「無事に出たようですね」

 クラウドの姿が完全に見えなくなるまで見送りながら、微かな期待とそこそこの不安、そして大きな使命感で胸を膨らませていると、背後から声をかけられた。
 クラウドの消えた方へ目をやったまま、あぁ…とだけ答えて二つ分の呼吸の後、ザックスはようやく顔を向けた。

「お陰で助かった。ありがとな」
「いえいえ。わたしの方こそ礼を言わなくては」

 神羅ビル入り口の柱に寄りかかるようにして立つ紳士は、微笑みながら重々しく頷いた。

「この狂った世界を変えるための投石を用意して下さったのですから」

 その表現に、ザックスは苦い表情を浮かべた。
 クラウドの前では絶対に見せない苦渋の顔だ。
 紳士はゆっくり歩み寄ると俯き加減に立ち尽くすザックスの肩をそっと叩いた。

「大丈夫です。絶対に、何が何でも成功させます」

 何ものにも屈しない強い意思を表す声音に顔を上げる。
 その通りだ。
 何が何でも成功させる。

 大切な人たちが”真”に生きられる世界へと変えるために。





Fantastic story of fantasy 8






 エルダスは吐き出す先のない不満を持て余し、イライラとテーブルを指で叩いていた。
 店内の窓からは厚い雲が仄かに暮色に染まっているのが見える。
 得体の知れない男をエルダスが2階に運んでから5時間が経とうとしていた。

 マリンが気遣わしそうにチラチラ視線を向けつつ、豆の筋取りをしていることに気づいてはいるのだが、どうにも我慢しきれない。
 その苦行を強いている元凶でもあるはずの女性はと言うと、カウンターの中で鼻歌交じりにいそいそと働いていた。

 なにがそんなに楽しいのだろう。

 自分とは正反対のウキウキした姿を見せ付けられながら、それでも大人の態度を取るというのは至難の業だと思う。
 そして、恐らくそれが出来る人間はこのアバランチの中では赤いマントの男だけだろう。
 本当はエルダス自身、自分もヴィンセントと並ぶほどに大人だと自負していたのだが、今回のことでそれが思い上がりだったことが分かった。
 所詮、自分もまだまだ青かった…ということだ。
 ”彼女”が中々頼ってくれなくても仕方ない…。

 うっかり吐き出した溜め息に、少女がビクリ…と小さい肩を震わせた。
 はっとして、ごめん、と言わんばかりに微笑みかける。
 しかしその溜め息を聞きとがめ、たしなめるような視線をカウンター内から投げられて、折角作った笑顔はあっという間にむっとしたそれに変わり、思わず睨み返してしまった。

「エルダス。大丈夫だって言ってるじゃない」

 腰に手を当てて呆れたような声を上げるエアリスに、しかし、それだけじゃない…と首を振る。
 じゃあ一体何が不満なんだ?とそれこそ不満そうに問われ、エルダスはイライラと髪をかき上げた。

「なにが不満?そんなの分かりきってるだろ!?あんな得体の知れない奴を泊めるだなんて、正気か?」

 堪えていた不満が一言口にしたことによって箍が外れる。
 徐々に声が荒くなるのを必死に抑えようとするが、どうにもコントロールが難しい…。
 内心の葛藤を知らず、エアリスも眉間にしわを寄せた。

「あらなぁに?それじゃあ、あんなに具合の悪い人をそのままぽいっと放り出せって言うわけ?」
「そうじゃない!」
「そういうことよ」
「違う!」

 理性は簡単に吹き飛んだ。
 カッとなって勢い良く立ったせいで、椅子が派手な音をして転がる。
 マリンがビクリッ!と身を竦ませ、慌ててカウンターの中に駆け込んで行くのがチラリと見えた。
 立っている場所からは見えないが、エアリスの足にしがみついているのは想像に難くない…。
 少女を驚かせた罪悪感がチクリと胸を刺すが、それを上回る苛立ちに心が流される。
 その憤りのままに口を開くとどうなるか考えろ、と頭の片隅で残っていた理性が必死に訴えるが、それを無視して苛立ちを吐き出した。

「俺達は常に危険と隣り合わせなんだぞ!?アイツが刺客でないと何故言える!!それなのに誰もいないときに1人で勝ってに決めて…、それがどんなに危険なことか分かってるのか!?」

 語彙荒く責めても尚、苛立ちは少しも減らない。
 いやむしろ、こんなにも怒りをぶつけていると言うのに小揺るぎもしない彼女の表情を前に益々苛立ちが強くなる。
 息を吸い、もう一度口を開こうとして……エルダスは口をつぐんだ。


「本気で言ってるの?他の誰でもないあなたが」


 全ての感情を消し去った声音。
 笑いも、怒りもしていない瞳。
 一気に頭に上っていた血が下がり、背筋にゾクリと悪寒が走る。

 あなたが。

 その部分に微かな力を込められた意味をかみ締める。
 そうだ、自分にはエアリスの判断に対し、意見する資格はない。
 彼女の無防備すぎて危険とも思える判断により、救われた自分には。
 その恩を忘れたことは1度もないし、いつも『棚上げをする人間は最低だ』と公言して憚らない自分が、今まさに棚上げしていたという事実を突きつけられ、胸の中はごちゃごちゃだった。

 蔑んでいる人種と同じレベルまで堕ちてしまっていたという羞恥心と、エアリスが若い男を新しい患者として暫く泊めると言う判断をしたことを承服しがたい気持ちが胸の中でせめぎ合う。
 だが、結局は反対など出来ようはずがない。

「……そうだな…俺が言えた台詞じゃないな」

 悪かった…、と俯き加減に小さく謝り、転がった椅子を戻すべくしゃがみ込む。
 ピンクのワンピースが目に入ったのはそのときだ。
 いつの間にかカウンターから出てきたらしいマリンは、クリクリとした目に心配そうな色を浮かべて見上げていた。

「エルダス〜…大丈夫だよ?エアリスは怒ってるわけじゃないんだもん…。ただ…エルダスも、さっきのお兄ちゃんも、エアリスにとっては大切な患者さんなんだよ?だから…」

 一生懸命慰めの言葉を探す少女に、自然と頬が緩む。
 まだ小さいのに、人を思いやる気持ちに溢れた少女。
 この星がまだまだ捨てたものじゃないと思えるのはこういう時だ。

 大人の自分が小さい子供を前にして、いつまでもみっともない姿を晒すわけにはいかない。

「あぁ、ごめんなマリン。心配させて」

 作り笑いではない本物の笑みがこぼれると、少女は心配そうな顔から花開く笑顔へと変わった。
 椅子を起こして立ち上がるとマリンをそっと抱き上げる。
 小さくて温かいその存在に、弱い自分を少しだけ甘えさせてもらいながらエルダスはエアリスへ軽く頭を下げた。

「悪かった…」
「いいの。分かってるから」

 穏やかな声はいつもの彼女だ。
 でも…、と言うエアリスに伺うように目をやると、たった今見せていた無表情とは一変し、少し困ったような笑みを浮かべていた。

「心配は…本当にいらないのよ?」
「…あぁ…信じるさ」
「私が言ってる意味、分かってる?」

 何故か念押しのような言葉を口にするエアリスに眉尻が自然と下がる。
 無言でその意味を問うと、エアリスは少しだけ躊躇ったように間を空けた。


「ティファ」


 ピクリ、と頬が引き攣ったのが自分でも分かった。
 動揺を見せないように何か言おうとしたが、なにを言えば良いのか咄嗟に言葉が出てこない。
 エルダスの気持ちを見透かしているかのようにエアリスは苦笑した。

「あなたが心配してるのはティファのことでしょ?同じ階に得体の知れない男が…、しかも若くて美形が寝泊りするだなんてね」

 若くて美形…という注釈に思わず反論しかけるが、グッと言葉を飲み込む。
 急に具合が悪くなって倒れた青年がハッと目を惹くほどの容姿をしていたことは事実だ。
 否定するのは自分が狭量な人間であることを裏打ちしてしまうような気がする…。

 黙りこんで視線を逸らせるので精一杯だ。
 エアリスは苦笑を漏らした。

「でも、本当に心配ないわ。ティファは絶対に傷つけられたりしない。というか、あなたが心配しているようなことをあの人が仕出かすだけの力がない…っていうのが正解かな」

 遠まわしな言い方に眉根が寄る。
 そろり、と視線を戻すと、どこか案じたような顔で2階に続く階段のある方を見ている横顔が映った。

「…そんなに悪いのか?」
「ええ、とても……ね」

 暗いその声音に、ほんの少し、同情めいたものが胸に沸く。
 確かに、真っ白を通り越した土気色の顔色は尋常ではなかった。
 それに、2階へ運んだ際に感じた『軽さ』には驚かされた。
 あまりに軽いので、一瞬、本当に男なのかどうか疑ってしまったくらいだ。

 ちゃんと食べられる環境にいるのだろうか…?
 もしかしたら、日々の食事に事欠く生活をしているのかもしれない。
 だからあんなに具合が悪かったのかも…。

 だが、エルダスはその可能性を即否定した。
 感じたのはそれだけではなかったからだ。

 ベッドに寝かせたときに触れた身体、腕。
 あの”硬さ”は明らかに鍛え上げられたものだ。
 だからエルダスは警戒している。
 尋常ではない症状を見せたことと言い、軽い身体に不釣合いな鍛え方をした体躯と言い、普通の人間ではないだろう。

 恐らくどこか軍事的な組織の人間だ。
 そして、そこから逃げ出した…。
 そう推測出来るからこそ、エルダスはエアリスの判断に反対する。
 もしも本当に、どこかの軍事的組織の人間でそこから逃げ出した軍人ならば、追っ手がかかっているはずだ。
 そんな争いに巻き込まれるわけにはいかない。
 志半ばで死ぬわけにはいかないのだから。

 だが所詮、”星の巫女”とも”星の聖女”とも呼ばれている彼女の決定に反対など出来ない。
 彼女は自分の恩人。
 彼女が周囲の反対を押し切って助けてくれたからこそ、こうして今、生きている。
 ならば、彼女が決めたその決定を尊重しつつ、害が及ばないように盾になれば良い。

 そのためには…。

「エアリス、悪いけど俺の腕、また頼めるか?」

 三角巾に包まれているいまだに”擬似痛”が抜けない腕を軽く上げる。
 斬り落とされたはずの腕は、見た目には全く傷がない。
 しかし、身体に刻み込まれた”疲労感”や”苦痛”は日にち薬しかない。
 そのせいで、動きは鈍く、満足に戦うことが出来ない。
 だから一昨日の重要ミッションに参戦出来なかったのだ。

 囮役だけでも良いから参加させてくれと、どんなに懇願しても頑として仲間たちは許してくれなかった。
 戦いに参加出来ずしてなにが反・神羅グループだ!と、歯噛みしながらエアリス、マリンの護衛という役に甘んじ、仲間たちの…、ティファの無事を必死に願っていた昨夜…。
 ジリジリとした焦燥感、大きな不安を抱えてエアリスと共に眠るマリンを挟んで待っていたあの時間は、本当に長かった。
 そうしてようやく帰ってきた仲間たちに喜ぶ間もなく、グッタリと意識のないティファの白い顔が目に飛び込んできたあの瞬間。
 自分の周りの世界が一瞬にして消し飛んだ。
 エアリスが慌ててティファへ駆け寄った姿も、浅い息を繰り返しているティファも、そんなティファにエアリスが手をかざして祈り始めたそれらの光景も何もかもが目に映っていながら見えていなかった。

 頭の中が真っ白で、己の無力さに打ちひしがれるばかりだった。

 あんな思いは2度とごめんだ。
 彼女を守るために今度こそ一番近くで戦い、そして勝利を手にしてみせる。
 そのためには、役立たずの腕をなんとかしなくては。

 その固い思いを察しているであろうエアリスは、しかし困ったように微笑んだ。

「あなたに私が出来ることはもうあまりないけど…どうしてもって言うなら皆が帰って食事が終わってからね」

 気休めでしかない、と暗に匂わされても、それでもエルダスは頷いた。
 気休めでも良かった。
 いつまでも、腕を斬り落とされた苦痛を忘れない”脳”を不甲斐なく思う。
 もう大丈夫なのだ、と”脳”に刷り込ませ、一分、一秒でも早く痛みを失くしたい。


「あ〜、つっかれた〜、ただいま〜」

 バタンッ!と乱暴にドアが開き、およそ乙女らしくない台詞を大きな声で上げながら黒髪短髪少女がドカドカと入ってきた。
 後ろには心底グッタリしているシド、バレット、それに他のアバランチのメンバーが続いている。
 ヴィンセントだけは涼しい顔だ。

「みんな、お疲れ様。ご飯、出来てるよ」

 ニッコリ笑って出迎えるエアリスに、ユフィはスツールへ腰掛けるとカウンターへ突っ伏した。

「エアリス〜、お腹減った〜」
「はいはい」
「やっぱりか弱い乙女に油田開発なんか無理だっつうの!」
「誰がか弱い乙女だ、誰が」
「やっかましいよビッグス!張り倒すよ!?」
「ビッグスったら相変わらずう・か・つ」
「うぉおう、マリン、父ちゃんは今日も頑張ったぜ!」
「お帰り、父ちゃん!」

 ぎゃーぎゃーと一気に騒がしくなった店内で、そっと下ろされたマリンが一目散にバレットへ駆け寄る。
 バレットの強面がとろけるようなそれに変わり、惜しみない愛情を込めて頬ずりした。
 ヒゲが痛い、と笑いながら言う少女にエルダスは目を細める。

 平和な光景だ。
 しかし、この光景には肝心の彼女がいない。
 誰よりもその笑顔を見たいと思っている彼女が…。

 改めて神羅への怒りと、打ち倒すべき組織だと言う気持ちが強くなる。

「ほら、エルダスもなにボサッと突っ立ってんの。ご飯ご飯〜!」

 声をかけられ我に返る。
 仲間たちの笑いかけている目や不思議そうに見ている目に気づく。
 その仲間たちの中で一際目立つのが行儀悪くフォークとナイフで皿を叩くユフィ。
 その姿に苦笑する。

 こっちこっち、とナナキに促され、足を向けたその時だった。
 階上から何かが床に落ちた重い音が響いてきたのは。

 不思議そうに顔を見合わせる仲間たちに目もくれず、エアリスは顔色を変えて駆け出した。


 *


 冷たい床に落ちた衝撃は、しかし全く感じなかった。
 そんな余裕など微塵もなく、間断なく続く嘔気と悪寒、全身を走る疼痛に呻き声しか出てこない。
 任務が終わった翌日の不快感こそがこの世で一番の最低サイアクなモノだと思っていた。
 しかし、それが甘かったことを思い知らされる。
 全身から滝のような汗が流れ、服をぐっしょりと濡らす。
 頭が割れるように痛み、目を開けることが出来ない。
 感覚と言う感覚が冒され、猛毒を直接流し込まれているようだ。

 それらの苦しみから脱するには、あの甘い香りしかないとクラウドは知っている。
 唯一、己の意思で働かせる事の出来る嗅覚は甘い香りを捜し求める。
 しかし、それが与えられることはない。

 のた打ち回ることすら出来ず、床で身を丸くして呻くクラウドは、少しずつ少しずつ、感覚が己の手に戻ってくるのを感じた。
 割れるような頭痛と嘔気も徐々にではあるが落ち着いてきている。
 その時になってようやく、誰かが額と首筋を拭ってくれていることに気がついた。
 それだけではなく、なにやら頭…というよりも右頬が温かくて柔らかいものの上に乗せられていることを知った。
 冷たい床ではないその感触に、苦痛で強張っていた全身から力が抜ける…。

「もう大丈夫だよ」

 包み込むような温もりを湛えたその声に、ようよう目を開けて…。


 クラウドはギョッと飛び起き、途端、頭に走った鈍痛と眩暈のせいですぐにエアリスの膝に逆戻った。
 心臓がバクバクとやかましいのは絶対に体調不良のせいだけではない。

(…ザックスにバレたら……殺される)

 いつもは良い兄貴分として接してくれている親友だが、この『膝枕状態』を右から左に流してくれるとは思えない。
 彼がどれほど恋人に惚れ込んでいるのかを知っているだけに、楽観視など出来ようはずもない。

 一方、急に跳ね起きたクラウドにエアリスは目を丸くしたが、膝に逆戻るとしかつめらしい顔をした。

「ダメよ〜?キミは重症なの。そんな急に動いたら目が回るでしょ?」

 確かにその通りなのだが、だがしかし、この状態はマズすぎる。
 なんと膝から脱出しようとしたが、エアリスは額に当てていた手でガシッ!と頭部を固定し、自身の膝に押し付けた。
 そればかりかググッと顔を近づけ、「動いたらダメって言ってるでしょ?」と凄む。

 クラウドは観念した。

 頭痛と嘔気はもうほとんどないが、これ以上余計なことをするともっとマズイことを平気でしようとする可能性が高いことを悟る。
 大人しくなったクラウドに満足そうにニッコリ微笑むと、エアリスはふと後ろを振り返った。

「あ、ごめんねビックリした?もう大丈夫みたいだから」

 誰に話しかけているのだろう?と、気にはなったがエアリスの膝に頭を乗せられている状態では彼女の後ろが見えない。
 かと言って動くとまた怒られるだろう。
 大人しくする道を選んだクラウドの耳に、「いや…て言うかさぁ、エアリス、あんた…それ……誰?」というまだ若い女のしどろもどろした声が聞こえてきた。

「うん、新しい患者さん」

 患者!?と、素っ頓狂な声が複数の声で上がった。
 ようやく自分が数人の目に晒されていたことに気がつく。
 逃げ出したい気持ちに駆られると同時に、気配を読むことすら出来ていない事実に愕然とした。

 早く……神羅に帰らなくては。
 ここにいては、どんどん体調は悪くなる上、闘うことが出来なくなる…。
 自分の存在は闘うことのみにあるというのに…!

 焦燥感を抱くクラウドをよそに、その場では会話が凄まじい勢いで飛び交っている。

「エアリスー!てめぇ、また1人で勝手に!」
「うるさいわよバレット。この人、重症なんだから静かにして。それが出来ないなら出て行きなさい!」
「い、いや…エアリス?て言うかさぁ、その人誰なのかちゃんと分かってんの?」
「ユフィ、気にしないでご飯食べてきて。お腹空いた〜!って言ってたでしょ?」
「おいおいおいおいおい!エアリス、おめぇなに考えて」
「シド…、私が今、バレットに言ったこと、聞こえなかったの?静かに出来ないなら出て行って」
「エアリス〜…、エアリスの『苦しんでる人を助けたい』って気持ちは分かるけど…、おいら…ちょっと心配…」

「あぁああもう、うるさい!!」

 空気がビリビリと震えるほどの怒声。
 誰かがヒイッ!と悲鳴を上げたが、それを哂うことが出来ようか?

 その場の全員が一斉に口を閉ざす。
 クラウド自身、膝枕をされたまま目を丸くして目を吊り上げるエアリスを見上げるばかりで、ピクリとも動けない。
 押し黙った仲間たちに、しかしエアリスは止まらなかった。
 ギロリッ!と恐ろしい今での眼力でその場の一同を睨みつけると「全員、ここから出て行きなさい!!」と一喝した。

 転がるようにして複数の足音が階下へと遠ざかるのを、クラウドはなんとも言えない気持ちで聞いていた。
 エアリスはと言うと、クラウドを膝に乗せていることを忘れているかのように、まったくもうあの人たちは、とブツブツまだ怒っている。
 その姿に疑問がふつふつと沸いてくる。

 どうしてここまで他人である自分を守ろうとしてくれているのか…。
 ザックスの知り合いだと名乗っていないので、知らないはずなのに。
 それになにより…。


「あんた……何者だ?」


 抑揚のない平坦な声で訊ねる。
 不審に思っているわけではない。
 純粋に、ただ不思議だった。
 触れるだけで不調が良くなるなど、聞いたことがない。
 ザックスもそんな話はしてくれなかった。
 特別な力があるのだろうか?
 だから、神羅に狙われているのだろうか?

「お前は本当に知らないのか?」

 割り込んだ男の声にクラウドは目を見開く。
 全員がエアリスに追い出されたと思ったが、1人だけ残っていたらしい。
 エアリスは今度は追い出そうとしなかった。
 ほんの少し、躊躇うような目をクラウドに落とす。
 その視線の意味を悟るよりも、彼女の肩越しに背後へ立つ赤いマントの男にクラウドは今度こそ飛び起きた。


「……ヴィンセント・バレンタイン…」


 敵へ寝返った男として神羅が追っている人物。
 その男がこの場にいると言うことは。


「ここは……アバランチのアジトか…」


 ポツリと呟いた自分の声は、まるで他人のようだった。
 気遣わしげなエアリスと無表情の男を、クラウドは呆然と見つめた。






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