涙 5



「オヤジ、誤魔化しは一切なしにしてよね、こちとら時間ないんだから!!」

 リーブ以外の仲間たちと共に実家に帰ったかと思うや否や、ユフィは昼寝をしているゴドーを情け容赦なく叩き起こすと、目を白黒させている実の父親へ開口一番、そう怒鳴りつけた。
 怒鳴られた当の本人は、娘の凶行などいつものこと…と思っているのかどうなのか、ジト〜ッ、と眠そうな眼(まなこ)でユフィをねめつけると、どうでもよさそうな顔で口を開きかけた。
 しかし、娘の後ろに立ち冷や汗を浮かべて親子を見守っている面々に気づくと、やはりバツが悪かったようでボリボリ後頭部を掻きながら身を起こした。

「あ〜…いやいや、すまんな。お客人が来ておられるとは気づかずに〜」

 どっこいしょ、と布団を出ると、お茶を入れるべく台所へ向かう。

「ユフィ、とりあえず話しとやらは客人にお茶をお出ししてからだ」
「そんなもん、いらないっつうの!」
「バッカ者!ウータイの人間は客人に茶すら出さない常識外れと思われたらなんとする!いいから、お前も手伝いなさい!嫁入り前の娘だと言うのに〜!」
「うっさい!そんなこと言ってる場合じゃなっつうの!」
「うるさい!?うるさいとな!?実の父親に対してなんて口の利き方!カァ〜ッ!親の顔が見てみたいわ!!」
「鏡見ろ、鏡!それよりも」
「鏡なんぞ見たところで、映っとるのは男前だけじゃ」
「アホなこと言うな、このバカ!オヤジの目は節穴か!!そんなことどうでも良くて!!」
「バカだと!?アホと言った直後に何を言うとるか、この娘は。は〜、いったいどんな育て方をしたらこんな子になるのやら…」
「だーーっ!!だから、そんなことはどうでも良いんだよ!!」
「どうでもよくあるかい!!父親に向かって数々の暴言、許しがたい!そこになおれ、成敗してくれるわ!!」


「リューガとクレハが生きてた!どういうことだよ!!」


 ピタリ。

 猛然と交わされていた怒号が突如、一方的な終わりを見せた。
 ゴドーの表情が一瞬で”ウータイの長(おさ)”のそれになる。
 ユフィは父親の変化にグッ…と次に出かけていた言葉を飲み込み一瞬、口を閉ざしたが再び口を開いた。

「オヤジ…アタシにウソついてたのか…?」

 押し殺した震える声。
 仲間たちが固唾を呑んで見守る中、ゴドーは重々しい表情のまま深い溜め息を吐いた。
 そうして、
「やはり茶がいるな。この話は時間がかかる」
 そう言い残し、ユフィにクラウドたちを居間へ案内するよう伝えると私室を後にした。


 5分後。
 居間に通されたクラウドたちの前にゴドー自らが茶を入れた。
 そうして居住まいを正すように座ったゴドーは、珍しく真剣な面持ちでそこに座る娘を見た。

「さて…ユフィ。どうしてリューガ、クレハと会うことになったのか状況を説明しろ。ワシの話はそれからだ」

 その存在感は、普段のお茶らけた腑抜けオヤジとは違う”本物のウータイの忍”。
 ユフィはゴクリ…と唾を飲み込むと一部始終を語って聞かせた。
 その間、誰も口を差し挟まず、出された茶にも手を伸ばさない。
 それはゴドーも同じだった。
 ユフィが語り終え、口を閉ざすその時まで黙ってジッと耳を傾けていた。

 やがて娘の話が終わったとき、ゴドーは深く重い息を吐き出した。

「そうか…」

 一言そうこぼした後、暫く目を閉じる。
 その顔は娘にこれから話すことに耐えられるだけの強さがあるのか見極めようとしているようでもあり、当時の頃をつぶさに思い起こし、何から語ろうか考えているようでもある。
 決して軽々しく語れるものではないことが十分伝わってくる。
 だからこそ、この場にいる誰よりも早く真相を知りたいという思いに駆られているユフィですら、じっと黙って待っていた。

 やがて、ウータイの長は目を開けた。
 小揺るぎもしない鋭い眼光は、真っ直ぐにユフィ、そしてクラウドたちの目を順々に捉える。
 少しでも逡巡する色を認めたならば、その者はこの場から出て行くように命じられただろう。
 誰一人、そういう者がいないことを確かめたゴドーは、一瞬だけフッと口元を綻ばせた。
 そして、誇らしげに娘を見る。
 しかし、それは本当に瞬きするほどの一瞬で、見間違いかと思うほどの刹那の出来事…。

「良いだろう…。まずは最後までワシの話を聞け」

 ユフィは父親の目を見てしっかり頷いた。

「ユフィ、お前には話していなかったが、ウータイには暗い歴史がある」

 そう前置きし、ウータイの長は語り始めた。


 昔。
 ウータイという名前すらなかった昔。
 いずこかの地より、とある一族が住み着いた。
 当時、そこは風光明媚とは言い難い地ではあったが、険しい岩肌を持つ山々、大海に囲まれた地形を持つその土地はまさに自然の要塞だった。
 その一族はその地を開墾し、村を作った。
 それがウータイ。
 その移り住んだ一族は、突出した身体能力を有する者を多く生み出すことで人々に恐れられ、故郷を追われたのだ。
 一族の大部分を占める人間は争いを好まなかった。
 故に自分たちを追った故郷の人たちに抗うことを善しとせず、一族の全てが故郷を去った。

 しかし、一部の者たちは自分たちを認めない故郷の人間を激しく憎み、黙って追われるままに故郷を去るよう自分たちを半ば強引に引き連れた同族を『臆病者』として蔑んだ。

 そこから、その一族の悲劇が始まったと言える。

 故郷に戻り、自分たちの居場所を取り戻すことを強行しようとする”強行派”と、新たな土地で新しい居場所を作り出すことを主張する”開拓派”の間で激しい争いが生じるのに時間はかからなかった。
 ”開拓派”の人数が圧倒的に多かったがために、”強行派”は歯噛みしながらも故郷を後にしただけだった。

 諦めてなかったのだ。

 ある日。
 ”開拓派”の長を”強行派”の集団が襲った。
 身体能力に互いに秀でた者同士。
 決着は中々つかなかった…、と言いたいところだが、しかし、襲撃した”強行派”の圧勝だった。
 ”開拓派”の考え方に切り替えたフリをして、虎視眈々と隙を狙っていたのだ。
 元々、気の良い”開拓派”の長は、ある時招かれた酒宴の席で、供もつけずに”攻撃派”の長と歓談の時間を持った。
 その席で、いわゆる騙まし討ちをされたのだ。
 勝負は一瞬だったという。
 ”強行派”は、”開拓派”の長の首を晒し、自分たちの考えに異を唱える者は同族と言えど容赦しない、と宣言した。
 ”強行派”は自分たちの正義を信じ、自分たちの力は温(ぬる)い考えに浸っている”開拓派”のそれを上回っている、と慢心していた。

 しかし、そうではなかった。

 ”開拓派”の長の息子は怒り狂いながらも感情に任せて敵を討つことはしなかった。
 そして…、勢いづく”強行派”の隙を伺い、一気に鎮圧に乗り出した。


「戦いは三日三晩続いたと言うが、恐らく一晩くらいで片がついただろうな」

 ゴドーは自分の考えを口にしながら昔話を語った。

「”強硬派”は完膚なきまでに叩きのめされた。”開拓派”の人数が多かったのが理由かもしれないが、ワシはそうは思わん」

 怪訝そうな顔をする面々に、ゴドーはたった一言。


「信じているものも、守るべきものも、”開拓派”の方が強かった。それが大きな理由だろう」


「信じているもの…?」

 ポツリ、と呟いた娘にゴドーは頷いた。

「そうだ。”開拓派”は分かっていた。自分たちがどうして故郷を追われたのかその本当の理由を」
「……それ、なに?」
「”強硬派”のように慢心し、自分たちこそが正義だと、違う意見を持つ者は滅ぼされて然るべきだと考える愚者が同族の中にこれから先、増えていく可能性がある…ということだ」

 クラウドたちは息を呑んだ。
 そして、我が身を振り返る。

 自分たちも確かに一般人から比べたら身体能力は優れていると言えよう。
 だが、それが『=(イコール)』優れた人間になるか…と問われると、答えは『ノー』以外ありえない。
 しかし、その問いに対して『イエス』と答えたのが神羅だ。
 だから、大勢の人たちが苦しみ、傷つけられ、不当に踏みにじられてきた。
 行き過ぎた力は、星の寿命までも蝕んだ。

 スケールも、その有する『力』の種類も全く違うが、やはり根底にあるものは同じだろう。

 どこまでいっても人間は人間。
 他者よりも優れているところがあると、慢心し世界は自分中心に回っていると錯覚しやすい。
 それを、”開拓派”の人間は己のこととして受け止め、危険視し、暴走する前に愛する故郷から離れたのだ。

 傷つけてしまわないために。

「恐らく、騙まし討ちをされた”開拓派”の長も、身の危険を感じていたと思う。しかし、信じたかったのではないか、とワシは思う。いくら考えが違うとは言え、同じ一族、愛すべき同族だ。自分たちの考えに反対派の人間が賛同してくれた、と信じたかったがための『1人で酒宴に赴く』という賭けに出たのだ…」

「結果は……残念だったがな」

「さて、”開拓派”は、”強硬派”とは違い、守りたいものが多かったがために、”強硬派”は勝つことが出来なかった。その守りたかったものとは、1つは勿論、自分たち一族の存続だ。もう1つは追われた故郷。自分たちが負ければ”強硬派”が故郷にとって返し、メチャクチャにすることが分かっていたからな。そして、最後の1つは……なんだか分かるか?」

 ゴドーは、娘をジッと見た。
 ユフィは黙ってその眼差しを受け止め、暫し黙考したがやがて口を開いた。


「ウータイの誇り」


 躊躇うことなく、揺るぎの無い答え。
 ゴドーは娘のその姿に口元を微かに緩めた。

 嬉しかったのだ。
 跳ねっ返りでお転婆な娘が、いつの間にか真正面で大切な話を受け止められるだけの器を持つほど大きく成長し、尚且つこうして正しい答えを導き出せるにまでになってくれたことが。

 しかし、ゴドーは表情を改めると自分の話を黙って聞いてくれている面々へ視線を向けた。
 今は、娘の成長を喜んでばかりはいられないときだ。

「その通りだ。自分たちが負けると、この3つの大切なものがこの世から消えてしまうことが分かっていた。だから、”開拓派”はそういう意味でも”強硬派”に容赦しなかった」

 容赦しなかった…と言う言葉が何を指すのか、聞かなくとも容易に想像出来る。

「しかし、投降する者と幼子は助けた。当然、投降するものを助命することに対し、反対の意見があったことも確かなようだが、それでも同族同士でこれ以上血を流すことに皆、疲れていた」

「そうして、”強硬派”の考えは廃れていき、今のウータイが出来上がったと言える」

 祖先たちの壮大な話しは終わりを見せた。
 しかし、「だが…」と、ゴドーは続けた。

「”開拓派”の考えによって今のウータイの姿がある。しかし、その裏では”強硬派”の思念のようなものが常にあった。その時節、その時節で”強硬派”の思念とも言うべき顔が歴史の中では出ていた。それを諌め、抑えるのがウータイの長としての務め」
「諌めて抑える?」

 怪訝そうな顔をするユフィと、顔を見合わせる面々にゴドーは頷いた。

「その時の覇者…、ようするにその時代その時代の権力者へ強固な姿勢を貫いたり、ウータイの力を世に知らしめるような働きを見せ付けたりする。そうすることで、ウータイの忍という存在をしろしめ、自分たちの力を存分に発揮させようとしたり、逆に危険視されるような行き過ぎた行動に出たり…。まぁ、言うなれば『力を見せ付ける』動きをした…ということだな」
「それが、”強硬派”の子孫…ってこと?」
「正しくは違う。もう今となっては、”強硬派”も”開拓派”もその血が混じり合って久しいからな。それに、言った通り元々”強硬派”も”開拓派”も同じ一族、親戚同士だから、似たような気質を持って然るべき…というところだ。だが…」

 1つ息をついてゴドーは的確な言葉を探した。
 だが、諦めにも似た表情を浮かべるとユフィを見た。
 自然とユフィの身体にも、クラウドたちにも緊張が走る。
 ゴドーは焦らさなかった。

「”強硬派”の長の一族だけは、常に”開拓派”の長の一族が把握し決して自分たちの子孫が”開拓派”と交じらないようにしていた。それは”開拓派”であるワシの先祖も同様じゃ。それに加え、我々は常に”強硬派”の子孫を把握し、代々自分たち一族の長となる唯一1人にだけその者の存在と今の昔話を語り聞かせていた。つまり”口伝”だな。書式には残さずに正確に、誤りなく語り伝えることと、2度と同じ過ちを繰り返さないようにウータイを導く者…、それが”長”の務めじゃ」

 いつしかユフィは膝の上で強く握っていた手を微かに震わせながら、それでも真っ直ぐ父親を見つめ、目を逸らさなかった。
 ゆっくりと息を吸い、腹に力を入れる。

「”強硬派”の子孫、それが……リューガ?」

 ゴドーは頷いた。


 話の途中から察してはいた。
 しかし、やはり肯定されたことはユフィにとって、決して小さいことではなかった。
 遠い過去の光景が脳裏を駆ける。

 一緒に過ごしたあの1年ほどという短い時間。
 今考えれば、どうしてさほど大きい村でもないのに10歳になるまでリューガやクレハを見たことが無かったのか…。
 いや、全く無かった…と言うことはないのだろう。
 しかし、あちらが自分のことを避けていたのだとしたら、それまで接触したことがなかった説明がつくし、ウータイで生まれた者だって世界のあちらこちらにその根を下ろし、里を去ってしまっている者が少なくない。
 リューガがそう言えば、村の人間だったのかどうか、それすらユフィは知らないことに気づいた。
 両親を幼い頃に亡くしたため、親戚に引き取られた、ということしか知らない。
 だがその事故死と言うのも、今、ゴドーから昔話を聞いてから考えると、本当に”純粋な事故死”か?と疑いたくなる。
 しかし、今はそれについての真偽を問うている時ではない。

 リューガは、ユフィが今、初めて知った真実をとっくに知っていたと言うことになる。
 その従兄弟であるクレハも知っていたのだろう。
 ”強硬派”の一族が、”開拓派”と同じように口伝のみで、しかも一族の長となる者1人だけに昔話を継いでいたとは考えにくい。
 恐らく、”開拓派”の弱腰な姿勢、自分たち同族よりも他者を慈しみ、守った”裏切り者”として伝承していたはずだ。

「あぁ…そっか…」

 思わずユフィの口からポツリ…と漏れた呟きは、クラウドたちの耳にも届いたが、しかしそれに対して怪訝そうに見てくる面々にユフィは説明などしなかった。

 分かった。
 いま、ようやく分かった。
 どうしてリューガが時々、自分のことをあんな目で見てくるのか、その理由が分かった。
 両親を不慮の事故で亡くしたリューガが、父親だけとは言え、親を持つユフィが妬ましかったのではない。

 裏切り者の直系の子孫への憎しみがあの目にはあったのだ。

 あの頃、リューガの中にあったのは、いつの日か先祖達の無念を晴らし、自分たちを”正当な”位置へ返り咲くという思い1つ。
 そのためにずっとずっと、隙を狙い、耐え忍んだ屈辱の日々を過ごしていたのだ、裏切り者の子孫の傍(ユフィ)で。
 そしてそれはクレハにとっても同じことが言える。

 優しく、本当の姉妹のように接してくれていたクレハ。
 ぶっきらぼうだけど時折見せてくれる優しさ、口数少ない褒め言葉、自分を案じてくれる素振りを見せてくれたリューガ。

 あれは全てウソ…、演技だった。

 それを見抜けず、2人がいなくなったことを嘆き悲しんだ自分が悲しい。
 いや、違う。
 真実を知った今でも、あの2人が…リューガが、自分を疎ましく思う以上の憎しみでもって殺意を抱いていることが悲しい。
 悲しくて……つらい。
 幼い想いだったとは言え、本当に好きだった。
 時々見せる、全てを凍りつかせるような瞳を向けられたときですら、その奥にある暗い影に気づいてた。
 出来れば、その暗い影を自分が消し去ってやれる存在になりたかった。
 冷たい目をしないで済むように、温かい存在になりたかった…。

 いつも一緒にいるクレハではなく、この自分が…!

 だが、幼いその願いが叶うことは無く、2人は消えた。
 永遠に消えたと思っていた。
 なのに、突然あらわれた。

 8年の歳月を経て…。

「それで…。どうして8年前、二人は死んだってウソを?」

 そう問うたユフィの声は不思議と落ち着いているようにクラウドたちの耳には聞こえた。
 ゴドーにもそうだっただろうが、しかしゴドーはクラウドたちのように微かな驚きすら顔には出さなかった。

「ユフィ、お前はあの頃、よく我が家で”かくれんぼ”をして遊んでいたな」
「え?」

 唐突な質問にユフィは面食らった。
 しかし、すぐに頷く。
 確かに、あの頃は外で剣術や体術を一緒に遊びながら学ぶことが多かった。
 そして同じくらい、室内での遊びは”かくれんぼ”をして”忍”の修行と称し、遊んだものだ。

『ユフィ、お前は気配がダダ洩れだからダメなんだ。敵に見つからずに尾(つ)けるためには、周りの空気や建物と一体になる必要がある。自分の気配を消し、存在を消して”ことに”あたらないと、いつかお前がやられるぞ?』
『ふふ、じゃあまた練習ね。ユフィのお家、大きいし”隠し扉”に”隠し部屋”が多いから修行にはもってこいだし』

 リューガとクレハはそう言って、よく屋敷で”かくれんぼ”をしてはユフィの修行に付き合ってくれた。
 当時のやり取りを思い出し、ユフィの全身に衝撃が走った。

「まさか…」

 とうとう声が震える。
 ゴドーはこのとき、初めて茶に手を伸ばした。
 すっかり冷めたそれを口元へ持っていくが、つけずにそのまま苦い言葉をポツリ…と呟いた。


「リューガとクレハはワシの命を狙っておった」


 クラウドたちはユフィを見ることが出来なかった。
 幼馴染は死んだと聞かされたときの悲しみと喪失感以上の苦痛を受けているユフィを見ることが出来ない。

 リューガとクレハに心を許していた娘に、2人は”名誉の戦死”と説明したゴドーの気持ちも、絶大な信頼を置いていた相手に欺かれていたという事実も、そのどれもがユフィには酷過ぎる真実だった。

 ユフィの痛みが伝わってきて胸が痛むと同時に、激しい怒りが皆の胸に湧き上がった。
 かくれんぼ…、とはよく言ったものだ、と感心もする。
 隠し部屋や隠し通路を探し出し、いつの日かゴドーを暗殺するための下準備をしていたとは、なんと恐ろしい執念か。
 まんまと騙されたユフィを、誰が責められるだろう?

 ユフィは暫く黙っていた。
 黙って、自分の膝の上に視線を落としていた。
 様々な感情が入り乱れ、責め苛んでいるのが手に取るように分かる。

 ティファは唇をかみ締め、この場でただ1人、ユフィと同性である仲間として抱きしめてやりたい衝動と戦った。
 どんなにかつらいことだろう?
 初恋の人に憎まれ、欺かれていたなどとてもじゃないが自分なら耐えられない。
 クラウドが家出をしていたときのことをフッと思い出した。
 確かにあのとき、酷い裏切りだ、と苦しく思ったこともあった。
 だが、なにか理由があるのだとも思っていたし、その理由ですら本物の『家族』でないから黙って出て行かれたのだ…という程度のものだった。
 ユフィが今、知らされた真実とはその重みが違う。

 だが、抱きしめてやることは出来ない。
 それを誰よりもユフィ自身が望んでいないからだ。
 抱きしめられて、甘やかされて、周りの人たちが解決してくれることを望んでいないし、それを仮に望んだとしてもティファはそれをしてやることは出来ない。

 己の過去との決別は己自身の中でのみケリをつけることが出来る。

 それに、今のユフィになら出来るとも信じていた。
 ティファだけでなく、周りにいる仲間たちもそう信じているとティファは知っていた。
 だから堪える。
 抱きしめてやりたい気持ちを堪え、言葉を堪え、ただ黙って彼女が顔を上げるのを待つ。

 ユフィは皆を長く待たせなかった。

 やがて、深い深い溜め息を吐き、ユフィは顔を上げた。
 そうして…。



「長(おさ)。一族の汚名を雪ぐ許しを頂きたい」



 畳に手をつき、実の父親に向かって生まれて初めて深く頭を下げた。

 初めて見せたユフィの”ウータイの忍”としての姿だった。