「まだ見つからないってどういうこと!?」 甲高い女の怒鳴り声と共にガラスの割れる音が響いた。 投げつけられたビーカーをギリギリ避けたオールバックの男は、小揺るぎもせずにピンと背筋を伸ばし、冷めた表情のまま淡々と答えた。 「10日前の防犯カメラを検証しましても、逃走したクラウド・ストライフの足がかりになるものは何も見つかりませんでした。神羅ビル周辺の駅に設置されている防犯カメラも含めて…です。何者かがきっかり1時間、近隣周辺全ての防犯カメラの機能をストップさせたようですが、犯人はいまだ不明…。捜査は難航しております」 タークスの主任をスカーレットは呪い殺さんばかりに睨みつけた。 しかし、それでもツォンの表情は冷めたままだ。 行き場のない怒りを持て余し、女博士はヒールの音も高く部屋を行き来する。 「こんな……こんな不祥事、もしも社長のご帰還までに収拾をつけることが出来なかったら、私は破滅よ!?」 猛烈な怒りと激しい恐怖に頭の中が沸騰寸前の女は、無表情のままその場に佇むタークスの面々を睨みつけた。 「いいこと!?何が何でも、どんな手を使ってもクラウドを連れ戻しなさい!生死は問わないわ!!」 赤い髪の男が皮肉めいた笑みを浮かべたが、自分の感情でいっぱいいっぱいのスカーレットの目には映らない。 唾を飛ばさんばかりに言い捨ててスカーレットは実験室を出て行った。 極度のストレスを発散させるべく、自室で自棄酒を呷るのか、それとも新たな実験に暗い闘志を燃やすのかは分からないが、どちらも見ていて気分の良いものではないだろう。 実験室のドアが閉まると同時に張り詰めた空気がぷつりと切れ、ドッと疲れた溜め息がその場にいたツォン以外から零れ落ちた。 「あ〜、やってらんないぞっと」 「…全くだ」 「せんぱ〜い、もうアタシ、この仕事イヤになりましたよぉ」 次々と愚痴を吐き出す部下にツォンは「そう言うな」とどこまでも冷静に宥めると、顎に指を添えた。 「それにしても、本当にどうやって神羅ビルから出たんだ…」 「そりゃあれじゃね?やっぱ、内部犯って奴しか考えられないんだぞ〜っと」 独り言にレノが茶化すような突っ込みを入れる。 生真面目な主任は「うむ。そうだとは思うのだが、では一体誰がどうやったのか、という問題が新たに浮上することになる」と考え込んだ。 「あれじゃね?ザックスじゃね〜のかなぁ〜っと」 「滅多なことを言うな、レノ」 「でもよぉ、ツォンさん?ザックスくらいだろ?クラウドの野郎を心底心配してたのは。まるであれだ、保護者みたいな心配振りだったじゃないか〜っと」 頭の後ろで手を組みながら悪びれない部下に、ツォンは内心、大いに賛同していた。 クラウド・ストライフを心底気にかけていたのは、この神羅ビルの中ではザックス・フェアだけだ。 しかし、彼には完璧なアリバイがある。 そのアリバイを崩すことは、今のところ不可能だ。 だからこそ、スカーレットもあんなに苛立っているのだ。 一番疑わしい人物にこれ以上ないほどのアリバイがあることこそが胡散臭いというのに追求出来ないという現実を。 「ま、俺は出来ればクラウドには外の世界で自由に伸び伸びとやって欲しいって気がするんだがなぁ〜っと」 「あ、それはアタシも思いました」 「……俺も」 「おいおい、お前たち…」 ツォンは呆れた声を上げながらも、心の中では部下達に賛成だった。 5年前、故郷を灰にされているその地獄の中で、神羅による実験のために意識だけは残されたまま体の自由を完全に奪われ、成す術なくただ涙を流しながら見ているしか出来なかった哀れすぎる少年を思い出す。 あれから彼の身に何が起こったのか…。 詳しくは知らないが、とても正気を保つことは出来ない日々だったはずだ。 だから、彼が”死神”という神羅のマリオネットから解放されたというのなら、これ以上に喜ばしいことはないと言えるのではないか? それが例え、命尽きるまでのほんの僅かな時間だとしても、この巨大な檻(おり)の中で、理不尽な命令に無気力に従って生き延びるよりもうんと意味のある時間になるのではないだろうか…? 先輩…、あなたの選んだ道は正しかった…。 数年前に離反したヴィンセント・バレンタインへ向けて胸中でそっと呟く。 「ツォンさん?」 金髪の女…、イリーナが不思議そうに小首を傾げ、遠い目をして黙り込んだツォンを見つめた。 イリーナの声にレノとルードも顔を向ける。 タークスの現・リーダーは薄い笑みを浮かべて首を振った。 「いや、なんでもない」 「働き過ぎなんだぞっと」 「…その通りだ」 「ツォンさん!アタシ、張り切って肩揉みします!」 呆れる部下、無愛想な部下、明るく笑う部下。 昔はもっと沢山いた部下も、今ではたった3人しかいない。 だがそれでも、自分が守らなくてはならない大切な部下達だ。 この3人がいる限り、自分は神羅を裏切るわけには行かないと改めて思う。 だから…。 先輩、私はあなたの後を追うことは出来ない。 恐らく、この3人なら自分の進もうとする道を迷わず選び、着いてきてくれるだろう。 だが、敵とするには神羅はあまりにも強大だ。 犬死する道へ大切な部下を巻き込むわけには行かない。 ツォンは吹っ切るように1つ息を吐き出すと、部下を促してスカーレットに呼び出されていた実験室を後にした。 Fantastic story of fantasy 11別に忘れていたわけではない。 興奮しすぎてちょっと失念していただけだ。 患者野郎を追い出せ!と、がなる自分を必死に引き止めた仲間を振り払い、こうして部屋に押しかけたのも一重に打倒神羅に燃えていたからこそ。 決して、患者野郎を路頭に迷わせるようなことをしようとしたわけではない。 更に言えば、決して決して、彼女の逆鱗にわざわざ触れようと意図したわけでは断じてない。 と、いうのがバレットの言い分だ。 だが、当然と言うか何と言うか、ドアを開けて仁王立ち状態のエアリスにそんなものが通用するはずがなかった。 「もう一度、今の台詞、言えるものなら言ってみてちょうだい、バレット・ウォーレス」 一言一言を区切って強調した声は、これ以上ないほど押し殺されて低すぎる低音で、否が応でも彼女の怒りの大きさを感じずにはいられない。 その声が耳を打った途端、バレットの全身の血が音を立てて凄まじい勢いで引いていった。 バレットのみならず、いきり立っていた彼を引きとめようとしていたエルダス、ユフィ、ジェシーにビッグスにウェッジもまた、その場に凍り付いてピクリとも動けなくなった。 ナナキに至っては全身の毛を総毛立たせて小さく震えている。 華奢ですらあるエアリスの身体が、この場にいる誰よりも膨れ上がって見えたのは何故だろう? エアリスは口元に笑みを浮かべ、コツリ、コツリとゆっくりゆっくりバレットの前に足を運んだ。 たった数歩の距離を時間をかけて近づく聖女に、バレットの全身から汗が噴き出す。 目を逸らしたいのに逸らせない聖女の顔は、口元にはいつもの柔和な笑みが浮かんでいるのに、恐ろしいくらいに目が笑っていなかった。 「エ…エアリス。あの〜だな…その、これは…」 「バレット、私、ちょっと聞き間違いをしたのかしら?それとも、アバランチは方針を変えることにしたの?」 「い、いやその。これにはちっとばかり理由が」 「お黙り!」 一喝。 ジェシーとユフィ、それにナナキがひいぃっ!と悲鳴を上げてガチガチの直立不動を取る。 エルダスとビッグス、ウェッジもビクリッ!と大きく仰け反ると揃って硬直した。 マリンを肩に抱き上げていたヴィンセントと共に階段を上ったところで様子を伺っていたシドは、エアリスの大喝に飛び上がり、危うく階段を転がり落ちるところだった。 ギョッとして助けてくれたヴィンセントに「た、助かった…すまねぇな」と冷や汗を拭き拭き、礼を言う。 そうして、怒鳴られた当の本人はと言うと。 いつの間にか最強の武器を手にしたエアリスを前に血の気を完全に失って突っ立っていた。 怒れる聖女は、パシリ…パシリ…と”アンブレラ”で己の手の平を打ちつつ斜に構えると、一際大きくバシンッ!と手の平を叩いてギリギリと”アンブレラ”を握り締めた。 「バレット、このアバランチはいついかなる時も擁護すべき人間を最後まで守る。そのためにあるんだったわよね?違う?」 「あ、あぁ、そうだ、その通りだぜ、うん」 「それがなに!?放り出せですって!?」 「ち、違うんだエアリス!頼むから俺の話も」 「黙りなさいバレット・ウォーレス!!」 ダンッ!! ”アンブレラ”で激しく床を突く。 エアリスの大喝とアンブレラによる家屋への攻撃に、窓がカタカタと音を立てた。 果たして、この細い身体のどこにここまで圧倒的な力を発するだけのものが備わっていたのか…。 久々に見る聖女の激昂に、アバランチの面々は胃の腑が凍る思いを味わった。 もう十分過ぎるほどバレットが猛省しているのは見ただけでも分かる。 だが誰もバレットの擁護に立つことも出来ず、さりとてその場をそそくさと去ることも出来ず、完全に巻き込まれた状態に甘んじるしかなかった。 ついでに言うと、エアリスに守られている立場にあるはずのクラウドでさえ驚き、完全に気を飲まれた状態で固まっている。 唯一、クラウドを庇うようにしてベッド脇に立っていたティファと、廊下の端に位置する階段の先に立つヴィンセントとマリンだけが固唾を呑んで見守れるだけのゆとりを持つことが出来ていた。 怒りが収まりを見せないエアリスは、床に突いたアンブレラをビュンッ!と音を立てて一回転させると、また己の手の平でそれをバシンッ!と受け止めた。 恐ろしいほどの大きな音が一同の鼓膜を打つ。 「クラウドがまだまだ1人でやっていけない状態だってことくらい、見たら分かるでしょ!?それともなぁに?彼は仮病を装ってるとでも?そして私は彼の仮病を見抜けない間抜けな女だって言いたいわけ!?焼かなくてもいい世話を焼いてるとでも!?」 「い!?いやいやいやいや、そんなこと、誰も一言も」 「じゃあこの治安の悪いスラムの街角に放り出して『あとは運を天に任せて頑張って』とでも言うつもりだったわけ!?それとも、全然医療らしい治療を施してくれないぼったくりの病院に放り込むとでも!?それこそ、彼みたいな美人さんがどんな目に遭うか分かるわよね!?」 バレットは青ざめて首を振ったが、エアリスは聞く耳持たん!と言わんばかりに畳み掛けた。 そうして、痛いところを突かれてウグッ、と言葉を詰まらせたアバランチのリーダーに、聖女の全身からこれまで以上の怒気がオーラとなって放たれ、一同を圧した。 「この人でなし!!その場の勢いだけで後先考えずに突っ走るのはいい加減にして!!」 ダンダンダンッ!!と、アンブレラで3度、激しく突かれた床にとうとう穴が開いた。 ユフィとジェシーが口の中で小さく悲鳴を上げる。 深緑の瞳を爛々と怒りに光らせてアンブレラを床から抜き放つと、勢い良くバレットの鼻先、僅か数ミリのところへ突きつけた。 バレットの浅黒い顔色が完全に消える。 「バレット・ウォーレス、今すぐこの部屋から出て行きなさい!!捻(ねじ)り切るわよ!?」 え、その細腕でどうやって?とか、なんでそんな一方的に、とかとか、言いたいことは冷静になった後から出てきたが、大喝されたそのときには一切そのような気持ちは起きなかった。 起きようはずもない…。 短い悲鳴を上げて巨体を小さく縮こませ、転がるように階下へと逃げ出すバレットに、怒られたわけでもないビッグス、ウェッジ、ジェシー、ユフィ、ナナキもまた、泡を食ってその背を追った。 まるでクモの子を散らすようだ。 あっという間に騒々しい足音が消え、部屋を静寂が訪れた。 「…ありがとう、エアリス」 「いいのよ、ティファ。当然のことをしただけ…というか言っただけだもん。まったく、とんでもないわ」 いまだ怒りが収まらない様子だったが、おずおず礼を述べたティファに向けた顔には意外にも穏やかな笑みが薄く浮かんでいた。 深緑の瞳がスイッとベッドへ移る。 なんとも言い様のない困惑しきりの様子で上体を起こしているクラウドに、気を取り直すように笑みを見せた。 「大丈夫。誰がなんと言おうと、元気になるまでは絶対に放り出したりしないからね」 しかし、クラウドはその言葉に軽く眉根を寄せると、微笑むエアリス、その傍らにホッとしたように立つティファへと視線をやり、更には廊下にポツネンと立っているエルダスとその傍らにいつの間にか立っているヴィンセントへ目を向けた。 そして、一巡するとまた、エアリスへ目を戻す。 「どうしてここまで俺に良くしてくれる…?」 声にはありありとした猜疑心があった。 ティファがなにか言おうとしたが、「俺がアンタの幼馴染だから…という理由はなしにしてくれ」と先手を打つ。 傷ついたように口をつぐんだティファに、エルダスが呆けた顔から一変、怒りのそれに変わる。 しかし、彼もまたティファと同じように口を挟むタイミングを奪われた。 「ティファがクラウドを助けて欲しいって思ってるから、ていう理由じゃ納得出来ない?」 「普通、ここまで怪しい人間を無条件で助けて欲しいだなんて思うわけがない」 小首を傾げるようにして問う彼女にクラウドはにべもなく切り捨てた。 言外に『本当の目的を言ってみろ』と匂わせる。 ティファが両脇に垂らした手をグッと握り締めた。 その必死に何かに耐える様子に、何故か胸がズキリッ、と痛んだが、それには目を瞑るとクラウドはジッとエアリスの反応を見た。 とにかく、この店にやってきてから不可解なことばかりで、何一つ油断出来ないとクラウドは思っていた。 そして、その心情をエアリスもティファも、そしてヴィンセントも十分過ぎるほど分かっていた。 クラウドの立場に立ってこの10日ほどを振り返ると自ずと分かる。 突然、全く覚えのない幼馴染と言う女の出現に、得体の知れない癒しの術を使う女の登場。 それはまさに青天の霹靂だっただろう。 そして何よりも自分の正体を知りながらもティファやエアリスが必死になって匿おうとするその理由を彼は理解出来ていない。 その部分を理解するためには、心の奥底に封印させられてしまった人間らしい感情を取り戻すしか術はないのだが、それにはもう少し時間がかかるはずだ。 この10日ほどで随分色々な表情が出てきているが、それでもまだまだ普通の人たちと比べると非常に乏しい。 だが、それでもこの”猜疑心”はかなり良い兆候にあると言えるだろう。 猜疑心を持った…と言うことは、自分の身の危険を感じることが出来たということ。 自分などどうなっても構わない、と思う人間は絶対に猜疑心など抱きはしない。 エアリスはにんまり笑った。 「な……なんだよ…」 まさかこんな風に満足げ、と言うか、ほくそ笑むような笑みを見せられるとは思っていなかったのだろう。 引き攣り、居心地悪そうに視線を逸らせたクラウドにますます笑みが広がる。 「『損得なしに人助けをする人間がいるわけない』って思ってる?」 声に楽しそうな色が混じる。 バレットに見せたあの激しすぎる怒りがまるでウソだったかのような無邪気さすら感じられる問いかけに一瞬、答えるべきか否か迷ったようだったが、「いるわけがない」と、強気とも取れる返答を返した。 逸らした目を戻し、エアリスを真正面から見据えるその姿は、まるで幼い少年が大人相手に意固地に我を張っているような、微笑ましくすらあるものだった。 そのせいで、ますますエアリスを喜ばせることになり、結局クラウドはその姿に耐え切れず、また目を逸らしてしまったわけだが…。 「ここでもう少し生活してたらそういう『奇特な人間』が本当にいるのかいないのか、はっきり分かるわよ」 「おい…」 「あ、それからねぇ」 仲間と真っ向から対峙するような目に遭ったというのに、どこまでも擁護する姿勢を貫こうとするエアリスに、クラウドが面食らって反論しようとしたが、彼女は思い出したように返しかけた踵を止めた。 ポケットに手を突っ込み、中身を取り出す。 クラウドは目をむいた。 「あ、思い出した?これの存在」 「お前…それはザックスからの」 「うん、そう。ザックスからの携帯電話」 セブンスヘブンに先に行くよう指示した自称親友がポケットにねじ込んだ携帯電話。 それが、繊手に握られている。 今の今までその存在を忘れていたわけだが、エアリスはニッコリ笑うとまた自分のポケットに入れてしまった。 「クラウドが元気になったら返してあげる」 「な!?」 「だって、今返したって仕方ないでしょ?そんな状態じゃあまだ戻れないじゃない、あんなところ」 勝手なことを言うな。 俺は今すぐにでも帰れる! それらの台詞は、だがしかし、舌に乗せることなく喉の奥で消えてしまった。 ―『そんな状態じゃあまだ戻れない』― ”まだ戻れない”、そう言ったのだ。 なら、元気になったら戻っていい、と言っているのだろうか? 元気になったら、また自分たちの敵である”神羅グループ”へ戻っても構わない…と。 今度、相見(あいまみ)えるときは、お互い敵としてで構わない。 そう言っているのだろうか? その考えに到達した途端、頭を激しく殴られたような気分に襲われた。 愕然としたのが顔に出たのだろう、ティファが心配そうに「クラウド…大丈夫?疲れたなら横になって…。もう心配いらないから」と恐る恐る、声をかけた。 しかし、そんな彼女の一歩引いた態度にますます動揺してしまう。 ティファが一線を引いて接してくるのは、これまで自分こそが拒絶していたからに他ならないという事実を失念し、傷つく己の気持ちに翻弄される。 ティファも…、いつかまた、俺の敵として現れるのだろうか? また…ティファを斬らないといけないのだろうか? そのときティファは、また悲しそうに目を大きく見開いて抵抗せずに黙って斬られるままになるのだろうか? そんなティファにそのときこそは止めを刺すのだろうか? 他でもないこの自分が!? 脳裏に鮮血とくずおれるティファの姿が蘇る。 約2週間前のあのシーンが…。 激しい喪失感と焦燥感、そして悔恨の念に襲われ言葉をなくして黙り込んだクラウドを尻目に、ようやくタイミングを掴んだエルダスが口を挟んだ。 「おい、エアリス。ザックスって…誰だよ…?」 「私の彼氏」 「は!?なら、その彼氏とその…クラウド?は知り合いなわけか?」 「えぇ。大親友だ〜!っていつも話してるわね」 「大親友!?てことは、こいつがどこに住んでるのかとっくに知ってたってことか!?」 「うん、知ってた」 あっさり頷くエアリスにエルダスは一瞬、驚きすぎて絶句した。 一呼吸する間に我に帰ると、猛然と口を開く。 「ならどうしてわざわざここに泊めた!?」 「だって、泊めた方がしっかり治療してあげられるじゃない」 「そうかもしれないが、ちゃんと身元がしっかりしてるならぼったくりの病院でなく、まともな病院に入院させてやることだって十分出来ただろ!?」 「だめよ。だって、それじゃあ元気になるまで時間がかかって仕方ないんだもん」 「それにしてもだ!入院させてやってたら、時間はかかったとしても、ここまで良くなることが出来たんだろ!?」 「そうね。すっごく時間かかるけど」 「なら、ここに泊める必要もなかったわけだ!俺たちアバランチにとって……」 エルダスはハッと三角巾で吊っていない方の手で口を覆った。 話しすぎた、とようやく気づいたのだ。 勢い良くクラウドを見るが、自分の中に生まれた感情に気持ちがいっぱいで聞いてはいない様子にホッと息を吐く。 「それで、こいつ…クラウド?は、どこに住んでるんだ?」 「それを聞いてどうするの?」 「決まってるだろ、すぐに家まで送るんだ」 気を取り直してそう結論付けたエルダスに、「ちょっと待って」と、それまで黙っていたティファが割り込んだ。 エルダスの頬がピクリと引き攣る。 「お願い、もう少しだけ」 「ダメだティファ。どれだけ俺たちの目的が妨げられてると思う?」 「でも」 「俺たちの目的を思い出せ、ティファ」 目の前に来て懇願するティファに胸が焼かれるような苦い思いを抱きつつ、彼女の肩に手を置いて言い含めようとしたエルダスは、透明の雫が鳶色の瞳に溢れそうになっているのを見て目を逸らした。 焼け焦げそうな嫉妬が胸を支配する。 思わずベッドの男に詰め寄り、その胸倉を掴んでたたき出してやりたい激情に駆られる。 しかし、当然そんなことが出来ようはずもなく、男はエアリスへ顔を戻した。 「どこに住んでる?」 しかし、答えたのはエアリスでも、ヴィンセントでも、ましてやティファでもなかった。 「神羅本社ビル、13階」 全員が驚き、ベッドを振り向いた。 滅多にその表情を変えないと仲間内でも有名なヴィンセントまでもが驚愕のあまり目を大きく見開いていた。 アイスブルーの瞳がエルダスへひたと向けられている。 正確には、ティファの肩に置かれている手へ。 「いま…なんて…?」 「神羅本社ビル13階。一番奥の部屋だ」 つっかえながら聞き直したエルダスに、クラウドは淡々と繰り返した。 その瞳に宿っているものは、たった今まで途方に暮れていた表情から一変し、どこか固い意志のようなものを感じさせた。 「神羅グループの切り札、”死神”と呼ばれる3人の兵士。その1人が俺だ」 大きく目を見開いたティファが両手で口を覆う。 エアリスとヴィンセント、そしてエルダスが息を呑んで見守る中、クラウドは更に口を開いた。 「俺を…アバランチに加えてくれないか?」 恐ろしいまでの沈黙が目に見えない重圧となってその場の人間の上に圧し掛かった…。 |