「うわっ!すっげ〜、雨だな」
「本当…。あんなに晴れてたのに…」
「しゃあねぇな。客の見込みも無い事だし、今日は早めに切り上げるか」

 エッジの街外れにある小さなジュエリーショップ。
 その店の中年の店主とその妻が早めに店じまいの支度を始めた。
 空からはバケツの水をひっくり返したような大雨が、勢い良く大地に降り注いでいる。
 街外れ……という悪条件の為か、それとも中心街に多くの同業者が現れた為か…。
 最近では客足が非常に乏しい。
 その為、二人は生活するだけで精一杯の暮らしを余儀なく送っていたが、それでも満足していた。
 その二人にとってたった一つ心残りなのは…。

 一年前に星痕症候群で亡くした一人娘の事。

 せめて、花嫁姿が見たかった……。
 それが二人の口癖。
 そして。
 そんな二人の目に、雨に煙る路上に倒れている一人の女性の姿が飛び込んできたのは…。


 偶然か…。
 それとも………。



Fairy tail of The World 16




 セブンスヘブンに到着した時、五人は濡れ鼠になっていた。
 WROの本部から店まで車で来たのだが、一歩車外に出た途端、滝の中を歩いたかのような状態になってしまったのだ。

「……ふぅ…。まさか、車から出て店に入る僅かの間に、これだけ濡れるとは思いませんでしたねぇ…」
「まったくです…」

 リーブはマリンとデンゼルが貸してくれたタオルで全身を拭きながらこぼした。
 むっつりとそれに応えたのは、リーブの片腕でもあるデナリ中将。
 その後ろでは、シェルクにタオルを渡されて黙々と身体を拭く兄妹と……。

「シュリ兄ちゃん!」
「…元気そうだな…」

 漆黒で癖のある髪を持つ青年。
 無愛想な顔をして素っ気無くデンゼルに答えたシュリを、それでも子供達は嬉しそうに笑顔でもって出迎えた。
「それに、ラナお姉ちゃんとリトお兄ちゃんまで!」
「こんばんわ、マリンちゃん」
「よっ!久しぶり、元気してたか?」
「うん、元気だよ〜!」
 クシャクシャと頭を撫でてくるグリートに、首を引っ込めてくすぐったそうに笑うマリンに、デンゼルが羨ましそうに笑って見ている。
 そんなホッとする空気に、デナリとリーブはゆっくりと息を吐き出した。
 何しろ、局長室で剣呑な空気をずっと吸っていたのだ。
 無意識に疲れもたまるというものだ。

「それで…話とは…?」

 寡黙な仲間の言葉に、リーブは緩んだ頬を引き締めた。
 仲間達が期待と不安で入り混じった眼差しを向けている。

「ええ…」

 リーブはそっとシャルアに目配せをすると、子供達に向き直った。

「すまないね。これから任務について話をしなくちゃならないんだ。だから、シャルア博士と二階に行っててくれないか?」
 子供達は一瞬不満そうな顔をしたが、それでも駄々をこねるような事はしなかった。
 むしろ、自分達を促して二階に行こうとしたシャルアを押し止めると、
「いいよ、俺達二人だけで大人しく二階にいるからさ」
「うん、ちゃんと大人しくしてる!大丈夫だよ、盗み聞きなんて行儀の悪いことしないから」
 そう言うと、言葉の通りすぐに二階に消えていった。

「本当に……良い子達ね〜」
「まったくだ」

 ノーブル兄妹が感心して囁く。
 バレットが実に嬉しそうにニカッと笑って、兄妹の背中を力一杯叩いたのは『親心』というものだろうか…。
 激しく咽こみながら、心底痛そうに顔を歪める兄妹を、英雄達と彼らの上司達が気の毒そうに、そして巨漢の男をジットリとした目つきで見やった。



「んで…話ってのは……?」

 改めて皆でテーブルを囲み、腰を落ち着けたところでシドがタバコを咥えたままリーブに声をかけた。
 リーブは小さく頷くと、
「ええ。実は……」
 局長室での会話を包み隠さず話して聞かせた。

 全員、途中で何度か口を挟みたい誘惑に駆られながらも最後までジッと黙って耳を傾けた。
 ある時は驚き、ある時は怒り、そしてある時は……猜疑の眼差しで漆黒の髪の隊員を見る。
 それらの視線に晒されても、やはりシュリは全く動じている気配が無かった。
 局長室でリーブ達に見せた『能面のような顔』のまま、黙ってどこか一点を見つめている。
 その姿は、実に『リアルなマネキン』のようで…。

『少しは人間臭い所、見せたら可愛げもあるのに…』

 シュリのことが苦手なラナはそう心の中でぼやいた。
 この漆黒の髪の一つ年下の青年が、どうにも苦手で仕方ない。
 もっとも、この青年以外にも彼女が苦手とする人間は沢山いる。
 彼女は『己に厳しく、他人にもちょっぴり厳しい』性格である為、心から許せる友人や親族は極々限られている。
 そんな彼女だからこそ、この年下の上司は『受け入れがたい』人種に属してしまうのだ。

『だって、何考えてるのかさっぱりだし、人としての温かみが極端に欠落してるんだから』

 誰に言うともなく、言い訳のような台詞を胸中で呟く。
 実際、この評価はラナ以外の隊員達からも上がっている声だった。

 シュリは非常に頭が切れる。
 戦闘に関する技術も知識も豊富で、その判断力は目を見張るばかりだ。
 しかし、どこか他人を寄せ付けまいとするオーラのようなものが滲み出ているのをイヤでも感じる。
 周りの人間と必要以上に接しようとしない。
 いつだったか…。
 丁度、『オメガ』の一件の起こる数ヶ月前。
 ある隊員の送別会を行う事になった。
 この隊員は非常に人望があり、将来を嘱望されていたのだが、田舎にいる両親が体調を崩してしまった。
 元々、いつかは田舎に戻って両親の傍で生活するつもりでいたこの隊員は悩み、考え、その結果、WROを退役して実家に戻る事に決めた。

 ラナは勿論、他の隊員も残念がったがそれでも無理に引き止めるような言動はせず、逆に励ましのエールを贈った。
 その隊員の送別会に、ラナ達の上司であるシュリも当然声がかかったのだが…。


『悪いが、忙しい』


 それだけ。
 たったその一言だけを口にすると、その隊員に対して労いも何も無いまま、唖然とする皆に背を向けた。

『何だよ、あの態度!』
『あれが部下に対する態度か!』
『見損なったね、ったく!!』

 怒りと不満の声は、シュリにも聞えただろうに…。
 それなのに、シュリは全く何の反応も見せなかった。
 ラナは心底軽蔑した。

 しかしその後。
 田舎に帰ったその隊員から、送別会のお礼と田舎に帰ってからの近況を書いた手紙が届いた。
 その手紙に…。


『あの時、自分の為にシュリ少佐の事を皆は悪く言ってたけど、実家に戻る直前に少佐から直々に労いのお言葉を頂戴した。皆にもその言葉を教えたいくらい、本当に素敵な言葉だったよ。でも、あの言葉を軽々しく教えるのは少佐に対する侮辱だと思うから……悪いけど内緒にさせてもらう。どうか、今回の自分の一件で未だに少佐の事を悪く思う人がいるなら…その考えを変えてくれるとありがたく思う』


 そう記されていた。
 皆はその手紙を読んで、その事実にあんぐりと口を開けたものだ。
 そして、同僚達の大半はシュリの事を見直して褒めたり、自分達が悪し様に言った事を悔いたりしていたが、ラナは違った。

『何よ、それならあの時にそういう態度を見せたら良いじゃない!?どこまでひねくれてて、協調性が無いわけ!?』

 あきれ返ると同時に、ますますシュリという人間が苦手になったのだった。
 それから月日は流れた。
 まぁ、流れたと言ってもせいぜい十ヶ月程度だ。
 その間に、シュリはいくつもの事件を解決し、その度に昇進した。
 初めてラナがシュリの存在を知った時の階位は『中隊長』だったのに、今では『大佐』と呼ばれる地位を手に入れている。
 正直、こんな短期間にここまで出世する人間はどこを探してもいないだろうし、過去を振り返ってあらゆる角度から考えてみても例が無い。
 そんなシュリの出世に、初めは非難の声や『自分で事件を作り上げて解決してるんじゃないのか?』という猜疑の言葉が囁かれていたものだが、それらをことごとく跳ね除けてしまうほどの功績を収め続け、今では誰も何も言わない。
 むしろ、三ヶ月前の『オメガ』の一件では、シュリの所属する隊だけが唯一『朱のロッソ』から逃げおおせる事に成功したことにより、シュリへの評価は格段に上がった。
 そして、シュリはまたもや『二階級特進』するという快挙を成し遂げるところだったのだ。
 しかし、本人はそれを辞退し、今の地位に納まっている。
 その件に関して、隊の中から不満な声は一切出なかった。
 むしろ、彼が二階級特進するという栄誉を辞退した事を惜しむ声のほうが断然強かった。
 しかし…。


 そんな多大な功績を納めたシュリに対するラナの評価は…。


『ほんっとうに……どこまで『変人』なのよ、この人!』


 明らかに店内にいる英雄達から猜疑心や怒りを買っているというのに、全く何の反応も見せない。
 視線が不安に泳ぐ事も無く、かと言って開き直るという不遜な態度を取るわけでもない。
 実に淡々とこの状況を受け流している青年の姿は、ラナには理解不能だった。
 もっとも……。

『分かりたいとも思わないけど…』

 溜め息をそっと吐くと、隣に座っている兄を見た。
 実兄は、普段の彼からはちょっと想像しにくいほど真剣な表情でこの場に臨んでいる。
 そんな兄を少し意外に感じつつ、自分を振り返ってラナはちょっぴり反省した。
 上司の性格云々をとやかく言う前に、この場に臨む自分の態度を改める必要有り…そう思ったのだ。



「と言うわけです…」

 リーブが口を閉ざすと、店内は静寂の支配下に置かれた。
 ほとんどの者が眉をしかめ、首を捻っている。

『ま、わけが分からなくて当然だな…』

 グリートは英雄達の表情を盗み見てそう思った。
 寡黙なガンマンとWROの科学者は流石に不思議そうな顔はしていないが…。
 その表情はひどく渋いもので…。
 グリートは小さな苦笑いを口元に浮かべて、慌てて引っ込めた。


「話は大体分かった。それで、もう一度聞くことになるんだけど…」

 WROで一番の博識と謳われるシャルアが、額に手を添えながら口を開いた。
 バレット、シド、ユフィ、ナナキが一様にギョッとしたのを見て、ノーブル兄妹は心の底から共感した。

『あんな説明で…』
『分かるわけ無いよな…』

 ノーブル兄妹の共感を余所に、シェルクとヴィンセントは内心はどうあれ真剣な面持ちでシャルアに視線を移している。

「この星が今、かなりヤバい事になってるのは薄々分かってたよ。何しろ、正体不明のバケモノが確実に力をつけてきてたし、あんたはあんたでいきなり『北の大空洞』『古代種の神殿跡』『忘らるる都』『旧ミディール村』そして『ミッドガル』を探査して欲しい…だなんて局長に直談判したし……ね」

 シャルアの言葉にノーブル兄妹は勿論、英雄達もびっくりして目を丸くした。
 驚かなかったのはリーブとデナリ、そしてシュリだけ。
 シャルアの口にしたその地名は、いずれも三年前の旅で重要な意味を持つ場所ばかり…。
 英雄達はギョッと目を見開き、次いでWROの局長を睨みつけた。

「おいおいおい!なんだそりゃ!?」
「そんなこと俺様は聞いてないぞ!?」
「って言うか、なんでアタシ達にも声かけてくれないのさ!!」
「そうだよ、水臭いじゃないか!」
「……………心外だ…」

 睨みつけてくる仲間達に、リーブは苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げた。
 仲間達が怒るのも無理は無い。
 セフィロスを追って世界中を駆け回ったが、この五つの場所はいずれも重要な意味を持つ。
 星の運命を……仲間の命を左右した……場所。
 そこへ『星の声を聞ける人間』がわざわざ直談判してまで探査して欲しい…と言って来たのだ。
 ただ事ではないに決まっている。
 それを、仲間である自分達に内緒にしていた……となれば、怒って当然だろう…。
「本当に申し訳ない…。しかし…」
「俺が頼んだんです」
 リーブの言葉をシュリが遮る。
 英雄達は一斉に漆黒の髪の青年を睨みつけた。
 そして、不平と不満をぶちまけるべく口を開こうとしたが、
「『英雄の皆さんが今回の探査任務を耳にすると、きっと進んで任務に加わろうとされるはず。しかし、英雄達が動くという行為は、世界中の人々にとっては不安を掻き立てられることに他ならない。だから、絶対に話さないで欲しい…』と、そうお願いしました」
 一瞬早く青年が口を開いた。
 シュリの説明に、いきり立っていたバレットとシドはハッと息を飲み、ユフィはバツが悪そうな顔をし、ナナキは尾を垂れた。
 ヴィンセントは無表情のまま、深く椅子に身を預ける。
 納得せざるを得ないその言葉に、英雄達が渋々怒りを引っ込めた…。
 しかし…。

「でも……本当はそうじゃないんです…」

 その場にいた全員が眉を顰めた。
 シュリの説明は十分納得出来るものだったのに、それ以外に理由があると言うではないか…。
「…そうじゃない…とは……?」
 リーブが怪訝な顔をする。
 今の今まで、シュリの言葉を丸々信じていたし、部下の説明に大いに納得していたからだ。
 だからこそ、仲間達に内緒にするという、いわば『裏切り』にも相当するような選択肢を選んだのだから…。
 それなのに…。
 よもやそれ以外に理由があろうとは…。

「皆さんはこの星で現在生きてる命にも、既に『星に還った命』にも『有名』です。だから、あなた方が動くのは得策ではないと判断して局長には黙っていてもらいたいとお願いしたんです」

 英雄達はポカンとした表情を浮かべた。
 あまりにも突飛な言葉に、全く頭がついていけない。
 そんな英雄達を無視するようにしてシュリは話を続けた。

「英雄である皆さんが動くということは、俺がやろうとしていることがこの星の中心に押さえ込んでいる『闇』にバレてしまう事になりかねなかったので…」

 ますますもってわけが分からない。

「…シュリ大佐、話の腰を折るみたいで申し訳ないけど、さっきから出てくる『闇』って…?」
 シュリが言葉を切った一瞬の隙を縫って、額に手を当てながらシャルアが最もな質問を口にした。
『闇』云々以前に、シュリの説明に『ちんぷんかんぷん』になっている他の面々は首を傾げつつ隊員と科学者を見比べる。
 本当は『もっと分かりやすく説明してくれ』と言いたい所だが、どうにもその台詞を口に出来る雰囲気ではない。


 そのうち…分かるかな……?


 そんな曖昧な希望的観測を胸に、分からないなりにも口を閉ざして様子を窺う。
 この姿勢が、あの『旅』の中で培ってきた粘り強さ……なのだろうか…?

「あぁ…そうですね…。何と説明したらいいのか……」

 漆黒の瞳を閉じ、暫し思案する。
 その間は僅かであったが、説明を待っている人間にとっては長く感じられた。


「命が星から生まれ、星に還る……というのはもうご存知ですよね?」
 目を開け、そう切り出したシュリに皆が黙って頷く。
「『命』は『エネルギー』だという事も…?」
 再び皆、ゆっくりと頷く。
「では…。その『エネルギー』というのは……底がないんでしょうか…?」
「「え…?」」
「星を巡る『エネルギー』は、際限なく生み出されるものでしょうか…?」
「「そりゃ…」」

 突飛な質問に、誰もが眉間にシワを寄せる。
 限りある『エネルギー』であるからこそ、『魔晄エネルギー』を使って私腹を肥やした神羅カンパニーを許せなかったし、その凶行を止めるのに必死になったのだ。
 星の命を救うために…。
 それなのに、そんな分かりきったはずの質問をゆっくりと繰り返す青年の意図が分からない。

「あー!!じれったいな、何が言いたいんだお前は!」
「ったく、そんなくだらない事を繰り返してないでちゃっちゃと要点を押さえて話を進めやがれ!!」

 元々、気の長い方ではないバレットとシドがイライラと声を荒げた。
 それを「まぁまぁ…お二人とももう少しだけお付き合い下さい…」と、リーブが苦笑しつつ宥める。

 言葉や態度にしては表さないが、同席しているデナリ中将とノーブル兄妹も同意見だった。

『何が言いたいんだか…』
『……よくもまぁ、こんだけの錚々(そうそう)たる面子に向かって、ここまで苛立つ事を言えるよなぁ…』
『……あぁ!!ほんっとうにイライラするわね!!』

 三者三様、その心中は違っていたが、青年の言い回しが理解出来ないという点では一致している。
 露骨に苛立ちを表す英雄達と、表面上には出さないでジッと黙っている隊員達。
 そんな様々な視線に晒されながらも、シュリはやはりどこまでも無表情だった。

「限りがあるその『エネルギー』が星を巡って再び地表に…あるいは地下に『新しい命』として誕生します。ですが、その『エネルギー』が『新しい命』として活動する為には、一度『星と一つになって星を巡る』必要があるんです。それは知ってますか…?」

 ……沈黙。

 たった今まで苛立ち一色だったバレットとシド…そしてユフィの顔には戸惑いが浮かび、苛立ちはその奥に掻き消された。
 冷静沈着な物腰でこの場にいたヴィンセントですら、その顔には困惑が浮かんでいる。

「『新しい命』として再び生まれる為には、『星と一つになって星を巡る』…。そうして、辿り着いたその地で再び『命の器』に出会い、『新しい命』となって『世に生を受ける』ことが出来ます」
「『命の器』?」
「ええ…『命の器』。つまり『肉体』の事です」

 首を傾げたシャルアにそう言うと、英雄達と隊員達は良く分からないながらも納得した……ような気がした。

「確かに…。身体が無かったら『生まれてくることは出来ない』もんねぇ…」
「そうだね…。でもさぁ…オイラ、まだ良く分からないんだけど、なんで『星と一つになって星を巡る』必要があるわけ…?」
 ナナキが前足で耳の後ろをガシガシと掻く。
 その仕草が、『宿題が分からなくて困っている子供』のようで、グリートは危うく口元が緩みそうになった。

「『肉体』から離れた『魂』は、『地表で活動していた間』…つまり『生きていた間』の『垢』が付いてるんですよ。その『垢』を『星と一つになる』ことによって、ゆっくりゆっくり、時間を掛けて『洗い流す』…。そうしないと、『新しい器』に出会った時、『古い器に残っていた潜在的な記憶』が『新しい器』に『陰(いん)の力』つまり一般的には『負の力』と呼ばれるものを宿して生まれてきてしまうんです」


 ……再び沈黙。


 何となく分かったような顔をしているのはシャルアだけ。
 他の面々は、リーブとヴィンセントも含め、一様に困惑一色。
 シドとバレットにいたっては、『出された課題が分からなくて困りきっている子供』のようだ。

「え〜っと、いいですか?つまり…」

 控えめに…恐る恐るグリートが口を開いた。
 シュリの説明が始まってから、初めての発言に誰も邪魔をしなかった。

「再び『生まれる』為には『星と一つになって星を巡る』必要がある。その理由は星を巡っている間に、生きていた頃の『垢』というか…『記憶』というか…そういうやつを全部『ろ過』してしまう必要があるから……で良いんですね?」
「…その通り」
「じゃあ、その『ろ過』されて『新しく綺麗になった魂』というか『エネルギー』が再びこの世に生を受ける事が出来る…と…?」
「ああ…まさにその通りだ」

 グリートの言葉に、シュリはほんの僅かに微笑んだ。
 本日初めて見せた『純粋な微笑み』に、グリートはホッと胸を撫で下ろし、その隣でラナが驚いて軽く目を見張っている。
 グリートとシュリの会話を聞いていた英雄達と科学者、グリート達の上司は漸く納得出来たらしく寄せられていた眉を開いた。
 そんな中、シェルクがハッと何かに気付いた顔をして姉を見た。
 シャルアも、妹の眼差しに一つの結論が頭に浮かび、目を見張る。

「じゃあ……、さっきからシュリが言ってた『闇』っていうのは……」
「はい。『ろ過』の過程で生まれた『垢のかたまり』です」


 漆黒の瞳が物憂げに伏せられる。


 店内を幾度目かの沈黙が漂った…。





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