遮光カーテンを引いた薄暗い部屋で、彼女は確かに息をしていた。 しかし、今にもその呼吸を止めてしまいそうな儚げな様子は、男の目に焼き付いて離れない。 一番傍にいてどんな災厄からも守りたかった彼女を守れなかった自分と、彼女をあんな目に遭わせた”死神”の両方に怒りが湧き上がる。 鬱屈した気持ちはドロドロと心の中に溜まっていき、感情の全てが飲み込まれそうになる…。 「エルダス、大丈夫だって。この星一番の巫女がそう言ったんだからさ」 目の前の食事に手をつけず、黙ったまま打ち沈んでいるとウータイという辺境の地出身の少女が明るい声と共に背をバシンッ!と叩いた。 結構な力が入っていたため、思わず前につんのめったが、それが彼女なりの気の使い方だと知っている青年は苦笑を浮かべて謝意を口にした。 「それにしても、エアリスはどこ行ったっすかね?」 「さぁ。『デートだから帰りは分からないわよ〜』って言ってたけどなぁ」 「あれって本当にデートなのかしらね?」 ウェッジ、ビッグス、ジェシーが首を捻りながらあれこれ言っているのをなんとはなしに聞きながら、バレットはジョッキをグイッと呷った。 まだ朝なのに…である。 「さぁなぁ。まぁそれが本当だとしても、エアリスもいい歳だしな。詮索されたくないこともあるだろうよ」 「おお、バレット。おめぇがそんな理解のあることをというとは俺様、初めて聞いたぜ!」 まあ飲め。 と、ウィスキーをジョッキに注ぐ。 ビールジョッキでウィスキーを飲む親父たちの心理が分からん…と、ユフィはシラッとした目で一瞥したが、隣に座る幼い少女の頭をポンポンと気遣うように叩いた。 「あんなパパでマリンは大変だねぇ」 うっかりホロリ、と泣きかける忍に、だがしかし少女はニッコリと微笑み見上げた。 「ううん、大丈夫!父ちゃんはこの星のために戦ってるんだからこれくらいはイイの」 途端、うぉおお!という雄叫びと共に巨体が少女へ突進した。 抱き上げ、強面のその顔で可憐な少女の頬を思い切り頬ずりする。 まさしく『美少女と野獣』だ。 「父ちゃんは…父ちゃんは!マリンのためにこれからも戦い続けるぜ〜!!」 暑苦しい父親の愛情表現に、少女はニコニコと愛くるしい笑みで受け止めた。 毎度毎度、この少女の包容力には感服する、とその場の面々が苦笑する。 「うん!父ちゃん、頑張ってね。でも」 「なんだマリン?」 「ご飯が終わったらちゃんと後片付けしてね?ティファ、調子が悪いんだから起きてきたとき、もっと具合が悪くなったりしないように気を使ってあげないと」 ね? そう言ってニッコリ笑った少女の笑みからこの場にいる誰よりも威圧感を感じるのは気のせいだろうか? 巨漢の男は笑顔のまま微かに頬を引き攣らせ、「はい、もうこれ以上飲みません」と呟くように宣誓すると、そっと愛娘を床へ下ろした。 それを視界の端に映しながら、いつもと変わらないその情景にエルダスはほんの少しだけ救われた気がした…。 Fantastic story of fantasy 5「それで、俺と会ってないとき、浮気してなかっただろうな?」 「なに言ってるの。それは私の台詞でしょう?ザックスが女の子大好きなの知ってるんだから」 「女の子は大好きだな、確かに」 冗談で言った言葉に対してあっさりと頷いた恋人にエアリスは白い目を向けた。 向けられた当の本人は「だけど」と悪戯っぽくニヤリと笑う。 「その中でも群を抜いてエアリスが好きだから俺が浮気する可能性はゼロだ」 途端、エアリスの白い頬に朱が差した。 軽く目を見開いて呆けたような顔をする彼女を見るのは実に久しぶりのことだ。 ザックスは満足げにニヤニヤ見つめる。 (あ〜、やっぱ可愛いよなぁ、エアリス) 惚気満載の言葉を心の中だけで呟く。 赤い頬をしてウロウロ視線を彷徨わせながら「そ、そう?ならイイんだけど…」とかなんとか言っている彼女をもっと困らせて見たい気もするが、今日はそんな可愛い反応を見ることだけに時間を使えない。 彼女を呼び出した本来の用件を無視してこのままエアリスと甘い時間を…という強い誘惑をザックスは溜め息と共に切り捨てた。 大きな溜め息に赤い顔を訝しげなそれに変え、エアリスはザックスを見た。 ザックスは笑んだまま視線を少し下げている。 節目がちな瞳は固い意志を宿し、切り出す言葉のきっかけを探していることを現していた。 エアリスの胸がある予感に緊張を孕む。 声をかけたい気持ちを抑え、彼女は黙って彼が口を開くのを待った。 「エアリス、俺が前に話したダチのこと、覚えてるか?」 唐突に切り出された内容だったが、エアリスは戸惑うことなく頷いた。 ザックスから聞かされていた”親友”の話。 金髪碧眼の”美人顔”。 無愛想で一見付き合いにくいタイプの男の子。 だが、1度懐に入れた人間はどこまでも大切に大切にするという義理堅い性分であること。 付き合っていくうちにとても不器用で目が離せないという一面を持っていたということ。 そして…。 「神羅の犠牲者…だったよね?」 「あぁ。実験の被害者だ…今も」 苦々しい彼の口調に、エアリスは「そうだね…」と暗い顔をして咲き乱れている花へ目を移した。 生まれたときから神羅組織に狙われているエアリス。 そのエアリスを今も追っているタークスという部署出身のザックス。 2人の出会いはまさに敵としてのサイアク最低のものだった。 だが、エアリスとの出会いがなければとっくにザックスは人としての大切な何かを失っていただろう。 エアリスもまた、ザックスと出会っていなければ神羅組織に汲みするものが、自分たちと同じ”人間”であるという当たり前の事実を忘れてしまっていたかもしれない。 2人は言わば、お互いになくてはならない出会いをした恩人同士ということになる。 「俺があの実験をクリア出来たのはエアリスのお陰だ」 感謝の言葉のはずなのに、その声音はとても重いものとしてエアリスの胸に響いた。 彼が何を言おうとしているのか、薄ぼんやりとだが判る気がする。 同時に、自分たちに何が待っているのか…も。 その瞬間を少しでも延ばしたいと思ったが、エアリスはその気持ちをグッと堪えた。 隣で顔を上げた気配に、エアリスもまた顔を上げた。 近くにいるのにとても遠くに感じる…。 「エアリスにしか頼めない」 アイスブルーの瞳はどこまでも落ち着いて、少しの動揺も見せなかった。 逸らされることのない瞳から、一瞬だけ逃げ出したい気持ちに駆られたがエアリスは逃げなかった。 真正面からしっかり見つめ返し、彼の言葉を待つ。 「あいつのこと…頼む」 「……ザックスはどうするの?」 声が震えてしまわないように腹に力を込める。 上手く言えただろうか?と、エアリスは少しだけ不安になった。 まるで自分のものではないような声になってしまった気がするのだが、心臓がバクバクとうるさ過ぎてよく分からない…。 ザックスは動揺していることに気づいたかもしれないが、それでもその表情は変わらなかった。 変わらないまま、真剣な顔で淡々と口を開く。 「俺は神羅に残る」 ああ…やっぱり。 そう言うと思っていたのだ。 前々から親友を助けたい、と口にしていた彼だったが、『その時には自分も一緒に神羅を出る』という言葉は1度として聞くことはなかった。 そう言われると分かっていたからこそ追求したことはなかったというのに、とうとう切り出されてしまった。 避けてきたことがこうして目の前に突きつけられて、エアリスはちょっぴり悔しくなった。 だから、「どうして?」とあえて問う。 「クラウドを逃がしたら必ず神羅は血眼になって探す。そのとき、神羅にいた方がクラウドの助けになることが出来るからな」 それだけが理由なのか?とエアリスは腹が立つやら惨めになるやらでうっかり泣きそうになった。 だが、ここで泣くのは卑怯だと言うことも知っている。 女の涙を武器にするつもりはなくても、結局はそうなってしまうことも分かっている。 なにより、ザックスがクラウドという青年をどれほど気にかけているのか、その決意の程を見ればたやすく分かるというものだ。 彼を非難など、出来ようはずもない。 「うん、そうだね」 内心の落胆をおくびにも出さず、冷静な声を必死に搾り出して立ち上がり、壊れた天井を見上げた。 後ろ手に手を組んで、背を向ける。 「それで、そのクラウドって人、どうやって連れ出すの?」 精一杯の強がりを見せるエアリスの背中。 ザックスはフッと目元を和らげると、やれやれ、と首を振りながら立ち上がった。 そうして、背後から腕を伸ばして抱き締めた。 いきなりの抱擁に身体を固くした彼女に、ザックスは「ばっかだな。クラウドのことだけで神羅に留まるわけないに決まってるだろ?」と笑う。 「神羅に残る一番の理由は、エアリスのために決まってるじゃん?」 悲しいとか、腹立たしいとか、悔しいとか。 そう言う醜いドロドロと沸騰した感情は、この一言であっという間に霧散した。 代わりにどうしようもない切なさが胸いっぱいに溢れ、涙腺を刺激する。 「泣くな」 「…泣いてないもん」 「ほぉ、じゃあこれはなんだ?」 「ザックスが暑苦しいから汗かいただけ」 「おいおい、汗かよ。乙女がどうこう言ってるくせにさぁ」 腕に落ちた雫に気づき、彼女の身体をくるりと反転させてザックスは笑った。 「俺が神羅に残っている間は、絶対にエアリスとママさんに手出しさせない。つうか、手出ししようとしてたらその前に情報流すからな、クラウド使って返り討ちにしろ」 「ふふ、なにそれ。ザックスは助けに来てくれないの?」 「助けに行きたいに決まってるじゃん?でも、内部をかく乱する方がエアリスの安全のためになるだろうからな。恋人を助けるっていう美味しいシチュエーションは我慢する。だから、エアリスもクラウドで我慢してくれよ」 擁護して欲しいという青年を使って神羅の刺客を撃退しろ、など無茶なことを言う恋人にエアリスは笑った。 こういう奔放なまでの明るさ、人を信じる強い心に惹かれたのだ…と改めて思う。 クスクス笑うエアリスに、ザックスは安心したように微笑んだ。 「エアリス…ごめんな?」 心に染み渡るその言葉に、折角止まった涙がまた溢れ出す。 頬を大きな手の平で拭われる感触に目を閉じるが、涙は止まらない。 神羅に留まるその危険を考えると、心底、彼を失ってしまうのではないかという恐怖が沸いてくる。 クラウドという”死神”を逃がすことがザックスをどういう目に遭わせてしまうのか…それを考えると落ち着いて話をする気持ちには到底なれない。 ”死神”という貴重な存在を逃がす手引きをした者を神羅が追求しないはずがないのだから。 勿論、手引きしたことがばれないようにザックスは上手くやるつもりだろうが、神羅組織には優秀な人材が豊富に揃っている。 それを考えると、ザックスのようにエアリスは楽天的にはなれなかった。 頬に触れる大きな手にそっと自分の手を重ねる。 「…本当に、残るの?」 「あぁ」 「…大丈夫…なの?」 「おう、大丈夫だ」 あまりにもあっさりと肯定したザックスに、エアリスは目を開けた。 いつも飄々としていて、本当に大変な時も茶目っ気たっぷりに笑って誤魔化し、”大丈夫”を貫いてきた恋人をエアリスは見つめる。 見つめていると、本当に大丈夫な気がしてきた。 どう考えても大丈夫と安請け合い出来る状況ではないというのに、それでも彼はそんな大変な状況も『なんとかしてしまう』という気にさせてくれるのだ。 それは、彼が持って生まれた”力”。 ザックス・フェアは星から力を与えられて生まれてきた人なのだ。 だから…。 「うん、信じる…よ」 信じてみよう、と思う。 ザックス以外の人なら絶対に信じられないだろうことも、太陽のようなオーラを持つこの人なら…。 微笑むエアリスに、ザックスもまた微笑み返した。 「うん、やっぱこっちがいいな」 なんのことか分からず、軽く小首を傾げるとザックスは「うん、いいな」と繰り返した。 なにが?と目だけで訊ねるエアリスに、青年は究極の殺し文句を口にした。 「エアリスは笑ってるか怒ってるか拗ねてる顔しか見せてくれなかったからさ、泣いた顔も1回くらい見てみたいなぁって思ってたんだよな。けど、やっぱ笑ってる顔の方がエアリスらしくって、俺はこっちが好きだ」 勿論、泣いてる顔もめっちゃそそられたけど。 最後の台詞が耳に届いた瞬間、エアリスの白い顔が真っ赤に染まった。 目をまん丸に見開いて臭い台詞を吐いた恋人を凝視するエアリスは、涙が止まったことに気づかない。 ザックスは一瞬、もっとからかってやろうかと意地悪なことを考えた。 しかし、その誘惑よりももっと強い思いに胸を占められる。 それは…切なさ。 暫く会うことはおろか、連絡すら取れなくなる。 だから、息を止めて頬を赤く染めている彼女を抱きしめる。 久しぶりの逢瀬も、そろそろ時間切れだ。 「明後日までにクラウドを向かわせる」 どこに?とは聞かない。 エアリスは黙って頷いた。 別れの時間が迫っていることを雰囲気で察し、思わず抱きしめてくれている人の背に腕を回す。 しっかりとしがみついてくる感覚に、ザックスは腕の力を更に込めた。 エアリスの髪に頬を押し付け、香りを胸いっぱいに吸い込む。 花の世話をしているからだろうか、彼女の香りはいつも芳しい花の香りがした。 この香りとも暫くお別れだと思うと、胸に詰まるものがある…。 だが、口にしたのは彼女への思いではなく親友のことだった。 「多分…最初は俺のとき以上の禁断症状が出ると思う」 「…そんなに酷いの?」 「あぁ、酷い。よく耐えてると思う。だから…」 「うん、大丈夫。クラウド…くん?が負けたりしないようにちゃんと見てる」 タークスとして出会った青年ザックス。 彼とはその後、何度か顔を合わせた。 その度にグイグイ彼はエアリスの心に入ってきた。 また、エアリスもザックスの心にスーッと溶け込んできた。 2人が気持ちを通わせるようになるまで時間はかからず、神羅に見つからないよう、アバランチの仲間にバレないよう、人目を忍んでほんの僅かの逢瀬を楽しんだ。 それがある日、唐突にプッツリと連絡が取れなくなった。 タークスは危険な任務が多いことは分かっていたから、連絡が途絶えたとき、エアリスは覚悟した。 もう彼は星に還ってしまったのだ…と。 あの時は薄情者!と、散々泣いた。 死んだとしても、星に同化する前なら魂の状態で大切な人のところに一瞬だけ会いに来ることが出来るのに、会いに来ないなんて、サイテーだ!と。 最期くらい何よりも優先して会いに来て欲しかった…と、薄情な恋人を散々なじり、涙したあの日々は絶対に誰にも内緒だ。 それが、ある日突然この壊れかけた教会で再会した。 ザックスの変貌振りを目の当たりにしたエアリスは、生きていてくれたという喜びよりも、驚きと、神羅への怒りに打ち震えた。 ”死神”というトップレベルの生きた兵器を作り出している…というのは、もう世間では有名な話だったが、具体的にどういうものなのかということまでは世に知られてはいなかった。 よもや、洗脳と実験の繰り返しにより、人間らしさを奪い去られた哀れな成れの果てとは…。 催眠薬による禁断症状。 それはすさまじく、何度も何度もエアリスはザックスに癒しの術を施した。 身体への傷は癒すことが出来ても、精神面での癒しに術は効かない。 催眠薬への渇望、人でありたいという強い願望、それら両者の間で激しく揺れるザックスを支え、励まし続け、そうしてようやっとザックスは人体実験というおぞましい魔手から完全に解放された。 そのことで、まさか彼が”死神”として確固たる地位に位置づけられてしまったことは皮肉以外の何ものでもない。 催眠薬に頼らずとも、自身の肉体の限界ギリギリまで力を発することが出来るようになったザックスは、折角逃亡したというのに神羅へ戻ってしまった。 戻った理由は2つ。 親友を置き去りに出来ないということ。 もう1つは、エアリスを守るため。 この理由は今でも変わらない。 変わらないからこそ、こうして暫しの別れを匂わせる。 優しいけど酷い人だ…と思う。 だが、やはり自分で出来ることなら精一杯、力になりたいとも思う…。 「大丈夫。私に出来ることなら私らしく最後まで…ね」 「サンキュ」 ザックスは、最後まで言わずともちゃんと分かってくれているエアリスに喜びをかみ締めながら、理性を総動員して身体を離した。 「あいつの禁断症状は重いが、それ以前にあいつは”死神”でいることに抵抗が全くない。だから、俺のときみたいにここで1人、長時間耐えていくことは難しいと思う」 「うん」 「だからって、アバランチの本部に預けるって言うのはクラウドにとってもアバランチのメンバーにとってもかなり危険だってことは…分かってる」 「分かってるけど、それ以外に道はないってことなんでしょ?」 「…あぁ」 エアリスは笑った。 「なら、心配しても仕方ないじゃない?まぁ確かに、クラウドくん?の正体がバレたら大変だろうけど、顔はバレてないんでしょ?いっつもフードかぶってるもんね」 「あぁ…バレてはないと思うんだが…」 ザックスは少し躊躇った後、心配そうな顔をした。 「あのさ…、ティってつく名前の女、いる?」 「え?」 唐突な質問に面食らいながら、エアリスはこっくり頷いた。 「ティファのことかな?今のところ、アバランチの本部にいる女の子ってティファと私とジェシーくらいだけど」 ザックスは目を見開き、嬉しそうな、それでいて酷く何かを恐れるような、複雑極まりない表情をした。 それを見てエアリスは突然、閃くものがあった。 ハッと息を呑み、眉を吊り上げる。 「もしかして、昨日ティファを斬った”死神”じゃないでしょうね!?」 うぐっ、と言葉に詰まるザックスに、エアリスは「信じられない…!」と呟くと、イライラと背を向け、花を避けて空き地をせかせか歩き出した。 「あの子、ずっとうわ言で『待って』『行かないで』って繰り返してた。時々『ク…』とか『ド』とか言ってたから、てっきり苦しくて呻いているんだと思ってたのに」 行ったり来たりするエアリスのその言葉に目を見開き、「助かったのか?!」と勢い込む青年に、エアリスは大きな溜め息をついて足を止めた。 「生きてる。でも、本当に危なかった」 んだから。 と、続くはずの言葉は、突然、思い切り抱きしめられ、喉の奥に消えていった。 「さすがエアリス!最高だよ!!」 背中をギューギュー目一杯抱きしめられて息が詰まる。 目を白黒させていると背中の腕は両肩へ移り、ザックスはガバッ!と引き剥がした。 キラキラ輝く笑顔はまさに太陽そのものだ。 「昨日、クラウドが初めてあいつらしさを一瞬だけだけど取り戻したんだ。心底動揺してるっていうか…。ターゲットを前にして攻撃を急遽変えたことなんか今まで1度もないのにさ。とにかく!クラウドにとってそのティファって子は特別だ。もしかしたら、四葉のクローバーの子かもしれないな〜!」 「…四葉のクローバーって……え!?」 素っ頓狂な声を上げた理由に気づかず、ザックスは満面の笑みで「あいつが一般兵の頃に1度、酔い潰したことがあってさぁ」と、嬉しそうに頷いた。 「そのときに、幼馴染の女の子と約束したんだ〜っつって、照れくさそうに笑ってさ。子供の頃、四葉のクローバー一緒に探して、結婚指輪の代わりに薬指に巻いてオママゴトしたことがあるんだ〜って、めっちゃ可愛い顔で笑うんだぜ?あの時ほど俺は自分の貞操の危機を感じたことはないね。一瞬、クラウドが男でもイイ!って思っちまった」 カラカラ笑うザックスに、エアリスは深く息をついた。 (ティファ) 心の中でベッドに伏せる親友を呼ぶ。 きっと大丈夫。 ティファ。 幸せになれるよ、絶対に! そのために自分が出来ることがあるなら、全身全霊をかけて務めてみせる。 親友のために固い決意をする恋人たちを、境界の花々が優しく揺れながら見守っていた。 |