「ほら、クラウド!」
「これも食べて食べて!!」
「いや……二人共、これ以上は……」
「「ダメーー!!」」

 シエラ号の一室で明るい声が響いていた。



欠けたピース 11




 エッジにあと少しで到着するシエラ号では、ここ数日間のくら〜い雰囲気など微塵も残ってはいなかった。
 英雄達は勿論の事、クルー達もウキウキと弾む足取り、表情で仕事に励んでいる。
 その中でも一際嬉しそうに笑っているのは…。

 クラウドのベッドにベッタリと張り付くようにして満面の笑みで食事を勧める子供達。

 元々細身だったクラウドが、更に細くなって自分達のところに戻って来た。
 記憶がなくなった…と、シドから打ち明けられた時にはショックで死にそうになったが、それでも『生きてさえいてくれたら!』との思いで一杯だった。

 が!!

 こんなに痩せているとは想像していなかった。
 おまけに、シエラ号に収容された時のクラウドは青白い顔、紫色の唇、目の下にはクマ、荒い呼吸に高熱というオプションつき。

『死ぬかもしれない!!』

 本気でそう思ったのだ。
 だからこそ、こうして記憶を取り戻してくれた喜びと共に、早く元のクラウドに戻って欲しいという欲求がムクムクムク…と大きく育ち…。

 熱が下がって落ち着いたクラウドに、せっせせっせと食事を勧めているというわけだ。

 クラウドは自分を死ぬほど心配してくれていた可愛い子供達をこれ以上悲しませたくない!!という思いから無理をして差し出される食事を口に運んでいた。
 だが、当然のことながらそれにも限界というものがあるもので…。
 とっくに胃袋が悲鳴を上げているというのに、可愛い可愛い子供達はまだまだどんどん食べろと言ってくる。
 恐らく、怖い顔をしたり、泣きそうな顔をしたらこの二人の天使はその攻撃を止めてくれるだろう。
 だが、十日間ほどの苦悩を強いてきたことを思うと、とてもじゃないがそんな鬼畜な事は出来ない。
 といって、子供達が差し出してくる『おじや』や『卵スープ』はもう胃袋のどこにも入らない。
 救いを求めて仲間達を見るが、往々にして誰もがさも楽しくてたまらない…と言わんばかりの顔をするばかりで、誰も助けようとはしてくれない。

 困った…。
 とてつもなく困った……。

 ほとほと困り果てて差し出される蓮華(れんげ)二つをジトーッと見つめ、悲鳴を上げる胃袋をなだめすかして口を開けようとした。

 その時。


「二人共、その辺にしないとクラウドがブクブクに太っちゃうわよ?」

 笑いを堪えた声の救いの女神が現れた。

 助かった!!
 と言わんばかりに顔を輝かせるクラウドと…。

 それはイヤ!!
 と叫ばんばかりにギョッとした子供達…。

 その対照的過ぎる二つの表情に、ティファと仲間達は声を上げて笑い出した。

 それは…。
 本当に…幸福なひととき……。




 クラウドが自宅に戻ったのは実に十三日振りだった。
 当然のことながら、それまでに請け負っていた依頼が山のように残っていたがそれは仲間達が我先に…と引き受けてくれた。
 クラウドが星に還ってしまったかもしれない…。
 その喪失感とも恐怖心とも言える生き地獄から解放された仲間達の歓喜の衝動。
 クラウドとティファは申し訳なく思いながらも、その好意に甘える事にした。
 クラウド一人だと手こずること間違いなしの件数も、仲間達に手分けされたらものの半日程度にしかならない。
 改めて、自分ひとりで出来ることは少ないのだ…と思い知らされる。
 それと同時に、仲間達や家族がいかに自分を想ってくれているか……。
 それを身に染みて感じる事が出来た。

 クラウドは……。
 本当に幸せだった。

 たとえ、記憶の無いまま自宅に戻ったとしても…。
 記憶が無い故に戸惑いながら自宅のドアをくぐったとしても…。

 それでも家族や仲間達は普段どおりに自分と接してくれただろう。
 変に特別扱いする事もなく、『生きていた』ことを心から喜んで…宴会を開いただろう。
 そういう奴らなのだ。
 だからこそ、記憶が無かったときにも恋焦がれて仕方なかったのだ。

 帰りたい……と。

 熱も下がって両脚と頭の傷もほぼ良くなっている。
 とは言え、完治しているわけではないのであまり無理は禁物……と、診断をしてくれたのはニブルヘイムの医師。
 シエラ号に収容され、まだ意識の戻っていないクラウドを心配した仲間達が無線で連絡を取ってくれていた。
 その結果が『退院許可』と『無理はしないで自宅療養』という診断。
 薬は……特にないとのことだった。
 では、毎日投薬されていた薬と最後の一晩受けていた点滴は……というと、クラウドが薄々感じていた『安定剤』。
 ナルシュスが医師を脅して投薬させていたという代物。
 勿論、『安定剤』はきちんと投薬範囲内でされていたため人体に影響などない。

「ナルシュスが脅さなくても投薬していましたよ」

 悲しげにスピーカーから響いてきた医師の言葉に、ユフィとナナキは眉を吊り上げ、ヴィンセントはただ静かに「そうか…」と言った。
 妙に納得したような仲間の返答に、ユフィとナナキは怒りの矛先を寡黙な仲間に向けたが、それもすぐに消え去った。

 医師曰く…。

「記憶喪失と両脚、頭部への裂傷という状態に陥って、冷静でいられる人間はいませんからね。ある程度の安定剤を処方するのは当然ですよ。でないと、万が一、これからの自分を儚んで……なんてことになったりしたらそれこそ取り返しが付きませんから…」

 だそうだ。

『『確かに……。』』

 ユフィとナナキはゾッとしながら医師の判断に納得せざるを得なかった。



 そんなこんなで帰宅したクラウドは、現在自宅のベッドでゆっくりと過ごしている…かと言えば、実はそうではない。
 ゆっくりと過ごしてはいるのだ。
 ただ、場所が違う。
 クラウドが身を横たえているのは、セブンスヘブンの店内のソファー。
 子供達が嬉しそうにその傍らで、豆のスジを取ったりイモの皮を剥いたりしている。
 手際よく開店準備を手伝いながら嬉しくてたまらないと言わんばかりに笑う子供達。
 そんな二人を笑みを浮かべて見つめているクラウド。
 そして、そんな三人を幸せ一杯に見るティファは…カウンターの中で仕込みをしている。
 本当は、ティファだってクラウド失踪からまともに食事をしたり、休養を取っていないのだから帰宅した当日くらいは休んだら良いのに…。
 とは、仲間と子供達、そしてクラウドの意見だった。
 だが、当の本人は、
「二週間近くもお休みしてたんだもの。早く開店させて、常連さん達にクラウドが無事だったって教えてあげたいし、私も早く常連さん達の笑顔が見たいもの」
 と言って笑うだけだった。
 すっかり元気を取り戻したティファは、シエラ号に収容されたクラウドの傍らで一晩グッスリと休み、しっかりと食事を取った。
 そのお蔭か……。

「なんか……すっかり元通りだね」
「うん…そだね…」
 セブンスヘブンに到着して、クラウドの代わりに配達に出発する仲間達を見送るティファに、赤い獣がしみじみとこぼし、ウータイ産の忍びが感心したように溜め息を吐いた。
 その傍らでは、浅黒い肌の巨漢も重々しく頷いて、
「でもよぉ…あんだけ真っ青になってぶっ倒れるくらい追い詰められてたのによぉ…、たった一晩で回復するか…?」
 と、呆れとも思える感想を口にした。
「ま、良いんじゃねぇの?クラウドもティファも元に戻ったっつうことで…」
「…違いない」
 シエラ号の艦長と赤いマントの英雄が微かに微笑んだ。

 それくらい、ティファはすっかり元気を取り戻した。
 勿論、痩せてしまった体型が戻ったわけではないのだが、溢れ出るオーラが全く違う。
 それはそれは、生き生きと輝いている。
 この分だと、店を開店させても大丈夫だろう…。
 まぁ、閉店時間は早めに…と約束させれば…。

「うん、私もそのつもり。だって、子供達も疲れてるだろうし、何よりクラウドがゆっくり出来ないと思うの。今日、お店を開けるのは心配してくれた常連さん達へのお詫びと報告の為ってだけだから」

 にっこりと笑ってあっさり約束したティファに、仲間達は心の底から安心してセブンスヘブンを後にした。

「皆、本当にありがとう。配達が終ったら戻ってきてね?お礼がしたいし…」

 そう言って見送ってくれたティファに、仲間達はニッと笑って「もっちろ〜ん!」と明るい声を上げた。


 というわけで。
 セブンスヘブンが開店するまでの間、クラウドはティファと子供達がクルクルと働いているのを観賞しつつ、ソファーの上で毛布に包まり(子供達に無理やり包まれた)、ウトウトと幸せな時間をかみ締めていた。


 そして、久しぶりにオープンしたセブンスヘブンに、ドアの外で列を作って待っていた常連客達が雪崩込んできた。
 あっという間に賑わう店内。
 その華やかな喧騒が、自室に戻って横になっているクラウドの耳にも聞えてきた。
 何やら号泣している男の野太い声も混ざっているように思えるのは……気のせいではないだろう。
 何しろ、ティファは人気者なのだ。
 その人気者が久しぶりに姿を現したかと思えば、すっかり痩せてしまったとあっては、衝撃はでかいだろう。
 ベッドでうつらうつらとしながら、クラウドはそっと顔を綻ばせた。
 その人気者の心を独り占めしていたという事実が……くすぐったいような……嬉しいような……。
 ティファと子供達を酷く心配させてしまったことは本当に申し訳ないと思う。
 だが、それと同時に自分がどれだけ想われているかの証であると思うと……幸せを感じずにはいられない。


「俺は…やっぱりティファなしじゃダメ…か…」


 ポツリ…と呟く。

 記憶を失っている頃も『自分』。
 英雄として見られているのも『自分』。
 子供の頃、嫌われ者だったのも…、崖から落ちる幼馴染を助けられなかったのも『自分』。
 どれも『自分』で『自分』以外の何ものでもないのに、こうも違うものか…と思う。

 子供の頃は母親が、神羅にいる頃は親友が、そして記憶が無い頃は、ナルシュスが傍にいてくれた。
 だが、それでもここまで『ピッタリ』とくるものは無かった。
 勿論、母親も親友もかけがえのない存在だから自分の中から消えてしまったとしたら、それはそれで『穴』が開くのだろう。
 だが、『自分』が『自分』でなくなる存在は…やっぱり……。


 ― ティファだから…でしょ? ―
 ― ま、そりゃ、そうだろう… ―


 …ああ……そうだな。


 ― あら!やっと素直になったわね ―
 ― おお!やっと認めたか〜! ―


 ……否定した事はないぞ…?


 ― なに言ってんのよ。いっつも澄ました顔してるくせに ―
 ― そうそう!ま、なんにしろ、お前もティファも、やっぱりお互いが必要不可欠な存在だって再確認できて良かったじゃん? ―


 ……俺はそうでも…ティファはどうだか分かんないぞ……?


 ― なんでそこで弱気なの!? ―
 ― …クラウド、お兄ちゃんは悲しいぞ… ―
 ― あんなに細くなっちゃったティファを見てもそんなこと言うだなんて! ―
 ― お前…頼むからもう少し自覚しろ… ―


 …………そう…かな…?


 ―― そうでしょ(だろ)!! ――


 ……だと嬉しいけどな……。


 ―― 自信持ってよ(持て)!! ――


 …………努力する。


 ― 頑張ってよ〜!? ―
 ― …心配な奴だな… ―


 ……ああ…。ザックス、エアリス…。


 ―― ん? ――


 ………ありがとう…。


 ― ふふ、どういたしまして! ―
 ― おう!じゃ、またな〜! ―





 フワリ…。
 ふいに、前髪が軽く撫でられる心地良い感触が意識を浮上させた。
 いつの間にか、すっかり寝入ってしまっていたらしい。
 重い瞼をゆっくりとこじ開けると、目の前には予想通りの茶色の瞳。

『ナルシュスも……茶色だったなぁ……』

 ぼんやりとそう思っていると、その瞳が心配そうに細められた。

「気分……悪いの?」
「………」
「クラウド…?」

 何も言わないで黙っていると、段々と彼女が心配から不安にその表情を変化させる。
 その変わりようが何とも言えずくすぐったくて…。
 フッと笑みを浮かべて彼女に手を伸ばす。

「大丈夫だ…、ごめんボーっとしてた」

 そのたった一言で彼女が安堵の溜め息をついて、嬉しそうに微笑んでくれる。
 それが堪らなく嬉しい。
 綻ぶ口元を抑えられない。
 彼女が一喜一憂してくれるのが他でもない自分のことについて…というのがどれだけ嬉しいか。
 目の前の彼女は分かってるだろうか?
 いや、きっと誰にも分からないだろう。

「今…何時?」

 ふと、彼女がこうして目の前にいるということに疑問を感じた。
 ティファがいる…という事は店は閉めたのだろう。
 そうなると、今日は必然的に聞えてくるはずの仲間達の騒がしいドンちゃん騒ぎが……聞えてこない。
 まるで、自分と彼女以外、誰もいないかのようだ。

 ティファは「えっと…22時半過ぎよ」と視線を置き時計にやって答え、再び顔を戻した。
 ほんのりとその頬が染まっているように見えるのは……気のせいだろうか?
 クラウドがその疑問を口にする前に、
「あ、あのね…」
 ティファが口を開いた。

「えっと…ユフィ達がさっき帰ってきたんだけど……その……」
「?」

 泳ぐ視線。
 どもる口調。
 そわそわと落ち着きなく身を捩る仕草…。

 なんとなく。
 そう、ほんっとうになんとなく、彼女がこれから言わんとすることが……分かる気がする。
 ウータイ産のお元気娘が「イエ〜イ♪」とピースをする姿が見えるのは……幻覚か!?

「もしかしなくても……子供達はシエラ号にいる…とか……?」
「!!………………………………………………うん」
「//////」

 真っ赤な顔をして俯いた彼女に、釣られてクラウドも赤くなった。
 つまりは……この家には二人っきり。
 仲間達と子供達が、
「頑張れ〜!」
「思う存分仲良くやりやがれ!」
「この二週間の空白を埋めるために協力してあげるよん♪」
「頼むから喧嘩だけはしないでね…?」
 などなど、面白おかしくエールを贈ってくれる姿がリアルに想像できる。

 いや、本当に……良く出来た仲間と子供達だ…。

「そ…か…」

 情けない事に漸く口に出来た言葉がたったのソレだけ…。

「うん…」

 真っ赤になって俯いている彼女も……ソレだけしか答えない。

 なんとも居心地が悪いような……むず痒いような……それでいて、くすぐったくて…甘ったるい心地がするその雰囲気。
 先に耐えられなくなったのは……。


「あの…ちょっとお風呂入ってくるね」


 逃げるようにして身を翻し、あっという間に部屋から出て行ってしまった彼女を、クラウドは口を半開きのまま見送った。





「それで、ナルシュスはさ…エッジの『闇市』で売られそうになってたんだ…」
「え……」

 汗を流してバクバクとうるさい心臓をなだめすかし、深呼吸を繰り返して戻って来たティファは、クラウドと一緒にシーツに包まって彼から『彼女』との出会いを初めて聞いた。

 コスタの病院を追われた彼女は、頼りになる人も無いままエッジにやって来たという。
 その道の途中で…『闇の組織』の人間に拉致された。

『闇市』というものがある…と、リーブから聞いたことはあったが、直接その場に出くわした事は無かった為、あまり実感が無かったティファは、クラウドから聞かされたその事実に衝撃を受けた。

「俺もリーブから話半分にしか聞いてなかったから、一瞬なんの集まりかと思ったけどな。でも、その闇市を仕切ってた奴もWROが捕まえて今はそういうもんはないんだが…」

 言葉を切って遠くを見る。

「思い返したら…初めて会った時からナルシュスは…おかしくなってたんだろうな。きっと、彼女は正義感が強くて…人一倍優しくて…一生懸命な性格だったんだ…」
「うん…そうだね」

 クラウドの胸に頬を摺り寄せて頷く。

 きっと…クラウドの言う通りだろう。
 そうでないなら、病気で苦しむ人の為に…と、薬を盗んだりはしない。
 その見返りとして彼女は共犯である医師になにも要求はしなかった。
 一緒に病院を追われて……新しい人生を始める為にエッジを目指した。
 それなのに拉致されて……売られそうになって……。
 人の為に一生懸命だったのに、次々襲ってくる不幸。

『自分の人生はなんだったんだろう…?』

 そう思わない人間が果たしているだろうか?
 さらには、人生最大の危機に現れた救世主に惹かれない人間がいるだろうか?
 その救世主には既に恋人がいて…家族がいて…。
 自分が入り込む余地がないと知った時、どれほど辛かっただろう…?
 だから、エッジにもいられなくなった。
 身を切られる思いでその救世主から離れ、全く別の土地へ赴き、ようやく落ち着いた生活を手に入れて、『彼』の事を忘れて人生の再スタートを切ろうとしていた。
 その矢先、憧れの救世主がまた現れた。

『この人は…本当は自分の運命の人なんじゃ!?』

 そう思っても…仕方ないかもしれない。
 特に、ナルシュスの場合は…不幸な事が多すぎた。
 精神的に疲れてしまっていたとしても、そのせいで常軌を逸した感情に走ってしまったとしても…。

「責められない…よね…」
「ティファ?」
「ナルシュスさんがクラウドを引き止める為に色々したことは…やっぱり今でも酷いって思っちゃうんだけど、それでも…ね。『酷い!』って、責められないなぁ…って思って……」
「……ごめん」
「どうしてクラウドが謝るの?」
「……」

 キュッと力を入れて抱きしめると、クラウドもティファの後頭部に回した手に力をこめた。

「俺が…忘れちゃったから…」
「それはクラウドのせいでも誰のせいでもないよ?」
「…それでも…さ……」
「クラウド。クラウドは一人の命を助けたんだよ?その為に忘れちゃったかもしれないけど、それは誇れる事だよ」

 モゾッと顔を動かして見上げてくる茶色の瞳に、情けない顔をした自分が映る。
 ティファはフンワリと微笑んでゆっくりと背を撫でた。

「それに、こうして思い出してくれたもん。もう良いの」
「………ん」
「それに……」
「ん?」

 恥ずかしそうに頬を染めて俯いてしまったため、つむじしか見えなくなった。
 そっと後頭部に添えていた手で髪を梳くと、赤くなっている耳が覗く。
 それだけの事が……鼓動をうんと早める。

「…クラウドが…ニブルヘイムに一人で行ったのも……その………
私のためでしょ?」

 こんなに近くにいるのに、聞えるか聞えないかの小さな小さなその言葉。
 そっとつむじに唇を押し付けて「うん…」と言ってみると、背に回された彼女の手に力が込められた。

「…今度、教会の花を持って皆で墓参りに行こう…」
「!!」

 勢い良く顔を上げた彼女の目が大きく見開かれている。
 クラウドはやんわりと微笑んだ。

「きっと…ティファのお父さんもお母さんも…俺の母さんも…村の皆も喜んでくれる」
「……うん!」

 薄っすらと涙を浮かべて嬉しそうに笑った彼女に、そっと顔を寄せる。
 重なったぬくもりに…互いの鼓動が早くなるのを感じながら、心の奥底で何かが『カチリ』とはまった音を立てた。

 それは、本当に小さな音。
 心に開いていた穴が埋まった幸福な音。



 後日。
 ニブルヘイムにお忍びでやって来たジェノバ戦役の英雄達と子供達の手によって、村の片隅にポツリとあったその墓地が、芳しい花の香りで包まれた…。



 あとがき

 お、終った……(汗)。
 めっちゃ長くなりましたね…(何故に!?)
 今回は、クラウドが記憶喪失になっちゃったよぉ、どうしよう!!というなんとも簡単な感じで始めたお話しだったのですが、いつの間にやらこんなに長期連載……(滝汗)。
 はい、本当にすいません。
 ここまでお付き合い下さって本当にありがとうございました!!

 ナルシュスというキャラは、本当はエアリスとティファを足して二で割った感じの素敵な女性にしよう!とか当初は思っとりました。
 が!!
 どうしてこんなキャラに変化したかと言うと…。

 ぶっちゃけ、『そんな良い人が最後は辛い思いをする話は耐えられない!!(誰が? ← 私が!!)』という事になりまして、不幸な事が沢山あった為に精神的に病んでしまった女性になってしまいました…(反省)。
 どっちにしても、ナルシュス…ごめんね……。


 最後になりましたが、補足的にオマケを書きました。
 いや、だって。
 ナルシュスとお医者様がその後どうなったのか放りっぱなしになっちゃったので…(苦笑)。
 読まなくても全然お話的には問題ないかと思われますが、よろしければどうぞ♪

 ではでは、本当にここまでのお付き合い、心から感謝しつつ…。

    オマケ