*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
 ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
 苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。

 なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。









シンデレラ……もどき? 2





「は、花嫁……って〜!!」

 パニックに陥る実子を、
「お前という奴は……」
 情けなさそうに見やりながら、王は玉座に座りなおした。

「本来、王子ともなれば、18歳くらいで婚約者の一人や二人はいるものだ」
「いや、父上…。二人もいたらエライことです…」
「だと言うのに、24歳にもなろうかという肝心のお前は、いつまでもフラフラフラフラ…」
「いや、父上、少しは俺の話も聞いて」
「だから、今度のバースディパーティーで、女好きのお前の為に国中の年頃の女を招待することにした」
「女好き…って、俺は別に女ったらしじゃないです!!!!」
「あ、それから各国の姫君も招待してあるからな」
「だから〜!俺の話も少しは…」
「はぁ…。こんな情けない孫がいると知ったら、天国の母上がどれだけ悲しまれるか…」
「…こんなマザコン持ったことを既に後悔してるっつうの…」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも…(聞えてんじゃん…)」
「それでも私は待っていた。お前が王子というものが何たるかを悟ってくれる日を!それなのにお前ときたら…」

 はぁ…。

 またもや溜め息を吐き出すと、王はフッと笑った。
 笑った先には…何故かクラウド。
 王が自分を見て笑っていることに、クラウドは戦慄した。
 絶対に……これから何か言われる!
 しかも、メチャクチャなことを!!

 ツツー…。

 冷や汗が背中を伝う。
 硬直するクラウドに、王は笑みを深くした。

「温厚な私ももう限界だ。そこで、来月の誕生パーティーに招待した女性の中から花嫁を選べ。選ばなかったり、逃走したり、失踪したりすると、お前の親友を国外追放にする」


「「 えぇぇぇえええええ!?!? 」」


 思わず上がった驚愕の声は二人分。
 王子は勿論、突然の理不尽なお達しの標的であるクラウドだ。
 本来、王に向かって素っ頓狂な声を上げるなどもってのほかだ。
 首を刎ねられても仕方ない。
 だが、王は心地良さそうな笑い声を漏らすばかり…。
 まるで、悪戯が成功したことを喜ぶ悪がき……もとい、子供のようだ。

「ふっ。それがイヤなら、クラウド。しっかりとザックスを見張っていろ。そしてザックス。お前も、クラウドがいなくなるのがイヤなら、しっかりと目を見開いて招待客を吟味しろ」
「「 ……… 」」
「安心しろ。相手の女性が姫であろうが、金持ちの娘であろうが、町娘であろうが、村娘であろうが、誰でも良い。その代わり、ちゃんとした『女性』を選ぶように」
「「 ……… 」」
「お前の妻になる女性なのだからな。ということは、未来の王妃ということだ。しっかりと将来恥をかかずに済む女性を選べ」
「「 ……… 」」
「くれぐれも、逃げ出したり、身代わりを立てよういう愚かな事はしないように」
「「 ……… 」」
「という訳だ。さぁ二人共、下がって良いぞ」
「「 ……… 」」
「あぁ、母上。我が息子ザックスが見事、素晴らしい女性を妻に出来るよう、天国から見守ってやって下さい」
「「 ……… 」」



 愕然とする青年を、王の隣に立つリーブ大臣が気の毒そうに見つめているのだった。





「ありえなくないか〜!?」
「…………」
「あの変態オヤジ、あそこまで横暴だったとは!!」
「…………」
「俺には既に心に決めた女の子がいるって言うのに〜!」
「…………」
「まさか…、まさか、クラウドを人質にするなんて!!」
「…………」
「はぁ……って、おい!お前もなんか言えよ!!」
「…………」

 自室に戻った王子は、付き人である青年をそのまま自分の座っている横に招き、ガックリと頭を抱え込んだ。
 一方、王子に部屋に入ることを許された名誉ある青年は…。


 虚ろな眼差しを遠くに投げている。


 完全に、魂が身体から離脱している状態だ。
 王子は、なにも返さない親友に、またもや溜め息を吐いた。

「はあ…。ったくなぁ…。俺は本当に結婚する気はないんだっつうの!」
 ガシガシと黒髪を掻き毟る。
 折角整えた髪がボサボサになってしまうが、それに構ってなどいられない。

「こう…あれだ。絶対に来月のパーティーで来る女達は化粧が濃くて香水クサイ奴ばっかだ…。誰も、『俺』を『俺として』見てくれる奴なんかいない…」
「…ザックス…」

 王子の口からこぼれた本音に、遠くの世界に旅立っていたクラウドの意識が呼び戻された。
 黒髪に手を入れて項垂れている親友である青年を見下ろす。

 一つ溜め息を吐くと、
「もしかしたら、そのパーティーに『想い人』が来るかもしれないだろ?」
 差しさわりの無い言葉で慰めようとした。
 だが…。
「無理だって…。だってあの子、この国の人間じゃないんだから…」
「……ごめん…」
 俯いたままボソリ…と返って来たその台詞に、クラウドはバツが悪そうに顔を伏せた。

 そう。
 王子はとっくの昔に恋をしていた。
 かれこれ今から10年前。
 他の大陸に国交として赴いていた王子は、その土地でお忍びを楽しんだ。
 お忍びは本来、誰か部下が着いて行く。
 当然だ。
 一国の王子たるもの、身一つで地理や情勢に疎い土地をホイホイ自由に出歩けるわけが無い。
 だが、型破りの王子は単身、部下たちの目を盗んで町に繰り出してしまった。

 まぁ…いつものことだ。

 そんなザックスを探しまくってクラウドも苦労したわけなのだが、いつもはお忍びでどこかに出て行った王子も、夜にはきちんと戻ってきて部下たちに説教される。
 しかし、あの時だけは違った。
 真夜中になっても帰ってこない。
 真っ青になってヴィンセント率いる近衛兵達が探しまくったが、どこにもいない。
 当然、クラウドも一睡もしないで探した。
 当時、クラウド12歳。
 子供にとって、一睡もしないで探すのは大変だ。
 勿論、クラウドは大人兵と行動を共にして探していたわけであって、決して一人で探したわけではない。
 そんな、非人道的なこと、この国の人間が出来るはずが無かった。

 とまぁ、それだけの人間を心配と混乱に叩き落した張本人は、朝靄が立ち込める時刻、ひょっこりと帰ってきた。
 しかも、顔や腕、胸や背中に包帯を巻いて。

 王子が見つかったらきつくお小言を〜!

 そう思っていたリーブ大臣達は、その姿に驚き過ぎて、とうとうお説教のタイミングを逃してしまった。
 とりあえず、ザックスに事情を聞いた大臣達だが、

『森に入って道に迷った。暗くなって足元が分からなくなって崖から落っこちた。そしたら妖精が助けてくれてそのまま一晩森で過ごした。朝になったから森の外れまで送ってくれた』

 その一点張り。
 なにを聞いても同じ事を繰り返す。
 大臣達は顔を見合わせ、王子が崖に落っこちたショックでおかしくなったのでは!?と心配したが、ザックスは至って元気そのモノ。

「まぁ、無事だったから良しとしよう…」

 王の一言で、この件に関しての追及は断ち切られた。


 あの事件の後。
 王子は一睡もしないで自分を探してくれていたという親友にだけ、こそっと教えたのだった。


 ― あの『眠りの森』で、俺の事を助けてくれた妖精。すっごく可愛かったんだ!俺、将来あの子を后にしたいなぁ ―


 まだ、王子とか国とかが良く分かっていなかったクラウドは、頬を染めて嬉しそうに話す親友に、頑張れ!と心から声援を送ったのだった。

 だが。
 大人になればなるほど分かってきた。
 ザックスがその女性を妻として迎えることがいかに難しいのか。

 同じ国の人間ならまだやりやすい。
 だが、これが他国の人間となると外交問題が浮上してくる。
 勿論、恋愛云々に関しては問題ないかもしれない。

 ザックスが、その女性を『愛人』として愛する分には。

 だが、正妻を迎えつつ、心から愛している女性を『愛人』になど、この一見、お調子者で軽そうな青年が、実は実直で一途な性格をしていると知っているクラウドには不可能だと分かっていた。

「俺はさ。王位とかそんなもん、重苦しくっていらねぇ。むしろ、欲しいって言う奴に喜んで譲ってやるよ」
「…ザックス…」
「でも、『欲しい』って言う奴に限って、ろくな人間はいないからな。そんな奴に比べたら俺の方がまだマシだと思ってるからこそ、まだ『ここ』にいるんだ」
「…うん」
「だけど……、あの子以外の女を生涯の伴侶にしないといけないなら……もう……」
「………」
「………」

 重苦しい空気が王子の豪華な部屋に漂い、二人を暗く包み込んだ。







「というわけで、来月は城下町に赴く!」

 夕食時。
 ハイデッカーの重大発表に、スカーレットとロッソは黄色い歓声を上げた。
 ティファは空いた皿を下げながら、たった今耳にした義父の報告に内心驚いていた。

『へぇ…王子様の花嫁選びか』

 ワゴンに空いた皿を綺麗に並べつつ、代わりに義父と義姉達に食後のデザートを出す。
 完全に、召使だ…。

『まぁ、私には関係ないわね。どうせ、連れてってはくれないだろうし』

 などと思っていると、
「ティファ、お前も来月は一緒に行ってもらうからな」
「「「 え!? 」」」

 ハイデッカーの言葉に驚いたのはティファだけではない。
 義姉達も驚愕のあまり目を見開いた。

 驚く娘たちにハイデッカーはガハガハ笑うと、
「向こうでお前達の髪を綺麗に結い上げ、ドレスを着せるのにティファを連れて行く」
「なぁんだ、そういうことか〜、キャハハハ〜!」
「そうなの。ふふ、ちゃんと綺麗にしてくれないと、お仕置きよ、ティファ」
 義父の説明に、ティファはガックリと肩を落とした。
 勿論、連れて行ってもらえる理由を知ったから…ではない。

 小うるさい義父達がいない間、久しぶりに孤児院の当番が出来る!と、期待したのにそれを木っ端微塵に打ち砕かれたからだ。

 キャハハハ、ガハハハ、ふふふ。

 三種類の笑い声で賑わう食堂を、ティファは重い気持ちで後にした。

 翌日からティファの仕事が増えた。
 まずは、義姉達のドレスを新調するため、生地を求めて隣の大きな街まで足を運んだ。
 この時ばかりは、いつも徒歩で単身行かせているハイデッカー親子も、馬車で一緒に同行した。
 気に入った最上級のものを手に入れるため、最上級の生地でこしらえたドレスで身を包むため、そして、王子の目に止まるため!!

 馬車の手綱を握りながら、ティファは深いため息を吐いた。



「あ〜ん!もう、これも良いわ〜!」
「キャハハハ〜!やっぱりこの街は良い物が揃ってるわね〜!」
「ガハハハ!この店ごと買い占めるか〜!?」

 店に到着した途端、三人はその店で一番性質の悪い客になった。
 他の客がいようがいまいが、店員がイヤな顔をしようがしまいがお構いなし。
 店の外で待ちぼうけを食らわされていたティファだが、逆にホッとしていた。
 あんな常識外の人間と同じ家で暮らしている…と思われるのは心底イヤだった。

『はぁ…。それにしても、つまんないなぁ…』

 軽く溜め息を吐きながら店の中をちらりと見やる。
 窓から、ハイデッカーが何やら店員に命じている姿、スカーレットが高飛車な態度で女店員に接している姿、更にはロッソが見事な赤毛に映えるような素晴らしい生地を身体に合わせ、鏡を覗き込んでいるのを男性店員が鼻の下を伸ばしている光景が見える。

『お母様…』

 他界してしまった母と、こうして買い物に来たことを思い出す。
 楽しかった…本当にあの頃は。
 全てが輝いて見えたのに……今は…。

 うっかり涙が込上げそうになって、慌ててグイッと袖口で拭く。
 と…。

「おりょ〜!?もしかして……ティファ!?」
「え…?あ、ユフィ〜!?」
「わ〜!!久しぶり〜!!元気してた〜!?」

 突然声をかけてきた女性に、ティファは満面の笑みを浮かべた。

 ユフィ・キサラギ。
 ジュエリー・キサラギという宝石店の一人娘で、ティファとは小さい頃からの仲良しだった。
 というのも、ロックハート家お抱えの宝石商の一つだからだ。
 よく小さい頃は森の中を探検したり、マテリアという宝石について色々と話をしたり一緒に遊んだものだ。

 懐かしいその少女…というにはちょっと成長したユフィに、ティファは破顔した。
 しかし…。

「ユフィ…?」
「ティファ…。本当に…ウソじゃなかったんだ…」
「え…?」

 ティファを頭の天辺から足先までジロジロ〜ッと眺めまくり、ひた…、とティファの顔で視線を戻して悲しげに眉を寄せた。

「あのろくでもないオヤジと化粧の濃いババァにこき使われてる…って…」

 いいところのお嬢様のくせになんとも口が悪い。
 ティファは苦笑したが、ユフィは悲しそうな表情から段々怒りの形相に変化した。

「ティファがこんなにボロボロになってるだなんて…許せない!誰が許しても、このアタシが許さない!!」

 うがーっ!!といきり立つ幼馴染に、ティファは胸が一杯になった。
 こうして我がことのように怒ってくれる人が一体どれくらいこの世にいるだろう?
 そんなに多くないはずだ。
 それなのに、そんな人達が自分の周りになんと多いことか!
 もしかしたら、その貴重な人達は世界中から自分の周りに集まってくれているのではないだろうか?

 そんなバカな考えが思い浮かんでしまうほど、ティファは人に恵まれていると感じる。

「あ、そうだ!でも、来月チャンスがあるじゃん!」
「え?」
「あ…もしかして聞いてない?来月の王子の誕生日にあるパーティーのこと…」

 名案を思いついたと言わんばかりに顔を輝かせたユフィだが、キョトンとするティファにハッと固まった。
 もしかしたら、意地悪な義父親子がティファに教えていないかもしれない…と思ったからだ。
 だが、そう案じるユフィに、ティファは苦笑しつつ首を横に振った。

「聞いてるよ。花嫁選びの事でしょう?」
「そうそう!それだよぉ!!」

 ティファの答えにホッとすると、ユフィは満面の笑みでティファににじり寄った。
「ティファのそのナイスバディーと完璧に整った顔で、どんな王子様も絶対にイチコロだって!」
 いひひ〜♪

 年頃の娘がする笑顔ではない。

 ティファは困ったように眉尻を下げながら、
「でも、私はパーティーには行けないから」
 途端、
「えぇ!?なんで、どうして!!」
「一応、城下町には行くことになってるけど、それは義姉さん達の身支度をしないといけないから」
「はぁ!?なにそれ!」
「それに、私にはドレスや靴を買うお金も無いし…ね」
「…………」
「…ユフィ?」

 急に何やら思案顔で黙り込んだユフィに小首を傾げる。
 声をかけたが反応が無い。
 恐らく、ユフィの頭の中では何かが恐ろしい速さで出来上がりつつあるのだろう。

 昔からそうだった。
 一見、ハチャメチャな行動を取るこの幼馴染だが、いざと言う時は驚くほどすごい計画を練り上げ、しかもそれを完遂させてしまう。
 その時、彼女は決まってこのように考え込む。
 周りが何を言っても反応しないくらいに、自分の考えにのめり込むのだ。

『今回はなにを考えてるのかしら…』

 ティファは久しぶりに会った幼馴染が、昔と少しも変わっていないことが嬉しかった…。

 やがて、店の中から耳障りな笑い声が近付いてきた。
 義父達が買い物を済ませたらしい。
 ティファは慌てた。
 義父達はティファと懇意にしている人間を徹底的に嫌っている。
 今のところ、キサラギとはまだ商売のやり取りをしているが、その商量もめっきり減っていることくらい、とっくに知っていた。
 だからこそ、今ここでユフィと会い、話をしていることがバレたら…!

 その時、物思いに耽っていたユフィがパッと顔を上げた。
 何やら顔が輝いている。
 彼女にとって何か素晴らしい考えが思い浮かんだに違いない。
 そして、そのままユフィはティファの心情を察したようで悪戯っぽく笑いつつ、
「うるさいのが来そうだから今日は帰るね。その代わり、ティファが良く行く孤児院、あそこにちょくちょくこれから顔出すよ!」
「え?」
「ティファも大変だと思うけど、なるべく顔を出すようにして。長い時間いなくても良い。ちょっと話をしたいだけだから。あ、それから会えなかったら伝言を頼むようにもしていくからさ!」
「伝言って…、ユフィ!?」

「じゃ、ティファ、またネ♪」

 クルリと背を向けて走り出したお元気娘は、去り際に『チュッ!』と投げキッスをすると、人混みに紛れて見えなくなった。

 呆然とするティファの耳に、買い物を済ませた義父が、
「おらおら、さっさと馬車を出しやがれ!次はカバン屋だ〜、ガハハハハ〜!!」
 耳障りな笑い声と共に、大声でティファを怒鳴りつけたのだった。

 たずなを握りなおして軽く振る。
 馬が軽くいなないて軽快に走り出した。

『ユフィ……なにするつもりなんだろう…?』

 走る街並みを眺めつつ、ティファの頭は疑問で一杯だった…。



 あとがきは最後にまとめて書きますね。