誰かが頬を、肩を、腕を、そうして腰、腹、腿(もも)、足首へ指を這わせている感触に言い知れない不快感を感じる。 しかし、どうにも体が重くて言う事をきかず、深いまどろみの中、強い嫌悪感を抱きつつ”たゆたう”に身を任せていたのだが、無粋な手に我慢が限界に達し、ティファはとうとう呻きながら重たい瞼をこじ開けた。 視覚を鋭く差す光りに顔を歪めて目を瞑る。 「あら、お姫様のお目覚めね」 耳慣れない女の不愉快な笑い声と、いかにも悪役と言ったような台詞に閉じた瞼を必死にこじ開けた。 目に入ってきたのは化粧の濃い金髪の女と、白衣を着た人間が数人女の背後に控えている光景。 天井は高く、真っ白に近い壁に四方を囲まれている。 「……なによこれ…」 自分の状態に思わず愕然とした台詞がこぼれる。 記憶を辿り、英雄と対峙したことや目にも止まらないスピードで攻撃を受け、気を失ってしまったことをなんとなく思い出す。 と言うことは、自分は神羅に掴まってしまったということでほぼ間違いないだろう。 正直ゾッとしないでもないが、それでも冷静に自分のおかれている状況を分析する。 身体は特に問題なさそうだ。 椅子に座らされているということもまだ『よし』としよう。 しかし、両腕、両足首はバンドでしっかりと固定されており、ビクともしないではないか。 軽く身を捩ってみるが全く外れそうにないその拘束に、引きずり込まれそうなまどろみが吹っ飛び、有りえない危機的状況に心臓が跳ね上がって駆け足で脈打ち始める。 しかしティファは、内心の動揺を微塵も現さずに強気な表情で厚化粧の女を睨みつけた。 「ちょっと…どういうつもりよ」 「あら強気。いつもなら『生意気!』って思うところだけど、とってもいいわ〜』 キャハハハハ、としか形容しようがない笑い声を上げ、女はうっとりとした眼差しを向けた。 そのまま、全身を舐めるように見る。 なめくじが這うようなその視線に悪寒が背筋を駆け抜けた。 しかし、目の前の女への生理的嫌悪感からか、絶対に弱気なところを見せたくないという意地のようなものがむくむくと頭をもたげる。 「笑ってないで離しなさいよ、この変態!!」 「ま。口の減らない小娘だこと」 流石にムッとしたようだ。 女は眦(まなじり)を吊り上げると手を振り上げ思い切りティファの頬を張り倒した。 首がしなり、頬がカッ!と熱くなる。 口の中にじんわりと鉄の味が広がったが、それがかえってティファの闘争心に火をつけた。 眼光鋭く睨み据え、いささかも怯む色を見せない。 スカーレットは噛み付かんばかりの気迫を見せるティファに一瞬、気圧され微かに仰け反ったが、すぐに底意地の悪い笑みを顔に貼り付けた。 「本当に威勢の良い小娘だこと」 「本当にムカツクおばさんよね」 ひくり、とスカーレットは頬をひくつかせ、有無を言わせずまた手首をしならせた。 乾いた音が上がる。 後ろに控える白衣を来た部下達はそれを冷ややかな眼差しを向けるだけで誰一人口を挟むことも、表情を変える者すらいなかった。 「その虚勢がいつまで続くかしらね?」 「あなたみたいに人を縛りつけていないと何も出来ないような臆病者になんか、私は絶対に屈しない!」 「ふんっ。せいぜい吠えてなさい!這いつくばって私の命令に従う人形になるそのときが楽しみだこと」 「…人形?」 怒りに傾いていた気持ちが、不穏な響きの言葉に微かな不安を覚える。 スカーレットは、恐らくティファの気持ちの細かな動きには気づいていないだろうが、それでも自分の有意を信じて疑わない見下した顔で口元を吊り上げた。 「そうよ、素敵な素敵なお人形に変えてあげる。あの出来損ないなんか目じゃないくらいにね」 それがいったい誰を指しているのかティファには分からない。 分からないが、なにかとんでもないことをされそうになっていることに気づかないわけには行かず、ティファはこみ上げてくる不安と恐怖をかみ殺すように、グッと奥歯を食いしばり、スカーレットを睨み続けた。 Fantastic story of fantasy 22ガタガタと激しく揺れる車体に合わせ、身体にいくつも刻み込まれた傷が激しく疼いた。 舌打ちと共にハンドルを大きくきるとタイヤが抗議するように甲高い音を立てる。 横転してしまいそうなほど大きく傾(かし)いだが、ドンッ!という重い音を立てて態勢を立て直し、そのままアクセルを全開にまで踏み込む。 どんどん上がっていくスピードとメーターに、それでも追われている不安は拭えない。 「くそっ、ザックスの野郎!」 自分の目測が完全に謝っていたことは棚に上げ、バカにしていた男の執拗な攻撃の数々を思い出してはらわたが煮えくり返りそうになる。 負けるはずがなかった。 それも、完全に圧勝するはずだった相手なのに5時間にも及ぶ戦いの結果、出来たことと言えば敵前逃亡。 「くそったれ!!」 口汚く罵りながらバックミラーを見る。 これだけ迅速に行動に移した自分に追っ手が追いつけるはずがないし、逃げる直後、隠し持っていた手榴弾をまともに食らわせたのだ、上手くいけば殺せているかもしれない…。 それなのにどうしても追っ手のその手がすぐ背後に迫っている感がして仕方ない。 もうすぐそこまで手が伸びているような…強迫観念。 いや、そんなはずはない、と弱音を吐く自分に苛立ちが増す。 ”死神”というトップレベルの神羅兵である自分に追っ手をかけるとすれば、ザックスくらいしかその役を担うことは出来ないはず。 なにしろ、今神羅に残っている戦力はザックスだけだ。 出来損ないのクラウドでも残っていれば話は別だがアイツは脱走したまま、今ではすっかりお尋ね者とされている。 ということはやはりザックスしか自分を追うことは出来ず、必然的に追っ手はまだかかっていないと考えていいはずだった。 そう、だからこの強迫観念はただの勘違い。 少し神経過敏になっているだけだ。 それにしても。 あの男があんなにも凄腕だとは思わなかった。 いつも出来損ないのクラウドに気をかけているような軟弱者のくせに。 「…イヤ、軟弱者に変わりないか…」 口元に歪んだ笑みを浮かべる。 ちょっと反省したような顔をして、ちょっと弱ったような仕草を見せると途端に攻撃の手が緩まった。 バカな奴だ。 あのまま攻撃していたら確実に仕留められたのに。 やはりアイツは愚か者だ。 そして、そんな愚か者を重宝している神羅も愚か者だ。 そんな愚か者にこの自分は勿体無い。 いずれ、英雄に成り代わるべき男であるこの自分は、あんな愚者の集まりには惜しい存在だ。 「ふんっ、すぐに後悔させてやる」 神羅に反対する組織はこの地上に掃いて捨てるほどある。 それらの組織をまとめ、君臨することなど”死神”としての力を持つ自分なら造作もない。 神羅がことごとく潰しにかかっている弱小組織ではあるが、神羅の動きなど優秀なハッカーでもあり潜入のプロでもあるプロドシアやその仲間がいれば容易く把握出来る。 今までは神羅の力で色々と好きにさせてもらったがこれからは自分の力でこの星を好きにしてやる頃合だろう。 「ほぉ。誰が後悔するというのだ?お前か?」 突如、飛び込んできた低いその声に心臓が縮み上がる。 勢い良く助手席側へ振り返ると助手席のドアが大きく開いていた。 いや、開いているのではなくドアそのものがなくなっているではないか。 本来ドアがあるべき車体のふちを片手でつかみ、片足を助手席の足元へ掛けて悠然とした体(てい)でそこにいる銀髪の男に冷や汗がドッと噴き出した。 思わずブレーキを踏み、ハンドルを大きく切る。 タイヤが激しい抗議を上げ、車体が大きく傾いでバランスを崩す。 そのまま目の前に迫った赤茶けた岩を避けきれず、真正面から激突した。 激しい激突音と同時に爆発し、車が大破する。 黒煙が雲柱となって上がり、青と黒、そうして炎上する赤い炎のコントラストが荒野のキャンパスの一部分を不気味に染めた。 その一角で、そのゾッとするはずの光景に気にも止めず、2つの人影が相対するように岩山に降り立つ。 1つは悠然と、もう1つは虚勢を色濃く現して…。 「どうしてここにいる」 「なに、ただの暇つぶしさ」 緊張感を露わに、それでも尊大な態度を崩さない居丈高なその台詞は、だがしかし英雄の前には意味を成さなかった。 侮蔑すらない『無関心』な体(てい)であっさりと返され、セレスティックは脳をフル回転させた。 どう考えても分が悪い。 いずれ英雄以上の力を手にすることは確実と考えているが、今はそこまでの能力はない。 それどころか自分は手負いだ。 体力、気力共に万全であったとしても目の前の男に勝つには厳しいだろう。 それだけの実力差を覆し、勝利が収められるか? 不可能だ。 ならば、自分に残されている道は1つしかない。 口先1つでこの危機を乗り越えるのみだ。 自ら導き出した答えに焼け付くような苛立ちと不快感が胸を過ぎるがそれに取り合っている場合ではない。 このままだと自分は殺されてしまう。 こんなところで死ぬなど冗談ではなかった。 自尊心を押し殺し、カラカラに乾いた唇を湿らせて口を開く。 「セフィロス、どうして俺を襲う?なんの特にもならないだろう?神羅に俺を消すよう命令されたとでも言うつもりか?いや違うな、誇り高いお前がそんなくだらない命令をきくはずない。そもそも何人(なんぴと)たりともお前に命令なんぞ出来るはずがない。ならただの気まぐれか?暇つぶしと言ったが、俺を相手に暇つぶしとはいささか正気を疑うぞ?」 暗に自分では暇つぶしになれない、と匂わせる。 勿論、暇つぶしとしての役すら担えないほど無力であると言っているのではない。 いずれは目の前の男に成り代わり、世界で唯一の”英雄”として君臨すると自負しているのだから…。 暇つぶしと侮り、軽い気持ちで手を出すと痛い目を見るぞ、という訓戒を込めている。 しかし、その台詞もセフィロスの前では無に等しかった。 悠然と英雄は長刀を構えると氷のような笑みを浮かべた口元を薄っすら開いた。 「私が正気かどうか、それがお前に何の関係がある?」 その言葉は問いではなく、ただ口にしただけの台詞だったのか、それともただの独白か。 それを考える暇など僅かほどもセレスティックには与えられなかった。 突然、セフィロスの姿が霞んだ。 その理由に頭が理解するよりも身体が反応する。 咄嗟に腰に帯びていたソードを抜き放つ。 甲高い金属同士の強く擦れる音と衝撃にセレスティックの全身から冷や汗が噴き出した。 しかし、驚きも怯えもおくびにも出さず、全身の力を込めて長刀を押し返すと、反撃に移る。 身を低くして後退したセフィロスを追う。 英雄は薄い笑みを張り付かせた余裕の顔でセレスティックが繰り出した斬戟を軽やかにかわすと、手首を翻しただけの攻撃でソードを弾き飛ばそうとした。 それをギリギリのところで回避し、回り込んで突きを繰り出す。 だが当然のように英雄はそれをラクラクと回避するとそのまましなやかに体を滑らせるとセレスティックとの間合いを一気につめた。 回避。 紙一重でセレスティックは猛獣のような攻撃をかわす。 そうして幾度打ち合っただろう? 既にセレスティックは限界だった。 先にザックスから受けていたダメージがここに来て重く重く、足を引っ張る。 改めて自分と英雄との力の差を見せ付けられたようで歯噛みするよりも恐ろしさがジワリジワリと心を侵食していく。 しかしまだ大丈夫のはずだった。 満身創痍に近い状態だった自分がここまで英雄相手に食い下がれているのだから、転機さえ確実に手にすることが出来たら逃げられる。 そうして、自分は自他共に認める強運の持ち主だ。 こんなところで死ぬはずがない。 萎えそうな己の心を鼓舞しつつ、英雄の獲物を完全に見据えている肉食獣の瞳を前に冷静さを必死に保つ。 「中々楽しいな。しかし、やはりアイツのようには心が震えぬか」 英雄の独白にセレスティックの眉間にしわが寄る。 アイツとは誰だ?と一瞬、不快感が胸を走ったが、それをすぐ押し殺した。 冷静さを保たなければ数少ないと思われる転機が訪れても手にすることは出来ない。 虎視眈々とその一瞬を狙うセレスティックだったが、次の瞬間、全身を叩きつけるほどの殺気に襲われ、驚愕に目を見開いた。 咄嗟に英雄へ身体を向けたまま後方へ飛ぶ。 当たらなかったはずだった。 長刀は空を斬り、自分は完璧に避けたはずだったのだ。 それなのに。 「っ!!」 焼けるような激痛が胸を真横一文字に走る。 迸(ほとばし)った赤いものは一体なんだというのか? 思わず片膝を着き、胸を押さえる。 ぐっしょりと濡れる感触が信じられず、赤茶けた大地に広がる赤いものが信じられず、セレスティックは胸に当てた手を開いた。 震える手の平が真っ赤に染まり、心臓がバクバクと脈打つたびに走る激痛に思考が混乱する。 「ほう、避けたか。胴を真っ二つにしてやろうと思ったのだがな」 急に陽が陰ったかと思うと感心したような声音が頭上すぐから落ちてきて、セレスティックはのろのろと顔を上げた。 イヤミなくらいに整った端正な顔に刻み込まれている酷薄な笑みが見下ろしている。 冷たいアイスブルーに何かが映っていた。 まだ若い男だ。 呆然と、まるで覇気のないその姿は哀れで惨め以外の何者でもなく、セレスティックが一番蔑むタイプの人間だった。 人生とは戦いであり、その戦いを一瞬でも放棄するような弱者には生きる資格などない。 それが彼のモットーであり、そうして弱者とはこの星に溢れている数多の人間のことであって、彼らを支配することこそが己に課せられた役割であり、存在理由であったはず。 持てる力を誇示し、活かし、虐げる。 それこそが勝利者に許された最低限の権利であり、また駆使することこそが義務であったはずなのに。 それなのに、今、英雄の目に映る弱者は一体誰だ? 「それにしてもコスタ出身者はやはり半端者でしかないな。中途半端な力を持っていなければ、一瞬でラクになれたものを」 凍えそうな夜空にぽっかりと浮かぶ寒々とした三日月を髣髴とさせるような吊りあがった唇が言葉を紡ぐが、セレスティックの耳には届かない。 立て!と、誰かが自分へ命じる声がする。 何故?とその声に問いながら、問わずともこのままだと死ぬしかないことが漠然と分かった。 逃げろ!とまた、誰かの声がする。 しかしその声にも、何故?と…、どこへ…?と問いかけると、その声は一瞬沈黙した後、どこでも良い!と捨て鉢のように叫んだ。 抗って、抗って…、こんな不条理な最期をもたらさんとしている運命に抗い続けて、そうして”生き残る”という勝利を手にすることこそが自分に相応しい生き方ではないか!と誰かの声がしたが、セレスティックはただただ首を傾げた。 ― そこまでして生きることに何の意味がある? ― そう結論付けた時、彼の体と心から力が砂のように零れ落ち始めた。 急激な出血により、意識が白く混濁していく。 霞む視界に靄(もや)のかかる思考は、まさに夢へ向かうひと時のように甘美でありながら、このまま目を閉じることが即ち2度と目覚めぬ永久の眠りへと続くようで、セレスティックはその誘いに必死に抗う。 しかし、あまりにも強烈なその誘いの手は、彼からカケラほども残らないよう力を根こそぎ奪わんとしていた。 全身が震えるのは言い知れない恐怖のためか?それとも急激に襲ってきた寒気のためか? 「心配するな。あの女もお前の後をすぐ追わせてやる」 残り少ない聴力で聞き取った台詞がやけに耳に残った。 ほかの事は考えられないくせに、セフィロスの言った『あの女』が誰を指すのか何故か分かってしまった。 (あぁ…バカだな…) 一体、誰のことを”バカ”だと思ったのか自分自身ですら分からず、陽光を受けて光った長刀が自分に振り下ろされるのをただ黙って見守ったセレスティックの脳裏に浮かんだ最後の映像は、セフィロスが口にした”あの女”であるプロドシアの勝気に笑っている顔だった。 * 体中の痛みがまだ自分は生きていることを教えてくれた。 その事実に言葉にせず、ホッとしながらゆっくり目を開けると、予想していた通りの白い天井が見えてなんとなくおかしくなったザックスは唇の端を持ち上げた。 途端、 「なにが可笑しいんですか?」 いささか呆れたような若い女の声が耳に心地良く響いて、また笑みを誘われる。 「いや、なんか生きてるって素晴らしいなぁって痛感したところ」 「ふぅん、そうですか」 味気ないと言えるほどの素っ気無い返しに、ザックスは文句を言うでもなくゆっくり身体を起こした。 上半身を起こして眉を顰めたのは、自分の体にグルグルと巻かれた白い包帯が目に入ったからだ。 なんとなく情けなくなりながら包帯が巻かれた胸をそっと撫でる。 「大げさだよなぁ…」 「なにが大げさなもんですか。こちらの気も知らないで」 落ち着いた男の声にそちらへ顔を向けると、ベッド脇の椅子に腰を下ろしたリーブの疲れた顔があった。 思わず『大丈夫か?』と自分の状態を棚に上げて心配してしまうほど、疲れ切った様子に苦笑が浮かぶ。 「悪いな。ちょっと手こずった」 「ちょっと…と言うにはいささか手こずりすぎだと思います」 「シェルクは相変わらず手厳しいなぁ」 間髪入れない鋭い突っ込みに苦笑が深くなる。 そう言いつつ、こうなる前のことを思い出して自然、表情が改まった。 「今、どういう状況なんだ?」 「セレスティックは神羅ビルから逃走の際、トラックを一台奪ってジュノン方面へ向かいました。そこまでは分かっているんですが」 「結局、ジュノンには到着していません」 リーブの言葉を継いだシェルクにザックスは訝しげな目を向ける。 「着いてない?」 「はい。ジュノン方向の空に黒煙が上がるのを監視カメラが微かに捕らえましたが詳しいことはまだ分かりません」 「あの野郎の車だと?」 「確かなことは言えませんが可能性としては」 「プレジデント神羅の乗ったヘリが墜落…という線も無きにしも非ずですからね」 口を閉ざしたシェルクに継いでそう言ったリーブに、ザックスは呆れたような顔を向けた。 どうしてプレジデント神羅がヘリに乗っていたという話が出たのか、そこは考えない。 「いくらなんでもそこまで間抜けじゃないだろ?上層部もパイロットも」 「普通の状態ならそうだと思います。しかし…」 「普通じゃない…ってことか?」 「えぇ」 躊躇うことなく頷いたリーブに不安が胸を過ぎった。 自分がどうしてセレスティックと対峙することになったのか、またその間になにが起こったのか。 その背景に見え隠れするのは銀髪の男。 クラウドの存在に気づいたであろう英雄の足止めはリーブに委ねる形になっているはずだ。 そこまで思い出し、息を呑む。 「なぁ…アイツはどうなった?」 疲れたような顔をする仲間、その疲れている原因を自然と予想し、イヤな予感で胸が押しつぶされそうになりながら、ザックスはリーブを凝視した。 ほんの僅かな逡巡。 リーブは深く頭を下げた。 遅かれ早かれ、その質問を受けることになると分かっていたのであろう、一言の弁明もなくただ、「申し訳ない」とだけ口にした。 重い沈黙が部屋に横たわる。 ザックスはその空気を追い払うように大きな溜め息を吐いた。 「イヤな予感って絶対に当たるよなぁ…」 ガシガシと髪を掻き、もう一度溜め息を吐いた。 それで気持ちを完全に切り替える。 「それで、今アイツはどこにいる?もうアイツに接触したのか?」 最初の”アイツ”がセフィロス、後の”アイツ”がクラウドを指しているのは問わずとも分かるリーブとシェルクは交互に口を開き、掻い摘んだ説明をした。 スカーレットが暴走してミッドガルに爆弾を投下したこと。 その爆撃のせいで大勢の犠牲者が出たこと。 その後、何故かもう一度今度は小さな爆撃を行ったスカーレットは、女を1人神羅へ連れ帰ったということ。 更に、それとは別でシェルク自身が英雄セフィロスの残虐非道な行為をセンシティブ・ネット・ダイブによって一部始終を目撃しており、その際、精神的な負荷を過重に受けたため、意識を失ってしまったという話しまで、全てを2人はザックスに話して聞かせた。 アバランチを攻撃、というよりはクラウドを炙り出すための爆撃だったらしいという件(くだり)でザックスは思わず声を上げそうになったが、奇跡的にアバランチは無事らしいと補足説明したシェルクによって、なんとか最後まで口を挟まずに耳を傾けた。 「つまり、セフィロスは神羅に対して完全に牙を向いた…ってことで間違いないんだな?」 「恐らく。これまで神羅に属していたのは、ただ単に暇つぶしのためだけだったでしょうからね」 「新しい暇つぶしの相手を見つけてしまったようなので、もう神羅は必要ないんでしょう」 新しい暇つぶしが何を指すのか、イヤでも分かる。 クラウドへ長刀を向けるセフィロスを想像してしまい、忌々しそうに舌打ちをするとザックスはシーツを脇へどけた。 ベッドから降りる青年にリーブが慌てて押し止めようとするがそれをやんわりと拒絶し、ハンガーにかかっていた上着へ袖を通す。 「しないといけないことは山のようにあるけど、まずは連れてこられたっていう女の子?を助けるのが先だな。アバランチのメンバーかもしれないんだろ?」 問いながら、エアリスではない、という確信がザックスにはあった。 もしもエアリスならばタークスが黙っていないだろう。 それに、プレジデント神羅も慌てて帰ってくるはずだ。 待ちに待った神羅グループの更なる発展のための大切な駒なのだから。 壁に立てかけていたバスターソードを背に負うと、シェルクが淡々と神羅ビル13階の最奥に監禁されていることを告げた。 ザックスの眉間に深いしわが寄る。 シェルクは、ザックスの思い違いを正すように首を横に振った。 「違います。クラウド・ストライフの部屋ではなく、その反対に位置する最奥です」 「あ、ああ。なるほどな」 外観からは分からないビルの入り組んだ内部にザックスは1つ、頷いた。 「それじゃ、俺は行って来るけど2人はどうする?」 「実は…ツォンに話をしようと思っています」 「は!?マジで!?」 「接触するべき時期が来たと思っているんですよ、私はね」 「私は反対なんですけど、言い出したらきかないですから、リーブは」 目をむくザックスにリーブはどこか微笑みを浮かべ、対してシェルクは無表情の仮面に苦いものを浮かべた。 確かに当初からの目的の中にはタークスを自分たちの側に引っ張り込む、というのがあったのだが、今が本当にその時期なのか甚だ疑わしい。 今、神羅は混乱真っ只中と言っていいはずだ。 英雄は裏切り、”死神”の1人はもしかしたら死亡しているかもしれないが逃亡を図っている。 いち科学者である女が勝手に街へ爆撃を行い、その後処理で大わらわだ。 その大混乱に乗じて…とリーブは思っているのだろうが、これが上手くいかなければ逆にリーブの身に大きな危険が及ぶこととなる。 「大丈夫です。私も一緒について行きますから」 ザックスの不安を正確に読み取ったシェルクが淡々と告げる。 驚いたのはザックスよりもリーブの方だったが、彼女は相変わらずの飄々とした顔で小首を傾げた。 「なんです?いくら反対しているからと言って、あなたの邪魔をするつもりはありませんよ?」 「いや、そうではなく……ええ、まぁ、心強いですね、お願いします」 シェルクの見当違いに苦笑を浮かべたリーブだったが、すぐ表情を引き締めた。 「ザックス。本当に助けに行くつもりなら十分、気をつけてください。監視カメラは今のところシェルクが握っていますけど、油断は禁物です。戦争大好きのハイデッカーに目を付けられたらそれこそ目も当てられませんからね」 「おう。分かってる。さくっと助けてさくっと逃がしてくるから」 軽く手を挙げ、怪我を負っているとは思えない身軽な動作でザックスは部屋を出た。 まさか、その5分後に…。 「っうぉっ!?」 「くっ、逃げないで大人しくやられなさい!!」 信じられないような蹴りを繰り出す黒髪をなびかせたアバランチの女と再び相対することになるとは。 思わずザックスは顔を引き攣らせた。 |