「翼をもがれた天使はそのまま真っ逆さまに地上に堕ちて死んでしまいましたとさ…」
 夜空を見上げながらポツリと呟いたその言葉に、中年の女性が眉を顰める。
「なに気味の悪い事を言ってるんだい?」
 そう声を掛けながら、窓際の椅子に腰を下ろしているうら若い女性にそっとショールをかけた。
「まだ本調子じゃないんだから、もっとゆっくりしてなきゃダメだよ?」

 ゆっくりと中年の女性に振り向いたその女性は、薄っすらと口元に笑みを湛えていた。
「ええ……何から何まで…本当にご迷惑を…」
「ふふふ…何を言ってるんだい!困った時にはお互い様って言うだろ?さ、もう少し横になって…」
 女性の背に手を添え、ベッドに促す。
 それに大人しく従い、シーツに潜り込んだ女性に、中年の女性は目を細めた。
「せめて……名前だけでも思い出したらねぇ……。そうしたらアンタの家族を探す事も出来るだろうに…」
 ポンポンとシーツの上から女性の腕を軽く叩く。
 淡いグリーンの瞳を細め、女性は笑みの形で口を開いた。


「私のことは……サロメと呼んで下さい」


 中年の女性が軽く目を見開く。
「アンタ、思い出したのかい!?」
 その言葉に応える事無く、『サロメ』と名乗った女性は瞳を閉じ、やがて規則正しい寝息を立ててしまった。
 美しいその寝顔に、女性はただただ見つめるしかなかった……。



Fairy tail of The World 21




「それで……シュリはどうなったんだ…?」
 リーブからの報告に、クラウドは蒼白になった。
 シュリが『シャドウ』の攻撃を受けないように仲間達は護衛の任に就いた。
 今回のミッションに自分とシェルクは参加出来ない。
 危険な……非常に危険な任務だ。
 恐らく、三年前の『ジェノバ戦役』や半年前の『オメガ事件』と引けを取らないものだろう。
 そのミッションに自分とシェルクが参加出来ないのは……。

「もう、本当にお上手ね!」
「そんな事ないって、本心だよ〜!」
「やめとけっつうの!クラウドの旦那に殺されても、骨は拾ってやらないぞ〜!」
「こんの薄情者!」

 客を相手に笑っているティファの為。

 今回のミッションが彼女の耳に入ったら…。
 恐らく子供達をシエラか孤児院か…はたまた迷惑を承知でグリートの実家に頼み込んで預けるか……。
 どちらにしろ、子供達を手放してでも参加すると言い張るだろう。
 まだ彼女は冷静に戦闘に参加するだけの余裕はない。
 むしろ、アイリを犠牲にして生き残った事に、無意識下で『罪悪感』を抱いている。
 きっと、命を危険に晒し、ミッションを成功させる事で彼女への『贖罪』をしようとするだろう……。
 勿論、自分の命を危険に晒す事がアイリの犠牲を踏みにじる事になると十分承知している。
 その事を考えると、決して軽率な行動には出ないだろうが…しかし…。

 きっと…無意識にティファは己の命を危険に晒す事で、アイリへの罪滅ぼしを図るに違いない。
 他人を犠牲にしてまで生き残った事に、どうしようもない罪悪感を抱いている…。
 そうクラウドとが思ったのは、あながち思い過ごし…というわけではないだろう。
 現に、仲間達はクラウドの考えに賛成だった。

『大丈夫だって!クラウドやシェルクがいなくてもちゃーんと護衛してみせるよん!』

 ニシシッと笑いながらウータイの忍びがクラウドの背をバンバン叩き、仲間達が笑顔で力強く頷いてくれた。
 クラウドとシェルクは…。
 その皆の好意に甘える事にしたのだ。
 勿論、子供達にも内緒だ。
 英雄達が同時に同じミッションに就く。
 そのこと自体をクラウド達は内緒にした。
 そして、もう一人内緒にした人物がいる。

 プライアデス・バルト。


 ― アイリの看病を続けたい… ―


 彼の意思をそのまま呑むことで、WROが行っている任務の全てを彼が関与するのを禁止した。
 無論、それは機密保持のため……という名目の下に下された決定であり命令だ。
 プライアデスは感謝してその命を受けた。
 だから……彼は知らない。
 彼の従兄弟達が危険な任務に赴いていることを。

 後ろめたくない…。
 そう言えば嘘になる。
 少しでも腕の立つ人間が今回の任務に参加すべきであるのは十分過ぎるほど分かっていた。
 だが…。

 クラウドは仲間達の腕を信じた。
 彼らは共に旅をし、共に奇跡をもぎ取った……頼りになる奴らだ。
 恐らく、この星で彼らほど頼れる人間はいないだろう。

 しかし、リーブからたった今聞かされた報告は何と言う事か!!

 この星で最も腕がたつと言っても過言ではないその仲間達の防壁を掻い潜ってシュリを襲ったというそのモンスターに、全身が震えに襲われる。
「ヴィンセントの話では、命に別状はない…とのことです。ただ……」
「ただ……なんだ?」
 言いよどむWROの局長に詰め寄る。
 二人が話をしているのがセブンスヘブンの店内と言う事もあり、大きな声を出したり露骨に不安がったり出来ないので、何とか自分を抑えているクラウドに、リーブは声を落として続きを話した。
「ヴィンセントが言うには『シャドウ』は一体しか現れなかったのに、その持っている力がこれまで報告を受けていたものよりも強くなっているようだ…とのことなんです。つまり、ティファさんを襲った『シャドウ』から更に進化している……と…」
 クラウドは愕然とした。
「……なんてことだ…」
 思わずカウンターに片肘をついて口元を覆う。
 デンゼルとマリンが気遣わしそうにクラウドとティファを見比べている。
 ティファは深刻な話をしている二人に当然気付いていたが、幸か不幸か話の内容は聞えなかった。
 その為、二人が話しているのは『アイリの容態について』だと密かに勘違いしていたのだ。


『そんなに……悪いのかしら……』


 治療薬に浮いているアイリの姿が目の前をちらつく。
 胸が苦しくなる。
 息が出来ない…。

 だがしかし、今、自分はセブンスヘブンを………店を……仕事をしているのだ。
 お客様達に心配をかけるわけにも、店を途中で閉店させるわけにもいかない。
 崩折れそうになる膝に力を入れ、消えそうになる笑顔を無理に貼り付け、ティファは懸命に接客業に務めた。
 シェルクはそんなティファの傍にそっと近寄ると、さり気なく彼女が手にしていたお盆を取り上げた。
「ティファ。ここは私が…。ティファは調理をお願いします。私ではまだまだ調理は無理」
「お〜!シェルクちゃんは料理出来ないのか?」
「ま、ティファちゃんの手料理に張り合おうと思ったら、かなりの修行が必要だな!」
「そうそう!ティファちゃんの手料理は天下一品だからなぁ〜!!」
 客達の笑い声とシェルクの真っ直ぐな瞳に、ティファはホッと息を吐き出した。
「うん、じゃあお願いね」
 心からの感謝を込めて微笑みかけると、シェルクは薄っすらと頬を染めて「べ、別に大したことでは…」とどもりながらぎこちない動きで空いた食器を盆に重ねていった。
 褒められる事に未だに慣れない彼女のその仕草が初々しくて…。
 肩から力が抜けるのを感じる。
 少し軽くなった気持ちを胸に、ティファはカウンターの中に足を向けた。

 そんなティファに気付かず、クラウドとリーブは話を続けている。
「それで…他には何もないのか?」
 リーブの表情と口調から、まだ何かあると感じたクラウドが先を促す。
 リーブはウィスキーの入ったグラスを傾けて一口啜ると、「………ええ…まだ……あるんです…」と一言一言を区切り、重々しく口を開いた。

「結局シュリが『シャドウ』を退治したことは…話しましたよね…」
「…ああ…。ライフストリームを操っているようだった…という話だったな」
「ええ……。その後で…なんですが……」
 言葉を切って再びウィスキーを啜る。

「実は、今…。皆さんは『古代種の神殿跡』に…つまり次の目的地に向かってるんです」
「な!?!?」

 クラウドは目を剥いた。





「おいおい…お前、こんな状態なのに本気で次の目的地に向かうってのか!?」
 シエラ号の艦長が仰天して大声を上げた。
 その隣では同じくギョッとしたバレットが後ずさっている。
「…正気かよ……」
 目の前のベッドで弱々しく横になっている青年が狂っているように思える。
 呆然と呟く巨漢を押しのけるようにしてユフィが身を乗り出し、
「あんた、何考えてるのさ!絶対にダメ!!こんな死にかけの状態でさっきみたく『シャドウ』に襲われる危険を冒しながら『星に接触』するだなんて、あたしは反対だね!!」
 鼻息も荒く猛反対した。
 ユフィの足元にいるナナキも言葉に出さないが反対の意志を持っていることは明白だ。
 だがしかし…。

「シュリ大佐…。本当にやれるのか?」
「…はい…」
「分かった。シドさん、『古代種の神殿跡』に向かって下さい」
 デナリの言葉に、一斉に抗議の声が上がる。
 しかし、

「言う通りにしてやれ。今は一刻を争う」

 ヴィンセントが静かにそう言い放った。
 仲間達は当然、眦を上げて睨みつけたが、それでもヴィンセントに向かって怒鳴り声を上げる事はなかった。

 本当は…皆、分かってるのだ。
 どんなにボロボロになっても、シュリ一人しか『星に接触』する事が出来ない以上、彼に頑張ってもらうしかないということを…。
 しかし…だからと言って、青白い顔の半分を包帯で包み、血色の悪い唇をして浅い呼吸を繰り返す青年に、そんな酷な事を頼むなんて……!

「くそっ!俺達がもっとちゃんと守れてたら!!」
 バレットが悔しそうに義手を叩く。
 他の仲間達も同様だ。
 ただ一人、ラナだけが青ざめて突っ立っていた。
 グリートがそっと妹の肩に手を置き、「大丈夫か?」と囁く。
 気丈な妹が『大丈夫よ!』と言い返す……そう思っていたのに…。
 ラナは何も言わなかった。
 半ば放心状態の妹を見て、よほど『シャドウ』の恐ろしさが強烈だったのかと思ったグリートは、次の『古代種の神殿』ではシエラ号に残らせようと決心した。
 そして同時に、こんなにも危険な任務に参加させることを許してしまった己に苛立ちが募る。
 いくら上司が許可を出し、本人が強く望んだ結果だとしても、やはり認めるべきではなかった。
 なんとしても阻止すべきだったのだ。
 それなのに…。


「すいません。…目的地に着いたら……起こして下さい」
 眉根を寄せて目を閉じたまま、そう言った青年にヴィンセントが顔を寄せた。
「何か口にしてから眠った方が良い」
 ユフィとナナキがヴィンセントの言葉に弾かれたように駆け出そうとする。
 消化の良いものをシエラ号の厨房へ取りに行く為だ。
 だが…。
「いえ……何もいりません…」
「だが…シュリ大佐……」
 デナリも心配げに眉間にシワを寄せる。
 ユフィとナナキはハタと立ち止まって顔を見合わせ、困ったように立ち尽くした。
「せめて水だけでもどうよ……?」
 躊躇いながらシドが提案する。
 シュリはゆっくりと首を振った。

「多分…今は何も受け付けられません。……吐くくらいなら……なにも口にしない方が良いです。…余計な体力を使ってしまいますから……」
「でもよぉ……」
 オロオロとバレットが言葉を引き継ぐ。
 しかしそれに対してストップをかけたのは意外にもグリートだった。
 妹を心配しながらも皆のやり取りに耳を傾けていた隊員は、
「大佐の言う通りです。水分補給なら点滴で補えます。それに、点滴なら吐いたりして体力を消耗することもないですし、糖分やビタミン、たんぱく質も同時に摂取出来ますから一石三鳥ですよ」
 ことさら明るくそう言って、早速シエラ号に同乗している医療班に取次ぎするべく部屋を出て行った。

 医療班は、シュリの顔に包帯を巻いただけで部屋から出されたのだ。

 …シュリの希望によって…。

 シュリの頬の傷をもっと丁寧に手当することを希望した医療班は、当然治療することを主張したが…。


 ― 医学でどうにかなるものじゃないから放っておいてくれ。そのうち治るから。それよりも…皆さんを呼んで欲しい ―


 こうして部屋の外で待たされていた英雄達と入れ替わるようにして、医療班の面々が部屋から出されたのだ。
 医師と看護師の渋面を思い出し、デナリは溜め息を吐いた。

 確かに…シュリの言う通りだろう。
 ティファを襲った『シャドウ』の毒は、医学ではどうしようもなかった。
 そして今、シュリを苦しめているその傷は明らかに……ティファの時よりも強力だ。

 なにしろ、皮膚があまりの毒素に『ただれて』いるのだから…。

『ただれた』皮膚からは出血していない。
 それは、『シャドウ』の攻撃を受けた直後からそうだった。


 ― ジュッ! ―


 全身が総毛立つような……肉の焼けた音と……吐き気を催す臭気…。
 まるで焼きごてを当てられたかのように『ただれて』いるその傷跡は、これまで見たこともないものだった。
 硫酸をかぶったら…こうなるのかもしれない。

 かなり痛むはずであろうに、シュリは呻き声をただの一度も上げなかった。
 今では浅く繰り返していた呼吸が少しだけだが落ち着きを見せてきている。
 確かに…。
 回復力が早い。
 解毒剤の投与もせずに毒に勝とうとしているのだから。
 ティファは死ぬ寸前まで追い込まれたと言うのに、目の前の青年はかなり弱ってはいるが死からはほど遠い。
 そんな様子に英雄と隊員達はただただ驚くばかりだ。


『なんて…奴だ…』


 目の前の青年に、言い知れぬ畏怖の念が胸に込上げる…。


「では、到着したら起こすからそれまでゆっくり休んでいろ…。何か用があればそこのボタンを押せばいい」
 ヴィンセントがシュリの枕元に簡易式のナースコールボタンを置く。
 シュリはそれに応えなかった。
 既に深い眠りについていたらしい。
 一つ溜め息を吐くと、皆を部屋の外に促した。
 が…。

「私は…ここに残っています」

 WROの女性隊員が俯き加減にそう申し出た。
 軽く驚いて英雄達が顔を見合わせる。
 彼女がシュリを苦手としている事は良く知っていたからだ。
 先程の戦いで、彼女が身を挺してシュリの盾になったことも今考えたら驚きなのだが、しかしそれは、『シュリを護衛する』という『任務』からの行動であると思っていた。
 しかし、今…。
 ベッドで眠っている青年を見つめる彼女の思いつめた表情に、少なくともこれまで彼女がシュリに対して抱いていた『嫌悪感』が消えているのを感じる。
 英雄達と彼女の上司は黙って頷いた。
 俯いたままその気配を感じたラナは、更に、
「出来れば…兄も一緒にお願いしても…?」
 そう願い出た。
 これにはグリートが目を丸くした。
 しかしすぐに妹の頭をポンポンと叩き、皆を振り返って頭を下げる。
「すいません。俺も大佐が気になるので」
「そうだな。シュリは眠っちまったし、目が覚めた時になにかものを頼みたいと思っても『呼び鈴』の説明を聞いてなかったからなぁ」
「じゃ、お願いねん♪」

 シドとユフィが兄妹の申し出に賛成し、仲間達もそれに同意した。
 皆がそっと部屋から出て行く。
 最後の部屋を出たデナリが、
「あまり…二人共無理するな。適当に休むように」
 そう言い残した。

 だからその後、シュリの休んでいる室内で兄妹がどんなやり取りをしたのか、他の面々が知ることはなかった。
 それ故に、リーブに兄妹が何を話し合ったのか…伝わる事はなかった。
 ただ、WROの局長が受けた報告では…。


 ― 全員、現在の任務を続行する ―


 それだけだった…。



 クラウドは、カウンターの中で料理を作っているティファを見た。
 いつもに比べて空元気に見えるのは、気のせいではないだろう。
 必死に『今』を取り繕っているのが手に取るように分かる。
 だからこそ、今、ティファの傍を離れることは出来ない。
 しかし…。

「クラウドさん…。『古代種の神殿』に向かってもらえませんか…?」
「リーブ……」

 苦しげにそう懇願する仲間に、クラウドはグッと唇をかみ締めた。
 リーブの言わんとしていることは分かっているつもりだ。
 この星が、存続するかはたまた滅亡するか……。
 その瀬戸際にあるのだから、

 ― 『一人の人間に気遣って二の足を踏んでいる場合ではない』 ―

 そういう状態にあるのだと…。
 クラウドは十分すぎるほど分かっていた。
 そして、それはシェルクにも言えることだった。
 今回のシークレットミッションに参加することを強く望んでいた彼女を説き伏せるのに、どれほど骨が折れたことか…。
 だがしかし…。
 そのせいで貴重な戦力が失われ、仲間達の命がより危険に晒されている…。
 クラウドは……たまらなかった。
 大声を上げたかった。
 全てをティファに打ち明けて、任務に参加したかった。
 だが…!!



 ― 「絶対に……離さないで……」 ―



 左手に熱が宿る。
 彼女の……アイリの初めて聞いた声がまざまざと蘇える。
 クラウドはグッと左手を右手で包み込み、きつく眼を瞑った。

『ティファを置いていけない…!!』

 あの時のアイリの真っ直ぐに向けられた眼差しと、強く握り締められた左手に残っている温もり。
 そして、その直後に瀕死の状態に陥ってしまった彼女の存在…。
 なによりも、今、目の前にいるティファの壊れてしまいそうな姿が、クラウドをエッジから……いや、ティファから離れさせる事を阻んでいた。


「クラウドさん……」
「悪い…。本当に申し訳ないと思ってる。だが……」
「……いいえ」
「……すまない…」


 苦悩に満ちたクラウドに、リーブは笑おうとして失敗し、顔を歪めた。
 クラウドがどれほど任務に参加することを希望しているのか知りながらも…非情な言葉を口にしてしまった自分に嫌気が差す。
 だが、人の命を預かる身としては………どうしても!!

「クラウドさん……。クラウドさんが任務に参加したいと思ってるのにそう出来ずに苦しんでいる。それを知ってて尚、お願いしてしまったこと…許して下さい」
「リーブ…」
「ですが…!ですが、今、この星は生きるか死ぬかの瀬戸際なんです。死に追いやられようとしているこの星を救うための手段があるなら、それを全て駆使したい!そう思ってしまう私を…どうか……」
「良いんだ…分かってる…。本当は…『ティファ一人にこだわってる場合じゃない』っていうことも…分かってるんだ……」
「クラウドさん…」
「だけど…どうしても………」

 そう言ってクラウドは両手で顔を覆った。
 いつもクールで飄々としている仲間の苦悩に打ちひしがれている姿に、溜まらずその肩に手を置く。
 リーブは……胸が締め付けられた。

 クラウドの思い。
 仲間達の命。
 そして、なによりこの星の未来。

 それらを思うと、どうして良いのか……何を選ぶべきなのか……。
 何が正しくて、どれが誤った道なのか分からない。
 仲間として立つべきか、それともWROの局長として立つべきか。

 星の規模から考えると後者だが、人として考えると前者…。

 リーブは顔を覆って板ばさみに苦しんでいるクラウドを前に、自身も言い難い苦悩に苛まれるのだった。


 そうして…。
 そんな二人のやり取りを、カウンターの中で注文の品を作っているティファが不安ではちきれそうな面持ちで盗み見ていた。
 その事に、二人の英雄は気付いていなかった…。




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