*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。
なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。
シンデレラ……もどき? 5
カサリ。
ガサガサ。
丈の長い草を掻き分け、懸命に森を歩く少女がいる。
その目に宿る色は凛としており、力強く輝いている。
その一歩後を付き従うように歩いているのは…。
「おい…お嬢さんよ。いくらなんでもここはやばいんじゃないのか…?」
浅黒い肌をした巨漢が、やれやれ…と、言わんばかりに目の前を歩く少女に声をかける。
しかし、ショートカットの黒髪を持つ少女は答えない。
黙々と森の奥に進む。
「はぁ…」
巨漢の男は溜め息を吐いて肩に担いでいるナップサックを担ぎなおした。
カツリ…。
ナップサックの中で、何かがぶつかる音がする。
澄んだその音に、梢に止まっていた鳥達が数羽、飛び立った。
鬱蒼と茂るその森は、地元の人間でもあまり近寄らないことで有名だ。
何故なら…。
その森に踏み込んだものは『魔女』に魅了されてしまい、頭がおかしくなってしまうという専らの噂だからだ。
そのくせ、行方不明になった者は不思議といない。
ちゃんと帰ってくる。
だが、それぞれが不思議な症状を起こしてしまうのだ。
ある者は高熱。
ある者は幻聴に幻覚。
そして、ある者は…。
『妖精を見た…』
夢見心地でそう語り、日常生活に全く身が入らなくなった。
文字通り、魂を抜かれたかのように始終ぼんやりとしている。
その森の名は…。
『眠りの森』
少女はその森のある村に辿り着いた時、懸命に地元の人間に止められた。
無事では済まないから。
絶対に、良くない事が起こるから。
魂が抜かれるかもしれない。
見えないものが見えるようになるかもしれない。
気が…ふれるかもしれない。
だが、少女は頑として聞かなかった。
自分の屋敷の中でもっとも腕がたち、もっとも気の短い男である用心棒を連れ、父親にも内緒でこの大陸にやって来た。
「よぉ、ユフィ嬢さんよぉ。あのなぁ、はっきり言って、そのロックハートのお嬢さんの事は俺だって可哀想だと思うぜ?でもよ、だからってこんな危険なことをする必要ないだろう?」
呆れながらそう言う用心棒に、ユフィは立ち止まってキッと睨みつけた。
「あのね、ティファはこれまでの一年間、本当に辛い思いをしてきたんだよ!それこそ、逃げ出してもおかしくないくらい!それをしなかったのは、自分一人で生きていけないからじゃない。あの孤児院のためなんだ!」
主である少女の気迫に少々たじろぐ。
「いや…それくらい分かってるけどよぉ。そんなの、ロックハート家が寄付をやめたら、その分キサラギ家が出したら良いだけだろうに…」
困った顔をして後頭部を掻く用心棒に、ユフィはカッと目を見開いて怒鳴り声を上げた。
「だから、それが出来ないからまだあんな酷い所にいるんじゃんか!!」
「……わけがわからねぇ…」
「〜〜〜、このおバカー!!!!」
ユフィの怒鳴り声に、ギャー、ギャー、と、一斉に鳥達が不気味な泣き声を上げながら飛び立つ。
ただでさえ、この森は『赤い獣を付き従えた魔女』がいる噂されている森だ。
ビクッ!とユフィと巨漢の男は身を竦めた。
だが、ユフィはすぐに立ち直ると、
「行くわよ!」
呆れ顔の用心棒を付き従えてズンズン森の奥へと足を進める。
暫く、二人共黙ったまま森を行く。
やがて、沈黙に耐えかねたのか、用心棒が口を開いた。
「あのよぉ、なんだってキサラギ家はロックハート家の代わりに寄付をしたらマズいんだ?」
本気で分かっていない用心棒に、ユフィは溜め息をついた。
冷静に考えたら、一介の用心棒が商売や貿易の際に必要とされる駆け引き。
その何たるかが分かるはずが無い。
仕方なく説明を始める。
「ロックハート家が寄付をやめるとするでしょ…」
「…あぁ…」
「そして、私のオヤジがその分、寄付するよね」
「…おう…」
「それをロックハート家が黙ってみてると思う?」
「……?」
「今、ロックハート家を牛耳ってるハイデッカーは最低のクソ野郎なの。絶対に、なにか『いちゃもん』つけてくるわ」
「…は!?」
巨漢の素っ頓狂な声で、また数羽の鳥がギャー、ギャー、と耳障りな泣き声を上げて飛び立った。
「なんだそりゃ!自分達が寄付をやめたから、その穴埋めでキサラギ家が寄付をするんだろ?なんで『いちゃもん』を付けられないといけないんだよ。足りない分をキサラギ家が補うことのどこが悪い!?」
浅黒い顔を真っ赤にさせる用心棒に、ユフィは溜め息を一つこぼした。
「言いがかりはいくらでも考えられるよ。『自分達が寄付をやめたのを見計らって寄付をするということは、自分達へのあてつけか?』とか、『うっかり寄付をする期間を間違えてしまっただけ、本当はこれからも継続して行くつもりだった。それなのに、キサラギ家はロックハート家が寄付をするのをやめてしまう様な、そんな非人情な人間だと?』とか『そんな醜聞を他の貿易商に見せ付けて自分達を貶めるつもりなのか』とか、まぁ…色々ね」
「な、な、なにーーー!?」
用心棒の怒声に、ユフィは耳を塞ぐ。
「正直、ロックハート家からの寄付金で毎月なんとかやってるようなもんだから、一・二ヶ月寄付が遅れると、途端に生活が苦しくなるんだ」
はぁ…。
ユフィは溜め息を吐いた。
「それに、あそこの館、もとはロックハート家に嫁いだティファのお母さんの領地なんだよね。お母さんのお兄さんが受け継いだんだけど、そのお兄さんもお母さんが嫁ぐと同時くらいに亡くなって…、おまけに独り身だったから、実質、あの土地もロックハート家のものになるんだろうけど…」
「けど…なんだよ」
「町に寄付する…って形で権利を放棄したの。だから、あの館は町の所有財産として、孤児院を運営できてるってわけ。それがハイデッカー達には気に入らない原因にもなってるんだよ」
「……………」
「だから、ティファはあの孤児院に並々ならぬ思い入れがあるんだよ」
「……なるほどな…」
すっかり神妙な面持ちになった用心棒に、ユフィは勢い良く息を吐き出した。
それは、決意を新たにするような…そんな気迫の篭ったものだった。
「さ、分かったらチャキチャキ行くよバレット!その『赤い獣の主』である『魔女』に会いにね!」
大手、宝石商の娘であるユフィには、様々な情報が入ってくる。
それは、ロックハート家に負けず劣らずの情報量。
しかし、それをティファが知る事は無い。
ハイデッカーが、憎い義理の娘に話して聞かせることなど無いからだ。
だから…。
ティファは知らない。
この『眠りの森』に棲んでいるとされる『赤い獣を従えた魔女』の噂を。
地元の人間たちが恐れてやまないこの『魔女』。
人を惑わし、生気を吸い取ると恐れられている『魔女』だが、なんでも願いを叶えてくれる…とも言われている。
事実、とある大富豪がうっかりこの森に迷い込み、『魔女』の手下である『赤い獣』に食い殺されそうになったときも、持っていた財産を差し出したところ、『魔女』はその大富豪の命を助けたばかりではなく、彼の願いを叶えた。
彼の願い。
それは、彼が昔負った右腕の傷跡。
醜いその傷跡は、彼の心を苛んでいた。
『魔女』は、彼に森の出口を指し示した後、彼が差し出した財産の対価として、彼の傷跡を癒したという…。
その話は、瞬く間に貿易商関係の間で広まった。
実際に彼の綺麗に治った傷跡を確認したものも何人もいる。
しかし、結局誰も『眠りの森』に足を向けることは無かった。
恐ろしかったからだ。
この世界では、赤い獣は『魔の象徴』として恐れられている。
その為に、その大富豪は傷跡を消してもらったという代償として、『魔に魂を売った男』として忌み嫌われるようになり、没落した。
『いいか、ユフィ?お前は本当にお転婆だ。だから、よくよく言っておくが、絶対に『眠りの森』に行くんじゃないぞ!?願いを叶えてくれる…って話も本当かどうか疑わしいからな。そもそも、願いを叶えてもらって没落してしまったら意味が無い!傷跡を勲章に、生きていったほうが一族全員にとっても良かっただろうに…』
父親のお説教にも似た説得は、お転婆娘には逆効果だった。
話しを聞いたその足で、ユフィは用心棒の中でも一番の腕を持ち、肝っ玉の据わったバレット一人を伴って、噂の森にやってきたのだ。
ユフィの頭にあるのはただ一つ。
姉のように慕っているティファの幸せ。
ティファの招待状を破り捨てた、という噂はしっかりとユフィの耳に届いていた。
自分が贈ったイヤリングも受け取らなかったということも…。
『あんなに良い子が…どうしてあんな目に…』
悔し涙で目を潤ませる町のおばさんに、ユフィはハイデッカー親子への怒りで目の前が真っ赤に染まった。
絶対に…ティファをあの地獄から救ってみせる。
その際には、あの親子を地獄のどん底に突き落としてこれまでの落とし前をつけさせてやる!
その為には、どうしてもティファをお城のパーティーに参加させなくてはならない。
ティファほどの容姿ならば、絶対に王子の目に止まる。
仮に、王子の目に止まらなくとも、近隣諸国から来ている富豪や貴族の目には確実に止まるだろう。
そうすれば、きっとティファをあの忌まわしい環境から救い出してくれる男が現れるに違いない。
ティファがその相手を気に入ってくれたら言うことナシなのだが、とりあえず、見初められなくては意味が無い。
大勢の前で美しく着飾ったティファを華々しく登場させ、ハイデッカー達の度肝を抜く。
そうして、貴族か大富豪、もしくは王子にダンスを申し込まれでもしたら、大成功だ。
きっと、ハイデッカーは地団太を踏むだろう。
ティファがその相手を気に入らなくても、とりあえずハイデッカー達の鼻を明かし、ロックハート家からティファが自由になれるか…あるいは……。
「ハイデッカー達をロックハート家から追い出すことが出来たら、あとはその貴族様か金持ちだか知らないけど、ポイッてしたら良いんだもんね」
「………お嬢…、お前、腹黒だなぁ…」
ふふふ……、と黒い笑みを浮かべたユフィに、バレットが顔を引き攣らせた。
「ふん、それくらいの報いを受けて当然の事をあの親子はしてきてるんだから!それに…」
言葉を切って森の奥を見る。
鬱蒼と茂る森の奥は、陽の光も満足に射さないために薄暗く、不気味に広がっていた。
だが、そんなものに負けない気迫をユフィは全身から発散させる。
「もう…時間が無い。舞踏会まであと一週間切っちゃったんだから!」
正確には…もう五日しかない。
この『眠りの森』から船で渡ってくるのにきっかり四日間を費やした。
帰りにも同じだけかかるだろう。
早く…早く魔女を見つけ、持って来た『宝物』と引き換えにティファを……!
ユフィは「行くよ!」と勇ましく用心棒に声をかけると、力強く歩き始めた。
そんな主を巨漢の男は呆気にとられたような顔をして見ていたが、
「へへ、中々気骨のあるお嬢様じゃねぇか、気に入ったぜ!」
ニヤリ、と笑うとのっしのっし、とユフィの後に従って歩き始めた。
生い茂る草や太い枝から垂れる蔦を振り払いつつ、二人は奥に進む。
どこに魔女がいるのか見当もつかない。
話しによると、森の中ほどにポッカリと木々が開けた草原があるという。
そこから女の歌声が聞こえると言うのだ。
恐らく、その歌声の正体こそが魔女だろう。
だが、誰も確認していない。
魔女の傍には常に、赤い獣が目を光らせて人間が近寄らないように警戒しているというのだ。
「でもさぁ、誰も確認してないのになんで『赤い獣が警戒してる』って知ってるんだろうねぇ」
「さぁな。結構噂話って奴は尾ひれと背びれがついて周るからなぁ…」
「だよねぇ…。でも、その魔女が本当に願いを叶えてくれる…っていうのだけは本当であってくれないと困るなぁ…」
「だなぁ。ここまで折角きたのに無駄足だったらとんだ笑い種だぜ?」
「イヤな事言うな!」
パコン。
思い切り飛び上がって用心棒の頭を景気良くはたく。
遠慮の『え』の字も無い攻撃に、バレットは思わず蹲った。
『こいつ……用心棒なんか要らないんじゃないのか…?ハッ!もしかして俺は『荷物もち』として連れて来られたのか!?』
一瞬そんな不毛な考えが脳裏を過ぎる。
その間も、ユフィは用心棒をその場に残して、一人さっさと足を進めた。
やがて。
「……あ…」
数歩先を歩いていたお嬢様が止まる。
バレットは何事か!?と、慌てて立ち上がると足音も荒く駆け寄った。
そして、なにがあったのか問う前に…。
「………あ」
目の前の光景にあんぐりと口を開ける。
そこは、まさに地元の人間が言っていた様な草原。
鬱蒼と生い茂っていた木々が突然開け、まるで別世界に踏み込んだかのような光景だ。
白と黄色の花々が可憐に風に揺れている。
その光景は…まさに天国。
「うわ〜……」
感嘆の溜め息を漏らしながら、ユフィは草原に足を踏み入れた。
陽の光が燦々と惜しげもなく降り注ぐ。
空を見上げると頭上には真っ青な青空。
先ほどまでは、張り巡らされた木々に薄暗かったというのに…。
バレットも同じ様にポカンと口を開けてその幻想的な光景に見入っていた。
が!
サッと二人の顔が強張る。
ガサガサガサ。
明らかに風とは別のもので木々の間に生えている草が揺れていた。
バレットは用心棒として、お嬢様の前に立ち塞がり、自慢の銃を構える。
ユフィはユフィで、護身用にと幼い頃から身に付けていた『手裏剣』を手に構えた。
ガサガサガサ。
徐々に気配が近づく。
そして…。
ガサッ!
「「 !! 」」
身構えた二人の前に現れたのは、立派な体躯をした燃える炎のような毛並みの獣。
隻眼のその獣は、二人をジッとねめつけ腰をかがめている。
まるで、二人が敵か、それとも無害なものかを見定めているかのようだ。
二人も同じ様にジッと獣から目を離さない。
ビリビリとした緊張感があるのに、不思議と敵意を感じない。
それは、獣も同じだったようだ。
徐々に警戒心を解いていくのが分かる。
「ナナキ、その人達は大丈夫みたいね」
突然、鈴を転がしたような女性の声が、森の中から聞えてきた。
反射的に二人共そちらを向く。
「「 ……… 」」
二人共、目の前の女性にポカン…と口を開けた。
まず印象的だったのは恵み溢れる大地を象徴するかのような深緑の瞳。
慈愛に満ちたその瞳が、なんとも言えない温かさを醸し出している。
そして、次には彼女の整った容姿。
スラリとした肢体は薄いピンクの衣に包まれ、長い栗毛色の波打つ髪は頭の上で一本に括られている。
「……魔女?」
「っていうか…森の妖精じゃねぇのか…?」
呆気にとられて呟く二人に、女性はクスクスと笑った。
「ナナキ、ほら、大丈夫よ」
再びその女性は隻眼の獣に声をかけた。
獣はゆっくりゆっくり、二人を見つめたまま後退すると、パッと顔を女性に向けてフワリ…、と女性の傍まで跳躍した。
まるで重力を感じさせないその身軽さに、二人はまたもや感嘆の溜め息を漏らす。
「うっわ〜!すご〜い!!」
「へぇ〜!すごいもんだなぁ!」
実に素直な二人の言葉に、女性はクスクスと笑いながら獣の頭をゆっくりと撫でた。
「ほら、大丈夫でしょ?」
ニコニコと笑いかけながら話しかける。
それは本当に見ていて微笑ましく、どこか神聖さを感じさせる光景。
なんとなく、二人は厳粛な気持ちになった。
が……。
「うん、そうだね。いつもみたいにオイラ達を狙ってる奴らじゃないみたいだ」
「「 ……………え… 」」
しゃべった。
隻眼の獣が…しゃべった。
キョトン、と一瞬呆けた後…。
「「 えぇぇぇええええ!?!?!? 」」
森の奥で、二人分の大声がこだました…。
バサバサ。
ギャーギャー。
鳥達が、その大声にギョッとして一斉に枝から飛び立ち、森を一瞬賑やかにしたのだった。
あとがきは最後にまとめて書きますね。
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