ここ…どこだろう…

 なんか…すごく…寒い

 それに…なに…あれ…?

 あっちにも…こっちにも…なんか…蛍火みたい…


 ― ダメだ! ―

 …え…?

 ― 触るな! ―

 ………誰?


 ― 触るな!!! ―


 あ …… なに … これ ……


 ― 「    」!!! ―



Fairy tail of The World 44




「……今すぐ…クラウドさんに連絡を……」

 力なくそう言ったシュリに、皆、戸惑いの表情を浮かべた。
 どの顔も、シュリの力ない姿と何よりも、彼自身が『携帯等は通じない』と言って、電波を利用した連絡手段をとることをやめるように勧めたのに…という疑問で一杯だった。

 皆の心の声が聞えたのだろう。

「もう…通信に関して闇の妨害はないでしょう…」

 消え入るような…儚げなその声音。
 一同は、『電波でのやり取りに際して』の妨害がなくなったという一つ喜ぶべきことに全く喜べない心境に陥る。

「その…もう普通に通信が出来る…ってことか?」

 おずおず訊ねるシドに、シュリは小さく頷いた。

「実は、皆さんに通信機器でのやり取りを控えるように言う前に、局長にメールでティファさんの件やヴィンセントさん達に先にエッジへ戻ってもらっている等の報告をしたんです。その時…」
 言葉を切って、深い溜め息を吐く。
「闇の触手が伸びるのが見えたので、通信機器をやめてもらうようにしたんです。きっと、曲解して伝わってしまうと思ったので…」
 まぁ…その通りでしたが…。

 最後の言葉は小さく呟かれ、皆の耳には微かにしか届かなかった。
 誰も声をかけられない。

「でも…どうやら通信機器に関してはもう闇の影響を受けることはないみたいですね」
「……何故そう思う…?」

 ゴクリ。
 唾を飲み込みながらデナリが訊ねる。
 シュリは緩慢な動作で上司を見上げた。

「局長からのこのメールが『本物』だからです」

 一体どこをどう見て『本物』だとか『偽者』だと判断したのか分かる者はいない。
 だが、恐らくシュリには自分達の見えないものが見えるのだから、そこの部分で判断したのだろう。
 英雄達はそう思うしかなかった…。


 黙りこくった面々の前で、シュリは再び俯いた。
 傷が痛むのか、その表情も顔色も冴えない。
 無論…それだけでないことくらいもうイヤと言うほど分かってる。

 ザックスとエアリスが言っていたではないか。
 もうシュリは限界なのだと。
 無理をしすぎた結果が、如実に現れているのだ。
 もしかしたらもう……今更シュリの負担を軽く出来たとしても、どうにもならないのかもしれない。
 そんな恐怖がひたひたと心の中に忍び寄る。

 それに加えて新たな恐怖。

 通信に関して妨害が無くなった…ということは、闇にとって『妨害する必要が無くなった』という事を示唆する。
 妨害の必要がなくなったということは……。

「ティファ…」

 ユフィが声まで青ざめて大切な仲間の名を呟いた。






「このお店、私のお気に入りなんです」

 そう言って、薄茶色の巻き毛を揺らし、ニッコリと微笑む女性をティファは戸惑いながら見た。
 突然やって来たこの女性は、床にへたり込んで泣いていた自分を見るなり仰天し、必死になって慰めた。
 オロオロしながらも一生懸命優しい言葉をかけ、肩を抱き、背を撫でてくれる女性に、かつての親友を重ね、ティファの涙は止まらなかった。
 初めて会ったその女性の腕に包まれて散々泣いた後…。

「ティファさん!こう言う時は気分転換をしなくっちゃ!」

 そう言って、泣きすぎて酸欠状態になり、頭がボーっとしているティファをやや強引に連れ出したのだ。
 ティファはグルリと店内を見渡した。
 セブンスヘブンとは違って程よく落とされた照明は、どこか大人で物静かな雰囲気を醸し出している。
 洒落たバーは、最近エッジに出来たとかで人気店だそうだ。

「勿論、セブンスヘブンの方が人気はありますけど」

 そうおどけるように言って、片目を瞑って見せた女性に、ティファは釣られて微笑んだ。
 まるで、本物のエアリスのようだ…。
 明るくて、優しくて…。
 どこまでも温かい。
 そう感じると同時に胸がどうしようもなく痛くなる。

 だから…だろうか…?
 この目の前で自分の為に一生懸命明るく、気持ちが高揚するように振舞ってくれるこの女性が、あの旅の途中、目の前で失ってしまった親友に似ているから……クラウドは……。

 金髪・碧眼の愛しい人の顔が脳裏をよぎる。
 また……ティファの心が軋んだ。


「ティファさん。改めて初めまして!私、サロメって言います」
「あ……初めまして。さっきは…その…」
「あ、良いの、良いの!ティファさんは優しいからきっと沢山色んなものを抱え込んで疲れちゃったんでしょう?」
「え……?」

 改めて自己紹介する女性に、ティファは頭を下げて先ほどの醜態を謝罪しようとしたが、彼女の思いもかけない一言に身体が強張った。
 一体…自分の抱えている性分を誰から聞いたのだろうか……?

「あ、クラウドさんがそう言ってたの。『ティファはすぐに何でも抱え込んでしまうから…』って」


 ズクリ…。


 胸が抉られる。
 思わず顔を顰めそうになって、ティファは席に座り直す振りをして俯いた。


「でも、良いよなぁ。あんなに素敵な彼氏がいて!私もあんな素敵な人に巡り会いた〜い」
 ティファの心中を察してかどうか…。
 どこまでもサロメはおどけた口調を崩さなかった。
 しかし、その深緑の瞳は完全には笑っていない。
 どこかティファの様子を探るような…そんな目をしている。
 きっと…ティファを気遣って、細心の注意を払っているのだ。
 自分の言動で更に傷つくことが無いように…。

 ティファはチラリ…と視界に映る彼女のその目に、後ろめたい気持ちになった。

 自分は…サロメにエアリスを重ね見て…そして嫉妬している。
 どうしようもないほど……嫉妬している。
 だが、それは目の前の彼女には関係の無いことだ。
 エアリスに似ているからといって、ティファに嫉妬されるなど彼女にとっては不本意極まりないだろう。
 いや…しかし。

 常連客達も言っていたではないか…?
 クラウドが自分以外の女性と中睦まじく一緒にいた…と。
 それに何より自分も見たはずだ。
 クラウドと目の前の女性が……公園で……。

 その時の光景がふいに脳裏に鮮明に蘇えり、ティファは再び涙が溢れてくるのを止められなかった。
 サロメは丁度、マスターに注文をしている所だったのでそれには気付かない。
 あるいは、気付かない振りをしたのだろうか…?

「ティファさん。ここのオススメはなんと言ってもワインとチーズ料理なんです!今度、お店でも作ってみたら?きっとティファさんなら食べただけで同じ様な料理を作れると思うわ!」

 サロメが明るく笑いかけながら顔を戻した時には、ティファは込上げてきていた涙を強引にハンカチで拭い去った後だった。
 ティファはごまかすように「そんなことないですよ」と笑いながら答えたが、上手く笑えた自信はこれっぽっちも無かった。
 それでもサロメは怪訝そうな顔をするでもなく、にこやかに「またまた〜、謙遜しちゃって!」と、親しい友人のように気さくに接したのだった。

 そんな彼女の笑顔は…いささかの悪意も感じられない。
 ただただ純粋にティファを心配し、励ましてくれている。
 そうとしか……思えなかった。

 ティファは心の中で自嘲した。

 自分はなんと醜いのだろう…!
 初対面の人間をここまで心配して親身になってくれる女性に対して嫉妬するとは。
 それに比べ、彼女の心の優しいこと。
 比べるべくもない。
 彼女と自分を比べるなどおこがましい以外の何ものでもない。
 ティファは……己を心底侮蔑せずにはいられなかった。

 料理が来るまでの短い時間は、サロメが一人で話をしていた。
 自分が行き倒れていたこと。
 記憶が全く無いこと。
 ジュエリーショップの中年の夫婦が世話をしてくれていること。
 その夫婦に心から感謝していること。
 そして、いつの日か自分の記憶が元に戻ったとしても、その夫婦の事は一生忘れず、生涯かけて恩返しをしたいと思っていること。
 記憶喪失の人間が記憶が戻った時、なくしている間の記憶を失ってしまう…と言う話を医師から聞かされているので尚更その思いが強いこと。
 出来れば……このまま記憶が戻らないでいて欲しい…とすら思っていること。
 何故なら、大恩ある夫婦の事を忘れたくないと言う事もあるが、自分が行方不明になっても誰も探しに来てくれないのだから、きっと、自分は記憶がある頃にはそんなに大して良い人生ではなかったのだろう…と思ってしまうこと。

 そう言ったことを、実に明るく冗談を交えて話して聞かせた。

 ティファは……彼女への嫉妬心が薄れるのを感じずにはいられなかった。
 己の不遇をどこまでも前向きに受け止め、未来を見据えている。
 それに比べて…なんと自分は小さい人間だろう。
 自分よりも……この明るくて……亡き親友が蘇えったかのような女性の方が、クラウドも心労が少なくて済む。
 それに、彼女ならきっと、クラウドが未だに抱えている自分への悔恨の念を払拭してくれる。
 クラウドの隣を歩き、クラウドを時には支え、時には優しく包み込めるだろう。


『私には……出来ないことが…この女性(ひと)なら……』


 暫くしてサロメのオススメが運ばれてきた為、話を一時中断し、二人は乾杯した。

「やっとクラウドさんの恋人に会うことが出来たことを祝して〜!」

 どこまでも自分に気を使い、明るくおどけて見せる彼女に、ティファの心がまた軋んだ。





「……シュリ…」
「お久しぶり…というのも変ですね、局長」

 シエラ号のスクリーンに映し出されたWROの局長であるリーブは、部下の顔を見て驚愕の表情を浮かべた。
 報告を聞いていた以上にシュリの右顔面が酷いことと、何よりこれまで見たこともない程憔悴している彼に、慄然とする。
 急速に口の中が干上がる。
 動揺しているのを気取られないよう、リーブは表情を正した。

「シュリ。キミからの報告ですが…」
「局長。シエラ号は今、エッジに向けて航行中です」

 遮るように口を開いた部下に、リーブは次の言葉を失った。
 間抜けに口を半開きにさせたまま、呆けたようにスクリーンを見つめる。
 シュリの周りにいる仲間達は一様にコックリと頷いたり、静かにスクリーンの中の自分を見つめていた。

「本当…ですか…?」
「はい」
「え……でも……」

 混乱、困惑。
 眉間にシワを寄せ、眉尻を下げる。
 困ったように隣に座っているシャルア博士を見ると、彼女は思案気な瞳でシュリをジッと見つめていた。

「局長。現在、ノーブル軍曹、ノーブル中尉、ヴィンセントさんとバレットさんの四名はエッジに向けて先行しています。予定ではあと四時間弱で到着するはずです」
 シャルアとリーブが揃って目を見開く。
 なにか言いたげな二人を制するように、話を進めた。

「四名が到着したら、すぐに合流してティファさんの保護をお願いします。くれぐれも彼女が『ミコト様』と接触しないようにして下さい。クラウドさんにはユフィさんが現在連絡を取っています。クラウドさんに一足先にティファさんを捕まえてもらえるようにお願いしているのですが……きっと、上手くいかないでしょう」

 その言葉に、リーブとシャルアは益々驚愕したが、驚いたのは二人だけではなかった。
 その場にいたユフィ以外の全員がギョッとしてシュリを見る。
 ユフィは隣室でクラウドの携帯にかけていたためこの場にいなかった。
 シドが「おいおい、どういうこったい!」と詰め寄るのをデナリが宥める。
 ナナキの尾が、ピン…と緊張で突っ張った。
 シュリはそれら全てを無視して話を続ける。

「闇にとって、ティファさんは喉から手が出る程欲しい『器(うつわ)』。それを邪魔するもっとも大きな存在はクラウドさんです。ですから、なにが何でも彼がティファさんに接触するのを邪魔するはずです」

 まるで闇の妨害に太刀打ち出来ない…と、言わんばかりのシュリの言葉に、皆は怒りにも似た反感を覚えた。
 自分達はこれでもジェノバ戦役の英雄と呼ばれるほどの腕と根性を持っている。
 仲間を思いやる気持ちはこの星の人間の誰にも負けやしない。
 それに伴うだけの力も、微力ではあるが持っている……と思う。
 それなのに、シュリは頭から否定している。
 敵わない、と言い切っている。
 なら、自分達がこうして必死になって星を助けようと頑張っているのは無駄という事になりやしないか?
 自分達のこれまでのシークレットミッションというもの自体が……矛盾していないか?


 ― 「シュリを…信じてあげて」 ―
 ― 「なにがあっても…シュリを信じてやってくれ」 ―


 突然、星に還った二人の大切な仲間の言葉が蘇える。
 そう。
 なにがあっても……シュリを信じる。
 それは当たり前だ!
 そう、その時は思ったのに。
 たった数十分前の事なのに、もう気持ちがぐらついていた…。

 その事実は、英雄達にとって大きな衝撃となって深く心に突き刺さった。

 人の心は……こんなにも脆い。
 ほんの少し揺さぶられただけで疑ってしまう。


 情けない気持ちに陥るメンバーに気付かないまま、シュリは説明を続けていた。

「ティファさんは非常に心が弱っています。闇が付け入る隙はあり過ぎるほどでしょう。そして、それはクラウドさんにも言えることです。ティファさんが悩んでいることを知っている今、非常に不安定で逆に闇に取り込まれかねない危険があります」

 スクリーンの中でリーブとシャルアがギョッと身を仰け反らせた。
 仲間達は落ち込んでいた気持ちが吹っ飛ぶほどの衝撃を受けた。
 これ以上、事態が闇に転がるようなことになるとは……、しかも、シークレットミッションに参加していない仲間に向かって…!
 正直、『闇の攻撃』と言われても未だにピンと来ない。

 心の隙間に忍び寄る闇。

 陳腐にすら聞えるその言葉が、まさにその通り、言葉のままの意味だとここに至ってようやく…ほんのりとだけ理解が出来てきた。
 だが、だからと言ってどうしたら良いというのだろう?
 クラウドもティファも、今は遠く離れた所にいる。
 自分達が到着するのは早くても今から十時間後。
 先行している仲間が到着するのは四時間後。
 その四時間、十時間の間にティファやクラウドに何か起こっても不思議ではないではないか!

 その時、ナナキが尾を耳をピンと立て、顔を輝かせた。
「なら、シェルクに先に動いてもらったら?」

 その名案に一同は顔を輝かせる。
 賛同の声を上げようと皆が顔を輝かせて口を開いた。
 が…しかし。

「実は……その……いないんです」

 言いにくそうに告げたリーブに、皆の視線が集中する。
 呆然と…あるいは理解が出来ていない…そんな眼差し。
 リーブの隣にいるシャルアが沈痛な面持ちで俯いている。
 シュリは……初めから知っていたかのように一人、無表情を保っていた。

「その…実は……」
「局長」

 再びシュリが言葉を遮る。
 仲間達は訝しげにシュリを見た。
 話の腰を折られた形のリーブは、虚を突かれた形になり、「は、…えっと…はい?」としどろもどろに応える。


「旧ミッドガル五番街の教会の泉。あそこにバルト中尉を運んで彼をその泉の中へ…。もしかしたら…助かるかもしれません」


 淡々と語るその口調は、「今日は寒いですね」とか「明日は晴れると良いですね」と言った、軽い世間話をしているかのようだ。
 だが…。

「な…にを言ってる…?」
 スクリーンの中で、シャルア博士が絶句する。
 隻眼の瞳を最大限に見開き、驚愕の表情で。
 リーブもまた同様だ。
 部下の言葉の意味が分からない。
 いや、今までも分からない事だらけだったが、今回のその言葉は今まで以上にわけが分からない。
 まるで…。

「バルト中尉に……なにかあったんですか……?」

 震える声しか出ない自分がどこか滑稽に感じる。
 頭のどこかで冷めた自分がそう評価する中、シュリは、
「あぁ……まだ局長には連絡がいってないのですね…」
 そう呟いて軽く目を伏せた。

 リーブとシャルアは蒼白。
 シークレットミッションのメンバーは怪訝な顔。
 だが、その表情も徐々に変化していった。
 シュリの言わんとする内容が徐々に脳に浸透して……絶句する。
 足元から床が消えて、身体が真っ逆さまに落ちるような…そんな感覚に襲われ、誰もが背筋に冷たいものを走らせた。


「それって…まさか……」

 シドが固まっているメンバーの代表のように声をかけたとき、スクリーンの向こうから着信音が響いた。

「失礼…」

 そう一言詫びて、リーブが携帯に出た。
 と、同時に隣室にいたユフィが息せき切って飛んでくる。

「皆、クラウドが『ティファがいない!』って言うんだよぉ!!」
「「「 !! 」」」

 泣き出しそうな仲間の報告。
 そして、

「え!?」

 スクリーンから響くリーブの驚いた声。
 皆の視線が反射的にスクリーンに戻る。
 リーブが唇をわななかせてこちらを……シュリを見ていた。

 シュリは真っ直ぐに顔を上げ、スクリーンの中の上司を見つめる。


「すぐに…飛空挺をジュノンに向かわせて下さい」


 そう言って頭を下げる。
 何か言おうとする上司の言葉を待たずにシュリは通信を切った。


 真っ黒になった画面を前に、メンバーは身動きを封じられたようにただただ黙って突っ立っている。
 頭が…現状に全く着いていけない。

 プライアデスがどうやら非常にまずい状態にあること。
 そして、リーブの一言からシェルクがプライアデスと一緒にジュノンにいるらしいこと。
 そして更にはクラウドはティファを結局見つけることが出来なかったこと。

 ティファの身に危険が迫っていること、それも非常に切迫して。

 それらが頭の中を猛スピードで駆け巡る。
 どの問題にも突破口がないように思えてしまう。
 絶望にも似た虚脱感。
 ナナキはピクピクと耳を震わせ、シドは火をつけていないタバコをそのままに呆然とし、ユフィはオロオロとメンバーを見渡して……。
 デナリは渋面でジッと床を見つめていた。


「まだ……希望はありますよ」


 ポツリと呟くようなシュリの声。
 驚いたメンバーが顔を上げる。
 シュリは……かつてない程、穏やかな顔をしていた。

「まだ…希望は残っています」

 もう一度繰り返す。
 右半分の顔は紫色にただれて痛々しいのに、どこか……神々しくすら感じられる青年に、メンバーは息を飲んだ。
 先ほどまで、苦悩と耐えがたい苦痛に顔を歪めていた青年と同一人物とは思えない。

 安心感を感じる…よりも……。

 皆の心に別の不安が生まれた。


「さぁ…今のうちに休んでおきましょう。きっと、エッジに着いたら大変になりますからね」


 そう言い残してその場を去る青年の背中がとても儚くて。


「シュリ!」


 思わず声をかけて呼び止めたユフィに、青年はゆっくりと振り返ると、

「ユフィさん、申し訳ないんですけどクラウドさんにもう一度連絡してください。ヴィンセントさん達が先にエッジに向かっていることと、エッジの市場の路地裏に通じる道を警戒するように……。恐らく、ティファさんは『ミコト様』に会おうとするでしょう。それを阻止出来れば……大丈夫です…」

 そう言って、微かに微笑んだ。


 そうして、今度こそ自室に引き上げてしまった青年に、メンバーは言いようのない不安を抱えたのだった。





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