「『闇』から『陽の力』を守るために……『本来の星の姿』に戻すために、力を貸して下さい」

 反対する者は誰一人いなかった……。



Fairy tail of The World 18




「今、この星に欠けているものを挙げればキリがありません。その一つ一つが必要で軽視出来ないものですが、その中でも最も重視されるものを検討しました。その結果が、今回、直談判という強硬手段に出させて頂いた『各地の探査』です」
 シュリの言葉に一同は頷く。
「しかし『北の大空洞』『古代種の神殿跡』『忘らるる都』『旧ミディール村』そして『ミッドガル』を探査したが、特に異常は無かったが……」
 リーブが顎に手を添えながら首を捻る。
 その隣で、デナリがムッツリと頷いた。
「ええ…確かに。しかし、そのお蔭でまだ……まだほんの僅かですが希望が残されている事が分かったんです」

 シュリの『ほんの僅かの希望』という言葉に、一向は眉を顰めた。
 シュリのように星の声が聞えない自分達には、星が一体どのような状態にあるのかさっぱり分からない。
 その為に、シュリの言葉が過剰に過ぎるのではないか…?と思ってしまうのは無理からぬ事だろう…。
 しかし、その事を口にして貴重な時間をロスさせる愚か者はいなかった。
 シュリは言葉を続けた。

「星は……必死に戦ってます。俺が探査をお願いした五つの場所は、所謂(いわゆる)星の『ツボ』です」
「「「「「ツボ?」」」」」
「ええ。勿論、他の場所も『ツボ』と思われる場所はあります。しかし、それらを全部回るには時間が圧倒的に足りません」
 ユフィが「へぇ…人間みたいなんだなぁ〜」と驚きながら呟く。
 シュリの視線がユフィに向けられた。
「ええ、その通り。人間や他の生き物と同じです。星も『生きてる』んですから」
「ふぅん。でもさぁ、どうして『ツボ』を探査させたわけ?」
 赤い獣が尾を揺らせて興味津々に見上げてくる。
「星がいよいよどうにもならなくなった場合…。その時に異変が起こるのは『ツボ』だからです。人間もそうでしょう?身体が変調をきたした時に『ツボ』を上手に押すと少しは具合が良くなる。星の場合は、恐らく『ツボ』から『闇』が溢れ出てくるはずです」
「しかし…大佐。現時点で『闇に侵食されている兆し』が出ているのではなかったのか?」
 デナリが訝しそうな眼差しで見つめた。
「はい、その通りです。しかし、これはまだ序の口です」
「序の口…って、おめぇ、さっきは手遅れみたいな事言わなかったか?」
 シドが眉を顰め、その隣では義手を持つ巨漢が力一杯頷いている。
「ええ…。『序の口』とは言いましたが、規模が違います。何しろ『星』のことですからね。大き過ぎるんですよ。ですから、まだ『序の口』と言っても『十分過ぎるほど手遅れに近い』んです」

 店内を再び沈黙が襲う。

 その沈黙を振り払うようにユフィが大きく手をバタバタと振った。
「あ〜!!もう、こんな空気はダメダメ!!頑張るぞ!!!!って言うもんがこれっぽっちも無いじゃん!!」
 お元気娘の言動に、場が一気に和む。
「フッ…確かにな」
 ヴィンセントが口元に微笑を浮かべ、切れ長の瞳をシュリに流した。
「さて…。私達は一体何をすれば良いのか教えてもらおうか?」

 シュリは凛とした眼差しでもってそれに応えた。

「『星のツボ』を『刺激』する間、俺のガードをお願いします」


 あまりにも突拍子も無いその言葉に、その場の全員が唖然としたのだった……。


「『星のツボ』を『刺激』って……マッサージでもするんですか…?」
 シェルクが皆の代表のように疑問を言葉にした。
 シュリは、「まぁ…それに近いですね」とだけ答えると、それ以上詳しく語ろうとしなかった。
 別に隠し立てをしている…と言うわけではなく、純粋に説明が難しいのだろう…とその場の全員が察する事が出来るような彼の困った顔に、リーブが「まぁ…要するにシュリのガードをしたら良いんですね?」と助け舟を出した。
「ガード…って一体何から?」
 ユフィが当然の質問を投げかける。

 シュリは言いにくそうに口を開いた。

「俺が『星のツボ』を刺激する事は…恐らく『闇』にとって『癇に障る』ことのはずです。ですから……」
「…まさか…『シャドウ』が……?」
「その可能性が高いかと…」

 ギョッとして仰け反るシャルアに、申し訳なさそうな顔をしながらも頷く。
 英雄達と隊員達が揃って息を呑んだ。

 ティファをあと少しで『死』に突き落とす所だった…『シャドウ』。
 その存在は『闇』から出てきた『闇の生き物』。
 いや、そもそも…。

「そう言えば、『シャドウ』ってさぁ……『生き物』なの?」
 いささかピントのズレた様な質問を投げかけたナナキに、仲間達が『そう言えば…』という顔をする。
「そうですよね。そもそも『シャドウ』が『闇』からやって来る『闇に生み出されたもの』という事は聞きましたが、そもそも通常の状態での『生き物』とは……考えられない……ですよねぇ…やっぱり」
 リーブがこれまで部下が説明してくれた事を一つ一つ思い返しながら繰り返す。

「『シャドウ』は……『闇の意志の欠片』です」
「『闇の意志の欠片』……」

 ゾッと冷たいものが全員の背筋を駆け抜ける。
 シュリの言葉を繰り返し呟いたグリートの声が、若干かすれているのは……気のせいではない。
 ラナは隣に座っている兄を咄嗟に見た。
 怯えたように自分を見てきた妹に、兄は何とか笑顔を作ろうとして失敗する。
 歪んだその顔に、妹はそろそろと視線を外し、膝の上で固く握り締められた拳をじっと見た。

「『闇の意志の欠片』…ね…。なるほど、どうりでそこらへんのモンスターとは違うわけだ」
 WRO自慢の博士が溜め息混じりに納得の言葉を口にした。
 シャルアの言葉の意味にいま一つ理解出来ない面々が、説明を求めるようにジッと見つめる。
 彼女はすっかり冷め切ったコーヒーを口に運び、一息ついた。
「おかしいと思ってたのよね…。だって、被害にあった人達だけど……。はっきりとした死因は『死因がハッキリと特定しない程の惨状』…つまり、遺体が著しく損傷しているものだった。どれもこれも……本当に……酷いものばっか…」

 重いため息で胸につかえている不快なものを吐き出そうとするが、無論そんな事が出来るはずもなく…。
 重苦しい空気に拍車をかけるだけとなる。

「『被害者』を見たときにね。すっごく違和感があったのよ」
「『違和感』?」
「そ。『違和感』」

 眉を顰める妹に、再度頷いてみせる。

「だって、どう見ても『殺したいから殺した』って感じがしてね。普通のモンスターは『腹が減ってるから捕食する為に殺す』のに、どれもこれも『喰った跡』がなかったんだもん」

 冷静に分析してみせた博士に、一同は黙り込んだ。
 あまりの内容に、全身に鳥肌が立つ。
 ユフィは、想像しかけて気分が悪くなり、冷め切ったコーヒーを一気に流し込んだ。

 グリート、ラナの兄妹に至っては、顔面蒼白で固まっている。
 実際にその惨状の『片付け』をしたことの経験がある分、博士の言葉がリアルに脳に浸透する。
 あの凄惨な現場で、冷静にその状況を観察し、判断するだけの余裕は残念ながら二人にはまだない。
 これから培われていくのかもしれないが、まだまだ当分先の話だろう。

 ともすれば込上げてくる吐き気に負けそうになる。
 ラナは、グッと唇をかみ締めて周囲にばれない様ゆっくりと深呼吸をした。
 ざわめく胸を宥めるように…。
 一方、彼女の兄は固く握り締めた拳を更に強く握り、手の甲から腕にかけて薄っすらと血管が浮き上がっている。
 それでも、表情だけは冷静さを保っていた。
 そして…。

「シュリ大佐の仰る事はちょっとですが理解出来たと思います。要するに、大佐が『ツボ』に何らかの『刺激』を与えている間、襲ってくるであろう『シャドウ』から大佐をお守りすれば良いんですね?」
「ああ……すまないが……」
「いえ、いいんです。でも…」
 フッと視線を逸らせて妹を見る。
 ラナはその視線に気付くとキッと兄を睨みつけた。
「兄さん、まさか私をこの件から外してくれ…なんてふざけた事言わないわよね?」
「………」

 沈黙は肯定の証。

 ラナはカッとなって立ち上がった。
 椅子が抗議の悲鳴をあげながら床に転がる。

「絶対に私も参加するわ!」
「ラナ…」
「ここまで話を聞いてるのに、今更私を蚊帳の外に追い出すって言うの!?冗談じゃないわ!!そんなの納得出来ないし、納得しない!!」
「しかしな…」
「しかしもなにもないわよ!そりゃ、私の力は微々たるものよ。足手まといになるかもしれない。それでも、人数は少しでもいた方が良いんでしょう?『シャドウ』の動きはきっと、私じゃ追いつけないほど素早いんだという事も、あいつらの攻撃を喰らったら防ぎきれない事も分かってる!でも、『下手な鉄砲も数打ちゃ当たる』って言うじゃない!何とかなるわ!!」
「……なんか、若干意味がズレて…」
「ズレてない!!絶対に参加するわ!!!」

 頑として譲らないラナに、グリートはそれでも認めなかった。
 絶対にダメだ!
 そう言い張り、こちらも頑なに首を縦には振らない。

 どうやら、意外なところで『兄妹』の共通点があるらしい。
 一度『これ』と決めたらてこでも譲らないのが、『ノーブル家の血』であるかのようだ。

 その兄妹喧嘩に終止符を打ったのは…。

「グリート・ノーブル、ラナ・ノーブル。二人の参加を認めましょう」
「「!?」」

 兄はギョッとして…、妹はパッと顔を輝かせて局長を見た。
 WROの最高権力者の言葉は絶対である。
 しかし、グリートには当然承服しかねる内容だ。
 喜ぶ妹の隣で、非難の言葉を口にしようとしたが、その寸前に、
「ま、いいじゃん。私もラナと同じ女の子で参加するんだし〜」
 ウータイ産のジェノバ戦役の英雄がのほほんと言った。
「しかし…!」
「大丈夫だって!それにさ……。もうこうなったら一緒に最初っから参加させてる方が安全なんじゃな〜い?」
「だな…。その姉ちゃん、絶対に勝手に着いて来るぜ…」
 シドがユフィに同意してタバコの煙をプカリと吹かせた。

 満面の笑みで頷く妹を苦々しく睨みつけていたグリートは、結局最後には折れるしかなかった…。



「では、早速明日から行動に移りたいと思います」
 立ち上がってシュリが一礼する。
 皆、表情を引き締めて頷いた。
「最初はどこからするつもりですか?」
 リーブの質問に、
「北の大空洞からにしようと思います。あそこが…全ての災厄の発端ですから…」
 遠くを見るような目で答えたシュリに、グリートとラナ、デナリは首を傾げたが英雄達は彼が何を言っているのか気付き、重々しく頷いた。


 北の大空洞…。
 ジェノバが星に喰らいついた……その忌まわしい……土地…。


 ジェノバが偶然『星のツボ』に喰らいついたのか…それとも『狙って』喰らいついたのか…。
 それは分からないが、それでも星の危機にいつも『ジェノバ』が絡んでいるという皮肉に、英雄達の胸に苦々しい思いが込上げる。
『ジェノバ戦役』でも『オメガの危機』でも…。
 そこには『ジェノバ』の暗い影が潜んでいて…。

 しかし…。
 今度こそ……今度こそ、『ジェノバ』…『星を喰らうもの』からこの星を守ってみせる。
 英雄達は知らず知らずの内に、固く拳を握り、己に誓ったのだった…。



「あ…忘れてた…」

 固い決意を胸に抱く…という一種の厳かな空気が漂っている中、ラナの少々ズレた高い声が響いた。
 お蔭で折角の引き締まった……厳粛な空気が台無しだ。
 グリートは、空気を読まないでぶち壊した妹に失神しそうになる。
『このバカ!!』
 胸中で毒づきながら、額には汗の玉が浮かぶ。
 折角…折角無事に話が終わり、プライアデスの分まで英雄達の……星を守るという作戦に同行させてもらえるようになったのに…!!

『このバカ妹(おんな)!!』

 ハラハラハラハラ…。
 緊張のあまり、汗が噴き出すのを止められない。
 ラナが一体何を言おうとしてるのかさっぱり分からない分、余計に心配が募る。
 万が一、局長やシュリの不興を買うような発言をして、作戦に参加させてもらう話が流れたら…!!


「大佐。アイリがどうしてティファさんを救うことが出来たのか説明して下さる約束でしたよね?」
「「「「あ…」」」」

 リーブ、デナリ、グリート、そしてシュリが間の抜けた顔になる。

 星の危機や『闇』の話ですっかり忘れていたのだ。
「ああ…すっかり忘れていた。そうだな…約束していたな」
 シュリの淡々とした態度と…、
「あ、それ!俺様も気になってたんだ!!」
「え!?なになに!?説明出来るの!?!?」
「聞かせろ、今すぐ!!」
 シド、ユフィ、バレットが身を乗り出して説明をせがんだ姿に、グリートは心の底からホッとした。


「『魔晄中毒』とは主に脳の神経が麻痺・コントロール不能の状態だ」
 シャルアがそう切り出した。
「だから、『自我』や『身体機能全般』に亘って(わたって)障害をきたす。その彼女がどうしてティファさんを救う事が出来たのか…私も興味があるね」
 眼鏡の奥から知的な光を放つ科学者に、シュリは目を細めた。
 それは……威嚇。
 先程までのシュリからは『信頼』を感じさせてたのに、シャルアの一言と科学者としての一面を前にして、あっという間に青年の心が閉ざされてしまった。
「あ……と。ごめんごめん。別に『研究材料』にしようとかじゃないさ。魔晄中毒の治療はまだまだ未知の領域が広いからね。もしかしたら、アンタの話から新しい治療法が見つかるかもしれない…って思っただけだよ。気を悪くしたら謝る」
 苦笑しながら手をヒラヒラ降る科学者に、青年はその眼光を少し緩めたものの、完全にその『壁』を取り払う事はなかった。
 しかしそれでも、説明する事を止めたわけではなかった。
 一呼吸置いて口を開く。

「博士の仰ったとおり、魔晄中毒とは脳の神経が制御出来ない状態に陥ってしまうものです。ですが……」
 ふと……遠くを見やる。
「その『脳』は……イヤ、魂は………密接に『星の流れ』に結びついてる状態でもあるんです」

 その場の全員が首を傾げ、眉を顰める。

「『星の流れ』…所謂(いわゆる)ライフストリームに密接に繋がっている状態。それがどういうものかは…分かりますか?」

 誰も…何も言わない。
 身動きすらしない。
 おぞましい想像が頭を占める。

「『無数の意識』が流れているのが……ライフストリーム。その『無数の意識』と繋がっていると言う事は、『生きたまま星に還っている状態』と等しい……」

 シェルクが鋭く息を吸い込み、身を縮こませた。
 実際に自分の頭をいじられ、数々の意識に入り込めるようになった彼女には、アイリがどういう状態であるのかがイヤでも理解できる。

 生きながらの……地獄。

 シェルクの場合は特殊な機械を通さなくては無数の意識とのコンタクトは出来ない。
 しかし、シュリの説明では……魔晄中毒に侵されているアイリは……否が応でもその無数の意識と交わり続けなくてはならないのではないのか?
 それが……もしも本当なら……。

「生き地獄…」

 ポツリと呟かれた言葉が、皆の心に突き刺さる。
 生きたマネキンと称される様な彼女の状態。
 それが、漸く…本当に漸く、『人間らしく』生きられるようになったというのに……。


 十年以上……魔晄中毒と闘ってきた彼女は、自ら再び『生き地獄』の世界に戻ってしまった……。


「ええ…そうです、『生き地獄』は実に的を射た表現です」
 ふぅ……。
 青年の溜め息が重く…重く……店内に落ちる。

「話を戻します。生きながらライフストリームと繋がっている状態にある彼女は、当然、星の動きを感じることが出来ます。それを感じながらも脳を制御する力を奪われているので何も出来ないのですが……。ですが、彼女はWROの医療施設で『脳』を『制御する力』を取り戻しつつあった。だから、ティファさんの命の危険を知り……自らの足で……意志で……ティファさんの所に赴いたんでしょう…」

 シンと静まり返る。
 アイリが魔晄中毒で苦しんでいる事は知っていた。
 しかし、『具体的』に『どう苦しんでいるのか』を知っていたわけではない。
 まさか…。
 まさか、生きたまま『星』と繋がり、『無数の意識の海』に……ずっと……ずっと………。


 十年以上も!!


「それでも…そんな状態で……自我を失わないとは……」
 ヴィンセントが畏怖の念を込めて声を漏らした。
「なんつう…精神力だ……」
 シドが呆然と言ったその言葉に、英雄達と隊員達はぎこちなく頷いた。

 たった九歳で魔晄中毒になってしまった少女は。
 その時からどれ程の苦痛を……地獄を味わっていたのだろう…。
 想像すら……出来ない。
 そんな彼女が……何故……?
 何故、折角僅かとは言え、己の『自由』を手にしつつあったのに、それを手放してまで『他人』を救ったのか…?
『他人の命を救う』代償が『再び生き地獄のどん底に返る』という事を知らなかったのだろうか…?

 いや。
 知っていたはずだ。
 無数の意識の中を漂い続けてきた彼女には、恐らくとんでもないほどの情報を得ているだろう。
 その情報から、『他人の命を救う』と自分がどうなるのか……という事くらい、容易に見当がついたはずだ。
 しかし…。

「大佐。仮に大佐が仰られていた『魔晄中毒に犯されている状態』が真実だとします」

 重い沈黙を破ってラナが口を開いた。
 その口ぶりからは、シュリの話を丸々鵜呑みにしていない事が窺える。
 シュリは気を悪くた様子はサラサラなかった。
 むしろ、鵜呑みにしなかったラナをどこか褒めているような……そんな穏やかな目で見る。

「アイリがティファさんの危機を知ったのは『星と繋がっているから』。そう考えると、アイリがティファさんの病室に向かったことの説明にはなりますから。でも、肝心な説明がまだです」
 半ば睨むように……挑むような眼差しでシュリを見る。


「アイリがどうしてティファさんを救うことが出来たのか…、いいえ、『ティファさんの身代わりになることが出来た』のは何故ですか?」


「そりゃ、ライフストリームと繋がってるなら、その方法くらい…」
 ラナの言葉にグリートが躊躇いがちに言ったが、そんな兄を妹はキッと睨みあげた。
「方法を知ってても、『使える力』がなかったらどうしようもないじゃない!」

 ラナの言わんとしている事に、ハッとしたのはグリートだけではなかった。
 その場の全員が…シュリ以外の人間が最大の『謎』に気がつき、シュリを見る。
 皆の視線を集める青年は、ラナを見ていた。
 その目が……とても穏やかで……満足したものである事に驚いてしまう。

「ラナ・ノーブル。キミは実に頭がいい…」

 そう褒めると、ゆっくり目を閉じた。
 一方、褒められたラナはというと、一瞬バカにされたのかと思いカッとなったが、満足そうに目を閉じている年下の上司に怒りが戸惑いに摩り替わってしまった。
 困ったように兄を見上げると、グリートも困惑して上司を…そして局長へと視線を移している。
 リーブも戸惑ってシュリを見つめていた。


「彼女は……きっと俺と同じで、『気』を自在に操る素質を持ってるんでしょう…多分」

 驚く面々の前でゆっくりとその瞳を開く。
「そうでなくては、彼女がティファさんに『命の源』を注ぐ事は不可能ですからね。いくら星と繋がっていて、『死にゆくものを助ける方法がある』と知っていたとしても、ラナ・ノーブル准尉の言う通り、『それを扱えるだけの力』がなくては、ただの『机上の空論』でしかありませんから」
 でも…。
 だからこそ。
 長い年月、魔晄中毒という『生き地獄』に身を置いていても尚、自我を失わずに済んだんでしょうね…。



 シュリの呟くような言葉が…。
 英雄達に…隊員達に……重く……重く……。

 その胸に響いたのだった…。





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