涙 4病院特有の消毒や薬品の匂い。 それが、自分の置かれている状況についての最初の情報だった。 ゆっくりと目を開ける。 刺すような…とまではいかないが、眩しい光に思わず眉根を寄せ、小さく呻くと誰かが息を呑んで顔を覗き込んできた気配がした。 「……ティファ…?」 ぼやけた視界がクリアになるにつれ、目にしている人たちの顔が幻などではなく本物なのが分かった。 しかし、イマイチ自分の置かれている状況が分からないユフィは、涙を目に一杯溜めて何度も「良かった…!」と繰り返すティファと、その後ろに立っているクラウド、リーブ、シド、そしてヴィンセントへ順に視線を向けた。 誰もがホッと安堵の表情を浮かべてはいたが、純粋に喜んでいるのはティファだけだ。 安堵の表情の中に翳りがあるのをユフィは見て取った。 同時に、自分が倒れる寸前の出来事が脳裏に蘇る。 月明かりに照らされ、真っ白い顔をして横たわったまま微動だにしないプライアデスと自分たちを殺すために近づく幼馴染…リューガの靴。 思わず跳ね起きると鳩尾に鈍痛が走り、ユフィはそのまま上体を折り曲げて低く呻いた。 ティファが慌ててその背をさすり、横になるよう勧めるがユフィは苦痛に顔を歪めたまま目を上げた。 「リーブ、ライは!?」 リーブが答えようと口を開いたが、丁度その時ドアをノックすると共に隊員が入ってきた。 ユフィ以外の全員がその隊員へ勢い良く振り返り、強い視線を向ける。 「どうでした?」 皆を代表するようにリーブが訊ねると、隊員…、シュリは軽く頭を下げた。 「今、終わりました。大丈夫とのことです」 「本当に!?」 「はい。後は麻酔が切れて目を覚ますのを待つのみだと…」 身を乗り出したティファに、シュリは淡々とした口調で答えたが、どこかその声音が優しい色合いを帯びていた。 話の見えないユフィを尻目に、病室にいた全員が硬い表情を和らげつつ全身からドッと力を抜いた。 それまで張り詰めていた重苦しい空気が一瞬で歓喜のそれに変わる。 「あ〜…良かったぁ…」 両膝に手を添えて前屈みになりながらそうこぼしたリーブに、クラウドも珍しく微笑みながらその肩を叩く。 ちょっぴり涙目になったシドが鼻を擦り上げながら頬をほんのり緩めたヴィンセントと目を合わせてニッカリ笑った。 ティファに至っては、こぼれそうになる涙をそっと指先で拭いながら何度も何度も「良かった、良かった!」と繰り返している。 全員が喜び、何かを祝っているのにユフィは1人、ぽつねん、と取り残されていた。 しかし、それは時間にして僅かのこと。 「バルト准尉の手術が成功したんですよ」 シュリの説明はたった一言だったが、ユフィにはそれで十分だった。 知らず、止めてしまった息を吐き出すのに暫し時間を要する。 全身に安堵感が広がるが、同時に自分が何故ここにいるのか、また何故助かったのか、という疑問が沸く。 頭が働くようになったのかもしれない。 自分が仲間に囲まれて病院のベッドに寝かされていると言うことの、その意味をユフィは薄ぼんやりと察した…。 ひとしきり仲間たちが喜ぶその姿を目に映しながら、ユフィの中で己を責める気持ちがジワジワと…しかも急速に広がる。 それに気づいたわけではないだろうが、いつの間にか喜び祝っていたムードから軽い緊張の糸が張られ、仲間たちはユフィへ視線を向けていた。 誰もがユフィから話を聞きたがっていることが分かる。 しかし、誰がその口火を切るのか互いに様子を伺っているので中々口を開く者が現れない。 ユフィの常にない姿から聞きづらいものを感じ取っているばかりでなく、目を覚ましたばかりの身を気遣ってもいるのだとユフィには分かった。 あぁ、バカだなぁみんな。 本当にお人よしなんだから…。 そう思うと同時にユフィの脳裏にまたもや例の男と女の姿が浮かび上がった。 ずっと死んでいたと思っていた2人。 幼馴染として過ごした日々。 それは、決して軽く扱って良いものではなく、むしろ……。 ユフィは軽く息を吸い、吐いた。 今、目の前にいる人たちとあの2人を比べてみる。 比べて……みるまでもないではないか。 どちらを守りたいかなんて、今さら畏まって考えるまでもない。 「ごめん、みんな」 軽く頭を下げるユフィに、その場の全員が目をむいた。 ヴィンセントまでもがギョッとして半歩後ずさる。 唯一、一番付き合いの浅いシュリだけが無表情を崩さず、むしろ他の面々の反応にこそ訝しげな目を向けていた。 ユフィは、 「もう、なにさ。私だって悪かったって思ったら謝るっつうの」 と、わざといつも通りに茶化して見せたが、すぐにその明るさを消した。 そして、表情を変えなかった唯一の1人へ目を向ける。 「ねぇ、アンタが助けてくれたの?」 「俺とクラウドさんとあと他の隊員です」 頷くシュリにユフィは苦笑を浮かべる。 「助けてもらっておいてなんだけど、よくあんな廃屋にいるって分かったねぇ。ライ以外にも尾行されてるなんて全然気づかなかったわ。あ〜あ、こりゃ『忍失格』って言われても仕方ないか…」 「いえ、俺は尾(つ)けてない」 若干、落ち込んだ声音でぼやくユフィに、しかしシュリはあっさり首を横に振った。 小首を傾げて意味が分からない…と無言でユフィは訴えた。 「WROの隊章にはGPS機能がある。バルト准尉は隊服でユフィさんを尾(つ)けていたので走査出来たんです」 「バルト准尉がユフィのことを気にしていることは知っていましたしねぇ。それに、あの生真面目な彼が独断で行動するなど今まで一度だって有りませんでしたから気になりましてね。スライ大佐とシュリ中佐にすぐ小隊を編成して急行するよう命じたんです。時期が時期でしたしね。そこへ、丁度一足早くこちらへ来てくれたクラウドさんにもお願いした、というわけです」 「あの男、只者じゃなかった…。お前が失神だけで済んだのはある意味奇跡だと思ったぞ」 シュリとリーブの説明、そしてクラウドの呆れながらの言葉でユフィはようやく納得した。 スライ・ブラック。 五十代とは思えない程の体力を持ち、これまで培ってきた戦いの経験はWRO一と謳われている。 白人で金髪にコバルトブルーの瞳を持つ偉丈夫。 少々頑固気質だが、二十歳も年下になる局長のリーブを心から尊敬し、守っていくべき上司であると認める責任感の強い戦士。 普段から冗談を口にすることなく生真面目に任務を遂行する彼を、ユフィは苦手に感じていたが、どうやら返しきれない恩を受けたようだ。 あの幼馴染2人を相手に、シュリ1人では苦戦を強いられたことは間違いなかったし、並みの隊員を連れて行ったとしてもあまり役には立たなかったはずだったが、スライ・ブラック大将までもが出張り、更にはクラウドまでいたとなると、さしもの幼馴染2人でも退却せざるを得なかっただろう。 「そっか…あのオッサンにまで迷惑かけたか…」 「ユフィ…」 タハハ、と力なく笑うユフィに、ティファがなんとたしなめたら良いのか分からず、困ったように眉根を寄せた。 しかし、ユフィは既に覚悟を決めていた。 全てを…、己の過去も思いも全部を話し、その上で仲間を巻き込むという覚悟を。 今度こそ、2人を前にして臆することなく立ち向かってみせる…と。 だから、困ったように自分を見る仲間たち1人1人をしっかり見ると、 「ごめん、ちゃんと説明する。だから…聞いてくれる?」 全員が頷いたのを確認すると口を開いた。 * ユフィは幼少期から忍としての才能を周囲の大人たちに認められていた。 周りにいる同年代の子供たちの中でユフィが一番だった。 だから、ユフィは傲慢に育った。 当時、ユフィの友達だった子供は”忍”ではなく”普通”の子たちばかりだった。 忍になるべくして育てられていた子供たちと一緒に過ごすことをユフィは好まなかった。 もっとも、”忍”として生きるように育てられている子供たちは、ユフィのように遊んでいる時間など微塵もなかったわけだが…。 修行嫌いなユフィにとって、修行に精を出す同年代の子供たちは見下す対象だった。 汗水流し、必死に修行しなくとも大人が出した課題はクリア出来たからだ。 ユフィからすると『なにをそんなに必死になる必要が?』『あんなに頑張ってもアタシより弱いだなんて』となるわけだ。 そのため、ユフィはその才能を認められながらも、いつも大人たちに注意を受けていた。 当然だ。 しかし、その注意をまともに聞こうとせず、むしろ反抗的な態度ばかり取ってしまったのも自然な流れと言えるかもしれない…。 そんなユフィが唯一、頭の上がらない存在が出来た…。 「ユフィ、わたしと勝負して勝ったら何でも言うこと聞いてあげる」 「本当?!言ったねクレハ!」 「うん、勿論。さ、勝負勝負」 ある日。 修行をサボっていたユフィの元へ訪れたのは3歳年上の少女、クレハ・サツキ。 この時、ユフィは10歳。 クレハは13歳。 子供の3歳差というのは非常に大きい。 しかし、ユフィは既に大人顔負けの実力を発揮させつつあった。 3歳差など、あってないようなものだったのだ。 だから、ユフィは自分の勝利を確信していた。 しかし、結果はユフィの大敗だった。 悔しさのあまり、涙目で歯噛みするユフィに、クレハは額の汗を拭いつつニッコリ笑った。 勝者としての傲慢な笑みではなく、まるで妹を見る姉のような笑みだった。 「だってしょうがないよユフィがわたしに勝てなくても」 「なんで!?だってアタシ、この前、手裏剣勝負で大人に勝ったのに!!」 「わたしは毎日頑張って練習してるもん。ユフィは全然してないでしょ?」 「アタシは修行なんかしなくても凄いんだ!!」 「修行してなかったからクレハに負けたんだろう、お前」 ムキになって噛み付くユフィに、その時、第三者が呆れたような声を投げかけた。 キッ!と振り返った先にいたのは、漆黒の髪を短くカットし、日に焼けた肌を持つ男の子。 青年へ成長しようとしていた少年。 それがリューガ・ウヅキ。 クレハ・サツキの3歳年上の従兄弟だった。 「それからはさ、毎日毎日、あの”従兄弟組み”に乗せられてバカみたいに真面目に修行するようになった」 少し遠くを見るようにして話すユフィに、クラウドをはじめとしてその場にいる全員が、少女期のユフィの姿をリアルに想像出来てしまったわけだが、誰も話の腰を折らずに黙って耳を傾けた。 「それでずっと一緒に修行した。アタシのこと、本当の妹みたいだって言ってくれて、優しいだけじゃなくて厳しかったしね。『なにかあったら駆けつける』って言葉、クレハとリューガだけがアタシに言ってくれた。すごく嬉しくて…楽しい時間だった。…でも」 溜め息と共にそう言うと、ユフィはフゥ…ともう一度息を吐いた。 今から言うべきことへの決意を新たにしているのだろう。 そんなに話しにくいことなのだろうか?とティファは心配だったが、それでも前へ進むために今、目の前で己と戦っているユフィへ声をかけて邪魔することなどしてはならない。 そう、自分に言い聞かせ、ティファは強く拳を握った…。 「でも…、時々、3人で一緒にいるとさ、リューガがすごく真剣な顔してアタシを見ることがあった。そりゃもう、怖いくらいにさ。アタシがその目に気づくといつもすぐ、誤魔化すみたいに笑ったりからかったりしてたからアタシも『あ〜、また変なクセが出たのかな?』って気にしなかった。それに、リューガとクレハのお父さん、お母さんが事故死したって聞いてたから、母さんがいないけどオヤジがいるアタシの事が羨ましいのか、それとも妬ましいのか、どっちかなぁ…って勝手に思ってたんだ。でも…」 「現在(いま)考えたら、あの時からリューガはリューガ。今と変わらない…ううん、違う。あの頃から全く今も変わってないんだなあって分かった」 「…どういう意味でい?」 謎かけのようなことを口にしたユフィに、シドが堪えきれずに声をかける。 ユフィはシドに目を上げた。 いつもなら『もう、あったま悪いなぁ〜』とからかうだろうに、どこまでも”素”の顔でシドを見る。 「あの頃から、リューガはアタシを”敵”だと認識してたってことだよ」 そう、つまりはそう言うことだ。 約8年ぶりの再会で、従兄弟たちが自分へ向けたあの目は、幼い頃、時折向けてけてきたあの目と同じ。 当時はすぐに誤魔化したが、再会したあの時、誤魔化すことなく終始、その眼差しのみで自分を見ていた。 それが答えだ。 ユフィは、自分があの頃から2人にとって”敵”だと思われていたという事実をようやく知った。 それを、どう受け止めたら良いのか分からない。 だから、ショックを受けていいはずなのに受け止め切れていないから現実のものとして思えず、こうして他人事のように話す。 一方、話しを聞いた面々は一様に困惑していた。 なんと言えば良い? どういう顔をすれば良い? その場にいた人間、誰一人分からずただただ、表情を変えないようにするのが精一杯だった。 ユフィは笑った。 彼女には似合わない痛々しい微笑だった。 「良いんだよ。おかしいなぁ、とは思ってたんだ。いくらなんでも、”そんなことくらいで”アタシにあんな目を向けるはずないって心のどっかでは思ってた。だけど認めたくなかったんだ…」 言葉を切って溜め息を吐く。 「アタシの初恋だったし」 今度こそ、かわしきれない衝撃がその場の全員を襲った。 いつも他の人間が動揺してもピクリともしないシュリですら目を丸くした。 シドに至ってはビックリし過ぎたせいで思い切り後ずさり、壁に頭を強(したた)かに打ち付けたくらいだ。 当のユフィは、あまり感情を出さないよう淡々と語っていたわけだが、流石に照れくさくなったのか後頭部を抑えてしゃがみこんでいるシドに、 「オッサン、失礼だよ!!」 と、一声吠えた。 しかし、ユフィにしては本当に珍しく、気持ちをすぐに切り替えるとまた、真面目な顔をして口を開いた。 「でも、2人と一緒にいた時間はすごく短かった。リューガとクレハはアタシと違って、もうウータイの忍として働いていたんだ。だから、会えるのは2人が任務のない時だけだった。あ、ウータイではね、13歳から大人扱いなんだ。アタシがいくら優秀でも、13歳にならない子供には任務に就かせてくれなかったのさ。だから、待ってる間、すごくすごく頑張って修行した。任務から帰ってきた2人をびっくりさせたくて…」 楽しそうに話すユフィの目が和らぐ。 しかし、すぐにその声音は暗く、落ち込んだ。 「初めて会ってから1年くらいかな…。任務から帰って来るって連絡があってさ。嬉しくて…いつもの待ち合わせ場所で待ってた。でもいつまで経っても来なくて…。アタシ、あんまり待つの得意じゃないからさ、時間過ぎても中々来てくれないリューガたちに待ちきれなくなって、イライラしながら家に帰ったんだ。そしたら…」 言葉を切って、当時を思い出したかのように痛々しく顔を顰める。 「オヤジが………、2人は昨日死んだ…って…」 あまりのことにティファは口元を両手で押さえた。 クラウドとヴィンセントも息を呑み、シドはまたもや目をむいた。 しかし、リーブとシュリはピクリ、と眉を顰めはしたものの表情の変化は乏しかった…。 「なんで死んだのか…オヤジを問い詰めた。オヤジはこう言ったよ。『任務を果たして帰る途中、ウータイに侵入しようとしていた神羅の手先と鉢合わせしたんだ』ってさ。善戦したけど、相手は数も腕もリューガとクレハより上だったから、2人は神羅の手先を道連れに崖から落ちたんだって。身を賭してウータイを守ったんだって…」 ユフィと初めて出会ってから1年後…ということは、リューガとクレハはそれぞれ17歳と14歳。 そんな若者が身命を賭して故郷を守った。 少なくとも、当時のユフィはそれを信じたのだ。 その話が信じられるほど、ウータイという土地は『愛郷心』に溢れていると言うことになる。 その事実にクラウドはふと、自分とティファの故郷を思い出した。 寒村だった故郷を嫌い、都会へ夢を求めて若者は皆、出て行ってしまったあの故郷を。 「アタシはそんなこともあって、神羅を憎む気持ちが一気に膨れ上がった。同時に、どんどん衰退していく”ウータイの忍”の姿に耐えられないものを感じるようになった。だから」 フッと口元に笑みを浮かべ、クラウドを見る。 「だから、アタシはあんた達と一緒に旅することに躊躇いなんかなかったんだ」 クラウドはグッとこみ上げてくるものを飲み込んだ。 あぁ、そうか…と思った。 情に篤いユフィ。 彼女の愛郷心には常からすごいと感じていたが、過去にそんなことがあったのでは強くなって当然だ、と納得した。 「だから……だったの?ユフィ」 唐突にティファが口を開いた。 ユフィのみならず、クラウドたちも驚いてティファを見る。 ティファは軽く俯き、その肩は微かに震えていた。 思わずクラウドはその肩へ手を伸ばした。 泣いているか、それとも泣きそうになっているのか、どちらかだと思ったのだ。 だが触れる直前、そうじゃないことに気づき、ピタリ、と手を止める。 ティファはクラウドの指先に気づくことなくキッ!と顔を上げた。 その顔は怒りに満ち満ちていたのだ。 「バカッ!!」 仲間たちがギョッとするのも気にせず、ティファは怒鳴った。 その目に薄っすら涙が浮かんでいる。 「この大バカユフィ!!どうしてそんな重くてしんどいことを1人で抱え込むの!!もっと早く頼ってくれたら良かったじゃない!!」 ティファの激昂を前に、ユフィはただひたすら目を丸くして言葉をなくしていた。 そんなユフィに、ティファは次々怒鳴りながら言葉を投げつける。 もっと頼ってくれて当たり前だ。 それが仲間と言うものだ。 それなのにこのバカ! 大バカ!! バカは死ななきゃ治らないと言うが、次、同じことをしたら絶対に許さない! 死なないうちにバカを治さないと絶対に絶対に許さない!! 興奮しているせいで支離滅裂なことを吐き出すティファにユフィは呆然としていたが、やがて言いたいことをぶちまけて肩で息をするその姿をじっと見つめ、クシャリ…と顔を歪めた。 しかし、涙をこぼさないよう歯を食いしばり、シーツをギュッと握り締めて堪える…。 大きく深呼吸を繰り返し、ギュッと目を瞑って呼吸を整えて…。 「うん、ごめん、ティファ。ごめん、みんな」 目を開けたとき、ユフィの瞳に涙はなかった。 過去と対峙する決意を改めて固めた”ウータイの忍”がそこにはいた。 凛とした眼差しで臆することなく真っ直ぐ見つめるユフィに、ティファの方こそが我慢出来ずにポロッ…と涙をこぼす。 小さく「うん、うん」と頷くティファに、クラウドたちはいつしか力んでいた全身から力を抜くと、そっと視線を交わした。 そうして…。 「それで、どうするんだ?」 これからどうする?と問うクラウドに、ユフィはシドを見た。 「シエラ号、飛ばしてくれる?」 「おうよ。んで、どこに行くんだ?」 ゆっくりベッドから降り…、顔を上げ、立つ。 「ウータイへ。オヤジに話を聞きに行く」 異を唱えるものは誰もいなかった。 幼いユフィにウソをついたゴドー。 その理由を問い、真実を聞き、それを受け入れなくてはユフィは本当の意味で前に進めない。 前に進めなければ、いつまで経ってもユフィは過去の幻影に囚われ続けるだろう。 「行くぞ」 当然のような顔でクラウドが皆を促し、皆もそれを当たり前のこととして受け入れ、ドアに向かう。 その時、ユフィはふと、自分の周りにいる仲間たちへ改めて視線を走らせた。 過去、傲慢だった自分を正しい道へ導いてくれた幼馴染がいた。 大切なことを2人は教えてくれた。 しかし、2人は突然いなくなった。 永遠に会えない、そう思っていたのに3ヶ月前、夢にすら見なかった形でその姿を見かけてしまった。 その時、自分の中で何かが壊れてしまった音を聞いた。 その音が何だったのか…、仲間に囲まれている今なら分かる。 自分という存在を形成してくれた核に裏切られた衝撃により、”信じる心”が壊れた音だったのだ。 だから、あんなにも必死になって否定し、クレハではないと、クレハが生きているはずないと、その思いに縛られ、その願いを裏付けるためだけに単身、危険に足を突っ込んだ。 そうして、無残にもその願いが破られてしまったあの瞬間。 ピンチの時に駆けつけてくれるはずの幼馴染が、ピンチそのものの存在になってしまったあの瞬間。 あぁ、もう自分はダメだ、と思わなかっただろうか? しかし、その絶望は1人の青年が命がけで取り払ってくれた。 そうして今は、自分の過去と向き合うことに付き合ってくれる仲間がいる。 これをどう言葉で表せば良い? 「ユフィ?」 シドが訝しげに振り返る。 ユフィは胸にこみ上げてくる熱いものをしっかり抱きしめながら、軽く頭を振ると大きく一歩を踏み出した。 |