったが、その中身は非常に重要なものだった。
ヴィンセントは踵を返して王子の元に急いだ。
後ろから、
「シエラ!悪い、またちょっと出かけてくら〜!」
「シド、気をつけてね。いってらっしゃい」
という、なんとも心和む夫婦の会話が聞えてきた。
ヴィンセントは知らず知らず、頬が緩むのを抑えられなかった…。
それからはほんっとうに目まぐるしかった。
エアリスを家に送り届けたのがシド本人だったということも王子達にしては驚きだったのに…。
「あぁん?往復9日だ?んなにかかるかよ、かかった日数は6日だったぜ?」
その言葉に王子が狂喜乱舞したのは言うまでも無い。
早速船に乗り込み、王の許可ももらわず出港した。
副キャプテンが、渋い渋い顔をしたが、それはそれで無視をする。
こんなに強引に出港するのはもう今更な話し。
何しろ二週間前にエアリスを乗せて出港した時は、王は勿論、王子の許可すらない状態だったのだから。
その時に出港許可をもらうために使った手段は…。
「船の調子を確かめるために暫く遠出してくる」
普通なら反対したり、極刑になるだろうに…。
「「「 行ってらっしゃい、キャプテン!!ご武運を〜♪ 」」」
船着場で仕事をしている人間に、満面の笑みで見送られた。
何故なら、シドがこうして突発的に船出するのはいつもの事。
そして、いつも必ず、何かしらの成果を持って帰ってきていたのだから、イヤな顔などするはずが無い。
なら、どうして今回副キャプテンが渋い渋い顔をしているのか…というと。
「キャプテンは海に慣れてます!でも、王子やその他の愉快な仲間達はどうするんですか!?不慮の事故に巻き込まれたら〜!!」
至極ごもっともな言い分。
だが、それで踏み止まるはずも無く。
「じゃあ、お前も同行しろ!俺がヤバくなったら助けてくれたら良い」
「んな、むちゃくちゃなー!!」
「よっし、船出だー!!」
「王子〜〜〜!!!!」
誘拐犯に攫われる子供さながら、泣き叫ぶ副キャプテンを無理やり乗せて、王国一のハイウィンド号は出港した。
それを、自室のテラスで豪華な椅子に座り、ワインなんぞを愉しみながら王は不適に笑った。
「まったく…いつ動くのかと思えば、こんなに時間を掛けるとは…」
我ながら、愚かな息子だな…。
ゆったりと足を組みなおして遠ざかる船を見送ったのだった…。
船の旅は実に順調だった。
………二人を除いて……。
「大丈夫、クラウド…、ユフィ…」
「 ………………………………………………………………大丈…夫だ…… 」
「 ………………………………………………………………死ぬ… 」
こんなに酷い船酔いをした人間を、シドは見たことが無い。
甲板に出て風に吹かれながら、土気色をしてグッタリとへたり込む近衛兵と令嬢。
傍らには、心配そうな顔をして甲斐甲斐しく解放している妙齢の美女と…。
「クラウド…、お前って本当に乗り物弱いんだなぁ…」
呆れた顔をしつつも、部下の背を擦っている王子。
普通、王子という身分の人間が部下の背を擦ることなどありえない。
だが、ザックスは実に気さくでそういうものに囚われない。
だからこそシドをはじめ、彼は部下達から絶大な人気を得ている。
そうでなくては、いくら剛毅で人の良いシドでも突然出帆することなどしない。
王子がザックスだから、できる限りの無茶を聞いてやりたくなる。
シドは苦笑しながら空を仰いだ。
もうすぐ三日目の昼になる。
そろそろ目的地を有する大陸が見えるはずだ。
シドの予想が正しかったと証明されたのはそれから小一時間後。
フラフラになりながら下船したクラウドとユフィを、それぞれヴィンセントとティファが支える。
今ではすっかり観念した副キャプテンに、部下と船を任せてシドも下りた。
「んで、こっからどれくらいかかるんだ?エアリスの家まで」
う〜〜〜〜……。
変な呻き声を上げながらユフィが緩慢に顔を上げる。
「えっと〜……」
ガンガンと痛む頭を必死に動かして思い出そうとするユフィに…。
「ふふ、遅かったのね、待ちくたびれちゃったわ」
鈴を転がしたような笑い声。
ふんわりとした雰囲気。
ポカン…と村の入り口へ視線を移す。
そこに立つのは…。
「『妖精さん』!!」
ズルゥッ!
ザックスの間抜けな呼び声に、エアリス以外の全員が膝から力を抜かれた。
危うく、何も足を取られていないのにこけそうになるのを全員が踏ん張れたのは、いっそ褒められても良いのではないだろうか…。
エアリスは、ザックスの変な呼称にも全く動じず、クスクスと楽しそうに笑っていた。
「ふふ、本当に約束を守ってくれたのね」
「あ、当たり前だろ!?」
「……ありがとう…」
ザックスよりも後ろにいるティファを見て、エアリスは嬉しそうに笑った。
ほんのりと頬を染め、照れ臭そうに後頭部を掻く王子に、船酔いから少し解放されたクラウドがホッと安堵の溜め息を吐いた。
「これで…後は戻るだけ…だな…」
「うん、そうだね」
知らず知らずのうちに手を握り合って微笑み合い…、ふとした瞬間にハッと気がついて二人は同時に慌てて手を離した。
エアリスがそんな二人に気付いて苦笑する。
手を離したことで、なんとなくもの寂しい感じがするクラウドとティファは、ソワソワしながらも繋いでいた手をもう片方の手で擦ったりしていて……見ているだけで……。
「こっちが照れちゃうわね」
「…なにが?」
「ううん、なんでもない」
エアリスしか見ていなかったザックスには、残念ながらクラウドの初々しい姿を見ることが出来なかった。
見ていたら、さぞかしからかうネタになっただろう…。
「あの…いきなりで本当に驚くと思うけど…」
急に表情を改めてザックスはエアリスの前に片膝をついた。
そっと跪いて彼女の片手を取る。
「ずっと、子供の頃に会った時から忘れた事は無かった」
「 ……… 」
「どうか一緒に国に来て欲しい」
緊張の面持ちで真っ直ぐエアリスを見上げる。
いつもおどけた彼が、真摯に向き合う姿はティファとユフィは勿論だが、クラウドとヴィンセント、そしてシドの胸をより強く打った。
『『『 王子……やれば出来るじゃないか!! 』』』
感動しながらそう評するところが、非常に失礼だということに三人は気付かない。
緊張を孕んだ沈黙は一瞬。
「はい、私も忘れた事は無かったです。どうか連れて行って」
可憐な花が咲き誇るような笑顔を見せたエアリスに、ティファ達から歓声が上がった。
王の提示した期間まであと三日。
あとがきは最後にまとめて書きますね。
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