*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
 ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
 苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。

 なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。









シンデレラ……もどき? 3





 結局。
 その日は丸々一日かかって買い物をすることになり、義父達も流石に疲れたようだ。
 当然、付き合わされたティファもヘトヘトだったが、だからと言って義父達が優しくしてくれるわけも無い。
 いつも異常に注文が多い夜になってしまったのは……自然の流れというべきだろうか…?

「ティファー!腰を揉め〜!馬車に長時間揺られていたから腰が痛くてかなわん!」
「ティファ〜?足をマッサージして頂戴」
「ティファー!肩を揉んで〜!もう、つっかれちゃったのよぉ〜キャハハハ!」

 身体は一つしかないのに、あっちからこっちから命令が下る。
 ティファはその度に右往左往されながら、結局その晩、ベッドに潜り込めたのはいつもの二時間も遅かった。

「はぁ……疲れた……」

 グッタリと身体をベッドに横たえ、暫くはピクリとも動けなかった。
 やがて、少し身体を動かせるだけの力を取り戻し、ゴロリ…と仰向けになる。
 汚いシミの天井が異様に近いここは、屋根裏部屋。
 ティファのかつての部屋は綺麗で窓も広く、自然の陽の光が思う存分室内を照らしてくれてとても明るかった。
 だが、今は窓一つ無い屋根裏部屋。
 仰向けで寝転ぶと、今にも落ちてきそうな錯覚を覚える汚く低い天井。

 だが。
 もう目の前に迫ってくるようなこの天井の高さにも、汚い部屋にも、暗い室内にも慣れた。

「慣れって…怖いなぁ…」

 なんとなく…そう口にする。
 そして、昼間に出会った幼馴染の事を思い出した。

「ユフィ…元気そうだったな」
 ユフィ、と名前を呼んだ時、薄っすらと笑みが浮かんだ。
 本当に…元気で、変わってなくて…。
 いや、流石に少しは大人になっていたな。
 最後に会ったのは…母親が亡くなる一年ほど前だから、もう足かけ二年になる。

「ユフィ…可愛くなってたなぁ…」

 彼女の持っている明るい性格が、ユフィを明るく輝かせていた。
 そう言えば…、とティファは思い出した。
 ユフィはティファの容姿をべた褒めしていた。
『王子様もイチコロ〜♪』とかなんとか言っていた。
 だが…。

「ユフィの方がうんと綺麗だよ」

 目の前にいるかのようにそう言ってみる。
 本当に…綺麗だった。
 人の為に本心から怒れるという美徳を持つ彼女こそが、王子の目に止まればいいと思う。
 そうすれば、この国の未来は明るい。
 それに、自分はただの臆病者だ。
 ハイデッカー達が法的な手続きを取ってティファが所有するべき権利の大半を奪ってしまったと知ったときも…。
 孤児院への寄付金を盾に、召使の代わりに働くよう命じられた時も…。
 そして…今日も…。

 結局は、言いなりになってしまうのだ。
 逆らった結果、もたらすかもしれない『悪いこと』に怯えて結局何も出来ないのだから。

 もしかしたら、法廷で真っ向から争っていたら何とかなるかもしれない。
 しかし、もしもダメだったら…?
 今の状況よりも厳しい状況へ追いやられる。
 当然、『遺留分』というものがあるから、それで孤児院を助けることができるかもしれないが、それでもただの一時しのぎにしかならない。
 その後は?
 遺留分を受けとったあと、あの孤児院はどうやって存続させたらいい?
 遺留分など、恐らくあっという間に使い切るだろう…。
 だが、もしかしたら、今の子供達が大きくなる頃までは…持つかもしれない。
 そしたら、あの子供達が頑張ってくれる。
 でも……どれくらいの遺留分が出るのかさえも知らない。
 知ろうとしたら、恐らく勘のいい義父達のことだ。
 早々に手を切ろうとするだろう。
 ティファがこの家にいるのは、表向きハイデッカーが養父となっている。
 それは、取引先への体裁のため。
 しかし、本当はティファにここに長くいてもらいたくない。
 だから…ティファのほうから何か仕掛けてくるのを待っているのだ。

『遺留分を求められたので渡した。恐らく、母親の思い出が詰まったここには辛すぎていられないのだろう』

 とかなんとか、相手先が『非情な人間』だとハイデッカーの事を思わないように、ウソの体裁で防壁を作って、体よくティファを追い出す。

 それが、あの親子の本当の目的。


『負けられない…』


 ティファは唇を噛み締めた。
『絶対に負けられない。これからも、あの孤児院は潰させない!』

 だから…。
 明日も働く。
 泥のように疲れ果て、この安いベッドに潜り込むことになるだろう。
 だが、それでも働いて……働いて……。


 ……その先は…?
 自分の遠い未来はどうなるのだろう…?
 このまま、一生孤児院存続の為に義父達にいいようにこき使われるのだろうか?


 イヤだ!!


 突如として、強い恐怖心が胸に込上げた。

 勿論、孤児院は続けたい。
 潰させたくは無い。
 だが……、だからと言って、あの義父達に一生こき使われるのはイヤだ。
 一生……、奴隷のように使われて……。
 恋も知らないで……。


 恋。


 トクン…。
 心臓が軽く跳ねる。
 ティファはそっと胸に手を当てた。
 まだ、うんと小さい頃、母親や召使に大切に育てられていた時代。
 その頃からなんども今の孤児院に母親と共に足を運んでいた。
 その孤児院で、友達も沢山作った。
 そんな中。
 一人だけ、とうとう最後まで友達になれなかった子がいた。
 人と接するのが苦手な子供だったんだろう。
 いつも一人で離れたところにポツンといた…その子。
 綺麗な顔をしているとは思っていた。
 でも、男の子なのか女の子なのか…、それすら分からない。
 勿論、母親や孤児院を世話してくれているおばさん達に聞けば教えてくれたんだろうが……。


 なんとなく…恥ずかしくて聞けなかった。


 そうこうしているうちに、その子はいなくなった。
 どうやら里親が決まったらしい。
 孤児院にいる子供達がいなくなるとはそういうことだ。
 その子に家族が出来る。
 喜ばしいことだ。
 でも、ティファはちょっぴり…、いや、かなり残念だった。
 結局、一度も話をしたことが無かったのだから。
 本当に…綺麗な子だった。


 そう、もしもあの子が男の子だったら…。

「王子様……か……」

 ふと。
 ティファの口から出たその一言に、ティファ自身が驚いた。
 だが、どこかで思っているのかもしれない。
 昼間のユフィの台詞が、本当になってくれたら……と。
 たった今、思い出した子供の頃の出来事と相まって、『王子様』という存在が妙に気になりだす。

 もしも。
 もしも、お城に入ることが出来たら、王子様は私を見てくれるだろうか?
 国中の年頃の若い娘が招待されているのだ。
 一人一人、いちいち会ったことなど覚えていないだろう。
 だが、それでももしも…少しでも心に残ってくれたら……そしたら……。

 この辛い生活をしなくてはならない理由である孤児院への寄付金をお願いできるかもしれない。
 そうしたら…!

「……自由……」

 憧れてやまない『自由』。
 それが…もしかしたら手に入るかも…!

「ふふ…でもダメだよね。だって……ドレスも……カバンも……靴も……なんにも……」
 ティファは自嘲の笑みを浮かべながら、段々眠りに引き込まれていった。







「クラウド…」
「無理だ」
「まだ何も言ってない…」
「聞かなくても分かる」
「頼むから…」
「だから、脱走の手伝いは無理だって…。諦めて寸法測ってもらってくれ」
「薄情モノ〜!!!」

 実の父親から理不尽なお達しを受けた王子は、連日連夜、パーティーのマナーやら女性へのエスコートの仕方を徹底的にしごかれる日々を送っていた。
 勿論、王子なのだからそれなりに今まで教育を受けている。
 だから今更別に必要ないと思われるものばかりなのだが…。

『手を抜くな』

 そのたった一言で、王子と王子の教育係は地獄に送られた。
 当然、とばっちりでクラウドも引きずり込まれてダンスやらなにやら、叩き込まれることとなった。

 なんで俺まで!?

 という反論は当たり前のように瞬殺された。
 そして、今日。
 とうとう、パーティーの時に着る正装を作るべく、被服職人が寸法を測りにきたのだ。
 王子は嫌がった。
 徹底的に嫌がった。
 マナー教育はイヤイヤでも受けていたのに、寸法を測ることは断固拒否した。
 教育係や被服職人、その他、王子の周りにいる人達は首を傾げた。
 ここまで嫌がる理由が分からない。
 この数日、イヤイヤながらも王子としての責務とも言うべき『パーティー必勝法』のおさらいをしてきたというのに、何故ここまで嫌がるのか…?
 別にただ黙って突っ立ってくれていたらそれで済む話なのに…。

 だが、王子の付き人であり、親友であるクラウドには分かった。

 パーティーでのマナーはこれから先も必要になる知識だ。
 知っていて損することは何も無い。
 それこそ、幼い頃から想っている女性と一緒になることが出来たあとでも…。

 しかし、正装の採寸となるとそうはいかない。
 本当に『花嫁選び』をしなくてはならなくなる。
 まぁ、王が決めてしまった時点で拒否権は微塵も無いのだが、それでもやはりこうして現実味を帯びると話は違う。
 だからこその…。

 ストライキ。

 クラウドだけが部屋に入ることを許され、残りの者はシャットアウト。
 現在、クラウド一人が説得に当たっている状態だ。
 だが、元々口下手で不器用な性格のクラウドが、口達者でお調子者、しかも『こう!』と決めたらてこでも動かない相手をすんなり説得出来るはずが無い。
 おまけに、王子の幼い頃からの恋話を知っているだけに、口が益々重くなる…。

 と言うわけで…。


 説得に入ってからかれこれ一時間が経とうとしていた。


 お茶の時間を終えてから勃発したこの騒動。
 窓から見える青空が薄っすらと暮色に染まりつつある。
 クラウドは夕暮れに向かいつつある空を見て、溜め息を吐いた。

「なんだよ、まったくこの薄情モノ!」
「はいはい」
「『はいはい』じゃないっつの!」
「仕方ないだろ?そのうち、セフィロス王が直々に来られる羽目になるぞ…?」
「…………………そ、…それは…ないと……思いたい…」
「…………来ないと思うか?」
「……………来て欲しくない…」
「それは願望だ」
「…クッ…、なんて鋭いツッコミだ」
「…これっぽっちも嬉しくない」
「喜べよ!」
「大人しく採寸されたら喜ぶよ」
「グッ…」
「それにさ…」
「………なんだよ…」
「とりあえず、王様を納得させるために誰か選んで、後から『気が変わった〜』とかなんとか言ったら?」
「は!?」

 あまりの事に、王子は目を見開いた。
 親友はちょっとバツが悪そうに後頭部を掻きながら、視線を逸らせる。

「だから、例えば…だよ。王子は王様に『好きな人がいる』って言った事ないだろ?」
「んな!?そんなこと言えるかよ、外交問題になるじゃないか!」
「だから!」

 クラウドは、目を剥いていきり立つ王子を制するように大きな声を上げた。
 いくら整った顔をしていても同性の至近距離はキツイものがある。
 クラウドはそっと距離をとった。

「だからさ、一応誰か選ぶんだ。それこそ、王子の好きな美人さんでも良いじゃないか。だって、もう国中におふれが出てるんだから今更撤回出来ないだろ?」
「それこそ、『花嫁選び』で出てるんだから『気が変わった〜』って軽く流せるかよ!」

 イーーッとなる王子に、クラウドはポンポン肩を叩いた。

「だから、一人を選ぶんじゃなくて複数選ぶんだよ」
「……は!?」

 思わぬ提案にザックスは紺碧の瞳を丸くした。


 クラウドが言うにはこうである。

 とりあえず、『花嫁候補』として何人か選ぶ。
 選んだ女性達と数日間一緒に過ごす。勿論、その間、その女性の中から本当に気に入った人が出来たら即結婚。
 だけど、今のところ少年時代の甘い恋心が捨てられないので、それは無理。
 時間を限定し、候補として残った女性を少しずつふるいにかけて、『本当に結婚する意志がある』と王や周りの人間に思わせる。
 その間、必死になって少年時代の想い人を捜すのだ。
 上手く見つかったら、その女性を新たな候補として挙げる。
 期間内に見つからなかったら『やっぱり…この中の女性達で后に向いている人はいない』とかなんとか理由をつけて破談にする。
 なにしろ世界は広い!
 絶対にどこかに自分の運命の人がいるはずだ。
 そして、そこで『実は、昔、助けてもらった時に〜…』という具合で話をする…。


「クラウド……お前って奴は……」

 説明を聞き終えた王子は、ふるふると感動で身体を震わせた。
 クラウド自身、よくもまぁ、自分の口からホイホイ出てきたものだと驚いている。
 一言口にしたら、頭で考えるよりも先に言葉が口をついて出てきたのだ。

 …ある意味、それは本能と言うのかもしれない。

 一方、王子は感動で目を潤ませ、
「お、俺……、俺は…!」
 声まで震わせると、思い切り親友を抱きしめた。

「グエッ!ぐ、ぐるじ………」
「お前がそこまで頭の回る奴だとは思わなかったぜ!!!」
「…じ、じぬ……」
「俺は今、猛烈に感動してる!そうだな、クラウドの言う通りだ!世界は広い!この国だけの女性から選ぶだなんて、無理だっつうの、なあ!?」
「…………(半分失神中)」
「そうだよな!うんうん、本当にありがとう!感謝してるぜ!さっすが俺の親友、心の友!お前の言う通り、やってみるぜ!!」
「…………」
「そして、捜してみせる!きっと、見つかる、俺には分かる!!」
「…………」
「あぁ、どうして今まで本気で捜さなかったんだろう…。俺って本当にバカだ〜」
「…………」
「あれ…?クラウド…??」
「……(チーン)」
「ゲゲッ!クラウド、大丈夫か!?貧血か〜!?!?」(← いいえ、窒息です)


 バッターーーン!!!


 王子の部屋から少し離れた廊下で、王子の癇癪が収まるのを待っていた教育係たちは、突然乱暴に開いたドアにギョッとした。
 次いで、真っ青な顔をした王子が顔面土気色の青年を抱えている様に蒼白になった。

「ク、クラウドが貧血で!!」

 あわあわとパニックになっている王子から青年を譲り受けたのは、青年の上司である近衛隊長のヴィンセント。
 教育係達が王子の部屋と距離を取っていたため、その間にある廊下からたまたま出てきたのだ。
 ヴィンセントは全く事情が分からないまま押し付けられた半分死んだ状態の部下に石化した。

「……とりあえず……エリクサーを」
「「「「 はい!! 」」」」

 背後からバタバタと駆け寄って来た面々にそう告げる。
 告げると同時に、同じ数の足音がバタバタと去って行った。

「ど、どどどどうしよう!?クラウド、死ぬのか〜!?俺を置いて死ぬのか〜!?!?」
「…いや、王子。大丈夫でしょう、クラウドはこれでも近衛隊の中でも強い方ですから…」

 完全に取り乱している王子に一応そう言ってみる。
 しかし、頭の中は疑問で一杯だ。

『なにがあったんだろう……?』

 王子付きの近衛兵であるクラウドが、ここまで瀕死に陥るとはよほどのことがあったに違いない。


 近衛隊長の疑問は、エリクサーで全回復した青年から聞かされること無く、結局謎のままだった…。



 その翌日。
 王子のパーティー用の正装作りに、被服職人が無事、取り掛かったのだった。

 ちなみに。
 クラウドは自分に宛がわれたベッドの上で身体中に走る激痛と戦って一日を過ごす羽目になったという…。


「本当に…なにがあったんだ?」
「……隊長。許して下さい…」
「…………分かった。今日一日ゆっくり休め。王子には俺がつく」
「……ありがとうございます」


 こんな調子で本当に大丈夫だろうか…?


 クラウドはベッドの中でウンウン唸りながら、漠然とした不安を払拭できずにいるのだった…。



 あとがきは最後にまとめて書きますね。