*こちらは『シンデレラ』を基にした完全パロディーです。
 ストーリー、キャラ設定、捏造しまくりです。
 苦手な方、嫌悪感を感じられる人は今すぐに回れ右して下さい。

 なんでもどーんと来いや〜〜!!という度胸のある方のみ、お読み下さい。









シンデレラ……もどき? 8





「なんで……こんな事に……」

 震えている声は理不尽な状況への怒りゆえ…。
 ザックス王子の付き人 兼 護衛を務めるクラウドは、自身の姿を鏡で写し見てワナワナと震えていた。

「お〜!似合うんじゃン!!良いじゃんか〜!!」

 その傍らでは、クラウドの心境とは180度異なっている問題の王子が満面の笑みで立っていた。
 震えている青年の肩に肘を置き、一緒に鏡の前に立った。

「どうだ、ヴィンセント!すっげ〜良いアイディアだと思わないか?」
「 ………………………そうですね…」

 首を捻って後ろに控えている近衛隊長に声をかけると、たっぷりと時間をかけて紅玉の瞳を持つ隊長は視線を反らせながらボソリ、と答えた。
 反論したいのだろうが、あえてグッと飲み込んだ隊長を尻目に、王子は至極ご満悦だった。
「なな?良い感じだろ〜!」
 再びそう言うと、グイッとクラウドの首に腕を回して自身の頬に彼のこめかみを押し付けた。

「うんうん、お前、黙って立ってたらそれでオッケーだからさ!頼むぜ〜!!」
「 ……………王子…」
「ふっふっふ。父上は俺に今夜中…って言ってたんだろ?そうはさせるか!俺はあの子以外は考えられないんだからな!!」
「 ……だからって……なんでこんな……」
「だって、こんな計画、俺と同い年くらいのお前がいないと成功しないじゃん」
「 ……そんなの、他にも沢山いるだろ…… 」
「まぁ、年だけ考えたらいるけどさぁ。どれも冴えない顔ばっかだろ?その点、お前は顔立ちが整ってるから、十分『ザックス王子』で通る!」
「 ……近場で見られたら絶対にすぐバレる… 」
「大丈夫!俺の顔をじっくりと見たことあるのは極々一部の人間だけだから。いっつも馬車から遠巻きにしてる人達に手を振ってるだけの『ザックス王子』の顔なんか、今夜来る女性達は絶対知らない!」
「 ……… 」
「それにしても、お前、マジで綺麗な顔だなぁ。睫も長いし。マスカラ塗ってるから更に長さが強調されてるな」
「 !! 王子〜!!!!!」

 グワッと目を剥いて怒る付き人に、王子は腹を抱えて大笑いをした。
 近衛隊長は相変わらず視線を下にそらしたまま、むっつりと黙りこくっている。
 クラウドはどうにも理不尽な仕打ちに思わず髪を掻き毟りそうになって…手を止めた。
 そっと髪に触れる。
 鏡の中の自分も同じ様に髪に触れている。
 当たり前なのだが、目の前の鏡に映っているのが自分の姿なのだと改めて認識し、溜め息をついた。
 鏡の中の青年も、同じ様に情けない顔をして溜め息をついた。

 紺碧の瞳は毎日見ている自分の目なのに。
 触れている髪が…、イヤそうに寄せられた眉が…、男性にしては長い睫が……。


 漆黒の色をしている!


 小一時間前を振り返り、クラウドはまだ笑っている自分の主を睨みつけた。



『え!?父上にバレてる!?!?』
『……はい…』
『ぐわ〜っ!!あのマザコン陰険オヤジなんかに俺達の思考が読まれたなんて、屈辱だーー!!』
『…いや、自分の実の父親つかまえてなんてことを…』
『ハッ!!どうしよ……、てことは、マジで今夜中に誰か選ばないとマズイんだな…!?』
『……えぇ……』
『無理だーー!!絶対に無理!!』
『……ぐ、ぐるしい………』
『クラウド、頼むから俺のために父上に直訴してくれ!!』
『し、死ぬ……』
『死ぬな!窮地に立たされている俺を残して死ぬな!!』
『……手、……緩め……』
『くっそ〜!!あのクソオヤジ!!あんなマザコンの言いなりになってたまるか!!俺はもう立派な大人なんだぞ!?生涯の伴侶は自分で選ぶ!!』
『 …………… 』
『なんとかして………ブツブツ…』
『 …………… 』
『あ!!そうだ、クラウド、ナイスアイディアが浮かんだぞ!!!』
『 …………… 』
『あれ…?クラウド…???ゲゲッ!!悪い、大丈夫か〜!?』
『 (チーン) 』
『ああぁああ、どうしよ!こんなクラウド放っといたらマズイよな!?でも、早くしないと時間が……、って、あ!!ヴィンセントー!!!』
『はい、王子……って、またですか……』
『悪い悪い、お前の説教は後で聞くから、とりあえずクラウドを頼む。俺のベッドに寝かせててくれ!俺はすぐにマザコンに会いに行かなくっちゃならないから!!』
『…はい…?王子のベッドですか…?クラウドなら彼の宿舎に…』
『いや、ダメだ!!いいから絶対に俺の部屋から出すなよ!?もしも俺が戻ってくる前に目を覚ましても出すな!良いな、頼んだぞ〜!!』
『 ……… 』



 そうして、目が覚めたらクラウドはいつの間にやら服を着替えさせられ、髪と眉、ご丁寧に睫まで色を染められてしまっていた。

『なんでこんなことに…!!』

 王子に首を絞められて失神してしまったのは、確かに護衛の任に就いている者としては大失態である。
 だが、だからと言ってこんな『お仕置き』はいかがなもんだろう……。
 勿論、王子は『お仕置き』をしているつもりは全く無いのだが、クラウドには『罰』にも等しい。

 ムッツリと黙り込んでいる上司に、恨みがましそうな視線を鏡越しにぶつける。
 絶対に気付いているはずなのに、ヴィンセントは目を合わせようとはしなかった…。

 と…。

「ほぉ。中々どうして、馬子にも衣装じゃないか」

 ノックもなしに王子の部屋を訪れられるのは、王子本人とその父親しかいない。
 突然現れた王に、ヴィンセントが慌てて頭を下げ、クラウドもそれに倣った。
 軽く手を上げてそれに答えつつ、
「ほぉ……」
 と、またもや感嘆の溜め息をこぼす。
「中々良いでしょう、父上?これで俺の意見を聞いてくださいますね!」
 意気揚々とそう言う息子に、王は「ふっ…良いだろう」と軽く笑った。

「ところでクラウド、お前はもう少し愛想良く……は、無理だろうな…」

 ガッツポーズを取る息子の傍らに居心地悪そうにしているクラウドに声を掛ける。
 愛想良くしろ、と命令しかけてあっさり諦めた辺り、部下の事を良く見ている。
 無理なものは無理。
 強制はしない。

 それが、この国の王の方針。

 果たして良い事なのか、悪い事なのか判別しにくいが、今回はクラウドにとっては吉と出た。
 内心はブスッとしながらも、なんとか表面だけは取り繕って、
「申し訳ありません」
 と頭を下げる。
「大丈夫!俺が愛想悪くなるから〜!」
 クラウドの肩を抱き寄せてニ〜ッと笑う息子に、
「ま、それが妥当だろう」
 これまたあっさりと頷いた。

「では、今夜はしっかりと働けよ、クラウド。なにしろ、この国の行く末がかかってるんだからな」
「 ……… 」
 本当ならきちんと返事をしないといけないのに、クラウドは冷たいブルーの瞳に見つめられて固まった。
 石化した部下が返事を返さなかったことには特に何も感じなかったらしい。
 その隣に満足そうな顔をしている息子へ視線を移す。
 途端、実子がカチン…、とこれまた固まった。
「ザックス。お前も逃げることばっかり考えるんじゃなく、前向きに立ち向かうようにしろ」
「う……、努力します…」
「はぁ…心配だ。このままでは母上に顔向け出来ないではないか…」
「「「 ……… 」」」
 心許無い返答に、天井を仰ぎながら嘆く。
 王子だけではなくクラウドとヴィンセントも無言のままこの国最高の権力者を見つめた。

 こんなマザコンが最高権力者。
 よくもまぁ、今日まで国が傾かなかったものだ…。

 三人とも、思うことは色々あるが、とりあえず無難にこの場をやり過ごさなくてはならない。
 シーン…、と黙り込む三人に、王は遠い目をして夢を見ているような瞳からあっさりと現実に戻って来た。

「では、もうそろそろ時間だ。広間に来なさい」
「「「 …はい 」」」

 なんとなく……死刑宣告されている気がするのは…気のせいだろうか…?

 クラウドは溜め息を押し殺した。




 一方。
 こちらはところ変わって…。

「なんか本当にエアリスって便利よねぇ♪」
 上機嫌のユフィに、
「ふふ、ありがとう♪」
 これまた上機嫌にエアリスが笑った。
 二人の間に挟まれるようにして歩いているのは、純白のドレスに身を包んだティファ。
 三人は既にホールに紛れ込んでいる。
 バレットとナナキは、隠し通路の内側で待機している。
 万が一、何かあったときには駆けつけてもらうためと、撤退する時の避難通路の確保のためだ。

『なにか非常事態があったら『これ』で合図するから、ナナキ、よろしくね』
『まかせといて!』

 今は漆黒の獣になってしまったナナキとのやり取りに興味を持ち、ホールに紛れ込んだ後で『これ』について訊ねると…。
 クスリ、と悪戯っぽく笑って彼女が見せたものに、ティファとユフィは噴き出した。
「ナナキって、やっぱり『犬』じゃん!」
「でも、便利よね。人には聴こえなくてナナキにだけ聴こえるんですもの」
 それぞれの反応に笑いながら、エアリスは「そうでしょ?」と一緒になって笑った。


「それにしても…すごい人だねぇ…」
「本当に…」
「私、こんなに沢山の人の中に入った事ないから新鮮♪」

 周りには、同じ様に着飾った女性達で溢れかえり、化粧と香水の香りが充満している……。

「なんか……、人に酔いそう……」

 ティファは思わず持っていた扇で顔を覆った。
 突然のサプライズプレゼントに驚いたことと、今も少しバレやしないか緊張してることから疲れが出始めているのかもしれない。

「あ〜、そうだよねぇ。すっごい人だし、臭いし…」
「大丈夫、ティファ?」

 ユフィとエアリスが持っている自分の扇でそれぞれ緩やかにティファへ風を送る。

「うん…大丈夫。ごめんね、二人共…私のためにここまでしてくれて…」
「なに言ってんの!そんなの当たり前じゃん!!」
「ふふ、私もこんな経験初めてだからとっても楽しませてもらってるし、気にしないで」

 申し訳なさそうな顔をして項垂れるティファに、ユフィとエアリスがニッコリと微笑む。
 ユフィに至っては、ここまで順調に忍び込めたことにある意味達成感を感じていた。
 本当なら…招待状を持たないティファは来られなかった。
 だが、星の声を聞くことの出来る女性、エアリスの協力により、警備の兵士の目をくぐってあっさりと侵入出来てしまった。
 それはもう、拍子抜けするくらい。
 だが油断は禁物だ。
 このごった返す人の中に、ティファの事を知っている人間が確実にいる。
 今の着飾ったティファなら、扇で顔を隠しさえしていたら、まずバレることなはい。
 それほどまでに、普段の彼女から比べると輝いている。
 勿論、彼女はとても美人で優しくて…。
 本人が知らないところで、彼女を巡った争いが町の男達の間で繰り広げられているのだ。
 だが、そんな普段の彼女を翳ませてしまうほど、今夜のティファは素敵だ。
 同性なのに、見つめているうちにドキドキしてきてしまう。

 ユフィは目を細めて嬉しそうに笑った。



「お集まり下さった淑女の皆様。お待たせしました」

 リーブ大臣がマイクを持って壇上に上がっている。
 ザワザワとしていた会場がシーンと静まり返った。
 どこと無く……殺気だったような緊張感がホールを包む。
 いや、どこと無く…ではない。
 確実に殺気立っている。
 このパーティーに参加してる女性のほとんどが玉の輿を狙っているのだから!!

 どの女性達も目がマジだ。
 確実に獲物を狙う野獣の目になっている。

 ユフィとエアリス、ティファは顔を引き攣らせた。


「え〜。本日はザックス王子の誕生日という良き日です。この良き日に、将来の王妃…、つまりは王子の妻となるべき女性(ひと)を選ぶべく、こうして皆様にはお集まり頂いた訳です」

 ザワザワザワ…。

 会場が一気に闘志で満ち溢れる。
 なにが何でも自分が王妃の座に!!

 目が殺気立っている女性達の中には、幾人かがその気に呑まれて早くもリタイアしそうになっていた。
 ユフィは思った。


 ― ちょっと……間違えたかもしれない… ―


 ティファを救いたい一心でこのパーティーに潜入したのだが、どうも周りは野獣の群れだ。
 それも、綺麗に着飾った雌豹達。
 喰わなくては喰われてしまう……そんな気がするのは…気のせいだろうか…?

 エアリスも思った。


 ― 弱肉強食の世界って……、こんなところにもあるものなのね… ―


 親友を救いたいというユフィの一途な思い。
 そして、外の世界に触れさせたいという両親の願い。
 更には、自身も外の世界に触れたいという希望から、ここに来たのだが…。

『怖いわねぇ…。油断してたらパクッと食べられちゃいそう…』

 扇で顔を隠しながら、乾いた笑みを浮かべた。


「王妃たる女性は、温和で他者への思いやりに長け、且つ、分け隔てなく人に接する心を持つ人が望まれます。それは、この国を治める夫である王を支える妻の役目。というわけで…」

 言葉を切り、大臣はスッと身を引いた。
 一斉にホールの照明が消え、壇上のみにスポットライトが当たる。
 そこには…。


「「「 …え!? 」」」


 驚く声が上がる。
 それもそのはず。
 壇上には全く同じ礼装を着た二人の青年。
 漆黒の髪を後ろに撫で付けるようにセットし、スラリとした体躯を持つ碧眼の美青年。
 二人共、仏頂面でブスッと顔を背けて立っている。

 ホールに集まっていた女性達が困惑して囁き合う。
 遠巻きに見守っていた女性達の親や兄、弟達……、要するに『お見合い』とは関係の無い女性達の関係者達も一様に驚きの声を上げ、躊躇いながらヒソヒソと囁き合った。


 戸惑う客達に、大臣が再びマイクを手に取る。

「ご覧の通り、今夜はあえて王子と同じ年頃の者をここに呼んでおります。この者は、我が城の王子付き近衛兵です」

 ざわめきが一瞬静まる。
 大臣は続けた。

「今から、王子と近衛兵、両名のお見合いを開始します」



「「「「 はぁ〜!?!?!? 」」」」



 一斉に上がった驚愕の叫び。
 会場がその声量に大きく揺らぐ。
 客達の誰一人として、驚いていない者は無い。
 それは、ユフィ達も同様だった。
 目を丸くして顔を見合わせる。

「なんか……変わった国ね…」
「王様が変だからなぁ…」
「…でも、ちょっとこれは……」

 呆然と呟くエアリスにユフィがシラーッとした目で相槌を打ち、ティファが顔を引き攣らせて壇上の二人の青年を見た。
 二人共、これ以上無いくらい不本意そうな顔をしている。

「でも…、どっちかは本物の王子様…なんだよね…?」
「そうじゃないの?」

 首を傾げるティファに、ユフィは顎に手を添えて考えるポーズを取った。
 エアリスは無言のままジッと青年を見つめている。

 半狂乱になってブーイングをしている女性達の中で、この三人とあとの数人だけが妙に冷静だった。
 このパーティーに命を賭けていない女性達の方が、この状況を楽しむ余裕があるらしい。
 何やらワクワクした顔をして友達と話をしている。

 だが当然、玉の輿を狙っていた女性、主に富豪の令嬢などは目を吊り上げて般若のような形相になっている。


「勿論、淑女の皆様にはこの二人の青年、どちらと愛を語らうか選ぶ権利があります。それと同時に、王子と近衛兵にも淑女の皆様を選ぶ権利があります」

 シーン。

 大臣の言葉に会場が静まり返る。
 要するに、どちらが王子でどちらが近衛兵か、内緒にされたままお見合いが始まるわけだ。
 そして、自分達が選んだ相手が王子であろうが、近衛兵であろうが、相手が自分を選ばなければ即失格。
 勿論、選んだ相手が近衛兵だった場合、王子の婚約者としての道は絶たれる。
 それに、先ほど大臣が言っていた言葉。


 ― 王妃たる女性は、温和で他者への思いやりに長け、且つ、分け隔てなく人に接する心を持つ人が望まれます ―

 分け隔てなく人に接する心を持つ人!

 相手が王子でも、近衛兵でも、ちゃんと分け隔てなく接することを要求されているのだ。
 ならば、二人に対して分け隔てなく接しつつ、確実に王子の心をゲットする必要がある。
 玉の輿を狙う雌豹達の目がギラリと光った。


『『『『 どっちが王子様!? 』』』』


 品定めする視線が二人に突き刺さる。
 青年二人の頬が引き攣ったのをティファ達は見た。

「あ〜あ……」
「可哀想に…」
「本当に気の毒ね…」

 ユフィ、エアリス、ティファが心から同情を寄せた。


「さぁ、では順番にこの番号を引いて下さい。順番がきたらお呼びしますので壇上までどうぞ。その他の方々は、存分にパーティーを楽しんで下さい」


 きちんとした礼装に身を包んだ兵士達がカードの入った箱を持って周ってきた。
 ユフィ達三人も札を引く。

 ユフィ、42番。
 エアリス、34番。
 ティファ、108番。

 なんともバラバラな数字に、三人は苦笑し合った。


「では、早速一番と二番の方、どうぞ!」


 ハチャメチャ過ぎるお見合いパーティーが始まった…。



 あとがきは最後にまとめて書きますね。