「何度もお話している様に、貴重な戦力を割いて捜索する事は出来ません」 氷よりも冷たい声が室内の体感温度を下げた。 Fairy tail of The World 41ジュノン支部に配属されている男は、自分の隣に座っている青年の冷たい態度に、内心、驚愕していた。 のほほんとした第一印象からは考えられないほど、冷たいその声音。 絶対に崩れないと感じさせる冷めた表情は、鉄壁のようだ。 プライアデスの反対側に座っているシェルクも同様だった。 まさか、いつも穏やかで滅多に声を荒げたりしないプライアデスが、ここまで『冷たい顔』が出来るとは。 いくらおっとりしているとは言え、プライアデスは『中尉』という階級を持つ。 それなりに、部下に叱咤する場面も見てきていた。 彼らしからぬ苛立ちや怒りを目の当たりにする事もあった。 だが…。 『人形…みたい』 ここまで冷たい眼差しを浮かべ、無表情な彼は初めてだ。 そんなプライアデスの目の前……というか、三人の前には、尊大な態度をとっている二人の夫婦。 一目で『オカネモチ』と分かるその装いは、嫌悪感すら覚える。 それなりに美男、美女であるのだが、ゴテゴテとした装飾品に身を固めているせいか、どうにも好感が持てない。 そんな壮年の男性と中年の婦人は、ギラギラと怒りの眼差しでプライアデスを睨みつけていた。 「いくらでも金は払うと言っているんだ!なにが不満だ!?」 「ここは『金を払ったらなんでも引き受ける人材派遣センター』ではないからです」 怒気に顔を赤くする男性とは対照的に、プライアデスはどこまでも冷静だった。 ギリリ…。 洩れた歯軋りは紳士から。 隣に背筋をしゃんと伸ばし、同じく真っ赤な顔をして怒りに彩られている貴婦人がプライアデスを睨みつけた。 その目に、どこか蔑みが込められているように感じるのは…シェルクの気のせいだろうか…? 「黙って聞いてれば……よくもそんな口を……」 怒りに震えながら紳士が押し殺した声を絞り出す。 「黙って聞いて下さってはおられないと思いますが?」 すかさずプライアデスは揚げ足を取った。 「黙れ!!」 ビリビリと窓ガラスが震えるほどの怒鳴り声。 誰も驚いたり身を竦めたりはしなかったが、支部の男とシェルクは嫌悪感も露わに眉を顰めた。 婦人も負けじと鋭く睨み返す。 紳士は怒りのあまり立ち上がり、ローテーブルを回り込んで鼻息も荒くプライアデスの目の前に立った。 そのまま見下ろすよう、威圧的に口を開く。 今にも胸倉をつかみそうだ。 思わずシェルクと反対隣のジュノン支部の男が腰を浮かせようとするが、プライアデスはそっと手を上げて制する。 どこまでも落ち着き払ったその態度は、紳士の怒りに油を注いだ。 「それが、実の叔父に対する態度か!!!」 紳士の言葉に、プライアデスの両脇に座っていた二人が驚愕する。 今の今まで、プライアデスは一言も言わなかった。 それらしい態度もとらなかった。 そして、それはこの夫婦にしてもそうだ。 実の甥に対する態度とはかけ離れた『侮蔑』のこもった眼差し。 ノックをして部屋に入った途端、プライアデスの顔から表情が消え、代わりに何ものをも拒絶するような冷たい仮面を被った理由が漸く分かった。 恐らく…『ノーブル家』ではないだろう。 グリートとラナの両親がこんな尊大な態度をとる人間とは到底思えない。 シェルクは薄茶色の髪を持ち、グレーの温かな眼差しの兄妹を思い出した。 「今は叔父、甥の関係で話をしていません。WROの中尉として話をしています」 「っ!…プライアデス…!!」 「叔父上と叔母上が考えているよりもこの星は非常に危険な状態にあります。申し訳ありませんがこれ以上、お話しを聞くことは出来ません。お引取り下さい」 取り付く島もない…とはこのことだろう。 淡々と語るプライアデスからは、一切の感情が消えていた。 ジュノン支部の男ばかりでなくシェルクもハラハラとそのやり取りを見守るほかなかった。 紳士が怒りに任せてプライアデスの胸倉を掴んだ時もそうだった。 力任せに胸倉を掴んで椅子から立たせると、顔を近づけて睨みつける。 「いい気になるなよ、この『魔物の子』が!!」 ガタンッ!!! シェルクが柳眉を逆立てて立ち上がる。 それに呼応するように、婦人も居丈高な雰囲気を撒き散らしながら立ち上がった。 夫の応戦をするかのように口を開く。 「いくら『バルト家』の血を引いているとは言え、家族の中でただ一人髪の色が違うじゃない。おまけに紫の目をしてるだなんて。そんな人間がプライアデス以外、この世にいるとでも?」 嘲った口調にジュノン支部の男も怒りを感じた。 思わずプライアデスの胸倉を掴んでいる手を引き剥がそうとする。 が、それもあっさりとプライアデスが片手を上げて制する。 支部の男とシェルクの二人は、言いたいように言われ、されるがままのプライアデスに歯痒くてたまらない。 唇をグッと引き結んでありったけの悪口雑言が口から出ないように必死に抑える。 「本当に…どうして由緒ある『バルト家』にこんな『魔物の子』が生まれたのかしら。きっと…」 婦人は唇の両端を吊り上げ、蔑んだ口調で毒を吐き続ける。 いや、続けようとした。 「きっと……なんです?」 ゾクッ!! その場の全員の背筋を悪寒が走りぬけた。 凄まじいまでの殺気。 素人でも感じずにはいられないその圧倒的なオーラ。 胸倉を掴んだまま、紳士は硬直した。 手を離したいのに身体の自由が利かない。 至近距離で怒気に揺らめく紫紺の瞳が……心の底から恐ろしい。 恥や外聞、これまで甥に感じていた侮蔑の念が霧散する。 思わず唾を飲み込む。 途端に口の中がカラカラに干上がって喉が張り付くほどの緊張感に襲われた。 「叔母上。それ以上は口になさらないで下さいね」 ゆっくりと紡がれる言葉に身体が震える。 無表情はそのままなのに、怪しく光る双眸が…恐ろしい。 婦人と紳士は初めてまともに甥を見た気がした。 いつも両親に庇われ、兄に気を使わせていることを知っているが故に小さくなっていた少年。 なんの力もなく、容姿は綺麗なのに瞳の色で全てが侮蔑されるべき存在になってしまった『忌まわしい子』。 自分達の血縁である事が疎まれてならないその『醜い汚点』である少年が、いつのまにこんなに巨大なモノになったのか…。 バカにして当然の存在。 軽蔑して当たり前の少年。 自分達の親類縁者とは許しがたい存在。 だからこそ、彼が実家を出てWROに入隊したと聞いた時は祝杯をあげた。 これで、公の宴に…しかもかなり大きな催し物以外でこの甥を目にする事はない。 穢れたものを見るのは…耐えられなかった。 何度彼の両親に『捨てろ』と進言したことか! 『バルト家』の名を地に落とすような汚点は漱ぐ(すすぐ)べきだと。 だが、全く聞く耳を持たなかった。 その為に、自分達までそのとばっちりを受けて、社交界に属する人間達から奇異な目で見られたことが何度あるか数え切れない。 煮え湯を飲まされた経験は……傷は……到底消えるものではない。 それもこれも全て…目の前の青年の存在のせい。 ― 魔物と交わった女 ― サライ・バルト。 プライアデス・バルトの母親をそう呼んで嘲る輩。 紳士は実の姉をそう呼ばれる度、言い様のない憤りと恥を覚えた。 姉を愛している。 だがれ以上に自分と自分の家族、そして『家名』を愛していた彼にとって、その嘲笑は耐えがたかった。 何としても、プライアデスを消し去りたかった。 だからこその…祝宴。 上手くいけば、危険な任務に就いて帰らぬ存在になるやも知れない。 それは願ったり叶ったり。 だが…。 目の前の青年は、自分達夫婦が知っている少年ではなかった。 WROに入隊してから一気に成長した一人の男。 見た目はやわなまま。 それなのに、このあふれ出す殺気は……! 「さぁ、もう用はありませんよね」 有無を言わさない迫力。 そして、男性にしては少々細身であるその腕からは信じられない力で手首を握られ、彼の襟元から外される。 紳士は、自分を氷のような目で射る甥に、口をパクパクさせるだけで一言の嫌味すら言えなかった。 ジュノン支部の男とシェルクはあまりの迫力に一切の口出し、手出しをする事も出来ず、事の成り行きを見守っていた。 そうして。 大財閥の夫婦は、ジュノン支部内に待機させていた自家用飛空挺まで実の甥とシェルク、ジュノン支部の男に送られた。 その間、終始無言。 支部とは言え、立派な建物であるWROの広い廊下を、幾人もの隊員達が怪訝そうに…あるいは興味津々に見つめる。 尊大な態度を取り続けていた、いけ好かない金持ち夫婦。 その夫婦の態度が全く違うのだから、好奇心は煽られる。 青ざめて俯き加減な姿は、むしろ哀れみを誘うものだった。 夫婦のうち、より衝撃を受けているのは夫の方。 妻の方は、それでもまだ、甥に対する憤りを感じているらしく、俯いてはいたが目がギラギラと光っている。 やがて、飛空挺に到着した夫婦は、そこで待機させていたSP達に驚きの表情で出迎えられた。 半分は意気消沈している自分達へ…。 そしてもう半分の驚きは自分達を送り届けた甥へと向けられている。 夫はSP達に大人しく守られて飛空挺に乗り込もうとしたが、妻は…。 そのSP達の表情に耐えられなかった。 雇用主である自分がこんな目に合うことが…許せなかった。 何故、こんな恥をかかなくてはならないのか!? それもこれも…全て…。 夫の姉が魔物の子を産んだせい。 キッと顔を上げ、怒りに任せて驚くSPを振り払う。 そして、能面のように無表情で見つめている甥に向かって口唇を開いた。 「お前なんか生まれてこなければ良かったのよ!お前のせいで、我が家がどれだけの恥に晒されたことか!!」 「おい……よせ……」 弱々しく夫が止めに入る。 しかし、それすら振り払って一歩踏み出した。 SP達は自分達の雇用主の乱心振りに目を丸くして突っ立っている。 シェルクの形の良い眉が再び急角度に上がり、思わず腰の武器に手が伸びそうになる。 そっとプライアデスがシェルクの前に腕を伸ばしてそれを止める。 言葉は……ない。 真っ直ぐに自分の叔母を見つめ続ける。 婦人は一言口にしたら止まらなくなったらしい。 興奮は最高潮に達し、真っ赤な顔と逆立った柳眉、ぎらつく瞳は凶人そのものだ。 「WROの隊員になったと偉そうに言っても所詮人一人捜せない甲斐性なしめ!!なんの役にも立たないこの役立たず!!今すぐ消えてしまえ!!!」 甲高い女の声が響き渡る。 遠くで隊の飛空挺をチェックしていた技師が数名、ギョッとして振り返った。 プライアデスの制止を振り切って思わずシェルクが怒りに駆られて二歩ほど詰め寄る。 そして。 何かに弾かれたように目を見開き、勢い良くプライアデスがこちらを驚いて見ている技師達へ振り向いた。 それまで纏っていた硬質な空気。 他者を寄せ付けない透明な壁。 それらが一瞬にして掻き消える。 シェルクや周りの人間が驚いてプライアデスを見る。 やけにスローモーションに見える。 プライアデスが唖然とする周りの人間を見向きもしないで、技師達に向かって駆け出した。 ビクッと技師達が身を竦める。 自分達が興味津々に見ていたことに対する怒りかと勘違いしたのだ。 だが…。 「伏せろ!!!!」 腰のホルスターからハンドガンを抜き、駆け出したまま構える。 技師達が恐怖に駆られて一瞬立ち尽くしたが、慌てて伏せる。 と、その直後に…。 グルルルル…。 獣の臭い。 威嚇する唸り声。 そして、自分達に向けて何かが急接近する気配。 新たな恐怖に身体が強張る。 間髪射れずにプライアデスが発砲した。 ギシャーーーーーッ!!! 耳障りで怖気のたつ獣の断末魔。 そして…。 ザアァッ。 何かが崩れる音と、自分達に一瞬降り注いだ黒い霧と……ヘドロのような腐敗臭。 思わず振り返り、技師達は目を見開いた。 チェックしていた飛空挺の上から黒く巨大な体躯を持つ獣が、狂気に彩られた赤い瞳をぎらつかせて見下ろしている。 殺気に満ちたその瞳。 身体のあらゆる機能が停止する。 恐怖にがんじがらめになって逃げることすら出来ない。 蛇に睨まれた蛙。 その諺が良く似合う状況。 硬直した蛙である技師達に、圧倒的な力と殺気を放つ蛇であるシャドウ達は、躊躇う事無くその牙を向けた。 恐怖のあまり目を閉じることも出来ない。 ギラギラと光る牙がやけにゆっくりと眼前に迫るのを、技師達は目を最大限に見開いて凝視するしかなかった。 ドンドンドンドンッ!!!! 銃声は四発。 断末魔の叫びを上げて霧となって消えたシャドウは二頭。 負傷して宙で弾き飛ばされ、整備が終えたばかりの飛空挺に激しく叩きつけられる。 「早く下がって!!」 疾風のように自分達の前に駆けつけ、銃を片手で構えつつ腰のソードタイプの武器、クレイモアを抜き放つ。 重々しいその武器を片手で構える青年に、技師達はあんぐりと口を開けた。 プライアデスが彼らの前で実践をするのは初めてのこと。 そしてそれは、彼の叔父と叔母にとっても同様だった。 自分達から数十メートルは軽く離れている技師達の所へ駆けつけながら、抜群の射撃の腕を披露し、今は恐れることなくバケモノと対峙している。 堂々たるその背に、婦人はただただ呆気に取られ、紳士は……。 遠い日を思い出していた。 まだ…小さかった頃。 姉が自分を苛める人間から身を挺して庇ってくれた……彼女の背中を。 こんなにも甥は姉に似ていた。 全く今の今まで気づかなかった。 本当に芯の強い……敬愛する姉。 その姉が、頑として手放さず、社交界などからの誹謗中傷を跳ね除け、プライアデスを愛し、育んだ姿が突然走馬灯のように脳裏を駆け巡った。 胸にグッと込上げるものは、果たして後悔か…それとも………歓喜か。 ガアァァァアアア!!!!! 手負いの二頭がプライアデスを標的に襲い掛かる。 その時には、俊敏なシェルクが既に傍らで構えていた。 WROの隊員達が慌てて支部の建物から飛んで出てくる。 それぞれが手に銃を持って構えていはいるが、何の前触れも無い突然のシャドウの襲撃に誰もが動揺、混乱していた。 ジュノン支部の代表としてプライアデスとシェルクを出迎え、ずっと一緒に行動していた男も同様だった。 部下に何やら指示を出してはいるが、それが的確かどうかは…プライアデスとシェルクには分からない。 とりあえず、プライアデスの叔父と叔母をガードするように……というような命令を下している様だが、自分自身は銃を片手に持ったまま、オロオロと参戦するべきかどうか迷っているようだ。 恐らく、シャドウの動きに圧倒され、自分では太刀打ち出来ない、と判断したのだろう。 下手に参戦されると余計な被害を出しかねない。 だが、だからと言って何もしないわけにはいかない。 そういうところだろう……と、シェルクは視界の端に映るその男を認めながら考えた。 だが、のんびりと考え込んでいる場合ではない。 ゆっくりと両腰に手を回し、スピアを掴もうとする。 「シェルクさんはこれを使って下さい」 「え…?」 シャドウから目を離さずにプライアデスが持っていた予備の銃を手渡す。 シェルクは躊躇いながらそれを受け取った。 正直、銃は使い慣れていない。 何度か試しにヴィンセントに教えてもらったことはあるが、それでもどうにも自分に合わないから…と、すぐに訓練をやめてしまった。 「その銃の弾は現在WROの隊員全員が使用しているもので、大佐が少しずつではありますが『気』を込めてます。恐らく、シャドウには普通の武器は通用しない」 その一言で、シェルクはサッと顔を強張らせると、意を決して頷いた。 ぎこちなくそれを手に取り、眼前で牙を向くバケモノに照準を合わせる。 その時。 グルルルルル…。 新たな呻き声が不気味に聞えてきた。 ギョッとして思わず振り返りそうになるシェルクに、 「シェルクさんはあの二頭に止めを。僕は新手を引き受けます」 言うが早いか、プライアデスはサッと身を翻した。 咄嗟に視線を彼に流しそうになり、本能的にシェルクは引き金を引いた。 いつの間にか目の前に迫っていたシャドウにHITする。 耳障りな断末魔と共に鼻を刺激する腐敗臭。 それに気を取られる暇も無く、地面に身体を投げ出して一回転する。 半瞬前まで立っていたところに、シャドウが鋭い爪をたてて地面を抉っていた。 完全に起き上がる前に再び引き金を引く。 今度は掠ったのみで致命傷は与えられなかった。 舌打ちする暇も無く、シェルクは得意の俊敏さを活かして跳ね起き、一気に間合いを取る。 シャドウの動きは想像を超えて早かった。 一瞬前にいた地面に、今度は牙を突き立てている。 ゾクッ。 背筋が震える。 ギラついた狂気に彩られた瞳。 その瞳にディープ・グラウンドで過ごした悪夢の日々が重なる。 あの頃は周りの人間は皆、いかにして生き残るかに必死だった。 そして繰り返される拷問のような実験。 グッと唇を噛み締める。 震えそうになる手をギュッと握りなおし、シェルクは深呼吸をした。 『大丈夫……大丈夫……。私はもう、あの世界には戻らない……戻らなくて良い。それに…』 ― 目の前のこのバケモノは…、ティファとアイリさんの仇 ― 「絶対に負けられない」 何度も何度も自分に言い聞かせる。 そして。 シャドウが身を低くし、襲い掛かる態勢を取る。 シェルクが目を細め、意識を集中させる。 カッ!! 魔物の目が見開かれて一気に飛び掛ってくる。 信じられないスピード。 それを…。 身を低くすることをしないで真横に避けつつシェルクは至近距離で発砲した。 耳をつんざく魔物の最期の叫び。 シェルクの目の前で巨大な黒い体躯は霧となり、腐敗臭を残して……消えた。 肩で荒く息を繰り返す。 心臓がバクバクと激しく打ち付ける。 汗が思い出したようにドッと噴き出て額から頬にかけて流れる。 シェルクは荒い息使いを繰り返しながらゆっくりと視界をめぐらせた。 驚いている顔。 喜んでいる顔。 ただただ、呆然としている顔。 そして…。 クルッ…スタンッ! トンッ…タタッ!! 雅とすら言える軽やかな身のこなしは宙を舞うかの如く、シャドウを翻弄する……プライアデス・バルトの戦う姿。 彼が武器を振るうたび、シャドウが苦痛の呻きを上げながら地面を転がる。 あるいは、腐敗臭を残して霧となって消えていった。 鋭い斬戟は容赦がない。 一体何頭いたのだろう? もうそれすら分からない。 分かるのは…。 確実にリーダー格のシャドウのみ。 つまり残り一頭のみにまで減ったという事。 ドス赤黒いギラついた瞳のバケモノと。 怜悧な紫紺の瞳が交錯する。 |