後で追いかける。 逃がした女にそう約束した。 それなのに、追いかけて守るどころかこんなところで足止めを喰らってしまうとはなんということだ。 ヘリポートもある神羅ビルの屋上はいつも強い風が吹いている。 にもかかわらず、噴き出す汗は風によって乾くことなく目に入ろうとする。 その汗を勢い良く顔を振ることで振り払い、ザックスは手にしていたソードを握りなおした。 何度、武器をぶつけただろう? 本当なら今頃、先に逃がしたティファをアバランチへ送り届けている道中のはずなのに…。 空き室の前をうろついていた一般兵たちを引き連れて部屋を後にしたまでは良かった。 それなのに突然。 気がついたら行く手を阻むように廊下の先に英雄が立っていた。 そう、立っていたのだ、突然に。 まるで、切り取られた風景がいきなりピタリとその部分にはまり込んだかのように、瞬き1つしている間に英雄が廊下の先に立っていた。 目を疑うザックスの横では、同道していた兵たちが唐突に現れた英雄に姿勢を正して敬礼を捧げた。 まだ一般兵にセフィロスの反旗は伝えられていなかったのだろう。 その兵たち目掛けてセフィロスは身の毛もよだつほどの殺気を飛ばした。 目はザックスを凝視したままで…。 明らかな挑発。 しかし、無視など出来るはずが無い。 ザックスはセフィロスの思惑通り、兵達の前へ身を躍らせ庇った。 そうして今に至るわけだ。 武器を握る手の先が微かに震えている。 ザックスはジリジリとした焦燥感と危機感に奥歯をグッとかみ締めながら無理やり震える指先へ力を込めた。 先の戦いから半日以上が経つ身体は通常ならばもう完璧な状態にまで癒えているのだが、相手が自分と同じ”死神”だったことが関係しているのか、いま1つ治りがすっきりとしない。 そのせいだけでもないのだが身体が思うように動かせず、いっぱいいっぱいな状態になっていた。 そんな自分とは対照的に涼やかな表情で立ちはだかる銀髪の男に苛立ちと焦燥感が増す。 「どうしたザックス?その程度のはずがないだろう?」 安っぽい挑発を、だがザックスはあえてニヤリと笑うとソードを握っていない方の肩を竦めて見せた。 「この通り、俺は怪我してんだ。アンタを満足させてやりたいのは山々だけど、今の俺じゃあちょっと荷が勝ちすぎるな」 「ふっ、なにを言う。星の恩恵を色濃く受け継ぐゴンガガ出身のお前があの程度の男とやり合ったくらいで使い物にならなくなるとでも?傷が癒えるほど十分休んだはずだ」 心臓がバクリ、と不快に脈を打つ。 あの程度の男…とセフィロスは言った。 その言葉が指す意味にイヤでも気づき、ザックスの顔から不敵と言えるような笑みがサッと消える。 同時に、セフィロスが目の前に現れるまでの間、余計なことは一切何もしていないという保証がないことに気がついた。 「…セレスティックはどうした…?」 低く低く押し出した声は微塵も震えていなかったが、それでもザックスの怒りと動揺を如実に表していた。 セフィロスは嗤った。 「一足先に祖先の下へと旅立たせた」 冷酷以外の何者でもないその言葉に、一瞬、怒りが理性を押しのけようとした。 セフィロスが命をなんとも思っていないことは分かっていたし、セレスティックは本当にイヤな奴だった。 半日前にやりあった時は、本気で叩きのめしてやることしか頭に無く、事実、全力で戦った。 力を抜いてしまったのは、あの自尊心の塊のような男が芝居とは言え、反省しているような姿を見せたときだけ…。 その一瞬で奴は不意を突いて攻撃し、爆弾を爆破させて逃走してしまったわけだが、そんなだまし討ちのようなことをされた今でも死んでしまえば良い、とは思えない。 しかし、この男はあっさりと命を摘み取ったのだ。 「アンタ……サイテーだな」 「ふん。お前も所詮甘いな。そんなことだとこの場で死ぬことになるぞ?」 「はんっ。冗談じゃないね。俺はまだ死ぬつもりはねぇよ」 「ほお、ならば逃げるか?」 これまで以上に分かり安すぎる挑発。 しかし、それに乗るわけには絶対にいかない。 怒りを堪えて引き攣った笑みを浮かべ、 「そうだな。アンタとまともにやり合って生き残れる自信がないし、アンタは俺とのタイマンを諦めてくれそうにないとくれば、それしか道はなさそうじゃん?」 どこまでも軽い口調で応酬する。 セフィロスは嗤った。 「面白い。どこまで逃げられるのか見せてもらおうか?」 言い終わるや否や、セフィロスの姿が霞む。 ザックスは咄嗟に頭上高く飛び上がった。 本能的に足下目掛けてソードを振るう。 澄んだ金属音が厚い雲に覆われた空へ響き、空気を引き裂いた。 「やはり、”お前も”面白い」 着地したザックスの耳にセフィロスの悦に入った声が忍び込んだ…。 Fantastic story of fantasy 25じっと息を潜め、獲物を狙い、訪れた一瞬のチャンスを逃さず目的を遂行する。 それこそが神羅兵が神羅と言う組織に求められていることであり、一般兵からランクが上がるにつれて求めは飛躍的に重く難しくなっていく。 そのハードレベルの最たる部署がタークスだ。 今、直属の上司からの命令に3人のタークスは目の前で喜色を浮かべている白衣の女の動向を探っていた。 言わずと知れたスカーレット女史である。 神羅始まって以来初の女科学者として持て囃(はや)された女傑とも言える人物だが、しかし彼女には一般世界の有り方としての常識というものが大きく欠如し、自身の作り上げた幻想の中で生きているというのが専らの噂だった。 いや、噂というよりも真実として語られていると言った方がいいかもしれない。 だから、その後に入社したシャルア博士やルクレツィア博士の方が任期は短いにも関わらず、この2人の女科学者の人気に遠く及ばない状態にある。 そして今、タークスのトリオはまさにその話は真実だった、と薄ら寒いものを感じながら実感していた。 直属上司からの命令は、スカーレットが何をしているのかを探り、証拠を押さえること。 決して女史が何をするにしても邪魔をすることは含まれていない。 いや、むしろ、邪魔をすることは命令違反となってしまう可能性の方こそが高い。 タークスの3人はそれを十分理解していたが故に目の前で行われている”人体実験”をただ黙って盗み見て、証拠となる写真を盗撮するだけだったが、決して心中、穏やかだったわけではない。 今にも嘔吐しそうなほどの嫌悪感に胸が掻き毟られんばかりだった。 気を失っている状態で運ばれた実験体は、リクライニング式のチェアーに下ろされた後、当然のように拘束ベルトで両腕、両膝、両足首を固定された。 そればかりでなく、額にも太いベルトが巻かれてチェアーに固定されるという徹底的な拘束を施されてしまう。 それほどまでに厳重な警戒態勢を敷かなければいけないとは、どんな実験なのかと訝しんでいると、女史は気を失っている実験体を引っ叩き、わざわざ起こしてしまった。 意識を取り戻した実験体は当然、驚愕のあまり大声をあげ、身を捩り、自分を見下ろし悦に入って哂う女目掛けて罵倒を浴びせたが、それすら女史には心地良い負け犬の遠吠えだったらしい。 部下から受け取った注射器を恐怖心を煽るように余裕たっぷりに見せつけ、顔色を失った実験体に嘲笑しながら注射器をむき出しの腕に突き刺した。 ギチギチと拘束ベルトが軋む音と実験体の悲鳴のような最後の抵抗の声が上がる。 耳を覆いたくなるようなその声に、イリーナは流石に目を背けた。 ルードとレノもゾッとするその光景に胸の奥底からこみ上げてくる不快感を飲み下すのに必死だ。 しかし、無論仕事は忘れていない。 レノは手にしている小型カメラのシャッターを切り、ルードはサングラスの柄に触れて内蔵されているビデオカメラを調整する。 やがて、拘束ベルトのギチギチという耳障りな音が聞こえなくなり、実験体の悲鳴や怒声も止んだ。 そうなってからようやく、スカーレットは部下に命じて実験体の頭にコードが沢山伸びているフルフェイスのヘルメットをすっぽり被せた。 実験体である女の白い顔がヘルメットによって覆われ、見えなくなると同時にチェアーの脇に置いていたローテーブルになにやら小型の機械が運ばれ、女史は狂気を孕んだ笑みを浮かべ、スイッチを押した。 その機械が何をするものかイリーナは初めて見るものだったので分からなかったが、レノとルードは顔色を変えて息を呑んだ。 ギョッと身震いした先輩タークス2人にイリーナは困惑気味に目を向けたが、次の瞬間、その先輩2人に引きずられるようにして隠れていた場所を後にした。 まるで逃げるようなその行動にイリーナは神羅の一般廊下へ出た瞬間、周りに人がいないのを確認してから食って掛かった。 「ちょっと先輩!なんなんですか!?私たち、まだ任務を完璧にこなし終わったってわけじゃない……ですよね…」 しかし、その勢いも先輩2人の表情を前にあっという間に尻すぼみにならざるを得なかった。 いつもならお調子者であるレノも、ほとんど表情を変えないルードも、いつもの様子からは全く違う。 切羽詰った面持ちで、あの実験室から飛び出したときのまま足早に歩くその速度を落とそうとしない。 まるで…本当に逃げ出したかのような錯覚に陥る。 いや、錯覚なのだろうか?本当は…本当に逃げ出したのか? 「…先輩?」 「ルード、どう思う?」 「……十中八九……間違いない」 「くそっ!冗談じゃないぞっと!あれはもう、中止命令が出たはずじゃなかったのか!?」 「……スカーレット女史。やはり…狂っている」 「あぁ。わざわざ気を失っている女を引っ叩いて目を覚まさせてから薬打つなんてエグイことをやってみたりとかよぉ!」 「レノ、声がデカイ」 「デカくもなるわ!って、そんなことを言ってる場合じゃないな」 「あぁ。ツォンさんに連絡だ」 イリーナは不安を覚えてレノとルードへ声をかけるが2人はまるで気づいていないかのようにズンズン大股で廊下を進み、早口で話をするばかりだ。 会話からも、歩く速度も違って置いてけぼりにされそうで、イリーナは必死に歩く2人に着いていくだけだ。 先輩タークスの会話に混じれないことを拗ねる余裕など微塵もない。 2人が何を心配しているのか分からないが、先ほど見た実験が非常にマズイ類(たぐい)のものだということだけは分かった。 いつにない真剣な面持ちで先を急ぐタークストリオを、だが、廊下をすれ違う神羅の社員や兵士たちは少しもその異変に気づかなかった。 実は、タークストリオは知らなかったが丁度3人が実験室で女史を監視していたまさにそのとき、神羅の英雄が離反したというとんでもない大スクープが神羅に携わるもの全員へと知れ渡ったってしまったのだ。 まさに神羅の存続を揺るがす大問題であり、右往左往していたのだ。 そのとんでもない事件をタークストリオが耳にしたのは、無言になってツォンの部屋を目指し、廊下を何十人目かの社員たちとすれ違った時だ。 「どうする?本当にセフィロスが”死神”にソードを向けたのか?」 「見たって奴がいたんだよ。それに、上層部は隠してるけど、このビルで作業していた監視隊が監視ルームで全滅してたらしいぜ」 「マジか!?本当にセフィロスは神羅を裏切ったんじゃないのか!?」 足早に歩いていたせいで、耳が拾った会話はこのくらいだった。 しかし、最後の”裏切った”という台詞だけが強烈に鼓膜を打ち、レノ、ルード、イリーナはギョッと足を止めた。 思わず顔を見合わせ、振り返る。 遠ざかる社員たちは自分たちが見られているとは知らないで不安そうな顔を突き合わせながら徐々に遠ざかっていた。 思わずイリーナはその背を追い、詳しい話を聞こうかと足を向けかけたが、レノに腕を掴まれて留まった。 「今、耳にしたこともツォンさんに連絡するのが先だ。きっと、その情報が本当ならツォンさんのところにもう少し詳しい話が上がってるだろうっと」 反対するべきところはどこにもなかった。 再び歩き始めた3人は、今度はイリーナも交えて話を交わしながら足早に先を急いだ。 「先輩。さっきの実験は…?」 「あぁ…。アレが”死神”を生み出すための忌まわしき悪の産物だぞっと」 「え!?だってそれって」 「……イリーナ。声がデカイ」 「す、すいません」 「イリーナが言う通り、今から約1年前に中止された”古いタイプ”の実験なんだぞっと。だけど、その古いタイプの実験を開発したチームにあの変態女は所属していたからなぁ」 「あぁ。中止と決定が下った時、一番反対したのが女史だった」 「そうだったな。ルード、よく覚えてたな〜っと」 「…あの女のヒステリックな笑い方と怒鳴り声は耳について離れん…」 「あ〜。確かになぁっと」 短い会話はそれで終わり、それきり3人は黙って足を動かした。 そうしてエレベーターで上り、更に幾つもの部屋を通り越して目当ての部屋へ辿り着くまでに10分ほどが経過していた。 実験室から出て約15分ほど。 その間、実験体として連れてこられた女は今、どんな状態になっているのだろう…? 自分と年は変わらない若い女の悲鳴のような声が蘇る。 イリーナは窒息しそうな思いを味わいながら先輩タークスに続いて入室した。 * 出立は日が傾いてからとなった。 クラウドはすぐにでも突入したかったのだが、まだ日の高い時刻に神羅ビルへ突入してもすぐに阻まれてしまうだろうと推察するのは簡単だった。 短気なバレットでさえ即刻の突入には難色を示し、クラウドは逸る気持ちを堪えるしかなかった。 もしも、あと少しで夕方になるという頃合でなければ、誰が止めてもクラウドは1人で飛び出しただろうが、幸いと言うべきかなんと言うべきか、あと少しで空は暮色に染まるはずだった。 今回のことはもしかしなくとも神羅という巨大組織を根底から覆してしまう大事件となるだろう。 囚われたティファを救出して『はい、めでたしめでたし』となるはずがない。 ならば、確実に目的を遂行出来るように作戦を練る必要がある。 というヴィンセントの説得により、急遽、アバランチの仮説本部とでも言うべき場所となったエアリスの家で仲間たちは額をつき合わせることとなった。 と言っても、クラウドが意識を失っている間にあらかたの話は終わっていたらしく、作戦を練るというよりも作戦の確認と言った方が正しいかもしれない。 アバランチのメンバーが代わる代わる、クラウドに説明をしながらそれを仲間全員で確認をする、という作業がほぼ終わりを迎えたとき、クラウドは目が覚めてから固めていた決意を言葉にした。 「みんなに改めて話しておきたいことがある」 クラウドの声に真剣な色を感じ取り、メンバーは表情を改めた。 向けられる視線に決意がほんの少し揺らぎそうになるが、内心の微かな動揺をカケラほども見せず、クラウドは口を開いた。 「エアリスは多分、話していないと思う。俺は、ニブルヘイム出身でティファの幼馴染というだけじゃない」 誰もが声に出さず、『なんのことだ?』と怪訝な顔で続きを待つ。 肝心の言葉を発するその声が震えないよう、クラウドは腹に力を込めた。 「おれは…神羅の実験が生み出した”死神”の1人だ」 クラウドは待った。 アバランチのメンバーが驚愕し、怒号と罵声を浴びせるその瞬間を。 だが…。 「あ〜〜…やっぱそうかよぉ…」 「なんか普通じゃないと思ったんだよねぇ」 予想に反して上がったのは脱力したような声ばかりで、皆の表情は苦笑交じりであったり、ホッとしたようなものであったり…。 クラウドの予想通りの反応をしたのはバレットだけだった。 そのことに驚いていると、足下にいたナナキがしみじみと言わんばかりの口調で、 「オイラ、ちょっとホッとしちゃった」 と呟いた。 それをかわきりに、次々とメンバーからクラウドの予想とは違った言葉がこぼれた。 「このまま話してくれないかと思ったぜ。まぁ、正体が”死神”だったら言いにくいわな」 「なんか、すっごい雰囲気が常人のそれじゃないしさ〜。あの爆撃の後、1人で行くことにいつもなら絶対止めるヴィンセントが止めなかったんだもん。絶対なんかあるな、これは!って思ってたよ、あたしゃ。うん、このユフィちゃんの読み通りだったね」 「そっかぁ。なんか普通の人じゃない雰囲気があるなぁ〜、って思ってたんだけど、”死神”か〜。そこは予想しなかったなぁ、う・か・つ」 「”死神”ってもっとこう、人間の皮かぶったとんでもないバケモノだと思ったんだけど、意外と普通だったんだな…」 「アホかビッグス。神羅の実験で無理やり”死神”にさせられてただけだろうが?なら、エアリスが時間かけて治したんだからそりゃ普通に戻るだろうがよ」 「カッチーン!お前にそこまで言われる筋合いねぇんだよ、この迷惑ヘビースモーカー!!」 呆気にとられるクラウドを尻目に好き勝手に盛り上がるメンバーは、まだ受け入れられずに怒って良いものか敵視して良いものか大層複雑な顔をしているバレットに気づいた。 矛先がリーダーに向けられるのに全く時間はかからなかった。 バカだの、鈍感だの言いたい放題に言われているバレットを呆けたように見ていると、 「なんだ、その顔。お前、もしかしてティファを助けに行くときに正体バラしたらなんか障害が起きるとでも心配してたのか?」 ちょっぴり小バカにしたような顔でエルダスが脇に立った。 図星だったため、なんと返して良いのか困惑していると、長身の男は腕を組んで顔を背けた。 「お前、本当に俺たちのこと、バカにしてるよな」 「もしもこの約3週間、クラウドが実験のせいで苦しんでる姿を見てなかったらもしかしたらクラウドの予想通りになったかもしれないけど、オイラたちは見てないようでちゃんと見てたんだよ。ってことをエルダスは言いたかったんだ、だから気にしないでね」 「おいナナキ。勝手に脚色するな。俺を異様に良い人間にするな。気色の悪い」 「照れなくてもいいのに〜」 「照れてない!」 ムキになるエルダスにナナキは尾をゆらりと揺らした。 そうして、改めてクラウドを見上げる。 「オイラたちにとってクラウドの正体はもうどうでもいいんだよ。みんな薄々、只者じゃないなってことは分かってたしね。それに、大事な仲間の大事な人なんだってこともすっごい見てて良く分かったし。だから、良いんだよどうでも」 隻眼の獣の言葉が心に染みる。 少しだけ息がしにくいような、胸がキュッとするような思いをかみ締めながらクラウドはゆっくり息を吐き出した。 「ありがとう」 少し震えてしまったことに気づかれただろうか? 満足げに微笑んだナナキにクラウドは目を細めた。 「それじゃあ、ザックスに連絡する」 一通りの騒ぎが収まり、窓を見ると昼でも薄暗いミッドガルのスラム街が僅かに暗くなっている。 夕刻まであと少しの証拠だ。 神羅ビルへ突入するなら手引きはどうしても必要である。 突然の電話は親友を驚かせるかもしれない。 もしかしたら、『もっと早く連絡しろよ!準備がいるだろうが!』と怒られるかもしれない。 だが、アバランチのメンバーとの話しがしっかりついていない状態で電話をするわけにはいかない、と判断したのだ。 突入する側が浮き足立っている状態では、招き入れる側としては混乱するだろう。 携帯の短縮ボタンを見つめる。 そう言えば…とクラウドは自分が携帯を使うことすら初めてであることに気がついた。 少し緊張してしまう自分が周りにバレないよう、無表情を保ちながらボタンを押した。 耳に当て、暫し待つ。 数回のコール音。 プツリ、と繋がった音が聞こえたかと思うと、唐突にそれは『ツー…ツー…ツー…』という切れてしまった音に変わってしまった。 「……」 困ったように携帯を見つめるクラウドに、見守っていたユフィが身を乗り出した。 「切れた?」 「あぁ」 「留守電にもならずに?」 「…ならなかったな…」 「なんでだろ…」 「……」 困惑してもう1度短縮の1番を押す。 いや、押そうとしてクラウドは携帯の異変に気づいた。 「アツッ」 小さく声を上げ、煙を噴き出したそれを思わず取り落とす。 見守っていたメンバーはそれぞれギョッとして床に転がった携帯から距離を置いた。 「うわっ!」「煙ってなんでさ!?」「火事!火事になるだろうが!!」「水・水!!」 一瞬で騒然とし、慌てふためく面々を嗤うかのように携帯はプシュ〜〜…という音に続いてポンッ!と言う軽い何かが破裂したような音を上げ、モクリ、とした煙を吐き出した後、完全な沈黙を遂げた。 全員の目が携帯に注がれる。 「ポンッ…って…」「いや…そりゃねぇだろ」「漫画じゃあるまいし」「てか、ポンッって…」 えええええええ!?!? 大音響でアバランチメンバーの驚愕した声が響き渡る。 声を上げなかったのはヴィンセントとクラウドくらいだろう。 もっとも、クラウドの場合は呆気のとられすぎて頭が状況についていかなかっただけの話しなのだが。 「1回だけ繋がる携帯…か。追跡されないように、ということなんだろう」 「いやヴィンセント!?1回だけ繋がるって言ったって、話も出来ないで切れちゃったんだけど!?」 冷静に分析したヴィンセントにユフィがすかさず突っ込んだ。 しかしヴィンセントはどこまでも冷静沈着だった。 「神羅は常に電波を傍受すべく網を張り巡らせている。それは皆、知っているだろう?我々の居場所も、我々という存在が神羅の一員と繋がっているということもバレないようにするためには非常に有効な手だ」 その一言で騒然としていた場が落ち着きを取り戻す。 「あちらから何かしらのコンタクトを取って来るのを待つしかないな」 「おい、ちょっと待て。…ってぇことは、俺たちはこのまま神羅ビルへ突入出来ないってことじゃねぇのか?」 シドの一言に今度はクラウドも含めて再びその場の雰囲気が険悪になる。 もう一分たりとも待機状態は我慢出来ないというのに。 クラウドは立ち上がった。 「おい、どこ行くってんだお前は!」 「神羅ビルへ向かう」 バレットへ視線を流すとメンバーの驚いた顔にぶつかった。 反対される前に素早く口を開く。 「俺たち”死神”は体の感覚が鋭敏だ。多分、近づいていけばザックスは気づいてくれる」 「気づくってお前…」 そんなあやふやな状態で…。 続くはずのその言葉は、突如クラウドが部屋を飛び出したことによって口の中に消えていった。 あまりにも突飛すぎるその行動に、全員度肝を抜かれて追いかける。 押し問答に時間をかけたくない、と短気を発したのかと思ったのだが、そうではなかった。 「エアリス!」 メンバーがクラウドに追いついたのは家を出てすぐのところだった。 エアリスを腕に抱え、懸命に声をかけているクラウドを見て、飛び出したのはエアリスを追いかけてのことだとようよう気づく。 取り乱した様子のエアリスをクラウドは一番に追いついたヴィンセントへ押し付けるようにして託した。 そうして、わき目も振らずに走り出す。 その背に向かってエアリスが叫んだ。 「クラウド!5番街の教会だから!そこにいるから!!お願い…お願い、ザックスを!!」 アバランチメンバーは新たな波乱に巻き込まれたことを知った。 |