ドゴメシャッ!!!!
 ゴギッ!!!
 シュッ、ドゴーーッ!!!
 メキビシッ!!!
 ブンッ、メコッ!!!(*太文字は全てプライアデスの攻撃です)


 思わず隊員たちは砲撃をやめた。
 クラウドも、呆然と立ち尽くした。
 シュリと壮年の男のみが戦っていたが、それも、プライアデスの奏でたとんでもない音が止んで数秒後には片がついた。


「…俺、絶対にバルト准尉のこと、怒らせたりしない…」


 一般兵である隊員がボソリ…と呟いたが、その言葉に誰もが思い切り賛同した。






『義』という名の下に…。4(最終話)







「バルト准尉。なぜここにいる?」

 全てが終わり、盗賊どもを連行するトラックを見送れる段階になってシュリがプライアデスを見た。
 本日、初めてまともにプライアデスを見たシュリに、クラウドは内心『きた!!』と思った。
 何しろ、プライアデスは『謹慎中』なのだ。
 それなのに、こんなところまでフラフラしているところを見咎められないはずがない。
 いつ詰問されるかヒヤヒヤしていたクラウドは、少しだけ離れたところに突っ立って青年2人を見守るしか出来なかった。
 しかし、当の本人は全く動じず、きっちり敬礼をしてから、
「クラウドさんとツーリングをしてたんです」
 などと、いけしゃあしゃあと言ってのけた。
 思わず仰け反ったクラウドをチラッとだけ流し見たシュリは、眉間にしわを寄せた。
「ツーリング?」
「はい。クラウドさんの愛車に憧れていまして、先日、ようやっと完成したばかりのバイクで遠乗りを」
「クラウドさんは仕事でこの大陸に渡られたとティファ嬢から窺っているが?」
「はい。ですから自分の勝手な『追っかけツーリング』です」
「……本気で言ってるのか?」
「えぇ、勿論です」
 ニコニコと笑いながら言い切ったプライアデスに、クラウドは度肝を抜かれた。

 いや、なにその『追っかけツーリング』って…!
 本気でそんなみえみえのウソをシュリにつくか!?
 正気か!?正気なのか!?!?
 てかシュリ、お前もお前だ、俺の仕事状況をティファに確認してしっかり裏付けとってるってどういうことだ!?

 数名の隊員がビクビクしながらその脇を通り過ぎるのをクラウドは見た。
 2人の会話は別に内緒話しでもなんでもないので、周りの隊員達に丸聞こえだ。
 そりゃそうだろう…。
 謹慎処分を言い渡された隊員がこんなところにいて、なんにもお咎めなしだと隊員達に不満が残る。
 コソコソ2人だけで話をするよりも、こうしておおっぴらにやり取りする方が色々と良い。
 だがしかし…、どうなんだろうこの展開は…。
 まさか、シュリにここまで堂々と真っ赤過ぎるウソを吐くとは思いもしなかった。
 プライアデスはシュリに対し、一目も二目も置いていたと思っていたが、ただの勘違いだったのか…!?

 などなど、クラウドが頭の中で色々と突っ込みを入れている間も、2人の話しは続いていた。

「しかし、『勝手な追っかけツーリング』であろうがなかろうが、謹慎処分を言い渡された隊員が取るべき行動ではないな」
「申し訳ありません」
「……本当に申し訳ないと思ってるのか……?」
「勿論です」

 ウソをつけ!!

 思わず大きな声で突っ込みを入れそうになってクラウドは踏ん張った。
 満面の笑みを浮かべて『申し訳ないと思っている』など言われて誰が信じるか!
 シュリもそう思ったに違いないし、ハラハラしながら見守っていた数名の隊員達も同じだろう、『ウソつけ!!!』と思い切り顔にそう書いている…。

 部下の手前…という概念があるのかないのか、いつになくシュリは困惑した顔をしながら、さてどうしたものか…と言わんばかりに、更にもう一言二言『お説教』をしようと思ったのか口を開いた。
 しかし、

「ちょっと、アンタたちの話しが全部終わるまでアタシらは待たないといけないのかい?」

 苛立たしげな女性の声がそれをさえぎった。
 ハッと顔を向けると、隊員達の後方で控えていた集団の1人がバイクに跨ったまま、思い切り不愉快そうな顔をしていた。
 パッと見た感じではとっつきにくそうな気の強い女性。
 赤い髪はレノを思い起こさせたが、短く切った髪を好きなように風になびかせている様は、クラウドに近いだろう。
 目のふちを黒いシャドーでメイクし、唇は真紅。
 へそが覗く短いTシャツはピッチリと身体に張り付き、これまた短いジーンズの短パンは惜しげもなく美しい足を太ももから露にしていた。

 クラウドが最も興味を抱かない女性の部類に入る…。

 シュリは青年らしい困惑の顔からスッといつもの表情に戻した。
「すまない」
 そして、その場に残っている村人達を振り返った。
 村人達はWRO隊員達に手厚い治療や言葉、温かい手を受けてようやく一心地付いたところだった…。

「皆さん、彼らが世間を賑わせている『本物の義賊』です」

 どよめきが起こる。
 クラウドも同じだった。
 まず、そうは見えない。
 黒いシャドーを施した女もそうだが、その両隣や後ろに控えている集団のどこをどうとっても『義賊』という高尚な人達には見えない。
 むしろ、たった今、連行されようとしている『偽義賊』達の方がよっぽど『らしい』…。
 女はシュリの紹介に不愉快そうな顔をもっと歪めた。

「ったく…。結局バラしやがって…。アタシらのことはバラさないって言っただろう!?」

 見た目どおり、口も悪い…。

「リジー、なるべくバラさないようにする、って言ってただろ?」
「リジー、お前本当に人の話し聞かないよな…」

 両脇の男が絶妙なタイミングで突っ込んだ。
 2人とも赤毛で体格も良く、ザックスより身長がありそうだった。

「うるさいな、兄貴たち!アタシの味方しないであんなナヨナヨした奴の肩を持つのかよ!」

 ぷんとむくれて突っかかった妹を、兄達は長男らしき男が苦笑で宥め、次男らしき男はさらりと無視した。
 言われなくても3人が兄妹だと分かる。
 良く似ていた、容姿も雰囲気も。
 決して美男美女というわけではないが、なにか惹かれるものを感じるのは気のせいではないだろう。
 後ろに控えている荒くれ者達が笑いながら兄妹のやり取りを見ている姿がその証だ。

「リズ嬢、状況が状況ですのでご勘弁を」
 兄妹の面白おかしいやり取りをいつものように完全無視し、軽く一礼してシュリは村人達に向けて言葉を続けた。
「皆さん、このような目に合ったばかりで話しをするのは少々酷と思われますが聞いて下さい」

 兄妹喧嘩が止まる。
 村人も、忙しそうに動き回っていた隊員達も止まった。
 全員がシュリの言葉に耳を傾けた。

「突然降って沸いた凶事に対し、救いの手を伸べてくれる者が現れたらその手を取ってしまう前に、自分たちの力で切り抜けられるよう、常日頃から心に置いておいて下さい。今回は、クラウド氏と我々WROによって『詐欺』に合わずに済みましたが、そもそもの原因は皆さんの危機意識の低さにあります」

 言い切ったシュリに村人たちの瞳に反感の色が浮かぶ。
 数名の村人が不満を口にしようとしたが、それをさえぎるようにシュリは続けた。

「今回のような幸運は二度とない…、そう思って下さい。『助けられて当然』と思っている、などと面と向かって言われたら『そんなことはない!』と仰ることは重々承知しています。しかし、現実はどうでした?少しは盗賊たちに対抗出来ましたか?」

 不満と怒りの気配を色濃くしながらも村人達は押し黙った。
 反論出来ないことは最初から見ていたクラウドには良く分かっていた。
 女子供がほとんどの村だから、シュリが言うことは少々手厳しいかもしれない。
 しかし、女だから…とか、子供だから…などと言い訳は、この厳しい世界を生きていく中ではとても弱々しい言い訳にしかならないのだ。
 そんな言い訳がまかり通るはずがない。
 通らないからこそ、ティファもユフィも女でありながら『ジェノバ戦役の英雄』という十字架を背負って生きているのだし、デンゼルもマリンも自分の出来ることを精一杯しながら生きている。
 時として、大人顔負けの根性と柔軟な心を持ちながら生きている子供達の顔が脳裏に浮かび、クラウドは何故か胸が熱くなった…。
 シュリの話はまだ続く。

「世間を賑わせることを悪用する輩はどれだけ駆除しても途絶えません。それが人間だということは皆さんもお分かりでしょう。ならば、それを未然に防ぐためにきちんと備えをしておいて下さい」
「どうしろって言うのさ!」

 1人の女性が声を荒げた。
 乳飲み子を抱えた恰幅の良い女性だ。

「緊急時の連絡が即座に他の村や町に届くようにすることが一番でしょう。ご自身たちで闘えとは言いません」
 素人が下手に武器を手にしたら危ないですからね。

 シュリはそう言うと、一番年長者であろう老人を見た。
 老人は黙って耳を傾けていたが、シュリが真っ直ぐ見ると背筋をピンと伸ばした。

「この村にはそのような手段を講じていないように見受けられるのですが?」
「…そのとおりじゃの」

 重々しく老人は頷くと、不満満々の女性を苦笑交じりに見た。

「この若い隊員さんの言うとおりじゃな。確かに我々は『甘えすぎて』おった。もう少し、自分のことは自分で守るという意識を持たんといかんかったな」
「でも、この村には女や子供が大半じゃない!」
「うむ、確かにその通りじゃな。じゃから、今までは『助けられて当たり前』と思っておったのじゃから」

 女性はグッと言葉に詰まった。
 老人は他の村人達を見た。
 皆、何かしらの不満を抱えているようだが納得はしたらしい。
 老人はゆっくりと見渡して1つ頷くと改めてシュリを見た。


「隊員さんや、緊急時のマニュアルなどがあれば教えて欲しい」


 話しは決まった。


 *


「改めて自己紹介を。この『義賊』の頭領であるカイル殿、その弟のイグル殿、妹のリズ殿です」

 シュリに紹介され、クラウドは軽く頷いた。
 プライアデスは律儀に敬礼をする。
 長男と長女は興味津々にクラウドを見た。
 それに対し、次男は至って冷静だった。

「へぇ!アンタ本当にジェノバ戦役の英雄と知り合いだったのか」
「すごいねぇ、でも、なんか見た目は兄貴たちの方がよっぽど強そうじゃないか」
「リズ…失礼なことを言うな」

 ズケズケと言ってのけた妹をたしなめつつ、次男は軽く頭を下げた。

「すいません、妹は少々口が悪く…」
「…いや…」

 本音を言えば返事をするのもなんだか億劫になるような相手だったが、ここで何も返答をしないとまた何を言われるか分かったものじゃない。
 そう考えるとイヤイヤながらもクラウドは何らかの返答をしないわけにはいかなかった。
 しかし、その態度が妹には気に入らなかったらしい。

「んだよ、気取ってさ〜。本当のこと言われてむくれるなんざ、男として度量が狭いね」
「「リズ」」

 ピクリ…。
 頬が引き攣ったがそれくらいは許してもらいたい…。
 プライアデスはその隣で苦笑混じりにクラウドの様子を窺っていた。
 シュリは無表情すぎてよく分からないが、内心では焦っているのかもしれない…。
 兄妹の後ろには、『義賊』の男たちがゲラゲラと大声で笑っている。
 中には女も混じっていたが、そんなことはどうでも良い。
 クラウドは早くこの場から去りたかった。

「それにしても、よくもまぁタイミングよくこの村に来てたよな、アンタ達」

 不穏な空気を和ませようと思ったのか、長男が話題を無理矢理ふってきた。
 クラウドは『勘が働いた』と説明するのももはや面倒で、「まぁな」とだけ言った。
『勘が働いた』などと本音を言えば、絶対にこの口の悪い妹はそれに対して根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。
 鬱陶しいことを増やすつもりはサラサラなかった。

 必要以上なことを話す性分では元々ないクラウドは、嫌悪感全開でそっぽを向いた。
 自然、話をするのはプライアデスになる…。

「ちょっと調べてみたらなんとなくこの村が引っかかったので」
「へえ。そりゃ凄い情報力だな」
「それは素晴らしい。是非我々にその情報力とやらを伝授して頂きたいくらいです」

 長男は顔を輝かせながら、次男は淡々とプライアデスを褒めた。
 当然だが、『実家の力を借りました』などと言える筈もなく、プライアデスはただニコニコと2人の賛辞を受け止めている。

 が…。

「兄貴たち、別に伝授してもらわなくてもいいじゃないか」

 クラウドはリズを睨んだ。
 プライアデスをバカにされたと思ったのだ。
 だが、そうではなかったらしい。
 リズの顔は何故か悪意のカケラもなく満面の笑み。
 視線は真っ直ぐ、プライアデスに向けられている…。

(……なんか…嫌な予感が…)

 言いようのない不快感が胸に競りあがってくる。
 と…。

「なぁ、アンタ。アタシたちと一緒に『義賊』やらないか?」

 クラウドの予感は外れてくれなかった…。
 冗談だと思ったのか、プライアデスはニコニコ笑ったまま表情を変えず、対してシュリはピクリ…と眉を引く付かせた。

「上司にしれっとした態度を取れるところも、そのファッションもモロアタシ好みなんだ。どう?アタシと一緒にならないか?」

 ぶふっ!?

 聞くとはなしに聞いていた隊員の1人があまりのことに吹き出した。
 無論、笑っているのではない。
 ビックリし過ぎて、溜め込んでいた息をついつい思い切り吹き出してしまったのだ。
 口を押さえた隊員を女義賊はジロリ、と睨みつけたがすぐプライアデスに視線を戻した。
 隊員を睨みつけた目とは丸きり違う。
 瞳がキラキラ輝いている。

「そりゃ良い!そうしろよ、アンタ腕も立つしな」
「リジー、本気で言ってるのかい?冗談半分で言うことじゃないよ」

 長男と次男、似たような顔をしているのにどうしてこうも違うのだろう…。

 素朴な感想、それは恐らくクラウドだけじゃないだろう…。
 隊員も村人も、そしてシュリも唖然として兄妹3人を凝視している。
 ゲラゲラと一際大声で笑って、(恐らく)いつもと変わらないペースを保っているのは義賊のメンバーだけだ。

「冗談なんかで一世一代の告白なんかするかバカ兄貴!んでさ、どうだい、一緒に来てくれないか?」

 口汚く早口でまくし立てて次男を睨みつけ、プライアデスに向き直る。
 その向き直った顔を見て、クラウドはハッとする。
 シュリを見るとタイミング良くシュリもクラウドを見た。
 漆黒の瞳が僅かに揺れていた。
 無表情だったが、クラウドと同じく動揺しているのが窺える。
 女義賊が決して冗談半分でプライアデスを誘ったのではないことが分かったからだ。
 そっとプライアデスを見る。
 彼は相変わらずニコニコ笑っていた。

「すいません、僕には愛している女性(ひと)がいるのでそれは出来ません」

 ぶふぅっ!?!?

 別の隊員が思わず吹き出した。
 先ほど吹き出した隊員同様、笑ったわけではない。
 思いっきりビックリしたからだ。
 義賊たちが、はやし立てて口笛を吹いたり「ヒュ〜ヒュ〜、やるねぇ兄ちゃん」などと笑う。
 頭領である兄たちに挟まれ、それでも女義賊は諦めなかった。

「でもさ、少しくらい付き合ってみてから考えてくれても良いんじゃないか!?分かんないだろ、付き合ってみないとさ。アンタの女とアタシ、どっちが良い女かはさ」

(アイリさんの方がうんとイイ女だ)

 心の中でクラウドは即答した。
 食い下がる妹を、長男は応援するかのように期待感を滲ませてプライアデスを見た。
 逆に次男はやはりクールで「リジー、人生諦めも肝心なんだ」と諭している。
 女義賊はブンブン首を振って次男の言葉を振り飛ばし、一歩プライアデスににじり寄った。

「それに、アンタくらいの腕があるのに『組織』に組み込まれるなんて勿体無いじゃないか!アンタ、正しいことをしたのに謹慎処分喰らったんだろ!?そんな不義理な組織なんざ捨ててアタシと自由に大事なもんを助けたり、助けられたりして生きてくれよ!」

 クラウドは息を呑んだ。
 確かに、今回のプライアデスの処分は本人の立場に立つと不当なものだった。
 だがそれも『組織』という枠に組み込まれている以上、仕方のないことだ。
 しかし、義賊なら…。

「すいません、僕はWROを辞めるつもりはないですし、『組織』が必ずしも悪いとは思っていません」

 穏やかに微笑みながら女義賊を見つめた。
 オレンジ色のサングラス越しに優しく瞳が細められる。

「確かに堅苦しいですし、時として歯がゆいこともあります。でも、自由奔放に人助けをするのは、僕にとって『組織』の不便利さ以上に危険に思えます。今回、アナタ方の偽者が現れたのも、それを立証するのに時間がかかったのも、アナタ方が『自由』過ぎたからです。これからもきっと、アナタ方の偽者は現れるでしょう。その時、アナタ方は『自分達の責任じゃない』と言うかもしれない。でも、『義賊』を悪用されないための決まりや工夫を何も作らず、『風のように自由気まま』に行動したアナタ方の行動が招いたことなら、やっぱりアナタ方にも責任があると思うんです。僕は、組織という枠組みにはめ込まれていますが、逆に組織に守られながらこの星の守護者の一翼を担うことが出来てるんです。『組織』=『堅苦しい』という風には考えていません。むしろ、『堅苦しい』と感じた時は、今回みたいにまた1人で暴走して、懲戒免職等の処分を下される道を選びます。毎回毎回、今回みたいなことが起こるわけじゃないですから、起きるその時までは、ちゃんと組み立てられた規律を守り、確実に星の守護者の一翼を担える隊員でありたい…、それが今の僕の夢です」
『組織』の規律は星を守るために綿密に作られたものだから、アナタ方が考えているほど、悪いものじゃないですよ。

 プライアデスは最後にそう付け加えて口を閉じた。
 いつの間にかシンと静まり返っている…。
 義賊のメンバーもゲラゲラ笑っていたのに黙ってプライアデスの言葉を聞いていた。
 シュリがほんのり微笑んでいるのが見える。
 クラウドは1人、感動していた。

(よくここまで大きくなった…)

 ミディールで二日酔いになってフラフラしながらアイリを探した青年がここまで…!(*幸せのかたち1参照)

 女義賊は口を開けた。
 しかし、ガックリと肩を落とすとギュッと目と口をつむった。
 そして顔を上げきる前にクルリ、と背を向けた。

「……まったく、この石頭。いいよもう。アンタみたいな頭の固い奴、やっぱり自由なアタシたちとは合わない!」

 言い捨てると足早にバイクへ向かい、兄達を待たずにエンジンを全開に噴かせ、走り去った。
 義賊のメンバーもそれぞれ笑いながらその後を追う。

「兄ちゃん、カッコいいじゃねぇか!気に入ったぜ」
「またどっかで会おうや」
「英雄さんも、まぁそこそこに頑張れよ〜」
「隊員の兄ちゃんも、部下には優しくしてやれよぉ」

 言いたいことを言いたいだけ言って走り去るメンバーに、頭領である長男と次男は顔を見合わせた。
 そして、長男はガバッと、次男は軽く頭を下げて自身のバイクにまたがる…。

「そんじゃ、俺たちも行くわ」
「今回の件はすまなかった。我々の偽者が現れないようにこちらも気をつけよう」

 そうして、まさに自由な風のように義賊は去って行った…。


 *


『そう!それじゃあライ君は謹慎処分が解けたのね?』
「ああ。早速シュリに本部に連行された」

 クラウドは一部始終をティファに話した。
 携帯で話しをした理由は簡単明瞭。
 早く先ほどの一件を知らせたかったからだ。

「それにしても、ライもしっかり成長していて驚いた」
『ふふ、クラウドったらお父さんみたいね』
「せめてお兄さんと言ってくれないか?」
『ふふっ。ごめんなさい、そうね、お兄さんよね。それにしても早速任務?大変ねライ君』
「謹慎中に遠出をしていたからな。減俸の上、証拠写真を撮ったデジカメも没収だ」
『…それってなんか可哀相じゃない…?』
「それだけじゃなく、『シュリとの組み手100本』というオプション付きだ。隊員達が蒼白になってライを見てたな…。きっと、かなりキツイんだろう…」

 あの時の凍結した隊員達を思い出し、クラウドは苦笑した。
 しかし、当の本人は生真面目な顔で敬礼を返しただけだった。

『羨ましいなぁクラウド。私もその場にいたかったわ』
「そうだな、見せたかった。中々のもんだったぞ」
『は〜、イイなぁクラウド…』
「帰ったらゆっくり詳しく話してやるよ。子供達にも聞かせたいしな」
『うん、楽しみにしてる。じゃあ早く帰って来れるの?』
「あぁ。それに、明日は休みにした。一緒に少しのんびりしよう」
『本当!?じゃ、私も今夜はお店お休みにして『家族水入らずの時間』をたっぷり堪能出来るように今のうちから用事を片付けとく』
「あぁ。じゃあ、後でな」
『うん、クラウド……早く帰ってきてね?』
「あぁ」
『クラウド…』
「ん?」
『……
大好き
「!!」

 プツッ。ツーツーツー…。

 切れた携帯を見つめてクラウドは暫し呆然としていた。
 やがて、男性にしては整った顔が嬉しそうにほころんだ。

「言い逃げかよ、ティファ」

 喉の奥で笑いを噛み締めながらクラウドは幸せを思い切り噛み締めた。



 あとがき

 無理矢理4話で終わらせた感がありますが、中途半端に4.5話とかになりそうで(^^;)。
 はい、『義賊』のお話でした。
 実は意外と『義賊』というものが好きだったりします。
 自由奔放に行動し、弱気を助け、強気を挫くって感じがして♪
 そのくせ、今回こんな扱いってどうよ…(汗)。
 そのうち、気が向いたら今回の義賊の方々に登場していただくかも知れませんね。(まぁ、私は気まぐれですからどうかしら)

 ここまでお付き合い下さってありがとうございました〜♪