「全員こっちに来い!」

 野太い声でバレットが叫ぶ。
 彼が腕ごと指し示す方向には部屋の中心から少し外れたところに備え付けられていた小屋らしきもの。
 中に入れ、と言っているのだ。
 各班長をそれぞれ殿(しんがり)にするようにして隊員たちは迅速に行動した。
 当然、敵はそれを傍観なんぞしていない。
 スルスルと音もなく床を走り、ツルリとした腕を振り上げ、振り下ろす。
 その攻撃を、隊員たちは持っている銃で阻んだり床へ身を投げ出して避ける。
 ある者は攻撃をまともにくらって床へ叩きつけられ、昏倒する。
 それをナナキが実に上手くフォローした。
 床にいくつも転がっている瓦礫の塊を尾で払って敵へ攻撃を食らわし、自身の爪と牙で近くの敵を蹴散らす。
 英雄が2人現れただけで、戦局に光が差したようだった…。






暁光 8







「ようするに、アビーとはなんだ?暁(あかつき)プロジェクトで作り出した”意識”の具現化とでも言うつもりか?」

 シュリの簡潔な説明とモニターで見た実験データはクラウドに鈍い頭痛を伴うほどの衝撃を与えていた。
 バカなことを、と言外に匂わせたクラウドに、だがしかしシュリはあっさりと頷いた。

「バカな…!」
「信じられないのは分かりますが、今はそんなことを討論している場合じゃないんです」

 睨みつけるクラウドからシュリを庇うように、プライアデスが一歩前に出て言葉を続ける。

「さっきは絶好の機会だったんです。アビーを完璧に葬るためには子供の姿をした12個の意識をほぼ同時に消さないといけません。そうしないと、欠けてしまった分の”意識”はこの建物があっという間に”復元”してしまいますからね」
「復元?」
「はい。クラウドさんも襲われたから分かると思いますけど、この建物全部がアビーの意識によって動いています。欠けてしまったモノを再生するため、”取り込む”んですよ、”器(うつわ)”をね」

 先ほどの光景がフラッシュバックする。
 自分諸共取り込もうとした真っ黒い壁にびっしりと浮かび上がった赤い光の”手”を。
 そして、少女の兄弟たちの顔・顔・顔…。

 おぞましすぎて吐き気がこみ上げる。

「それなのに、当然のことですけどアビーにはほとんど隙がありません。12個の意識は常にこの建物内でバラけているので同時に攻撃することが難しいんです。後続部隊としてやってくる隊員たちと協力して強引に各個撃破、というかたちで攻撃することも考えましたが、先ほど見ていただいた記録にもあったように”オルトロス”と”ケルベロス”がそれをさせません。きっと、今も後続部隊は攻撃を受けているはずです」

 チラリ、と少女へ視線を流したがプライアデスはすぐクラウドへ視線を戻した。
 僅かに懇願するような色を浮かべる青年に気づかないフリをしようとしたが、僅かに表情が揺らぐ…。

「この建物にいる我々は、まさに敵の胃袋の中です。アビーは信じられないほどのスピードで自我を成長させるとともに科学知識をも発展させています。現に…WROから送られてきていた情報は既に掌握されてしまっていますし」

 クラウドは目をむいた。
 即、プライアデスの言葉を否定する。
 リーブから色々指示をもらっていた数時間前をその理由に挙げたが、青年が説明する前に少女が口を開いた。

「あ、それね。私たちが電波ジャックして、リーブって人の声真似をしたの」
「な!?」

 あっさりと告白したC−6にクラウドはただ目を見開くばかりで二の句が告げない。
 しかしそれはその場にいた隊員たちも同じだったようだ。
 少女の立場から考えると、今、自分は敵であるWRO隊員に囲まれている。
 それなのに、秘密にしておかなくてはならないはずの重要機密をあっさり認めてしまった。
 シュリの眉間に深いしわが寄る。

「お前…何を考えている」
「ん?」
「何故、そんなことまであっさり認める?」
「だってもうバレてるのに隠してどうにかなるの?」
「……」
「それに、私1人がここで”いなくなっても”みんな無事だから意味ないよ?すぐに”私”が生まれるし」
「……」
「お兄ちゃんたちこそどうするの?3階、大変だよ?」
「分かってる…」
「早くしないとみんな危ないよ?」
「……」
「あ、なんかでも変な感じがするね…。……そっか、ちゃんと考えてるんだ、流石だね。ここで調べたの?」
「……」
「あ〜、”ケル”を行かせたのは間違いだったかなぁ。でも、”オル”より”ケル”の方が強いからすぐに”お掃除”出来ると思ったんだけどなぁ…。う〜ん、失敗失敗」
「……」
「それに、まさか”小屋”が開けられるようにここで操作してるとは思わなかったし。うん、まだまだ”私たち”は未熟だね」
「……」
「ん〜…やっぱり博士を殺しちゃったのは失敗だったよね。あの人が一番良い感じだったのに」
「……」
「あ〜、きっと”美味しかった”だろうなぁ。”食べられなく”て残念だなぁ」

 警戒心と少しの疑問がない混ざった彼の表情をクラウドはこの場をどう対処することが正しいのか途方にくれていた。
 だがしかし、最後の少女の台詞には心底ギョッとした。
 C−6の言った意味を理解する前に背筋が凍りつく。
 理解したくないと己の全部が叫ぶ声をクラウドは聞いた気がした。
 周りで隊員たちが持っている銃を握り締めている気配が伝わる。
 隊員たちから発せられる雰囲気はまさに一触即発なのに、それを向けられている肝心の”敵”が全く危機感を感じておらず、相手にしていないというだけだ、少女が攻撃を受けていない理由は。
 そうクラウドは、混乱する思考の片隅で冷静に分析をする。
 シュリやプライアデス、そしてヴィンセントも当然、そのことを理解しているに違いない。
 その上で更に、この少女から情報を引き出そうとしているのだ。
 何しろ、少女は敵であるアビーそのものなのだから。

 ああ、そうか、とクラウドはそこまで考えて気がついた。

 時間がないはずなのにこうして少女と話をしているこの現状。
 彼女を守ろうとしている自分の目の前で展開しているこの会話。
 少女が危険な存在であると認めさせ、これ以上邪魔をしないよう釘を刺していることもあるだろうが、それ以上にクラウドに協力を求めているのだ、この中佐と軍曹は。

 ヴィンセントを見る。
 紅玉の瞳は少女を写していたが、クラウドの視線に気づくと真っ直ぐ見つめ返してきた。
 逸らさない赤い瞳は、クラウドに『どうする?』と問いかけている。
 そう、『ここまで危険な存在だと分かっただろう、それでお前はどうする?』という無言の問いかけを…。
 真っ直ぐ見つめる仲間の目から逃げるようにクラウドは少女へ視線を移した。
 
 自分と一緒にいたのは本当に短い時間だ。
 その短い時間で一体どのように少女は変わったように感じたのだろう?
 それは言葉にするにはとても難しいほどの小さな変化だと思う。
 だが、気のせいではないという確信が何故かある。
 それは、少女から信じられない言葉を耳にしても尚、そう思ってしまう小さな確信で、その確信をクラウドは非常に大切だと感じていた。
 自分の気のせいだ、としてしまったら、とり返しのつかない重大なミスを犯してしまう、そんな切迫したものすら感じている。
 ならば、そこまで譲れないと思っているならば確信が”気のせいではない”と仮定してみて先のことを考えてみる。

 少女を島から連れ出す。
 連れて行く先は当然、先ほど考えたようにティファのところだ。
 自分も暫くは仕事を休んでティファと一緒に少女の傍にいよう。
 もしかしたら少女が暴走して危険な状態を招いたとき、真っ先に対処しなくてはならないのだから。
 それは、少女を連れ帰ることを決めたクラウドの責任だ。
 ティファや子供たちと一緒に生活するというその危険。
 クラウドは決して軽視しているつもりはない。
 バレット辺りに知られたら文字通り、烈火のごとく怒りまくるだろう。

 マリンとデンゼルよりも得体の知れない少女を重要視するつもりか…と。

 そうじゃない。
 ただ…。
 ただ、デンゼルやマリンのように、この哀れな”命”にも幸福な時間を過ごさせてやりたいだけだ。

 だがここでクラウドの思考が1つのことに突き当たった。

(この願いはむしろ”傲慢”なのでは?)

 今、建物の中では確実に激しい戦いが繰り広げられている。
 そこにはまだ将来有望な若者や仲間がいるのだ。
 それなのにくだらない幻想に固執し、少女の形をした”敵”を擁護するなど、それはある意味愚かで傲慢で、それでいて酷い裏切りではないだろうか?
 それに、擁護し続けるだけが果たして少女のためになるだろうか?
 この建物から外の世界に連れ出すだけなら意外と簡単かもしれない。
 しかし、その後は?
 ティファとデンゼル、マリンと一緒に過ごすことで少女に”子供らしさ””人間らしさ”が芽生えてくれると思っているのは変わらない考えとしてクラウドの頭にこびりついている。
 しかしそれだけではなく、クラウドが仲間と一緒にこの島から無事に帰宅出来たその要因の1つがこの少女の手によってもたらされるものだとしたら、C−6にとって更なる大きな”飛躍”になるのではないだろうか?
 自分の決断、自分の行動によって命が助かるという経験を恐らく少女はしたことがないはずだ。
 それが、どれだけ素晴らしいことなのかは実際体験してみないと分からないだろう…。
 それに、今、彼女を助けたいと思っているのはクラウドだけだ。
 皆が少女を助けたいと思ってくれるようになれば”困難”は”可能性”を連れて来てくれる。

 このままだと、少女は確実に死ななくてはならないのだから。

 アビーという意識の分身、具現化。
 彼女を殺さなくてもその働きを封じ込められる手を探さなくては、少女は生きる選択肢を手にすることが出来ない。
 そして、その方法を探すためにはクラウド1人では無理だ。
 なら、言い方は悪いが”恩を売って”しまえば良い。
 そうすればシュリをはじめ、WROの科学者の頭脳を味方にするための一歩が踏み出せる。

 その”気づき”はまさに目から鱗(うろこ)のようにクラウドの凝り固まって狭くなった視野を広げた。

 クラウドはゆっくり少女の視線にあわせるため、しゃがみ込んだ。
 きょとんと小首を傾げるC−6の小さな両肩に手を置く。

「仲間を助けるためにどうしたら良いのか…、キミは知ってるな?それを教えて欲しい」

 なんの揶揄も、言い回しもないストレートな言葉。
 隊員たちが軽く息を呑んだ気配がする。
 クラウドも緊張していた。
 少女を助けるためにも彼女には何が何でも協力してもらわなくてはならない。
 しかし、自分の期待と願望を彼女が拒む行動に出たときのことも一瞬の間にクラウドは覚悟を決めた。
 つまり、もしも少女が抵抗したり拒否するようなら…。

 自分が手を汚す。
 まだ幼い命を奪う覚悟と罪。

 その重すぎる罪を負うと腹をくくった。
 無論、12人を1度に消さなくてはならないと言っていたシュリの言葉を忘れていたのではない。
 ”その時”がきたら、C−6に手を下すのは自分が…と覚悟したのだ。

 逸らさない魔晄の瞳を真っ直ぐ見つめ、少女は少しだけ笑った。

「ねぇ、どうしてそんなに必死になるの?」
「大切だからな」
「どうして大切なの?」
「大切なモノに理由がいるのか?」
「理由もないのに大切なモノっていうのが不思議なの」
「じゃあ、C−6はどうなんだ?兄弟がいなくなったり…この建物が傷ついたら悲しくはないのか?」
「悲しい…っていうのが良く分からない。兄弟って言っても、自分の分身だから傷つけられたら自分が”痛い”んだもん。痛いのはイヤ」
「それが”大切”ってことだ」

 少女は目を丸くして「そうなの?」と言った。
 いつになく饒舌なクラウドにヴィンセントは内心、感心していた。
 あの旅からこっち、随分成長したものだ、と思う。
 一時期はヤバイ頃があった、とユフィやバレット当たりから聞かされていたのだが、それも全て、今のクラウドに繋がっているのだろう…と、なにやら感慨深いものすら感じてしまう。

「でも、クラウドさんの言う”大切”と私の”大切”は違うよね?」
「まぁ…そうかもしれないな。でも、根本的には一緒だ」
「どこが一緒なの?」
「大切なモノが傷つくと、それが自分でなくても”痛い”と感じる。自分が痛いのはイヤだって今言ったろ?俺も自分が痛いのはイヤだからな」
「自分が直接傷つけられたわけでもないのに”痛い”って感じるの?」
「あぁ」
「どうして?」
「それが”大切”ってことだ」

 一見、堂々巡りのような押し問答。
 しかし、少女は目を丸くしてクラウドの言葉に聞き入っていた。
 クラウドもまた真剣だった。
 見守っている形になっている隊員たちも同様だ。
 クラウドと少女の会話の行く末を見守っている。

 決して少女は納得したとか、会話の区切りをつけたという”一区切り”の満足を感じたようには見えなかった。
 しかし、コックリ頷いてクラウドを見上げるとニッコリ笑った。

「うん、分かった。私もお兄ちゃんたちの可能性の”先”を見てみたい」

 そう言って、
「こっち」
 先導するように研究室の奥へ歩き出した。
 この部屋に入ることが出来ないアビーの分身であるC−6が躊躇いもなく部屋の奥に進んでいく。
 躊躇い勝ちにその背を目で追うクラウドに、シュリがスッと近寄った。

「クラウドさん、ありがとうございます」
「え?」

 しかし、驚いてシュリへ顔を向けたクラウドが見たのは青年の後姿と、その後に続く隊員たちの背中。
 シュリが何故、謝意を口にしたのか分からない。

「行くぞ」

 戸惑っているクラウドにヴィンセントがボソリと声をかける。
 ゆったりとした足取りでついていく仲間に、クラウドも不可解な思いを味わいつつその後を追ったのだった。


 *


「うへ〜……なんじゃ、この匂いは…」

 シドはゼイゼイと荒い息を繰り返しつつ片手で顔半分を覆った。
 逃げ込んだ小屋は2階と似たような造りとなっていたが、その中身は全く違っていた。
 2階にあったのは”家畜小屋”。
 では、目の前に広がる”これ”は…?

「……まるで”畑”とか”植物園”だな」
「それもサイアクの趣味の…な…」

 バレットが眼光鋭く辺りを警戒しながらシドに同意を表した。

 見るからに毒を孕んでいそうな蔓(つる)を伸ばしている草。
 その蔓が絡んでいる細い幹の小さい木は、細長い葉を枝から伸ばし、地面に向かって垂れている。
 深緑を通り越して……どす黒いその葉、その幹。
 うっかり触れたら手が腐りそうな悪臭を放っているのは草か、それとも木なのか、あるいは両方か…。
 それが、密集するように生えている。
 きちんと間引きするなどして管理しているようにはとても見えない。
 適当に地面に苗を突っ込んで植えているだけ、生えた植物が勝手に増えただけ。
 そんな印象しかない”畑”。
 総勢100名もの隊員が小屋に入ってもまだスペースがある巨大なその小屋は、一般的には”ビニールハウス”と呼ぶものなのかもしれないが、小屋はビニール製ではないしどう考えても日の光が入らない。

「日光がいらないってどこの世界の植物だよ…」
「もしかしたら、品種改良したのかもね」

 シドの呟きに答えたのはナナキだが、この悪臭にすっかりやられてしまい地面にへばって前足で鼻先を押さえているため、モゴモゴとくぐもり、元気がない。
 人間よりもはるかに嗅覚が優れているナナキにとって、この小屋は地獄以外の何ものでもないだろう。
 哀れな仲間の頭を軽くポンポンと叩いて慰めを表すと、シドはバレットへ顔を向けた。

「ところで、なんであのバケモノたちはここに入ってこないんだ?てか、なんでそれを知ってる、どうやって調べた?」

 バレットは汗まみれの顔を拭うとニヤッと笑った。

「ここは2階の”家畜小屋”とは違ってあいつらは入ってこられねぇ」
「だから、なんでだって聞いてんだよ」
「この植物から出てる”臭気”があいつらには”毒”になるんだとよ」

 シドは目を丸くした。

 なるほど。
 ”毒”になるならこの小屋には近づけないかもしれない。
 だが、そもそもそんな臭気だけで”毒”になるような代物を建物内で栽培するとはなんとも奇妙な話だ…。
 と言うよりも…。

「おいおいおいおい!それって俺たちにとってもこの中は”有害”ってことじゃねぇのか!?」

 泡を喰うシドに、しかしバレットはガハハ、と笑う。

「大丈夫だっつうの、食ったりしなけりゃな。てなわけで良いか、おめぇら食うなよ〜?」
「誰が食うかよ、こんな得体の知れねぇもん!」

 噛み付くシドにバレットはまた笑った。

「んで、最初の質問だけどよ。この建物の地下1階に俺たち先行部隊はずっと隠れてたんだが…」
「研究室があったんだよ。神羅屋敷みたいな…ね」

「研究室〜?」

 明らかに胡散臭いものを聞いたと言わんばかりのシドにナナキとバレットは頷いた。
 シドの周りでは隊員たちが集まり、先行部隊である英雄2人の話に耳を傾けている。

「そこの研究室で色々と調べ物をしたんだがよ。まぁ出てくる出てくる、色々ヤバイものがバカみたいに出てきやがってよ」
「その1つがさっき、外で襲ってきた”ケルベロス”なんだ」
「あのバケモノ、元はなんとかっつう金属らしいんだけどよ、その金属に”意識”を浸透させてライフストリームのエネルギーをぶっこんで…って、あとはなんだっけ?まぁ、ようは神羅がまたヤバ過ぎる代物を作り上げて世界征服を目論んでたってわけだ」
「無機物であれ有機物であれ、物質に意思を進入させて意のままにその形態を変化させるなんて科学技術は存在しない。だけど、それを作り出してしまったんだ、神羅はね」
「今はまだこの監獄島だけが奴らのテリトリーになってるけどよ、これが世に出て行ったら」
「危険なんて言葉じゃ足りない。絶対にここで消し去ってしまわないと」
「だが、あいつらもバカじゃねぇし貪欲な奴らでな。危うく喰われかけた」

 ギョッと目をむく一同にバレットは首筋を流れる汗を太い腕で拭った。

「それをリトが助けてくれたんだ」
「どうやって!?て言うより、喰われかけたってなんだそりゃ!?」

 畳み掛けるシドに、ナナキは「うん、それはまたおいおい説明するよ」と流すと、バレットを見た。
 伺うような視線に、バレットは彼にしては珍しく重々しく頷いた。

「ここに入り込んだのは”ケルベロス”から逃げるためだけじゃねぇ。それじゃあ確実に俺たちが負ける。携帯食が尽きた時点で餓死するのは目に見えてるからよ」
「だから、この植物を使うことにしたんだ。て言うよりもそれしか方法がないと思う」

「どうするんだ?」

 先を急かすシドにバレットとナナキが言ったことは至極単純過ぎて、一同は一瞬だけ唖然とした。
 しかし…。

 突如、小屋全体が大きく揺れた。
 外でうごめいている敵が小屋全体を揺らしているのだと理解するのに時間はかからなかった。

 おめぇら、やるぜ!という、バレットの野太い声に隊員たちは慌てふためきながらも機敏に行動へ移った。
 その間もパラパラと小屋の天井から埃や漆喰のカケラが降ってくる。
 自分たちの毒になるこの”畑”を小屋諸共、侵入者であるシドたちを潰してしまうつもりなのだ。
 隊員たち、それにシド、バレットの行動は非常に早かった。
 掘り起こしたその”植物もどき”の束を手に、真ん中には負傷者を警護して隊を組む。
 そうして。

「行くぜ!!」

 バレットの号令とも取れる気合の一言を機に、全員が小屋から飛び出した。
 全員が小屋から出た直後、音を立てて倒壊する。
 予想通り、ツルリとした肌質を不気味に光らせたケルベロスが群れとなって待ち構えていたが、手にしていた植物へ火をつけ突き出すとスルリ、と音もなく後方へ退去する。
 火をつけた瞬間、ナナキが「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
 白っぽい白煙を上げながらすさまじいばかりの悪臭が鼻を刺激する。

「くあ〜っ、臭すぎて目が染みる!」

 半分涙目になりながらシドは我武者羅に火のついた植物を振り回した。
 しかし、これでは直接的な攻撃になっていない。
 敵の攻撃を避けつつ反撃の隙を伺うも中々思うようには行かない。

(くそっ、ユフィなら手裏剣にこいつを括り付けて攻撃出来るだろうによぉ!)

 決定的なダメージを与えられないのは距離が届かないせいだ。
 攻撃をかわし、且つ懐に飛び込んで火のついた植物を押し付けるという単純な攻撃だが、それがいかに困難なことか…。
 選りすぐりのWRO隊員とは言え、ケルベロスのスピードと力はそれをはるかに超えてくれている。
 玉砕覚悟で突っ込んでも本当に玉砕してしまうだけだろう。

 ウータイのお元気娘の武器が脳裏に浮かぶ。
 と…。

「……俺様、アホだったかもしれん」

 火がついた状態で振り回しても意外と火が消えにくい。
 なら…。

 シドは手早く自慢の槍先に植物を突き刺した。
 そして、気合と共に宙へ舞う。
 そのまま勢い良くケルベロスへ突き刺し、引き抜いた。

 その変化にその場の全員が一瞬動きを忘れ、目を見開いた。

 悲鳴の形に口を大きく開いたケルベロスは、悲鳴の代わりにシュ〜シュ〜という何かが焼けるような異音を上げた。
 大きく身体を膨らませたその動きは、まるで水、いや、水銀だ。
 トプン…、という音が聞こえるかのように膨らみ、縮み、タプタプと揺れながら収縮を繰り返す。
 やがて、足元の方から完全にその形は崩れ、ドロリと床にただれ広がると終(つい)にその形は床のシミとなって消えた。

「よっしゃ、シド!そのまま刺せ刺せ、刺しまくれ!」
「アホ抜かせ!1人でこんだけの相手が出来るか!てめぇもやりやがれ!!」

 コミカルにポンポンとやり取りをしながら、それでもシドとバレットは笑っていた。
 微かに戦局へ光が見えた気がした。