あぁ……バレてしまいましたか…。
 でも……遅かったですね…。

 いくらアナタが懇願しても、私は譲るつもりはありません。

 ねぇ、ですから…。


 諦めてくれませんか?
 そうしたら……。



 最期の一瞬(とき)を……アナタと一緒に過ごせますから……。



Fairytail of The World 35




 プルルルル…プルルルル…。
 設置したばかりの新居に電話の呼び出し音が軽快に響く。
 クラウドが家を出て一時間以上。
 リリーが隣にある自営の店に戻って三十分。
 電話に出ようとしたマリンを軽く手を上げて制し、ティファは受話器を取った。

「はい、ストライフ・デリバリーサービスです」

 いつものように明るい口調で電話に出た。
 子供達はキャーキャー笑いながら荷解きをしている為……気付かない。
 ティファの顔が強張っていく事に…。

 カチャ…。

 受話器を置く音がして、暫く何も動きがないことに、マリンが不審そうに顔を上げた。
 視線の先には呆然としているティファ。

「どうしたの、ティファ!」

 ドキッとしながら声をかけると、ティファはビクッと身を震わせて瞬時に笑顔を貼り付けた。
 デンゼルが心配そうに駆け寄る。

「クラウド…なんかあったのか?」

 見上げてくる視線に、ティファは一呼吸置いてから微笑むと「なんでもないよ、ごめんね」と応えて見せた。
 デンゼルとマリンには、クラウドが家出をした頃に戻ったような笑顔に見え、不安が増長する。
 だが、そんな不安を口に出来るはずもなく、子供達はそれぞれ納得したような振りをして笑顔を浮かべて見せると、再び荷解きに戻ったのだった。



 そして。
 その十分ほど後に…。

『ごめんね。お店にちょっと忘れ物したから取りに戻ってくるわ』

 仕事中のリリーに無理を言い、デンゼルとマリンの面倒をお願いして…。
 子供達の不審と不安の混じった視線に罪悪感を抱えながら、ティファはトラックのエンジンを噴かせたのだった。


 ― ちょっと、ティファちゃん!? ―
 ― え?あぁ、果物屋の… ―
 ― アンタ、クラウドさんと別れたのかい!? ―
 ― え……? ―
 ― なんだい、違うのかい…? ―
 ― あの………どういうことですか…? ―
 ― いやねぇ…… ―


 ― クラウドさんが若い美人さんと笑って歩いてたもんだから、てっきり… ―


 クラウドへの信頼が。
 音を立てて崩れていった…。





「なぁ…間に合うよな……」

 不安で彩られたその声音に、誰も応えない。
 皆が不安と焦燥感で押しつぶされそうだった。
 飛空挺に搭載されていた小型艇に慌ただしく乗り込んだ英雄二人とWRO隊員兄妹、そして操舵するシドのイチオシクルーの表情は強張っている。

 早く…。
 早く……!

 小型艇に搭載されているエンジンは、当然のことながら小さい。
 シエラ号が旧・ミディール跡地に到着し、ミッションを終えてすぐにエッジに舞い戻れる時間と、この小型艇がエッジに到着する時間はさほど大差ない。
 せいぜい、半日あるかないか…程度だ。
 しかし、その半日が惜しい…と、シュリは言った。
『闇』の力が急速に陽の世界に関与してきている。
 それは、これまで内側から徐々に蝕んでいたものとはわけが違う。

 露骨に……。
 あからさまに……。
 縦横無尽に…我が物顔に…。

 必死になって星の寿命を延ばそうと……救おうと足掻いている『真の英雄達』を嘲笑うかのように、『闇』はその動きを見せつけ始めた。
 本格的に…『侵食』を始めた『闇』に、シュリは無表情の仮面の下に苦渋を滲ませる。
 小型艇に乗り込んだ『エッジに向かうメンバー』に、シュリは最後まで無言のまま見送った。

 もう…何を言っても仕方ないと思っているのか…。
 それとも、言葉が見つからなかったのか…。

 ヴィンセントは背もたれに深く身を沈めながら、目を閉じた。
 脳裏に浮かぶのは、シークレットミッションのリーダーである青年の暗い表情と、大切な仲間二人の幸せそうに微笑み合う姿。

 なにがなんでも…守りたいと思う。
 今度こそ…。
 かつて守れなかった女性(ひと)の時のような思いを味わわないように…。
 かの女性(ひと)のような悲しい運命を歩ませないように…。

 目を閉じたまま、ヴィンセントはマントの下で握っていた拳に力をこめた。

「兄さん…」
「ん?」
「ティファさん……大丈夫よね…?」
「ああ、大丈夫さ!彼女は強いからな」
「……ライも…大丈夫よね…?」

 自分の膝に頭を乗せて横になっている妹の頭を優しく撫でる。
 ラナの体調はまだ戻っていない。
 シュリが重大な話しをしている間も、結局彼女は自室で昏々と眠っており、何も知らされないまま小型艇に乗せられていた。
 気が付いた時にはとっくにシエラ号を後にしていた。
 妹にシュリから聞かされた話しを語ったグリートは、取り乱すかと思われていた妹が、以外にも冷静に受け入れたことに安堵とも疑問とも思われる複雑な思いを抱いた。
 従兄弟に淡い恋心を幼い頃から抱いていた妹を知っているが故に…その心情は複雑だ。
 プライアデスに妹が恋心を抱いた時、彼には既に想う人がいた。
 最初はその事実を受け入れられず、イヤな姿を見せたこともある妹だが、今では『彼女ごと』受け入れている妹が不憫に思われる……こともないでもない。

「さぁ…まぁ、大丈夫だろ?アイツは容量が悪いくせに意外に危機を乗り越えていくという奇特な……っていうか、ちゃっかりした人間だ。アレだな、きっとスッゲー守護霊がついててくれてんだぜ」

 わざと明るくそう言って、妹の笑いを誘う。
 ラナは小さく笑い声を漏らしながら、そっと兄の手に自分の手を添えた。

「うん……ありがとう……」
「ん…」

 そんな兄妹のやり取りを聞くともなしに聞いていたバレットとヴィンセント、そして操舵をしているクルーは、ムッツリと黙り込んだまま己の中に渦巻いている不安と戦うのだった…。


 そんな従兄妹達の笑いとも心配とも言える対象となっている青年はというと…。


 WROの資料室にいた。
 傍らには、クラウド達の引越しを見送ったシェルクがいる。
 二人共、パソコンの画面に映し出される文字の羅列を必死に追っていた。
 昨日、路地裏で発見した男性。
 恐らく、『ミコト様』に接触したのだろう。
 彼に直接話を聞きたいところなのだが、まだ意識を取り戻す気配が無い。
 その為、『彼の願いが叶えられた形跡』がないかどうか、その『情報』を探していた。
 例えば…。

「……今のところ、変死体が見つかったというニュースはないですね」
「……失踪事件も…ない…みたいだね……」
「……特にこれと言って…」
「……変わった話はない……ですね……」

「「はぁ……」」

 シェルクとプライアデスは大きく息を吐き出した。
 凝り固まった肩を回し、伸びをする。
 酷使した目を労わるように目頭を押さえ、首を回す。

 二人共すっかり疲れきっていた。
 腕を骨折していた男。
 そのまま今も原因不明で意識が戻らない。
 脳波に異常は無い…と医師は言っていた。
 ということは、彼が何らかの『願い』を叶えてもらう『報酬』として受けた『代償』が今の状態なのではないか?と考えたのだが…。

「あの男(ひと)、なにも願いはかなえてもらってないのかもね…」

 プライアデスがすっかり冷め切ったコーヒーを口に運びながらそうぼやいた。
 シェルクが無表情のまま顔を向ける。

「だって、これまで『ミコト様』と接触して『何らかの代償』を払ってて、『願い』を叶えられなかった人……いないから…」
「では、何故あの男(ひと)は腕を…?」
「ん〜……、これはまぁ、僕の想像でしかないんだけど……」

 シェルクのもっともな質問に、プライアデスは困ったように天井を仰いだ。

「『彼女の逆鱗に触れた』…とか……」

 その答えに、シェルクは軽く目を見開いた。
 プライアデスは空になったカップをテーブルに置くと、腰を上げた。
 背もたれにかけていた上着を取る。

「『ミコト様』は『慈善家』じゃない。むしろ…逆の存在だ」
「………」

 上着をはおり、テーブルに置いたカップを手に、ゆっくりとした歩調でドアに向かった。
 シェルクも黙って同じ様に上着を取ると自分のカップを持って後に続く。

「『ミコト様』は自分の存在を世の中に……というか、『裏の社会』を中心に広めている。表向きは『予言者』『超能力者』とかで騒がれるように計算して…。まことしやかに人々の口にのぼるようにしたんだ。そうして注目を集めながら……その実、裏では『命』までをも『対象』にして『闇の世界』に身を置いている人間を操ってる…。そんな気がするんだ」
「………」
「実際、『闇社会』から『脱走』する人間が出てきてるし、『ミコト様』を気味悪がって『自然崩壊』する『闇組織』も結構な数になる」

 シェルクは黙ってプライアデスの言葉を聞いていた。
 確かに…そうなのだ。
 エッジの街にはびこりつつあった『闇組織』が、この一ヶ月ほどではすっかり大人しくなりつつある。
 これだけを聞けば、『ミコト様』は本当に『素晴らしい存在』になるのだが……。
 だが……。

「『ミコト様』は…そんな『生易しい存在』じゃない」

 鋭い目で前を見据える紫紺の瞳。
 シェルクは無言で頷いた。

「『ミコト様』は…なにかを『しよう』としている」
「…はい」
「それも…きっと…恐ろしい事だ」
「…ええ」

 広い廊下に二人の足音がコツコツと無機質な音を響かせる。

「多分……近々『牙を向く』」

 その言葉は…。
 シェルクの背筋を粟立たせるには十分だった。

「彼女の本当の目的……って……何だろう…?」
「…ライ?」

 突然、深刻な口調が一転し、素朴な声音になった青年に、シェルクは戸惑った。
 目を上げると首を傾げて本当に不思議で仕方ない…と、言わんばかりの横顔。

「彼女は…『ミコト様』が、ここまで『世の中に自分の存在』を現そうとしてるその『目的』って…何だと思う?」

 紫紺の瞳がシェルクの魔晄の瞳を捉える。
 シェルクは困った。
 そう言えば、『ミコト様』に『願いを叶えてもらう』という気持ちと、今では『ミコト様捜索』という目的以外で、彼女の事を考えた事は……あまり無かった……。
 無言のまま肩を竦めるシェルクに、プライアデスは同じく肩を竦めた。

「だってさぁ、本当に『世の中に自分の存在』を現す……というか『有名』になりたいんだったら、『マスコミ』とか、それこそWROに自分を売り出すとか……色々手はあると思うんだよね。それなのに、『ミコト様』がやってることって、すっごく『回りくどい』って思わない?」

 シェルクは立ち止まった。
 数歩進んで、プライアデスも立ち止まり、不思議そうにシェルクを見た。
 驚愕で目を見開いている彼女に、プライアデスも驚いて目を丸くする。

「シェルクさん…?あの、大丈夫ですか…?」
「………」
「あの〜……」
「………」

 慌てて目の前で手をヒラヒラさせるプライアデスに、シェルクは固まったまま呆然としてピクリとも動かない。
 かと思いきや…。

「それです!!!」
「うわっ!!」

 突然、大声を上げたシェルクにプライアデスはビックリして飛び上がった。
 そんな青年にはもう目もくれず、シェルクは駆け出した。
 彼女に数歩遅れてプライアデスも走り出す。
 何名かの隊員とすれ違い、ギョッと見られたが、そんなことに構ってはいられなかった。
 わけの分からないまま、プライアデスはシェルクの後を走っていたが、彼女が目指しているのが『局長室』だと分かり、そのまま黙って後に続いた。

 エレベーターを待つのももどかしい。
 並みの隊員よりも体力も脚力もある二人は、迷わず階段を駆け上った。
 上階にある局長室に辿り着いた時、二人は全身汗まみれで肩で息をしているような状態だったが、エレベーターを利用するよりもうんと早かったことは言うまでも無い。

 荒い息を整える事もしないで、シェルクは局長室のドアをノックしようと腕を上げた。
 同時に局長室のドアが開き、血相を変えたリーブが部屋から飛び出そうとする。
 危うく『出会いがしら事故』を引き起こしそうになったシェルクとリーブは、互いにビックリして軽く仰け反った。

「うわっと!」
「キャッ!」

 シェルクの半歩後ろにいたプライアデスがシェルクを咄嗟に支える。
 リーブは体勢を整えると、シェルクの後ろにいるプライアデスに目を止め、「あ〜、良かった。丁度バルト中尉に用があったんです」と息を吐き出した。
 そして、戸惑うプライアデスと自分に話をしようとするシェルクを制しながら、ひとまず局長室に招き入れた。

 局長室には、既にシャルアが座っており、一緒に入ってきた妹に少しだけ驚いた顔をしたが、すぐ元の『科学者』の顔に戻った。


「あの……自分に用があるとは…?」

 椅子を進められてひとまず腰を下ろしてから、プライアデスは上司に質問した。
 リーブは難しい顔をして眉間にシワを寄せている。
 その隣に座っている科学者は、いつもと変わらない表情をしてはいたが、どことなく強張った雰囲気を醸し出していた。

「バルト中尉…」
「はっ」
「今すぐジュノン港に向かって下さい」

 重い口を開いたリーブの突然の命令に、プライアデスは咄嗟に返事が出来なかった。
 だが、局長直々の命令に逆らう事など出来るはずもない。
 聞きたいことは沢山あった。

 何故このタイミングで…?
 何故ジュノン港…?
 そこで一体何をしないといけない…?

 しかし、それ以上の追求を許さないような上司の視線に、プライアデスはそれらの疑問全てを飲み込み、敬礼をして立ち上がった。

「ちょっと待って!」

 止めたのはシェルク。
 睨むようにリーブを見ると、
「こちらの話も聞いてからライに命令して下さい!」
 そう主張する。
 しかし、リーブは頑なにそれを拒否する姿勢のようだ。
「既に手配は整ってます。すぐに向かうように」
「リーブ!」
 抗議をするように声を荒げるシェルクに、プライアデスは感謝するような笑みを向けると、再び敬礼して部屋を後にした。
 あまりにもあっさりと出て行った青年に、シェルクが止める間などなかった。
 部屋に残ったのは、シェルクの苛立ち、そしてリーブとシャルアが醸し出している奇妙な緊張感。
 居心地の悪いことこの上ない。

「どういうことですか…」

 震える声は、そのままシェルクの怒りを表していた。
 リーブは黙ってテーブルの上で組んでいる手を見つめている。
 代わりに姉が口を開いた。

「シュリ大佐から連絡が入ってね。『闇』の目的が分かったんだ」
「え…?」

 ことの重大さにシェルクの怒りが一瞬そがれる。
 シャルアは魔晄の瞳を見開く妹を見つめて説明を続けた。

「ついさっきだよ。メールが届いたんだ」

 テーブルに置いてあったノートパソコンをクルリとシェルクに向ける。
 画面にはこうあった。


 ― 『ミコト様』なるものの目的。それは『己の器』となりうる『身体』を捜す事です。古代種の神殿跡地での任務でその事実を『星』から聞きだすことに成功しました。標的は…… ―


「ティファ……」
 呆然と呟くシェルクに、シャルアとリーブが厳しい顔をする。
「確かにティファさんは『ジェノバ戦役の英雄』と呼ばれるほどの女性。そこら辺の女性とは違う。『闇』に狙われたとしても不思議はない…」
「……」
「だからこそ…。『忌み子』の可能性があるバルト中尉を傍に置くわけにはいかないんです…」
「『忌み子』?」

 リーブのこぼした言葉に、シェルクは眉間にシワを寄せた。
 彼女は『忌み子』について何も聞かされていない。
『忌み子』について話を聞いているのはリーブとシャルアだけなのだから…。

 簡単に『忌み子』について説明をし、シャルアは溜め息を吐いた。

「本当はさ、バルト中尉にもティファさんの護衛に当たって欲しいんだ。でも、『万が一』ということもある。もしも…本当にバルト中尉が『忌み子』だとしたら、ティファさんが『ミコト様』の手に囚われてしまう可能性が高くなってしまう。そんなリスクは……負うわけにいかない」
「だったら……だったらどうして、『忌み子』かもしれないライを『ミコト様捜査』なんて危険な任務に就けたんです!?」

 声高に非難するシェルクに、二人は押し黙った。
 シェルクは、その二人の様子にハッと気付く。

「試したのね…?」
「「………」」
「ライが…本当に『忌み子』かどうか…試して……彼を『捨て駒』にしたのね…?」

 再び怒りで声が震える。

「シェルク…仕方なかったんだよ」
 宥める姉の言葉が、更にシェルクの怒りを煽った。

「仕方なかった!?仕方なかったですまされる話しだとでも!?」
 カッとなって立ち上がる。
 ここまで感情を露わにした妹を見るのは、幼い頃以来のシャルアと、初めてのリーブは驚いて怒りにわなないているシェルクを見上げた。

「ライが『忌み子であった場合』、『ミコト様』と接触する可能性がある。そこを押さえて…一緒に『始末』するつもりだったのね!?」
「シェルク…」
「おまけに……『忌み子でなかった』としてもそうよ!ライ一人を捜査に当たらせていたら、万が一、『ミコト様』に接触する事に成功して『犠牲』が出たとしても、『犠牲者は一人』で済むものね…。ライなら腕がたつから『死ぬ可能性は低い』…、そう考えたんでしょう!?」


「我々が相手にしている『敵』は…強大です…。『一人の命』よりも『多数の命』を選ぶ。それが……『星に害するあらゆるものと戦う』我々の……使命です」


 リーブの低く思い声が、冷たく響く。
 シェルクはギッと睨みつけたが、そのまま何も言わずに身を翻して出て行った。
 姉の制止する声が聞えた気がしたが、止まる気には到底なれない。
 足早に向かう先は……ヘリポート。
 ジュノンまでなら、恐らく飛空挺を使用しないでヘリを使うはずだ。
 そしてその予想通り、プライアデスは今まさにヘリに乗り込んで飛び立とうとしていた。
 猛ダッシュで駆け寄り、有無を言わさずヘリに乗り込む。
 呆気にとられている隊員達を尻目に、「良いからこのまま出して下さい」と命じると、同じく呆気にとられているプライアデスの隣に腰を下ろした。

「シェルクさん……あのですねぇ……」
「良いんです!」
「あ……はあ……でもですねぇ……」
「良いと言ったら良いんです!!」
「……はい、すいません」

 WRO本部を、プライアデスとシェルクを乗せたヘリが飛びたった…。


「あのぉ…ところでシェルクさん…?」
「………」
「その……局長になにか話しがあったんでしょう?話しは出来ましたか?」
「……話しはしていません」
「え!?」
「その必要がない事が分かりましたから」
「は…?」

 キョトンとするプライアデスに、シェルクはむっつりと答えた。

「『ミコト様』の目的が『誰か特定した人物一人』なのでは…と思ったんです。だから、公の場に姿を現さないで、その『特定した人物』が『やって来る』のを待っているのでは…と。その予想を話そうと思ったのですが、既にリーブも姉も知っていましたから」
「え!?」

 ギョッとする青年に、シェルクはそれ以上の説明をするべきかどうか、頭を悩ませた。
 青年に『忌み子』であるかもしれない…と、上司が疑っていたなど……話をするのが憚られる。
 暗い気持ちのまま、ヘリの爆音をBGMに二人はジュノン港に向かった。



「行っちゃいましたね…」
「はぁ……」

 局長室でリーブとシャルアは溜め息を吐いた。
 シェルクとプライアデスがヘリでジュノン港に発ったと、ヘリポートの隊員から連絡を受けたのだ。
 シュリからのメール画面を見るともなく見つめつつ、リーブは頬杖を付いて再び溜め息を吐いた。

「仕方……ないですよね……」

『ミコト様』の標的が他でもないティファだったのだ。
 これ以上、大切なものをなくしたくない。
 憎まれても…蔑まれても……それでも大切な仲間を危険に晒す事など……出来ない。

「それにしても…このメール、大佐らしくないね…」
「……まぁ、内容が内容だけに、シュリも困惑してるのでしょう…」

 首を傾げる科学者に、局長は疲れ切った声で応じた。
 そう、本当に疲れたのだ…色々な事がありすぎて。
 だから、これ以上考えられなかった。


 シャルアの言う通り、シュリらしくないメール。
 それについて頭を働かせる事が出来なかった。


 ― 『ミコト様』なるものの目的。それは『己の器』となりうる『身体』を捜す事です。古代種の神殿跡地での任務でその事実を『星』から聞きだすことに成功しました。標的は…ティファ・ロックハートの身体を手に入れることです。つきましては、速やかに彼女からプライアデス・バルトを遠ざけて下さい。クラウド・ストライフには彼女が狙われていることを早急に報告し、彼女から離れないよう伝えて下さい。自分達は旧・ミディール村での任務に引き続き、『忘らるる都』へ向かいます ―


 シュリにとっても大事な人のはずなのに…。
 ティファの身の安全よりもむしろ『シークレットミッション』を優先させているような…内容。
 シュリの立場から考えたら…それはそれで当然なのだろう。
 だが、ティファやWRO本部に残っている自分達を気遣う言葉がないこのメール。


 シャルアの胸に、暗雲が立ち込めるのだった。




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