涙 2「”隠密行動””潜伏任務”と言った、いわゆる”スパイ活動”に長けた一族は、実はウータイの忍だけではないんですよ」 そう前置きをしたリーブは、後ろに立つシュリにやはり腰をかけるように勧めながら自身は立ち上がり、コーヒーを淹れ始めた。 すっかり冷めてしまったクラウドと自分用、それにシュリの分を淹れるためなのだと瞬時に悟った青年中佐は、恐縮する、というよりもむしろ『局長が部下にコーヒーを淹れるだなんて論外』と言わんばかりの様相で最高司令官に当たるリーブの手からサイフォンを取り上げた。 そうして、クラウドに説明をしているように”お願い”をすると、その間にコーヒーを自分が準備する旨、完璧な部下としての口調と、部下にあるまじき強い眼光でもって完全にリーブを制してしまった。 「いやはや…、なんとも頭の上がらない上司ぶりで申し訳ない」 ちょっぴりバツの悪そうな顔でソファにすごすごと戻ってきたリーブに、クラウドは奥歯をかみ締めて笑いを堪えた。 これではどっちが年上で、どっちが上司か分からない。 頬を軽くひくつかせて笑いを堪えるクラウドに、リーブは照れたように苦笑すると1つ咳払いをした。 笑いをかみ殺しているクラウドへのバツの悪さを払拭するため…というよりは、自身の気まずさをふん切るためと言った方が近い。 「それで、ウータイの忍以外のスパイ活動に長けた一族ですが、残念なことに星にとってあまり良い働きをしている…とは言えないんです」 クラウドは、あぁ…と内心で嘆息した。 そもそも、スパイ活動など褒められたものではない。 堂々と表立って活動出来ない理由で働くのだから当たり前だ。 そして、堂々と表立って活動出来ないその理由は、ある一面から見たら”益をもたらすもの”であり、反対にある一面から見つめると”害をなすもの”にしかならない…と相場が決まっている。 それが、人々の生活を脅かすものなのか、それとも自然を破壊するものなのか、あるいは動植物の存在を危ぶむものになってしまうのか…それは分からない。 そこまで大きな話にならないケースの方こそが多いだろう。 しかし、WROが絡むのだから『その他大勢』という分類には当たらないはずだ。 シュリが盆にコーヒーの入ったカップを2つ持ってソファに戻ってくる。 クラウドとリーブの前にそれぞれそっと置くと、自分はまたもやリーブの後ろに控えようとした。 しかし、それをクラウドまでもがリーブと一緒になって軽く睨むと、とうとう青年は観念して自分自身のためにもコーヒーを準備し、軽く頭を下げてからリーブの隣へ腰を下ろした。 「まぁ、言ってしまえば”イタチごっこ”なんですよね、WROを結成してからというものずっと…今日(こんにち)も」 リーブは苦い笑みを浮かべてコーヒーを啜ると両眉をヒョイ、と上げ、隣に腰掛ける青年を見た。 「へぇ、シュリ、美味しいですよ」 「ありがとうございます」 「意外ですねぇ、こういうことも上手にこなすとは」 「バーテンとして潜伏することもありますので、一通りのことは出来ておかないと」 「「……なるほど」」 図らずもリーブと同時に呟いたクラウドは、ならばユフィはどうなんだろう…?と疑問に思った。 とてもじゃないが、あのお元気娘が潜伏任務の際、ウェイトレスやらコンパニオンやらを完璧にこなせるとは思えない…。 「それで、まあ良くあることですけど、ある不穏分子を掃討することに成功すると、他の不穏分子は息を潜めてしまう。ようするにこちらの出かたやその後を伺っているわけです。隙を突くチャンスを狙っている、と言っても過言ではありません。現に、WROはしばしば、明らかに調教されていると思われるモンスターの大群に訓練隊が襲われてもいますしね」 クラウドは眉をひそめた。 そんな話、聞いたことがなかった。 恐らくリーブのことだ、こんなことを聞かせればクラウドたちが今の生活を放り出して救援に駆けつけてしまうことが分かっていたのだろう。 自分たちの生活を…、人生を考えてくれての決断なのだから文句を言うのは筋が違う。 しかしやはり面白いわけがない。 「…水臭い奴だな」 「クラウドさんに言われるとは思いませんでしたが?」 「………」 「ハハハ、いや、すいません。分かってますよ、『愚痴の1つくらい吐いてくれたら』って言うんでしょう?」 声を出して笑ったリーブに、クラウドはムッとしたままコーヒーを口に運んだ。 そして、その香り高いコクのある旨みに思わず目を丸くする。 チラッとシュリを見ると、青年は何食わぬ顔をしてカップを口元に運んでいた。 淡々としてコーヒーを飲むその姿からは、褒められたことを全く、これっぽっちもなんとも思っていないことが伺えた。 謙虚とか、謙遜とか、そういうものとは無縁のその姿。 自分がどう評されようと興味を持たないと全身が語っている。 それよりも、早く自分がここに呼びつけられた任務を果たして、とっとと呼ばれるまでに手がけていた仕事に戻りたいと思っているのかもしれない…。 その空気を読んだわけではないだろうが、リーブは話を戻した。 「それで、元に戻しますけどWROは常に3重の危険と戦っています。1つは勿論、表立って星の脅威となりうるあらゆるもの。2つは表面化していない敵、そしてもう1つは…」 「離反する者です」 クラウドの眉間のしわが深くなる。 目を眇め、リーブを見れば彼は視線を落とした。 ファイルの女を見ているのかとクラウドは思った。 この女は元WRO隊員なのだろうか? しかし、そうではなかった。 リーブは写真の女の丁度斜め前に位置する場所へ立つ人影を指差した。 こちら側に背中を向けて立っている上、半分以上が鉄骨の影に隠れてしまっているのでどういった人物なのか全くと言っていいほど分からない。 ただ、しっかりと女を捉えて写っている写真であるのに、その黒い人影はとても背丈が大きく見えた。 恐らく…。 「この女と話をしているこの男は、元・隊員です」 「俺の部下だった」 クラウドは驚き、目を上げてシュリを見た。 写真の人影が男であると予想は出来たが、まさかそれがシュリの元・部下とは思わなかった。 驚くと同時にクラウドはあぁ、だからか…と納得する。 シュリが何故、この場に呼ばれたのか…。 それは、この写真に写る裏切り者についてよく知る元上司だからだ。 「名前はテス・プロド。10ヶ月前にWRO入隊。入隊直後からその頭角を現した働きぶりにてあっという間に下士官クラスの伍長にまで昇進しました。これは異例中の異例で、その出世に反対する大佐達も多かった」 サラリとした口調でそう説明するシュリに、クラウドは内心『ん?』と首を傾げた。 大佐達…と言えば、シュリにとって数少ない上司に当たる。 その彼らは反対した、という物言いは逆に捉えると『自分は反対しなかった』ということにならないだろうか? それともそれは考えすぎか? リーブを見ると、シュリの数少ない上司の中でもトップに立つ彼は僅かに苦笑している。 苦笑したままシュリの言を次いで口を開いた。 「えぇ、”反対ばかり”の大佐達を説き伏せて、やや強引に昇進させてしまったんですよね」 チラッ…とシュリへ視線を流してすぐクラウドへ戻す。 あぁ…と、クラウドは嘆息した。 まったく、気苦労が絶えないリーブにこの青年は何をしてくれていると言うのか…。 余計な苦労をこれ以上かけてやらないで欲しいものだ。 だが、シュリが本当の意味で”余計な”苦労をリーブに負わせているのではないことも分かっている。 分かっているのだが…、もう少し説明してから上層部を納得させてリーブの苦労を減らしてやることも可能だったはずなのに…と思わずにはいられない。 いつでもこの若者は言葉が足りない。 しかし当たり前のようにシュリは無反応だ。 「これは丁度、今から3ヶ月前のことです」 その説明に、改めてクラウドは写真に視線を落とした。 テス・プロドが何かを女に差し出しているように見えなくもない。 鉄骨の陰に隠れてよく見えない上、写真は陰影が濃すぎて写りが悪かった。 女の顔だけがくっきり写っていることが一種の奇跡のように思える…。 「この1年半のWROの機密データを盗み出して女に渡しているところです」 「1年半…?」 「えぇ…」 「その割にはあまり焦っていない…というか、落ち着いているな」 淡々と説明するシュリに、つい横槍を入れてしまう。 もしかして…?と思ったのだ。 シュリはある予想を立てたクラウドへ軽く頷いた。 「この写真を収めた直後、データは回収しました」 クラウドの予想はまたしても当たったわけだ。 だが、データの回収は成功した、というのに今、この取引相手の女の写真を持ち出して話を進めていることが既に不穏な気配をかもし出している。 クラウドの顔に浮かび上がった疑念に、今度はリーブが重苦しそうに頷いた。 「えぇ、この女は精鋭隊員に重傷を負わせ、ウータイ”1”の忍びとして名高いユフィ・キサラギの目の前で逃走しました」 これが…!? 正直なところ、クラウドは驚愕せざるをえなかった。 一見、どこにでもいる女だ。 勿論、ユフィと一緒に旅をしていなければユフィがあれほどの使い手だとは絶対に信じられなかったに違いない。 にしても、それでもこの写真の女がそれほどまでに優れた力を持っているとは俄(にわ)かには信じられない。 「俺がテス・プロドを半ば強引に昇進させたのも、隊の機密データを手に入れやすい位置に立たせてやって泳がせるためでした。勿論、伍長クラス程度では閲覧出来る情報はたかが知れています。だが、この男はとにかく他人につけ入ることが得意だったんですよ。少佐クラス以上の階級保持者しか閲覧出来ないコンピューターへの進入を果たし、そのデータを盗み出すことに成功した背景には、テス・プロドに心酔した…、あるいは脅された数名の上位ランク者の協力がありました」 これが、リーブがいま言った、『離反する者』ということだろう。 リーブの気苦労を改めて思い、胸を痛める。 シュリの説明はまだ続く。 「しかし、敵はそれすらも計算に入れていたようでしてね。俺の読みの上を行っていた…」 口調に僅かながら悔しさが混じる。 それは本当に些細な変化で、青年との付き合いが丸きりない人間ならば、恐らく聞き分けることは出来なかっただろう。 「ですが、そもそもの目的はテス・プロドが持ち出したデータを手に入れた女を尾行し、バックにある組織を突き止めることでした。そのための”隠密行動”だったんですよ、この作戦は」 「それを…ユフィが台無しにしたのか?」 信じられない気持ちで半ば独り言のように呟いたクラウドに、シュリは冷淡とも言える表情で頷いた。 そして更に信じがたい言葉を口にした。 「彼女、この女と面識があったようです」 クラウドは完全に言葉をなくした。 * 「おかえり、クラウド」 厚い雲に覆われ、星1つ見えない夜空の下、クラウドが帰り着いたのは既にセブンスヘブンが閉店して小一時間が経っていた。 落とされた照明の下、いつもと変わらないホッとさせてくれる笑顔で出迎えてくれたティファに、だがクラウドは胸の内に垂れ込める暗雲を晴らすことが出来なかった。 暗い表情のままティファに近づき、それに気づいたティファが心配して声をかける前に抱きしめる。 そうして、彼女の温もりと柔らかさにようやく深い息を吐き出した。 「ただいま…ティファ」 「うん、お帰りなさい」 そのままお互い口を閉ざして柔らかい抱擁を交わす。 ティファが本当は、リーブからの話を聞きたがっていることは痛いくらいに分かっていたが、それでもクラウドは、自分から話し出すまで待ってくれている彼女の優しさに少しだけ甘えたい気分だった。 まだ迷っていた。 ティファに先ほど聞いた話を伝えるべきか…黙っているかを。 勿論、ティファは聞きたがっているし黙っていることを選んだとしても、なんとかして聞き出そうとするだろう。 いや、もしかしたら聞きたい気持ちを押し殺し、必死に我慢して耐えてくれるかもしれない。 悩む必要はないはずだった。 ユフィにとってティファは仲間というよりは”姉”にも近い存在だし、ティファにとってもユフィは仲間というよりは”妹”だ。 2人の間にはクラウドが立ち入ることが出来ない特別な絆がある。 だが今回はその絆がティファやユフィを傷つけてしまうことになるかもしれない…。 だからクラウドは躊躇う。 ユフィのことも大切なのだ、普段どれだけ邪険に扱っていようとも。 しかし、それ以上にティファのことはもっと大事だ。 だから躊躇う。 躊躇うが、結局クラウドは決意した。 「ティファ…実は…」 リーブからの話を打ち明け、シュリから聞かされた出来事を包み隠さず伝える。 話を聞いたティファがどう判断するか、それに委ねるのが一番だと思った。 人付き合いがことに苦手な自分がウダウダ考えても、良い結果になるとは思えない…残念だが…。 クラウドに遅い夕食を勧めたいのを堪え、ティファは最後まで辛抱強く耳を傾けていた。 そうして、言葉を選びながら時間をかけ、本当に長い話を終えたクラウドにティファはほぉっ…と息を吐き出した。 沈痛な面持ちでテーブルの木目に視線を落とす。 「そう…ユフィ…」 一言、そう呟いて暫く黙考する。 クラウドも黙ってそんなティファを見つめていた。 薄暗い照明の下で沈痛な面持ちで考え込む彼女の伏せられた長い睫毛に、言いようのない緊張感を覚える。 ティファがどんな結論を出してもそれを支持していくつもりではあるが、出来れば危険なことはして欲しくない。 だがそれでもやはり、ティファは仲間のため、”妹”のために危険に飛び込む道を選んでしまうのだろう…とも分かっていた。 「クラウド…ありがとう」 だがしかし、次にティファが口にしたその感謝の言葉にクラウドは目を丸くした。 ティファは少しだけ微笑むと、重苦しい空気を払拭するかのように茶目っ気たっぷりな目をして口を開いた。 「だってクラウド、本当なら私に話したくなかったでしょ?」 「……あ〜……いや…」 「だけど、すごくすごく悩んで、結果、話してくれたってことは私の意志を尊重してくれたってことだと思ったんだけど?」 違ったのかな〜? クスクス笑いながら上目遣いで投げてくるその視線と言葉に、クラウドはやれやれ、とゆっくり首を振りながら両手を軽く挙げて見せた。 降参のポーズをとりながらも口元には無意識に笑みが浮かぶ。 ティファは軽く声を上げて笑い、そうして真剣な顔をした。 「明日、シエラさんにデンゼルとマリンを預けに行って来る」 クラウドもまた、笑みを消して神妙な面持ちで頷いた。 結局はそうなるだろうという読みが当たった。 ティファは決して見捨てない。 出来ることを全力で果たし、守ろうとする。 守るために戦うことをいとわない。 そんな彼女だから打ち明けたくなかったのだが、それでもそんなティファが美しいということも知っている。 そんなティファ・ロックハートを愛しているのだから。 「ティファ、言っても無駄だと分かってるがやっぱり言っておきたい」 前置きをして真剣な顔でティファを見つめる。 ティファも真剣な表情のまま、口を挟むことなく黙ってクラウドの次の言葉を待った。 「頼むから…無茶はしないでくれ」 言いたいことはもっとある。 自分を大事にしてくれ。 他人を守るために自分の身を晒すようなことはするな。 1人で突っ走らず、必ず仲間や隊員たちと一緒に行動してくれ。 だが、それらの思い全部をこの一言に込めた。 ティファはクラウドの真摯で溢れんばかりの想いをしかと受け止め、深く深く頷いた。 そして翌日。 ティファは宣言どおり、デンゼルとマリンをロケット村にいるシドの妻、シエラに預けるためにセブンスヘブンを立った。 いつもは見送られる立場にあるクラウドは、子供たちとティファをバスの停留所まで送ると、見えなくなるまでジッと立って見送った。 子供たちは詳しく話を聞こうとはしなかったが、それでも全てが終わったら絶対に話を聞かせてくれるようにせがんだ。 物分りの良い子供たちに感謝しつつ、クラウドは2人を抱きしめて必ず約束すると言い聞かせた。 本当なら、シエラ号やWROの飛空挺でロケット村へ送り届けてやるのが一番簡単で時間もかからないし、何よりバスの長旅を考えると安全だ。 だが、当然ながら飛空挺を飛ばすには莫大なエネルギーが必要となる。 タクシー代わり、バス代わりにホイホイ利用出来ないし、今回は多少の危険があったとしても”特別扱い”をするわけにはいかなかった。 恐らく、敵にはこちらの動きがバレているはず。 しかし、だからと言ってこれ以上相手に警戒させるわけにはいかない。 飛空挺を使って子供たちやティファが移動したとなると、いよいよジェノバ戦役の英雄が結集し、ユフィと共に立ち上がるということをおおっぴらに宣言してしまうことになる。 今はまだ、”ティファ・ロックハートが参戦するかどうか曖昧である”という状態にしておきたい。 バスに乗り込んだティファや子供たちの装いは、ただ単に旅行しているようにも見える。 ”クラウド・ストライフの参戦は確実。しかし、子供たちやティファ・ロックハートを戦いから遠ざけるために旅行に送り出した” という可能性も敵の視野に入れるべく、あえて少しの危険を伴うバス旅行を装わせた。 クラウドが昨夜、リーブの呼び出しに応じたことは既に敵に察知されているはず。 その直後の子供たちとティファのエッジ離脱。 子供たちやティファが乗ったバスが敵に襲われてしまう可能性もないとは言えない。 だからこその”危険(リスク)”。 しかし、クラウドがリーブに救援を求められたのは昨夜。 その僅か半日後の翌朝にはこうして行動を起こしている。 敵がそれに対して迅速に対処してくるかどうかは…一種の賭けだ。 賭けではあるが、こちら側に勝算の高い賭けだとティファとクラウドは判断した。 そしてその判断を、リーブは支持したのだ。 既にロケット村へは連絡が入っている。 シドは子供たちが到着し次第、ティファと共にWRO本部へ向かう予定だ。 到着し次第、と言ったが、最初はティファと子供たち、そしてシド夫妻の計5名でロケット村を”観光”する予定だ。 観光名所と言えば、傾いたロケットが”あった場所”くらいなのだが、その場所で面白おかしく当時のことを話してくれる老人に”シド・ハイウィンド”の英雄譚を聞くことになっている。 村人たちにも協力を要請しているので、結構な人数がロケット跡地に集まることになっている。 その村人たちの輪の中に完全に入り込んで、行方をくらませるような形でシドとティファは村を後にする手はずだった。 厳重警戒を張り、子供たちと共に留守を守るシエラの身の安全を確保したいところだが、今はまだその段階ではない。 ゆえに、敵を油断させて短慮な行動に走らないように、一瞬だけでも良いから時間を稼ぎたかった。 ロケット村には、周辺支部からのWRO隊員が既に数名、向かっている。 当然、私服姿での潜伏であるため、敵が隊員だと察知することは難しいはずだ。 よほど普段からロケット村を調べつくしていない限り、よそ者かどうかなど分かるはずもない。 そうして、WRO本部に全員が到着して行動が迅速に取れるようになったらいよいよ作戦開始だ。 『恐らく…、ユフィは今、単独でかなり危険なところまで足を突っ込んでいます』 リーブの言葉が蘇る。 今回の作戦とは、ユフィにとって既知の間柄にあるという女と女のバックに潜んでいる組織の殲滅だ。 『あれだけ”忍”というものに誇りを持って任務に当たっていたユフィが、動揺するあまり、敵に見つかってしまうという痛恨のミスを犯すとはよほどのことです』 『なにより、その女のとった行動が私は許せない』 『自分が逃げるため、なんの躊躇いもなくテス・プロドを銃弾の盾にしたのですから』 ユフィが敵に見つかったとき、テス・プロドをはじめとしたその場の敵、数名全員が発砲してきた。 敵の腕前がもしもヴィンセント並みだったなら、ユフィは星に還っているだろう。 応戦した隊員の銃弾が女を捉えた刹那、女はテス・プロドの襟首を掴んで自分の目の前へその身を晒させ、驚愕に目を見開き撃ち抜かれるその男をゴミを放り出すように足蹴にしたと言う…。 そして、誰よりも早く踵を返した女に向かい、手を伸ばしながら何かを叫びかけたユフィに向かって、女は手首を一閃させたのだ。 飛来したそれを寸でのところでユフィはかわしたが、”それ”は真っ直ぐ飛ばずに空を大きく旋回して女の手に戻った。 女の手に戻るまでの間に、隊員3人の首や胴、肩を切り裂きながら…。 『クラウドさん…、女はユフィと同じ”忍”かもしれません』 女が振るった武器は、ユフィと同じ手裏剣だった。 |