ミーハー振りはそこそこにする事こそが長生きの秘訣(中編)




「アタシなんかさぁ。ウータイの入り口でベッタリ張り付かれてるから、うっかりウータイから出た日にはアンタ、もう戻れないんだよ!!必死にあの追っかけ軍団をまいて苦労してウータイから出れたと喜んでたのにさぁ…」

 最初に被害報告をしたのは、ウータイ産のお元気娘。
 いや、今は『元』を付けた方が良いだろう…。
 ミーハー追っかけ軍団の標的になってからというもの、めっきり『元気』がなくなってしまっている。
 目の下には暗いクマ。
 少々こけた頬。
 すっかり疲れ切ったその様子に、仲間達は苦笑すら浮かべられない。
 自分達も被害者なのだが、やつれた顔をしているウータイの忍に同情の念が押し寄せる。

 ユフィは手の中のグラスを所在なげに弄びなら、被害報告を続けた。

「まぁ、そりゃね。これでもウータイの希望の星の忍だから、追っかけ軍団みたいなド素人をまくのは簡単なんだけど、私のご近所さん達はそうじゃないじゃん?もうアレだね、私にウータイから消えろって言いたいのかね…あの迷惑軍団は…。アタシがいないと分かってんのか分かってないのか…、もうご近所さんに付きまとう付きまとう…。本当に勘弁してよ…。アタシ、ウータイから引越ししないといけないんじゃないかってくらい、ご近所さんに迷惑が………」

 ガックシ…。

 カウンターに突っ伏して脱力したお元気娘の頭をそっとティファは撫でた。
「大変ね……ユフィ……」
「うううう…。ティファ〜…」
 冗談ではなく、本気で目を潤ませるお元気娘にティファは苦笑を浮かべてカウンターに並ぶ他の仲間達をそっと窺った。
 どの顔も心からユフィに共感している。


「俺様のところも似たようなもんだぜ……ったくよぉ…」

 深い溜め息を吐いてシドが被害報告を引き継いだ。

「ま、俺様の場合はシエラが大半被害にあったんだがよぉ。ほれ、俺様の場合はWROの飛空挺造る工場に朝から晩まで缶詰だから流石に追っかけ野郎共も来られないんだがよ。だったら……ってんじゃないだろうが、俺様への執着心がそのまんま、シエラに向けられちまってよぉ」

 深い深い溜め息と共に、シドの手にしたまま、咥えられないで放置されてるタバコの灰が、ごっそりと灰皿の上に崩れ落ちた。

「俺様も気付かなかったのが悪いんだけどぉ。シエラの奴、ずーっと黙ってやんの。あの忌々しい雑誌が発売されてからかれこれ二週間。その間、ずーーーーっと!!変な奴らに付きまとわれて、変な配達もんまでワンサカ届いて…。それをずーーーーっと!!!!俺様にも誰にも言わないで自分で何とか処理しようとしてやがってさぁ…」
 あ〜あぁ…。

 ガックリと項垂れるシドに、いささか元気を取り戻したらしいユフィが「変な配達もんってなにさ?」と訊ねる。
 他のメンバーも、顔こそはカウンターの木目に向けられていたが、耳は傾けている。
 シドはそれを知ってか知らずか…。
 何度目か分からない深い溜め息を吐いて口を開いた。

「最初はアレだ。『雑誌読みました!』とか『将来は飛空挺技師になりたいと思いました!』とかまぁ所謂ファンレターらしいものだったらしいんだけどよ…。すぐに変な内容のものが送られてくるようになったらしくてよ…」

 言葉を切るシドに、ユフィは視線だけで先を促し、その後ろではティファも無言で興味を示した。

「アレだ。もう……奴らは頭のネジが数本ぶっ飛んじまってるな…。『貴方の作った飛空挺で私も空の海をクルージングしたい』とか『貴方好みのタバコを贈りたいと思うので是非、銘柄を教えて下さい!』だの段々アホみたいな内容の奴が増えていきやがってさ…。しまいには、その矛先がシエラに向けられるようになっちまって…。『アンタみたいなトロくさい女は『英雄様』の伴侶に相応しくない』とか『アンタよりも私の方が若くて良い女!シド様はお優しいからアンタみたいな年増女を放り出せないだけよ!さっさと別れなさい!!』とかとか…」

 シドの言葉に、それまでぼんやりと疲れ切っていた顔を並べていた仲間達にサッと怒りが走った。
 そして、ギラッ!!とシドを睨むと、
「あんだとぉ!?」
「なにそれ!ひっどーーー!!!!」
「おいら、その手紙の匂いを辿って、その女の人に抗議してやる!」
「ちょっと、シド!まさかその差出人に何にも抗議してないわけ!?」
「…シド、その女…どこのどいつだ……?」
「……シド、愛する女性がそんな目に合ってる時、お前は一体何をしてた……?」
「シドさん!?私はそんな話し、聞いてませんよ!?」
 矢継ぎ早に捲くし立てた。
 シドはギョッとすると堪らず大声を上げた。
「だぁああああ!!!ちっとは話を聞け!!って言うか、そんなふざけた内容の手紙の差出人が分かってたらとっくの昔に俺様自身が制裁を加えてる!!っつうか、俺様がそれに気づいたのが遅かったのは、さっきも言った通り、WROの飛空挺を造る工場に缶詰になってたからで、シエラも黙ってたから家に帰るまで全然気付かなかったんだっつうの!気付いたから、即行でWROの施設に避難させたんだろおが!って言うよりも何よりも、あんな『私の髪を編みこんだセーターです。是非来て下さい』だの『これで貴方は安全です』って書かれた不気味な人形を届けられた俺様も立派な被害者だ!!!!」

 ゼーゼー、と肩で息をするシドに、仲間達はハッと我に返った。
「あ〜…っと」
「そうだったわね、ゴメンナサイ」
「……そうだね……おいら……ごめんよ…」
「……確かにな…。おめぇならそうだな…。すまねぇ、頭に血が上っちまった」
「……すまない、つい」
「……悪い……」
「シドさん…本当に申し訳ない…」
 打って変わってシュンと項垂れる仲間達に、シドは頭をガシガシかきながら「あ〜、俺様も言いすぎた、悪い…」と苦笑する。

 そう言って、シドは改めてカウンターのスツールに座りなおした。
 暫く沈黙が店内を漂ったが、大きな声を上げた事により幾分皆の気持ちが軽くなったらしい。
 先程の暗く、まるで通夜のような顔つきが少々明るくなっていた。


「それで、バレットは最近どうなの?少し前まで油田の発掘現場に変な女の人が出てくる…って言ってたけど…」

 ティファがカウンターの中に入り、新しい飲物を作りながらそう声をかけた。
 バレットは手にしていたグラスの中身をグイッと空けると、カウンターにそっとグラスを置き、
「あぁ…。まぁ、シドやユフィよりはマシだな…」
 そう前置きをして話し出した。

「前に電話で言ったと思うけどよ。油田の発掘場にほんっとうに不似合いなヒラヒラした服着た、化粧がバリバリの香水をプンプンさせた女が何日も何日も来るんだよなぁ…。最初はすっげー気になってたんだが、まぁそのうち気にもならなくなったんだ。そしたらよぉ……」

 盛大な溜め息を吐きつつ、ティファ特製の肉じゃがを口に放り込む。
 そして「くぅ〜〜…ほんっとうに美味い!」と実に満足そうにそう唸った。
 そんなバレットにユフィがジリジリしながら「だから、それからどうなったのさ!」と続きをせがみつつ、自身もティファ特製のオムレツを口に放り込んだ。
「その女…。勿論、油田の発掘場なんかに一人でノコノコ来れないだろう?気の荒い、ガタイの良い男共がわんさかいるような場所によぉ。だから、いっつも団体さんで来るんだけど、その女、ある日俺に差し入れっつって一つの紙袋を押し付けやがったんだ。まぁ、それだけなら良いんだが…」
 一つ溜め息をこぼして、しみじみティファの手料理を眺める。

「中身がその女の手料理でよぉ………」

 その言葉だけなら、『なに贅沢な悩みを!』と言えるだろう。
 しかし、その時のバレットの表情から、とてもじゃないが誰もそんな台詞を口には出来なかった。
 料理の味を聞かずとも、その料理がどんなものだったのか想像するに難くない。

 しかし。
 だからと言って宙ぶらりんなまま、その話題に終止符を打つのも何とも言えず、後味が悪い。

「で……なに作ってくれたんだ…その女の人…」

 皆の代表として、元リーダーが渋々口を開いた。
 皆の『聞け』というオーラに屈服した結果だ。
 バレットはそれに気づいていないのだろうが、さりとてクラウドを睨んだり…と言う事も無く重い口を開いた。

「肉じゃが…」
「……意外と家庭的なものなんだな」
 軽く目を見開いてクラウドがそう言うと、
「もどき…」
「「「「「「「え…?」」」」」」」
 その場の全員が目を丸くした。
 巨漢の男がやけに小さく見えたのは何故だろう…。

「あんなにグロイ食いもんを口にしたのは人生で初めてだ……。ちなみに、食ったもんに『中った(あたった)』のも……初めてだ……。朝から晩までトイレに缶詰……。あの地獄の日々は忘れねぇ…」

 深い深い溜め息。
 眉間に寄せられた深いシワ。
 それだけ聞ければもう充分というものだ。
 クラウドは黙ってバレットの肉厚の太い肩に手を置いた。
 ティファがありったけの同情の念と共に、ジョッキを置く。
 バレットは「すまねぇな」と一言口にし、ジョッキに手を伸ばした。


「それじゃ、ナナキの報告を聞きましょうか?」
 少々時間を開け、皆がそれぞれティファの手料理の何がしかを満足そうに胃に収めた頃…。
 リーブが黙々と食べ続けるナナキに声をかけた。
 ナナキはキョトンとした顔をして顔を上げたが、すぐに何を聞かれているのかに思い至り、ゆっくりと首を振った。
「ユフィやシドやバレットの話を聞いた後じゃ、おいらの話なんか出来ないよ。だって、三人みたいに大変な事じゃないし…」
「なに言ってんのさ。今夜はこうして同じ傷を持つもの同士が互いの日々の苦労を分かち合って、明日から頑張るぞー!!って日なんだから、ナナキもしっかり愚痴を吐かきゃダメダメじゃん!!」
 ティファの手料理と仲間達の苦労話しにぐんと元気を取り戻したユフィの言葉に、ナナキは「あ〜っと…それじゃあ…」おずおずと話し始めた。

「ほら、広報誌においらが星を旅してます…って書いたでしょう?そしたらさ、本当に沢山の人達がおいらの事を出迎えてくれるようになったんだぁ…。まぁ、それは良いんだけど……」
 はぁ…。
 溜め息を吐くと、前足で耳の後ろを少し掻く。
「なんか……ずーーっと視線を感じるんだよね…。その町とか村にいる間、ずーーーっと…。それに、同じ人達の臭いがさぁ…風に乗ってくるんだよ。ほら、おいら鼻が利くでしょ?だからちょっとうたた寝しててもどうにも気になって…」
 ナナキの言葉に、ティファとクラウド、それにヴィンセントとリーブは同情的な眼差しを向けた。
 しかし、先に苦労話をした三人はちょっと呆れた顔になる。
「それって、別に無視してたら害はないんじゃな〜い?」
「だよなぁ…。おめぇ、別に付きまとわれてるわけじゃないんだろ?」
「毒みてぇなメシを食わされたわけでもなさそうだしな…」
 三人の言葉に、ティファが「もう…三人とも。それでもナナキには辛いのよ」とフォローに入る。
 しかし、そんな三人とティファのやり取りを前にナナキはゆっくりと頭を振った。
「そりゃ、ユフィやバレットやシドの言う通り……なんだろうけど…。でもさぁ、付きまとわれてない……ってわけじゃないんだよね…」
 その言葉に、全員が首を捻る。
 どうも表現が曖昧だ。
 ナナキはティファ特製のスープを一舐めすると、改めて口を開いた。
「おいら、広報誌が発行されてから四つの村と町に行ったんだ」
「…うん」
「結構、その村と町って離れててさぁ」
「…うん」
「それなのに…」
「「「「「「それなのに…?」」」」」」

「ずーーーーっと同じ人達の臭いが行く先々で風に乗ってやってくるんだ」
「「「「「「「……………………………………」」」」」」」

「もう…ね。次にどこに行く…なんて一言も言ってないのにさぁ…。なんでバレたんだろう…」
「「「「「「「……………………………………」」」」」」」

 遠い目をしてそう呟く赤い獣に、ユフィ、バレット、シドは心の底から「「「ゴメンナサイ」」」と謝ったのだった。

「って言うか、それって完全に異常よね……」
 ティファがしみじみそう呟くと、
「あの手の人間はある意味セフィロスよりも恐ろしい…」
 ヴィンセントが暗い声で応えた。
 そのヴィンセントの言葉に、ユフィがふと顔を上げると、寡黙な仲間に顔を向けた。

「ところでさ、ヴィンセントはなにかされたワケ?」

 その一言で仲間達が一斉に寡黙な仲間を見つめる。
 その眼差しにはどのような被害に合ったのかという興味と、彼が本当になにかしらの被害を受けたのか被害者なのか?という疑問の半々で占められていた。
 広報誌に住所不定として載っている彼が、そもそも自分達の様に追っかけ軍団に振り回されている状況が分からない。
 それに、何よりも自分達ですらこの寡黙で人付き合いが苦手で世捨て人の彼を捕まえるのは至難の業だというのに…。
 それなのに、追っかけ軍団はこの青年をターゲットとして追い詰める事ができたのだろうか…?
 ……どう考えても想像出来ない……。

 そんな仲間達の考えを鋭く察知したのだろう。
 ヴィンセントはグラスの中身を一口啜ると、「ふぅ……」と疲れが混じった息を吐き出した。


「私は滅多に一つの場所に停泊しない…」
 そう前置きして彼は語り始めた。

「それでも、ルクレツィアの洞窟にはやはり長くいるな。まぁ、せいぜい二週間……といったところか。そのほかは、気ままに放流している。ま、ナナキと同じ…とまではいかないが、私も世界を旅している事に変わりない。発売された広報誌が一体何を載せてるのかも気になったしな。だから、一つの町で広報誌を買い求めたのが……運の尽きだ……」

 そう言って、大きな溜め息を吐いた。

「広報誌なら私に言って下さったらお届けしましたのに」
 苦笑するリーブに、
「何を言ってる。WROの局長という忙しい身にあるお前に、そんなくだらない事を頼めるはずないだろう?それに、丁度食料も補充したかったのでな、そのついでだ。まぁ……」
 そう言葉を切って遠い目をする。
「今考えたら、リーブの言う通り頼めば良かったんだろうが……」
 暗い暗いその一言に…。
 英雄仲間達はそっと視線で会話をした。
 しかし。
 所詮視線での会話というものは、それらの人達の意思と反対に捉えられてしまうことがある。
 いや、このメンバーの場合はその確率の方が多い。
 即ち…。


『もっと詳しく聞くべし!!』
『もうこれ以上この話題に触れるべからず!』


 この二者択一の元、見事に真っ二つに受け止められ方が分かれてしまった。

「ヴィンセント、それで結局どうなったのさ!詳しく教えてよ!」

 ウータイ産の忍の言葉に、うんうん、と頷いた頭が三つ。
 ギョッと見開かれた目が六つ…。

 言わずもがな。
 動いた頭の持ち主は、油田の発掘者に飛空挺の艦長に星を旅するもの。
 対する残りの三人はデリバリーサービスを営む者とセブンスヘブンの店主とWROの局長…。

 ウータイ産の忍の言葉でなくとも、言葉というものは一度口から出たら決して戻ってこない。


 視線で殺される…。


 ユフィ、シド、バレット、ナナキはそう思った。
 自分達を射殺さんとばかりに殺気めいた視線を突き刺す三人に…。
 しかし…。
 それも全て、後の祭りだ。
 自分達が完璧だと思ったアイコンタクトが、百八十度違っていた事を痛いほど理解したとしても、しっかり、バッチリヴィンセントの耳に届いてしまったのだから…。

 寡黙な青年は、ますます遠い目をして口を開いた。

「ナナキじゃないが、行く先々で同じ人間の気配を感じるようになった。それも一人や二人じゃない。殺気があるならそれなりの応酬をするのだが、それがないのでこちらとしても対処のしようがなくてな。仕方ないから、散々引きずり回してまこうとしたんだが…。彼らの情報網は侮りがたい。漸くまいたかと思って安心した頃に、また気配と視線を感じるんだ。……リミットブレイクする寸前までになりそうになって、また逃げる。その繰り返しだ」
「「「「「「「…………………………」」」」」」」
「勿論、その間にルクレツィアに会いになど行っていない…。あのハイエナのようなやつらの事だ。必ず洞窟にまで追いついてくるだろう。そうなったら、あの美しいクリスタルの中にいる彼女が多くの視線に曝されることになる。……………そんな事、容認出来るはずが無い…」
「「「「「「「…………………………」」」」」」」

 寡黙な青年からの報告に、一同は全身が総毛だった…。

 ここまでヴィンセントを追いかけられる追っかけ集団。
 その執念は一体どこから来るのか…?
 いや、それよりも何よりも。
 どうやってそこまで綿密に調べる事が出来るのだろう……。

 沈黙。
 それもこの店に全員が集まった時よりも更に重苦しい沈黙。
 ヴィンセントは何度もいうが住所不定。
 彼自身が言っている通り、一箇所にジッと止まる事は決してない。
 せいぜいがルクレツィアの洞窟に篭る時だけだ。
 あとは仲間のピンチに駆けつけてくれる場合以外、彼の居場所は本人以外誰も知らない。

 クラウドはグラスを口に運び、その事実に頭を捻った。
 そのクラウドにティファがそっと鮭のムニエルを差し出す。
 香ばしく焼けた皮に程よく焦げ目のついた鮭が食欲をそそる。
「あ、ありがとう」
「ううん。ね、それよりも…」
 そっとカウンターから身を乗り出し、『どう思う?』小声で訊ねるティファに、クラウドは眉間にシワを寄せた。
 チラリと他の面々を見つめるが、どの表情も暗く、沈んでいる。
 ある者はフォークで皿の中を力なく突き刺し、ある者は飲み物をチビチビやっている。
 折角浮上した気分が、ヴィンセントが告げた事実にすっかり落ち込んでしまったいた。
「さぁ…。ただ……ここまで徹底してマークされているのはおかしな話だな…」
「うん……」
 スツールに深く座りなおし、クラウドは心配そうな顔をしているティファへ視線を向けた。
 茶色い瞳は真っ直ぐに自分へ向けられている。
 その瞳に淡い笑みを返すと、クラウドは折角のムニエルが冷めないうちに……とフォークを手にした。

「ところで、リーブはWROの本部にいるからシド達の様な目には合っていないだろうが、お前達の方はどうなんだ?」
 ヴィンセントがふと思いついたように視線を上げた。
 仲間達も顔を上げるとクラウドとティファをジッと見る。
 その中でもバレットが強い興味を示しているのは、何と言っても可愛い娘がセブンスヘブンにいるからだろう。
 クラウドとティファは視線を合わせると、苦笑し、肩を竦めた。

「まぁ、似たようなもんだな。配達の予約を希望する人が信じられないくらい増えた事と、セブンスヘブンにやって来る客達のほとんどが新顔になって、毎晩長蛇の列だ」
「それに、子供達が遊んでるといきなり知らない人達がクラウドと私の事について質問してきたり、無理やり私達宛てのプレゼントを押し付けようとしたり…」
「あ〜、あと、これも皆と同じだが四六時中視線を感じるな…」
「まぁ、見られてる…っていうのは正直気分が悪いけど、今のところ皆と一緒で子供達や私達に直接何をしてくる…ってワケじゃないからこっちも対処のしようがないんだけど…」
「それから、四六時中予約の電話が入ってノイローゼになりそうだから、暫く電話線を繋ぐのを止めたんだ。そうでなくても、もう今の予約だけでこの先一ヶ月はスケジュールが一杯だ…」
「そうね…。クラウドの事務所からの電話、あれはキツかったわねぇ…」
「ああ…。流石にデンゼルとマリンも夜中にうなされてたな…」
「でも、仕方ないわよね。そのうち、みんなの熱も下がるわよ」
「はぁ…。それまでこの状態を我慢か…。気が狂いそうだ」
「ふふ。きっとすぐにもとの生活が送れるようになるわ」
「どうだかな…」
「でも、デンゼルとマリンがろくに友達と遊べなくなったのは可哀想よね…」
「ああ…。本当にどうしてやったら良いんだか…」
「でも、二人共結構この状況を楽しんでる様にも見えるから不思議よね」
「…二人共、将来は大物になるな…」
「ふふ、今でも充分大物だけどね」
「……違いない」

 そんな二人のやり取りに、仲間達は改めてティファの肝っ玉の太さを実感したのだった…。

「ところで、デンゼルとマリンが友達と遊べない……ってどういうこったい…?」
 バレットがジョッキを空にしてそう問うと、ティファが困ったような顔をして応えた。
「うん。外に遊びに行くと必ず変な人達に声をかけられるでしょう?だから、お友達をここに呼んで、暫くは遊ぶようにしてたの。でも…」
「今度はその遊びに来た友達にまで追っかけ軍団が目をつけたんだ…」
 ティファの言葉を受け継いだクラウドが溜め息をこぼした。
 その言葉に、ユフィはあんぐりと口を開けた。
「はぁあ〜〜!?!?なにそれ!!」
「そのまんまだ。お前の時と同じだな。本人がダメならご近所さん…ってワケだ。お蔭で仲の良い友達とも今は電話で話すくらいだ…」
 ったく…どれだけ暇人なんだ……?

 最後にこう呟いたクラウドに、バレットが怒りの唸り声を上げた。

「ぐあああ!!ったく、ろくな奴らじゃねえ!!おい、クラウド!可愛い子供達がそんな目に合ってるのに、何だってそんなに悠長に構えてやがんだ!!こうなったらその変態どもをこの俺様が…!!!」
 息巻く巨漢に、シドが「バカ、落ち付けっつ〜に!」そう突っ込みを入れるとカウンターに頬杖をついた。
「にしてもよぉ。俺様の場合はシエラをWROの施設に避難させたからもう大丈夫だけど、お前達の場合はどうすんだ?このまま店に篭らせるわけにはいかねぇだろ?」
「うん…そうなんだけど、そのうち落ち着くと思うんだけど…」
「はぁ…。そんなのいつになるか分かんないじゃん!」
 ユフィの呆れ返った声に、ナナキが大きく首を振って賛同する。
「まぁ、そうは言ってもなぁ…。肝心な子供達が『そのうちほとぼりも冷めるって』『私達は今の間、ティファのお手伝いに徹するよ』ってのほほんとしてるからな。こちらもあまり強く言えない」
 実に情けなさそうな顔をしてクラウドはグラスに口をつけた。
「店の食材の買い物とかはどうするんだ?」
「ああ、それは俺が配達の帰りにまとめて買ってくる」
「えぇ〜……ちゃんと間違えないで買えるわけ〜〜?」
 ヴィンセントの質問にシレッと答えると、明らかに信じていない顔をしてユフィが口を挟んだ。
「大丈夫よ、事前に私がお店に連絡入れてるから」
「あ、なら平気だね」
「おい……ユフィ、どういう意味だ……」
 ティファの言葉にあっさり理解したユフィに、クラウドが苦虫を噛み潰した顔を向けた。

「へっへ〜ん。そのまんまだも〜ん!」「ガキだな」「キィ〜〜!!なにさ〜〜!!!」

 じゃれ合うお元気娘と無愛想青年に、仲間達が肩を竦めつつ表情を緩ませる。
 そんなこんなで、セブンスヘブンに集合した英雄達はゆるゆると時を過ごすのだった…。