要塞の真上に降りるつもりだったのに、強い風によって大きく流されてしまい、鬱蒼と茂る森林に降りたクラウドはその湿気の多さと見通しの悪さに嫌な汗をかいていた。
 同じ飛空挺から同時に降りたシドはいない。
 シドだけではなく、同じ飛空挺や他の飛空挺から飛び降りたはずの隊員ですらいない。
 どうやら自分ひとりだけが着地点に失敗してしまったらしい、と知ったのは、イヤホンから流れてくるWRO隊員の報告からだった。

「やれやれ…だな」

 自分1人が風に流されて着地点に失敗したなど、いい恥だ。
 クラウドは首を振りながら鬱蒼と茂る丈の長い『シダ類』を踏み分け、足を運んだ。
 風の音に混じって奇妙な生き物の甲高い声が聞こえてくる気がするのは気のせいだろうか…?などと任務からいささか外れたことを思っていたクラウドは、視界の端にちらり、と映った『それ』にギョッと足を止めた。






暁光 2







「クラウドの野郎…なにしてやがんだか…」

 ヘビースモーカーが一種のトレードマークのような英雄は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら要塞内を駆け足で進んでいた。
 こういうイライラした時にこそタバコが欲しい、と思うのだが、勿論今は口にくわえていない。
 傍にはWROの隊員が4名、シドと同じく音を立てないようにして薄暗い廊下を進んでいる。
 耳にねじ込んだイヤホンから先ほど流れてきた情報によると、クラウド1人だけが強風に流されて要塞外の森に『不時着』したらしかった。
『不時着』と表現したのは、彼の使用したスカイボードの反応が途切れてしまったからだ。
 どうやら着地したときに壊れたらしい…。

「あの野郎…もっとこう、乗り物類には器用だったはずなのになぁ…」

 ゴールドソーサーでのゲーム類やチョコボレース、ヒュージマテリア奪取のための潜水艦の操縦。
 いずれも初心者とは思えないほどラクラクとこなしていた。
 それなのに…。

「ま、あいつならなんとかするだろうけどよ…」

 たった1人ではぐれてしまったのがWRO隊員でなくて幸運だった…と思うようにしよう。
 いち隊員ならば、きっとここまで楽観視出来ない。

 それにしても…。
 このだだっ広い廊下はなんだろうか。
 壁には中世風の甲冑が並び、壁にはその時代にあったと思しき『拷問道具』が飾られている。
 作戦行動中なので速やかに行動しなくてはならないため、じっくり見つめている余裕などないがそれでも小走りで廊下を進んでいても視界にそれらは否応なしに入ってくる。
 いったいどんな趣味をしているのだか…、と呆れもするし、意図的に物々しい雰囲気を演出しているようにも感じられて気味が悪い。

「ぞっとしねぇな。なんだよこれ」
「なんか…遊園地とかのアトラクションみたいですよね…」

 シドの独り言にすぐ傍にいた隊員が言った。
 そう、まるで遊園地の中にあるホラーハウスのようだ。
 わざわざ監獄内をこういう物で飾りつけるなど、頭がいかれているとしか思えない。
 確かに敵は自分たちの常識圏内の生き物ではないのは分かっている。
 元々、この島に収容された囚人たちはおおよそ、一般的、人道的な人間とは言い難い凶悪犯なのだから。
 そして、監守は人体実験を施すために神羅から派遣された人間。
 それも、神羅が崩壊しても尚このような監獄島に居残り続ける道をわざわざ選んだ変人だ。
 もしかしたら…いや、もしかしなくても凶悪犯と紙一重の差もないほど、同類の輩が生息するこの要塞内に、世間一般常識を求めても無理かもしれない。

 それにしても、このような拷問道具やおぞましい『武器類』は本当にただの『飾り』なのだろうか?
 飾りとして壁に取り付けられているだけならただのレプリカのはずだ。
 なにしろ、何度も何度もしつこいがここは囚人を押し込め、人体実験するための要塞。
 本物の武器が目の前、すぐ手に届く場所なんぞに置いておくなどそれこそ狂気の沙汰だ。
 だが、弱い照明の光に底光りするそれらは、何故か本物の武器のような気がする…。

 そんな不気味なことを思いながら視界の端にそれらを写しつつ、シドは隊員を先導するような形で先へ進んだ。
 曲がり角が前方に迫ってきたところで壁に背をつけ、足を止める。
 ヒシヒシと伝わってくるのは今のところ隊員と自分の緊張感だけだ。
 この要塞に進入してから感じられるのは不気味なほどの静寂だけ。
 もしかしたらもうこの要塞には誰もいないのではないか?と不安に感じてしまうほどの白々とした空気。
 だが、今のところ『作戦変更』の指示は出ていない。

(本当にいるのか、こんなところにバケモノたちが…)

 シドは胸中のみで不安を呟いた。

 シドたちは屋上から要塞内に侵入したので、今歩いているのは屋上から2フロア下がった階になる。
 先行部隊からの報告では、地2階のフロアを撃破する必要あり、ということだった。
 先行部隊に合流するのはWRO隊員のみで編成された部隊の予定で要塞の正面入り口から突撃することになっていた。
 シドとクラウドは後続部隊として屋上から進入し、地下にいる先行部隊と正面からの特攻部隊と協力して上階から挟み撃ちする予定だった。
 だがしかし、目標地点の着地に失敗したクラウドは必然的に地下で隠密行動に入っている先行部隊か特攻部隊に混ざって行動することになるだろう。

 それにしても…。
 シドは呼吸を整えてから一気に目の前の角を曲がり、誰も潜んでいない廊下に眉をひそめながらまた足を進めた。
 こうまで『歓迎』がないのは理解しがたい。
 敵にこちらの行動がある程度バレているとは思っている。
 そんなもの、想定内だ。
 しかし、ここまで何もないのは予想外。

 どこに隠れている?

 神経を張り巡らせても何も引っかかってこない。
 もしかしたら、先行部隊はとっくにやられていて、敵が仲間に成りすまし、WROへ偽情報を流し続けているのでは?
 そうして、実はとっくにバケモノを引き連れ世界へ向かって進撃しているのでは?
 ついでに、邪魔な戦力となるWROとジェノバ戦役の英雄たちを孤島もろとも吹き飛ばそう、だなんて目論んでいるのでは?

 考え出したらとめどなく悪い予想が脳裏を走り回る。
 シドはブルリ、と頭を振った。

(やめだやめだ!余計なことを考える余裕なんざねぇっ!)

 敵が罠を仕掛けて待ち構えている。
 それがどこに仕掛けられているのか分からないが、それでも前に進まないことには話は終わらない。

 シドの次の行動を伺いながら少し怪訝な顔をしている隊員たちを振り返ることなく、彼は目の前の非常階段に続くドアを押し開けた直後、WRO本部から命令がきた。


 −『後続部隊は全員、可及的速やかに2階フロアーへ集合』−


 *


「それで、本当にこっちでいいのか?」

 クラウドは足早に歩いていた。
 1人ではない、背中に小さな『人』を背負っている。
 髪を一括りにした少女だ。
 黒い目に黒い髪。
 顔の造形は『普通』と表現するしかない一般的なもので、印象強くないためクラウドのように『他人に興味がない人間』はすぐ忘れてしまうタイプの顔立ちだった。

「うん、そうだよ。ありがとう、お兄ちゃん」

 明るい声で少女は答える。
 森の中で見つけた少女は、およそ監獄島には似つかわしくないほど『普通』の少女だった。
 だから、背負っても体重をあまり感じさせないくらい小さな少女がとても不自然なものに感じられて仕方ない。
 ここにいるべき者ではないはずなのにここにいるという違和感…それだけだろうか?
 クラウドは自問しながら改めて背負っている少女を脳内で分析する。
 デンゼルと同い年くらい、マリンより2歳くらい年上に見えるその少女は、名前を『C−6』と言った。
 名前ではなく製造番号のようだ、とクラウドは思ったが、彼女の口にしたその名前のみが唯一、この監獄島と少女を結びつけるものだと感じた。
 しかしそれだけだろうか?
 不自然すぎるほど『普通』の少女。
 もしかしたら彼女も何らかの実験の被害者かもしれない。
 だが特にそれらしいものは感じられない。
 本当にどこにでもいる子供だ。
 だからこその違和感だろう、と無理やり結論付けて少女の分析をとっとと終える。
 何しろ、自分はWROの極秘任務の途中なのだから、たった一人の少女で頭を悩ませる余裕などない。

 それにしても…と思う。
 リーブが言っていた先行部隊の前情報は確かだった。

 少女はこの島で生まれ、今日まで育ったと言った。
 森の中でうずくまり、どうしたのか訊ねたクラウドに足首をひねったと答えた『C−6』を背負って約10分。
 彼女はよくしゃべった。
 監獄島から出たことがないと言い、だからクラウドのような人間を初めて見た、と興奮した。
 寡黙な性質のクラウドにとって、おしゃべりが好きだと言う『C−6』は普通ならあまり相手にしたくないタイプのはずだったが、今回に限り助かった、と思っている。
 何しろ貴重な情報を大量に保持しているはずの『生き証人』なのだ。
 作戦に役立つに違いない。
 イヤホンからはそのまま少女から情報を聞き出すようリーブから指示が入っていた。
 指示に従い、クラウドは少女に問う。

 大人はどれくらいいるのか?
 少女のようにこの島で生まれた子供はほかにどれくらいいるのか?
 どこ(フロアー)で生活しているのか?
 どうやって生活しているのか?
 モンスターのような大きな動物は森にいなかったのか?
 身の危険を感じたことはないのか?
 そして…、親はどうしているのか…?

 彼女は闊達に答える。

 大人は数え切れないほど、自分と同じような子供は大人の半分もいない。
 生活しているのは主に地下2階になること、でなければバケモノが襲ってくるから…。
 森には沢山のバケモノがいるけれど、森にしか生えない植物がどうしても欲しかったからこっそり上がってきてしまった。
 そして、大きな鳴き声にびっくりして足をすべらせ、挫いてしまった。
 親は3年前にバケモノに食われた…。

 淀みなく答える少女にクラウドは気の利いた台詞1つ言えないまま、リーブの指示に従って言葉をつむぐ。

 少女からの情報で内部の状態がおぼろげにその輪郭を象り始めた。
 囚人たちは全員が人体実験の犠牲に逢ったわけではないらしい。
 それは、恐らく神羅が崩壊したことが関係しているだろう。
 神羅崩壊により、実験が中断されたことで助かった囚人たち。
 しかし、崩壊前に魔手によってその人生を狂わされた囚人たち。
 そして島に残ることを選んだ監守。
 この3つがこの島で生き残りをかけている。
 無論、監守は実験を免れた囚人たちと生死を共にしているはずだ。

「あ、それからねぇ、地下は5階まであるんだって」

 思い出したように少女が言う。
 そんなにあるのか?と驚いたクラウドに気を良くしたのか、明るい笑い声を上げながら少女は言った。

「うん!でも、私たちの住んでる2階から下は行っちゃだめなんだって。大人の人がすっごく怖い顔して行かせないように毎日交代で見張りに立ってるの。だから私、行った事ないんだ〜」
「…何がある?」
「ん〜…わかんない。でも、死んだ母さんが言ってたけど、3階から下にはバケモノの卵が沢山あるんだ…てさ。だから、起こしちゃったら私たち、あっという間に全員食べられちゃうから絶対に行っちゃだめなんだって」

 バケモノの卵。
 おぞましい響きのそれにクラウドは背筋が冷たくなった。
 人体実験が行われたフロアーが地下3階から5階にかけて…ということなのだろう。
 そして、中途半端に放り出された実験は、今尚、息を潜めて再開の時を待っている…と言ったところか…。
 実験が中断されて2年。
 その間、実験に使用されていると思われる電気等の供給は止まっていないのだろうか?
 それらのエネルギーを完全に絶ってやれば、新しい脅威の心配はなくなると考えるのは安直過ぎるだろうか。
 全ては行って確かめないことには分からないが、このときはまだ、クラウドは中断された実験はあまり大きな危険とは思えなかった。

「地下1階と屋上までには何があるんだ?」
「えっとね、農園とか家畜小屋とかがあるよ。『自給自足』しないと生きていけないもん」
「そうか…大変だな」
「ううん、結構楽しいよ。みんなで一緒に頑張るのって」
「そうか」

 なんだか意外と覚悟をしていた分、拍子抜けしてしまいそうな平和な風景が脳裏をよぎった。
 自給自足の生活。
 周りにはバケモノがひしめいているので命の危険は絶えずあるようだが、それでもより人間が自然に近しい生活スタイルで星と生きている姿ではないだろうか?
 もしかしたら、未だに文明を捨てられずに生きている自分たちよりも星にとって望ましい生き方を…。

(…)

 クラウドは軽く頭を振った。
 そうであろうとなかろうと、彼らがこの島で生活しなくてはいけなくなった経緯を考えると、もろ手を挙げて賛成することは出来ない。
 もしかしたら、神羅がただ邪魔に思っただけで無実の罪を着せられた人間もいたのかもしれないが、それでも大部分は本当に凶悪犯罪者なのだ。
 彼らに泣かされた人たち、苦しめられた人たちは確かに存在する。
 そんな人たちよりも、ここの囚人たちの方がより星の喜ぶ生き方をしていると認めることは出来ない…と言うよりもしたくない。

 新たな情報を仕入れるため、クラウドは思考を切り替えた。
 視覚が鬱蒼と茂る密林の隙間から要塞の壁を捉えた。

「あ、あそこ。見える?」

 指差された場所を見る。
 地面が一部分、盛り上がっていた。
 地下から直接地上に出られる隠し扉だという。
 その周りに、人間の原型をとどめただけのいびつな生き物がウロウロしているのも見えた。
 少女の緊張が背中を通じてダイレクトに届く。

 人体実験の被害者をクラウドは始めて目の当たりにし、息を呑んだ。

 かろうじて布をまとっているだけのむき出しの肌は黄土色、部分的に生え残っている髪は頭部に無理やりくっ付けたようにダラリと長い。
 目は左右で極端に大きさが異なり濁った黄色い眼球がギョロリギョロリと獲物を探して動いている。
 つぶれたような鼻に唇のない口からは不自然に大きな歯が覗いている。
 耳も崩れたような形をしており、まるで泥粘土で作ったようないびつさだった。
 背すじは丸く、肩から腰にかけて隆起した肉は筋肉と言っていいのかどうか判断に迷う。
 手には何も持っていないが伸びた爪がそのまま武器になりそうなほど分厚く硬そうに見えた。
 足には何も履いていないが、硬そうな皮膚は素足でも恐らく問題ないだろう。

「サイアクだ〜、どうしよう…」
「他に入り口はないのか?」

 見慣れているのか、C−6は緊張はしているもののそれほど恐れてはいないようだった。
 問われて少女はう〜ん…と短く唸る。
 あまり気乗りしない様子だったが、一点を指差した。

「あっちに大きな門があるの」
「正門か?」
「『正門』ってなにか良く分からないけど、お家の入り口の1つだよ」

 要塞を『お家』と言った少女に少しドキッとする。
 こんなところで生まれて育った少女を不憫に感じたのかどうか、自分でも分からないほどの刹那の感情。

「でも、開かないかも…」
「開かない?」
「うん、開いたところ見たことないもん」

 正門がいつでも簡単に開いたら外をうろついているバケモノたちがいくらでも入ってきてしまうのだから開かなくて当たり前かもしれない。
 しかし、正門からは後続部隊の1つが突入しているはずだ、開いているだろう。

 そこまで考えてクラウドはハッとした。
 争っている気配がない。
 激しい戦闘になっていておかしくないのに何故か要塞は静まり返っている。
 それに、いくら隊員たちが自分とは違って目標地点に見事着陸していたとは言え、バケモノたちが騒ぎもしないでただウロウロしているだけなんておかしすぎないだろうか…?

「リーブ…どうなってる」

 襟元にくっ付けていたマイクに向かって小声で囁く。
 背負っているから小さな声でも少女の耳に届いてしまった。
 不思議そうにどうしたのか訊ねてくるが、クラウドはそれを無視した。

『今、全隊員に招集をかけましたよね。実は、先行部隊とまた連絡が取れなくなっているんです』
「……後続部隊からの報告は?」
『今のところ敵と思しき者との遭遇はないとだけ。それよりも2階フロアーにちょっと信じがたいものがある…と』
「信じがたいもの?」
『はい』

 その信じがたいものが何かを説明するつもりはないようでリーブは沈黙してしまった。
 クラウドはしつこく問うことをせず、とりあえず今のところ被害者が出ていないことを喜ぶべきだと思考をコントロールする。
 そうしなくては、何か予想外のことに考えが飲み込まれてしまいそうだった。

「とりあえず、正門からの突入には成功してるんだな?」
『えぇ、そのように報告がありましたので』
「分かった」

 短く返事をすると、正門に向かうと少女に声をかけた。
 少女は正門が閉まっている可能性のほうが高いと思っているのだろう、あまり良い返事はしなかったものの、背負ってもらわないと動けないことと他に入り易そうな入り口が無いからか、引き止めようとはしなかった。
 隠し扉の周りをウロウロとうろつくバケモノたちと背後に気をつけつつ足早にその場を離れる。
 ほどなくして鋼鉄で出来た正面入り口にたどり着いた。
 なるほど、いかにも要塞だ。
 余計な装飾類は一切無い。
 まるで丸々『戦車』として動いてしまいそうな建て構え。
 厚さはいったい何ミリあるのか、銃弾くらいなら簡単に防いでしまうだろう。

「あ、開いてる…」

 わずかに鋼鉄のドアが開いている。
 ほんの数センチだが開いているのを見て少女は呆然とした。
 クラウドは地面を見た。
 隊員たちの物と思われる足跡があるだけで、バケモノの足跡は無い。
 次いで上を見る。
 廂(ひさし)を見ると壊れた監視カメラがぶら下がっていた。
 隊員が撃ったのだろう。
 他に監視カメラが無いか視線だけで確認をするが、それらしいものは無かった。

 C−6を下ろし、ドアに手をかける。
 渾身の力を込めて引き開けると、意外にも中はかび臭くも無く腐敗臭もしなかった。
 トラップの類も懸念していたがそれらしい感触もない。

「…行くぞ」

 少女を再び背負い、開いた隙間から中に滑り込む。
 そうして、今度はきちんとドアを閉めた。
 途端。

 ガコン。

 どこか遠くで何かの音がした。
 警戒心を刺激するには十分過ぎる音。

「今の、何だろうね?」

 C−6も首を傾げたが、ここを『お家』と言うくらい馴染んでいる少女にとって、特に危機感を感じさせるものではなかったらしい。
 クラウドは神経を研ぎ澄ませ、危険が迫っていないか警戒しつつ腰の剣帯から武器を抜いた。

「うわ〜、すごい。そんなおっきなもの本当に片手だけで持てるんだね」

 片手だけで少女の尻を支えて背負うクラウドにC−6が感嘆の声を上げた。
 その声がイヤに響く。
 1階は監獄に相応しく監守たちが入り口を見張り、新たな受刑者を引き受けるためのカウンターがあった。
 1階丸まるが1つのフロアーとして存在し、正面入り口の向かい側の壁に鉄柵製のエレベーター。
 グルリと見渡すと、1階は箱型のような造りになっているのが分かる。
 壁には神羅のマーク。
 監守のためだけのカウンターの壁にやや小さめのドア。
 非常階段…といったところか。
 他に階段らしき物はないかと探しながらゆっくり歩く。

 カツカツ…と、靴音がイヤに耳について緊張が高まってくる…。
 それなのに、C−6はどこまでも緊張感がなかった。

「ねぇクラウド。私、自分のお部屋に戻りたいなぁ」

 明るい声でそう言ってきた少女にクラウドは少し苛立った。
 だがC−6の言うことも分かる。
 ただ単に森で植物を採ろうとして足を挫いただけなのだから帰りたいだろう。

「分かった。だが、階段を探さないとな」

 監守たちのカウンター後ろにあった階段から階下へ行けるか試そうか…と、引き返そうとしたクラウドに、少女が明るく指差した。

「あっちにエレベーターがあるよ」
「…いや、エレベーターは使わない」
「どうして?」

 まさか、敵に見つかるかもしれないから、とは言えない。
 それに、そもそもこの島にいる人間で敵と言えるものが本当に存在するのかしら怪しくなってきた。
 むしろ、敵は外だけにいるバケモノと地下5階にいるというバケモノの卵だけじゃないのだろうか…?
 だが用心するに越したことは無い。
 むっつり黙り込んで説明らしきものが出来ないクラウドに、C−6は特に突っ込んではこなかった。
 代わりに「じゃあ、あっちの階段から行く?」とエレベーターから左方向へ指を差す。
 見ると小さな空洞が壁に開いていた。
 なるほど、階段だ。

 良く見つけたな…。

 こんなに薄暗いのに…と思いながら少女にそう言うと、C−6は「へへ〜」と嬉しそうに笑った。

「あ〜、それにしてもお腹空いた。運んでくれたお礼にご馳走するね」

 どこまでも緊張感なく、明るくそう言う少女を背負ったままクラウドは階段に足を向けた。