Fairy tail of The World 17




「でも……。その『垢』っていうか、『生前の記憶』って、そんな悪いもんばかりじゃないでしょうに……」
 腑に落ちない…。
 そんな口調でシャルアが眉を寄せる。
 対照的に、シェルクは無表情だ。
 いや、むしろどちらかというとシュリの説明に同意している節が見られる。
 神羅に攫われ、さんざん人体実験を繰り返された経験を持ち、己の精神を身体から引き離してネットワークの中に侵入できるからこそ、人の心に棲む闇に対してより一層近くに感じる機会が多かった…。
 しかし…。
 この場にいる人間は大半がそうではない。
 シャルアの意見に同意する表情を浮かべている者が大多数だ。

「そうだぜ。そりゃ、確かにイヤな記憶とか辛い記憶とかもあるだろうけどよ。そんな全部を『垢』とか言う表現で表してしまうのは…ちと抵抗がなぁ…」
 シドがガシガシと頭を掻き毟りながら苛立たしげに息を吐き出した。

「そうですね。俺の説明が悪かったのでしょう…」
 シュリは特に反対せず、再び目を閉じた。
 その横顔は真剣そのもので、ラナはふと『…こんなに真剣に、じっくり物事を考えてるところ、見たことなかったかも…』そう気付いたのだった。

 一つ年下のクセに、全然子供っぽくなく…。
 むしろ、断然自分のほうが幼く思えてしまう。
 腹の立つ場面が多々あったが、それでもその度に冷静に確実にこなしていく年下の上司。
 そのいくつもの場面において、こんなに長い時間を掛けてじっくりと考えた姿は一度も無かった。

『……なんか……意外ね……』

 常に無いその姿に、なんとなく好感が持てる。
 そして、そんな自分の心境の変化に気付き、即座にそれを強く否定した。

『ま、それでもいつもと違う顔を見たからって、こいつが気に入らないのには変わりないわ、うん!』

「……お前、さっきからなに百面相してるんだ……?」
「え…?…っと……何でもないわよ」

 気味悪そうな顔をして自分を見ている兄の視線に気付き、ラナは一瞬ドキッとしたが、すぐにそっぽを向いてその場をごまかした。
 そんな二人の会話は、特に他のメンバーの関心を集めなかったらしい。
 ラナはそっと胸を撫で下ろした。

「生きてる間の『垢』というか『記憶』は、勿論良いものも沢山あります。星を巡る事によって、その『良い記憶』『良い思い出』はそのまま星に浸透して『エネルギー』になります。ただ、『良くない記憶』『良くない思い出』はそのまま『エネルギー』にしてはいけない。もしもそれらの『相応しくないエネルギー』がそのまま『新しい命のエネルギー』として世に生を受けたら、その生まれたばかりのはずの『真新しい命』は、最初から『穢れた魂を器に宿したもの』になってしまい、生まれながらに『闇』を負った『忌み子』になります」
「「「「「『忌み子?』」」」」」

 聞きなれないその言葉に、皆が眉を顰める。
 言葉の響きだけで、何やら背筋に冷たいものが走る。
 特に、ヴィンセントの表情は険しかった。
 愛しい人の宿した命を思い出したからだろう……。

 シュリは話を続けた。

「はい。『忌み子』は一般的に『世に災いを呼ぶ子』と言われていて、禍々しい力を兼ね備えている場合が多いんです。そして、『忌み子』は『真新しい命』として生まれてきた『通常の命』を『狩る』という『本能』を宿しています。だからこそ、星を巡る事で『エネルギーに相応しいもの』とそうでないものを分けなくてはならないんです」
「…『ろ過』ってそういうこと…」
 合点がいったのか、シャルアが愁眉を開いた。
「『エネルギーに相応しくないもの』が『垢』……」
「そうです」
 ポツリと呟いたシェルクにこっくりと頷いてみせる。
「あ〜、なんかちょこっと分かったぜ」
「そうだね、それならオイラもなんか納得出来る感じだよ」
「でもさ。今の説明だと、これまでにも沢山、『ろ過し切れなかったエネルギー』がいくつも生まれてきてるみたいじゃん?」
 どことなく薄ら寒そうな顔をしてユフィが己を抱きしめる仕草をした。
 仲間達の顔が強張る。
 シュリは、ゆっくりと息を吐き出すと、
「ええ……残念ながら……」
 顔を伏せる。
「それってさ……もしかして、プレジデント・新羅みたいな……やつの事……?」
 ナナキが口にするのも汚らわしい、と言わんばかりに苦々しい口調で言う。
 誰もそれに反論しない。
 むしろ、その通りじゃないのか!?と言わんばかりの顔をした。
「そうだぜ!だからこそ、あんな外道な事が出来たんだ!」
 バレットが義手を大きく振り回しながらいきり立つ。
 その野太い腕に危うく後頭部をはたかれそうになったシドが、寸でのところでかわし、「なにしやがんでい!!」と声を荒げた。

「それで……シュリ。一体この星の状態はどうなんですか?」

 ギャーギャーと騒いで話の路線がズレがちになっているのを、リーブが強引に引き戻す。
 シュリは「ええ……そうですね」と呟くように口にすると、再び目を閉じて俯いた。
 その表情があまりにも沈痛な面持ちで……。
 あまりにも疲れきっていて……。

 ギャーギャー騒いでいたバレットとシドまでもが、顔を見合わせてシンとする。

 再び目を開けたシュリは、真っ直ぐに皆の顔をゆっくりと見つめ、何かを見透かすような…そんな眼差しを向けた。
 ゆっくり……ゆっくり……。
 今から口にする事を受け入れられるのかを見極めようとしてるようだ。
 そして、その眼差しに誰もが視線を逸らさず、かえって挑むように見つめ返す。
 最後にノーブル兄妹へ視線を移したシュリは、そこにある兄妹の英雄達と寸分違わぬ強い眼差しに、フッと笑みをこぼした。
 その笑みは、兄妹が……イヤ、その場にいる人間全員が初めて目にした……心から安らいだ……そんな笑み。


「では…お話しします」
 言葉を切って表情を引き締める。

「この星の力はもう既に限界を超えてます。今回、シャドウが現れたのが何よりの証拠。星が、『垢』つまり『人々の闇』を『ろ過』して『押さえつける力』がもうほとんどないんです」

 シュリの言葉はある程度予想していたものではあったが、それでも言葉にされるとその衝撃はけっして弱くは無かった。
 誰もが身体に自然と力が入る。
 ある者はギュッと拳を握り、ある者はグッと奥歯をかみ締めた。
 そんな中、ふとラナが何かを思いついたように口を開いた。

「すいません、大佐。質問を宜しいでしょうか?」

 格式ばったその台詞には、上司を敬う態度はあっても、温かみは無い。
 それをほんの少し非難するように兄が見てきたが、ラナは無視した。
 シュリはと言えば、ラナの態度など全く気にしていないようで「ああ、どうぞ」と一言答える。

「これまでの大佐の説明で『闇』というものがほんの少し理解出来たつもりです。ただ、『闇』が『光に浸食されている現象』について、いま一つ理解出来ないのですが」
「ああ……そうだな」
 ラナのいささか剣の篭った質問に、シュリはあっさりと頷くと、あまりにもあっさりと認められてしまった事に対して拍子抜けしたラナを尻目に、説明を始めた。

「星に還った魂は、星を巡る事で『生前の闇』を洗い流します。そして、『真新しくなったエネルギー』として『再びこの世に生を受ける』。それが所謂(いわゆる)この世の理(ことわり)です。しかし、その理(ことわり)が守られる為には、星を巡る事で『洗い流された闇』が『真新しくなったエネルギー』と混ざらないようにする事が必要不可欠です。そうしないと、折角洗い流された闇が、結局は『真新しくなったエネルギー』に付着した状態で『この世に舞い戻ってしまう』でしょう?そうなると、先程説明した『忌み子』が生まれてきて、世に災いを呼び起こしてしまう結果になってしまいます。ここまではご理解頂けましたか?」

 何となくこれまでくどくどと説明してきた青年の意図が漸く分かってきた。
 ここまでしつこく説明をされなかったら、理解出来なかっただろう…。

 シュリの問いかけにしっかりと頷いて見せたのは、シャルアとシェルク姉妹、WROの局長であるリーブとデナリ中将、ノーブル兄妹とヴィンセント。
 頭を捻りながら『何となく分かった』様子なのはユフィとナナキとシド。
 そして、最後まで真剣に首を捻っているのはバレットだった。

 シュリは大半の人達がこれまでの説明で付いて来てくれているのを確認すると、バレットに一瞬申し訳なさそうな顔をして説明の続きを話し出した。

「さて、ではその『洗い流された闇』が『真新しいエネルギー』に混ざり合ったり付着しない為にはどうするべきか?皆さんはどう思われますか?」
「え…どうって……」
 シャルアが形の良い顎に手を添えて考え込む。
「そりゃ、混ざらないようにどこか一箇所に固めて漏れ出てこないように……………!?」
「その通りです。それが『星が闇を押し止める』という説明になります」

 シュリはゆっくりと再び目を閉じた。
 恐らく、いよいよ核心に迫ったのだろう…。
 そして、その事実を口にするのを未だに躊躇っている。
 それほど、重大で重要なことなのだ…。
 その場にいる者は、シュリのその思いつめたような……苦悩に満ちた表情を見てそう気付かざるを得なかった……。

「星は…」
 ゆっくりと漆黒の瞳が開かれる。
 その視線は誰とも合わせられることが無く、俯き勝ち…。

「星は、体内に常に『毒』を抱えてます。その『毒』は星にとって……『毒であるはずなのになくてはならないもの』なんです。何故なら、その『毒』も、永い………本当に永い時間を掛けて『浄化』すると、生きるための『陽の力』になるのですから。いや…むしろ、その『毒』の力がごっそりと抜け落ちてしまう事になったら逆に危険です。星が生きていく為の『エネルギー』が圧倒的に足りなくなるのですから…」
「…という事はさ、その『毒』……、まぁそれが『闇』ってことなんだろうけど、その『毒』が『使い物になる為に浄化する力』が尽きかけてる……ってことかい?」

 シャルアが思案気に顎に手を添える。
 シュリはゆっくり頷いた。


 ……沈黙。


 これはただ事ではない…!
 三年前の『ジェノバ戦役』そして三ヶ月前の『オメガの暴走』。
 それらは、セフィロスとオメガを倒して解決した。
 無論、並大抵の事ではなかったが、『それで済んだ』。
『倒すべき相手』がいたのだから、その『敵』を倒し、後は星から力を得てこうして現在、多くの命が星に生かされている。
 それなのに、今度の敵は……全く『雲を掴むよう』ではないか!

「そんな……星の『浄化する力が底を尽きかけてる』なんて……どうやったら……」

 シェルクが愕然と呟いた。
 その場の全員の心からの訴えでもあるその独り言が、重苦しい店内の床にコトン……と落ちる。

 圧迫するような沈黙の中、それでもリーブは押しつぶされそうなその雰囲気を押しのけるように部下を見た。
「それで……シュリ、キミには何か考えがあるんでしょう?この危機を乗り切るための……そう、『秘策』というか…そういうものが」
 全員がパッと顔を上げて漆黒の髪の青年を見る。
 シュリは相変わらず俯き加減でとても明るい情報を持っているとは思えない。
 しかしそれでも…。
「そうだね、でないとアンタがどうして局長に直談判してまで世界の各所を探査させてるのか分からない」
 若干、力を取り戻したシャルアの声が皆の耳を…心を打つ。
 しかし、期待を寄せられた当のシュリは、相変わらずどこか打ち沈んだ…考え込んだ顔のままで、漆黒の瞳は伏せられ勝ちだ。

「確かに博士の言われたとおり、出来る事はあります。ただ、それは非常に……微力でしかない。俺達が命がけで行ったとしても、今、『死に瀕している星』にとっては焼け石に水…。その可能性のほうが高いんですよ」

 口にされた『死に瀕している』という言葉は、その場の全員の胸をつめたい手で締め付けるには十分すぎた。
 これまでの話の流れ的に、その表現は間違えてはいない。
 しかし、こうもはっきりと口にされると……。


「…上等じゃん…」
「…ユフィ…?」

 心が押しつぶされそうな暗い空気の漂う店内に、ウータイ産のお元気娘の低い声が静かに響く。
 ナナキが戸惑って見上げ、仲間達も無言のままユフィに顔を向けた。
 そんな中、ユフィはフルフルと拳を握り締めて震わせ、カッと目を見開いている。
 その瞳には……『闘志』。

「やってやろうじゃん!何もしないでただ死ぬのを待つなんて真っ平ごめんだね!それが『焼け石に水』で無駄だったとしても、何もしないでいじけるよりうんとマシ!って言うか、『焼け石に水』だろうが『ぬかに釘』だろうが、それしかやる事ないんならそれをやってやる!絶対に……絶対に諦めるもんか!!」

「…ああ…」
「そうだぜ…!」
「そうだね…何もしないなんて、おいらの性分にも合わないや!」

 ヴィンセント、シド、ナナキがユフィの言葉に生気を取り戻す。
 他の仲間達も同様だった。
 皆の瞳に力が戻る。
 グリートとラナは、その光景に胸を熱くさせた。
 この不屈の精神こそが『ジェノバ戦役』と彼らが呼ばれるようになった所以だろう…。

 しかし、盛り上がる店内の一方では…。

「でも……それならどうしてシュリは私達に黙ってるように局長にお願いしたんですか?その理由が…確か……」

 控えめに…しかしハッキリとシェルクが疑問を提示した。

 生気を取り戻した英雄達がハッとする。
 再び全員の瞳がシュリに集中した。
 シュリは相変わらず……伏目勝ちに瞳を誰とも合わせようとしない。

「『闇にアナタ方の行動がバレる』。だから局長にはもっともらしい説明をして皆さんに俺がしている探査について黙って頂いてました。それは…さっき言いましたよね…」

 沈んだ声に浮き立った気分があっという間にしぼむ。
 長い話が間に入ったのですっかり忘れていた。
 そうだった…。
 そもそも、何故自分達が探査の話を聞かされていなかったのか……?という説明から始まったのだ、今回の『闇』の話と、『闇を浄化する力が星から失われつつある』という事実は…。

「あ〜…つまり…。一体、どういうことなんでい…?」
 恐る恐る、シエラ号の艦長が水を向ける。
 青年の表情を見る限り、決して楽観視出来ない現実を突きつけられるとわかっていても、聞かずにはいられない。
 話を聞かないと……本当に何も出来ないではないか…。

「『闇』が『生前の負の記憶』だと言うことはご理解頂けましたか?」
 皆が黙って頷く。
 シュリは「だから…なんですよ」と、前置きをすると、遠い目をして、ふぅ……と息を吐き出した。
 あまりにその姿が…弱々しくて……。
 あまりにその彼の表情が疲れきっていて……。
 リーブとデナリ、そしてグリートとラナは何度目かの驚きを覚えた。
 こんなにも疲弊した彼の姿を見るのは初めてのことだ。
 いつも、飄々として何事にも動じない。
 それがWROでの彼の姿。
 しかし、本当は沢山の……本当に想像をはるかに超えた『重み』をその身に一身に背負っていたのだ。

 …四人の胸が……鈍く痛む。

「奴らは生前の『負の記憶』。という事は、皆さんの事も知っている『人間』が『いた』という事にも繋がります。それが一体『誰』だったか……。お心当たりがあるのでは?」

 青年の言葉に、イヤでも神羅の幹部達の顔が思い浮かぶ。
 一様に不快気に表情を歪めた。
 シュリは、皆が納得したのを確認し、説明を続けた。
「『闇』という本来閉ざされたはずの『一つの世界』には、今もどんどん『新しい情報』が『新しい魂の垢』と一緒に流れています。そうでなくても……『闇』は『ライフストリームの奥深く』に『ライフストリームの動きを感じながら』存在している。ですから、皆さんが動けばあっという間に『闇』はその事を知るでしょう。そうすると……じわじわ星を侵食する事に『悦びを感じている』『闇』が、もしかしたら『慌てて行動をし始める』かもしれない……そう思ったんです」

 誰も……何も言えない。
 確かにそうなのだろう。
 じわじわと苦しめる事で『悦び』を感じていられるところに、突如、『敵』が現れ、自分達を排除するような動きを見せる。
 その事に気付いて慌てない者や、何もしないで悠長に構える者がいるだろうか?
 いるはずがない。
 しかし、もしもいたとしたら……。
 それは動き出した『敵』が自分にとって目ではない…という事……。

 つまり…。

「今、私達にその話しをした…ということは、『闇』にとって、我々は既に『取るに足らない存在』になった…ということか?」

 ヴィンセントの言葉に、ユフィとバレット、シド、ナナキがギョッとする。
 グリートとラナ、リーブとデナリは表情は変えなかったものの、それでもその心中は荒れ狂っていた。


 全てが……取り返しのつかない状態になっている。
 そういうことなのだろうか…?
 なら…。
 なら……!


「何故、もっと早く教えてくれなかったんです!?」
「…局長」
 声を荒げ、悔しそうに顔を歪めるリーブをデナリがそっと制する。
 しかし、その制する声音が弱々しいのは、彼自身がリーブと同じ気持ちだからだろう…。
 気の短いバレットとシドも、リーブの言葉に賛同の台詞を口にした。

 シュリは自分を非難するそれらの言葉を全て黙って受け止めていた。
 その光景に苛立ちを覚えたのは……大財閥の令嬢。

「皆さん、やめて下さい!大佐が悪いわけじゃないじゃないですか!!」


 シーーン…。


 ラナの強い非難の声に、八つ当たり気味だった言葉の嵐がピタリと止む。
 しかし、彼女はそれで納まらなかった。
 今度は黙って言われるがままになっていた上司をキッと睨みつける。

「大佐!大佐もなに言われ放題で黙ってるんです!?大体、こうして皆さんを集めて話をする事に決めたのは、わざわざ非難の声を聞く為じゃないでしょう!?それなのに、こうして黙ってるなんて、らしくないです!いつもの飄々とした大佐はどこにいったんですか!?」
「ラナ…」
 宥めるように肩に手を置いた兄を振り払い、声を荒げる。
「兄さん、私、間違った事言ってる!?だって、局長室で話をしてた時は、もっと何か考えがあるみたいな風だったじゃない!それなのに…!」


「……全く……本当にそれでノーブル家のご令嬢なのか……?」
「な…!?」


 カッとなったラナが見たものは…。
 苦笑する……穏やかな目をした……漆黒の髪を持つ青年。
 冷たく、小バカにした台詞にも、どこか温かみを持っている事に気付かないわけにはいかない。
 そして、その事にその場の全員が気がついた。
 ラナの怒声とシュリの穏やかな表情に、頭に上りきっていた血が下がる。
 バレットとシドはガシガシと頭を掻き、ユフィは椅子の上でモジモジと…、ヴィンセントとナナキそしてリーブはフッと身体から力を抜いて…。
 シャルアとシェルクは顔を見合わせて笑みを浮かべ、デナリとグリートはやんわりと目を細めた。


「確かに……僅かですが何とか出来る可能性はあります。ですが、その可能性は…非常に低い。ですから、しっかりとその事を踏まえて……力を貸して頂きたかった」
 申し訳ありませんでした。


 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げるシュリに「なに言ってんでぃ!」「良いってことよ!」「って言うか、頭上げておくれよ〜…」等々、英雄達がいささか慌てて声をかける。

「シュリ」

 リーブがそっと歩み寄って部下の肩に手を置き、上体を起こす。
 そして、しっかりと目を合わせて口を開いた。

「今日は何度もキミを疑ってしまった…。私の方こそ本当に申し訳ない。この星の命を終らせないために、どうかその方法を教えて欲しい」


 リーブの言葉に、全員がしっかりと頷いた。
 固い決意に満ちたその面々に、シュリの瞳が僅かに揺らめく…。


 それは…。
 これまでたった独りで孤独な戦いを密やかに繰り広げていた戦士の僅かな安らぎ…。


『切ない』という表現が最も似合うと思われるその眼差しを見た財閥の令嬢は、そっと胸を押さえたのだった…。


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