キラキラキラキラ…。

 朝陽に照らされて飛空挺の滑らかな艦体が光っている。
 その光が朝靄に反射し、英雄達の瞳を心地良く焼いた。

「私も逝かなくちゃ」

 勝利の夢見心地に浸る仲間達に、エアリスがそう言った。
 瞬時に表情が一変、皆の顔に悲しみが走る。

「エアリス…!」
「ほら、そんな顔しないで?」

 泣き出しそうな顔をするユフィに、あの旅と同じ笑顔でエアリスが笑う。
 そして、夢の世界からまだ戻らない二人に目をやり、軽く肩を竦めた。

「二人によろしく言っておいて。本当は目が覚めるまで傍にいたかったけど、ザックスが今にも泣きそうだからいってあげないと」

 英雄達はそれぞれなにか言いたそうに口を開けたり、唇を噛んだりしていたが、結局かける最善の言葉が見つからずに口を閉じる。
 エアリスはチラ、と宙に視線を投げた。
 そこには…。

「ふふ、じゃあ私、あそこの皆と一緒にザックスの所にいくから」

 銀翼の先人達が、微笑みながらエアリスを待っている。

「「「 エアリス!! 」」」

 フワリ…と、浮いたエアリスに仲間達が柵を乗り越えんばかりに身を乗り出した。

「じゃあ、皆…元気でね。こっちに来るのはう〜んと遅くで良いから!」
 ニッコリ笑って両手を後ろで軽く組んで悪戯っぽい仕草をする。
 あの旅で仲間達の心をほぐしてくれた…仕草。
 ユフィの頬に涙が流れる。
 ナナキが目をシパシパさせる。
 バレットとシドがグイッと袖口で目元を拭い、ヴィンセントは穏やかな目で見つめた。

「二人に『式にはちゃんと参列するからね』って言っておいてね」

 その言葉を最後に、セトラと人との血を引く英雄は、先人達と共に星に還った。




Fairy tail of The World 95





 その日。
 星の各地で奇跡が起こった日。
 英雄達はまた新たな英雄として世の人々に知れ渡ることは無かった。
 元々、今回の騒動がどこからやって来て、どういう経緯で終結を迎えたのか、正確に知る者は当事者達だけだからだ。
 その当事者達の希望は、これ以上余計な混乱を招く事無く、皆が平和に暮らせること。
 故に、星に起こった『世代交代』は、WROが後々に公開した『星の神秘を現在捜索中』ということで、一先ず落ち着きを取り戻すこととなる。
 シャルア博士以下、WROの誇る科学者達が事実に基づいて、世間が驚嘆しない程度の『結果』を世の人々に告げることになる予定だ。
 その間、世の中では今回の出来事は『亡き人達の祭り』として、自然と広まっていった。
 各地で起こった奇跡の瞬間、自分達の亡き家族が…友人が『シャドウ』から守ってくれたのを幾人もが目にしたことから、彼らを偲んで宴席を設けるような流れに繋がったからだ。
 そしてまたもう一つの名がつく。

 それは『解放の日』。

『シャドウ』が白い鳩になって飛びだった瞬間を大勢の人々が目撃していることから、これまた自然とその名がついた。
 その話しを聞いた時、当事者達は世の人々の心の奥底で、ちゃんと星の大きな改革を感じ取られていることを知った。

 しかし、それもやはり後日の事である…。








 クラウドは目を覚ました時、自分がどこにいるのか分からなかった。
 高い天井が見える。
 その天井には、写真や映画でしか見たことがない様な豪華なシャンデリアが煌いていた。
 寝起きでボーっとする頭をゆっくりと振りながら、ノロノロと起きる。
 起き上がってもまだ、クラウドはここが現実だとは思えなかった。
 身体がやけに重いし、なによりもこんな場所は記憶にない。
 自分の夢も、随分と豪華になったものだ……と、幾分ずれた事を思っていると…。

「「 クラウド!! 」」

 どこからかドアの開く音。
 そして直後に聞き覚えのあり過ぎる声。
 ハッと顔を向けると、子供達がワンワン泣きながら駆け寄って来た。
 勢い良くぶつかった子供達をしっかり抱きしめると、急速に頭の靄が晴れていく。
 夢から現実へ、意識が浮上する感触。
 クラウドは、しがみついて大声で泣きじゃくる子供達をしっかと抱きしめなおした。
 熱いものが込上げてきて、視界がぼやけ、うっかり自分まで涙がこぼれそうになる。
 そこへ、新たにドアが開く音がして、ユフィとナナキが軽やかな足取りで駆け寄った。

「もう、おっそいんだっつうの!」
「そうだよ、もうおいら、目を覚まさないんじゃないかって気が気じゃなっかったよぉ!!」

 半べそをかきながらそう言う二人に続いて、シドとグリートが入って来た。
 そこでようやく、クラウドは自分が『バルト家』に運ばれた事を知ったのだった。

 何故『バルト家』に運ばれたのか。
 それは、全てに片がついて帰還する指示を出そうとしたまさにその時、『バルト家』から無線が入ったからだ。
 次男の安否を気遣う内容と、星のために『バルト家』に何か出来る事があればさせて頂きたい…といったその内容に、シド達は躊躇った。
 プライアデスの事をいつかは説明しなくてはならない。
 それも近日中に。

「では、先方には申し訳ないですがお邪魔させて頂きましょうか…」

 そう提案したリーブに、仲間達は目を丸くした。
 だが、ほんの少し苦いものを織り交ぜながら笑ったWRO局長は、
「どうせ隠せない話しです。ちゃんと説明するなら変に時間を空けないほうがいいでしょう。それに、我々も少し休息を取らなくてはね。クラウドさんとティファさんもきちんとしたところで休ませたいですし…。それにバルト家なら大きいですから、我々全員が転がり込んでも大丈夫でしょう…」
 そう言って、その旨を自らバルト家に願い出た。
 間髪入れず、バルト家が快諾したことは言うまでも無い…。
 バルト家に宿泊を請う無線で、イリーナがルーファウスとツォンをそれぞれ迎えに行ってもらえるように要請し、ほどなくしてその願いもバルト家は快諾した。
 こうして、クラウドとティファが眠っている間に、バルト家に子供達も無事に呼び寄せられたのだった…。



 目が覚めたクラウドは、仲間達の喜びを一身に受けた。
 文字通り、皆から熱い抱擁を受けたのだ。
 クラウドが目を覚ました時、まだティファは眠りの中にいた。
 恐らく、クラウドよりも長い時間、アルファの作り出した『闇』の中にいた為、精神への負担が大きかったためだろう…。
 彼女が目を覚ますまで、クラウドはずっと手を握っていた。
 ひたすら、彼女の顔を見つめ、愛しそうに…、もう決して離さないという決意の現れであるかのように、ずっと彼女の手を握り、優しい眼差しを注いでいた。
 クラウドが目覚めるまでティファを見守っていたバレット、ヴィンセント、ルード、レノ、イリーナ、そしてラナは、微笑みながら(中にはちょっと複雑そうな顔で)クラウドとティファを二人きりにさせてやった。

 ティファが目を覚ましたのは、それから半日経った頃であった…。

 そしてようやく二人は知った。
 エアリスがどのようにして星に還ったのか。
 星が無事に『次の担い手』として、この星に生きる命、全部に受け継がれた時の星の美しさを…。
 世界各地で起こった星の奇跡をWRO隊員達とその土地の人々が目の当たりにしたことを…。

 また逆に、仲間達もクラウドとティファにより、真実を知った。

 シュリがずっと探していた人物である『アルファ』のことを。
 彼女の正体を。
 哀れな『歌姫』の物語を。

 彼女の過去にまつわる話しはクラウドが主に話して聞かせた。
 ティファの方がより詳しく知っていたのだが、口にするにはあまりにも辛すぎる…。

 彼女の身に降りかかった『悲劇』をクラウドが話した時、バレットとシドは思わず腰を上げ、レノとツォンは苦い舌打ちをした。
 だが、アルファが死したその直後、『悲しみ・憎しみ・怒り』と『愛しい』という激しくも相対する感情から、魂を二つに引き裂き、片方の小さな魂が世に生まれ落ちた正体。
 それがアイリだと話した途端、全員驚愕の余り石化した。
 驚きすぎると咄嗟に声が出ないらしい…。
 ようやく解けた謎。
 アルファの分身として生まれたからこそ、アイリには不思議な力があった。
 アルファは自分の魂が分裂し、『分身』となる魂が人として生まれたことをひた隠しに隠していた。
 そのため、闇のバケモノ達はその事実を知らず、闇の邪魔をしていたアイリを抹殺しようと躍起になっていた。
 闇の化身達に目を付けられるほどの力をアイリが持っていたことの説明が、それでつく。
 アイリとして生まれた『陽の魂』は、『闇に堕ちた魂』の意思で『闇』を阻む働きをした。
 それは全て、『アルファ』と『アイリ』が同一人物であることを隠すため。
『アルファ』以外が『闇の皇帝』という烙印を押されないため。

『烙印』を押された者に、『闇の化身達』は従おうとするから…。

 アルファが『烙印』を押されている間は、決して不穏な動きをしない…というわけではない。
 最小限の被害に止めることが出来ると言うだけの話。
 だが、それがいかに巨大な被害を免れたのか…。

 クラウドから代わり、『烙印』からはティファが訥々(とつとつ)と語った。
 その声は微かに震えていた…。


「アルファは……、最初から私を『闇』に取り込んで、『身体』を乗っ取るつもりなんかなかったの。でも、『本気』でことに当たらなければならなかった…。そうしないと、『闇』に計画がバレてしまうから…。だから、『アルファ』という一面で私を狙って、『アイリ』というもう一つの顔で私を守ったの…」
「だから、『闇』は『アイリ』を殺そうとしたの。『アルファ』と同一人物だと見抜けなかったから…。そしてあの時…」
「WRO本部が壊滅したあの時、シェルクとリト君が炎に呑まれて落ちて行くのを『わざと』見せたの」
「『闇』に納得させる必要があったから…」
「『アルファ』は、常に監視されていた。『闇』は自分達とは『異なる魂』、つまり、『闇に属さない魂』には特に敏感だから」
「『アルファ』は同胞達に殺されてしまったシュリ君とライ君を悲しんで、殺した同胞達を心から憎んで闇に堕ちたのに、『アイリ』として生まれてきた魂が、『幸せ』を伝えてきたから段々目を付けられるようになってきてしまった…」
「だから…『アルファ』と『アイリ』は違う人間だと見せなくてはいけなかった」
「もっとも、『アルファ』は身体を持っていない霊体なんだけど…ね」
「『アイリ』が死んだと思ったリト君とシェルクの深い悲しみ、助けられなかった自分への不甲斐なさ…。それは『闇』を喜ばせる感情」
「その感情の波を『闇』は正確に感じ取り、『アイリ』は死んだと思った」
「でも、本当はアイリは生きていて、星の守りのうちに、密かに大地奥深くに運ばれた」
「そして、大地の中をゆっくり北上したの」
「『忘らるる都』とアイシクルロッジの延長線上にある『海底トンネル』まで」
「そして、そこで…『最期の歌』を歌ったの」
「『セトラが栄えていた時代に終わりを告げる』という意味の歌よ」
「その歌のお蔭で、ようやく星は新しい浄化の力を手に入れた」
「これからを生きる私達全員が、その力を持つようになったの」
「そして…」
「最期の力を振り絞って歌っている間、ザックスがずっと傍にいて見守っていたの」
「アイリの……最期も…」
 最後の台詞で、ティファは堪えきれずに嗚咽を漏らした。
 クラウドが肩を強く抱き寄せる。
 ティファは…クラウドの胸に頬を押し付け、周りから顔を隠すようにクラウドにギュッとしがみ付いて小さく肩を振るわせた。
 ティファの肩を抱き寄せ、今は腕で優しく包んでいるクラウドの目にも、うっすらと銀の雫が浮かんでいる。


 想像も出来ない隠された真実に、皆の頭はパニック寸前、バレットに至ってはもう混乱真っ只中だ。
 ティファの説明の最後の最後で、ようやく仲間達はエアリスの言葉の意味が分かった。

 ― 「二人によろしく言っておいて。本当は目が覚めるまで傍にいたかったけど、ザックスが今にも泣きそうだからいってあげないと」 ―

 ザックスが『アイリ』の最期を看取ったのだ…。

 そう…。
 これで、ようやく…。
 本当にやっと、全てが終った。
 ……終って…しまった…。

 誰の胸にも苦い苦いものが残った。
 シュリのこと。
 プライアデスのこと。
 そして…アルファでありアイリのこと…。

 本当にあの三人は幸せだったんだろうか?
 本当にプライアデスは…『死を望む魂』を『命の世界』に連れ戻すことが出来るのだろうか?
 もし出来たとしても…そんな『理』に抗って本当に無事なんだろうか?
 アルファ、いや、アイリを生かすことは出来ても、プライアデスがその犠牲になったのでは意味がない。

 しかし、誰もそのことを口には出来なかった。
 これ以上、哀しいことが起きたら心が壊れそうだ。

 バルト家の家長とその妻と長子、つまりプライアデスの両親と兄は、仲間達のもたらした情報に神妙な面持ちでグッと身体を寄せ合い、「そうですか…」と、あっさりその話を受け入れた。
 多少は怒りや当惑の言葉がくると思ってただけに、あっさり受け止められてしまい、英雄達は拍子抜けをしてしまった。
 拍子抜けし過ぎて「どうして…そうあっさりと納得を?」などと不躾な質問をしてしまったほどだ。
 すると、プライアデスの父親は、哀しそうに笑いながらたった一言、
「いつか…あの子は私達の前からいなくなると…そう思っていましたから」
 そう言った。
 その前兆があったのか!?と、ユフィが問う前に、兄が口を開く。
「あの子は…うん、ちょっと『不思議』なところがあって。なんとなく、この家に縛られたりするべき器じゃないって思ってたんです。だから、あの子がWROに入隊したい、って言った時も『あぁ、とうとうこの日が来たのか…』って…ね」
 だけど……もう少し『その時』というのが遅かったら良かったのに…とは思わずにはいられません…。
 目尻をハンカチで押さえながら、母親もコクコクと小さく何度も頷いた。
「あの子は…本当に強くて優しい子。そして、何か私達とは違う力を持っている、そんな風に感じさせる子でした。だから、WROに入隊した時に、私達はあの子を手放す覚悟は出来ています」

 家族のプライアデスへの大きな愛を感じ、仲間達は深く深く頭を下げながら、込上げる熱いものを押さえ込むことが出来ず…。
 ユフィはその場でワンワン泣いた。









「まさか…三日も寝てたとはな…」
「うん…ビックリしたね」

 夕暮れに染まる丘の上で、クラウドとティファは並んで立っていた。
 バルト家所有のその丘は、四方八方が見事な草原に囲まれていて、所々で緩やかな丘になっている。
 遥か遠くにはエッジの街が僅かに望めた。

「私ね。今回の事で本当に逃げてばっかりだった…。ちゃんと向き合うことがどういうことか…分かってなかった」

 夕陽を見つめながらポツポツと語るティファに、クラウドは何も言えない。
 まだ…言うべき時ではない。
 その時が来るまでじっと待つ。
 その時は…すぐに来るはずだった。

「それでね…私…本当に弱かった。最初はクラウドや皆の中から消えてしまって、クラウドは幸せになってくれる。そう思ったの。それが私の幸せだって…」
 でも…出来なかった…。

 大きく深呼吸をして夕陽に全身を赤く染めるティファを、クラウドは真っ直ぐ見つめた。
 そっと華奢な肩に手を置き、ゆっくりと自分へ向かせる。
 ティファの目が少しだけ怯えていたが、それでも彼女は拒まなかった。
 震える手をグッと握り締め、必死になって目を上げて…クラウドの視線と向き合う。
 クラウドの胸に、どうしようもないほどの愛しさが込上げた。

「俺も…今度の事で本当に思い知った」
 言葉を切って深呼吸する。
「ティファが…どんなに大切か。これまでにも散々思い知ってたはずで、これ以上は分からないってくらい、ティファの存在を知ってたはずなのに…さ…」
「それなのに、俺は…ティファの不安を吹き飛ばすことが出来なかった…」
「あんなになるまで追い詰めるなんて…本当に俺は…バカだったと思う」

 そこで言葉を切って、そっとティファの唇に指先を当てた。
 ティファが反論しようとしたからだ。
 哀しげに寄せられる眉に、クラウドは苦い笑いを浮かべる。

「ティファ、こんなことを言ったら絶対にティファは『そんなことない』って否定してくれる。でも、そうじゃないんだ。やっぱり俺が悪かったよ。ティファをそこまで不安にさせて、挙句には『存在を消しても構わない』とまで思わせるだなんて…」
 最低だ…。

 俯いて深く息を吐き出す。
 しかし、ティファの両肩に置いた手は離さない。
 離す代わりにギュッと手に力を込める。
 まるで…どこにも行かせないかのように…。
 そして、再び顔を上げたクラウドに、ティファは心臓が高鳴った。
 真っ直ぐに、曇りのない紺碧の瞳が、固い決意を宿し、ティファの目を見つめる。

「ティファ…」

 そっと両手を離して片手を懐に入れる。
 取り出されたクシャクシャな小箱。
 元は綺麗にラッピングされていたであろうそれは、恐らくプレゼント。
 ティファの鼓動が駆け足になる。

「俺は…気の利いた台詞は言えないし、これからもきっと、ティファを不安にさせたり、ティファが『自分が犠牲になればそれで良い』、って思うことが出てくるかもしれない」
 クラウドの声が…震えている。
「でも…それでも…」
 クラウドの手が、震えながらそのリボンを取り、包装紙を取り除ける。
「俺には…ティファしかいないから…」
 現れたビロードの小さなケース。
 ティファの瞳が大きく見開かれる。
 そんなティファに、クラウドは震えながら彼女の左手を取った。
 そして…。
 真っ直ぐ、偽りのない光を瞳に宿して…。


「ティファ、俺と結婚して下さい」


 なんの飾りもない、ムードもない、いたってシンプルなプロポーズ。
 あるのは綺麗な夕陽と、真摯な瞳を持ち、緊張の余り真っ赤になって、震える手で自分の手を握り、指輪を嵌めてくれる愛しい人。

 完全に左の薬指に嵌った時、クラウドは何も言わないティファに不安で一杯の瞳になった。
 しかし…。

「!ティファ!?」

 ポロポロポロポロ…。
 紅茶色の瞳から、美しい雫がいくつも玉となって転がり落ちる。
 ギュッと指輪を握り締めるように両手を握り締め、ティファは泣きながら笑った。

「私を……クラウド・ストライフの妻にして下さい」

 クラウドの目にも涙が浮かぶ。
 堪らず、力一杯ティファを抱きしめた。
 ティファもまた、クラウドの背に腕を回して力一杯抱きしめる。
 そして、そっと身体を離して、お互いの泣きべそな顔にちょっと笑って…。
 そのままそっと目を閉じて誓いの口付けをする。
 夕陽により長く伸びた影が、いつまでも重なる二人を地面に落としていた。


 暮色が色を薄め、夜の帳に空を明け渡す時。
 二人は戻って来た。
 子供達は二人がまたどこかに行ってしまうのではないか?と、心配していたのだろう。
 帰って来る姿をバルコニーから背伸びをして待っていた。
 そして、二人の姿がまだ遠い所で見えたのに、一目散に駆け出した。
 手を振りながら、満面の笑みで駆けてくる子供達の後ろからは、仲間達が微笑みながら二人が帰って来るのを待っている。
 クラウドはティファの手をギュッと握った。
 ティファも…握り締める。
 二人で笑い合いながら、駆けてくる子供達へ、そして待っている仲間達へ向かって走り出した。

 空には、一番星がキラキラと皆を祝福するように見守っていた…。




Back   Next   Top