Fairy tail of The World 8




 ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。


 無機質な電気音が耳に付くその部屋で…。

 蒼白な顔で横たわる愛しい人の姿に、クラウドは言葉も無く突っ立っていた……。



 子供達が泣きじゃくりながら、ティファに必死に呼びかけている。
 シェルクが、悔しそうに唇をかみ締め、ギュッとティファの手を握っている。
 そんな光景をぼんやりとした表情で眺めるクラウドに、仲間達はかけるべき言葉を必死に探していた。
 しかし、誰もが顔を見合わせるだけで言葉をかけることも出来ず、ただただ拳を握り締め、目の前の光景に涙をこぼさないよう歯を食いしばっている。
 せわしなく部屋を出入りしていた医師と看護師の姿も……今は無い。

 目の前の光景がひどく非現実的で…。
 クラウドはぼんやりと焦点の合わない虚ろな瞳を彷徨わせていた。


 WROの基地内にある最先端医療の整ったこの病院の病室に、真っ先に駆けつけたユフィはそんなクラウドに初めこそ叱り飛ばした。
 しかし、何を言っても……何をしても一向に視線の合わない抜け殻のようなクラウドに、すぐにそれらの行為をやめた。
 クラウドにとって、ティファを失うかもしれないと言う事がどれ程の恐怖なのか、ユフィには分かっていたからだ。
 そして、クラウドと同じ位……子供達も……自分も……ティファを失う事を恐れている。



『ユフィ!今すぐエッジに来て下さい!!』



 そうリーブから緊急の連絡を受けたのは、たったの一日半前。
 リーブから連絡を受けた時、ユフィはウータイにいた。
 すぐにエッジに着ける距離ではない。
 しかし、リーブは既にシドに連絡しており、ウータイにシエラ号をかっ飛ばして来たのだ。
 たった一日半でロケット村からウータイへ、そして順次他の仲間達を収容してエッジに到着出来たのは、シエラ号を酷使した事と、シドとクルー達の腕の良さ、更には天候までもが味方をしてくれたからに他ならない。
 それなのに…。

「ティファ……」

 泣き声でベッドに横たわる大切な仲間にそっと近付く。
 微かに胸が上下しているが、顔色は……全く生気がない。


 コン、コン、コン…。

 病室のドアがそっとノックされ、静かに開かれた。
 現れたのは、ティファをWRO基地内にある病院へ運んでくれた人物。

 シドとバレットとナナキ、それにヴィンセントは現れた漆黒でクセのある髪を持つ若い隊員に目を向けた。
 そして、ぼんやりと突っ立っているクラウドへチラリと視線を投げ、そっと首を振る。
 隊員は少し目を伏せてそれに応えると、そっとティファが眠るベッドへ歩み寄った。
 ナナキがそっとその場を譲る。

「ティファさん…」

 ティファの頬を片手でそっと触れ、祈るように暫く目を閉じた。



 ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……。



 重苦しく、激しい悲しみを伴う死の香りが漂う病室で、青年は祈り終えたのかそっと瞳を開けた…。

「シュリお兄ちゃん……」
「シュリ兄ちゃん……」
 涙で濡れた瞳で自分を見上げてくる子供達を、青年…シュリはそっと抱きしめた。
「ごめん…。もっと早く見つけられていたら良かったんだけど……」
「いいえ…。私が一緒に行けば良かったんです…。そうしたら……ここまで酷い事にはならなかった……」
 初めてシェルクが口を開いた。
 その紡がれた言葉で、彼女がいかに自分を責めているかを改めて思い知らされる。
「シェルク……。ティファがこうなってしまったのはお前のせいじゃない」
「分かっています…。でも、私が一緒に行けばここまで酷い事にはならなかった……違いますか……?」
 ヴィンセントの言葉に、シェルクが無表情・無機質な声で応える。
 まるで、初めて出会った頃に戻ってしまったかのようだ…。
 ヴィンセントはそんなシェルクに言葉を無くし、シュリも黙って項垂れる。
 子供達はシュリの胸に顔を押し付け、必死に声を殺してしがみ付いた。
 ベッドから少し離れた場所にいたシドとバレット、それにベッドの傍らにいたユフィとナナキが、その光景に堪らず顔を背ける。

 皆…、胸が痛くて……心が死んでしまいそうだった。
 そして…。
 既に心が死んでしまいそうになっている人間がいる。

 金色の髪はいつもと変わらないのに…。
 魔晄に染め上げられた瞳は変わらないのに…。
 それなのに…。
 いつもと全く違う自分達のリーダーだった青年は、まさに心を失い生きた人形のようだった…。

 本当なら、子供達を抱きしめて慰めるべき人間は、シュリではなくクラウドだろう…。
 しかし、それが出来ない状態の彼を誰が責められると言うのか…?
 自分の半身とも言える女性を今、まさに失おうとしている彼に…。
 一体なんと言えば良い……?


『エアリスを失った時みたい……』


 ユフィは涙を堪えてクラウドを見た。

 三年前の旅の最中で失った大切な仲間。
 その彼女を失った時も、クラウドの心は壊れそうだった。
 しかし、クラウドは頑張った。
 一度は弱い自分に飲み込まれたが、それでも彼は己を取り戻した。
 それを助けたのが………ティファ。

 今、まさに心が壊れようとしているクラウドを、一体誰が支えられると言うのだろう…!?
 子供達か?
 しかし、子供達自身も必死にティファを失う恐怖と戦っているというのに、そんな負担を負わせられるはずがない。
 第一、まだまだ親の庇護の元で育つはずの幼い年齢なのだ。
 そんな子供達にどんな顔をして『クラウドをお願い』だなどと言えるのだろうか…!?
 言えるはずがない…。




 コン、コン、コン…。

 再び病室のドアが遠慮がちにノックされ、そっと開かれる。
 そこには、WRO局長の姿があった。
 子供達を抱きしめていたシュリは、そっと子供達を離すと敬礼をする。
 そんなシュリに、リーブは片手を上げて敬礼を解くよう促し、そっとベッドへ近付いた。
 その途中で、病室の片隅でぼんやりと虚ろな目をしているクラウドに視線を移し、悲しそうな顔をした。
 ほんの少し歩みを止め、クラウドに何か言おうと口を開きかけ……結局やめる。

 俯いてクラウドから視線を逸らし、ふと自分を見上げている小さな子供達の視線とかち合った。
 子供達の痛ましい表情に、リーブの胸が締め付けられる。

 しゃがみ込んで、幼い子供達の頭をクシャリと撫でると、デンゼルとマリンは泣き出しそうな顔になった。
 それでも唇をかみ締めてそれを堪えた子供達に、リーブだけでなく他の面々も胸が張り裂けそうになった。
 ユフィは堪らずしゃがみ込んで両膝の間に顔を埋めて肩を震わせ、ナナキはそんなユフィにピタリと寄り添って尻尾でユフィを包んだ。
 バレットは野太い腕で目を強くこすり、シドはギリリ……と歯を食いしばって己の拳で手の平を叩いた。
 ヴィンセントとシュリは無表情だったが、それでも胸中は悲哀に満ちている。
 誰も彼もが、ティファの死を悲しんでいた。
 そして…。
 ティファの死を告げられたクラウドを、誰もが心配していた。







「リーブ!!ティファが助からないって……どういう事だよ!!」
 WRO基地内の病院に着いたユフィは、出迎えていたリーブに食って掛かった。
 ユフィだけではない。
 シドもバレットも…そしてナナキもヴィンセントも同様だった。
 誰もがティファの状態に納得がいっていない。
 ユフィ達がリーブから知らされた事とは…。

 ・クラウドからティファの様子がおかしいと連絡を受け、すぐにGPSでティファの位置を確認、急行した事。
 ・連絡を受けた三十分後にティファがWRO隊員によって保護された事。
 ・ティファが極めて危険な状態にあり、現在最先端医療技術を総動員して治療に当たっているという事。
 ・そして……ティファが何故危険な状態に陥ったのかという理由…。

「ティファがモンスターの毒くらいで死んじゃうはずないじゃん!」
「そうだ!モンスターの毒なら解毒薬があるだろうがよ!!」
「それに、ティファは毒の攻撃に対して免疫力があるはずだよ。ほら、三年前の旅のお陰で。だからすぐに毒に対して処置が出来なかったからって、簡単にヤバイ状態にはならないよ!」
「そうだ、ナナキの言う通りだぜ!それなのに……あああ、ちくしょう!!もっと分かるように説明しやがれ!!!」

「それを説明するから、少し静かにしな」
 リーブの後ろからやって来た隻眼の女性に、ユフィが「あ!」と声を上げ、ヴィンセントがほんの少し目見開いた。

 隻眼で片手が義手の理知的な女性…。
 WROの科学者であり、シェルクの姉、シャルア。
「ここじゃなんだから…」

 そう言われて連れて来られたのは、小さな個室。
 極々小さな会議やミーティングとして使用されるその部屋は、全く飾り気が無く、机と椅子が四角くセッティングされていた。
 その椅子の一つにシャルアは無言でドッカと座ると、悔しくてならないと言わんばかりにテーブルに肘を付いて頭を抱え込んだ。
 その尋常でない様子に、英雄達は先程までの激情が押し流され、心が急速に冷えるのを感じた。
 リーブに促されて一行はひとまず椅子に腰を下ろす。
 そうして…全員が席に着いたのを見てリーブがシャルアに声をかけた。
 シャルアはいつも見せる意志の強い眼差しを翳らせ、重く口を開いた。
「ティファさんがモンスターの群れに襲撃されたのは知ってる…?」
 シエラ号からやって来た面々が頷いた。
「そう。ならそのモンスター集団が、未だに確認出来た事のない例の『シャドウ』だって事も?」

 その言葉に、全員ギョッとした。


 シャドウ。
 今、この星が何らかの脅威に見舞われていた。
 その最たるものが、いまシャルアが口にした謎のモンスター集団…『シャドウ』。
 いくつも荒野に足跡を残しているにも関わらず、どこから現れたのか不明のモンスター集団だった。
 彼らがどこから来てどこへ去っていくのか……。
『シャドウ』が荒野に現れた後には、いくつもの足跡が残され、そして……死体と死体の所有していたものが散乱しているのだ。
 それにも関わらず、WROは未だにその『謎のモンスター集団』を補足し損ねている。


「お、おい…。まさか……」
「ティファがその『シャドウ』に出くわしたって言うの!?」
 ユフィとバレットが喘ぐように問いかける。
 WROの局長は、心痛な面持ちで頷いた。
「恐らく…。ティファさんはあと少しで崖下に転落してもおかしくない非常に危険な場所で倒れていました。そして、その崖に残された獣の痕と崖下でトラックが炎上していた事から、間違いありません」
「……でもよ…。獣の足跡はそこからどうなってんだ?まさか……崖のギリギリの所までだったんだろう?だったらその痕を追って…」
 怪訝な顔をするシドに、リーブは首を振った。
 そして、大きく息を吸い込んだ。
 どうやら、これから口にする事に対して気力を振り絞ろうとしているらしい。
 そんなリーブに、英雄達は口を閉ざさざるを得なかった。
「崖を飛び降りた形跡がありました……。恐らく、落ちるトラックを追いかけて全部のモンスターが崖下に突っ込んだんです」
「…………冗談だろ……?」
「冗談だったら良かったって本気で思うわ」
 シドが強張りつつも半分笑いながら口にした言葉に、シャルアがバッサリと切り捨てた。
「そのモンスターは正気じゃねぇ…。絶対に……!」
「ええ、私もそう思います。それで、話を元に戻しますが…良いですか…?」
 カッとして叫んだバレットに、リーブが宥めるように声をかけた。
 バレットもハッと我に返り、大人しく椅子に深く腰掛ける。
「それで、ティファさんが保護された時には、もう全身に毒が回ってる状態でね。もう…正直今でも生きてるのが不思議なくらい」
 シャルアの言葉が、冷たく胸に浸透する。

「生きてるのが不思議なくらい……って……?」
 あまりの内容に、ユフィが声を震わせる。
 シャルアは深い溜め息を吐くと、
「そのまんま。ティファさんが『シャドウ』と思われる大群のモンスターに襲われた時、彼女は『シャドウ』から攻撃を喰らってしまった。その牙と爪に猛毒が宿ってたのよ…。しかも……まだ解毒薬のない……新種の猛毒をね」
 苦々しいものを吐き出すかのように告げた真実に、ユフィ達は呆然とした。

「助からないの……?」
 暫くの沈黙を破って、ユフィが涙を浮かべ、声を震わせる。
 シャルアは苛立たしげに……心底悔しそうに机を叩いた。
 その場にいた全員が、突然上がったその大きな音にギョッとする。
 シャルアは再び手を振り上げて机を叩いた。
「どうして……どうしてティファさんがこんな目に……!!」
 俯いている為、彼女の表情は良く見えない。
 しかし、どんな顔をしているのかは……見えなくても良く分かる…。

 シャルアはティファとクラウドに特別な思いがあった。
 それは勿論、自分の妹がセブンスヘブンで世話になっているがゆえ…。
 そして、妹はそのお陰で随分と『年齢相応の女の子』になることが出来たのだ。
 あの無表情で心をなくしてしまった生きる人形から、『生きた女の子』に戻してくれた。
 それは、クラウドと…とりわけティファのお陰である事をシャルアは心の底から感謝していた。
 それなのに…。

「私は……ティファさんに何のお礼も…恩返しも出来てないのに……!!」

 そう声を荒げ、肩を震わせる彼女の姿に…。
 ジェノバ戦役の英雄達は……。
 ……悟らざるを得なかった。

 ティファがこの星が誇る最先端医療をもってしても助からないのだ………と…。






 そうして。
 今に至る。
 クラウドは想像していたよりもひどい有様だった。
 魔晄色に染められた瞳は、いつも力強く輝いていたと言うのに、今は虚ろに宙を彷徨っている。
 何を話しかけても、例え殴られたとしても…。
 彼は何も言い返さないし、当然殴り返したりもしないだろう。
 完全に心が死んでいた。
 いや…まだティファが本当に死んでいないのだから、今は『冬眠』とも呼ぶべきなのだろう…。
 しかし…。
 ティファが死んだ時…。
 クラウドは確実に心を失うだろう…。
 子供達も、クラウドのそんな様子に心を痛めているようだったが、今は、失ってしまうかもしれないティファの方に気持ちが向けられていた。
 必死になって呼びかけ、意識を取り戻して欲しいと訴える。
 涙を流しながら、それでも泣くまいと時々目元を拭ってグッと唇をかみ締める。
 そんな健気な姿に、大人達が涙を流しそうになる。


 シュリはそっとリーブに会釈をすると、子供達に再び向き合った。
「ごめんな…。本当はもっと傍にいてやりたいんだけど……。任務があるんだ……」
 悲しそうでいて申し訳なさそうな顔をする青年に、子供達は堪えきれずに涙をこぼした。
 そして、しゃがみ込んだシュリにしっかりとしがみ付くと、暫くその胸の中で肩を震わせていた。
 やがて、涙が収まったのかゆっくり身体を離して気丈にも笑って見せた。
「ううん、ありがとう。シュリお兄ちゃんのお陰で、私達、ティファにこうして会えたんだもん」
「うん。兄ちゃん、ほんとにありがと。ティファをあんな広い荒野から見つけてくれて」

 子供達は、あえて『ティファの最期に会えてよかった』とは口にしなかった。
 口にするだけの心構えが出来ていないという事と、どこかで奇跡を信じているのだろう…。
 シュリはフッと笑いかけると、
「良いんだ……無理して笑わなくても。これからの人生で、笑いたくなくても笑わなくちゃいけない事がイヤでも来る。だから、それまでは無理して笑って、周りの人間に気を使うな。デンゼルもマリンも忘れてるかもしれないけど、まだまだ君達は子供なんだから…」
 そう言いながら、再び抱きしめた。
 温かなその言葉が、子供達の涙を再び溢れさせ、今度は子供達はシュリの胸にしがみ付いて先程よりも子供らしく泣いた。
 子供達のくぐもった泣き声が、病室に響く。
 仲間達は、そんな子供達を抱きしめて泣かせる場所を作ってやったシュリに、心から感謝した。
 自分達もイッパイイッパイで、子供達にそこまで気を使わせているという事に気付いてやれなかったんだから。

 そうして、こんどこそ子供達の心が落ち着いた時。
 子供達は涙で顔をクシャクシャにしながら、
「シュリお兄ちゃん……本当にありがとう……」
「本当に……ありがと……」
 途切れ途切れに精一杯の感謝を口にした。

 シュリは立ち上がり、その場にいた全員に敬礼して見せ、その後、再びティファの頬に手を添えた。
 それは少しでも彼女が生きながらえるように…という願いが込められているようだった。

 シュリは最後に、クラウドの傍にそっと歩み寄った。
 相変わらず、誰が傍に来ようが、怒鳴られようが、その魔晄に染められた瞳には何も写らない。

「クラウドさん、俺は気休めは言いません。でも……。どうか自分を取り戻して…。早く自分を取り戻さないと、貴方は死ぬよりも後悔する事になる」

 そう言うと、そっとクラウドの頬にティファにしたのと同じ様に触れると、そっと目を閉じた。
 その姿は、やはり何かを必死に祈っているように見える。

 やがて、シュリはそっとクラウドから離れると、リーブに向かって再度敬礼し、病室を後にした。
 彼が丁度任務の途中でティファの捜索にあたった事を英雄と子供達が知ったのは、それから暫く経ってからだった。


 シュリの後姿がドアの向こうに消え、ドアが静かに閉じられた後、皆の視線は自然にクラウドへ向けられた。
 相変わらず虚ろな瞳を宙に彷徨わせている彼の姿に、誰もが胸を痛めた。
 しかし…。


「ティファ…」


 クラウドの口から、ポツリと零れたその一言が、皆を驚愕させた。
「ク……クラウド……」
 喘ぐようにユフィがクラウドの名を呼ぶ。
 他の皆はびっくりして固まっていた。
 その中でも、一番早く我に帰ったのは……。

「「クラウドー!!」」

 叫びながらクラウドの胸に飛び込んだ子供達。
 クラウドは、二人の幼い子供達に抱きつかれて少々よろめいたが、それでも倒れこんだりしなかった。
 自分の胸にしっかとしがみついてわんわん泣く子供達に、そろそろと両腕を回し、最初はフンワリ……次いでしっかりと抱きしめる。


「…………ごめん……デンゼル、マリン……」
「うわあぁぁぁあん!!」
「ふえぇぇぇぇえん!!」

 子供達を抱きしめたままずるずるとその場に座り込み、子供達の髪に顔を埋めるクラウドの姿に、バレットとシド、それにナナキとユフィはとうとう涙をこぼし、嗚咽を漏らした。
 リーブも目頭を押さえている。
 ヴィンセントは窓の外へ視線を向け、何かを堪えるようにじっと空を睨みつけていた。
 シェルクはただただひたすら……。
 ティファの手を握って目を閉じた。
 子供達の髪に頬を埋めていたクラウドの肩が震え、頬に幾筋も涙が伝う。


 病室に子供達の泣き声と英雄達の嗚咽が悲しく響いていた。


 そして…。
 その間も…。



 ピッ………ピッ………ピッ………ピッ………。



 ティファの鼓動は確実に弱くなっていっているのだった。




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