どの世界でも『悪党』という看板をいかにも背負った人間は、下品な笑い方をするものなのだろうか…?とクラウドは残り少ない『冷めた頭』で半ば感心、半ば呆れながら眼下の光景を見つめていた。






『義』という名の下に…。(後編)







 正直、よく飛び出していかなかったものだ、とクラウドは思った。
 飛び出していかなかったことを感心したのは、傍らで無言のうちにシャッターを切るプライアデスもそうだし、巨木の幹に手をつき、小刻みに震えている自分自身に対してもだった…。
 腸が煮えくり返りそうな光景が眼下では繰り広げられている。
 若い妊婦を突き飛ばそうとしている無頼漢もいれば、小さい子供を人質にとって下卑た笑い声を高らかに上げている愚者もいる。
 そして、それらの『盗賊』たちを、ただジッと『ある程度の時が経つまで』見守るというのは本当に辛かった。
 助けられる力がないのなら、指をくわえて見ている己に対しても言い訳がたつ。
 しかし、助けられる力があるのに『証拠』を握るためだけに見殺しにするというのはなんとも…。

「ライ、お前が上司に報告するとかそんなことを考えられずに飛び出した気持ちが分かった…」
「…どうも…」

 2人して村の巨木の枝に立ち、一部始終を見守っているとは、なんとも滑稽だとクラウドは思った。
 恐らくその思いはプライアデスも同じなのだろう。
 いつもからは考えられないほどの無愛想振り。
 クラウドの言葉に対し、『どうも』の一言で済ませるとは、よほど歯がゆいに違いない…。

 無論、2人が傍観しているのは一重に『盗賊』と組んでいる『義賊』が登場し、村人たちを救った後、『親密にしている』証拠を握るためだ。
 今、飛び出して行って弱者を救うのはたやすい。
 しかし、それでは意味がない。
 いつまでも続く『犯罪』にピリオドを打てない。
 恐らく、今、暴れまわっている『盗賊』を捕まえ、『義賊』との繋がりを吐かせる事が出来たとしても、それは世間に通用しないだろう。
 それほど、『義賊』の人気は高かった。
 それに、下手をするとWROの信用問題にも発展する。

 ―『義賊に手柄と人気を掻っ攫われたWROの陰謀だ!』―

 そういう声が上がるだろう、必ず。
 だから、プライアデスは動かない。
 怒りのあまり、小刻みに震えながらもカメラのシャッターを切り続ける。
 連続で撮れるカメラを、覗き込みもせずに胸の前で構えたまま無秩序に切りまくる。
 レンズを合わせてシャッターを切るなど、到底出来ないのだろう。
 照準を合わせるということは、即ち被害に合っている人達をこれ以上ないくらいジッとひと時、凝視することに他ならないのだから。
 クラウドもプライアデスも、村に潜入した時点からくまなく村全体に気を配っていた。
 もしも『盗賊』が命を奪おうとしたら、その場合は『作戦』とか『証拠』とかそんなもの関係なしに助けに入るためだ。
 一瞬足りとも気を抜けない。

 2人にとって、一種の拷問とも言える時間はあまり長くなかった。


「そこまでだ!!」


 なんとも『三文芝居』に相応しい台詞で村の入り口に待っていた者達が現れたのだ。
 登場効果抜群に、堂々と胸を張って立っているのは、いかにも、と言う風貌の若者たち。
 中には、壮年の男もいたが、この男こそが一番の曲者だな…と、期せずしてクラウドとプライアデスは思った。
 若者を前に押し出して自分は後ろの方に控えているが、それでも眼光鋭いその面構えに気迫は、見るものが見ればすぐ気づく『力』を発散していた。
 男の鋭い眼光が、クラウドとプライアデスの潜んでいる巨木をかすめる。
 2人は咄嗟に太い幹に身を寄せて隠れたが、生い茂る葉によって気づかれなかったらしい。

(気配を消すのは俺たちの方が上だな…)

 クラウドは冷静に判断した。
 その間も、『盗賊』と『義賊』の三文芝居は続いている。
 お決まりの、
「誰だ、てめぇら」
 から始まり、
「俺達は弱者の味方、覚悟するんだな」
 という、歯の浮くようなクサイ台詞が飛ぶ。
 そして…。

「やっちまえ!」「『義』の名の下に!!」

 同時に、これ以上ないくらいのお決まりの台詞が飛び交って乱闘が始まった。
 最初、『盗賊』は村人達を遠慮なく盾にして『義賊』の動きを封じて、汚い攻撃を繰り出した。
 数人の『義賊』が苦悶の呻きを洩らして地面に倒れる。
 村人達の悲鳴と泣き声、『盗賊』と『義賊』の気合、雄たけびが入り乱れ、村は騒然となった。
 しかし、見ていれば分かる。
 双方共に大した怪我を相手に負わせていない。
 ギリギリのラインで攻撃の力を緩め、致命傷を与えられるはずの隙をわざと外す。
 しかし、それに気づいている村人はいない。
 それはそうだろう。
 今、村にいるのは幼い子供に女だけ…。
 数名だけ男はいるが、戦闘とかにはとんと無縁と分かる者達ばかり…。
 働き盛りの男達は油田開発で汗を流しているのだから…。

 と、その時…。

 まだ幼い少年が、乱闘に巻き込まれたお腹の大きな母親を庇おうとして小さな腕をいっぱいに広げ、立ちふさがった。
 その先には派手に横転した『盗賊』の持つ大振りのソード。
 ギラリ、と陽光を受けて反射するその切っ先が、あわや少年の眉間に深々と刺さる…。


 なんて場面になっても、木の上の2人が動かないはずもなく…。


 ザワリ…。
 乱闘の荒れ狂った空気が凪いだ。
 突然現れた2人の青年に、村人も『盗賊』も『義賊』も目を丸くした。

「大丈夫か?」
「はい、怪我はないみたいです」

 バスターソードで『盗賊』の武器を跳ね飛ばしたクラウドの背後で、プライアデスが少年を抱きかかえて微笑んでいる。
 少年は目をパチクリさせ、ただただビックリしていた。
 そっと少年を母親の傍に下ろし、
「大丈夫ですか?」
 優しく母親に声をかける青年に背後のことは任せ、クラウドは振り返らず真っ向から『盗賊』と『義賊』を睨みつけた。
 奇妙なしじまは、徐々に驚愕の囁き声で埋まり始める。
 その場の誰もが『どこかで見た顔だなぁ?』と、首をひねりながらクラウドを見る。
 誰が最初に言ったのだろう?

「おい、クラウド・ストライフじゃないのか…?」

 その一言が決定的となった。
 密室に充満したガスに引火したように、その場が騒然となったのだ。
『盗賊』たちは当然のように、自分たちの不利を悟って浮き足立った。
『義賊』も同様だ。ただ1人、猛者と思われた壮年の男だけが眉間のシワを深くした。
 村人達は、突如現れた『ジェノバ戦役の英雄』に完全に意識を奪われている。
 自分達をまさに救いかけてくれた『義賊』への関心はもうなかった。

「わ〜、さすがクラウドさん。すごい人気ですねぇ」
「………刺すぞ…」

 憮然とした表情で応え、クラウドはバスターソードをツ…と前へ向けた。
 切っ先は壮年の『義賊』を向いている。

「ここから先は俺が相手になろう」

 誰かが悲鳴を上げた。
 それは、『盗賊』からだったのか『義賊』からだったのか…。
 そんなことはクラウドにとってどうでも良いことだった。
 そして、パンクスタイルに変装しているプライアデスにとっても…。

「あ、あなたがジェノバ戦役の英雄、クラウド氏ですか。これは心強い」

 ようやく我に返ったのか、『義賊』の若者が声を上げた。
 仲間達を鼓舞するために上げたその声だが、残念なことに裏返っている。
 クラウドは目を細めてその若者を見た。
 ビクッと肩を震わせて半歩後ずさった若者に、
(あぁ…ライの言った通りか…)
 バルト家の情報網を感心すると同時に、言いようのない怒りがこみ上げる。
 折角の『芋づる式に不逞の輩を捕まえてやろう』作戦は、自らダメにしてしまったが、ここにいる『詐欺師』たちだけでも捕まえなくては。

(さて…どうするか…?)

 ねめつけている僅かの間に考える。
『盗賊』をこの村で縛り上げ、わざとWROを呼ぶ。
 WRO隊員達が到着するまでの間、恐らく『義賊』は立ち去ろうとするだろう。
 だが、それをなんとか言いくるめて引きとめ、『義賊』の前でWROに引き渡す。
 そうすれば、もしかしたら『盗賊』の誰かが『義賊』に向かって『助け』を求めるかもしれない…。

 ―『お前ら、自分達だけ助かろうって魂胆かよ!!』―

 一声で良いのだ、その言葉が『盗賊』から上がれば、『義賊』を調べる言い訳が立つ。
 しかし、そうなる可能性は高いのだが、そうならない可能性はゼロじゃない。
 意外と『盗賊役』の者達が『仲間意識』に強く、頑として口を割らないとも限らない…。
 少しでも、捕まえられないかもしれない可能性は選択したくない。
 だが、さてどうしたものか…。


「ほぉ、WROというのは中々自由な組織のようだな」


 クラウドの神経を逆撫でするには十分なその声音。
 壮年の男が侮蔑も露(あらわ)にプライアデスを見ていた。
 プライアデスも自分に向けられたその挑戦的な目を真正面から見つめ返している。
 村人達のざわめきが大きくなった。
 クラウドという英雄に引き続き、なんとも都会なファッションをした青年がWROの隊員とはどういうことか…?
 そういう囁き声がザワザワと不穏な空気に塗り替える。
 クラウドはハッとした。
 プライアデスが奇抜な変装をしているにも関わらず、その正体をあっさり看破したと言うことはこの壮年の男は謹慎処分の原因である事件の場にいて、プライアデスを間近で見ていた証し。
 しかし、それだけでは十分な証拠とはならないし、何よりこの不穏な空気を何とかしないとプライアデスの立場は悪くなり、WROの評判も……。


「おや、僕に気づいて下さったんですか。それはそれは、光栄ですね」
「気づかないとでも?大事な仲間をぶっ飛ばして大怪我させたとんでもない野郎を、忘れるわけねぇだろうが」

 やられた!

 一気に村人達の目が疑惑に変わる。
 飄々としている『名も知らぬ青年』を、まさに『盗賊の一味』であるかのように見る村人たちの視線に、クラウドは無表情の仮面の下で大汗をかいていた。
 だが、当の本人は至って平然としている。

「そうですね、大切な仲間だったでしょうから」

 ニッコリ笑いながら男の言葉を否定するどころか肯定した。
 まるで挑発するかのようなその言葉に、壮年の男は唇を捻じ曲げて笑みを浮かべた。
 口を開き、更に余計な一言を浴びせようとしたのだが、

「あ、コイツ、あの時の隊員!?」
「っかーー!!なんつう格好してやがる!」
「でも、あの時は目の色、あんなんじゃなかっただろう、確か…そう、モンスターの色だ!」
「そうそう。てことは、あの時がカラーコンタクトで今が素じゃないのか!?」
「けっ!WROと言っても所詮はお気楽な組織。こんな辺鄙な村にまで遊びにフラフラ来るとはよぉ」
「しかも謹慎中って時に旅行とは…、まったくとんでもない組織だ」
「おうよ!だから、俺達は『自由』に弱者を守れる『義賊』でありたいんだ。分かるか、お前みたいに性根の座ってない人間とは違うんだよ!」

 力を取り戻した『義賊』が一斉に罵声を浴びせた。
 壮年の男が口を挟む隙も、注意をするヒマもなかった。
 その罵声が上がったのが『義賊』『盗賊』双方からだった…。
 そのことに村人たちが気づく前に、壮年の男は『義賊』を撤退させようとしたのだろうか?仲間達に向けて苛立たしげに口を開きかけ、ハッとした顔つきになった。
 慌てて振り返るのと…。


「そこまでだ」


 静かで決して大きな声ではなかったのに、ズシン…と腹に響く声がその場の人間たちを打った。

『義賊』が登場した時と全く同じ台詞なのに、言う人物が違うとどうしてこうも違うのだろう…?
 村の入り口に佇む青年を見て、どこかズレた頭でクラウドは思った。
『義賊』『盗賊』そして村人達が本日何度目かの驚愕に見舞われた。


「…WRO……!」


 プライアデスとは違い、クセのある漆黒の髪を持つ若き少佐は、背後にざっと20名以上の部下を従え、静かな巌(いわお)のように立っていた。
 呻くように言ったのは、一体『盗賊』だったのか、『義賊』だったのか…。

 シュリはまさに威風堂々と足を進めてきた。
 背後に控えている部下は、それに伴い半方位に挟み込むようにして展開する。
 それぞれ銃を構え、いつでも攻撃出来る体勢だ。
 そしてその隊員達のさらに後方には、見慣れない集団が何故か『義賊』と『盗賊』たちを睨みつけるようにして控えていた。
 漲(みなぎ)るその闘気は凡人のそれではない…。

 村の人達は、あまりの展開の速さについていけず、ただ身を寄せ合ってオロオロとしているばかりだ。
 クラウドの背後からプライアデスの気配が動いた。
 村人たちをさりげなく安全な場所に誘導している。
 動きが実に自然で、突然現れて自分達を包囲しているWROの存在にすっかり気をとられている盗賊達は、プライアデスの動きには気づいていないようだ。
 よしんば気づいていた人間がいたとしても、それは恐らくたった一人。
 壮年の男だけだろう。

 いつしかシュリと壮年の男の距離はわずか3メートルほどとなった。

「何だ、俺達まで一緒に捕まえるつもりかよ?」
「その通りだ」

 小バカにしたように笑った男に対し、シュリは一拍の間もなく肯定した。
 にわかに村人達がざわめいた。
 中にはクラウドへ縋るような視線を向ける村人もいる。
 自分達の恩人が、目の前でWROに捕縛されそうになっているのだ、誰か他に力のある者に間に入ってもらいたいと感じるのは自然なことだ。
 それに、その人選としてクラウドを選んだのは、WROという巨大な組織に対して、抗えるのはこの場には『ジェノバ戦役の英雄』ただ1人。

 自分達を助けてくれた『義賊』を助けて!と目で訴えるその視線に、当然クラウドは気づいていたが、あえてそっちを見ないでシュリの動きのみを注目していた。
 目を合わせるとなにやら抱かなくても良い『罪悪感』を感じそうだった…。
 それに、嫌疑をかけられている『義賊』の動きが心配だった。
 盗賊達は固まったように動けない状態にあるのでまずは大丈夫だろう…。

「俺たちを捕まえる…だなんて、本気か!?俺達がなにをした!?盗賊に襲われている村人達を助けただけだろうが!」
「村や町を襲う『盗賊』とそれから救う『義賊』がずっと一緒だったら、もっと早くに捕まえられたんだがな。だがようやく何名かは『盗賊』と『義賊』という役割を交代で行っているところを入手した。これで言い逃れは出来ない」
 それに…。

 グッ…、と男は言葉に詰まった男に追い討ちをかける。

「本物の『義賊』は、『悪党共から巻上げた金銭のみを懐に入れる』ことを信条としている。決して、『弱者を救った』からと言って、『救済料』を要求したりはしない」
「…何を言う。当然だ、俺達がこの村を救うに至ったのは、たまたま通りかかったからだ。『救済料』だなどとふざけたことを要求する輩は俺たちの仲間にはいない!」
 噛み付くように、それまで傍観していた若者の1人が怒鳴った。
 他の『義賊』と名乗る者達も「その通りだ!」と主張し始めた。
 徐々に状況を飲み込んできたのだろう、どの顔もシュリとWRO、クラウドとプライアデスに警戒色を強めていた。
 何とかこの場を突破しようと言う気概が見える…。
 しかし、シュリはそれを全くの無表情で受け流した。
「ほぉ、なら先日、俺の部下が殴り飛ばしたアンタの仲間が手にしていたルビーのリング、あれはなんだ?」

 ググッ…。

 喚き声がピタリと止んだ。
 鬼の首を取ったようにがなりたてていた『義賊』たちは一斉に口を閉ざす。
 壮年の男は静かに殺気を放ち始めていた…。
 クラウドはそれを警戒しつつ、WRO隊員達の後方に控えている集団にも注意を払った。
 一体、この集団がなんなのか分からない。
 分からないが、今回の事件に何らかの関わりがあるからこそ、シュリが連れてきたことだけは分かる。

「あれは、仲間が助けてやった婆さんが『どうしても受け取ってくれ!』と言って、ポケットに押し込んだものだ!」

 黙り込んだ若者の1人が『血路』を見出そうと必死にひねり出したその言葉を、シュリはひと睨みの眼光で黙殺した。
 仲間の言葉に鼓舞されかけた『義賊』は、口を開けたまま何も声を発さずに口を閉ざした。

「あのルビーの指輪は、彼女のお孫さんの結婚式のために準備したものだった。そんな大事な品物、いくら命の恩人だからと言って謝礼として差し出すわけないだろう。それに…」

 ゆっくりと周りを見渡した。
 固唾を呑んで見守っている村人達を…、WROを警戒している『盗賊』と、逃げ道を探そうと必死に思考をめぐらせている『義賊』とを…。


「こんなにゆっくりと『会話』をしているのに、『盗賊』は誰一人、逃げようともせず、攻撃しようともしないのは不自然だな。『そんな話し、俺たちには関係ないね』の一言くらいあってもよさそうなのにそれがない…ということは、『盗賊』にとっても、この『自称義賊』の処分の行方が気になって仕方ない関係にある…と証してると思われるが?」


 心の底からの侮蔑がこもった一言に、『義賊たち』は今度こそ言葉をなくした。
 そして、同時に『盗賊』たちをギョッとさせる。
 慌てて数名のむさくるしい男が声を上げようとしたが、結局何を言って良いのか分からず押し黙った…。
 シュリと彼らのやり取りの間、村人たちには静かな驚きが広がっていっていた。
 もう誰の目が見ても『義賊』が『義』の志など持ち合わせていない集団だと分かる。

 壮年の男は自分達に向けられる視線が、疑惑の眼差しに変わったことを悟った。
 そして次の瞬間。

 ドシュッ!

 身体を沈めこんで突然蹴りを繰り出した。
 それを危なげなくシュリはかわし、脇をすり抜け様に男の横っ面を思い切り蹴り飛ばした。
 男が村の入り口近くまで蹴り飛ばされる。
 地面に激突する直前、男は体勢を整えて地面への衝撃を軽くするためゴロゴロと数回転がり、その勢いを生かして機敏に立ち上がった。
 立ち上がり様、腰に佩(は)いていた大振りのソードを抜き放つ。
 悲鳴が村人達から上がった。
 それを合図にしたかのように、『盗賊』も『義賊』も一斉にWROへの攻撃へ打って出た。
 だが、その攻撃は若干出足を挫かれた形となった。
 それは、一瞬でかまわないから戦闘になった際、盾にしようと傍に置いていたはずの村人達が、いつの間にか自分達の傍を離れ、一塊になっていたからだ。
 そしてその一塊になった村人の前にはたった一人、パンクスタイルの軽そうな男のみが庇うように立っている。

 その僅かの隙をクラウドは見逃さない。
 バスターソードを振り払い、数人を同時に仕留める。

(殺さないように力を加減することは中々難しいもんだな…)

 などと、攻撃された男が聞いたら背筋を凍らせること間違いないことを思いながら、クラウドは『義賊』『盗賊』構わず斬檄を叩き込んだ。
 中にはクラウドの攻撃に何合か打ち合えるだけの猛者もいた。
 その中に入っているはずのシュリが蹴り飛ばした壮年の男は今、シュリと一対一で戦っている。
 怒りと屈辱に歪んだ男の顔とは正反対で、シュリはまるで本物の仮面をつけているかのように表情に変化がなかった。
 WROの隊員達も攻撃を行っている。
 しかし、こちらは主に村から盗賊達が逃亡しないように威嚇を専門に行っている。
 それでもかなりの腕を持った隊員達であることを、クラウドは視界の端で見ながらそう評した。

(リーブの苦労は、ゆっくりだが実っているな…)

 知らず、心が沸き立つような嬉しさがこみ上げ来る。
 いつも苦労ばかりで、多忙を極めている仲間の努力の成果が見られるのはやはり嬉しい。
 自然、ソードを振る腕も、大地を蹴って跳躍する力も軽やかな気分すらして、そしていつもよりも力強くなった。

 一方。
 クラウドの攻撃やWRO隊員達の牽制攻撃を受けつつ、辛くも無事な状態を維持出来ている男達は、いつしか自然とプライアデス1人に集中攻撃を仕掛けることこそが、自分達の生き残れる唯一の『活路』だと思った。
 WROの隊員とかなんとか言っていたが、そんなの関係ない。
 人数では勝っている。
 自分達の真のリーダーの攻撃を至近距離からかわし、攻撃までしたWRO隊員を相手にするよりも、クラウド・ストライフを相手にするよりも、軽そうな都会の男1人を大勢の力で叩いた方が活路を見出せるはずだ。

 そして、それは迅速に行動へと移された。
 この乱闘の中、明らかに浮いているプライアデスに向かって盗賊達は突進する。
 クラウドは盗賊達の向かう先にプライアデスがいるのには気づいていたが、彼なら大丈夫だろう…と思っていた。
 しかし、フッとあることに気づいてギョッとし、青年を見た。
 プライアデスは……武器を持っていなかった。

(しまった!!)

 WROの訓練では勿論、体術も特訓しているだろうが、青年が武器を扱わないで戦ったところを見たことがないクラウドの目には、殺気立つ盗賊達の前に武器もなく無防備に立っている姿が、とんでもなく無謀に見えた。
 渾身の力を振り絞ってクラウドは衝撃波で大地ごと盗賊数名をぶっ飛ばす。
 しかし、相手も中々の訓練を積んでいた様だ。
 クラウドの攻撃を跳躍で避ける。
 そしてそのまま空中で隊員達の一斉射撃を受け、ソードタイプの武器でかわし、勢い良くプライアデスに向かって直進した。
 プライアデスは動かなかった。
 ジッと静かにハイスピードで落下してくる敵達を見やる。
 背後で子供の怯えた声が一際高く上がった…。