恋の媚薬(後編)






「クラウドさん、本当に申し訳ない」
「……俺よりも、シュリに謝ってやってくれ…」

 その後。
 ようやく連絡のついたリーブが、数名の隊員を引き連れてすっ飛んできた。
 平身低頭するWRO局長の斜め前には、富豪の親子がセブンスヘブンの床で正座している。
 すっかり小さくなっているその富豪の親子に、リーブはただただ苦笑いしか浮かべられなかった…。

「いいえ、申し訳ありません。俺のミスです。毒物に対しての認識をしっかり持ち、警戒すべきでした」

 二階からティファに支えられるようにして降りてきたシュリの声に、親子とクラウド達が顔を上げた。

「シュリ様!」「シュリ殿!!」

 正座から勢い良く立ち上がった令嬢が、痺れた足のせいで見事にこけそうになり、ボディーガードに支えられる。
 シュリは浅く、苦しそうな息使いを肩で繰り返しながらも、ゆっくりと首を振った。

「いいんです。あなたのお蔭で、また闇組織の一端がつかめそうですからね」
「え…?」

 真っ赤な顔をして惨めそうにしている令嬢へ淡々と語る。

「あなたは、本当の事を何も知らないで『コレ』を使ったんですよね?」

 毒物入りトリュフの小箱を掌に乗せたシュリに、令嬢はコクコクと一生懸命頷く。
 そんな娘を父親は困ったように見やるばかりで、何と言って良いのか分からない様子だった。
 しかし、リーブと隊員達は何か思い当たることが合ったらしい。
 パッと顔を見合わせると、アイコンタクトだけでやり取りと行い、サササッと令嬢と紳士を取り囲んだ。
 オタオタして戸惑う親子に、
「すいません、事情をお聞きしたいので」
「どのような経緯でその毒物を購入されたのか…」
「どのような風貌の者から手に入れたのか…」

「「「 お聞かせ願えますか? 」」」
 営業スマイルなど欠片ほどもない、完璧無表情で富豪親子とそのボディーガード達を掻っ攫ってしまった。
 その背を追うように、シュリもフラフラしながらティファから身体を離し、精一杯背筋を伸ばした。

「では、これから薬物の密売組織について、調査をしないといけませんのでこれで失礼します」
「「「「「 はい!? 」」」」」

 驚きの声はセブンスヘブンの住人+WRO局長から。

 呆気にとられる五人に軽く敬礼をし、
「早くしないと、折角のチャンスが逃げてしまいますからね。絶対に逃すわけには行きません」
 ふらつく足どりで、背を向けた。

「「「 ちょ、ちょっと待って! 」」」

 ティファ、デンゼル、マリンが慌てて声をかける。
 だがしかし、当然のことながら青年は止まらなかった。
 上司であるリーブも、あまりのことにポカンと口を開けていたが、
「シュリ!」
 鋭く声をかけて呼び止める。
 上司の声掛けに答えないわけには行かないのか…、ちょっと立ち止まって振り返る。
 丁度、ドアにもたれるような位置だ。

「シュリ、キミは今回の一件に手を出してはいけません」
「ですが、自分が被害者でもあるわけですし、ずっと気になっていた一件です。自分にも参加させて下さい」
「ダメです。そんなことよりも、キミはすぐに医療班の所に行って診察、治療を受けて下さい」
 もう医療班には言ってありますからね。

 リーブの最後の一言は意外な効果を持っていた。
 絶対に言い出したら聞かない青年が、最後の『医療班には言ってありますからね』で、ガックリと肩を落としたのだ。
 そうして呻くように溜め息をつくと、改めてセブンスヘブンの住人四人に向き直って頭を深く下げ、日を改めてお礼に来る…と言い残し、上司に付き添われて帰って行った。

 四人は呆然としたまま、開けっ放しのドアから差し込む夕陽に照らされ、立ち竦むのだった…。


 後日。
 事の真相が明らかになった…、とリーブから連絡が入った。
 お嬢様はエッジの『占い師』と称する輩から『恋の媚薬』として、『麻酔薬』を買ったのだという。
 しかも、その麻酔薬はお嬢様が使用した量だと、象一頭が簡単にコロリ…と麻痺してしまうほどの劇薬だったそうで、シュリの体力に医療班は呆然とし、次いでシュリを『モルモット』として目を輝かせたのだという。
 現在、シュリは医療班の人間から隠れるかのように、得意の変装技術を駆使して潜伏任務についているのだそうだ。



「確かにお嬢様のしたことは間違いかも知れないけど…まぁ…気持ちは分かるわよね」
「うん、好きな人にはやっぱり自分のことも好きになって欲しいもんね…」
 事の真相がはっきりし、クラウド達はひとまずホッと安堵の溜め息をついた。
 
 女心…というのだろうか。
 ティファとマリンはお嬢様に対しての点が甘い。
 しかし、
「でもさぁ、そんなのやっぱりインチキじゃん?自分の力で振り返ってもらわないと意味無いじゃんか」
「 ………… 」
 デンゼルとクラウドはお嬢様に対して点が辛い。

「それにしても、シュリお兄ちゃん、大変だったよねぇ」
「そうだよな。でも、良かったよなぁ、これが他の隊員さんだったら死んでただろうし」
「うん、そうだよね。そうなってたら、あのお嬢様、殺人者になっちゃうもんね」
「だよなぁ」
「でも、医療班の人達に『モルモット』にされそうになってるだなんて、可哀想だよねぇ」
「そうだよなぁ。でも、兄ちゃんなら絶対に捕まらないだろ?なんたって『星の声』が聞けるわけだし、変装は完璧だしさ!(注:『思いがけずに一人旅』参照 (笑))」
「うん、そうだよね!」
「あ〜、兄ちゃんの変装、また見たいなぁ!」
「うんうん、変装したまま来てくれないかな〜?」
「でも、きっと医療班の人達、俺達のことチェックしてるぜ?シュリ兄ちゃんに関係してる人達の事、絶対にチェックしてるはずだからさ」
「あ、そっか。でも、なんかそれってカッコイイよね!ドラマみたい、こう『あの家族をマークしろ』って〜!」
「わ、本当だ!!カッコイイ!!!」

 うんうん、と子供達は顔を見合わせて大盛り上がりだ。
 内容は全く微笑ましくないのに、どこか微笑ましいその光景に、親バカな二人の頬が緩む。

「さてと。じゃあ、もうそろそろ皆、お休みの時間ね」

 ティファが立ち上がりながら子供達に微笑みかけた。
 ピョン、とソファーから飛び降りるようにして立った子供達は、「「は〜い」」と可愛らしい返事を返し、それぞれクラウドとティファに『お休みのキス』をもらった。

 そうして、ホクホクと嬉しそうな子供達を二階へ送ろうとしたその時。


 コンコンコン。


「「「「 ??? 」」」」

 誰かがドアをノックしている。
 カーテンの隙間から外を覗いたクラウドが軽く目を見開いた。
 ティファと子供達に少しだけ緊張が走る。
 クラウドは躊躇う事無くドアを開けた。


「「「 あ…!? 」」」
「夜分に…すいません…」

 立っていたのは、問題のお嬢様。
 数人のボディーガードがお嬢様の背後を守っていた。

 とりあえず、目立つことと話しが長そうなことから店内に招き入れ、コーヒーを煎れた。
 クラウドはシュリを酷い目に合わせた女性…ということから、このお嬢様が気に入らないらしい。
 いつも以上にムッツリとした顔で、斜に構えて立っている。
 子供達は興味津々だったが、それはグッと我慢して大人しく部屋へ向かった。
 ティファはなんとなく居心地の悪い空気に苦笑を浮かべつつ、煎れ立てのコーヒーをお嬢様とボディーガード達に勧める。

「で、一体こんな時間になんの用だ?」

 初めから喧嘩ごしのクラウドに、ティファが軽く咎めるような視線を送る。
 ビクッと肩を揺らしてお嬢様がおずおずと顔を上げた。

 真っ赤に頬を染め、潤んだ瞳は本当に…可愛い……と言うべきなんだろうか…?

「あの……本当に先日はお騒がせしてしまいまして申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる。
 シュン、と項垂れても見えるその姿に、クラウドの鉄面皮がはがれそうになった。

「良いんですよ、そのことなら。それに、謝る相手は私達ではなくてシュリ君でしょうし…」
「えぇ…そう…思うんです。でも…」

 心がホッコリするような微笑を浮かべたティファに、その場の空気が和む。
 令嬢は感謝の気持を表情に表しながらも、困ったように眉根を寄せた。

「連絡が…その、つきませんで…。クラウドさんとティファさんでしたらシュリ様との連絡もつくかと…」
「シュリと連絡がつかない…?」

 クラウドが会話に参加してくれたことが嬉しかったのだろう。
 ホッとした様に肩の力を抜いた。

「WRO局長のリーブ様にもお願いして…その…、どうしても直接謝りたくて。でも……教えて頂けなくて…」

 段々小さな声になっていく。
 それに伴って、段々令嬢の身体も小さくなるかのような印象を受ける。
 ティファの心を揺さぶるのには充分な姿だった。

「リーブったら……」

 ほんの少しイラッとした声で仲間の名を口にする。
 一方、クラウドは別だった。

「それは仕方ない。シュリはWROの中佐だ。おいそれと連絡先を教える事は出来ないだろうし、今は任務中のはずだ」

 今日聞いたばかりの『変装して潜入捜査』という件を思い出す。
 令嬢は明らかにしょんぼりとして、ティファの煎れてくれたコーヒーを啜った。

「それにしても、これからは『惚れ薬』とか使う事無く相手に想いを伝えるようにしろ。まがいものの『想い』を手にしたって意味ないだろ」

 斬って捨てるような台詞に、ティファが『もう少し思いやった言葉を使ってあげてよ』と小声で叱る。
 しかし、クラウドはシュリにどんな種類であれ『薬』を盛ったということがどうしても許せなかった。
 いつもならたとえ小声でもティファに叱られた不貞腐れたり、シュン…と落ち込むのに、今夜は頑として譲らない。
 真っ向から睨みつけている。
 しかし、その極寒の眼差しを令嬢は涙を一杯に浮かべた目でキッと睨み返した。


「私が人並みの容姿をしていたら、『惚れ薬』なんか使わないわ!!」


 後ろで控えていたボディーガード達が、チラッと視線だけを合わせて聞かなかったフリをしようとする。
 しかし、クラウドとティファはそうはいかない。
 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったのだ。
 ポカン…と目を丸くして暫し硬直する。
 その間もお嬢様は、
「お二人も思ったでしょう!?私のことを『ブス』だって!」
「皆そう!私のこの体型、この顔!こんな『ブス』に普通の恋愛なんか絶対に出来ないって!」
「言い寄ってくる男性達は皆、お父様の跡取りの座を狙ってくるの!誰一人、私の事を見ようとしては下さらないのよ!」
「そういうもんなんだって思ってたわ。私は結局、家のお飾りとして愛の無い結婚をしなくっちゃいけないんだって」
「それでも良いんだって!」
「それなのに…」
「そんな私が…初めて……初めて心惹かれた方が彼なの!」
「初めて…心が欲しいって思ったの!」
「愛の無い結婚でも良いって……どうでも良いって思ってた私が、初めて……初めて……」
 機関銃のように捲くし立て、最後の方は感極まって泣き出した。

 ティファは同性として、クラウドは異性として、このお嬢様に心から同情した。
「…好きになった人に…好きになって欲しい…っていう気持ち、分かります」
「…俺もその部分は同感だ。でも、『薬』で想いを左右されるほど自分の気持ちが軽い…って思われてたってことが…もしも対象者が俺なら…俺はイヤだな。すごくバカにされた気がする」
「クラウド!」

 クラウドの最後の一言で、お嬢様は再びビクッと肩を震わせ、ティファはキッと睨みつけた。
 しかし、どこまでもクラウドは真っ直ぐ……お嬢様の胸のうちを聞いた今、怒りも憎しみも無い瞳で見つめた。

「人間は誰だって最初は、『その人の容姿』から…『見た目』から判断してしまう…。それはどうしようもないさ。自分にとって『敵か味方か』を判別するのはもう、本能としか言いようが無いからな」

 一つ大きな溜め息を吐いて腰に手を当てる。

「だけど、そこから先に進むんだろ?恋愛だってそうだ。容姿が良くても性格が『ブス』だったら誰も相手にはしない。最初はちやほやされるかもしれない。でも、そういうのは本当に最初だけだ。すぐに捨てられる。でも…」

 ちょっと考えて言葉を切り、再び口を開く。

「性格が『美人』だと、その人がどんな容姿をしていても、惹かれてどうしようもなくなる。それが…」

「心…だろ?」

 放心したように目をまん丸に見開いたお嬢様に、クラウドははにかむように少し笑った。

「ま、それでも自分の容姿へのコンプレックスはどうしたって残るだろうし、人間が見た目で入っていくってことでアンタはこれからもイヤな思いをするかもしれない。でも、どっかで分かったんだろ?」
「え……?」

 初めて対等に問いかけられて令嬢はおどおどしながら首を傾げた。
 クラウドは後頭部を掻きながら視線をそらして、
「シュリが、見た目で判断する人間じゃなく、心で判断する人間だ…ってさ…」
 照れたように…そう言った。

 令嬢の目に、新たな涙が浮かぶ。
 何度も何度も頷いてしゃくり上げる令嬢を、ティファがそっと寄り添ってその肉厚の太い肩を抱き寄せた。




「本当に…もう、何から何まで申し訳ありません」
「良いのよ、またきてね。今度はお店の開いてる時に来て。きっと、お嬢様の食べたことの無いものばっかりよ。なんせ、庶民料理ですから」
「ふふ、すっごく楽しみにしてます!私、食べるの大好きなんです!」
「うん、美味しい庶民料理、頑張って沢山作るからね!」

 すっかり打ち解けた頃。
 お嬢様は帰る事となった。

「さっきはキツイ事を言って悪かった…」
「いいえ!私、すっごく救われました。そうですよね、最終的には性格『ブス』でなかったら良いんですよね!」
 私、頑張れそうな気がします。


 満面の笑みでそう一言を残し、令嬢はボディーガードに囲まれながら車に乗り込み、帰って行った。


「なんか…すごく心の真っ直ぐなお嬢様だったわね」
「そうだな…」
「いつか、素敵な恋が出来たら良いわね」
「ああ、出来るさ。きっと…いつか…」

 そう言葉を交わしてニッコリ笑い合い、店に入る。

「いつかシュリ君にも今の変わったお嬢様を見てあげて欲しいわね」
「そうだな。確かに、心が強く変わった…からな…」



「そうですね。安心しました」
「そうそう」
「安心するよな」

「「 ………え? 」」

 会話に自然に入り込んだ第三者。
 ほんの僅かの間、ティファとクラウドは互いの目を見て……。

 ギョッと振り返った。

 そこには、たった今帰ったばかりの令嬢のボディーガードの一人が立っているではないか!
 いや、違う!

「「 シュリ(君)!? 」」
「はい、こんばんは…というのもおかしいですかね?」

 あんぐりと口を開ける…とはこのことだろう。
 クラウドもティファも、ポッカーーン!としている。
 シュリは、髭面で壮年顔のマスクをベリベリと剥がした。

「ちょっとね、あのお嬢様が気になって」
「「 え!? 」」

 シュリの発言に二人が目をむく。
 もしかしたら……、もしかしたらお嬢様の恋が成就された!?!?

「闇組織のグループがまだ完全に追い詰められていないんです。ですから、闇組織としては、今回の一件が明るみに出てしまった原因である彼女を何らかの形で報復しようとしているかも知れない…と思いましてね」

「「 ………… 」」

 シュリの説明に、身を乗り出していた二人は肩透かしを喰らったかのようにガックリと項垂れた。

「それにしても、シュリ、お前もう潜入捜査してる…って聞いたけど、それってお嬢様の護衛の事だったのか?」

 思い出したようにクラウドが話しかける。
 シュリは苦笑しつつ首を横に振った。
「今回の潜入捜査って言うこと自体がウソですよ。今、WRO本部にいたらそれこそ本当に医療班に『モルモット』にされてしまいますからね」
「あ…そうか…」
「ですから今回の潜入はただの『潜入』であって『任務』じゃないんです」
 だから、局長にも言わないで下さい。

 そう言って軽く肩を上げて見せたシュリに、二人は吹き出すと友人の来訪を喜んだ。




「クラウドさん、クラウドさんまでソファーでなくても良いのに…」
「ま、たまにはこういうのも悪くないだろ?」
 その日。
 深夜になるまで話し込み、休むこととなった。
 最初、シュリはクラウドのベッドで休むよう勧めたのだが、丁重に断られて店のソファーを指名した。
 ティファは困ったような顔をしてクラウドに説得を頼もうとしたのだが…。
『じゃあ、俺も一緒に今夜はソファーで寝る。お休み、ティファ』
 と、頬に軽くキスをしてさっさと二人分の掛け布団を持っていってしまった。
 ティファはポカーン、とその姿を見ていたが、クスッと笑いながらそっと自分の部屋に向かった。
「お休み、クラウド。友達と一緒に眠れるなんて…小さい頃は出来なかったもんね」

 そう呟きながら…。


「…それで?」
「…はい?」

 すっかり静まり返った店内で、向かい合うようにして置かれているソファーを一つずつ占領し、ゆったりと身を落ち着けた頃。
 クラウドが出し抜けに声を掛けた。

「どうだった?お前の眼から見たお嬢様は」
「…そうですね…」

 暗がりの中、青年が天井をぼんやりと見上げて考え込んでいる気配がする。

「きっと、バカな真似はもう二度としないと思えました」
「…バカな真似…ね。相変わらず容赦の無い表現だな」
「クラウドさんも似たようなものじゃないですか」
「フッ…確かにな」

 他愛ないポツポツと交わされる会話が心地良い。
 ゆっくりと寝返りを打って、シュリと同じ様に天井見上げる。
 なんとなく…。
 なんとなく、親友と一緒に野宿をして夜空を見上げている…そんな心境になる。
 もういない…親友と…一緒に。

「シュリは…」
「はい?」
「誰かに想いを寄せたりは…してないのか?」

 唐突なその問いかけに、僅かに息を飲む気配がした。
 きっと、漆黒の瞳を見開いていることだろう。
 その姿は残念ながら暗闇の中で見ることは叶わない…。
 クラウドは、目を丸くしているシュリの顔を想像して一人ニッと笑った…。

「…なんでそんなことを…?」
「さぁ、なんとなく…かな…?」
「………」
「それで、いるのかいないのか?それとも、いたのか?」
「………ご想像にお任せします」

 予想の範疇外の答えが暗闇から返ってくる。
 クラウドは思わず上半身を少し起こした。
「へぇ…誰なんだ、その相手は」
「………」
「そうか…お前がなあ」
「…想像にお任せしますと言っただけですが…」

 なんとなく拗ねたような口調に、意地の悪い笑みがどうしても広がってしまう。
「だから、勝手に想像してみたんだ。『想像にお任せします』と言って、否定しなかったのはシュリだからな」
「……もう寝ます」

 ゴソッと衣擦れの音がして、シュリの声がくぐもった。
 掛け布団を頭まで被ったらしい。
 クックック…と、笑いながら、「あぁ、お休み」そう一言返してクラウドも瞼を閉じた。




 翌日。
 当然のことながら、シュリは子供達に囲まれて質問攻めにあっていた。
 どう扱って良いのか未だに完全には慣れていない青年が、時には言葉につまり、時には生真面目に考え込んで子供達と接する姿はクラウドとティファの笑いを誘うには充分だった。


「ま、いつかシュリにも相手が現れる…さ」
「そうね。案外もういるかもね」
「そうだな…。もしもそうだったら…」
「全力で応援しないとね!」


 明るい声でニッコリ笑うティファに、クラウドは子供達とシュリにバレないよう、そっと軽いキスを贈った。


 それだけで、ティファの心臓が跳ね上がる。

『私にはこれだけでもう充分『恋の媚薬』なんだけどな…』

 そっと赤くなった頬を押さえながらはにかんで笑って見せる。
 紺碧の瞳を甘やかに細めて微笑み合って…。

 今はまだ、『性格美人』になるため奮闘しているお嬢様と、目の前の青年が素晴らしい伴侶とめぐり合えることを祈りつつ…。



「さぁ、皆。ご飯にしましょう!」

 ティファは明るく声を掛けた。



 あとがき

 突発的に思いついた話しです(汗)。
 なんとなく自分の容姿にコンプレックスを持っている女性の『乙女心』を書いてみたくなりました。
 好きな人が出来た時、強いコンプレックスを持っていたら、どんな手を使っても綺麗になりたいと思う…と思うんですね…(すいません、未経験なんで想像ですが…)
 でも、それが無理なら相手の心をガッチリつかめる薬に手を伸ばす…と。(なんて安直な)
 とまぁ、そういうわけで(なにが!?)このお話しが出来上がりました。
 惜しむらくは…もう少しギャグ調にしたかった…(コラー!!)

 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!